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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B22D
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1147686
審判番号 不服2004-10952  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-09-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-26 
確定日 2006-11-24 
事件の表示 平成11年特許願第 53429号「マグネシウム合金成形部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月12日出願公開、特開2000-246414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成11年3月2日の出願であって、平成14年11月7日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成15年1月17日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年11月20日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成16年1月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月13日付けで、平成16年1月16日付けの手続補正書による補正の却下の決定がなされ、同日付で、平成15年11月20付けの拒絶の理由により拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月24日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年6月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年6月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
平成16年6月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成15年1月17日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された、
「【請求項1】 初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下としたマグネシウム合金を成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。
【請求項2】 初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で、板状または柱状に押し出すことにより、固相粒子径を300μm以下としたマグネシウム合金を成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。
【請求項3】 初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下としたマグネシウム合金を急冷凝固し、該マグネシウム合金を、再度、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。
【請求項4】 初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で、板状または柱状に押し出すことにより、固相粒子径を300μm以下としたマグネシウム合金を急冷凝固し、該マグネシウム合金を、再度、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。」
を、以下のように補正するものである。
「【請求項1】 初期の結晶粒径が300μm以上のマグネシウム合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を初期の結晶粒径に比べて小さくしたマグネシウム合金を、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。
【請求項2】 初期の結晶粒径が300μm以上のマグネシウム合金インゴットを30?60%の固液共存温度に加熱保持した状態で、板状または柱状に押し出すことにより、固相粒子径を初期の結晶粒径に比べて小さくしたマグネシウム合金を、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。」

(2)本件補正の適否の判断
本件補正は、特許法第17条の2第1項第3号の場合(補正が審判請求に伴ってされる場合)において特許請求の範囲についてする補正であるから、同条第3項から第5項までの規定に違反しないことを要する。
以下、これについて精査する。

(2-1)特許法第17条の2第3項の規定について
まず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満足するか否かについて検討する。
本件補正後の請求項1をみると、当該請求項1には、「初期の結晶粒径が300μm以上のマグネシウム合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を初期の結晶粒径に比べて小さく」することが記載されている。
そうすると、本件補正後の請求項1に係る発明は、例えば、次に示す態様1のみならず、態様2なども包含するものと理解できる。
態様1:初期の結晶粒径が500μmであったものを、内部歪の付与後の加熱保持工程により200μmの粒径にすること。
態様2:初期の結晶粒径が500μmであったものを、内部歪の付与後の加熱保持工程により450μmの粒径にすること(すなわち、最終的に300μmを超える結晶粒径に調整すること)。
一方、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)を仔細にみて、特に当該請求項1に係る発明に関する記載に着目すると、内部歪を付与する点に関しては、以下のような記載がみられる。
摘記事項A:
「【請求項1】 マグネシウム合金を固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。
・・・
【請求項4】 前記マグネシウム合金は、加圧変形により、内部歪を付与したものであることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム合金成形部品の製造方法。」
摘記事項B:
「【0037】・・・・
[実施例3]以下に、実施例3について説明する。
【0038】図2に示すような鍛造プレス機(装置全体は図示せず)に据え込み用金型2を取り付け、初期の結晶粒径が500μmのAZ91Dインゴットを15mmの厚さに切り出し、金型温度250℃、材料温度250℃で加圧することにより、約10mmの厚さまで変形させ内部歪を付与した。
【0039】このようにして作製した試料を、鉄製の密閉ケースに装入し、固相率60%の固液共存温度(572℃)に加熱保持後水中に急冷し、固相粒子の粒径を測定した。その結果、固相粒子の粒径は約200μmとなっていた。
【0040】これは、初期のインゴットでは500μmだった結晶粒径が、固液共存温度までの昇温中に再結晶しているためと考えられる。つまり、合金インゴットに対して内部歪を付与し固液共存状態にすることで、固相粒子の粒径が小さくなり、鍛造性が良好になることがわかる。
【0041】このことを確認するために実施例1と同様の鍛造テストを行なったところ、良好な鍛造性を確認した。」
また、結晶粒径に関しては、さらに次のような記載が認められる。
摘記事項C:
「【0030】・・・・したがって、固相率が80%で、且つ、初期の結晶粒径が大きい場合良好な鍛造性が得られないため、所望の設計厚さに成形するには、初期の結晶粒径を300μm以下にすることが必要である。」
摘記事項D:
「【0036】
つまり、良好な鍛造性を得るためには、初期の結晶粒径が300μm以上の場合には、何れの固相率においても、所望の温度に達した後30分以上保持することが必要であることがわかる。」

してみると、当初明細書等には、上記態様1に対応するような記載(摘記事項B参照)は認められるものの、少なくとも上記態様2のような形態、すなわち、最終的に300μmを超える結晶粒径に調整することについては何ら記載されていないということができる。そして、態様2のように粒径調整することは、当初明細書等の記載からみて自明な事項であるということもできない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2-2)特許法第17条の2第4項の規定について
次に、本件補正が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満足するか否かについて検討する。
本件補正は、本件補正前の請求項1あるいは3に記載された「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下」とするという発明特定事項を、「初期の結晶粒径が300μm以上のマグネシウム合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を初期の結晶粒径に比べて小さく」すると補正することを含むものである。
ここで、結晶粒径に着目すると、本件補正後の請求項1においては、「固相粒子径を初期の結晶粒径に比べて小さく」すると規定するのみであって、固相粒子径の具体的数値を特定するものではないから、最終的に300μmを超える結晶粒径に調整するなど(例えば、前述の態様2を参照)、補正前の請求項1あるいは3に記載された上記発明特定事項の範疇を超越する形態を包含するものである。
してみると、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しない。また、当該補正が、同条第4項第1号、第3号及び第4号に掲げられる、「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明」(4号)を目的とするものでないことは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明

平成16年6月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成15年1月17日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりであるところ、その請求項1及び3は次のとおりである(以下、「本願発明1」及び「本願発明3」という)。
「【請求項1】 初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下としたマグネシウム合金を成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。」
「【請求項3】 初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下としたマグネシウム合金を急冷凝固し、該マグネシウム合金を、再度、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で成形用金型内に装入し加圧成形することを特徴とするマグネシウム合金成形部品の製造方法。」

4.原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。
「平成15年1月17日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

出願人は、意見書において「補正は、出願当初の明細書の記載に基づいて直接的かつ一義的に導き出されるものであり、新規事項を追加するものではありません。」と主張し、補正の根拠として段落0038?段落0046を挙げているが、これらを参照しても「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下とした」こと(請求項1)、「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で、」(請求項2)、「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下とした」こと(請求項3)、「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持した状態で、」(請求項4)については、当初明細書または図面に記載がなく、これらから自明な事項とも認められない。」

5.当審の判断

(1)結晶粒径に関する新規事項について
本願発明1及び3は、「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下」とすることを発明特定事項としている。
しかしながら、当初明細書等の記載(前記「2.(2-1)」において摘記した摘記事項A?D参照)をみると、初期の結晶粒径が500μmのものを、内部歪を付与した後、固相率60%の固液共存温度に加熱保持することにより、200μmの粒径としたことは認められるものの(摘記事項B参照)、内部歪を付与した後、加熱保持することにより、固相粒子径を300μmを境目としてそれ以上からそれ以下にすること、例えば、同様の工程により、1000μmのものを300μm以下の粒径にするとか、300μmのものをそのまま300μmの粒径にするといったことまでを想定されていたとは到底いえない。
したがって、当初明細書等には、上記発明特定事項が技術思想として記載されていたということはできず、また、当初明細書等の記載からみて、自明な事項であるともいえない。

(2)加熱保持工程に関する新規事項について
さらに、本願発明3は、再度の加熱保持の前段階として、「初期の結晶粒径が300μm以上の合金インゴットを加圧変形により内部歪を付与した後、固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することにより、固相粒子径を300μm以下」とする処理を行っているが、当初明細書等には、内部歪を付与した後、加圧成形時(鍛造時)に固相率30?80%の固液共存温度に加熱保持することは記載されているものの(前述の摘記事項A、B参照)、該加圧成形時の加熱保持に先立って、同様の加熱保持工程を具備せしめることについては何ら記載されていない。そして、この点は、当初明細書等の記載からみて、自明な事項といえるものでもない。

(3)まとめ
上記のとおり、平成15年1月17日付けでした手続補正のうち、少なくとも、請求項1及び3についてする補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

6.むすび

以上のとおり、平成15年1月17日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-22 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-12 
出願番号 特願平11-53429
審決分類 P 1 8・ 55- Z (B22D)
P 1 8・ 56- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 貢田中 則充  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
日比野 隆治
発明の名称 マグネシウム合金成形部品の製造方法  
代理人 野河 信太郎  

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