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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1147661
審判番号 不服2003-25050  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-12-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-25 
確定日 2006-11-24 
事件の表示 特願2001-166910「はんだペースト印刷方法およびはんだペースト印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月18日出願公開、特開2002-362003〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成13年6月1日の出願であって、平成15年11月19日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月25日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年12月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項及び補正目的
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであり、補正後の請求項3は補正前の請求項3に請求項4(請求項3を引用している。)の限定事項を加えたものである。そうすると、補正前請求項3がされ、補正前請求項4が独立形式に書き改められたと解する余地があるけれども、補正前請求項5と補正後請求項4の限定事項は同一であって、補正前請求項5は請求項3のみを引用していた(請求項4を引用していない。)ため、上記解釈によると補正後請求項4が新設請求項となる。請求項を新設することは特許法17条の2第4項の規定に違反するから、上記解釈を採用することはできず、補正後請求項3は補正前請求項3を限定的に減縮(同時に補正前の請求項5も、請求項4に改めた上で減縮)したものと解さなければならない。
そこで、本件補正後の請求項4に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項3】及び【請求項4】に記載された事項によって特定されるものであり、これら請求項の記載は次のとおりである。
【請求項3】開口を有するマスクをプリント配線基板上に載置する第1の工程と、
Sn-Zn系はんだを含むはんだペーストを前記マスクの上に載せるとともに、前記はんだペーストを取り囲む雰囲気に含まれる水分量を10g/m3以下に維持しつつ、スキージで前記はんだペーストをローリングすることによって、前記マスクの前記開口内に前記はんだペーストを充填する第2の工程と、
前記マスクを前記プリント配線基板から剥離する第3の工程とを有することを特徴とする、はんだペーストの印刷方法。
【請求項4】前記雰囲気は主としてN2からなることを特徴とする、請求項3に記載のはんだペーストの印刷方法。
したがって、補正発明を独立形式で書き下すと、次のとおりのものである。
「開口を有するマスクをプリント配線基板上に載置する第1の工程と、
Sn-Zn系はんだを含むはんだペーストを前記マスクの上に載せるとともに、主としてN2からなり、前記はんだペーストを取り囲む雰囲気に含まれる水分量を10g/m3以下に維持しつつ、スキージで前記はんだペーストをローリングすることによって、前記マスクの前記開口内に前記はんだペーストを充填する第2の工程と、
前記マスクを前記プリント配線基板から剥離する第3の工程とを有することを特徴とする、はんだペーストの印刷方法。」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-47601号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?キの記載が図示とともにある。
ア.「スクリーン印刷装置において、該印刷装置を外気との接触を遮断した状態で前記ハウジングに収容すると共に、該ハウジング内に窒素ガス等の不活性ガスを供給する装置を該ハウジングの外部に設けたことを特徴とするスクリーン印刷装置。」(【請求項4】)
イ.「印刷材料がプリント基板に対するチップ状電子部品等の実装に使用されるクリーム半田であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載のスクリーン印刷装置。」(【請求項5】)
ウ.「本発明は、被印刷物に対し所定のプリントパターンを有する複数個の孔(以下、パターン開孔という)を備えたスクリーン版を介して粘性印刷材料を印刷するスクリーン印刷において使用するスクリーン印刷装置に関する。」(段落【0001】)
エ.「従来、スクリーン印刷において使用される印刷装置に関しては、一ないし複数のスキージをその先端がスクリーン版の上面に接触した状態で往復ないし一方向に移動させることにより、スクリーン版上に盛られた印刷材料を所定のパターン開孔からスクリーン版の下面に接するプリント基板等の被印刷物上に印刷する機能を有するものが知られている。」(段落【0002】)
オ.「従来の技術で説明した印刷装置のうち前者のタイプの印刷装置においては、印刷する印刷材料をスクリーン版上に盛っておき、スキージの移動によって該印刷材料をスクリーン版上で引き伸ばして印刷を行うことから、該印刷材料は常に外気と接触し、その結果、時間の経過とともにその粘度、成分等が変化し、その全量が印刷に使用される前に、もはや好適な印刷結果を得られない状態にまで劣化することが多かった。また、該印刷装置においては、上記の如き印刷方式ゆえに、印刷時の印刷材料の温度は、一般的に、作業が行われる場所の常温である24℃から25℃が好適であるとされ、特に印刷材料の温度を上記常温と異なる特定の温度に調整ないし保持する必要はないとされていた。」(段落【0003】)
カ.「スクリーン印刷においてその印刷結果の良否を左右する条件として、上記印刷材料の温度のほかに、印刷材料の粘度がある。前記した前者のタイプの印刷装置において、印刷材料の粘度は、印刷時に移動するスキージがスクリーン版上に盛られた印刷材料の塊を回転させながら移動させることによって決定されるものであり、数値等を用いて粘度を常に均一の調整ないし制御をするための機構を備えたものはなかった。」(段落【0006】)
キ.「本発明は、上記前者のタイプのスクリーン印刷装置が有する問題点に鑑みてなされたものであり、上記の如き問題点を解消することができると共に、スクリーン印刷における印刷精度の格段の向上と高密度化を実現することが可能なスクリーン印刷装置を提供することをその主たる目的とするものである。」(段落【0007】)

4.引用例1記載の発明の認定
記載ア?キを含む引用例1の全記載及び図示によれば、プリント基板にクリーム半田をスクリーン印刷する方法として、次のような方法が記載されていると認めることができる。
「プリント基板に対して、所定のパターン開孔を有するスクリーン版を介してクリーム半田をスクリーン印刷する方法であって、印刷装置を外気との接触を遮断した状態でハウジングに収容し、前記ハウジング内に窒素ガスを供給して、
スキージを移動させることにより、スクリーン版上に盛られたクリーム半田を所定のパターン開孔からスクリーン版の下面に接するプリント基板上に印刷する方法。」(以下「引用発明1」という。)

5.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「所定のパターン開孔を有するスクリーン版」、「プリント基板」及び「クリーム半田」は、補正発明の「開口を有するマスク」、「プリント配線基板」及び「はんだペースト」にそれぞれ相当し、引用発明1を「はんだペーストの印刷方法」ということができる。
引用例1に明記されているかどうかにかかわらず、引用発明1が「開口を有するマスクをプリント配線基板上に載置する第1の工程」を有することは自明である。
また、補正発明の「N2」は窒素の分子式であり、引用例1の記載カに「印刷時に移動するスキージがスクリーン版上に盛られた印刷材料の塊を回転させながら移動させる」とあるように、スキージの移動は「はんだペーストをローリング」に直結するから、「はんだペーストを前記マスクの上に載せるとともに、主としてN2からなり、前記はんだペーストを取り囲む雰囲気中で、スキージで前記はんだペーストをローリングすることによって、前記マスクの前記開口内に前記はんだペーストを充填する第2の工程」との限度で、補正発明と一致する工程を引用発明1が有することも自明である。
引用発明1は、補正発明の「第3の工程」を直接的には構成要件としていないが、スクリーン印刷に当たっては、マスクをプリント配線基板から剥離しなければならないことは技術常識に属するから、「前記マスクを前記プリント配線基板から剥離する第3の工程」の有無は相違点にはならない。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「開口を有するマスクをプリント配線基板上に載置する第1の工程と、
はんだペーストを前記マスクの上に載せるとともに、主としてN2からなり、前記はんだペーストを取り囲む雰囲気で、スキージで前記はんだペーストをローリングすることによって、前記マスクの前記開口内に前記はんだペーストを充填する第2の工程と、
前記マスクを前記プリント配線基板から剥離する第3の工程とを有するはんだペーストの印刷方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉補正発明が、はんだペーストを「Sn-Zn系はんだを含む」と限定し、かつ「雰囲気に含まれる水分量を10g/m3以下に維持しつつ」と限定しているのに対し、引用発明1にはかかる限定がない点。

6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
本件出願前に頒布された特開2000-107887号公報(以下「周知例1」という。)には、「鉛入りはんだ製品は、廃棄による環境への鉛汚染の問題が提起されてきており、鉛フリーはんだの検討がはじめられてきた。その中で、現行の鉛入りはんだに比較的融点の近いSn-Zn系はんだは、Znは非常に酸化しやすい金属であるため、リフロー中での酸化を防止することが難しく、はんだボール発生となり、普及困難となっていた。この対策として、窒素雰囲気中ではんだ付けを行う窒素リフロー方式が考えられる・・・」(段落【0004】?【0005】)との記載が、同じく特開2000-317682号公報(以下「周知例2」という。)には、「Sn-Pb合金は、はんだ付け性も良好である。しかし、このはんだ合金はPbを含むため、廃棄された電子機器から流出したPbが、地下水等を経由して人体に悪影響を及ぼすことが懸念されている。このような事情から、Sn-Ag合金、Sn-Sb合金、Sn-Bi合金、Sn-Zn合金等が鉛フリーのはんだ合金として提案されている。」(段落【0004】)、「Sn-Zn合金では、共晶組成Sn-9Znにおいて共晶温度が199℃である。」(段落【0006】)及び「Sn-Zn系合金は、合金中のZnの活性が強いために、隣接するはんだ粒子同士がくっつきやすくペーストとして使用するときに増粘する傾向がある。ソルダーペーストの増粘が過度に至ると、ペーストの基板への印刷が困難となる。Sn-Zn系合金はZnの表面が酸化されやすいために、合金の融点も上昇する傾向がある。」(段落【0008】)との各記載がある。
これら周知例1,2の上記記載によれば、本件出願当時、次の2つの事実が周知であると認めることができる。
周知事実1:Pbを含まない鉛フリーのはんだ合金が提案され、その中でも融点の低い「Sn-Zn系はんだ」を「はんだペースト」として採用すること。
周知事実2:「Sn-Zn系はんだ」はZnが非常に酸化しやすく活性が強いために対策が必要であること。
周知例1に記載されているように、「Sn-Zn系はんだ」を用いる際の有効な対策の1つは「窒素雰囲気中ではんだ付けを行う」ことであり(窒素が反応性に乏しいガスであることは常識である。)、これは引用発明1で採用されている工程であるから、引用発明1は「Sn-Zn系はんだ」を用いるにふさわしい方法であることが明らかである。そうである以上、引用発明1のはんだペーストとして、「Sn-Zn系はんだを含む」ものを採用することは当業者にとって想到容易である。そして、Znの活性が強いことは上記のとおり周知であり、その対策として「窒素雰囲気中ではんだ付けを行う」以上、はんだペーストを取り囲む雰囲気中に、Znと反応することが予測される分子が多く存在してはならないことは当然であり、水分がZnと反応するであろうことは、当業者であればたやすく予測できることである。そればかりか、Znの存在とは無関係に、雰囲気中の水分を少なくすること(湿度20%以下とすること)が、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-217425号公報(以下「引用例2」という。)に記載されており(引用例1の記載オのように、25℃を例にとると、飽和水蒸気量は23.06g/m3であるから、湿度20%の水分量は約4.6g/m3である。)、Znが存在するならば、なお一層水分量を少なくすべきである。水分量がどの程度であれば印刷に支障がないかは、実験等により定まる事項であるから、引用例2記載の技術をも考慮すれば、引用発明1のはんだペーストとして、「Sn-Zn系はんだを含む」ものを採用した場合に、「雰囲気に含まれる水分量を10g/m3以下に維持」することは設計事項であり、結局のところ、相違点に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易といわなければならない。そして、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1、引用例2記載の技術及び周知事実に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正前の請求項5に係る発明を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反しており、同法159項1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年10月27日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項3】及び【請求項5】に記載された事項によって特定されるものであり、これら請求項の記載は次のとおりである。
【請求項3】開口を有するマスクをプリント配線基板上に載置する第1の工程と、
Sn-Zn系はんだを含むはんだペーストを前記マスクの上に載せるとともに、前記はんだペーストを取り囲む雰囲気に含まれる水分量を所定の値以下に維持しつつ、スキージで前記はんだペーストをローリングすることによって、前記マスクの前記開口内に前記はんだペーストを充填する第2の工程と、
前記マスクを前記プリント配線基板から剥離する第3の工程とを有することを特徴とする、はんだペーストの印刷方法。
【請求項5】前記雰囲気は主としてN2からなることを特徴とする、請求項3に記載のはんだペーストの印刷方法。
本願発明を独立形式で書き下せば、次のとおりのものと認めることができる。
「開口を有するマスクをプリント配線基板上に載置する第1の工程と、
Sn-Zn系はんだを含むはんだペーストを前記マスクの上に載せるとともに、主としてN2からなり、前記はんだペーストを取り囲む雰囲気に含まれる水分量を所定の値以下に維持しつつ、スキージで前記はんだペーストをローリングすることによって、前記マスクの前記開口内に前記はんだペーストを充填する第2の工程と、
前記マスクを前記プリント配線基板から剥離する第3の工程とを有することを特徴とする、はんだペーストの印刷方法。」

2,本願発明の進歩性の判断
本願発明を限定的に減縮した補正発明が引用発明1、引用例2記載の技術及び周知事実に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたのであるから、本願発明も引用発明1、引用例2記載の技術及び周知事実に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたことは明らかであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-20 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-10 
出願番号 特願2001-166910(P2001-166910)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
長島 和子
発明の名称 はんだペースト印刷方法およびはんだペースト印刷装置  
代理人 工藤 雅司  
代理人 谷澤 靖久  
代理人 机 昌彦  

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