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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1148121
異議申立番号 異議2003-72171  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2007-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-25 
確定日 2006-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3385272号「はんだ粉末、フラックス、はんだペースト、はんだ付け方法、はんだ付けした回路板、及びはんだ付けした接合物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3385272号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯

本件特許第3385272号の請求項1乃至3に係る発明についての出願は、平成11年 6月10日に(パリ条約による優先権主張 平成11年5月24日、米国)を国際特許出願日とする特許出願であって、平成14年12月27日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、西山幸代及び名越千栄子より請求項1乃至3に係る発明についての特許に対し、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年7月20日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の内容

2-1.訂正の要旨

(1)訂正事項a:特許請求の範囲の
「【請求項1】他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であることを特徴とするはんだ粉末。」を、
「【請求項1】他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であり、はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり、はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とするはんだ粉末。」と訂正する。
これに伴い、訂正前の請求項1を引用して記載されていた訂正前の請求項13の「請求項1に記載のはんだ粉末」なる記載を、訂正前の請求項1に記載された内容をそのまま取り込んで、非引用形式で記載したもの、すなわち、「他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であるはんだ粉末」に訂正する。

(2)訂正事項b:特許請求の範囲の【請求項3】の
「SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有する」を、
「SnおよびZnの元素を含有する」と訂正する。

(3)訂正事項c:特許請求の範囲の請求項2を削除し、以下の請求項番号を順次繰り上げるとともに、引用される請求項番号を整合させる。

(4)訂正事項d:特許明細書の段落【0011】の
「即ち、本発明は、
(1) 他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であることを特徴とするはんだ粉末、
(2) はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下である(1)に記載のはんだ粉末、
(3) はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有する(1)または(2)に記載のはんだ粉末、
(4) フラックス成分として、有機酸エステルとエステル分解触媒とからなる有機酸成分、及び有機ハロゲン化合物を含むことを特徴とするはんだペースト用フラックス、
(5) エステル分解触媒が、有機塩基ハロゲン化水素酸塩である(4)に記載のはんだペースト用フラックス、
(6) 有機ハロゲン化合物が、炭素数10以上のアルキル鎖を持った置換基を有するベンジル化合物の臭素化物、または炭素数10以上の脂肪酸または脂環式化合物の一分子中に4個以上の臭素を含むポリ臭素化合物の少なくとも1種を含む(4)または(5)に記載のはんだペースト用フラックス、
(7) フェノール系化合物、りん系化合物、硫黄系化合物、トコフェロールとその誘導体及びL-アスコルビン酸とその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種の還元剤をさらに含む(4)?(6)のいずれかに記載のはんだペースト用フラックス、
(8) 還元剤として、トコフェロールまたはその誘導体の少なくとも1種とL-アスコルビン酸またはその誘導体の少なくとも1種とを併用した(7)に記載のはんだペースト用フラックス、
(9) フラックス全量に対し、0.01?20wt%の有機酸成分、0.02?20wt%の有機ハロゲン化合物、0.05?20wt%の還元剤を含む(7)または(8)に記載のはんだペースト用フラックス、
(10) (4)?(9)のいずれかに記載のフラックス成分の他にpH調整剤を含み、このフラックス4gをトルエン50ml、イソプロピルアルコール49.5ml、水0.5mlからなる混合溶液に溶解し、pH計で測定したpH値が4?9の範囲である、はんだペースト用フラックス、
(11) フラックス全量に対し、0.05?20wt%のpH調整剤を含む(10)に記載のはんだペースト用フラックス、
(12) pH調整剤として、アルカノールアミン類、脂肪族第1?第3級アミン類、脂肪族不飽和アミン類、脂環式アミン類及び芳香族アミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種のアミンを含む(10)または(11)に記載のはんだペースト用フラックス、
(13) (1)に記載のはんだ粉末と(4)に記載のはんだペースト用フラックスとからなるはんだペースト、
(14) 水分含有量が0.5wt%以下である(13)に記載のはんだペースト、
(15) (10)に記載した方法で測定したpH値が4?9の範囲である(13)に記載のはんだペースト、
(16) はんだペースト全量に対し、はんだ粉末が86?92wt%、はんだペースト用フラックスが14?8wt%を含む(13)?(15)のいずれかに記載のはんだペースト、
(17) (13)?(16)のいずれかに記載のはんだペーストを、回路板上に塗布する工程と、該はんだペーストをリフローする工程を含むことを特徴とする回路板のはんだ付け方法、
(18) (17)に記載のはんだ付け方法において、回路板への電子部品の載置工程を含み、リフローしたはんだの一部または全部を電子部品の接合に用いることを特徴とする回路板のはんだ付け方法、
(19) (18)に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した回路板、
(20) (18)に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した接合物、に関する。」を、
「即ち、本発明は、
(1) 他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であり、はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり、はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とするはんだ粉末。
(2)はんだ粉末が、SnおよびZnの元素を含有する(1)に記載のはんだ粉末。
(3) フラックス成分として、有機酸エステルとエステル分解触媒とからなる有機酸成分、及び有機ハロゲン化合物を含むことを特徴とするはんだペースト用フラックス、
(4) エステル分解触媒が、有機塩基ハロゲン化水素酸塩である(3)に記載のはんだペースト用フラックス、
(5) 有機ハロゲン化合物が、炭素数10以上のアルキル鎖を持った置換基を有するベンジル化合物の臭素化物、または炭素数10以上の脂肪酸または脂環式化合物の一分子中に4個以上の臭素を含むポリ臭素化合物の少なくとも1種を含む(3)または(4)に記載のはんだペースト用フラックス、
(6) フェノール系化合物、りん系化合物、硫黄系化合物、トコフェロールとその誘導体及びL-アスコルビン酸とその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種の還元剤をさらに含む(3)?(5)のいずれかに記載のはんだペースト用フラックス、
(7) 還元剤として、トコフェロールまたはその誘導体の少なくとも1種とL-アスコルビン酸またはその誘導体の少なくとも1種とを併用した(6)に記載のはんだペースト用フラックス、
(8) フラックス全量に対し、0.01?20wt%の有機酸成分、0.02?20wt%の有機ハロゲン化合物、0.05?20wt%の還元剤を含む(6)または(7)に記載のはんだペースト用フラックス、
(9) (3)?(8)のいずれかに記載のフラックス成分の他にpH調整剤を含み、このフラックス4gをトルエン50ml、イソプロピルアルコール49.5ml、水0.5mlからなる混合溶液に溶解し、pH計で測定したpH値が4?9の範囲である、はんだペースト用フラックス、
(10) フラックス全量に対し、0.05?20wt%のpH調整剤を含む(9)に記載のはんだペースト用フラックス、
(11) pH調整剤として、アルカノールアミン類、脂肪族第1?第3級アミン類、脂肪族不飽和アミン類、脂環式アミン類及び芳香族アミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種のアミンを含む(9)または(10)に記載のはんだペースト用フラックス、
(12)他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であるはんだ粉末と(3)に記載のはんだペースト用フラックスとからなるはんだペースト、
(13) 水分含有量が0.5wt%以下である(12)に記載のはんだペースト、
(14) (9)に記載した方法で測定したpH値が4?9の範囲である(12)に記載のはんだペースト、
(15) はんだペースト全量に対し、はんだ粉末が86?92wt%、はんだペースト用フラックスが14?8wt%を含む(12)?(14)のいずれかに記載のはんだペースト、
(16) (12)?(15)のいずれかに記載のはんだペーストを、回路板上に塗布する工程と、該はんだペーストをリフローする工程を含むことを特徴とする回路板のはんだ付け方法、
(17) (16)に記載のはんだ付け方法において、回路板への電子部品の載置工程を含み、リフローしたはんだの一部または全部を電子部品の接合に用いることを特徴とする回路板のはんだ付け方法、
(18) (17)に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した回路板、
(19) (17)に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した接合物、に関する。」と訂正する。

(5)訂正事項e:特許明細書の段落【0065】の
「はんだ粉末中の酸素含有」を、
「はんだ粉末中の酸素含有量」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

訂正事項aは、旧請求項1に、旧請求項2及び明細書の段落【0014】などに記載された「はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下」(旧請求項2)及び「はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよび:Agの元素を含有する」(段落【0014】)なる特定事項を取り込むものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは、旧請求項3に記載された「SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素」を「SnおよびZnの元素」に限定するものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項cは、旧請求項2を削除するものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、これらの訂正事項a?cは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項dは、訂正事項a?cにより特許請求の範囲が訂正された関係上、これに整合させるために発明の詳細な説明を訂正するものであるから、訂正事項dは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項eは、段落【0065】の「はんだ粉末中の酸素含有」が、「はんだ粉末中の酸素含有量」であることは、段落【0069】の表2の記載からも明らかであるから、訂正事項eは誤記の訂正を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、これらの訂正事項d、eは、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
なお、異議が申立てられていない請求項12(旧請求項13)も訂正されているが、この訂正は、旧請求項13において旧請求項1を引用して記載していた部分を、旧請求項1が訂正されたことに伴い、旧請求項1に記載されていた内容を、非引用形式で記載し直して、新請求項12としたものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当するものであって、実質上特許請求の範囲を変更し又は拡張するものでもない。

2-3.まとめ

以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.異議申立理由及び取消理由についての判断

3-1.本件訂正後の請求項1及び2に係る発明

訂正後の本件請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1及び2」という。)は、訂正明細書の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であり、はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり、はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とするはんだ粉末。
【請求項2】はんだ粉末が、SnおよびZnの元素を含有する請求項1に記載のはんだ粉末。」

3-2.取消理由

(1)訂正前の請求項1に係る発明は、刊行物1,2に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
(2)訂正前の請求項1に係る発明は、刊行物1?3,10に記載された発明に基づいて、また、訂正前の請求項2に記載された発明は、刊行物1?7,10に記載された発明に基づいて、さらに、訂正前の請求項3に係る発明は、刊行物1?10に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1乃至3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(刊行物1,4,5,9,10は、順次、特許異議申立人 西山幸代が提出した甲第1,3?6号証に対応するものであり、刊行物2,3,6?8は、順次、特許異議申立人 名越千栄子が提出した甲第1,3,5?7号証に対応している。なお、刊行物1は、特許異議申立人 名越千栄子も甲第4号証として提出している。)

3-3.引用された刊行物に記載の事項

(1)刊行物1:特開平6-142975号公報(特許異議申立人 西山幸代の提出した甲第1号証,特許異議申立人 名越千栄子の提出した甲第4号証)
(1a):「【請求項1】 30μm未満の粒径のハンダ粒子を含み、かつ、前記ハンダ粒子の粒径の下限が1μm以上であることを特徴とするハンダペースト。」(特許請求の範囲)
(1b):「【0005】...ハンダ粒径が30μm?50μmというハンダペースト2を使用した場合には、そのハンダペースト2中のハンダ粒子1の粒子間空隙率が大きいため、 ...ハンダペースト2の溶融前後での体積変化率が大きく、ハンダ溶融後の配線パターン3上のハンダ厚さを精度よく制御することは困難であった。」
(1c):「【0012】また、ハンダペースト中のハンダ粒子の粒径の下限を1μm以上としているので、ハンダ粒子の微小化に伴って顕著となるハンダ粒子表面の酸化物によるハンダの濡れ性の低下を防ぐことができ、微細なパターンでもハンダを良好に付着させることができる。」
(1d):図1と図6に実施例におけるハンダ粒子の粒径分布が示され、粒子数(%)で、1μm以上20μm以下の粒子数がそれぞれ、図面に基づくと約11%と約5%であるハンダ粒子が開示されている。

(2)刊行物2:「SMT」1997年2月、第66,68頁(特許異議申立人 名越千栄子の提出した甲第1号証)
(2a):第66頁に、ペーストビヒクル中に分散されたはんだ粒子の顕微鏡写真が、そして、第68頁の図1には、メッシュサイズ-325/+500のふるいで分級されたはんだ粉末A,B,Cの重量基準の粒度分布が示されている。

(3)刊行物3:特開昭60-12295号公報(特許異議申立人 名越千栄子の提出した甲第3号証)
(3a):「はんだ粉末を有するはんだペーストにおいて、はんだ粉末のほとんどを径が5μより大きい粉末粒子にて構成したことを特徴とするはんだペースト組成物」(特許請求の範囲)
(3b):「本発明は、以上のように、従来のはんだペーストはプリント配線板に塗布されてからそのはんだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた点を改善するために、はんだ粉末の粒子径を5μより大きいものにすることによりはんだ粉末の酸化を少なくしたはんだペースト組成物を提供するものである。」(2頁左下欄)
(3c):「・・・本発明に使用されるにはこの5?10重量%の5μ以下のはんだ粉末が除去される。このように、粒子径の小さいものを除去することの効果は、粒子径の小さいはんだ粉末程その全粒子の表面積の和が大きくなるので空気と接触する部分が多くなる結果、酸化が起こり易いものと考えられる。この点からすると、はんだ粉末の粒子径が大きいほどその酸化は起こりにく(くなる)ので好ましく、・・・しかし、・・・塗布性が悪くなるので、この点からすればはんだ粉末の粒子径は最大150μが適当である。」(2頁右下欄?3頁左上欄)、
(3d):実施例に、粒子径が20μより大きいSn系はんだ合金粉末を用いたペーストと、粒子径が5μ以下のはんだ合金粉末をはんだ合金粉末全体の5重量%加えた比較ペーストを、室温で種々の時間放置した後の酸化の程度が第1図,第2図に示されている(3頁左下欄?5頁)。

(4)刊行物4:特開平10-52790号公報(特許異議申立人 西山幸代の提出した甲第3号証)
(4a):「このことは、はんだ粉末を小径化すればするほど単位体積当たりの酸化量が増える(これは酸化膜の膜厚を一定と仮定した場合であるが)ことを意味する。図3は酸素量とはんだ粒径の関係を計算値で示した図である。」(【0011】)
(4b):「この図3は、粒径が35μm のはんだ粉末の酸化量を100ppmと仮定すると酸化膜厚さが11nm(110Å)となることを条件として計算した値を示している。図3から明らかなように、はんだ粒径が10μm 以下になると酸素量が急激に増加している。はんだ粉末の酸素濃度が高くなればはんだ付け性が低下してソルダボールの発生度が高くなることは周知のとおりである。なお、ソルダボールというのは、はんだ付け後にはんだが粒状のまま残っている現象を指すのであって、はんだ付け性の良否はこのソルダボールの発生度によって判断される。」(【0012】)
(4c):「図2はインジウムによる酸化抑止効果を示す図であって、前記実施例2を適用した場合の温度と酸素濃度の関係を模式的に示した図である。図2から明らかなように、はんだ粉末の酸化量は温度が100°Cを超えると急激に増加するが、このはんだ粉末に0.5 Wt%のインジウムを添加してやると酸化量の上昇率は図示のとおり抑制される。」(【0025】)と記載され、図3に、酸素量とはんだ粒径の関係を示す図が示されている。

(5)刊行物5:第10回マイクロ接合研究委員会ソルダリング分科会資料「窒素リフロー用低残渣ソルダーペーストの諸特性」1991年2月7日、第7?9頁(特許異議申立人 西山幸代が提出した甲第4号証)
(5a):従来のはんだ粉末とOZ粉末の酸素含有量の分析結果がTable1に示されており、従来はんだの酸素含有量は平均176.8ppmである。

(6)刊行物6:「Solder Paste in Electronics Packaging」1989年、第111頁(特許異議申立人 名越千栄子の提出した甲第5号証)
(6a):酸素含有量の項に、「はんだ粉末の酸素含有量ははんだ付け特性に影響するので、はんだ粉末の製造や、貯蔵の段階で酸化量を最小にする。」旨記載されている。

(7)刊行物7:特開平3-281094号公報(特許異議申立人 名越千栄子の提出した甲第6号証)
(7a):「(1)溶融はんだの連続流れを冷却液面との接触時または接触前に分断して粒状化し、該粒体を冷却液中において冷却により凝固する粉末はんだの製造方法において、粉末はんだの1g当りの酸素量を150PPm以下とするように冷却底面上雰囲を調整することを特徴とする粉末はんだの製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(8)刊行物8:特開平8-192291号公報(特許異議申立人 名越千栄子の提出した甲第7号証)
(8a):「【請求項4】 はんだ材料が、スズと銀を基本組成とし、かつスズが主構成成分であり、銀の含有量が0.1?20重量%である合金の中に、ビスマスを0.1?20重量%、またはインジウムを0.1?20重量%、または銅を0.1?3.0重量%、または亜鉛を0.1?15重量%、またはアンチモンを0.1?20重量%のいずれか一種以上を含有するスズ-銀系はんだ材料であることを特徴とする請求項1記載のクリームはんだ。」(【特許請求の範囲】)

(9)刊行物9:特開平9-327789号公報(特許異議申立人 西山幸代の提出した甲第5号証)
(9a):「そこで最近ではSn-Ag系合金やSn-Sb系合金よりも溶融温度の低い鉛フリーはんだ合金のSn-Zn系合金が注目されるようになってきた。Sn-Zn系合金はSn-9Znの組成が共晶となり、その溶融温度は199℃であるため、Sn-Pbの共晶はんだに近い溶融温度である。しかしながら、Sn-9Zn合金は濡れ性に乏しく、またはんだ付け部の接着強度が充分でない等の問題がある。そこで、このSn-Zn系合金の濡れ性を改良するするとともに接着強度を向上させるためにBi、In、Ag、Cu、Ni等を添加した鉛フリーはんだ合金が提案されている。(参照:特開平6-344180号公報、同7-51883号公報、同7-155984号公報)」(【0011】)

(10)刊行物10:粉体工学会編「粉体工学便覧」日刊工業新聞社発行、昭和61年4月30日大阪府立中之島図書館受け入れ印、第15?33頁(特許異議申立人 西山幸代の提出した甲第6号証)
(10a):よく利用されている粉体の粒度測定法に関し、粒子の形状と大きさを直接観測する顕微鏡法では、試料の写真や顕微鏡の視野を点走査し、粒子の存在によるコントラストの差を検出して粒子径と数求める旨、細孔通過時の電圧パルスから粒度分布を求めるエレクトロゾーン法(コールターカウンタ)、或いは、媒質中を沈降する粒子の大きさと沈降速度の関係から粒子径を測定する沈降法等について記載されている。

3-4.判断

(1)本件訂正発明1について
刊行物3には、「はんだ粉末を有するはんだペーストにおいて、はんだ粉末のほとんどを径が5μより大きい粉末粒子にて構成したことを特徴とするはんだペースト組成物」(3a)に係る発明(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されている。

そこで、本件訂正発明1と、刊行物3発明とを対比する。
本件訂正発明1は、「保存安定性に優れ、リフロー時およびリフロー後の特性に優れたはんだ粉末」(本件特許明細書【0001】)に関するものであって、「最近、産業界の電子製品の小型化によるファインピッチ化の要望に応えるため、はんだ粒子の平均粒子径を下げることがなされているが、反面はんだ粒子全体の比表面積が増大するため、はんだ粒子とフラックスとの反応が促進され、はんだ粒子の酸化が進行して、はんだペーストの保存安定性が一層悪化する」(同【0004】、【0005】)という問題に対して、「保存安定性、リフロー特性、はんだ付け性、接合すべき金属との濡れ性あるいは印刷性などの特性に優れ、またリフロー時には、はんだボールの発生が少ないはんだフラックス、はんだペースト、及びこれに用いられるはんだ粉末を提供することを目的とする」(同【0010】)ものであるところ、「はんだ粉末の表面には微粒子のはんだ粉末が静電気などにより付着していることが多く、JISのふるい分け方法では、はんだ粉末に付着する微粒子が十分に分離できず、測定されるはんだ微粒子の量は実際にはんだ粉末に含まれる微粒子の量より少なくなってしまう。例えばJISによる粒度分布測定の、ふるい分け後のはんだ粉末を顕微鏡観察してみると、大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着しているのが観察され、はんだ粉末中の、これらの微粒子の存在量が増加すると、はんだ粉末が酸化しやすくなり、はんだペーストの保存安定性、リフロー特性が低下する」(同【0015】)ことから、「はんだ粉末の粒度分布測定に、JISに規定されている方法に加えて、はんだ粉末に含まれる微粒子成分の個数分布を用いることにより特性の優れたはんだ粉末が得られる」(同【0016】)ことを見出し、上記本件訂正発明1記載の構成としたものである。
一方、刊行物3発明において、ハンダ粉末の粒径の殆どを径が5μ(m)より大きい粉末粒子にて構成した理由は、その発明の詳細な説明の項に記載されるとおり、「プリント配線板に塗布されてからそのはんだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた点を改善する」(3b)という課題に対し、「粒子径の小さいはんだ粉末程その全粒子の表面積の和が大きくなるので空気と接触する部分が多くなる結果、酸化が起こり易い」(3c)という技術上の常識に基づき、「5μ以下のはんだ粉末を除去」(3c)するためであることが記載されている。そして、「はんだ粉末の粒子径が大きいほどその酸化は起こりにくくなるので耐酸化性という点では好ましいが大きすぎると、ペースト塗布性等の他のはんだ特性が悪くなるので、はんだ粉末の粒子径は最大150μが適当」(3c)と述べられている。
また、「粒子径が20μより大きいSn系はんだ合金粉末を用いたペーストと、粒子径が5μ以下のはんだ合金粉末をはんだ合金粉末全体の5重量%加えた比較ペーストの、室温での種々の時間放置した後の酸化の程度を比較した」(3d)例が示されており、この結果を示す第1図,第2図によれば、「5μ以下の微粒子を含まない前者の方が優れた耐酸化性を示し、安定性に優れること」が知見されている。
したがって、両者は、酸化して保存性に悪影響を及ぼす細かいはんだ粒子を除いたはんだ粉末である点で共通している。
しかしながら、刊行物3発明においては、本件訂正発明1の構成のうち、
イ.「他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μ以下が、個数分布で30%以下であり」、
ロ.「はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり」、
ハ.「SnおよびZn、又は、SnおよびAgの元素を含有する」、
という各点が明記されていない点で相違する。
以下、上記相違点イ?ハについて検討する。
・相違点イについて、
はんだ粒子の粒度分布状態を、はんだ粒径と個数で表すことは、例えば、刊行物1に示されるように一般的に採用されている表現法である。
本件明細書の記載によれば、JISによる粒度分布測定の、ふるい分け後のはんだ粉末を顕微鏡観察してみると、大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着しているのが観察され、はんだ粉末中の、これらの微粒子の存在量が増加すると、はんだ粉末が酸化しやすくなる(【0015】)から、本件訂正発明1では、はんだ表面に付着したこのような微粒子に着目し、はんだ粉末の粒度分布測定にJISに規定されている方法に加えて、はんだ粉末に含まれる微粒子成分の個数分布を規定(【0016】)し、本件明細書の【0017】?【0020】に記載される手法により、はんだ粒子の表面に付着しているような微細なはんだ粒子をも除去している。
しかしながら、本件訂正発明1において、はんだ粉末に付着した微粒子成分が分離されやすく、はんだ粉末の微粒子含有量の測定に好ましい手法であるとされるコールターカウンタ法も、顕微鏡法や沈降法と並んで周知の粒度測定法の1つであること(刊行物10参照)、及び、はんだ粒子を顕微鏡を用いて観察した結果、はんだ粒子表面に微粒子が付着していることも、刊行物2に示されるように、当業者に既に知られた事項であることを考慮すると、「はんだ粒子中の細かい微粒はんだは好ましくなく、除去すべきである」という上記刊行物3に開示された技術的教示にしたがえば、当業者は、はんだ粉末全体の酸化抑制を図るという目的から、個々の分離した微粒子だけでなく、大きなはんだ粒子表面に付着した微粒子についても着目して、これを除く必要性を認識するものと考えられる。
そして、その除去すべき粒径や割合の程度として、刊行物3では、粒径5μ以下の粒子を含有するのは好ましくなく(比較例)、粒径20μ?150μ程度のものが好ましいとして例示している(3c,3d)のであり、同様に、刊行物1では、「30μm未満の粒径のハンダ粒子を含み、かつ、前記ハンダ粒子の粒径の下限が1μm以上であること」(1a)を規定しているのである。
したがって、所望する保存安定性、すなわち、はんだ粉末に求める酸化抑制の程度に応じて、混入を許容しうるはんだ微粉末の最大粒径とその割合を設定することは、当業者が適宜決定し得る事項であるから、例えば、本件訂正発明1のように粒径の数値や微粉混入比率を、粒径20μ以下のはんだ粒子を個数分布で30%以下と規定することは、当業者が格別の創意工夫や困難性を要することなく、適宜に決定し得るものと認められる。
したがって、この相違点イは、当業者が刊行物3の技術的教示及び周知の技術水準に基づいて容易に規定し得る事項にすぎない。

・相違点ロについて、
刊行物4には、はんだ粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低下するので、はんだの酸化を防止する必要があること、実例として酸化が抑制されたはんだ中の酸素量は100ppmであることが、刊行物5には、従来はんだの酸素含有量は平均176.8ppmであることが、刊行物6には、はんだ粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低下するので、はんだの酸化を防止する必要があることが、そして、刊行物7には、粉末はんだの1g当りの酸素量を150PPm以下とする粉末はんだの製造法が記載されている。
このように、はんだ粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低下するので、はんだの酸化を防止する必要があること、そして、はんだ粉末中の酸素含有量は一般的に100ppmレベル程度に低減されているのであるから、本件訂正発明1のように、はんだ粉末中の酸素原子含有量を500ppm以下に規定することは当業者が適宜になしうることである。

・相違点ハについて
本件明細書には、【0012】及び【0013】に本件の種々のはんだ粉末材が示され、そのうちSn-Ag系、Sn-Zn系のはんだ合金材(【0014】)が好ましい例としてあげられるている。
しかして、刊行物8及び刊行物9に例示されるように、Sn-Ag(-Zn)系、或いは、Sn-Zn系のはんだ合金材は公知の材料である。
そして、刊行物3記載の「はんだ酸化防止のために微粉末を除去する」という上記の考え方は、一般はんだ材に共通していえることであるから、この技術的教示を、本件訂正発明1のようにSn-Ag系、或いは、Sn-Zn系合金組成のはんだ材に適用することに格別の困難性はないし、また、この適用を阻害する格別の要因も存しない。
よって、この相違点ハは容易に定めうることである。

また、本件訂正発明1の作用効果は、刊行物1及び3の教示にしたがえば、当然に予期しうる程度のものである。

したがって、本件訂正発明1は、刊行物1?刊行物10に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、はんだ粉末が「SnおよびZnの元素を含有する」ことを特定したものであるが、本件訂正発明1記載のはんだ粉末もSnおよびZnの元素を含有する態様を含んでいるから、両者は重複している。
したがって、本件訂正発明1に記載される発明と同様、本件訂正発明2は、刊行物1?刊行物10に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.特許権者の特許異議意見書における主張について

特許権者は、特許異議意見書において、刊行物1に記載の発明は、「積極的に『30μm未満のハンダ粒子を含む事を特徴としている』もの」であるのに対し、本件訂正発明1は、「JISによる粒度分布測定の、ふるい分け後のハンダ粉末を顕微鏡観察してみると、大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着しているのが観察される。はんだ粉末中の、これらの微粒子の存在量が増加すると、はんだ粉末が酸化しやすくなり、はんだペーストの保存安定性、リフロー特性が低下する」(特許明細書の段落【0015】)ことに着目し、極力このような微粒子、具体的には粒径20μm以下のはんだ粒子を減らそうとするものであるから、両者は技術的思想が全く相反している旨主張している。
しかしながら、特許権者も認めるように、刊行物1の図1及び図6には、実施例として、1μm未満のハンダ微粒子を含まず、20μm以下の粒子の個数が30%未満のハンダ粉末が記載されているうえ、刊行物1発明においても、所定粒径以下のハンダ粒子では、表面の酸化が進んで好ましくないことが認識されているのであるから、ハンダ粉末の酸化を抑制することを課題として、刊行物1の図1ないしは図6に開示された実施例における粒度分布を参照することは、当業者であれば容易になし得ることであり、両者は技術的思想が全く相反するとの特許権者の主張は採用できない。
また、刊行物3に関して、特許権者は、「はんだ粉末の粒径に着目し、粒径の小さいはんだ粒子の量を少なくすることにより、はんだ粉末の酸化を抑制する構成を採用している点で、本件訂正発明1と刊行物3に記載の発明とは技術的思想が共通しているように見受けられる」としつつも、本件訂正発明1が、「はんだ粒子の表面に付着しているはんだ微粒子がはんだ粉末の酸化性に多大な影響を与えていることに着目した物であるのに対し、刊行物3に記載の発明では、このような点に何ら着目しておらず、はんだ粒子の表面に付着したはんだ微粒子の存在や、はんだ粉末の粒径の評価方法について記載が全くない以上、刊行物3に記載の発明では、ハンダ粒子の表面に付着したはんだ微粒子の多くが残っているものと解され、その量によっては、はんだ粉末の表面積が著しく大きくなり、はんだ粉末が酸化されやすくなるため、本件訂正発明1の効果は得られない旨主張している。
しかしながら、刊行物3は、その(3b)乃至(3d)に記載されるように、はんだ粉末から、その粒子径の小さいものを除去してはんだ粉末全体の酸化を抑制するものであり、実際に酸化抑制を達成しているのであるから、特許権者の上記主張は根拠がなく、採用することのできないものである。

5.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び2は、上記刊行物1?10に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正発明1及び2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正発明1及び2についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
はんだ粉末、フラックス、はんだペースト、はんだ付け方法、はんだ付けした回路板、及びはんだ付けした接合物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であり、はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり、はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とするはんだ粉末。
【請求項2】はんだ粉末が、SnおよびZnの元素を含有する請求項1に記載のはんだ粉末。
【請求項3】フラックス成分として、有機酸エステルとエステル分解触媒とからなる有機酸成分、及び有機ハロゲン化合物を含むことを特徴とするはんだペースト用フラックス。
【請求項4】エステル分解触媒が、有機塩基ハロゲン化水素酸塩である請求項3に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項5】有機ハロゲン化合物が、炭素数10以上のアルキル鎖を持った置換基を有するベンジル化合物の臭素化物、または炭素数10以上の脂肪酸または脂環式化合物の一分子中に4個以上の臭素を含むポリ臭素化合物の少なくとも1種を含む請求項3または4に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項6】フェノール系化合物、りん系化合物、硫黄系化合物、トコフェロールとその誘導体及びL-アスコルビン酸とその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種の還元剤をさらに含む請求項3?5のいずれか1項に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項7】還元剤として、トコフェロールまたはその誘導体の少なくとも1種とL-アスコルビン酸またはその誘導体の少なくとも1種とを併用した請求項6に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項8】フラックス全量に対し、0.01?20wt%の有機酸成分、0.02?20wt%の有機ハロゲン化合物、0.05?20wt%の還元剤を含む請求項6または7に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項9】請求項3?8のいずれか1項に記載のフラックス成分の他にpH調整剤を含み、このフラックス4gをトルエン50ml、イソプロピルアルコール49.5ml、水0.5mlからなる混合溶液に溶解し、pH計で測定したpH値が4?9の範囲である、はんだペースト用フラックス。
【請求項10】フラックス全量に対し、0.05?20wt%のpH調整剤を含む請求項9に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項11】pH調整剤として、アルカノールアミン類、脂肪族第1?第3級アミン類、脂肪族不飽和アミン類、脂環式アミン類及び芳香族アミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種のアミンを含む請求項9または10に記載のはんだペースト用フラックス。
【請求項12】他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であるはんだ粉末と請求項3に記載のはんだペースト用フラックスとからなるはんだペースト。
【請求項13】水分含有量が0.5wt%以下である請求項12に記載のはんだペースト。
【請求項14】請求項9に記載した方法で測定したpH値が4?9の範囲である請求項12に記載のはんだペースト。
【請求項15】はんだペースト全量に対し、はんだ粉末が86?92wt%、はんだペースト用フラックスが14?8wt%を含む請求項12?14のいずれか1項に記載のはんだペースト。
【請求項16】請求項12?15のいずれか1項に記載のはんだペーストを、回路板上に塗布する工程と、該はんだペーストをリフローする工程を含むことを特徴とする回路板のはんだ付け方法。
【請求項17】請求項16記載のはんだ付け方法において、回路板への電子部品の載置工程を含み、リフローしたはんだの一部または全部を電子部品の接合に用いることを特徴とする回路板のはんだ付け方法。
【請求項18】請求項17に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した回路板。
【請求項19】請求項17に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した接合物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は保存安定性に優れ、リフロー時およびリフロー後の特性に優れたはんだ粉末、フラックス及びはんだペースト、並びに、該はんだペーストを用いたはんだ付け方法、はんだ付けした回路板及び電子部品接合物に関する。なお、本出願は、特許出願平成10年第161854号、特許出願平成10年第336898号、特許出願平成第11年26472号、特許出願平成第11年88935号を基礎としており、その内容をここに組み込むものとする。
【0002】
【従来の技術】
はんだペーストは、エレクトロニクス産業において電子部品を表面実装するために用いられる。はんだペーストはその印刷適性、粘着性のため自動化に適しており、近年その使用量が増大している。
【0003】
エレクトロニクス産業においては、はんだペーストはプリント基板上にスクリーン印刷またはディスペンサーにより塗布され、電子部品が載置され、ついでリフローして電子部品が固定化される。ここでリフローとは電子部品が載置された基板を予熱しその後はんだペーストを融解温度以上に加熱し部品の接合を行う一連の操作を言う。
【0004】
一方、最近では電子製品の小型化のためファインピッチ化が要求され、ファインピッチの部品、例えば0.3mmピッチのQFP(Quad Flat Package)タイプのLSIの使用や、さらにはCSP(Chip Size Package)などが多く用いられている。このため、はんだペーストには、ファインピッチ対応の印刷性能が要求されている。このような産業界の要望に応えるため、はんだ粒子の平均粒子径を下げることがなされているが、一方はんだ粒子全体の比表面積が増大するため、はんだ粒子とフラックスとの反応が促進され、はんだペーストの保存安定性が一層悪化するという問題点があった。
【0005】
はんだペーストの保存安定性低下の最大の原因は、保存中にはんだ粉末がフラックスと優先的に反応し、はんだ粒子の酸化が進行してフラックス中の活性剤が消費され、フラックスの活性度が低下すると同時に、反応生成物によりはんだペーストの粘度が増加してしまうためである。このため、はんだペーストの使用において、適正な印刷特性が維持出来なくなる上に、リフロー時に溶解しなくなるという問題が生ずる。
【0006】
従来よりはんだペーストの保存安定性を向上させるために、はんだ粒子の表面を保護し、粒子金属の反応性を下げる努力がなされてきた。例えば、はんだ粉末をグリセリンで被覆する方法(特公平5-26598号公報)、はんだ粉末をはんだペーストの溶剤に対し不溶性あるいは難溶性のコーティング剤によりコートする方法(特開平1-113197号公報)が開示されている。後者のコーティング剤の好適な例としてはシリコーンオイル、シリコーンベース高分子量化合物、フッ素化シリコーンオイル、フルオロシリコーン樹脂およびフッ素化炭化水素ベース高分子化合物などが挙げられている。またはんだ粉末を、常温ではフラックスと不相溶であるが、はんだ付け温度で相溶するロジンを主体とする樹脂でコートする方法(特開平3-184698号公報、特開平4-251691号公報)が開示されている。
【0007】
前述の方法では、比較的多量のコーティング剤で被覆を行えばはんだ粉末の酸化を抑えるには有効であるが、多量の被覆材料ははんだペーストのリフローに対しむしろ不都合であって、逆にはんだボールが多発するおそれがある。またこれらの被覆は物理的に行われているだけで、付着は非常に弱いと考えられ、はんだペーストを製造する際の混練あるいは使用時の移送、印刷等の取扱ではがれてしまう恐れが強い。また、前述のロジンを主体とする樹脂のコーティング剤はそれ自身に反応性の有機酸を多く含み粉末を保護しているとは言い難い。
【0008】
その他、はんだペースト用活性剤として、酸性リン酸エステルと、該酸性リン酸エステルと相溶性を有し、不燃性または難燃性の低揮発性希釈剤を用いる方法(特開昭63-90390号公報)、フェノール系、フォスファイト系または硫黄系の抗酸化剤を添加する方法(特公昭59-22632号公報、特開平3-124092号公報)、また特定の界面活性剤を用いること(特開平2-147194号公報)などが提案されているが、以上の方法を用いた場合でも、はんだペーストの保存安定性は充分でない。
【0009】
また最近は環境問題から、鉛を含まないPbフリーはんだペーストが推奨されており、これに対応してPbフリーはんだペーストに移行すべく開発が進められている。この中で特に有望なものとして注目されているSn-Zn系のはんだペーストは、通常のPbベースのはんだペーストより更に保存安定性が悪く、はんだ粉末中のZnの酸化の進行やZnとフラックスとの反応により、経時的に粘度が上昇する。特にZnが常温においてフラックス中の有機ハロゲン化合物の分解物と反応し、はんだペーストの保存安定性を悪化させている。また、フラックス中のハロゲン化合物と、はんだ粉末中のZnが反応して微量の水素ガスを発生し、この発生した水素ガスが部品接合後もはんだフィレット内に内蔵されるため、信頼性に重大な影響をもたらすことがわかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、保存安定性、リフロー特性、はんだ付け性、接合すべき金属との濡れ性あるいは印刷性などの特性に優れ、またリフロー時には、はんだボールの発生が少ないはんだフラックス、はんだペースト、及びこれに用いられるはんだ粉末を提供し、更にこのはんだペーストを用いることにより、ファインピッチ化、部品の多様化等に対応できるはんだ付け方法、回路板、及び電子部品の接合物を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは上記の課題を解決するべく鋭意努力し検討した結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、
(1)他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であり、はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり、はんだ粉末が、SnおよびZn、又はSnおよびAgの元素を含有することを特徴とするはんだ粉末、
(2)はんだ粉末が、SnおよびZnの元素を含有する(1)に記載のはんだ粉末、
(3)フラックス成分として、有機酸エステルとエステル分解触媒とからなる有機酸成分、及び有機ハロゲン化合物を含むことを特徴とするはんだペースト用フラックス、
(4)エステル分解触媒が、有機塩基ハロゲン化水素酸塩である(3)に記載のはんだペースト用フラックス、
(5)有機ハロゲン化合物が、炭素数10以上のアルキル鎖を持った置換基を有するベンジル化合物の臭素化物、または炭素数10以上の脂肪酸または脂環式化合物の一分子中に4個以上の臭素を含むポリ臭素化合物の少なくとも1種を含む(3)または(4)に記載のはんだペースト用フラックス、
(6)フェノール系化合物、りん系化合物、硫黄系化合物、トコフェロールとその誘導体及びL-アスコルビン酸とその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種の還元剤をさらに含む(3)?(5)のいずれかに記載のはんだペースト用フラックス、
(7)還元剤として、トコフェロールまたはその誘導体の少なくとも1種とL-アスコルビン酸またはその誘導体の少なくとも1種とを併用した(6)に記載のはんだペースト用フラックス、
(8)フラックス全量に対し、0.01?20wt%の有機酸成分、0.02?20wt%の有機ハロゲン化合物、0.05?20wt%の還元剤を含む(6)または(7)に記載のはんだペースト用フラックス、
(9)(3)?(8)のいずれかに記載のフラックス成分の他にpH調整剤を含み、このフラックス4gをトルエン50ml、イソプロピルアルコール49.5ml、水0.5mlからなる混合溶液に溶解し、pH計で測定したpH値が4?9の範囲である、はんだペースト用フラックス、
(10)フラックス全量に対し、0.05?20wt%のpH調整剤を含む(9)に記載のはんだペースト用フラックス、
(11)pH調整剤として、アルカノールアミン類、脂肪族第1?第3級アミン類、脂肪族不飽和アミン類、脂環式アミン類及び芳香族アミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種のアミンを含む(9)または(10)に記載のはんだペースト用フラックス、
(12)他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み、はんだ粉末を構成するすべてのはんだ粒子のうち、粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下であるはんだ粉末と(3)に記載のはんだペースト用フラックスとからなるはんだペースト、
(13)水分含有量が0.5wt%以下である(12)に記載のはんだペースト、
(14)(9)に記載した方法で測定したpH値が4?9の範囲である(12)に記載のはんだペースト、
(15)はんだペースト全量に対し、はんだ粉末が86?92wt%、はんだペースト用フラックスが14?8wt%を含む(12)?(14)のいずれかに記載のはんだペースト、
(16)(12)?(15)のいずれかに記載のはんだペーストを、回路板上に塗布する工程と、該はんだペーストをリフローする工程を含むことを特徴とする回路板のはんだ付け方法、
(17)(16)に記載のはんだ付け方法において、回路板への電子部品の載置工程を含み、リフローしたはんだの一部または全部を電子部品の接合に用いることを特徴とする回路板のはんだ付け方法、
(18)(17)に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した回路板、
(19)(17)に記載の回路板のはんだ付け方法により製造した接合物、に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のはんだペーストに使用するはんだ粉末の金属組成としては、例えばSn-Pb系、Sn-Pb-Ag系、Sn-Pb-Bi系、Sn-Pb-Bi-Ag系、Sn-Pb-Cd系が挙げられる。また最近のPb排除の観点からPbを含まないSn-In系、Sn-Bi系、In-Ag系、In-Bi系、Sn-Zn系、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Sb系、Sn-Au系、Sn-Bi-Ag-Cu系、Sn-Ge系、Sn-Bi-Cu系、Sn-Cu-Sb-Ag系、Sn-Ag-Zn系、Sn-Cu-Ag系、Sn-Bi-Sb系、Sn-Bi-Sb-Zn系、Sn-Bi-Cu-Zn系、Sn-Ag-Sb系、Sn-Ag-Sb-Zn系、Sn-Ag-Cu-Zn系、Sn-Zn-Bi系が挙げられる。
【0013】
上記の具体例としては、Snが63wt%、Pbが37wt%の共晶はんだ(以下63Sn/37Pbと表す。)を中心として、62Sn/36Pb/2Ag、62.6Sn/37Pb/0.4Ag、60Sn/40Pb、50Sn/50Pb、30Sn/70Pb、25Sn/75Pb、10Sn/88Pb/2Ag、46Sn/8Bi/46Pb、57Sn/3Bi/40Pb、42Sn/42Pb/14Bi/2Ag、45Sn/40Pb/15Bi、50Sn/32Pb/18Cd、48Sn/52In、43Sn/57Bi、97In/3Ag、58Sn/42In、95In/5Bi、60Sn/40Bi、91Sn/9Zn、96.5Sn/3.5Ag、99.3Sn/0.7Cu、95Sn/5Sb、20Sn/80Au、90Sn/10Ag、Sn90/Bi7.5/Ag2/Cu0.5、97Sn/3Cu、99Sn/1Ge、92Sn/7.5Bi/0.5Cu、97Sn/2Cu/0.8Sb/0.2Ag、95.5Sn/3.5Ag/1Zn、95.5Sn/4Cu/0.5Ag、52Sn/45Bi/3Sb、51Sn/45Bi/3Sb/1Zn、85Sn/10Bi/5Sb、84Sn/10Bi/5Sb/1Zn、88.2Sn/10Bi/0.8Cu/1Zn、89Sn/4Ag/7Sb、88Sn/4Ag/7Sb/1Zn、98Sn/1Ag/1Sb、97Sn/1Ag/1Sb/1Zn、91.2Sn/2Ag/0.8Cu/6Zn、89Sn/8Zn/3Bi、86Sn/8Zn/6Bi、89.1Sn/2Ag/0.9Cu/8Znなどが挙げられる。また本発明のはんだ粉末として、異なる組成のはんだ粉末を2種類以上混合したものでもよい。
【0014】
上記のはんだ粉末の中でもPbフリーはんだ、特に好ましくはSnおよびZn、又はSnおよびAg元素を含有するはんだから選ばれた合金組成を用いて本発明のはんだペーストを作製した場合、Sn-Pb系のはんだと同等レベルまでリフロー温度が下げられるため、実装部品の長寿命化がはかられ、また部品の多様化にも対応できる。
【0015】
はんだ粉末の粒径としては、日本工業規格(JIS)には、ふるい分けにより63?22μm、45?22μm及び38?22μm等の規格が定められている。はんだ粉末の粒度測定には通常、JISにより定められた、標準ふるいと天秤による方法が用いられる。しかし、はんだ粉末の表面には微粒子のはんだ粉末が静電気などにより付着していることが多く、この方法では、はんだ粉末に付着する微粒子が十分に分離できず、測定されるはんだ微粒子の量は実際にはんだ粉末に含まれる微粒子の量より少なくなってしまう。例えばJISによる粒度分布測定の、ふるい分け後のはんだ粉末を顕微鏡観察してみると、大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着しているのが観察される。はんだ粉末中の、これらの微粒子の存在量が増加すると、はんだ粉末が酸化しやすくなり、はんだペーストの保存安定性、リフロー特性が低下する。
【0016】
本発明者らは、はんだ粉末の粒度分布測定に、JISに規定されている方法に加えて、はんだ粉末に含まれる微粒子成分の個数分布を用いることにより特性の優れたはんだ粉末が得られることを見出した。
【0017】
はんだ粉末の微粒子含有量の測定は、顕微鏡による画像解析や、エレクトロゾーン法によるコールターカウンターでも行うことができる。コールターカウンターについては「粉体工学便覧」(粉体工学会編、第2版p19?p20)にその原理が示されているが、粉体を分散させた溶液を隔壁にあけた細孔に通過させ、その細孔の両側で電気抵抗変化を測定することにより粉体の粒度分布を測定するもので、粉体の個数比率を再現性良く測定することが可能である。この方法をはんだ粉末の粒度分布測定に用いた場合、はんだ粉末を溶液に分散した際、はんだ粉末に付着した微粒子成分が分離されやすく、従来のふるい法による重量分布や体積分布測定では検出できなかった、はんだ粒子に付着した微粒子を定量化することができる。
【0018】
なお顕微鏡による画像解析も、コールターカウンターによる方法でも測定できる微粒子の下限界は1μm程度である。1μm以下の微粒子の混入量はいずれの方法でも測定が困難であるが、通常のアトマイズ法にて作製されるはんだ粉末には、1μm以下の微粒子は殆ど含まれず、上記によるはんだ微粒子の個数分布測定は1μm以上の粉体に限定して良い。
【0019】
本発明における個数分布の管理条件として、はんだ粉末に含まれる20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下、好ましくは20%以下にコントロールすることが好ましい。20μm以下のはんだ粒子の個数分布が、上記の範囲を超えると、単位重量あたりの表面積が大きくなり、酸化されやすくなるため、はんだペーストを作製した場合のリフロー時におけるはんだ粉末の融解性に悪影響を及ぼす。また、フラックスとの反応が進みやすくなるため、はんだペーストの保存寿命が短くなり、タック力も低下する。
【0020】
はんだ粉末中の微粒子の混入量を低減するためには、はんだ粉末の分級時の分級点を目標粒度より大きい側に設定したり、はんだ粉末の風選、ふるい分けを、はんだ粉末中の微粉の混入量が目標レベル以下になるまで繰り返したり、粉体の供給速度を遅くして微粒子が除去されやすくしたり、水以外の溶剤を用いて湿式分級したりする方法を用いることができる。
【0021】
本発明に用いるはんだ粉末は、ふるい分けによりはんだ粒径の上限を規定するふるいの目開き以下の粒度のはんだ粉末が、重量分布で90%以上、好ましくは95%とするのがよい。
【0022】
また本発明で用いられるはんだ粉末中の酸素原子含有量も低いほど良く500ppm以下、より好ましくは300ppm以下にすることにより、はんだペーストの保存安定性やリフロー特性が向上する。はんだ粉末中の酸素原子含有量を低下させるためには、はんだ粉末を作製するアトマイズ工程をはんだ粉が酸化されにくい雰囲気下としたり、作製されたはんだ粉を酸化されにくい環境下で扱うことが有効である。具体的には上記工程を、窒素ガスや不活性ガスの存在する環境下で行うことが好ましい。
【0023】
本発明のはんだペーストは、フラックスとはんだ粉末から主としてなり、水分含有量が0.5wt%以下であり、フラックスとして、樹脂、有機酸成分、還元剤、有機ハロゲン化合物、溶剤、チクソトロピック剤等を配合したものである。
【0024】
本発明のフラックス成分のうち、有機酸エステルとエステル分解触媒とからなる有機酸成分は、リフロー時に回路板の金属表面の酸化物やはんだ粉末の酸化物を除去する効果がある。しかし、酸化物等の除去能力を高めるためこれらを多量にフラックスに添加すると、保存中にはんだ粉末と反応してしまい、同時にフラックス中のもう1つの有効成分である有機ハロゲン化合物の分解を引き起こし、はんだペーストを劣化させてしまう。
【0025】
本発明者らは鋭意検討の結果、有機酸成分として保存中にはエステルの形態を保って安定であり、リフロー温度に達したときには分解して酸を発生する化合物である有機酸エステルとエステル分解触媒を組み合わせたものを含むフラックスに、還元剤と有機ハロゲン化合物を加えることにより、はんだペーストの保存安定性、リフロー特性が格段に向上することを見出した。また本発明者らは、このはんだペーストをはんだ付けに用いることにより、リフロー特性の向上から、ファインピッチの回路板や部品の多様化への対応を可能とし、上記はんだペーストを用いたはんだ付け方法、はんだ付けした回路板、及び電子部品の接合物を提供可能として本発明を完成させた。
【0026】
本発明において、リフロー温度に達した時に有機酸を発生する化合物である有機酸エステルとしては、各種脂肪族カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族スルホン酸エステル、芳香族スルホン酸エステル等が挙げられる。これらエステルのアルコール残基としては、アルキル、アリル、特にエステルの分解性が高いt-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基が好ましく、またこれらの化合物はハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0027】
具体的な例としては、パラトルエンスルホン酸-n-プロピル、パラトルエンスルホン酸イソプロピル、パラトルエンスルホン酸イソブチル、パラトルエンスルホン酸-n-ブチル、ベンゼンスルホン酸-n-プロピル、ベンゼンスルホン酸イソプロピル、ベンゼンスルホン酸イソブチル、サリチル酸-n-プロピル、サリチル酸イソプロピル、サリチル酸イソブチル、サリチル酸-n-ブチル、4-ニトロ安息香酸イソプロピル、4-ニトロ安息香酸-t-ブチル、メタクリル酸-t-ブチル、アクリル酸-t-ブチル、マロン酸-t-ブチル、ブロモ酢酸-t-ブチルなどが挙げられる。この中で特にパラトルエンスルホン酸-n-プロピル、サリチル酸イソブチル、ブロモ酢酸-t-ブチルが特に好ましい。添加量としてはフラックス全量に対して0.01?20wt%、好ましくは0.05?5wt%の範囲を使用する。
【0028】
上記の分解性の有機酸エステルは、単独ではリフロー温度においても分解性が低いため、分解を促進するためには少量のエステル分解触媒の添加が有効である。エステル分解触媒としては、分解性の有機酸エステルがリフロー温度で分解して酸の発生を促進する作用を有する触媒であればよいが、その中で特に有機塩基のハロゲン化水素酸塩が有効である。より具体的には、有機塩基のハロゲン化水素酸塩としては、例えばイソプロピルアミン臭化水素酸塩、ブチルアミン塩化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩等のハロゲン化水素酸アミン塩、1,3-ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩等が挙げられる。
【0029】
本発明のフラックス及びはんだペーストにおいては、上記の有機酸成分と共に還元剤を安定剤として併用することで、はんだペーストの保存安定性を格段に向上させることができる。上記還元剤としては、通常樹脂などの酸化防止剤として使用されており、溶剤に溶解可能なフェノール系化合物、りん系化合物、硫黄系化合物、トコフェロール及びその誘導体、L-アスコルビン酸及びその誘導体等が挙げられる。
【0030】
具体的には、フェノール系化合物としては、ハイドロキノン、カテコール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)などを挙げることができる。りん系化合物としては、トリフェニルフォスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリデシルフォスファイト等が挙げられる。また硫黄系化合物としては、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジスチアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネートなどを挙げることができる。トコフェロール及びその誘導体、L-アスコルビン酸及びその誘導体としては、還元性を有し、溶剤に対して可溶な化合物、例えばこれらのエステルであれば使用可能である。特にトコフェロールまたはその誘導体とL-アスコルビン酸またはその誘導体の2種を併用した時に好結果が得られる。配合比としては重量比で0.5:1?1:0.5、特に好ましくはほぼ1対1がよい。
【0031】
これらの還元剤は、単独であってもまたは混合して使用してもよい。還元剤の添加量は、はんだペーストの保存安定性(特にPbフリーはんだ中のZnとハロゲンの反応の防止)を充分に確保するに足る量であればよいが、一般的にはフラックス全量に対し0.005wt%以上20wt%以下であり、さらに好ましくは0.01wt%以上10wt%以下である。添加量が少なすぎると安定化効果が無く、20wt%以上添加しても高濃度添加に見合うだけの効果の向上が認められないので好ましくない。
【0032】
この還元剤の作用機構は十分に解明できていないが、おそらくは還元剤がはんだペースト中のZnの酸化を抑制すると共に、ハロゲン含有成分から遊離してくるハロゲンのアクセプターとして働くので、遊離したハロゲンがはんだ粉末、特にはんだ粉末中のZnと反応するのを効果的に防止しているためと考えられる。また、Pb含有はんだにおいても同様な効果を有すると考えられる。
【0033】
本発明のフラックス及びはんだペーストには有機ハロゲン化合物を使用する。これは、通常のはんだ用フラックスとして使用されている有機ハロゲン化合物を用いてもよいが、はんだペーストのはんだ付け性、濡れ性をさらに改良するために、はんだペースト保存中には有機ハロゲン化合物として安定に存在し、リフロー温度では、分解して活性力を発揮するハロゲン化合物を、とりわけ有機臭素化合物を用いることが好ましい。
【0034】
このような性能を有する有機臭素化合物の一例を挙げれば、炭素数10以上のアルキル鎖を持った置換基を有するベンジル化合物の臭素化物、または炭素数10以上の脂肪酸または脂環式化合物の一分子中に4個以上の臭素を含むポリ臭素化合物が挙げられ、これらを混合して使用しても良い。
【0035】
炭素数10以上のアルキル鎖を持ったベンジル臭素化合物は、アルキル鎖とベンジルハロゲナイド間の結合が化学的に安定なものなら何でも良く、臭素化合物であることが必要である。更に具体的には、例えば4-ステアロイルオキシベンジルブロマイド、4-ステアリルオキシベンジルブロマイド、4-ステアリルベンジルブロマイド、4-ブロモメチルベンジルステアレート、4-ステアロイルアミノベンジルブロマイド、2,4-ビスブロモメチルベンジルステアレート等のような化合物が挙げられる。これ以外にも4-バルミトイルオキシベンジルブロマイド、4-ミリストイルオキシベンジルブロマイド、4-ラウロイルオキシベンジルブロマイド、4-ウンデカノイルオキシベンジルブロマイド等が挙げられる。
【0036】
またポリ臭素化合物としては、化学的に安定な官能基、例えばカルボキシル基、エステル基、アルコール基、エーテル基、ケトン基などを有していても良く、4個以上の臭素が結合した化合物である。これら化合物の具体例としては、9,10,12,13,15,16-ヘキサブロモステアリン酸、9,10,12,13,15,16-ヘキサブロモステアリン酸メチルエステル、同エチルエステル、9,10,12,13-テトラブロモステアリン酸、同メチルエステル、同エチルエステル、9,10,12,13,15,16-ヘキサブロモステアリルアルコール、9,10,12,13-テトラブロモステアリルアルコール、1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクロドデカン等が挙げられる。特にヘキサブロモステアリン酸、ヘキサブロモシクロドデカンが好ましい。
【0037】
また上記以外にも、有機臭素化合物として更に例示すれば、1-ブロモ-2-ブタノール、1-ブロモ-2-プロパノール、3-ブロモ-1-プロパノール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、2,3-ジブロモ-1-プロパノール、1,4ジブロモ-2,3-ブタンジオール、2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、1-ブロモ-3-メチル-1-ブテン、1,4-ジブロモブテン、1-ブロモ-1-プロペン、2,3-ジブロモプロペン、ブロモ酢酸エチル、α-ブロモカプリル酸エチル、α-ブロモプロピオン酸エチル、β-ブロモプロピオン酸エチル、α-ブロモ-酢酸エチル、2,3-ジブロモコハク酸、2-ブロモコハク酸、2,2-ブロモアジピン酸、2,4-ジブロモアセトフェノン、1,1-ジブロモテトラクロロエタン、1,2-ジブロモ-1-フェニルエタン、1,2-ジブロモスチレン等の臭化物が挙げられるがこれらの例示に限定されるものではない。また臭素の代わりに、塩素、ヨウ素を含む有機ハロゲン化合物を用いても良い。
【0038】
有機ハロゲン化合物の添加量としては、フラックス全量に対して0.02?20wt%、好ましくは0.05?5wt%配合することが良い。
【0039】
本発明のフラックス及びはんだペーストに配合される樹脂成分としては、従来フラックスやはんだに配合される周知の樹脂を用いることができ、例えば、天然ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジンなど、合成樹脂としてはポリエステル、ポリウレタン、アクリル系樹脂その他が用いられる。
【0040】
溶剤としては、従来のフラックスやはんだペーストと同様にアルコール類、エーテル類、エステル類、又は芳香族系の溶剤が利用でき、例えばベンジルアルコール、ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジオクチルフタレート、キシレン等が一種または混合して用いられる。
【0041】
また印刷性を改善するために添加されるチクソトロピック剤としては、微細なシリカ粒子、カオリン粒子などの無機系のもの、または水添ヒマシ油、アマイド化合物などの有機系のものが使用される。
【0042】
本発明のフラックスは、フラックス全量に対し、20?60wt%の樹脂成分、0.04?20wt%のチクソトロピック剤、0.01?20wt%の有機酸成分、0.02?20wt%の有機ハロゲン化合物、0.05?20wt%の還元剤及び残部として溶剤を用いる。このフラックスを、はんだペースト全量に対し14?18wt%と、はんだ粉末86?92wt%とを混練して本発明のはんだペーストとする。混練はプラネタリーミキサー等公知の装置を用いて行われる。
【0043】
配合物の調合、混練においてフラックスなどの水分、雰囲気の湿度を調節し、はんだペースト中の水分含有量を、0.5wt%以下、より好ましくは0.3wt%以下に管理するのが好ましい。ペースト中に水分が0.5wt%より多く混入すると有機塩基ハロゲン化水素酸塩のハロゲンの解離を促進し、その解離したハロゲンがはんだ合金粉末と反応するために好ましくない。また、はんだペーストのpHも所定の範囲4?9、より好ましくは6?8の範囲にあることが、はんだ粉とフラックスとの反応を抑制する意味で好ましい。この場合、pH調整剤として、アルカノールアミン類、脂肪族第1?第3アミン類、脂肪族不飽和アミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類などのアミン化合物を用いることが好ましい。
【0044】
これらアミン化合物の具体的な化合物としては、エタノールアミン、ブチルアミン、アミノプロパノール、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンラウレルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メトキシプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、エチルヘキシルアミン、エトキシプロピルアミン、エチルヘキシルオキシプロピルアミン、ビスプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミンなどを挙げることができる。
【0045】
アミン化合物の使用量は、はんだペーストのフラックスの全量に対し、0.05?20wt%とすることが好ましい。0.05wt%未満ではpH調整剤としての効果が十分でなく、20wt%を超えると一般にpHが9を超え、アルカリ側に移行しはんだペーストが吸湿しやすくなる。
【0046】
更に回路の銅を防錆するためフラックス中に、アゾール類、例えばベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、トリルトリアゾールなどを添加しても良い。防錆剤の添加量は、フラックス全量に対して0.05?20wt%が好ましい。
【0047】
なお、本フラックスはフロー用の液状フラックスや、糸はんだのヤニにも適用できる。液状フラックスで使用する場合は溶剤にイソプロピルアルコール等を使用して40?70wt%に希釈すればよく、また糸はんだ用ヤニに使用する場合、溶剤を使用せずに溶剤以外の材料をロジンの軟化点以上で調合し、常温で固化し糸はんだとすればよい。
【0048】
本発明のフラックスおよびはんだペーストは、基板、例えば、プリント配線板と電子部品を接合して接合物を製造する際に好適に使用される。本発明のフラックス及びはんだペーストの使用方法、並びに電子部品接合物の製造方法では、例えば、はんだ付けを所望する部分に、印刷法等ではんだペーストを塗布し、電子部品を載置し、その後加熱してはんだ粒子を溶融し凝固させることにより電子部品を基板に接合することができる。
【0049】
基板と電子部品の接合方法(実装方法)としては、例えば表面実装技術(SMT)があげられる。この実装方法は、まずはんだペーストを印刷法により基板、例えば配線板上の所望する箇所に塗布する。次いで、チップ部品やQFPなどの電子部品をはんだペースト上に載置し、リフロー熱源により一括してはんだ付けする。リフロー熱源には、熱風炉、赤外線炉、蒸気凝縮はんだ付け装置、光ビームはんだ付け装置等を使用することができる。
【0050】
本発明のリフローのプロセスははんだ合金組成で異なるが、91Sn/9Zn、89Sn/8Zn/3Bi、86Sn/8Zn/6BiなどのSn-Zn系の場合、プレヒートとリフローの2段工程で行うのが好ましく、それぞれの条件は、プレヒートが温度130?180℃、好ましくは、130?150℃、プレヒート時間が60?120秒、好ましくは、60?90秒、リフローは温度が210?230℃、好ましくは、210?220℃、リフロー時間が30?60秒、好ましくは、30?40秒である。なお他の合金系におけるリフロー温度は、用いる合金の融点に対し+20?+50℃、好ましくは、合金の融点に対し+20?+30℃とし、他のプレヒート温度、プレヒート時間、リフロー時間は上記と同様の範囲であればよい。
【0051】
本発明のはんだペーストでは上記のリフロープロセスを窒素中でも大気中でも実施することが可能である。窒素リフローの場合は酸素濃度を5vol%以下、好ましくは0.5vol%以下とすることで大気リフローの場合より配線板などの基板へのはんだの濡れ性が向上し、はんだボールの発生も少なくなり安定した処理ができる。
【0052】
この後、基板を冷却し表面実装が完了する。この実装方法による電子部品接合物の製造方法においては、プリント配線板等の基板(被接合板)の両面に接合を行ってもよい。なお、本発明のはんだペーストを使用することができる電子部品としては、例えば、LSI、抵抗器、コンデンサ、トランス、インダクタンス、フィルタ、発振子・振動子等があげられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
また本発明は、あらかじめ基板の所定の表面、例えばプリント基板の回路金属の所定の表面にのみ化学反応により粘着性皮膜を形成し、これにはんだ粉末を付着させた後フラックスを塗布し、はんだの溶融温度まで加熱してリフローさせ、はんだバンプを形成した回路基板(特開平7-7244号公報)上に、本発明のはんだペーストを用いてSMT(表面実装技術)で実装した場合、より優れたはんだ付け性を有する。
【0054】
本発明のフラックス及びそれを用いるはんだペーストにより、従来のものに比べ、リフロー特性、はんだ付け性、接合すべき金属との濡れ性、あるいは印刷性などの特性に優れ、リフロー時のはんだボールの発生が少なく、またPbを含まないはんだ合金にも適用が可能となった。本発明により廃棄物による環境汚染が少ないPbを含まないはんだ合金による電子部品の接合のファインピッチ化、例えば実装配線板のファインピッチ化、部品の多様化に対応でき、またこれにより部品寿命の優れた配線板を提供することができる。
【0055】
【実施例】
以下実施例をもって発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
試験法
(1)はんだ粉末の微粒子の個数分布
コールター(株)製コールターカウンター(マルチサイザーII型)を用いた。はんだ粉末1gを1%のNaCl電解質溶液100mlに分散させて検出器にセットし、検出管の細孔径を400μmとして、1μm以上の粉体について粒度分布を測定した。
(2)酸素濃度
レコー社の酸素分析計(赤外線吸収法)で測定した。
【0057】
(3)水分
はんだペーストを水分気化装置(京都電子工業(株)製:ADP-351)に入れ、150℃に加熱して気化させ、キャリアガスとして窒素を用い、カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製:MKC-210)に導き、気体中の水分を測定した。
【0058】
(4)pH値
トルエン50ml、イソプロピルアルコール49.5ml、水0.5mlからなる混合溶液に、フラックスを4g溶解してpH計で測定した。はんだペーストの場合は、フラックス4gに相当するはんだペーストをはかり取り同様に測定した。
【0059】
(5)はんだペーストの保存安定性
はんだペースト製造後、25℃で7日間保存する加速試験を行い、有機ハロゲン化合物の分解率と水素発生量を測定した。本加速試験の条件は大略5℃で3ヶ月間の冷蔵保管に相当する。有機ハロゲン化合物の分解率は、はんだペースト1gにクロロホルム5mlを加えて攪拌し、フラックス分を溶解した後。純水10mlを加えてハロゲンイオンを水に抽出し、イオンクロマトグラフで測定した。また水素発生量は、はんだペースト50gを100mlの試験管に入れ、シリコンゴム製栓で密閉した状態で25℃で7日間保存した後、ゴム栓を通して気体を採取してガスクロマトグラフにより気体中の水素濃度を測定した。
【0060】
(6)ポイドの観察(はんだ付け性)
60mm平方の銅板に厚さ150ミクロンのメタルマスクを用いて、直径6mm×6個のパターンを印刷後、大気雰囲気下でリフローし、次いでカッタではんだと共に銅板を切断した後、該はんだ部分を顕微鏡により観察し、ボイドの発生状況を観察した。6個のパターンについて大きさが10μm以上のボイドを計測し、1個のパターン当たりの平均個数が2個以上であった場合を不合格とした。
【0061】
(7)印刷性
JIS Z-3284の付属書5のM3(パターン形状:孔幅0.25mm、長さ2.0mm、ピッチ0.50mm)によって測定した。印刷性の評価は実体顕微鏡で観察し、1パッドでもかすれやパッド切れが生じた場合を不合格とした。
【0062】
(8)タック力
マルコム式タック力試験機を用いて測定した。メタルマスクを用いて、ガラス板上にはんだペーストを印刷し、直径6.5mm、厚さ0.2mmの円状のパターンを5個形成した。このパターンを25℃、湿度50%の条件下で3時間放置後、測定プローブを1個のパターンに合わせて2mm/sの速度で50gまで加圧し、加圧後0.2秒以内に10mm/sの速度で引き上げ、引きはがすのに必要な荷重を測定した。この方法で5回測定した荷重が平均で100g以上の場合を合格とした。
【0063】
(9)はんだボール
JIS Z-3284により測定を行った。アルミナ試験板にメタルマスクを用いて、はんだペーストを印刷し、直径6.5mm、厚さ0.2mmの円状のパターンを4個形成した。この試験板を150℃で1分間乾燥後、235℃に加熱してはんだを溶解し、溶解後5秒以内に基板を水平にして取り出した。基板上のはんだが固まるまで、水平に放置し、その後20倍の拡大鏡ではんだの外観を、50倍の拡大鏡で周囲のはんだ粒子の発生状況を調べた。はんだボールの発生状況がJISの判定基準で3以下を不合格とした。
【0064】
(10)濡れ広がり性
JIS Z-3284により測定を行った。銅と黄銅の試験板にメタルマスクを用いて、はんだペーストを印刷し、直径6.5mm、厚さ0.2mmの円状のパターンを4個形成した。この試験板を150℃で1分間乾燥後、235℃に加熱してはんだを溶解し、溶解後5秒以内に基板を水平にして取り出した。基板上のはんだが固まるまで、水平に放置し、その後濡れ広がりの度合いを調べた。濡れ広がりがJISの判定基準で3以下を不合格とした。
【0065】
実施例1?17、比較例1?4
(フラックス及びはんだペーストの製造)
樹脂成分として重合ロジン17.5wt%、不均化ロジン27.5wt%、チクソトロピック剤として水添ヒマシ油6wt%、有機酸エステルとして酢酸-t-ブチル、マロン酸-t-ブチル、安息香酸-i-ブチル、パラトルエンスルホン酸-n-プロピル、サリチル酸-i-ブチル、ラウリル酸-i-ブチルまたはブロム酢酸-t-ブチルを0.5wt%、エステル分解触媒としてシクロヘキシルアミン臭化水素酸塩または1,3-ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩を0.08wt%と有機ハロゲン化合物としてヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモステアリン酸、テトラブロモステアリン酸、2,2-ジブロモアジピン酸、ブロモ酢酸-t-ブチルまたは2,3-ジブロモコハク酸を3.5wt%を、また還元剤としてハイドロキノン、トリフェニルフォスファイト、トコフェロール、L-アスコルビル-2,6-ジパルミチン酸、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリル-3,3’-チオチオジプロピオネート、またはトコフェロールとL-アスコルビル-2,6-ジパルミチン酸の1:1(重量比)の混合物1.0wt%を、更にpH調整剤としてトリエチルアミン2wt%、防錆剤としてトリルトリアゾールを1wt%加え、溶剤としてプロピレングリコールモノフェニルエーテルを加えて100wt%とするフラックスを調製した。このフラックス11wt%に20?45μmの粒度分布をもち、表2に示す個数分布を有する89Sn/8Zn/3BiのPbフリーはんだ粉末(粒径45μm以下の粒子含有量97wt%)89wt%を添加し、プラネタリーミルで混練し3kgのはんだペーストを製造した。配合成分を表1に、使用したはんだ粉末の個数分布、はんだ粉末中の酸素含有量、はんだペーストの水分、フラックスのpHの測定値を表2に示す。
【0066】
(電子部品接合物の製造)
実装方法としてSMTを用いた。実施例1?17、比較例1?4の組成のはんだペーストをそれぞれ1枚の回路板に印刷し、LSI、チップ抵抗、チップコンデンサーをはんだペースト上に載置した後、リフロー熱源により加熱してはんだ付けした。リフロー熱源には熱風炉を用いた。リフロー条件は、プレヒートが温度130℃、プレヒート時間が80秒、リフローはピーク温度が220℃、200℃以上のリフロー時間を50秒とした。作製したプリント配線板および用いたはんだペーストについて前述した測定方法により特性を比較した。測定結果を表3に示す。
【0067】
実施例1?17において、有機ハロゲン化合物の配合量をフラックス全量の3.5wt%に固定しておき、還元剤の配合量を1.0wt%にしたところ、水素発生を3%以下に抑制でき、またボイドの発生を更に大幅に防止できた。更に、同様に91Sn/9Zn、86Sn/8Zn/6BiのPbフリーはんだ粉末を使用して同様の実験を行ったが、全く同様の結果が得られた。また実施例1?17のリフロー後のはんだ合金の組織と従来のSn-Pb系はんだペーストのはんだ合金組織とを比較したところ、Sn-Pb系の場合、高温環境下での結晶の粗大化が著しいのに対し、本発明のSn-Zn系合金では粗大化の傾向が小さく、これによりはんだの機械的物性が向上しこれを用いた実装配線板の寿命特性の向上が確認された。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【発明の効果】
本発明のはんだ粉末とフラックスを用いたはんだペーストにより、はんだ粉末とフラックスの反応が大幅に抑制され、極めて優れた保存安定性が得られた。特に本発明は、従来より保存安定性が悪いとされたPbフリーはんだペーストにおいても、保存安定性を格段に向上させ、その有効性が確認できた。また本発明のはんだペーストの開発により、実装配線板のファインピッチ化、部品の多様化に対応した回路板のはんだ付け方法、はんだ付けした回路板、電子部品の接合方法及び接合物を提供することが可能となった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-09 
出願番号 特願2000-553246(P2000-553246)
審決分類 P 1 652・ 121- ZA (B23K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 高木 康晴
酒井 美知子
登録日 2002-12-27 
登録番号 特許第3385272号(P3385272)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 はんだ粉末、フラックス、はんだペースト、はんだ付け方法、はんだ付けした回路板、及びはんだ付けした接合物  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 渡邊 隆  

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