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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800061 審決 特許
無効2009800041 審決 特許
無効200580033 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G21F
管理番号 1152390
審判番号 無効2005-80330  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-18 
確定日 2007-01-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3502100号発明「非円形断面鍛造鋼ボディを備える核燃料集合体用容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3502100号の請求項1乃至3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3502100号の出願は、1994年3月30日(パリ 条約による優先権主張外国庁受理1994年3月24日、仏国)を国際出 願日とする出願であって、平成15年12月12日に特許権の設定登録が なされた。
2.これに対して、平成17年11月21日に請求人 三菱重工業株式会社 より特許無効審判が請求された。
3.平成18年3月20日付けで被請求人コジエマ・ロジステイツクスより 答弁書とともに訂正請求書が提出された。
4.平成18年6月23日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され た。
5.平成18年6月23日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出さ れた。
6.平成18年6月23日付けで請求人より口頭審理陳述要領書(第2回) が提出された。
7.平成18年6月23日に口頭審理が行われた。
8.平成18年7月11日付けで請求人より上申書が提出された。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成18年3月20日付けの訂正請求書による訂正請求は、本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した全文訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
訂正後の請求項
「1.核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鍛造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びており、
非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され、
環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持されることを特徴とする容器。
2.平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の容器。
3.平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の内外周が角稜部を丸めた正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有することを特徴とする請求の範囲第2項に記載の容器。
4.少なくとも一つの三日月形部品であって、その断面が、弦が対するキャビティの直径と同じ直径の円弧を含む三日月形部品がキャビティの壁上に固定され、三日月形部品がキャビティの壁の形状に符合し、弦が内部平たん部に対応することを特徴とする請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の容器。
5.円形断面を有する肉厚金属製リングを基にし、まず円形断面円筒形ボディを形成するため、内外壁を旋盤で同軸に切削加工し、次いで、リングの高さ部分全域にわたり少なくとも一つの平たん部を得るため外壁を研削し、さらに弦が対する内壁の半径と同一の半径の円弧を断面が含む少なくとも一つの三日月形部品を、円筒形ボディの内壁に押圧してキャビティ内に固定し、単数または複数の平たん部が単数または複数の弦と対で平行であることを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか一項に記載の容器を得る方法。
6.対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の平たん部を得るために、外壁が研削され、弦が対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の三日月形部品を固定することを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方法。
7.三日月形部品がボルト締めにより内壁上に固定されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第4項に記載の容器。
8.内壁および三日月形部品がAl-Zn金属堆積物で被覆されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第3項または第7項に記載の容器。」

なお、以降、本件の特許請求の範囲に記載された「請求項1」を「請求の範囲第1項」とも記載し、以下同様に、「請求項2乃至8」を「請求の範囲第2乃至8項」とも記載する。

(1)【請求項1】について、
訂正前の請求項1の「核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鍛造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は核円筒形ボディの高さ全体にわたって延びていることを特徴とする容器。」を削除し、訂正前の請求項2の「非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成されることを特徴とする請求の範囲第1項記載の容器。」を「核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鍛造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びており、非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され、環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持されることを特徴とする容器。」と訂正する。

(2)【請求項2】について、
訂正前の請求項3の「平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向することを特徴とする請求の範囲第2項に記載の容器。」を「平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の容器。」と訂正する。

(3)【請求項3】について、
訂正前の請求項4の「平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の内外周が正方形または長方形、あるいは角稜部を丸めた六角形の形状を有することを特徴とする請求の範囲第3項に記載の容器。」を「平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の内外周が角稜部を丸めた正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有することを特徴とする請求の範囲第2項に記載の容器。」と訂正する。

(4)【請求項4】について、
訂正前の請求項5の「少なくとも一つの三日月形部品であって、その断面が、弦が対するキャビティの直径と同じ直径の円弧を含む三日月形部品がキャビティの壁上に固定され、三日月形部品がキャビティの壁の形状に符合し、弦が内部平たん部に対応することを特徴とする請求の範囲第2項から第4項のいずれか一項に記載の容器。」を「少なくとも一つの三日月形部品であって、その断面が、弦が対するキャビティの直径と同じ直径の円弧を含む三日月形部品がキャビティの壁上に固定され、三日月形部品がキャビティの壁の形状に符合し、弦が内部平たん部に対応することを特徴とする請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。

(5)【請求項5】について、
訂正前の請求項6の「円形断面を有する肉厚金属製リングを基にし、まず円形断面円筒形ボディを形成するため、内外壁を旋盤で同軸に切削加工し、次いで、リングの高さ部分全域にわたり少なくとも一つの平たん部を得るため外壁を研削し、さらに弦が対する内壁の半径と同一の半径の円弧を断面が含む少なくとも一つの三日月形部品を、円筒形ボディの内壁に押圧してキャビティ内に固定し、単数または複数の平たん部が単数または複数の弦と対で平行であることを特徴とする請求の範囲第2項から第4項のいずれか一項に記載の容器を得る方法。」を「円形断面を有する肉厚金属製リングを基にし、まず円形断面円筒形ボディを形成するため、内外壁を旋盤で同軸に切削加工し、次いで、リングの高さ部分全域にわたり少なくとも一つの平たん部を得るため外壁を研削し、さらに弦が対する内壁の半径と同一の半径の円弧を断面が含む少なくとも一つの三日月形部品を、円筒形ボディの内壁に押圧してキャビティ内に固定し、単数または複数の平たん部が単数または複数の弦と対で平行であることを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか一項に記載の容器を得る方法。」と訂正する。

(6)【請求項6】について、
訂正前の請求項7の「対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の平たん部を得るために、外壁が研削され、弦が対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の三日月形部品を固定することを特徴とする請求の範囲第6項に記載の方法。」を「対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の平たん部を得るために、外壁が研削され、弦が対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の三日月形部品を固定することを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方法。」と訂正する。

(7)【請求項7】について、
訂正前の請求項8の「三日月形部品がボルト締めにより内壁上に固定されることを特徴とする請求の範囲第6項または第7項によって得られた請求の範囲第5項に記載の容器。」を「三日月形部品がボルト締めにより内壁上に固定されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第4項に記載の容器。」と訂正する。

(8)【請求項8】について、
訂正前の請求項9の「内壁および三日月形部品がAl-Zn金属堆積物で被覆されることを特徴とする請求の範囲第6項または第7項によって得られた請求の範囲第4項または第8項に記載の容器。」を「内壁および三日月形部品がAl-Zn金属堆積物で被覆されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第3項または第7項に記載の容器。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正の目的の適否
ア.上記(1)の訂正について
上記(1)の訂正は、訂正前の請求の範囲第1項を削除すると共に、もとの請求の範囲第1項を引用する請求の範囲第2項を、独立形式に書き直して、新たな独立請求項である請求の範囲第1項とし、かつ、「環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持される」なる要件を直列に付加する訂正である。
そして、上記要件を直列に付加する訂正は、訂正前の請求の範囲第2項に係る発明の構成要件を限定するものである。
したがって、請求の範囲第1項に係る(1)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.上記(2)の訂正について
上記(2)の訂正は、訂正前の請求の範囲第3項を繰り上げて請求の範囲第2項とすることに伴い、引用する請求の範囲を請求の範囲第1項とし、また、引用する請求の範囲第1項の訂正が、「上記(1)の訂正について」で述べたように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、同様に、上記(2)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第2項に係る(2)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ.上記(3)の訂正について
上記(3)の訂正は、訂正前の請求の範囲第4項を繰り上げて請求の範囲第3項とすることに伴い、引用する請求の範囲を請求の範囲第1項とし、かつ、訂正前の請求の範囲第4項の「環の内外周が正方形または長方形、あるいは角稜部を丸めた六角形の形状」を訂正後の請求の範囲第3項では、「環の内外周が角稜部を丸めた正方形または長方形、あるいは六角形の形状」と限定するものであり、また、引用する請求の範囲第2項の訂正が、「上記(2)の訂正について」で述べたように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、同様に、上記(3)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第3項に係る(3)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

エ.上記(4)の訂正について
上記(4)の訂正は、訂正前の請求の範囲第5項を繰り上げて請求の範囲第4項とすることに伴い、引用する請求の範囲を「請求の範囲第2項から第4項」から「請求の範囲第1項から第3項」とし、また、引用する請求の範囲第1項から第3項の訂正が、「上記(1)の訂正について」乃至「上記(3)の訂正について」で述べたように、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、上記(4)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第4項に係る(4)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

オ.上記(5)の訂正について
上記(5)の訂正は、訂正前の請求の範囲第6項を繰り上げて請求の範囲第5項とすることに伴い、引用する請求の範囲を「請求の範囲第1項から第5項」から「請求の範囲第1項から第4項」とし、また、引用する請求の範囲第1項から第4項の訂正が、「上記(1)の訂正について」乃至「上記(4)の訂正について」で述べたように、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、上記(5)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第5項に係る(5)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

カ.上記(6)の訂正について
上記(6)の訂正は、訂正前の請求の範囲第7項を繰り上げて請求の範囲第6項とすることに伴い、引用する請求の範囲を請求の範囲第5項とし、また、引用する請求の範囲第5項の訂正が、「上記(5)の訂正について」で述べたように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、同様に、上記(6)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第6項に係る(6)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

キ.上記(7)の訂正について
上記(7)の訂正は、訂正前の請求の範囲第8項を繰り上げて請求の範囲第7項とすることに伴い、引用する請求の範囲について、訂正前の「請求の範囲第6項または第7項によって得られた」を「請求の範囲第5項または第6項によって得られた」とし、また、引用する請求の範囲第5項及び第6項の訂正が、「上記(5)の訂正について」及び「上記(6)の訂正について」で述べたように、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、上記(7)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第7項に係る(7)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ク.上記(8)の訂正について
上記(8)の訂正は、訂正前の請求の範囲第9項を繰り上げて請求の範囲第8項とすることに伴い、引用する請求の範囲について、訂正前の「請求の範囲第6項または第7項によって得られた請求の範囲第4項または第8項」を「請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第3または第7項」とし、また、引用する請求の範囲第5、6、3,7項の訂正が、「上記(5、6、3、7)の訂正について」で述べたように、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、上記(8)の訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求の範囲第8項に係る(8)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

以上のとおり、請求の範囲1乃至8に係る(1)乃至(8)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(2)新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記(1)乃至(8)の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された範囲内でした訂正である。
さらに、(1)乃至(8)の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.独立特許要件の違反の有無
上記(4)乃至(8)の訂正により訂正された、請求の範囲第4項乃至第8項に係る発明が独立特許要件を満たしているかについて検討するに、請求の範囲第4項乃至第8項に係る発明は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記(1)乃至(8)の訂正は、平成6年改正前の特許法第134条第2項ただし書各号に列挙された事項を目的としており、また、同法第134条第5項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合する。
さらに、上記(4)乃至(8)の訂正は、同法第134条第5項で読み替えて準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

よって、本件訂正は適法なものである。

第3 本件発明
特許第3502100号の請求項1乃至8に係る発明(以下「本件発明1」乃至「本件発明8」という。)は、全文訂正明細書及び図面の記載からみて、その請求の範囲第1乃至8項に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「1.核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鍛造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びており、
非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され、
環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持されることを特徴とする容器。
2.平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の容器。
3.平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の内外周が角稜部を丸めた正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有することを特徴とする請求の範囲第2項に記載の容器。
4.少なくとも一つの三日月形部品であって、その断面が、弦が対するキャビティの直径と同じ直径の円弧を含む三日月形部品がキャビティの壁上に固定され、三日月形部品がキャビティの壁の形状に符合し、弦が内部平たん部に対応することを特徴とする請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の容器。
5.円形断面を有する肉厚金属製リングを基にし、まず円形断面円筒形ボディを形成するため、内外壁を旋盤で同軸に切削加工し、次いで、リングの高さ部分全域にわたり少なくとも一つの平たん部を得るため外壁を研削し、さらに弦が対する内壁の半径と同一の半径の円弧を断面が含む少なくとも一つの三日月形部品を、円筒形ボディの内壁に押圧してキャビティ内に固定し、単数または複数の平たん部が単数または複数の弦と対で平行であることを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか一項に記載の容器を得る方法。
6.対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の平たん部を得るために、外壁が研削され、弦が対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の三日月形部品を固定することを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方法。
7.三日月形部品がボルト締めにより内壁上に固定されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第4項に記載の容器。
8.内壁および三日月形部品がAl-Zn金属堆積物で被覆されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第3項または第7項に記載の容器。」

第4 審判請求人の主張
審判請求人は、本件特許の請求項1乃至3に係る発明を無効にする、との審決を求め、その理由として、本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、甲第2号証及び周知技術(甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証及び甲第10号証)に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条第2項の規定により、これらの特許は無効にされるべきであると主張し、証拠方法として以下の甲号証を提出している。
甲1号証:放射性材料の梱包、輸送に関する第10回国際シンポジウム( 1992年、横浜開催)のPATRAM‘92、「30年間安 全な放射性燃料輸送」(328頁ないし335頁)及び訳文
甲2号証:独国実用新案第7821570号明細書(1982年1月21 日、公開)及び訳文
甲3号証:「神戸製鋼技報第39巻(1989)」19頁ないし24頁、 25頁ないし28頁、及び33頁ないし36頁」の写し
甲4号証:「沸騰水型原子力発電所 使用済燃料の乾式キャスク貯蔵施設 について」(株式会社東芝発行、1993年7月)
甲5号証:核燃料輸送に関する第1回国際会議(1988年開催)の会報 中の論文「廃棄物核燃料の輸送における経験」(303頁ない し319頁)及び訳文
甲6号証:核燃料輸送に関する第9回国際会議(1989年開催)の会報 中の論文「GA-4型及びGA-9型の法定重量トラック輸送 キャスクの開発(1781頁ないし1787頁)及び訳文
甲7号証:放射性材料の梱包、輸送に関する第10回国際シンポジウム( 1992年、横浜開催)のPATRAM‘92、「PWR使用 済み燃料を4個積み込める輸送キャスクの安全評価」(465 頁ないし471頁)及び訳文
甲8号証:米国特許第3731101号明細書及び訳文
甲9号証:公開特許公報(特開平4-357498)
甲10号証:「CASTOR-1C 使用済燃料貯蔵キャスクの崩壊熱、 熱伝達及び遮へい解析」(抜粋)(Pacific Nort h West Laboratory 発行、1986年12 月)及び訳文

また、本件特許の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲に記載された「円筒形ボデイの断面が非円形」の意味が不明確であり、請求項1を引用する請求項2,3の発明も不明確であるので、特許法第36条第5項第2号の規定を満たしておらず、これらの特許は無効にされるべきであると主張する。

第5 被請求人の主張
一方、被請求人は、訂正後の請求項1乃至3に係る発明は、甲第2号証及び他の証拠方法(甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証及び甲第10号証)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、訂正後の請求項1乃至3の記載は明確であり、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める旨主張する。

第6 記載不備について
請求項1において、「非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され」たものを「円筒形ボディ」と呼称しているに過ぎず、「非円形」と円筒形ボデイの「円筒」とは矛盾するとはいえないので、請求項1に記載された「円筒形ボデイの断面が非円形」の意味が不明確とはいえない。
そして、請求項1、請求項1を引用する請求項2、請求項2を引用する請求項3の記載が、明確でないとまではいえない。

第7 甲号各証の記載内容
上記無効理由の証拠方法として挙げられた甲第2,3,5,6,10号証には、以下の技術事項が開示されている。
1.甲第2号証 (なお記載事項は甲第2号証訳文による。)
<記載事項1>
「発明は例えば特に原子力発電所において発生する放射性燃料エレメントの輸送及び貯蔵用遮蔽容器に関係している。
放射性燃料エレメントあるいは燃焼を終えた燃料エレメントを原子炉から取り出して輸送及び貯蔵を行うために、これらの物質の放射能を確実に遮蔽する容器が必要になる。したがって、この容器の構造は、先ず第一に事故の場合に容器が破損しないこと及び放射能に対する環境の保護に関連して厳しい規定が設けられている。
したがって放射性燃料エレメントの輸送及び貯蔵容器は堅固な、頑丈な構造を持ち、放射能に対して保護されていなければならない。しかしながら、放射能遮蔽材料は容器重量の最大部分を形成するので、経済的理由からできる限り少なくなるように放射能遮蔽材料を選択する必要がある。その他に輸送あるいは貯蔵される燃料エレメントの崩壊熱は確実に外側に導かれるように配慮する必要がある。」(原文第2ページ第5?22行、訳文第2ページ第3?13行)
<記載事項2>
「このため水素を含んだ材料あるいは水を使用して中性子放射を遮蔽するとともに、ガンマ線を遮蔽するために高密度の材料を組み合わせて使用することが既に提案されている。しかしながら対応する輸送容器の製造コストは高くなり、相変わらず非常に容積が大きい。提案の発明の目的は放射性エレメントを輸送し/あるいは貯蔵し、ガンマ線及び中性子線を効果的に遮蔽し、比較的軽く、コンパクトに製作し、崩壊熱を良好に導き出し、安価に製作できる容器を見出すことであった。」(原文第2ページ第13?23行、訳文第2ページ下から6行?末行)
<記載事項3>
「図は発明の実施例によって図解的に遮蔽容器の断面を示している。
遮蔽容器はガンマ線を遮蔽する円柱状鋼製容器(1)により構成され、この円柱状鋼製容器は多数の燃料エレメントを収容するために、断面が正方形の縦孔(2)を中央に配置している。この容器は300mmから400mmまでの壁厚を持ち、特に鋳造品により構成されていることが望ましい。断面が正方形の縦孔(2)の中には放射性燃料エレメントを個別に収容する縦孔が配置され、…… 縦孔2の中には…… 二重十字形のバスケット(7)が挿入されて、9個の断面正方形の個別の縦孔(8)が形成される。……それ以外の個別の縦孔は当然ながら燃料エレメント配置に用いることができる。」(原文第3ページ第6?24行、訳文第3ページ第8?19行)

そして、上記記載事項1の「放射性燃料エレメントあるいは燃焼を終えた燃料エレメントを原子炉から取り出して輸送及び貯蔵を行うために、これらの物質の放射能を確実に遮蔽する容器が必要になる。」との記載から、放射性燃料エレメントを収容する容器は、その両端で密閉することができる構造であることは明らかである。

また、円柱状鋼製容器を含む遮蔽容器の断面が示された甲第2号証記載の図について検討すると、以下の点が明らかである。
(1)上記断面は遮蔽容器及び円柱状鋼製容器の水平断面であること。
(2)円柱状鋼製容器の非円形断面が、その外周及び内周上に複数の平たん 部を有していること。
(3)円柱状鋼製容器の非円形断面の外周の平たん部数が4であり、かつ、 該外周が正方形の形状を有すること。
(4)円柱状鋼製容器の非円形断面の内外周上で平たん部が対称的配置を有 し、外周および内周上の前記平たん部が対向すること。
(5)該正方形の四隅における円弧は、該正方形の平たん部と滑らかにつな がっていること。

したがって、上記記載事項、及び上記図の記載からみて、甲第2号証には、
「放射性燃料エレメントを収容する断面が正方形の縦孔が配置した円柱状鋳造鋼製容器を含む放射性燃料エレメントの輸送及び貯蔵用遮蔽容器であって、その両端で密閉することができ、前記円柱状鋳造鋼製容器の断面が非円形であり、非円形断面が、その外周及び内周上に複数の平たん部を有しており、非円形断面の外周の平たん部数が4であり、かつ、該外周が正方形の形状を有し、平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向し、該正方形の四隅における円弧は、該正方形の平たん部と滑らかにつながっている放射性燃料エレメントの輸送及び貯蔵用遮蔽容器。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

2.甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載内容が記載されている。
<記載内容1>
技術報告「使用済燃料輸送貯蔵容器の設計・製作」(第19?24ページ)には、TN24型輸送貯蔵容器の概要、プロトタイプモデルの製作、及びプロトタイプモデルの実証試験について記載されている。TN24型輸送貯蔵容器の容器本体について、胴及び底板は、鍛造炭素鋼製であり、厚肉の円筒胴と円板状の底板の突合せ溶接で作られ、蓋部については、鍛造炭素鋼製の円板状であり、ボルトで本体前部端面に取り付けられる。バスケットは、個々の燃料集合体をキャビティ内の所定の位置に収納し、それらの相対的位置を確保するためのものである。(第21ページ)
以上から、甲第3号証には、鍛造炭素鋼製の使用済燃料輸送貯蔵容器において、容器の形状として、円筒形のものが開示されている。

3.甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載内容が記載されている。
<記載内容2>
「・Magnoxのフラスコ容器(湿式)
このデザインは、図5に示される。BNFLとPNTLは、イタリアのLatinaの原子炉燃料と、日本の東海村の原子炉燃料とをセラフィールドへ輸送するために、これを用いている。このタイプはまた、英国のCEGB及びSSEBによって、英国国内のMagnox燃料の輸送に大規模に使用されている。これは、蓋付きの非常に重い一体鍛造鋼製の直方体構造物からなる。燃料要素は、上部開口の鋼製容器(スキップ)の中に水平に配置され、スキップはフラスコ容器に装填される。このフラスコ容器には、燃料を完全に浸漬して、フラスコ容器本体への熱伝達を補助するのに十分な程度まで部分的に水が満たされる。フラスコ容器の壁厚は、36.8cmであり、その外面には熱の放散を改善するために冷却フィンが溶接されている。」(第311ページ第19行?第312ページ第2行、訳文第2ページ第25?36行)
<記載内容3>
酸化燃料用乾式キャスクが、鍛造製炭素鋼の円筒と、燃料要素を受け入れるためのバスケットとを有し、バスケットがフラスコ容器内に設置される旨記載されている(第312ページ第32行?第314ページ第3行、訳文第3ページ第18?35行)。
<記載内容4>
図7には、円形断面のバスケットが開示され、一方円筒の中空部が円形断面に形成されていることが開示されている。

以上から、甲第5号証には、核燃料集合体の輸送用鍛造鋼製容器において、容器の形状として、円筒形のものが開示されている。

4.甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載内容が記載されている。
<記載内容5>
核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鋳造製厚肉円筒形ボディを有する核燃料集合体容器であって、内側円筒形ボディは、劣化ウランのものであり、非円形断面を有するものを開示する(第1781?1787ページ)。
<記載内容6>
「キャスクの横断面は、燃料要素の周囲に密着するように形成されていて、重量を最小化している。・・・角を丸めたデザインによれば、同一容積の円形デザインに比べて、約3,000lbsの重量が軽減される。この特徴のために、我々の4個又は9個の要素のデザインは、80,000lbsというLWT制限を満足する。我々は、有限要素技術を用いてキャスク本体を解析し、過剰な曲げ応力を防止できるように、角の丸めのサイズを定めた。」(第1784ページ第29行?第1785ページ第2行)

以上から、甲第6号証には、重量の観点も考慮して、キャスクの断面形状を角を丸めたデザインとし、核燃料集合体の外形に合わせて形作ること、及び過剰な曲げ応力を防止できるように、上記角の丸めのサイズを定めることが開示されている。

5.甲第10号証
甲第10号証には、以下の記載内容が記載されている。
<記載内容7>
「キャスクは、一体鋳造された厚肉の鋳鉄製本体からなる。..... キャスクの中央キャビティは、使用済み燃料集合体を分離し、支持するステンレス製バスケットを収納する。』(第3.1ページ第14?18行、訳文第1ページ第15?17行)
<記載内容8>
「ガンマ線及び中性子放射線は、キャスクの鋳鉄製壁によって遮へいされる。」(第3.1ページ第25?26行、訳文第1ページ第24?25行)
<記載内容9>
「キャスクの外表面は、軸方向レベルに応じて異なる。キャスクの頂部及び底部の近くは、表面は、径81905mm(「径1905mm」の誤記である。)の円筒形であるが、機械加工による4つの平坦面を備え、平坦面間の距離は1730mmである。」(第3.3ページ第26?29行、訳文第2ページ第9?11行)
<記載内容10>
FIGURE6-4(第6.6ページ)及びFIGURE6-5(第6.7ページ)にはそれぞれ、キャスクの頂部及び底部の4分の1軸対称断面モデルが開示され、それぞれの図面上、上部と右側部に平らな表面が示されている。
<記載内容11>
FIGURE 3.2、6.2、6.5には、それぞれ、核燃料集合体容器において、核燃料集合体容器を構成する環の内周が角稜部を丸めた正方形の形状を有する点が図示されている。

以上から、甲第10号証には、「核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鋳造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びており、非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設けられた核燃料集合体容器」が記載されており、さらに、そのFIGURE 3.2、6.2、6.5には、それぞれ、核燃料集合体容器において、核燃料集合体容器を構成する環の内周が角稜部を丸めた正方形の形状を有する点が図示されている。

第8 当審の判断
1.本件発明1に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
本件発明1と引用発明とを対比、判断する

(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「放射性燃料エレメント」、「断面が正方形の縦孔が配置した」、「円柱状」は、本件発明1の「核燃料集合体」、「キャビティを画定する」、「円筒形」に相当する。
イ.引用発明の「円柱状鋳造鋼製容器」と本件発明1の「鍛造鋼製厚肉円筒形ボディ」とは、鋼製厚肉円筒形ボディという点で一致する。
ウ.引用発明の「放射性燃料エレメントの輸送及び貯蔵用遮蔽容器」は、本件発明1の「核燃料集合体容器」又は「容器」に相当する。
エ.引用発明の「非円形断面が、その外周及び内周上に複数の平たん部を有しており」と本件発明1の「非円形断面が、外周及び内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され」とは、非円形断面が、外周及び内周上に単数または複数の平たん部を有しておりという点で一致する。
オ.引用発明の「非円形断面の外周の平たん部数が4であり、かつ、該外周が正方形の形状を有し、該正方形の四隅における円弧は、該正方形の平たん部と滑らかにつながっている」と本件発明1の「環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持される」とは、非円形断面の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有しという点で一致する。

したがって、両者は
「核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を有しており、非円形断面の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有することを特徴とする容器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
鋼製厚肉円筒形ボディを構成する鋼が、本件発明1は、鍛造鋼であるのに対して、引用発明は、鋳造鋼である点。
[相違点2]
円筒形ボディの非円形の断面が、本件発明1は、円筒形ボディの高さ全体にわたって延びているのに対して、引用発明は、そのように限定されていない点。
[相違点3]
円筒形ボディの非円形の断面が、本件発明1は、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成されるのに対して、引用発明は、そのように限定されていない点。
[相違点4]
平たん部数が2、4または6である点に関して、平たん部が設けられる位置を、本件発明1は、環の外周と限定しているのに対して、引用発明は、そのように限定されておらず、また、本件発明1は、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持されるのに対して、引用発明は、そのように限定されていない点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点1について
甲第3、5号証に記載されているように、核燃料集合体を収納する円筒形鋼製容器として鍛造鋼製容器は、周知技術に過ぎなく、また、一般に、鋼製容器を構成する際、鋳造によるか、鍛造によるかは、容器の強度、加工の容易性、容器の構造等を勘案して適宜に選択し得る事項である。
してみると、引用発明の円柱状鋳造鋼製容器に代えて、選択肢の1つとして周知の円筒形鍛造鋼製容器を採用することに困難性はないというべきである。

したがって、相違点1に係る本件発明1の構成要件は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

イ.相違点2について
甲第2号証に記載された、円柱状鋼製容器を含む遮蔽容器の断面図は、遮蔽容器及び円柱状鋼製容器の水平断面図であるが、円柱状鋼製容器を含む遮蔽容器の鉛直方向、即ち円柱状鋼製容器の高さ方向の断面位置が、甲第2号証には明記されていない。しかし、甲第2号証の記載全体からみて、円柱状鋼製容器の高さ方向の途中で断面形状を変える特段の事情もなく、当業者が上記図を見れば、上記断面は任意の高さにおけるもの、すなわち、本件発明1でいう「円筒形ボディの非円形の断面」が、「円筒形ボディの高さ全体にわたって延びていること」を読み取ることができる。
また、甲第10号証には、上記したように、核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器において、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びていることが記載されている。
(なお、平成18年6月23日に行われた口頭審理において、請求人および被請求人の両者は、甲第10号証における上記記載について認めている(第1回口頭審理調書)。

したがって、相違点2に係る本件発明1の構成要件は、甲第2、10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

ウ.相違点3及び4について
相違点3及び4に係る円筒形ボディの非円形断面の外周に関して、引用発明と本件発明1との構成上の差異及び効果上の差異を以下に検討する。

相違点4に係る本件発明1の構成要件は、「非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され、環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持される」である。
そこで、上記構成要件における選択肢の一つである「環の外周の平たん部数が4であり」、「環の外周が正方形の形状を有し、円環部の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持されること」という構成要件について検討する。
相違点3に係る本件発明1の構成要件のうちの「非円形の断面が、外周上に複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され」たことを考慮すると、本件の第1図からも理解できるように、丸い角稜部は、上記正方形の平たん部とつながっているものの、滑らかにつながっているとはいえない。
一方、引用発明は、「非円形断面の外周の平たん部数が4であり、かつ、該外周が正方形の形状を有し、上記正方形の四隅における円弧は、該正方形の平たん部と滑らかにつながっている」ものであり、本件発明1の「上記丸い角稜部」に相当する円弧と平たん部とのつながりが「滑らか」であり、「滑らかでない」本件発明1とは異なるものである。
しかしながら、円筒形ボディにおいて、本件発明1の相違点3及び4に係る構成要件を採用することにより、正方形の平たん部と丸い角稜部とのつながりが、「滑らかでない」ことで、引用発明の「滑らかである」ものに比して、核燃料集合体を収納する容器として格別顕著な作用効果が生じるとはいえず、相違点3及び4に係る本件発明1の構成要件は、必要に応じて適宜になし得る設計事項といえる。
なお、甲第6号証に示されるように、重量の観点も考慮して、キャスクの断面形状を角を丸めたデザインとし、核燃料集合体の外形に合わせて形作ること、及び過剰な曲げ応力を防止できるように、上記角の丸めのサイズを定めることは、周知技術である。

したがって、相違点3及び4に係る本件発明1の構成要件は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本件発明1の作用・効果も、甲第2、10号証の記載及び周知技術から予測される範囲内のものである。

よって、本件発明1は、甲第2、10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2.本件発明2に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
本件発明2は、本件発明1に対して、「平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向すること」という限定事項を付加した発明である。
そこで、本件発明2と引用発明とを対比、判断する
「第7 甲号各証の記載内容 」の「 1.甲第2号証」において認定したように、引用発明は、本件発明2の上記限定事項を有し、本件発明1が、甲第2、10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様に、本件発明2は、甲第2、10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

3.本件発明3に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
本件発明3は、本件発明2に対して、「平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の内外周が角稜部を丸めた正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有すること」を限定した発明である。
そこで、限定した上記構成について検討する。
上記したように、甲第10号証には、「核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びており、非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設けられた核燃料集合体容器」が記載され、さらに、そのFIGURE 3.2,6.2,6.5には、それぞれ、該核燃料集合体容器において、核燃料集合体容器を構成する環の内周が角稜部を丸めた正方形の形状を有する点が図示されている。
してみると、本件発明3で限定した上記構成は、甲第10号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本件発明3の作用・効果も、甲第2、10号証の記載及び周知技術から予測される範囲内のものである。

したがって、本件発明2が、上述したように、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである点、また、上記限定した点についての検討結果を踏まえると、本件発明3は、甲第2、10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本件発明3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至3は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非円形断面鍛造鋼ボディを備える核燃料集合体用容器
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、核燃料集合体の輸送または保管用容器またはコンテナであって、通常鍛造鋼を材質とし集合体が挿入されるキャビティを画定する鍛造金属製ボディを含む容器に関する。
本発明は、この容器を実現する手段にも関する。
現況技術および提起される課題
核燃料集合体は通常、多角形または円筒形であり、断面は正方形(例:PWR、BWR、...)が多く、場合によっては六角形(VVER、...)、場合によっては円形(CANDU、RBMK、...)である。
容器の設計者の課題は、現行の画定を守りながら容器のキャビティ内に最大限の集合体を収納できるようにすることである。容器は特に、
・収納される放射性物質からの放射に対する充分な遮蔽と、
・突発条件下であっても収納される放射性物質を確実に密閉するため、充分な物理的強度および密閉性と、
・キャビティ内に収納される放射性集合体から万一熱が発生した場合、これを容器のボディ方向に回収し温度上昇が制限されるようにするため、充分な熱伝導性と
を有さなければならない。
また容器の重量およびその空間占有寸法は、供給設備(原子炉、中間貯蔵設備、再処理工場、輸送手段)の装置に適合するよう、制限を設けなければならない。
特に、断面が燃料集合体の断面に合わせた形状をもつキャビティ、ならびに複数の容器の横並び保管により可能な限り占有面積を少なくするような形状のボディを有する容器を使用することは有利である。
この観点から見た場合、正方形断面燃料集合体を収納するために、例えば円形断面キャビティを有する容器を使用することは最良の方法とは言えない。同様に、ボディの外面が円形の断面を有する容器も常に好適であるとは限らない。
金属製容器の製造に関しては、鋳鉄製容器(鋳造)、鋼/鋼多層容器(ローリング/溶接)、鉛製容器(二つのローリング/溶接鋼製容器間で鋳造した鉛)、鍛造鋼容器(鍛造し次いで旋盤で切削加工したリング)等、いくつもの技術が存在する。
このように軸を中心として回転させる方法(鋼板ローリング、リング鍛造、旋盤切削等)に基く技術は、保管のコンパクトさという上述の構想を実現する上では好ましくない。
また、鋳造等の方法に基く技術により、非円形断面の容器を得ることが原則的には可能であるが、鋳造材の健全性に関わる理由から、冷却条件の管理にすぐれる円形の容器形状を使用する方が好適であることが多い。
例えば英国特許第2003782号には、非円形断面鋳鉄または鋳造鋼製の、放射性廃棄物の輸送および移動用コンテナが記載されている。
また、フランス特許第2563652号には、間に中性子吸収薄肉スクリーンが挿入される最大4mm厚の二つの鋼製壁を含むブランケットが記載されている。
このような経緯から出願人は、必要な密閉条件、熱伝導条件、および機械的強度条件を満たしつつ収納される燃料集合体量に対し重量および空間占有面積で有利さを有する容器の開発を試みた。
発明の説明
本発明は、核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鍛造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティが、同じく金属製の蓋により両端において密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であることを特徴とする容器である。
従って本発明による容器は、断面が円形でない金属製円筒形ボディである。換言すれば、前記断面は、内外周が円形ではなく通常直線部分を含む環の外観を有する。周囲は例えば、角稜部が丸められた正方形または他の同心正多角形の形状を有することが可能である。
これは、円形断面を有し、集合体が収納される内部空隙を画定する厚肉金属リングから、研削によりリングの外壁の高さ部分全域にわたり単数または複数の平たん部を設けたことおよび/または、キャビティの内壁に符合しキャビティに固定される三日月形部品をキャビティ内部に挿入することによってつくられる。これは、円形断面を有し、集合体が収納される内部空隙を画定する厚肉金属リングから、リングの外壁上および/または内壁上に単数または複数の平たん部を設けることによって作成する。前記平たん部は通常、内外周上で対称的配置を有し対向している。そのため前記平たん部を研削により外壁の高さ部分全域にわたって設けかつ/または、内壁にぴったり合い内壁に固定される三日月形部品をキャビティ内部に少なくとも一つ挿入することによって作成する。
平たん部数は2から4または6とすることができ、平たん部が四つある場合は環の内外周は正方形または長方形を有し、平たん部が六つある場合は、あるいは六角形の形状を有する。
本発明による非円形断面金属製円筒形ボディの厚みはどの箇所においても、仕様に適合した遮蔽を確保するのに充分である。厚みは通常、数十センチメートルに達する。
内部キャビティの形状は、キャビティに収納すべき燃料集合体の種類に合わせることが可能であることがわかる。従って例えば集合体が正方形の断面を有する場合には、通常角稜部を丸めた正方形または長方形断面を有するキャビティを選択するのが好ましく、それにより、充填係数を向上させること(円形断面キャビティよりも死空間が少ない)が可能である。
通常、内壁の平たん部分に対向する平たん部を、円筒形ボディの外壁上に設けることにより、充分な遮蔽と機械的強度を容器に残しつつもその重量と空間占有面積の両者とも少なくなり、さらに平たん部の外形により、容器m2あたりの保存密度が増加する。
金属製円筒形ボディの内部に位置するキャビティは通常、両端が塞がれる。一方は例えばつば有/つば無の溶接底蓋で塞がれ、他方は取り外し可能な蓋で塞がれる。
本発明による円筒形ボディを得るため改造される元の円形断面リングは通常、鍛造鋼を母材とする。
従って、本発明による容器の円筒形ボディも同じ材質である。
このように、まず円形断面円筒形ボディを形成するため、鍛造鋼リングの内外壁が旋盤で同軸に切削加工され、次いで、少なくともリングの高さ部分全域、ならびに好ましくは対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の平たん部を得るため、外壁が研削された。
三日月形部品数は好ましくは2、4または6であって、全数が同一であるかまたは同一ではなく、弦が対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称である。
リングの内壁および三日月形部品は、例えばシューピングによって実行されるAl-Zn堆積物等、金属堆積物で被覆される。
第1図は、本発明による容器の横断面図である。
第2図は、ボルトによる、円筒形ボディの内壁上への三日月形部品の固定方法の詳細を示す図である。
第1図において
・(1)は非円形容器の金属製円筒形ボディであり、
・(2)は容器の内部空隙であり、
・(3)は、研削により外壁4上に平たん部(5)が加工された元の厚肉リングであり、
・(6)は、三日月形部品(7)が固定されたリングの内壁であり、リングの断面の周囲は主に、内壁(6)によって制限される内部キャビティ(2)の直径と同じ直径の円弧(8)を含み、内部キャビティ(2)の平面となる弦(9)は円弧(8)に対する。
従って、平たん部(5)と、平たん部(5)に平行な弦(9)に対する三日月形部品(7)とを含む容器の円筒形ボディは確かに非円形断面を有する。
平たん部および三日月部品の寸法は変更することができ、キャビティ2内に収納すべき集合体に合わせることが可能である。ただし、円筒形ボディ1の厚みが遮蔽および機械的強度の要件を満たすよう注意しなければならない。
第2図には、リング(3)と、ボルト(10)によりリングの内壁6上に固定された三日月形部品(7)を示す。
(57)【特許請求の範囲】
1.核燃料集合体を収納するキャビティを画定する鍛造鋼製厚肉円筒形ボディを含む核燃料集合体容器であって、前記キャビティはその両端で密閉することができ、円筒形ボディの断面が非円形であり、前記円筒形ボディの非円形の断面は該円筒形ボディの高さ全体にわたって延びており、
非円形断面が、外周および内周上に単数または複数の平たん部を設ける円形環を基にして形成され、
環の外周の平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の外周が正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有し、円形環の形状は、丸い角稜部を形成するために部分的に維持されることを特徴とする容器。
2.平たん部が内外周上で対称的配置を有し、外周および内周上の前記平たん部が対向することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の容器。
3.平たん部数が2、4または6であり、かつ後二者の場合、環の内外周が角稜部を丸めた正方形または長方形、あるいは六角形の形状を有することを特徴とする請求の範囲第2項に記載の容器。
4.少なくとも一つの三日月形部品であって、その断面が、弦が対するキャビティの直径と同じ直径の円弧を含む三日月形部品がキャビティの壁上に固定され、三日月形部品がキャビティの壁の形状に符合し、弦が内部平たん部に対応することを特徴とする請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の容器。
5.円形断面を有する肉厚金属製リングを基にし、まず円形断面円筒形ボディを形成するため、内外壁を旋盤で同軸に切削加工し、次いで、リングの高さ部分全域にわたり少なくとも一つの平たん部を得るため外壁を研削し、さらに弦が対する内壁の半径と同一の半径の円弧を断面が含む少なくとも一つの三日月形部品を、円筒形ボディの内壁に押圧してキャビティ内に固定し、単数または複数の平たん部が単数または複数の弦と対で平行であることを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか一項に記載の容器を得る方法。
6.対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の平たん部を得るために、外壁が研削され、弦が対で平行であり、円筒形ボディの軸を基準として同じく対で対称な2、4または6個の三日月形部品を固定することを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方法。
7.三日月形部品がボルト締めにより内壁上に固定されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第4項に記載の容器。
8.内壁および三日月形部品がAl-Zn金属堆積物で被覆されることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項によって得られた請求の範囲第3項または第7項に記載の容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-08-10 
結審通知日 2006-08-15 
審決日 2006-09-11 
出願番号 特願平7-524413
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (G21F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 末政 清滋
森口 良子
登録日 2003-12-12 
登録番号 特許第3502100号(P3502100)
発明の名称 非円形断面鍛造鋼ボディを備える核燃料集合体用容器  
代理人 岡 潔  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  
代理人 辻居 幸一  
代理人 高石 秀樹  
代理人 川口 義雄  
代理人 川口 義雄  
代理人 奥村 直樹  

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