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審決分類 |
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1147021 |
審判番号 | 不服2004-23103 |
総通号数 | 85 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2004-07-08 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-11-11 |
確定日 | 2006-11-06 |
事件の表示 | 特願2002-358040「光記録媒体の反射膜用の銀合金」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-192702〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年12月10日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年9月16日付けで手続補正がなされたが、その後平成16年10月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月8日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成16年12月8日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年12月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)補正後の発明 本件補正により、特許請求の範囲は下記の請求項1?4に補正された。 「【請求項1】 有機色素材料からなる記録層、及び、銀合金からなる反射層を備える光記録媒体において、 前記反射層の銀合金は、添加元素としてインジウム及び錫を合計で0.1?2.0重量%含み、残部が銀からなることを特徴とする光記録媒体。 【請求項2】 添加元素の濃度は、合計で0.1?0.5重量%である請求項1記載の光記録媒体。 【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の光記録媒体を製造する方法において、 添加元素としてインジウム及び錫を合計で0.1?2.0重量%含み、残部が銀である銀合金からなるスパッタリングターゲットを用いて反射層を形成することを特徴とする光記録媒体の製造方法。 【請求項4】 スパッタリングターゲットを構成する銀合金の添加元素濃度は、合計で0.1?0.5重量%である請求項3記載の光記録媒体の製造方法。」 (2)補正の適否 本件補正は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合においてするものであるから、特許請求の範囲についてする補正が特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすか否かについて検討する。 本件補正前の特許請求の範囲は、平成16年9月16日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 添加元素としてインジウム及び錫を含み、残部が銀からなる光記録媒体の反射膜用の銀合金。 【請求項2】 添加元素の濃度は、0.1?25重量%である請求項1記載の光記録媒体の反射膜用の銀合金。 【請求項3】 添加元素の濃度は、0.1?5.0重量%である請求項1記載の光記録媒体の反射膜用の銀合金。 【請求項4】 添加元素の濃度は、0.1?0.5重量%である請求項1記載の光記録媒体の反射膜用の銀合金。 【請求項5】 添加元素であるインジウム及び錫の一部又は全部が内部酸化されてなる請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の光記録媒体の反射膜用の銀合金。 【請求項6】 請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の銀合金からなるスパッタリングターゲット。」 そこで、本件補正前後の構成を対比すると、補正後の光記録媒体の発明(請求項1,2)や光記録媒体の製造方法の発明(請求項3,4)は、補正前に発明として請求されていないものであるから、本件補正は特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、限定的減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)のいずれを目的とするものにも該当しない。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成16年12月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6にかかる発明は、平成16年9月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、次のとおりである。 【請求項1】「添加元素としてインジウム及び錫を含み、残部が銀からなる光記録媒体の反射膜用の銀合金。」 (1)引用例 これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された特願2001-358852号(特開2003-160859号公報参照,平成15年6月6日公開、平成13年11月26日出願)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)には、次のような記載がある。なお、下線は、検討の便宜上、当審で付与した。 (i)「【請求項1】InおよびSnの内の1種または2種を合計で0.5?15質量%を含み、さらにCr,Co,Niの内の1種または2種以上を合計で0.01?5質量%を含み、残部がAgである組成の銀合金からなることを特徴とする光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲット。 【請求項2】請求項1記載のターゲットをスパッタリングすることにより形成された経時変化の少ない光記録媒体の反射膜。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】,【請求項2】参照)、及び、 (ii)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、光記録ディスク(CD-RW,DVD-RAM)などの光記録媒体の反射膜を形成するための銀合金スパッタリングターゲットに関するものである。」(段落【0001】参照)、 (iii)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかし、これら従来のAg合金反射膜は、いずれも表面の耐候性が不十分であるところから、時間が経つにつれて反射率が低下し、特に波長の短い青色レーザー光に対する反射率の低下が著しく、短期間に光記録媒体の反射膜としての性能が低下するという問題点があった。」(段落【0003】参照)、 (iv)「【0004】 【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、経時変化の少ないAg合金反射膜を得るべく研究を行なっていたところ、(イ)In:0.5?15質量%を含み、さらにCr,Co,Niの内の1種または2種以上を合計で0.01?5質量%を含み、残部がAgである組成の銀合金からなるターゲットを用いてスパッタリングすることにより得られた銀合金反射膜は、経時変化による反射率の低下が極めて少なくなる、(ロ)Agに含まれるSnはInと同じ作用を有するので、(イ)における銀合金に含まれるInの一部または全部をSnで置換することもできる、という研究結果が得られたのである。」(段落【0004】参照)、 (v)「【0008】In,Sn:これら成分は、Ag合金反射膜の反射率が経時変化するのを防止する効果があるが、これら成分が0.5質量%未満含んでも十分な耐候性が得られず、一方、15質量%を越えて含有すると、Ag合金反射膜の初期反射率が低下するようになるので好ましくない。したがって、Ag合金反射膜およびこのAg合金反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットに含まれるこれら成分の含有量は0.5?15質量%(一層好ましくは5?10質量%)に定めた。 【0009】Cr、Co、Ni:これら成分は、InおよびSnの内の1種または2種を合計で0.5?15質量%を含むAg合金反射膜の耐候性を一層強化して反射率が経時変化するのを防止する成分であるが、これら成分の1種または2種以上を合計で0.01質量%未満含んでも一層の耐候性が得られず、一方、これら成分の1種または2種以上を合計で5質量%を越えて含有すると、耐候性は一層優れたものとなるものの、Ag合金反射膜の初期反射率が低下するようになるので好ましくない。したがって、Ag合金反射膜およびこのAg合金反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットに含まれるこれら成分の含有量は0.01?5質量%(一層好ましくは0.5?3質量%)に定めた。」(段落【0008】?【0009】参照)、 (vi)「【0012】これら反射膜に、波長が405nmおよび650nmのレーザー光を照射してエリプソメータにより反射率を測定し、その後反射膜を恒温恒湿槽容器(80℃、85%)に200時間保持した後、同様にして波長が405nmおよび650nmのレーザー光を照射してエリプソメータにより反射率を測定し、その結果を表1?2に示すことにより反射膜の耐候性を評価した。 【0013】表1 ・・・(省略)・・・ 【0014】表2 (段落【0012】?【0014】参照)。 (2)対比、判断 先願明細書の前記摘示の記載を検討すると、 (i)段落【0008】の記載からInとSnはAg合金反射膜の反射率が経時変化するのを防止する効果があることが理解でき、 (ii)表2の比較例3,4(InまたはSnを7質量%含有し、残部がAgである例)では従来例(Ag100%)に比べて、恒温恒湿槽容器(80℃、85%)に200時間保持した後の反射率の低下が抑えられていることが明らかである(例えば、波長405nmによる反射率が、55%へ低下するのに対し、60%又は59%への低下にとどまる。)と認められ、そして、 (iii)比較例としてInとSnの両方のみを添加した例は示されていないものの、段落【0004】の(ロ)の記載からAgに含まれるSnはInと同じ作用をすると示唆されていることや、「In及びSnのうち1種または2種」を含むの如くInの一種やSnの一種の添加と、InとSnの2種の添加を、同等に認識していることが明らかであることを勘案すると、InとSnの両方のみを添加することは開示があったというべきである。 してみると、光記録媒体の反射膜を形成する耐候性のある材料として、添加元素としてIn及び/又はSnを含み残部が銀である銀合金の発明が開示されているといえる。 なお、先願明細書の特許請求の範囲に記載された「Cr,Co,Ni」の成分は、段落【0009】に説明があるように、耐候性を一層強化するための成分であるのであるから、そのような成分を添加しないためほどほどの耐候性の強化であり一層強化されていないものであっても、前記銀合金(In及び/又はSnのみを含有し残部が銀である銀合金)は発明として先願明細書に開示されているとするのが妥当である。 以上のとおりであるから、「添加元素としてインジウム及び錫を含み、残部が銀からなる光記録媒体の反射膜用の銀合金。」の本願発明は、先願明細書に開示されていることが明らかである。 これに対し、出願人は、平成16年9月16日付け意見書において、『先願1に記載されているのは、銀に、インジウム、錫の他、更に、クロム、コバルト、ニッケルを添加した、4ないし6元系の銀合金であることが明確に記載されています。』と主張し、更に、比較する追試データを提示しつつ、『本願発明者は、光記録媒体の反射膜用合金について、耐硫化特性が重要であることに出願時より着目しており、硫化環境にあって銀の反射率をできるだけ維持可能な添加元素の模索を行なっていました。そして、本願発明者は、後述のように、そもそも、クロム、コバルト、ニッケルの3元素は、耐硫化特性の向上に有用ではないとの認識を当初から有しており、好適な添加元素としてインジウムと錫の2元素のみを添加することが好ましいことを見出し、本願発明に想到したものであります。』と主張している。 なるほど、先願明細書の特許請求の範囲には、「InおよびSnの内の1種または2種を合計で0.5?15質量%を含み、さらにCr,Co,Niの内の1種または2種以上を合計で0.01?5質量%を含み、残部がAgである組成の銀合金からなることを特徴とする光記録媒体の反射膜形成用銀合金」が開示されているけれども、係る発明のみに限定解釈すべき理由はなく、上記判断の如き発明も先願明細書に開示されていると解するのが相当であるから、前記出願人の発明の認定自体失当である。 ちなみに、『クロム、コバルト、ニッケルの3元素は、耐硫化特性の向上に有用ではないとの認識を当初から有しており』との主張は、本願当初明細書に何ら言及がなく、また後付のデータを勘案して参酌すべき理由がないし、発明が同一であるときに作用効果を検討する必要すらない。 そもそも、本願当初明細書では、Agを主成分とし、InとSnの添加は、「インジウム及び/又は錫を含んでなる」とされていたにすぎず、Ag-Sn-Inの三元の実施例などはあっても、積極的に二元の場合に比べて三元の場合の方が格別優れたものであることの技術的意義は記載されていなかったのである。 ところで、平成16年6月17日付けで提出された早期審査に関する事情説明書の「2.(2)(iii)対比説明」の項において、出願人は、『本願発明に関していえば、銀-錫合金に更にインジウムを含有することで、その組成にもよりますが、低波長(400nm)の入射光に対しても高い反射率を有し、且つ、耐久性(耐食性)も高くなっています(本願明細書【表5】と【表9】との対比によります。)。一般に、インジウム及び錫は、合金化により耐食性向上の効果を発揮する元素として知られるものではなく、インジウム及び錫を同時に添加することにより耐食性向上の効果を見出す本発明は単純な組合せとはいい難いと考えます。』と主張している。 しかしながら、Ag-Sn-Inの三元にしたことによって、Ag-SnやAg-Inなどの2元に比べて優れていることは、本願当初明細書に記載されていない。 そもそも表5のデータ(Ag-Snの二元で、Snの濃度が2?50重量%で、入射光波長560nmの場合)と表9のデータ(Ag-Sn-Inの三元で、SnとInの濃度が0.05?0.5重量%で、入射光波長400nmの場合)は、添加元素の割合や入射光波長が異なっているため、対比すること自体不適切である。 仮に、入射光波長を合わせ(添加元素の割合が一致する例はないが)、入射光波長560nmの表5と表8とを対比しても、また入射光波長400nmの表4と表9とを対比しても、いずれでも添加元素の割合が増えるに連れ、反射率の低下が大きくなる点で軌を一にし、Ag-Snの二元にInを添加して三元とすることで耐食性の向上があるとの断定は妥当とはいえず、添加割合の増加に対応して反射率の低下することを勘案してデータを比較すると、むしろ出願人の主張と逆となる可能性すらある。 また、表5のデータと対比すべきは、2重量%の添加割合の場合を比較できる表2(Ag-Sn-Inの三元で、Snが0.8重量%、Inが1.2重量%の添加元素合計2.0重量%で、入射光波長560nmの場合)のデータであって、添加元素合計量がいずれも2重量%の場合の、成膜直後(AgSnInで95,AgSnで100;注:該数値は、段落【0023】と【0035】の説明からいずれも銀の反射率を100としたときの相対比,以下同様)、大気中加熱後(AgSnInで91,AgSnで92)、温水浸漬後(AgSnInで94,AgSnで99)、アルカリ浸漬後(AgSnInで94,AgSnで99)の反射率を対比すると(なお、表2に硫化物溶液浸漬後のデータはないので対比できない)、むしろAgSnInの三元よりもAgSnの二元の方が優れていると言えても、少なくとも三元にしたことによって耐食性の向上があるとは到底いえるものではない。 結局のところ、前記出願人の主張は失当であり、本願当初明細書の記載からは、AgSnやAgInの2元に比べAgSnInの三元の方が優れると主張する点は自明なことではない。 (3)むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記特許出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-09-06 |
結審通知日 | 2006-09-11 |
審決日 | 2006-09-25 |
出願番号 | 特願2002-358040(P2002-358040) |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(G11B)
P 1 8・ 573- Z (G11B) P 1 8・ 571- Z (G11B) P 1 8・ 574- Z (G11B) P 1 8・ 161- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橘 均憲 |
特許庁審判長 |
山田 洋一 |
特許庁審判官 |
中野 浩昌 川上 美秀 |
発明の名称 | 光記録媒体の反射膜用の銀合金 |
代理人 | 田中 大輔 |