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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1152794
審判番号 不服2004-19760  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-24 
確定日 2007-02-22 
事件の表示 特願2002-382928「熱転写記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 3日出願公開、特開2003-182254〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成6年5月21日に出願した特願平6-131249号(以下、「原出願」という。)の一部を平成14年12月2日に新たな特許出願としたものであって、平成16年8月16日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月25日付で手続補正がなされたものである。

II.平成16年10月25日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年10月25日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成16年10月25日付の手続補正には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項が含まれている。
「【請求項1】 基材上に、プライマー層、熱溶融性インク層及びオーバーコート層を順次積層してなる熱転写記録媒体において、該オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠する、入射角75°におけるグロス値が90%以上であることを特徴とする熱転写記録媒体。」

上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠するグロス値」について、その測定条件が「入射角75°における」ものであるとの限定を付加し、同じく当該「グロス値」の下限値を「60%以上」から「90%以上」へと減縮したものであるから、特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて以下に検討する。

2.刊行物に記載された事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開平2-141290号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a)「(1)少なくとも基材と、インクをエマルジョンの状態で塗工、形成するインク層と、インク層上に色材を含まない層(以下トップ層とする)を有する熱転写記録材に於て、前記トップ層中に、粘着付与剤を含んで成る事を特徴とする熱転写記録材。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「熱転写記録材の構造としては、基材、スティッキングを防ぐことを目的とした耐熱性保護層、熱溶融性インク層、インク層及び基材間に転写性向上を目的としたインク剥離層、必要に応じインク層上に接着層を設ける構造が一般的である。
しかし、本熱転写記録方式の転写性は、転写紙に普通紙を用いた場合、普通紙表面の凹凸、表面物性、インク層の接着力、浸透性等に大きく影響される。特に表面凹凸の大きい紙の場合には熱溶融したインクが凸部或はその近傍にのみ付着するため、印字された像の一部が欠けたりして印字品位を低下させることになる。
上記課題を解決するための手段として、…インク層成分を水に分散させる技術が考案されている。…
しかし、従来の熱転写記録材ではインク層組成が粒子として存在する為に、着色材等の密着性が悪く、転写時にヘッド発熱体部以外にもインクが転写してしまう地汚れが発生するといった問題があった。この地汚れを防止する為にはトップ層をインク層上に設ける事により可能であるが、トップ層組成の種類により紙への密着性が劣り、印字品位が悪いといった課題を有していた。そこで本発明は前途したような課題を解決する為に成されたもので、その目的とするところは紙への密着性が優れ、且つ印字品位の優れた熱転写記録材を提供することにある。」(第1頁右下欄第17行?第2頁右上欄第14行)
(1c)「上記課題を解決するために、本発明の熱転写記録材は、少なくとも基材と、インクをエマルジョンの状態で塗工、形成するインク層とトップ層を有する熱転写記録材に於て、前記トップ層中に、粘着付与剤を含んで成る事を特徴とする。」(第2頁右上欄第16行?同頁左下欄第6行)
(1d)「基材1とインク層3の間に、インク層3の密着性向上及び転写時のインクの剥離性の向上を目的とした剥離層を設けても良い。」(第3頁右上欄第12?14行)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開平4-90385号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2a)「(1)支持体上に染料及び/又は顔料と融点或いは軟化点が60?150℃の熱可塑性樹脂及び/又はワックスとを主成分とした転写層を設けた熱転写記録媒体において、該転写層表面の光沢度(Gs)が40≦Gs(85°)≦85%(JIS Z-8741-1983による)であることを特徴とする感熱転写記録媒体。」(特許請求の範囲第1項)
(2b)「本発明者らは、転写層表面の光沢度を40≦Gs(85°)≦85%の範囲に収めるようにすれば、平均粒径0.1?10μm程度の微粒子を含む塗工液を調製することが必要となり、これによって、転写層表面に微小な凹凸が形成され、その凹凸の程度による光の散乱量の変化が、光沢度の変化として表われる。そして、この光沢度を前記範囲に存在せしめるようにしておくことで光沢度の下限規定により、表面に大きな凹凸が形成されるため転写不良(画像抜け)が発生しないので高濃度で良質な画像が得られる。また光沢度の上限規定により、均一で微小な凹凸を転写層表面に形成することができ、この凹凸により、転写層とバック面との密着を防止し、ブロッキングの発生を防ぐことができる、という現象がもたらされ、前記課題が達成しうることを確めた。本発明はこれによりなされたものである。」(第2頁右下欄第13行?第3頁左上欄第9行)
(2c)「本発明に係る転写層の表面の光沢度は、JIS Z-8741-1983の方法において40≦Gs(85°)≦85%であるが、好ましくは35%≦Gs(75°)≦65%、更に好ましくは10%≦Gs(60°)≦30%である。」(第3頁右上欄第2?5行)
(2d)実施例及び比較例の熱転写記録媒体のその転写層を上質紙表面に密着させて、熱転写プリンターを用いて0.7nj/dotのエネルギーを与えて印字を行ない、印字画像の画像濃度、均一性、耐ブロッキング性を調べた結果を示した表-3には、転写層の光沢度Gs(75°)がそれぞれ71,75,69,70である比較例1,3?5は、耐ブロッキング性には劣るものの、印字画像の画像濃度は実施例の場合と同様に1.8?1.9であり、均一性も実施例の場合と同様に良好(ベタ印字部のボイドなし)であることが記載されている。(第5頁右上欄第12行?第7頁左下欄末行)

3.対比・判断
上記摘記事項(1a)?(1d)より、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「少なくとも基材と、インクをエマルジョンの状態で塗工、形成するインク層と、インク層上に色材を含まない層(以下トップ層とする)を有する熱転写記録材に於て、基材とインク層の間に剥離層を設けた熱転写記録材。」

本願補正発明と、刊行物1発明とを対比すると、後者における「インク層」、「トップ層」、「剥離層」、「熱転写記録材」は、それぞれ前者における「熱溶融性インク層」、「オーバーコート層」、「プライマー層」、「熱転写記録媒体」に相当する。

してみると、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「基材上に、プライマー層、熱溶融性インク層及びオーバーコート層を順次積層してなる熱転写記録媒体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明が、「オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠する、入射角75°におけるグロス値が90%以上である」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、かかる特定がない点。

そこで、相違点について検討する。
刊行物2には、JIS Z-8741-1983の方法における転写層の表面の光沢度は、35%≦Gs(75°)≦65%が好ましい点が記載されており(2c参照)、光沢度Gs(75°)とは、入射角75°におけるグロス値と同じものであるから、上記数値範囲は、本願補正発明の数値範囲から外れるものである。
しかし、刊行物2の入射角75°におけるグロス値の上限規定は、ブロッキングの発生防止の観点から定められたものであり、「転写性」については、下限規定以上であれば良いことが示されている(2b参照)。
更に、刊行物2の実施例及び比較例の記載を検討しても、グロス値が上限規定を超える比較例は、耐ブロッキング性には劣るものの、印字画像の画像濃度や均一性(ベタ印字部のボイドの有無)などで評価される「転写性」については、グロス値が規定範囲内にある実施例と同様の結果を示すことが記載されている(2d参照)。
これらのことから、グロス値が上限規定以上のものは、耐ブロッキング性においては上限規定以内のものに劣るものの、「転写性」においては、上限規定以内のものと同様の特性が得られることが予測される。
刊行物2に記載の転写層は、本願補正発明でいうところのインク層であるが、紙などの被転写記録媒体に直接密着する最表面の層でもあるから、紙への「転写性」を良好にするために最表面の層のグロス値を調整するという技術思想は、刊行物2に示されている。
してみれば、刊行物1発明において、平滑性が低い紙に対する「転写性」を良好にすることのみを目的として、最表面層であるオーバーコート層のグロス値を、刊行物2に記載された範囲の上限規定を越える、より高い範囲に設定することは、当業者にとって格別困難ではなく、本願明細書の実施例・比較例をみても、入射角75°におけるグロス値が、60?75%,75?90%,90%以上の3者間において効果には差異がなく、入射角75°におけるグロス値を90%以上に限定したことにより、格別顕著な効果が生じたとは認められない。
よって、刊行物1発明において、オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠する、入射角75°におけるグロス値を90%以上とすることは、当業者にとって容易になし得ることである。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
1.本願の請求項に係る発明
平成16年10月25日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 基材上に、プライマー層、熱溶融性インク層及びオーバーコート層を順次積層してなる熱転写記録媒体において、該オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠するグロス値が60%以上であることを特徴とする熱転写記録媒体。」

2.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開平2-141290号公報(以下、「刊行物1」という。)、および原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開平4-90385号公報(以下、「刊行物2」という。)には、前記II.2に記載したとおりの事項が記載されている。
更に、刊行物2には下記の点が記載されている。

(2e)転写層の光沢度Gs(75°)が61である実施例7の熱転写記録媒体のその転写層を上質紙表面に密着させて、熱転写プリンターを用いて0.7nj/dotのエネルギーを与えて印字を行なったところ、印字画像の画像濃度は2.0であり、均一性も良好(ベタ印字部のボイドなし)であることが記載されている。(第5頁右下欄下から6行目?第6頁右上欄末行、第7頁左上欄第1行?同頁左下欄末行)

3.対比・判断
上記摘記事項(1a)?(1d)より、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「少なくとも基材と、インクをエマルジョンの状態で塗工、形成するインク層と、インク層上に色材を含まない層(以下トップ層とする)を有する熱転写記録材に於て、基材とインク層の間に剥離層を設けた熱転写記録材。」

本願発明1と、刊行物1発明とを対比すると、後者における「インク層」、「トップ層」、「剥離層」、「熱転写記録材」は、それぞれ前者における「熱溶融性インク層」、「オーバーコート層」、「プライマー層」、「熱転写記録媒体」に相当する。

してみると、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「基材上に、プライマー層、熱溶融性インク層及びオーバーコート層を順次積層してなる熱転写記録媒体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明1が、「オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠するグロス値が60%以上である」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、かかる特定がない点。

そこで、相違点について検討する。
本願発明1には、どのような入射角におけるグロス値なのか明記されていないが、発明の詳細な説明の実施例には、「熱転写記録媒体のオーバーコート層のJIS-Z8741に準拠するグロス値(%)を…入射角75°で測定した。」と記載されていることから、入射角75°におけるグロス値であるものと認められる。
そして、刊行物2には、JIS Z-8741-1983の方法における転写層の表面の光沢度は、35%≦Gs(75°)≦65%が好ましい点が記載されており(2c参照)、光沢度Gs(75°)とは、入射角75°におけるグロス値と同じものであるから、上記数値範囲は、本願発明1のそれと重複し、しかも、刊行物2の実施例7,比較例1,3?5は、本願発明1のそれに含まれるものであり、当該比較例は、耐ブロッキング性には劣るものの、印字画像の画像濃度や均一性(ベタ印字部のボイドの有無)などで評価される「転写性」については、当該実施例と同様の結果を示すことが記載されている(2d、2e参照)。
刊行物2に記載の転写層は、本願発明1でいうところのインク層であるが、紙などの被転写記録媒体に直接密着する最表面の層でもあるから、紙への「転写性」を良好にするために最表面の層のグロス値を調整するという技術思想は、刊行物2に示されている。
してみれば、刊行物1発明において、平滑性が低い紙に対する「転写性」を良好にすることのみを目的として、最表面層であるオーバーコート層のグロス値を最適化することは、当業者にとって格別困難ではなく、本願明細書及び図面を検討しても、入射角75°におけるグロス値を60%以上に限定したことにより、格別顕著な効果が生じたとは認められない。
よって、刊行物1発明において、オーバーコート層の表面のJIS-Z8741に準拠する、入射角75°におけるグロス値を60%以上とすることは、当業者にとって容易になし得ることである。

IV.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1ないし刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-12 
結審通知日 2006-12-19 
審決日 2007-01-09 
出願番号 特願2002-382928(P2002-382928)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 福田 由紀
藤岡 善行
発明の名称 熱転写記録媒体  
代理人 田治米 惠子  
代理人 田治米 登  

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