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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1151023
審判番号 不服2004-8436  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-09-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-23 
確定日 2007-01-19 
事件の表示 平成11年特許願第358714号「記録装置用インクカートリッジの再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 5日出願公開、特開2000-238283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年12月17日(優先日、平成10年12月22日)の出願であって、平成16年3月17日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月19日付で手続補正(平成14年改正前特許法第17条の2第1項第3号の規定に基づく手続補正であり、以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、
「インク吸収用の多孔質体が収容されたインクカートリッジから残留しているインクを排出する第1の工程と、
前記インクカートリッジに洗浄液を注入する第2の工程と、
前記洗浄液を吸引により排出する第3の工程と、
前記第2の工程、及び第3の工程をそれぞれ複数回繰り返してから前記多孔質体を変質させない程度の温度に加熱しながら洗浄液を排除する第4の工程と、
前記多孔質体にインクを含浸させる第5の工程と、
からなる記録装置用インクカートリッジの再生方法。」から
「インク吸収用の多孔質体が収容されたインクカートリッジから残留しているインクを排出する第1の工程と、
前記インクカートリッジに洗浄液を注入する第2の工程と、
前記洗浄液を吸引により排出する第3の工程と、
前記第2の工程を実行し、その後に第3の工程を実行するという工程を複数回繰り返してから前記多孔質体を変質させない程度の温度に加熱しながら洗浄液を排除する第4の工程と、
前記多孔質体にインクを含浸させる第5の工程と、
からなる記録装置用インクカートリッジの再生方法。」(補正個所に下線を引いた。)
と補正された。
上記補正事項は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である第2工程と第3工程相互の時間的順序関係を限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-323560号公報、特開平9-174872号公報、特開平7-32605号公報(以下、順に「引用例1」、「引用例2」、「引用例3」という。)には、それぞれ、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.引用例1
a.「インクタンクのリサイクルにおいて、(1)インクタンクから残存インクを抜く工程(2)リフィルインクの水素イオン濃度に対応した酸性、中性またはアルカリ性の液体を洗浄液としてインクタンクに注入し、洗浄する工程(3)インクタンクから洗浄液を抜くとともに、インクタンクに内蔵されたインクの吸収体の静負圧及び動負圧を測定する工程(4)抜き出した洗浄液の分析を行う工程(5)前記(3),(4)の情報によりインクタンクのリサイクルの可否を判定する工程を含むことを特徴とするインクタンクのリサイクル方法。」(【請求項1】)
b.「本発明によればインクタンクのリサイクルの洗浄工程において、残存インクを抜いたのち、リフィルインクが酸性ならば酸性の水溶液を注入し、アルカリ性ならばアルカリ性の水溶液を注入して洗浄し、注入液を抜くと同時にインクタンクに内蔵された吸収体の静負圧及び動負圧を測定することにより、吸収体が劣化するなどの理由で負圧特性が低下していないかを検査し、抜いた水溶液の分析を行なって不純物の検査をすることによりリサイクル可能なインクタンクのみを再利用することが可能となり、ユーザーが誤って使用不可能なインクタンクにインクをリフィルすることをなくし廃棄物の発生量を最小限に抑制することができるようにしたものである。」(段落【0006】参照)
c.「通常、インク供給が不可能になったインクカートリッジ内においても、インクが残留しているため、最初にインクタンク内に残留しているインクをインクタンクから抜く。そして、その後洗浄液を注入し、環境変化等によりインクタンク内壁もしくはインク吸収体に付着している増粘インク等をインクタンク内から排除するために、洗浄液を注入する。この場合の洗浄液は、前述したように再注入されるインクに含まれている溶剤と同一の組成を有するものが望ましい。さらに、再注入(リフィル)されるインクから染料または顔料などのインクの着色成分のみを除いた液体であることが好ましい。そして、洗浄液をインクタンク内に充填した後、洗浄液はインクタンクから抜かれることになる。この導出時に、動負圧及び静負圧を測定する。動負圧は洗浄液をインクタンクから排出しながら測定される。一方、静負圧は、インク吸収体内で洗浄液と空気とが気液界面を形成している任意の状態において、インク排出を中断して測定される。ここで、負圧とはインク供給に対する背圧であり、記録ヘッドの吐出口部における水頭圧を大気圧以下に設定するものである。そして、動負圧は記録中にインク吸収体が発生させる負圧のことであり、静負圧は非記録時にインク吸収体が働かせる負圧である。」(段落【0011】?【0015】参照)
d.「この洗浄液の分析工程においては、スポンジ等の多孔質体からなるインク吸収体が劣化し、インク吸収体の微小な破片等を出していないかについても判定される。」(段落【0025】参照)
イ.引用例2
a.「フォームを内装した使用済みのインクカートリッヂ内にインクを再充填する装置において、インクカートリッヂに気密状に関与しうるインク供給ニードルとインク抽出ニードルとを具備し、加圧手段により付勢したインクをインクカートリッヂに強制的に供給し、減圧手段により付勢したインクをインクカートリッヂから強制的に排出可能とし、供給されたインクによりインクカートリッヂ内に残留するインクを置換し、充填自在としたインクカートリッヂにおけるインクの置換充填装置。」(【請求項1】)
b.「この種の使用済みインクカートリッヂにあっては、フォーム内に幾分かの旧いインクの残留が見られ、この残留インクが相当に長期間を経過したものである場合には、乾燥による濃度の変化や異物の混入による汚損などの不安も解消しきれないことも指摘されるところであって、この点からすれば、インクカートリッヂを再生利用する際には、残留するインクを完全に排出させた後、新鮮なインクを再充填させることが最も望ましいことである」(段落【0009】参照)
c.「(第1抽出工程)次に、この状態で減圧手段100を始動させて抽出ニードル80にてインクカートリッヂICを減圧させてフォームFO内に残留するインクを抽出し、第3の連結管102、導入管91を経由して、インク貯留手段90内に貯留させる。(第1供給工程)次に、駆動制御手段110によりモータ4を始動させ、駆動軸41に連結したロータリーディスク3を図1において反時計方向に90度旋回させてインク室IRが下側に位置するように移動させる(図4(B)参照)。・・・この状態で、加圧手段10を始動し、インク供給手段20からの新鮮なインクを制御弁手段40を操作して、第1の供給ニードル51からフォーム室FCの底部領域に十分にインクを充填させる。」(段落【0028】?【0031】参照)
d.「インクの再充填回数が多いインクカートリッヂICの再充填作業に当たっては、前記の第1の抽出工程及び第1の供給工程を繰り返すことにより、十分な洗浄処理を果たしうるものである。」(段落【0039】参照)
ウ.引用例3
a.「本発明のインクカートリッジに用いるインク吸収体に関して詳細に説明する。このインク吸収体は連続気泡を内部に有する高分子弾性多孔質体で、耐インク性を有しインクによって変質しないフォームであれば使用が可能であるが、ポリウレタンフォームを用いることが好ましい。ポリウレタンフォームはこれに燃焼ガスを含ませてガスを爆発させることによって、セル間に生成した膜状物質を除去してあるものが好ましいが、・・・できあがったフォームには相当量の未反応物および爆発によって離脱しセル間に残留している膜状物質が含有されている可能性があり、これらを除去するための洗浄を行う。洗浄はインク吸収体を常温?80℃の純水中で押し揉み動作を繰り返すことによって行う。その後遠心分離によって脱水し、オーブンで乾燥させる。」(段落【0017】?【0019】参照)

(3)引用発明の認定及び引用発明と本願補正発明の対比・判断
ア.引用発明の認定
引用例1に記載された、インクタンクのリサイクルの洗浄工程における、再注入(リフィル)されるインクから染料または顔料などのインクの着色成分のみを除いた液体((2)ア.c.参照)を注入して洗浄し、注入液を抜くと同時にインクタンクに内蔵されたインク吸収用の多孔質体の静負圧及び動負圧を測定する工程と抜いた液体の分析を行なう工程は、リサイクル可能なインクタンクのみを再利用することが可能となるように特別になした工程であり((2)ア.b.参照)、また、当該液体は、環境変化等によりインクタンク内壁もしくはインク吸収用の多孔質体に付着している増粘インク等をインクタンク内から排除するはたらきをもっているものである((2)ア.c.参照)から、引用例1には、上記インク吸収用の多孔質体の静負圧及び動負圧を測定する工程と抜いた液体の分析を行なう工程を含むインクタンクのリサイクル方法に限らずに、上記液体を洗浄液として使用するインクタンクのリサイクル方法が記載されているといえる(この他にも、インク吸収用の多孔質体が収容されたインクタンクの再生の際にインクとは異なる洗浄液を使用するインクカートリッジの再生方法は、例えば、特開平7-60979号公報にみられるように周知である。)。
そうすると、上記記載a?cを含む引用例1には、以下の発明が記載されている。
「インク吸収用の多孔質体が内蔵されたインクタンクから残存インクを抜く工程と、
前記インクタンクに再注入(リフィル)されるインクから染料または顔料などのインクの着色成分のみを除いた液体を注入する工程と、
前記液体を抜く工程と、
前記インクタンクにインクを再注入(リフィル)する工程と、
からなるインクタンクのリサイクル方法。」(以下、「引用発明」という。)
イ.引用発明と本願補正発明の対比・判断
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較する。
a.引用発明の「インクタンク」は記録装置のためのもの((2)ア.c.参照)であり、本願補正発明の「インクカートリッジ」または「記録装置用インクカートリッジ」に相当する。
b.引用発明のリサイクル方法は再生方法ということができ、また、引用発明の「再注入(リフィル)されるインクから染料または顔料などのインクの着色成分のみを除いた液体」は洗浄液ということができる。
c.引用発明の、インクタンクに内蔵されたインク吸収用の多孔質体に吸収されたインクは、大気圧のときに排出されないことは自明であり(そうでなければ、非記録時にインクが排出されてしまい、インク吸収用の多孔質体がその役目を果たしていないことになる。)、このことは、インクでなくて上記液体が吸収されているときでも同じであるから、上記液体の排出は吸引によりなされることは自明である。
d.引用発明の「インクタンクにインクを再注入(リフィル)する工程」は、引用発明のインクタンクにはインク吸収用の多孔質体が内蔵されている((2)ア.d.参照)から、インク吸収用の多孔質体にインクを含浸させる工程を含むことは明らかである。
以上のことから、両者は、
「インク吸収用の多孔質体が収容されたインクカートリッジから残留しているインクを排出する工程と、
前記インクカートリッジに洗浄液を注入する工程と、
前記洗浄液を吸引により排出する工程と、
前記インク吸収用の多孔質体インクにインクを含浸させる工程と、
からなる記録装置用インクカートリッジの再生方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
〔相違点〕
A.インクカートリッジに洗浄液を注入する工程を実行し、その後に前記洗浄液を吸引により排出する工程を、本願補正発明では、複数回繰り返しているのに対して、引用発明では、複数回繰り返しているか否か定かでない点、
B.本願補正発明では、インクカートリッジに洗浄液を注入する工程を実行し、その後に前記洗浄液を吸引により排出する工程を複数回繰り返してから、前記多孔質体を変質させない程度の温度に加熱しながら洗浄液を排除する工程を備えているのに対して、引用発明ではその工程を備えているか否か定かでない点。
相違点の判断
上記相違点について検討する。
相違点A、Bについて、
上記引用例2には、インク吸収用の多孔質体が収容されたインクカートリッヂを再生利用する際には、残留しているインクを完全に排出させた後、新鮮なインクを再充填させることが望ましいこと及び残留インクを排出させるためには、インク吸収体に残留している残留インクを置換及び排出するすなわち洗浄する新鮮なインク(洗浄液)の注入とその排出を複数回繰り返して行うことが記載されている((2)イ.a.?d.参照)から、相違点Aのように、引用発明において、同様にインク吸収用の多孔質体が収容されたインクカートリッヂに残留しているインクを置換及び排出するための洗浄液を注入する工程を実行し、その後に前記洗浄液を吸引により排出する工程を複数回繰り返して行うようにすることは、当業者が容易に想起できることであり、その作用効果も格別なものでない。
また、その際、残留インクを置換及び排除する洗浄液がインク吸収用の多孔質体内に残らないようにすることも当業者が当然考えることである。というのは、新たなインクを注入する際に洗浄液が残っているとインク濃度が変わってしまい所期の記録濃度が得られないことになってしまうからである。
そして、そのために、相違点Bのように、加熱しながら洗浄液を排除する工程を備えるようにすることも、上記引用例3には、インクカートリッジに内蔵したインク吸収用多孔質体内に残留している物質を除去する洗浄を行う洗浄液を加熱しながら排除することが記載されている((2)ウ.a.参照)から、当業者が想到容易である。その際の加熱温度を多孔質体を変質させない程度の温度とすることは当然である。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
なお、本願補正発明の請求項1の規定において、各工程を第1?5工程と呼称しているが、これは、単に各工程が相互に異なることとその工程の当然の順序を表現するための便宜にすぎず、それ以外に技術的に格別の意義があるわけでないから、上記相違点の認定及びその判断において、説示の煩雑を避けるために、第1?5工程の呼称を省いている。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(上記2.(1)参照)。
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明の特定事項から、第2工程と第3工程相互の時間的順序関係の限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項の全部をその特定事項とし、さらに、他の特定事項をその特定事項としたものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、引用発明、引用例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様な理由により、引用発明、引用例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結び
以上のとおりであるから、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-16 
結審通知日 2006-11-22 
審決日 2006-12-05 
出願番号 特願平11-358714
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
尾崎 俊彦
発明の名称 記録装置用インクカートリッジの再生方法  
代理人 木村 勝彦  

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