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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1147586
審判番号 不服2005-1461  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-25 
確定日 2006-11-06 
事件の表示 平成7年特許願第504593号「体液中のウイルス汚染物を不活性化するための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成7年1月26日国際公開、WO95/02325、平成8年2月27日国内公表、特表平8-501807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、1994年7月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年7月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年3月11日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成16年9月22日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成16年10月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年1月25日に審判請求がなされるとともに同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成17年1月25日付け手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成17年1月25日付け手続補正を却下する。

[理由]

(1)本件補正の内容

平成17年1月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1
「メチレンブルーの治療的有効量とある量の体液を含んでいる混合物を無菌条件下で容器(10)中に形成するステップ;および
該混合物を該容器内において非流動状態に保ちながら、メチレンブルーを活性化するために適した強度および波長の光フィールドで該混合物のウイルスを不活性化するのに十分な与えられた時間の間、該混合物を照射するステップ;を含み、
混合物の該容器が、該容器(10)の移動通路の終りにおいて、該混合物が前記与えられた時間の間照射される速度で、一対の光源(202,204)間をコンベア(230)上で輸送されるステップを含むことを特徴とする体液中のウイルスを不活性化する方法。」を、

本件補正後の請求項1
「血液又は血液成分中のウイルスを不活性化する方法であって、
(a)最初に、ある量のメチレンブルーを非ポリ塩化ビニルプラスチック材料製の内表面を有する無菌容器へ、そしてある量の血液又は血液成分を非ポリ塩化ビニルプラスチック材料製の内表面を有しかつポリ塩化ビニル材料製の部分を含んでいる無菌容器へ別々に貯えるステップ;
(b)該量の血液又は血液成分とメチレンブルーの殺ウイルス有効量の混合物を、最初にメチレンブルー又は血液もしくは血液成分が無菌条件下で貯えられたいずれか一方の容器内に生成させるステップ;
(c)該混合物を該混合物が生成された容器内において実質上非流動状態に保ちながら、メチレンブルーを活性化するために適した強度及び波長の光フィールドで該混合物中のウイルスを不活性化するのに十分な時間照射するステップ;
を含むことを特徴とする方法。」とする補正を含むものである。

(2)本件補正の適否

本件補正は、特許法第17条の2第1項第5項に該当する補正であり、補正前の請求項1における「コンベア(230)上で輸送されるステップ」という構成要件を、補正後の請求項1において削除するものであって、これにより補正後の請求項1に記載された発明は、コンベア上で輸送されるステップを含むものに加えて、コンベア上で輸送されるステップを含まないものにまで拡張されることとなる。したがって、「コンベア(230)上で輸送されるステップ」という構成要件を削除する本件補正は、補正前の特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものであるから、特許法第17条の2第3項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、同1号の「請求項の削除」、同3号の「誤記の訂正」、同4号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものでもない。

(3)むすび

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

平成17年1月25日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1?20に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1?20」という。)は、平成16年9月22日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?20に記載されたとおりのものであって、その請求項1、13は以下のとおりと認める。

「1.メチレンブルーの治療的有効量とある量の体液を含んでいる混合物を無菌条件下で容器(10)中に形成するステップ;および
該混合物を該容器内において非流動状態に保ちながら、メチレンブルーを活性化するために適した強度および波長の光フィールドで該混合物のウイルスを不活性化するのに十分な与えられた時間の間、該混合物を照射するステップ;を含み、
混合物の該容器が、該容器(10)の移動通路の終りにおいて、該混合物が前記与えられた時間の間照射される速度で、一対の光源(202,204)間をコンベア(230)上で輸送されるステップを含むことを特徴とする体液中のウイルスを不活性化する方法。」

「13.光源間に隙間をもって互いに対面するように配置され、該光源はメチレンブルー(審決注:当該記載は「メチルブルー」であるが「メチレンブルー」の誤記と認められる。)を活性化するのに適した波長および強度の光フィールドを発生する一対の光源(202,204)と、そして
その上で、体液とメチレンブルーの混合物を含んでいる容器が該光源間を輸送させることができる該隙間中の支持表面を有するコンベア(230)
を備えている請求項1の方法による体液中のウイルスをメチレンブルーで不活性化するための装置。」

4.刊行物及びその記載事項

原査定で引用された下記の刊行物には、以下の事項が記載されている。

特表平5-500366号公報(以下、「刊行物1」という。)
特表平3-505833号公報(以下、「刊行物2」という。)
特表平1-500597号公報(以下、「刊行物3」という。)

刊行物1には以下の事項が記載されている。
摘示事項(1-1)「処理すべき溶液ないしは懸濁液にフェノチアジン色素を加え、引き続き光で照射する、血液ないしは血液物質中のウイルスを不活性化する方法において、フェノチアジン色素を0.1?10μMの濃度で使用し、照射を直接に、採血および保存のために使用される、血液バッグのような透明な溶液中で行なうことを特徴とする血液および血液物質中のウイルスの不活性化方法。」(請求項1)
摘示事項(1-2)「フェノチアジン色素としてトルイジンブルーまたはメチレンブルーを使用することを特徴とする請求項1または2記載の方法。」(請求項3)
摘示事項(1-3)「ウイルス不活性化のための他の光力学的色素とは異なり、メチレンブルー、…のようなフェノチアジン色素は、それが既に可視光と共に一連のウイルスを不活性にすることができ」(2頁右上欄5?9行)
摘示事項(1-4)「本発明によれば、フェノチアジン色素を0.1?10μM、とくに0.1?2μMの濃度で使用し、照射を直接に、採血および保存のために使用される、血液バッグのような透明な容器中で行なうことによって解決される。
照射は、十分な強さの昼光またはとくに、それぞれの色素の吸収最大の範囲内の波長を有する冷光源の単色光を用いて行なわれる。さらに、血漿ないしは血漿タンパク質溶液中でのウイルス不活性化の場合には次の条件を維持すべきである。作業温度は4?20℃の範囲内にあるべきである。不活性化時間は、殊に5分ないし5時間、とくに10分ないし3時間であり、pH値はpH5とpH9の間、とくにpH6とpH8の間であるべきである。」(2頁左下欄下から6行?右下欄3行)
摘示事項(1-5)「ウイルス不活性化は直接に血液バッグないしは血漿バッグ中で(これらは限られた光透過性しか有しないが)実施することができる。たんに、色素を添加すればよい。次いでバッグを内容物と一緒に露光し、その後それぞれの生成物を引き続いて処理することができる。」(2頁右下欄下から6行?最下行)
摘示事項(1-6)「血液ないしは血液物質としてはなかんずく次のものが挙げられる:
-全血
-赤血球濃縮物
-血小板濃縮物
-血漿
-血清

-アルブミン」(3頁左上欄6行?下から3行)
摘示事項(1-7)「例10
本発明の望ましい実施形により、ウイルスの光不活性化は直接血漿バッグ中で行なうことができる。たんに、血液または血液物質に色素を必要量添加し、次にバッグを光で照射する。この簡単な方法で、個々の給血者からの血液物質を何時でも処理することができる。
1つの実験において、ヒトの保存血漿の3つの試料を解凍し、血漿バッグ中にそれぞれ1.5×106PFU(審決注:プラーク形成単位)のVSV(審決注:水泡性口内炎ウイルス)を加えた。2つの試料に、MB(審決注:メチレンブルー)を1μMないしは10μMの濃度で添加した。MBなしの血漿から試料を取出し、陽性対照として暗所に40℃で保存した。次いで、約2.5cmのできるだけ均一な層厚を保証するため、3つのバッグを2つのフレキシブルガラス板の間に挟んだ。その後、バッグを約90cmの距離からスライドプロジェクターを用いて照射した。4時間後、ウイルス滴定濃度を測定するために試料を取出し、これをFL細胞でのプラーク検定法を用いて測定した。第9表(審決注:第11表の誤記と認められる。)の結果は、血漿バッグ中で4時間の露光時間によりVSVの感染滴定濃度を103以上減少するためには、既にMB1μMで十分であることを示す。色素不在の場合でも、照射はウイルス滴定濃度の減少を生じたが、約50%にすぎなかった。
(表省略)
第11表:血漿バッグ中でのVSVの光不活性化」(5頁右下欄4行?6頁左上欄8行)

刊行物2には以下の事項が記載されている。
摘示事項(2-1)「1.10,000ないし20,000ミリジュール/cm2の紫外線の総エネルギー曝露を提供するように、主として280ないし320nmの波長の紫外線を白血球を含んでいる血液製品の層に照射し、それによって前記白血球の同種免疫化された患者の免疫反応を相殺する能力を実質上喪失させる方法。
2.前記血液製品は、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)プラスチック製の平坦な可撓性バッグを占拠している間に照射される第1項の方法。」(請求項1?2)
摘示事項(2-2)「白血球を含んでいる血液製品の層を紫外線で照射するための装置であって、
ハウジングと紫外線を供給するための手段と、前記照射手段によって照射されるべき位置に白血球の層をハウジング内に支持するための手段とを備え、
前記支持手段は前記層を形成する紫外線透過性容器を運ぶため前記ハウジングの内外へスライドし得る抽出し部材を備え、
前記抽出し部材は前記紫外線提供手段からの紫外線が前記白血球を含む層を照射するため容器支持表面およびその上に支持された容器を通過することを許容する、容器を支持する紫外線透過性表面を備えていることを特徴とする前記装置。」(請求項11)
摘示事項(2-3)「図面において、第1図は白血球が混じった血小板の引伸ばしたプラスチック容器を収容する過程にある、照射装置の斜視図である。
第2図は、その引伸ばし装置内に支持され、そして照射装置の内部に照射のため配置されたプラスチックバッグを図示する、第1図の線2-2に沿った断面図である。
第3図は、本発明の方法を実施するために利用される装置の他の具体例の一部を破断した平面図である。」(3頁左下欄9?15行)
摘示事項(2-4)「第1および2図を参照すると、新たに採取した全血の慣用の遠心処理により、または血小板製品のオンラインアフェーシス採取によって採取された血小板の1単位を収容する、可撓性の潰れ得るバッグ10が用意される。
第2図において、バッグ10は四隅で互いに溶接された金属棒の枠組み12の上に支承される。…
UV照射装置16はケーシング18、スライディングドア20および内部ラック22を備える。…
この特定の具体例において、装置16は上方ランプ固定具26と、下方ランプ固定具28を備える。使用する特定のランプおよびそのような使用を制御する電子回路は、…のような典型的な商業的に入手し得る高強度ランプを使用する完全に慣用のものでよい。…」(3頁左下欄下から5行?右下欄下から6行)
摘示事項(2-5)「照射ステップが終了した後、紫外ランプアセンブリ26、28を遮断し、ドア20を開き、その取付けた枠12と共にバッグ10を取出すことができる。…
第3図をへ転ずると、枠12と血球含有バッグ10のアセンブリをその中へ挿入することができるケーシング32とドア34を有する、バッグ照射装置の平面図が示されている。この特定の設計においては、紫外ランプ36は、枠12がその中へスライドして嵌合することができ、そして照射装置32の内外へ移動できるスライディング軌道38の両側に垂直に取付けることができる。
この具体例においては、バッグ10は、垂直に延びる幅の長軸が第3図に断面で示した円筒形のUVランプ36の軸に対して平行になるように配置することができる。
…」(4頁左上欄下から10行?右上欄11行)
摘示事項(2-6)「枠12によって提供される引伸ばしを行い、または行わずしてコンベアベルト上に横たわるバッグを紫外線源を横切って運搬する連続的紫外線照射プロセスも同様に使用することができる。紫外線は1個の紫外ランプアセンブリを使用して一方向のみから当てることができ、または複数のそのようなランプアセンブリをそのようなコンベアベルトの上下、および/または端から端へ設置することができる。代わりに、容器を紫外線の所望レベルへ露出するため、紫外線源の列をインラインに逐次設置することができる。
…加えて、所望の総計露光へ達するまで紫外線ランプを活性化し、そして次にそのような露光へ達した時紫外線ランプを活性化し、そして次にそのような露光へ達した時紫外線ランプを遮断する電子回路およびUVセンサーが知られている。そのような露光制御システムは時間および強度に無関係に作動し、そしてもし望むならば本発明において使用することができる。」(4頁右上欄下から5行?左下欄10行)
摘示事項(2-7)「

」(図1?3)

刊行物3には以下の事項が記載されている。
摘示事項(3-1)「1.800ないし2800ミリジュール/cm2の紫外線の総エネルギー曝露を提供するように、主として280ないし320nmの波長の紫外線を4ないし15ミリワット/cm2の強度において白血球を含んでいる血液製品の薄いフィルムに照射し、それによって前記白血球の同種免疫化された患者の免疫反応を相殺する能力を実質上喪失させる方法。
2.前記血液製品は、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)プラスチック製の平坦な可撓性バッグを占拠している間に照射される第1項の方法。」(請求項1?2)
摘示事項(3-2)「主として280ないし320nmの波長の紫外線を4ないし15ミリワット/cm2の強度において提供するための手段と、白血球の薄いフィルムを前記照射手段によって照射される位置に支持するための手段と、前記照射を開始および終了させるための手段を含んでいる白血球を含んでいる薄いフィルムを紫外線で照射するための装置。」(請求項19)
摘示事項(3-3)「図面において、第1図は白血球が混じった血小板の引伸したプラスチック容器を収容する過程にある、照射装置の斜視図である。
第2図は、その引伸し装置内に支持され、そして照射装置の内部に照射のため配置されたプラスチックバッグを図示する、第1図の線2-2に沿った断面図である。
第3図は、本発明の方法を実施するために利用される装置の他の具体例の一部を破断した平面図である。」(3頁左上欄下から3行?右上欄4行)
摘示事項(3-4)「第1および2図を参照すると、新たに採取した全血の慣用の遠心処理により、または血小板製品のオンラインアフェーシス採取によって採取された血小板の1単位を収容する、可撓性の潰れ得るバッグ10が用意される。
第2図において、バッグ10は四隅で互いに溶接された金属棒の枠組み12の上に支承される。…
UV照射装置16はケーシング18、スライディングドア20および内部ラック22を備える。…
この特定の具体例において、装置16は上方ランプ固定具26と、下方ランプ固定具28を備える。使用する特定のランプおよびそのような使用を制御する電子回路は、…のような典型的な商業的に入手し得る高強度ランプを使用する完全に慣用のものでよい。…」(3頁右上欄6行?左下欄4行)
摘示事項(3-5)「照射ステップが終了した後、紫外ランプアセンブリ26、28を遮断し、ドア20を開き、その取付けた枠12と共にバッグ10を取出すことができる。…
第3図をへ転ずると、枠12と血球含有バッグ10のアセンブリをその中へ挿入することができるケーシング32とドア34を有する、バッグ照射装置の平面図が示されている。この特定の設計においては、紫外ランプ36は、枠12がその中へスライドして嵌合することができ、そして照射装置32の内外へ移動できるスライディング軌道38の両側に垂直に取付けることができる。
この具体例においては、バッグ10は、垂直に延びる幅の長軸が第3図に断面で示した円筒形のUVランプ36の軸に対して平行になるように配置することができる。
…」(3頁左下欄下から2行?右下欄下から7行)
摘示事項(3-6)「枠12によって提供される引伸ばしを行い、または行わずしてコンベアベルト上に横たわるバッグを紫外線源を横切って運搬する連続的紫外線照射プロセスも同様に使用することができる。紫外線は1個の紫外ランプアセンブリを使用して一方向のみから当てることができ、または複数のそのようなランプアセンブリをそのようなコンベアベルトの上下、および/または端から端へ設置することができる。代わりに、容器を紫外線の所望レベルへ露出するため、紫外線源の列をインラインに逐次設置することができる。
…加えて、所望の総計露光へ達するまで紫外線ランプを活性化し、そして次にそのような露光へ達した時紫外線ランプを活性化し、そして次にそのような露光へ達した時紫外線ランプを遮断する電子回路およびUVセンサーが知られている。そのような露光制御システムは時間および強度に無関係に作動し、そしてもし望むならば本発明において使用することができる。」(4頁左上欄4行?下から6行)
摘示事項(3-7)「

」(図1?3)

5.対比・判断

刊行物1には、例10として、ウイルスの光不活性化において、ヒトの保存血漿を解凍し、血漿バッグ中に、VSV(水泡性口内炎ウイルス)を加え、MB(メチレンブルー)を1μMないしは10μMの濃度で添加し、バッグをフレキシブルガラス板の間に挟んでスライドプロジェクターを用いて4時間露光し、メチレンブルー1μMが該ウイルスの感染滴定濃度を減少するに十分な量であった例が記載され(摘示事項(1-7))、さらに、「本発明によれば、フェノチアジン色素を0.1?10μM…の濃度で使用し、照射を直接に、採血および保存のために使用される、血液バッグのような透明な容器中で行なうことによって解決される。
照射は、…それぞれの色素の吸収最大の範囲内の波長を有する冷光源の単色光を用いて行なわれる。…不活性化時間は、殊に5分ないし5時間」と記載されている(摘示事項(1-4))。

ここで、刊行物1において、スライドプロジェクターの光源としての強度及び波長による露光が、該ウイルスの感染滴定濃度を減少するためには十分なものであったこと、それぞれの色素の吸収最大の範囲内の波長を有する冷光源を用いると記載されていることから、刊行物1に記載の光源も、本願発明13の「メチレンブルーを活性化するのに適した波長および強度の光フィールドを発生する」とみるべきであり、刊行物1の「ヒトの保存血漿」、「血漿バッグ」は、それぞれ、本願発明13の「体液」、「容器」に相当する。
したがって、本願発明13と刊行物1に記載の発明とは、「メチレンブルーを活性化するのに適した波長および強度の光フィールドを発生する光源を備えている装置であって、体液とメチレンブルーの混合物を含んでいる容器に照射してなる、体液中のウイルスをメチレンブルーで不活性化するための装置」である点で一致し、
(イ)光源が、本願発明13においては、光源間に隙間をもって互いに対面するように配置される一対の光源であるのに対して、刊行物1に記載の発明においては、一台のスライドプロジェクターである点、
(ロ)体液とメチレンブルーの混合物を含んでいる容器について、本願発明13においては、容器が光源間を輸送させることができる隙間中の支持表面を有するコンベアを備えているのに対して、刊行物1に記載の発明においては、コンベアを備えていない点
(ハ)装置の使用対象とする方法について、本願発明13では、本願請求項1の方法(本願発明1)としているのに対し、刊行物1に記載の発明では、特に明記していないる点
の3つの点において相違する。

上記相違点について検討する。
(イ)について検討する。
刊行物2及び3の各々には、血液製品を処理する装置において、血液製品を入れたバッグに光を照射するための上下に設置されたランプアセンブリが記載されており(特に、摘示事項(2-6)、(2-7)、(3-6)、(3-7))、ここで、光源を上下に設置することは、光源間に隙間をもって対面するように一対に配置されることと同義である。そして、刊行物1?3に係る発明は、血液製品の処理という同じ技術分野に属するものであるから、刊行物1に記載の発明において、刊行物2又は3に記載のように、光源間に隙間をもって対面するように一対に配置することは、この種の装置における単なる設計変更であり、これを阻害する要因も見あたらないので、当業者にとって格別の創意を要するものではない。

(ロ)について検討する。
刊行物2及び3の各々には、血液製品を処理する装置において、血液製品を入れたバッグを光源を横切って運搬する連続的照射プロセスを使用することができ、その際、コンベアベルトを利用できることが記載されている(特に、摘示事項(2-6)、(3-6))。そして、刊行物1?3に係る発明は、血液製品の処理という同じ技術分野に属するものであるから、刊行物1に記載の発明において、刊行物2又は3に記載のとおり、容器を輸送するコンベアを使用することは、この種の装置における単なる設計変更であり、これを阻害する要因も見あたらないので、当業者にとって格別の創意を要するものではない。

(ハ)について検討する。
本願発明1の方法は、(i)メチレンブルーの治療的有効量とある量の体液を含んでいる混合物を無菌条件下で容器(10)中に形成するステップ、
(ii)該混合物を該容器内において非流動状態に保ちながら、メチレンブルーを活性化するために適した強度および波長の光フィールドで該混合物のウイルスを不活性化するのに十分な与えられた時間の間、該混合物を照射するステップ、
(iii)混合物の該容器が、該容器(10)の移動通路の終りにおいて、該混合物が前記与えられた時間の間照射される速度で、一対の光源(202,204)間をコンベア(230)上で輸送されるステップ
を含む体液中のウイルスを不活性化する方法である。
(i)のステップについては、刊行物1においては、容器中でメチレンブルーと体液を含有してなる混合物を形成しているが、刊行物1における「該ウイルスの感染滴定濃度を減少するに十分な量」としての「メチレンブルー1μM」は、本願発明1の「メチレンブルーの治療的有効量」に相当し、刊行物1のものは、血液物質中のウイルスの不活性化を評価するために敢えて該ウイルスを加えたものであるところ、血液中のウイルスを不活性化するための技術において、無菌条件であればウイルスの不活性化は不要であることはさておき、無菌条件下で処理することが望ましいことは、当業者にとって自明であるから、この点は実質的な相違点ではない。
(ii)のステップについては、刊行物1における「バッグをフレキシブルガラス板の間に挟んでスライドプロジェクターを用いて4時間露光する工程は、バッグ内の血漿及びメチレンブルーの混合物が容易に流動しない状態で露光するものであり、また、刊行物1において、スライドプロジェクターの光源としての強度及び波長、並びに4時間にわたる露光は、該ウイルスの感染滴定濃度を減少するためには十分なものであったことから、血漿バッグ中の該ウイルスの光不活性化に十分な強度、波長及び時間であると解されるので、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)のステップについては、上記(イ)、(ロ)で述べたとおり、刊行物2又は3に、容器が、一対の光源間をコンベアで輸送することは記載されており、その際、適切な速度を設定することは適宜なし得ることである。
よって、本願発明1の(i)から(iii)のステップは、全て刊行物1?3に記載ないし示唆されているから、装置の使用対象を本願発明1の方法に限定するとした点は実質的な相違点ではない。

ここで、請求人の主張について検討するが、その主張によっても上記認定・判断を変えることはできない。理由は以下のとおりである。
請求人は、意見書において、刊行物1?3には、(I)(a)メチレンブルーと体液とを無菌条件下で、すなわち、メチレンブルーと体液のそれぞれが別々に滅菌処理されたものを1つの容器の中へ収容し、メチレンブルーと体液の混合物を形成するステップ、(b)前記混合物を容器内において非流動状態に保ちながらメチレンブルーを活性化し、混合物中のウイルスを不活性化するのに適した条件で光を照射するステップ、(c)光の照射は、混合物が収容された容器がコンベアの移動通路の終りにおいて、前記混合物中のウイルスを不活性にするのに適した時間の間照射されるような速度で一対の光源間をコンベアで輸送されるステップ、の構成要件を備えていない旨、
(II)刊行物2又は3の免疫レスポンスをなくすために光源に紫外線を用いた発明は、本願装置の発明に適用できるものではない旨主張している。
(I)の点について検討する。(a)メチレンブルーと体液のそれぞれが別々に滅菌処理されたものを1つの容器の中へ収容することは、本願請求項1の構成要件に基づくものではなく、本願請求項1の構成要件に基づいて考慮すると(a)の要件は単に無菌条件下であればよく、(a)?(c)の点については、上記の相違点の検討で述べたとおりである。
(II)の点についても、上記で述べたとおり、刊行物1?3は、血液製品の処理という同じ技術分野に属するものであるから、刊行物1に記載の発明において、刊行物2又は3に記載のとおり、光源間に隙間をもって対面するように一対に配置すること、及び、容器を輸送するコンベアを使用することは、この種の装置における単なる設計変更であり、設計変更が実施不可能である何らかの事情又は否定的見解等これを阻害する要因も見あたらないので、刊行物2又は3に記載の発明を適用できないとする主張は採用することはできない。

したがって、本願発明13は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおり、本願発明13は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願発明1?12、14?20について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-29 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願平7-504593
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
P 1 8・ 572- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 木村 敏康
原田 隆興
発明の名称 体液中のウイルス汚染物を不活性化するための装置および方法  
代理人 赤岡 迪夫  

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