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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E01F
管理番号 1147773
審判番号 不服2005-2294  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-10 
確定日 2006-11-22 
事件の表示 平成 7年特許願第146706号「車幅感覚向上のための道路標示」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月19日出願公開、特開平 8-302628〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年5月9日の出願であって、平成16年12月21日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成17年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において平成17年10月20日付で拒絶理由を通知したところ、平成17年12月26日付の意見書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年3月14日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「車道に自動車車幅と同等の幅に相当する線、図形、または道路標識よりなる車幅感覚向上のための標示を描き、その上を自動車運転者が自動車を運転することで自動車運転に必要な車幅感覚が向上する自動車車幅と同等の幅に相当する線、図形、または道路標識よりなる、自動車運転者の車幅感覚向上のための道路標示。」

3.引用例
これに対して、当審における拒絶の理由に引用された特開平5-85222号公報(以下、「引用例」という。)には、「ヘッドアップディスプレイ装置」に関し、図面と共に、以下の記載がある。
(イ)「【請求項1】 情報光を投射する投射光学系ユニットと、該情報光を外界からの背景光と重ねて背景視野内に情報像を表示させるコンバイナとからなる車両用のヘッドアップディスプレイ装置において、前記投射光学系ユニット(20)と前記コンバイナ(22)とが車両からその進行方向に所定距離だけ離れた位置にその位置での車幅を指示する車幅指示像(VI1 、VI2 )を表示するように構成されることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。」
(ロ)「【0004】【発明が解決しようとする課題】ところで、自動車等の車両の運転には車幅感覚を養うことが肝要である。…(中略)…現状では、ドライバが充分に車幅感覚を養っていない場合にそれを補助する安全対策は何等とられていない。そこで、本発明は上述したようなヘッドアップディスプレイ装置を用いてドライバの前方視野に車幅を指示する車幅指示像を表示し、これにより安全運転に寄与することを目的とするものである。」
(ハ)「【0006】【作用】以上の構成から明らかなように、本発明によるヘッドアップディスプレイ装置にあっては、車両からその進行方向に所定距離だけ離れた位置にその位置での車幅を指示する車幅指示像が表示されるので、ドライバは道路上の障害物に接触するか否かを予め判断し得る。」
(ニ)「【0009】図4ないし図7を参照すると、本発明によるヘッドアップディスプレイ装置の第2の実施例が示され、この実施例では、一対の虚像VI1 およびVI2 が道路面に対して平行に表示されることが特徴とされる。…」
(ホ)「【0010】…このような実施例の利点としては、一対の虚像VI1 およびVI2 すなわち車幅指示像の長さ方向に沿って車幅を認識し得る点が挙げられる。」
これらの記載によれば、引用例には、
「車両からその進行方向に所定距離だけ離れた位置にその位置での車幅を指示する一対の虚像VI1 およびVI2 が道路面に対して平行に表示され、車幅指示像の長さ方向に沿って車幅を認識し得る車幅指示像(VI1 、VI2 )よりなる、ドライバが充分に車幅感覚を養っていない場合にそれを補助するヘッドアップディスプレイによる表示」(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「道路」、「車両」及び「(道路面に対して平行に表示される)車幅を指示する一対の虚像VI1 およびVI2 」は、本願発明の「車道」、「自動車」及び「自動車車幅と同等の幅に相当する線」に、それぞれ相当する。また、引用発明と本願発明とは、一方がディスプレイによる虚像の表示で、他方が実際上の標示という差はあるものの、運転者から視覚上認識されるものとして、車道に表示された線であるという点において、共通する。さらに、引用発明における「車幅感覚を養っていない場合にそれを補助する」ということは、その表示により、必要な車幅感覚を得ることに他ならないから、引用発明と本願発明は、自動車運転に必要な車幅感覚が得られるための表示である点においても、共通する。

そうすると、両者は、次の点で一致し、後述する2点で相違する。
[一致点]
「車道に自動車車幅と同等の幅に相当する線を示す又は表示し、自動車運転者が自動車を運転することで自動車運転に必要な車幅感覚が得られる自動車車幅と同等の幅に相当する線よりなる、自動車運転者の車幅感覚を得るための表示」である点。

[相違点1]
表示の態様が、本願発明では、車道に描かれた道路標示であるのに対して、引用発明では、ディスプレイによる虚像の表示である点。

[相違点2]
自動車運転に必要な車幅感覚が得られるという事項に関して、本願発明では、車道に描かれた道路標示の上を自動車運転者が運転することで自動車運転に必要な車幅感覚が向上するということを主眼としているのに対して、引用発明では、ドライバが充分に車幅感覚を養っていない場合にそれを補助するということを主眼としている点。

5.判断
[相違点1]について
例示するまでもなく、様々な目的に応じた表示を道路に道路標示として描くことは慣用技術であるから、引用発明におけるディスプレイによる虚像の表示に替えて、実像、即ち、車道に描かれた道路標示を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明に慣用技術を適用して、当業者が容易に想到し得るものというべきである。

[相違点2]について
本願発明の車道に描かれた道路標示の上を自動車運転者が運転するという使用態様を規定した点は、相違点1について説示したところの引用発明におけるディスプレイによる虚像の表示に替えて、道路標示を採用することにより得られた構成の使用により、結果として得られるものにすぎない。また、本願発明の「車幅感覚が向上する」と規定した点についても、上記一致点で指摘したとおり、本願発明と引用発明は、自動車運転に必要な車幅感覚が得られる点で一致するものであり、すなわち、両者は共に、専ら視覚を通じて車幅感覚が得られるというものであって、それ以外の感覚は運転者には作用しないものであるといえる。そうすると、ディスプレイによる虚像の表示を見て、自動車運転者が自動車を運転する引用発明の場合であっても、本願発明と同様に、自動車運転に必要な車幅感覚は向上するものといわざるを得ない。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明に慣用技術を適用して、当業者が容易に想到し得るものというべきである。

なお、審判請求人は意見書において、引用例に記載された「車幅指示像」は常に自動車の前方にあり、自動車運転者が実際に自動車でその上を走行することはできず、自動車運転者が「車幅指示像」の上を実際に走行することができないと、表示されていた車幅指示像と自動車の実際の車幅との関係を運転者が確認することができず、車幅感覚の向上は期待することができないと主張している。
しかしながら、確かに、表示されていた車幅指示像と自動車の実際の車幅との関係を運転者が確認するということを行えば、当該確認を通じて運転操作の適否を知ることはできるものの、本願発明においても、道路標示の上を外れることなく現在走行中であるか否かについては、運転席から直接視認できるものではないし、実際の道路標示であったところで、道路標示に凹凸を設ける等して運転者が身体で感覚できるような措置を施さなければ、道路標示の上を外れているか否かについては運転中において認識できないものである。正しい位置を走行しているか否かは、あくまで、表示と運転中の視覚によって判断されるものであり(本願発明では、自動車のボディ等の基準と道路標示のずれを確認し、引用発明では、走行車線等の道路表示とディスプレイによる標示のずれを確認することになるものと思われる。)、車幅感覚の向上という作用効果に関しては、本願発明と引用発明の両者に格別の相違がないというべきである。
したがって、審判請求人の主張は妥当ではなく、本願発明の作用効果も、引用発明及び慣用技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-18 
結審通知日 2006-01-24 
審決日 2006-02-06 
出願番号 特願平7-146706
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
石井 哲
発明の名称 車幅感覚向上のための道路標示  
代理人 須磨 光夫  

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