• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1149172
審判番号 不服2004-16042  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-03 
確定日 2006-10-24 
事件の表示 平成 6年特許願第 32071号「殺菌活性化合物の組み合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 9月 6日出願公開、特開平 6-247810〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成6年2月4日(パリ条約による優先権主張1993年2月12日、ドイツ(DE))の出願であって、拒絶理由通知に対し平成15年9月25日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成16年5月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年8月3日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成16年8月3日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年8月3日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.手続補正の内容
平成16年8月3日付けの手続補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定によりされた補正であり、平成15年9月25日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?23における
(補正前)「【請求項1】 式(I)
【化1】


式中、R1はi-プロピルまたはs-ブチルを表し、そして
R2は塩素、メチル、エチルまたはメトキシを表す、
のバリンアミド誘導体および
(A)ジクロフルアニドおよび/または
(B)トリフルアニドおよび/または
(C)テトラクロロ-イソフタロ-ニトリルおよび/または
(D)プロピネブおよび/または
(E)テトラメチル-チウラム-ジサルファイドおよび/または
(F)マンコゼブおよび/または
(G)ジレンおよび/または
(H)オキシ塩化銅および/または
(I)キャプタンおよび/または
(K)モルホリン誘導体および/または
(L)ジチアノンおよび/または
(M)ファルタンおよび/または
(N)シモキサニルおよび/または
(O)プロパモカーブまたはその塩酸塩および/または
(P)フォセチルまたはそのアルミニウム付加物および/または
(Q)メタラクシルおよび/または
(R)オキサジキシルおよび/または
(S)フラジナムおよび/または
(T)メトキシアクリレート、例えば、メチル(E)-2-{3-[6-(2-シアノフェノキシ)ピリミジン-4-イルオキシ]フェニル}-3-メトキシアクリレートおよび/または
(U)メトキシイミノアセテート、例えば、メチル(E)-メトキシイミノ[α-(o-トリルオキシ)-o-トリル]アセテートおよび/または
(V)フララキシル・・・および/または
(W)トリアジメノール、ビテルタノール、トリアジメフォン、テブコナゾールのアゾールおよび/または
(X)エトリジアゾール・・・および/または
(Y)ペンシクロン・・・の活性化合物の組み合わせからなることを特徴とする殺菌剤組成物。
【請求項2】 請求項1の活性化合物の組み合わせを菌・かび類および/またはそれらの環境に作用させることを特徴とする菌・かび類を防除する方法。
【請求項3】 式(Ib)
【化19】




のバリンアミド誘導体および(A)ジクロフルアニドの活性化合物の組み合わせからなることを特徴とする殺菌剤組成物。
【請求項4】 式(Ib)(化学式省略、以下同様)のバリンアミド誘導体および(B)ジクロフルアニドの活性化合物の組み合わせからなることを特徴とする殺菌剤組成物。
【請求項5】 式(Ib)のバリンアミド誘導体および(C)テトラクロロ-イソフタロ-ニトリル・・・殺菌剤組成物。
【請求項6】式(Ib)・・・および(D)プロピネプ・・・殺菌剤組成物。
【請求項7】式(Ib)・・・および(E)テトラメチル-チウラム-ジサルファイド・・・殺菌剤組成物。
【請求項8】式(Ib)・・・および(F)マンコゼブ・・・殺菌剤組成物。
【請求項9】式(Ib)・・・および(H)オキシ塩化銅・・・殺菌剤組成物。
【請求項10】式(Ib)・・・および(I)キャプタン・・・殺菌剤組成物。
【請求項11】式(Ib)・・・および(L)ジチアノン・・・殺菌剤組成物。
【請求項12】式(Ib)・・・および(M)ファルタン・・・殺菌剤組成物。
【請求項13】式(Ib)・・・および(N)シモキサニル・・・殺菌剤組成物。
【請求項14】式(Ib)・・・および(P)フォセチルまたはそのアルミニウム付加物・・・殺菌剤組成物。
【請求項15】式(Ib)・・・および(Q)メタラクシル・・・殺菌剤組成物。
【請求項16】式(Ib)・・・および(S)・・・フラジナム・・・殺菌剤組成物。
【請求項17】式(Ib)・・・および(T)メチル(E)-2-{3-[6-(2-シアノフェノキシ)ピリミジン-4-イルオキシ]フェニル}-3-メトキシアクリレート・・・殺菌剤組成物。
【請求項18】式(Ib)・・・および(U)メチル(E)-メトキシイミノ[α-(o-トリルオキシ)-o-トリル]アセテート・・・殺菌剤組成物。
【請求項19】式(Ib)・・・および(WI)トリアジメノール・・・殺菌剤組成物。
【請求項20】式(Ib)・・・および(WII)ビテルタノール・・・殺菌剤組成物。
【請求項21】式(Ib)・・・および(WIII)トリアジメフォン・・・殺菌剤組成物。
【請求項22】式(Ib)・・・および(WIV)テブコナゾール・・・殺菌剤組成物。
【請求項23】式(Ib)・・・および(Y)ペンシクロン・・・殺菌剤組成物。」(ただし、請求項1?23に記載の化学式中、式(I)及び(Ib)以外の化学式は全て省略)を、

(補正後)「【請求項1】 式(I)

【化1】



式中、R1はi-プロピルまたはs-ブチルを表し、そして
R2は塩素、メチル、エチルまたはメトキシを表す、
のバリンアミド誘導体および
(A)ジクロフルアニドまたは
(B)トリフルアニドまたは
(C)テトラクロロ-イソフタロ-ニトリルまたは
(D)プロピネブまたは
(E)テトラメチル-チウラム-ジサルファイドまたは
(F)マンコゼブまたは
(G)ジレンまたは
(H)オキシ塩化銅または
(I)キャプタンまたは
(K)モルホリン誘導体または
(L)ジチアノンまたは
(M)ファルタンまたは
(N)シモキサニルの活性化合物の組み合わせからなり、
式(I)の活性化合物1重量部当たりの活性化合物(A)?(N)の量が、それぞれ、(A)は1?50重量部 (B)は1?50重量部 (C)は1?50重量部 (D)は1?50重量部 (E)は1?200重量部 (F)は1?50重量部 (G)は1?200重量部 (H)は1?200重量部 (I)は1?100重量部 (K)は0.5?10重量部 (L)は1?50重量部 (M)は1?50重量部 (N)は0.5?20重量部であることを特徴とする殺菌剤組成物。
【請求項2】 式(I)(化学式省略) 式中、R1はi-プロピルを表し、そしてR2はメチルを表す、のバリンアミド誘導体を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の殺菌剤組成物。
【請求項3】 請求項1または2に記載の活性化合物の組み合わせを菌・かび類および/またはそれらの環境に作用させることを特徴とする菌・かび類を防除する方法。」(ただし、請求項1?3に記載の化学式中、式(I)以外の化学式は全て省略)

2.補正の適否
この補正により、請求項数は23から3に減少されたが、平成16年8月3日付けの審判請求書を見ても、補正後の各請求項が補正前のどの請求項に対応しているのか説明されていないので、ここでこの対応関係をみると、補正後の請求項1は、「式(I)のバリンアミド誘導体と(A)/(N)(「/」は(A)から(N)までが「または」で連なっていることを表す。以下同様。)の活性化合物の組み合わせからなる殺菌剤組成物」についての発明であるので、補正前の請求項1の「式(I)のバリンアミド誘導体と(A)//(Y)(「//」は(A)から(Y)までが「および/または」で連なっていることを表す。以下同様。)活性化合物の組み合わせからなる殺菌剤組成物」に対応する。
また、補正後の請求項2は補正後の請求項1を引用し、その式(I)のバリンアミド誘導体をR1がi-プロピル、R2がメチルであるものに特定するものであって、「式(I)のR1がi-プロピル、R2がメチルである特定のバリンアミド誘導体と(A)/(N)活性化合物の組み合わせからなる殺菌剤組成物」についての発明であるから、式(I)のR1がi-プロピル、R2がメチルである特定のバリンアミド誘導体に相当する式(Ib)のバリンアミド誘導体と他の活性化合物((A)//(Y))とをそれぞれ組み合わせた殺菌剤組成物に関する補正前の請求項3?23に対応するものであり、さらに、補正後の請求項3は「菌・かび類を防除する方法」についての発明であって、補正前の請求項2に対応するものであると認められる。

(1)補正後の請求項2について
補正後の請求項2は、補正前の請求項3?23に対応するものあり、その式(I)のR1がi-プロピル、R2がメチルである特定のバリンアミド誘導体と配合する他の活性化合物において、補正前の請求項3?23は活性化合物として(G)、(K)は含まれないが、補正後の請求項2にはこれらが含まれ、したがって式(I)のR1がi-プロピル、R2がメチルである特定のバリンアミド誘導体と活性化合物(G)、(K)とを組み合わせた殺菌剤組成物は、対応する補正前の請求項3?23に対し新たに追加されたものとなる。
してみると補正後の請求項2は、その対応する補正前の請求項3?23に対し実質的に拡張したものを含むものであり、補正前の請求項3?23に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、この補正は特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものでなく、かつ、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当するものではないから、この補正は特許法第17条の2第4項の規定に適合しない。
以上のとおり、上記補正は特許法第17条の2第4項の規定に違反するため、却下されるべきことは明らかであるが、補正後の発明、特に補正後の請求項1に係る発明についての補正についてもここで検討してみる。

(2)補正後の請求項1について
補正後の請求項1は、補正前の請求項1の式(I)のバリンアミド誘導体と配合する活性化合物(A)//(Y)について、(O)//(Y)を削除し、(A)/(N)に減縮し、さらにその活性化合物の式(I)のバリンアミド誘導体に対する配合量をそれぞれ特定したものであるから、補正後の請求項1は対応する補正前の請求項1について、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるので、補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

ア.補正後の請求項1に係る発明
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)は平成16年8月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記、II.1.の手続補正の内容の項の(補正後)の請求項1に記載されたとおりのものである。

イ.特許法第29条第2項について

(ア)引用例1に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-230652号公報(以下、引用例1という)には以下の事項が記載されている。
a:「【請求項1】 式(I)
【化1】



[式中、R1はi-プロピル又はs-ブチルを表わし、そしてR2は塩素、メチル、エチル又はメトキシを表わす]のバリンアミド誘導体。・・・
【請求項3】 請求項1又は2の式(I)のバリンアミド誘導体を少くとも
1種含有する有害生物防除剤。
【請求項4】 請求項1又は2の式(I)のバリンアミド誘導体の有害生物防除のための使用。」(特許請求の範囲の請求項1?4)

b:「本発明は、新規なバリンアミド誘導体、その製造法、及びその有害生物防除剤・・・特に殺菌・殺カビ剤としての使用法に関する。本発明の物質は害虫の駆除に際だつた作用を示す。特にそれらは主に植物の保護における殺菌剤として使用することができる。」(段落【0001】)

c:「本発明における式(I)の活性化合物は強い殺害虫剤作用を示し、望ましくない微生物を防除するために実際に使用することができる。本活性化合物は植物保護剤として、特に殺菌剤として使用する際に適している。植物保護の殺菌剤は・・・卵菌類・・・接合菌類・・・嚢子菌類・・・担子菌類・・・、及び不完全菌類・・・を防除する際に用いられる。・・・以下に例として挙げる・・・;フイトフトラ(Phytophthora)種、・・・;プラスモパラ(Plasmopara)種、・・・ 本発明による活性化合物は、トマトのフイトフトラ種又はブドウのプラスモポラ種の保護的駆除に対して特に適している。」(段落【0033】?【0037】)

d:「本発明による活性化合物は配合物として存在し得るか、または他の公知の活性化合物例えば殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤、並びに肥料及び他の生長調節剤との混合物として存在し得る。」(段落【0044】)

e:8頁の表Aにフイソフソラ試験(トマト)/保護評価として、活性物質(3)




が活性物質の濃度2.5ppmにおける未処置対象物基準の活性度92%であることが実施例として示されている。(段落【0061】表4参照)

(イ)対比・判断
(イ-1)引用例1の請求項3には式(I)のバリンアミド誘導体を少なくとも1種含有する有害生物防除剤に係る発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている(a参照)。
ここで、本願補正発明1と引用例1発明とを対比すると、両者の式(I)のバリンアミド誘導体はその化学構造式からみて全く同じであり、引用例1には、具体的に活性試験データと共に活性物質(3)が具体的に示されている(e参照)。
してみると、両者は、活性成分として本願式(I)のバリンアミド誘導体を含有する農薬である点で一致するものの、
(i)活性成分について、本願補正発明1が式(I)のバリンアミド誘導体に更に活性化合物(A)/(N)を特定の配合量で組み合わせたものであるのに対し、引用例1発明にはそのような特定がなされていない点
(ii)本願補正発明1が殺菌剤組成物であるのに対し、引用例1発明が有害生物防除剤である点
において、相違する。
この相違点について検討する

(イ-2)相違点(ii)について
本願補正発明1の殺菌剤組成物について、本願明細書には、「本発明による活性化合物の組み合わせは、非常にすぐれた殺菌性質を有し、そして植物病原性菌・かび類、・・・、卵菌類・・・、接合菌類・・・、嚢子菌類・・・、担子菌類・・・および不完全菌類・・・を防除するために使用することができる。本発明による活性化合物の組み合わせは、トマトおよびジャガイモについてのフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)、ならびにブドウについてのプラスモパラ・ヴィチコラ・・・を保護的に防除するためにとくに適当である。」(段落【0057】?【0058】参照)と記載されている。
これに対し、引用例1には、有害生物防除剤について、式(I)のバリンアミド誘導体である活性化合物は特に殺菌・殺カビ剤として、特に主に植物の保護における殺菌剤として使用され、植物保護の殺菌剤として卵菌類、接合菌類、嚢子菌類、担子菌類、及び不完全菌類を防除する際に用いられ、該活性化合物は、トマトのフイトフトラ種又はブドウのプラスモポラ種の保護的駆除に対して特に適していることが記載されており(c参照)、具体的にトマトのフイソフソラ試験が記載されている(e参照)ように、有害生物防除剤として、殺菌剤が具体的に示されており、しかも、適用作物の種類及び対象生物(植物病原性菌)の種類等においても実質的な差異があるものとは認められない。なお、殺菌剤組成物と殺菌剤との組成物の有る無しによる用語の差異によって、両者に技術的な事実上の差異が生じるものではない。
(イ-3)相違点(i)について、
本願明細書には、「本発明は、一方においてバリンアミド誘導体および他方において既知の殺菌的に活性な化合物から構成され、そして植物病原性菌・かび類・・・の防除に高度に適する新規な活性化合物の組み合わせに関する。バリンアミド誘導体は殺菌性質を有することは既に知られている。」(明細書段落【0001】?【0002】参照)と記載されているように、本願補正発明1は、殺菌剤成分として既知の本願式(I)のバリンアミド誘導体化合物と殺菌剤成分として既知の他の活性化合物(A)/(N)の中からの少なくとも1種の活性化合物とを組み合わせたことに特徴を有する殺菌剤組成物に関するものである。

一般に、このような殺菌活性等の農薬活性が知られた複数の活性化合物を単に組み合わせることは、この分野において適宜行われていることであり、、その各成分が公知の薬剤である場合には、併用する(組み合わせる)ことにより格別な効果、つまり、例えば常用使用量が著しく減少する、あるいは効果の質的な変化がもたらされる予測できない顕著な効果がある等の場合でない限り、これらの既知活性化合物を組み合わせることに格別の困難性があったものと認められないものである。
そして、引用例1には、本願式(I)のバリンアミド誘導体化合物が他の殺菌剤等の他の公知の農薬活性化合物と組み合わせられることが記載されているから、本願式(I)のバリンアミド誘導体活性化合物に組み合わせて使用する他の既知の殺菌活性化合物として、単に本願補正発明1の活性化合物(A)/(N)を使用してみる程度のことは、当業者が容易に想到し得るところである。
また、組み合わせる活性化合物(A)/(N)の配合量については、本願明細書の段落【0056】に「活性化合物が本発明による活性化合物の組み合わせの中にある重量比で存在するとき、相乗効果はとくに明らかである。しかしながら、活性化合物の組み合わせの中の活性化合物の重量比は比較的広い範囲にわたって変化することができる。一般に、式(I)の活性化合物の重量当たり下記の量を使用する。」と記載されているにすぎず、具体的な試験データは何ら示されていないので、明細書の記載からでは各活性化合物の配合量の値の数値範囲自体に臨界的的意義等の格別な技術的意義があるものでは認められない。
そして、複数の活性化合物を組み合わせて用いる場合、その各配合量は用いる活性化合物、製剤化方法、製剤の剤型等の種類、使用濃度、適用作物、使用対象生物等に応じてそれぞれ最適な範囲を実験的に選択するものであり、組み合わせる活性化合物(A)/(N)の配合量を本願補正発明1のような数値範囲に特定するは当業者が容易になしえるものである。

(イ-4)本願補正発明1の効果について検討する。
次に、本願補正発明1において、活性化合物(A)/(N)を併用する(組み合わせる)ことにより予測できない顕著な効果が奏されるのかどうか検討する。
本願明細書には、「新規な活性化合物の組み合わせは、非常にすぐれた殺菌性質を有することが発見された。驚くべきことには、本発明による活性化合物の組み合わせの殺菌活性は、個々の活性化合物の活性の合計より実質的に大きい。これは予測することができなかった、補足的ではない、真の相乗効果が存在することを意味する。」(段落【0040】?【0041】参照)、及び「2つの活性化合物の所定の組み合わせについて期待すべき活性は、次のようにして計算することができる(Colby、S.R.・・・除草剤の組み合わせの相乗的および拮抗的応答の計算・・・:
Xが活性化合物Aをm ppmの濃度で使用するときの未処理対照の百分率として表した効果の程度であり、Yが活性化合物Bをm ppmの濃度で使用するときの未処理対照の百分率として表した効果の程度であり、そして
Eが活性化合物AおよびBをmおよびn ppmの濃度で使用するとき期待すべき未処理対照の百分率として表した効果の程度である場合、
E=X+Y-X・Y/100
実際の殺菌活性が計算値を越える場合、組み合わせの活性は超加法的である、すなわち、相乗効果が存在する。この場合において、実際に観測された有効性の程度は、前述の式を使用して期待する有効性の程度(E)についての計算値を越えなくてはならない。」(段落【0072】?【0074】参照)と相乗効果についての評価方法が単に記載されているにすぎず、本願式(I)のバリンアミド誘導体化合物と他の活性化合物(A)/(N)の中からの少なくとも1種の活性化合物を組み合わせたことによる相乗効果については、客観的殺菌活性データ又はそれに代わり得る具体的な記載は何等なされていないので、殺菌活性において具体的にどの程度の相乗効果があったのか明らかでない明細書の記載から、組み合わせた(併用した)ことによる相乗効果の程度が格別顕著であったとすることもできない。

また、上記の本願明細書の段落【0072】?【0074】の相乗効果の評価方法についての記載から、2つの活性化合物の組み合わせについて期待される相加的活性は式(I)のバリンアミド誘導体化合物の特定濃度での未処置対象物基準の活性度(%)と他の活性化合物の特定濃度での未処置対象物基準の活性度(%)(未処理対照の百分率として表した効果)の和(加算したもの)から、その積を引いたものであり、実際の殺菌活性がその計算値を超える場合は相乗効果があるものとしていると解される。
ところで、殺菌剤等の農薬において適用病害菌の範囲をひろげる等のために2種以上の農薬を混合して使用することは通常のことであって、2種以上混合すると相乗効果を生じる場合もあることはよく知られているところであるので、殺菌剤を2種以上混合した際において格別顕著な効果があるという意味は、相乗効果の程度が格別優れていることが技術的に意義のあることとなるものであるから、本願でいう本願明細書の段落【0072】?【0074】に記載のような、相乗効果の評価方法により相乗効果があるとされる、期待される相加的活性を若干超える程度の活性が奏されるものとした場合でも、その程度では組み合わせた(併用した)ことによる相乗効果の程度が格別顕著であったとすることはできない。

(イ-5)請求人は、本願の殺菌剤組成物の相乗効果について、平成15年9月25日付けの手続補足書において資料1(実験報告書)を添付し、「資料1では保護される植物としてトマトを用い、菌類としてエキビョウキン(phythophtera)を用いて、本願発明の組成物の殺菌活性を試験し、相加的活性(明細書中で発明の詳細な説明の段落【0072】?【0074】にも記載されているR.S.コルビーの方法を用いて計算される)と、実験によって実際に測定された本願発明の組成物の活性とを比較し・・・いずれの試験結果でも、本願発明の組成物は、期待される相加的活性をはるかに越える相乗的な殺菌活性を有することが示され・・・資料1に示される実験データによって、特定の活性化合物を組み合わせた本願発明の組成物が、刊行物1の記載からは全く予想できない顕著な作用効果を奏することが実証されました。」(平成15年9月25日付け意見書の1頁下から7行?2頁3行参照)と主張している。
本願明細書には、段落【0058】に「本発明による活性化合物の組み合わせは、トマトおよびジャガイモについてのフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)・・・を保護的に防除するためにとくに適当である。」と記載されているが、ここには何ら定量的な記載はなされていないのであるから、ここに記載されている「とくに適当である」の意味するところは本願明細書の段落【0072】?【0074】に記載された効果を奏するの意味と認めざるを得ず、このような効果をもって格別顕著な効果であるとすることができなことは上記(イ-4)で示したとおりである。そして、本願明細書には本発明による活性化合物の組み合わせが、期待される相加的活性をはるかに越える相乗的な殺菌効果があることまでは具体的に記載されておらず、また本願明細書の記載から推認できるものとも認められず、資料1(実験報告書)の記載が本願明細書の記載に代わるものでもないので、「資料1に示される実験データによって本願発明の組成物が刊行物1の記載からは全く予想できない顕著な作用効果を奏することが実証されました。」という請求人の上記主張は採用できない。

(イ-6)してみると、本願明細書には、本願補正発明1が、該組み合わせにより、当業者が先行技術等からは相乗効果において予測し得ないほどの顕著な効果を奏するものであること具体的に記載されておらず、この程度のことは引用例1の記載から当業者の予測しうる範囲内のものである。

(イ-7)したがって、本願補正発明1は、引用例1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ウ.特許法第36条第4項について

明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に発明の実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果を記載すべきところ、農薬についての用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその効果を予測することは困難であるから、出願時の技術常識及び出願当初の明細書に記載された作用の説明等からでは、その農薬用途として所望の効果を奏することが推認できない場合には、明細書に有効量、製剤化方法、投与方法等が記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該農薬が実際に所望の効果を奏するか否かを知ることができないので、明細書に特定の活性試験の結果である活性試験データ又はそれと同視すべき程度の記載をして、それを裏付ける必要があり、その裏付けがあって初めて当業者がその実現可能性を理解し得るものであると認められる。
ところで、上記のように、本願補正発明1は、殺菌剤成分として既知の本願式(I)のバリンアミド誘導体化合物と殺菌剤成分として既知の他の活性化合物(A)/(N)の中からの少なくとも1種の活性化合物とを含む殺菌剤組成物(既知殺菌剤成分を組み合わせた殺菌剤組成物)に関し、両成分を組合わせたことにより奏される相乗効果を利用する発明であるところ、本願明細書には、式(I)の化合物と組み合わせて用いられる活性化合物及びその重量比についてはある程度、具体的に記載されてはいるものの、製剤化方法、製剤の剤型、使用濃度、適用作物、使用対象生物については、一般的に記載されているにとどまり、どのような薬剤をどのような量で組み合わせた薬剤組成物を、どのように製剤化して得た剤型で、どのような使用濃度で、どのような適用作物の対象生物に対し、使用したのか、具体的な実施例が一つも示されておらず、かつ、式(I)のバリンアミド誘導体化合物成分と他の活性化合物成分とを含有する殺菌剤組成物に対する具体的な殺菌活性試験方法及び殺菌活性試験データは一切記載されていない。
そうすると、本願明細書には、式(I)のバリンアミド誘導体化合物成分と他の特定の活性化合物成分とを組合わせたことによる相乗効果について、当業者が客観的にその効果を確認し得る程度に具体的に記載されているとはいえず、具体的にどの程度の効果が認められたのかは確認できない。
また、本願出願時に式(I)のバリンアミド誘導体化合物成分と他の特定の活性化合物成分とを組み合わせることにより、殺菌活性において相乗効果が奏されるとの技術常識があったものとも認められないので、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に殺菌剤組成物及び菌・かび類を防除する方法に係る発明を実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているとは認められない。

請求人は、「本願明細書中には、式(I)の化合物との組み合わせで用いられる化合物として(A)-(N)の活性化合物が具体的に特定されて記載されており(明細書段落[0007]?同段落[0040]参照)、また、式(I)の化合物とこれらの化合物との重量比についても具体的に記載されている(明細書段落[0056]参照)。また、抗菌組成物の効果を試験する方法は技術常識であり、その相乗効果の評価方法も明細書段落[0072]?同段落[0073]に記載されている。そして、上記明細書の記載および技術常識に基づいてルーチンな実験を行うことによって、実際に本願発明の組成物を相乗効果を奏するように実施できることが、本願出願人が平成15年9月25日付けで提出した手続補足書に添付した資料1に記載された実験結果によって実証されている。」(平成18年8月3日付けの審判請求書の4頁16?25行参照)と主張している。
しかしながら、「当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」とは、出願時の技術常識を前提としているものであって、出願時の技術常識を考慮しても、当初明細書に本願の細菌剤組成物の所望の効果を奏することを裏付ける具体例が全くなく、明細書に殺菌剤の組み合わせの特定、その配合割合、製剤化のための事項、使用濃度、適用作物、使用対象生物、相乗効果の評価方法がある程度記載があっても、それだけでは当業者は実際に殺菌活性における効果を奏するか否かは知ることはできず、式(I)のバリンアミド誘導体化合物成分と他の特定の活性化合物成分とを組み合わせることにより殺菌活性において相乗効果が奏されることが推認できる程度に発明の詳細な説明が記載されていない場合には、その後にその点を明らかにされたとしても、本願明細書に本願補正発明1に係る殺菌剤組成物に係る発明を実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。
それゆえ、本願明細書に本願補正発明1の殺菌剤組成物の発明を実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえないから、本願出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ.まとめ
以上のとおりであるから、上記補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、かつ、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定にも違反する。
よって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明

平成16年8月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?23に係る発明(以下、「本願発明1?23」という。)は、平成15年9月25日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された、上記II.1.手続補正の内容の項の(補正前)の請求項1?23に記載されたとおりのものである。

2.特許法第29条第2項について

ア.引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-230652号公報(引用例1)の記載事項はII.2.イ.(ア)に示したとおりである。
イ.対比・判断
(ア)本願発明1について
本願発明1と本願補正発明1とは、式(I)のバリンアミド誘導体と配合する他の活性化合物について、本願補正発明1が「(A)/(N)」であるのに対し、本願発明1が「(A)//(Y)」であるので、本願発明1は本願補正発明1を包含するものであるところ、本願補正発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることは上記II.2.(2)イ.(イ)で示したとおりであるから、これを包含する本願発明1も、同様の理由により特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(イ)本願発明2?23について
本願発明2は「請求項1の活性化合物の組み合わせを菌・かび類および/またはそれらの環境に作用させることを特徴とする菌・かび類を防除する方法」であり、本願発明1の殺菌剤組成物を使用して単に菌・かび類を防除することに自体に格別の困難性は認められないから、本願発明1の殺菌剤組成物に対して述べたのと同様の理由により、本願発明2は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本願発明3?23は、それぞれ本願発明1の殺菌剤組成物において式(I)のバリンアミド誘導体を、式(1)がR1がi-プロピル、R2がメチルである特定のバリンアミド誘導体に限定した殺菌剤組成物に係る発明であって、該特定のバリンアミド誘導体は引用例1に具体的に示されており、該特定のバリンアミド誘導体に限定したことにより格別の技術的意義が生じるものでもないので、その各殺菌剤組成物に係る発明である本願発明3?23は本願発明1の殺菌剤組成物に対して述べたのと同様の理由により、本願発明3?23は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3.特許法第36条第4項について
本願発明1?23は、殺菌剤組成物及び菌・かび類を防除する方法に関し、いずれも殺菌剤成分として、本願式(I)のバリンアミド誘導体化合物と既知の他の菌剤成分を組み合わせたことにより奏される相乗効果を利用する発明であって、どのような薬剤をどのような量で組み合わせた薬剤組成物を、どのように製剤化して得た剤型で、どのような使用濃度で、どのような適用作物の対象生物に対し、使用したのか、具体的な実施例が一つも示されておらず、かつ、式(I)のバリンアミド誘導体化合物成分と他の活性化合物成分とを含有する殺菌剤組成物に対する具体的な殺菌活性試験方法及び殺菌活性試験データは一切記載されておらず、該組み合わせたことによる相乗効果について、具体的にどの程度の効果があるのか確認できない点において、本願補正発明1と同様であるので、II.2.(2)ウ.で、本願補正発明1について述べたのと同様な理由により、本願明細書に本願発明1?23の殺菌剤組成物及び菌・かび類を防除する方法の発明を実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりあるから、本願発明1?23は、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-15 
結審通知日 2006-05-23 
審決日 2006-06-06 
出願番号 特願平6-32071
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A01N)
P 1 8・ 572- Z (A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 紹英  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 原田 隆興
井上 彌一
発明の名称 殺菌活性化合物の組み合わせ  
代理人 小田島 平吉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ