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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1153012
審判番号 不服2004-17570  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-26 
確定日 2007-02-27 
事件の表示 平成 7年特許願第515942号「核酸の保護方法および分析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月15日国際公開、WO95/15974、平成 9年 6月24日国内公表、特表平 9-506255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年11月30日(パリ条約による優先権主張平成5年12月6日、英国)に国際出願されたものであって、平成16年7月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月24日付で願書に添付した明細書について手続補正がなされたものである。

2.平成16年9月24日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年9月24日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「試料中に含まれるある核酸配列の存在を検出する方法であって、該配列が該試料中に存在すれば配列特異的にそれにハイブリダイズすることができる核酸類似体に該試料をハイブリッド形成条件下で接触させて該核酸類似体と該配列を含む該核酸との間に複合体を形成させ、核酸を分解することができる試薬による攻撃から該核酸複合体の該配列は保護されるが該核酸の残りは分解されるような条件下で該核酸を該試薬に接触させ、そして核酸類似体の性質とは異なる核酸-核酸類似体複合体の性質に基づいて該複合体の存在を検出することを含み、該核酸類似体が、連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミド又はポリスルホンアミドのバックボーンである、方法。」

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明の構成に欠くことができない事項の一部である「核酸類似体」について「連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミド又はポリスルホンアミドのバックボーンである」との限定を付加するものであり、また、当該補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえるから、平成6年改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前の特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に適合するか)、どうかについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第92/20703号(以下、引用例1という。)には、次の記載がある。
なお、以下当該引用例1の該当箇所を示す際には、便宜的に、引用例1と実質的に同一内容が記載された特表平6-509063号公報の頁番号、行番号を用いることとする。
(2-1)請求の範囲に、
「一つまたはそれ以上の化学的または微生物的個体単位についてその捕捉、認識、検出、同定または定量化を行うために使用する核酸類縁体であって、かかる類縁体が以下であるもの:即ち、(a)主鎖に沿ったそれぞれ空間を置いた異なる位置において複数のリガンドを有するポリアミド主鎖から構成されるペプチド核酸(PNA)において、前記リガンドがそれぞれ独立して天然の核酸塩基、非天然の核酸塩基または核酸塩基結合基であり、前記リガンドは各々前記主鎖の窒素原子に直接または間接に結合せしめられ、かつ前記リガンドが4つから8つまでの介在する原子によって前記主鎖のなかで相互に分離された窒素原子を有するものである、前記ペプチド核酸(PNA)、(b)核酸類縁体であって、相補的配列の核酸とハイブリッド形成して、前記類縁体に相当する従来公知のデオキシリボヌクレオチドと前記核酸との間で形成されたハイブリッドよりも熱による変性に対する安定性がより高いハイブリッドを形成する能力を有する前記核酸類縁体;または(c)核酸類縁体であって、一本鎖が前記類縁体に相補的である配列を有する二重鎖核酸とハイブリッドを形成して、かくして前記一本鎖からもう一方の鎖を置換せしめる能力を有する前記核酸類縁体。」(請求項1)、
「2.以下の一般式を有する、請求の範囲第1項において請求された核酸類縁体:(ここでは、式は省略)」(請求項2)、
「3.以下の一般式を有する、請求の範囲第2項において請求されたペプチド核酸:(ここでは、式は省略)」(請求項3)、
「20.二本鎖標的核酸を検出し、同定しまたは定量化する方法において、置換されない鎖が置換核酸類縁体に相補的な配列を有する二本鎖標的から一本鎖を置換することができる置換核酸類縁体を該標的核酸にハイブリッドさせるに際して、前記置換核酸類縁体の配列が、自らにハイブリッドするに充分に相補的であって、その結果、一本鎖の形態において前記標的の一本鎖を置換するものであって、かつその後に前記置換された一本鎖を存在を検出するかまたは定量化することから成る、前記検出、同定または定量化する方法。」(請求項20)、
「21.置換された鎖をフラグメントに切断しかつ前記フラグメントの存在を検出する、請求の範囲第20項において請求された方法。」(請求項21)、
「22.前記置換された鎖がヌクレアーゼの攻撃によって切断される、請求の範囲第21項において請求された方法。」(同、請求項22)
と記載されている。
(2-2)明細書に、請求項20?22に係る発明について、「本発明は、前記において定義した置換核酸類縁体に相補的な配列を一方の鎖が有する二本鎖標的から他の一本鎖を置換する能力がある前記核酸類縁体を二本鎖標的にハイブリッドさせるに際して、前記置換核酸類縁体が、ハイブリダイゼーションさせるに充分な、前記二本鎖標的の内の前記もう一方の鎖に対する相補的配列を有しており、その結果一本鎖の形態における前記標的の前記一本鎖を置換するものであり、次いで前記二本鎖標的からの置換後に前記一本鎖の存在を検出しまたはこれを定量化することから成る、二本鎖標的核酸を検出し、同定しまたは定量化する方法を包含する。このように置換された一本鎖を断片に破断し、次いで前記斑だ(断片の誤記と思われる)の存在を検出してもよい。置換された一本鎖は好ましくは、ヌクレアーゼによる作用によって破断させてもよい。すなわち、特異的な二本鎖標的核酸配列の存在の検出を、該標的核酸配列に相補的PNAをハイブリッドさせて鎖置換を行わしめ、かくして該反応混合物中において一本鎖DNAを生成せしめ、次いでヌクレアーゼを用いて一本鎖DNAを消化させてヌクレオチド類を生成させることによって行うことが出来るが、この際かかるヌクレオチドの存在を、当該標的二本鎖DNAが当初に存在していたという指標・標識として検出することが可能である。」(第6頁右下欄7行目?26行目)と記載され、
(2-3)具体的には、二本鎖標的と核酸類縁体とから鎖置換複合体を生成させることについて、「実施例57 鎖置換複合体の生成 …dA10/dT10標的配列を含む248bpの…標識したDNAフラグメント…を得た。…Acr1-(Taeg)10-Lys-NH2と248bpDNAフラグメントとの複合体を、Acr1-(Taeg)10-Lys-NH250ngを500cpsのP-標識した248bpフラグメントと0.5μ-gの子牛胸腺DNAとともに、下記においてさらに詳細に述べるように、100μlの25mMTris-HCl、1mMMgCl2、0.1mMCaCl2、pH7.4中において37℃において60分間培養することによって形成させた。」(第24頁左上欄29行目?右上欄20行目)と記載され、
当該鎖置換複合体をヌクレアーゼ処理することにより、置換された一本鎖の存在を検出することについて、「実施例58 以下を用いた鎖置換複合体のプロービング (a)スタフィロコッカスヌクレアーゼ(第12b図レーン8から10)。 鎖置換複合体を上記のように生成させた。この複合体を20℃において5分間750U/mlのスタフィロコッカスヌクレアーゼで処理し、この反応をEDTAを25mMまで添加することによって停止させた。このDNAを2容量のエタノール-2%酢酸カリウム-で沈澱させ、80%ホルムアミド、TBEに再溶解させ、90℃に加熱し(5分間)、高分解PAGE(10%アクリルアミド、0.3%ビスアクリルアミド、7M尿素)とオートラジオグラフィーによって分析した。レーン8は、PNAを含有せず、レーン9は40pmolまたレーン10は120pmolのPNAを含有している。PNAが含有されているので、フットプリントの生成が認められ、この結果スタフィロコッカスヌクレアーゼによって消化を受け易くなることおよび従ってdsDNAからssDNAの置換が増大することが判る。…(e)S1-ヌクレアーゼ(第12c図レーン1から3) 複合体を50mM酢酸ナトリウム、20mMNaCl、0.5%グリセリン、1mMZnCl2、pH4.5において生成させ、0.5U/mlにおいてヌクレアーゼS1で20℃において5分間処理した。反応を停止させ、さらに上記”スタフィロコッカスヌクレアーゼ”項において記載したように処理した。使用したPNAの量は、ゼロ(レーン1から3まで)または120pmol(レーン4から6まで)であり、レーン7がサイズの標準を示す。かくして再び、PNAで置換されたT10DNA鎖の開裂が認められる。」(第24頁右上欄21行目?右下欄3行目)と記載されている。
そして、第12b図から、系にPNAを120pmol含むレーン10ではT10に対応するフットプリントが多数見られるのに対し、PNAを含まないレーン8、およびPNAを40pmol含むレーン9ではほとんど見られないことが、また、第12c図から、PNAを120pmol含むレーン4、5、6では、ヌクレアーゼを少量しか含まないレーン4を除き、T10に対応するフットプリントが多数見られるのに対し、PNAを含まないレーン1?3では、ヌクレアーゼの量を増やしてもT10に対応するフットプリントがほとんど見られないことが、それぞれ見て取れる。
(2-4)明細書に、標的DNAフラグメントのPNA結合部位がヌクレアーゼによる開裂から保護されることについて、「…dsDNAの配列特異的認識は、10のチミン置換2-アミノエチルグリシル単位から成るPNA-そのC-終末はリシンアミドでありまたN-終末は複合9-アミノアクリジンリガンド(9-Acr1-(Taeg)10-Lys-NH2、第11aおよび11b図)である-がdA10/dT10標的配列に結合することによって説明される。この標的は、248bp32P-end(末端)-標識DNAフラグメントに含まれる。…2)所謂ホトフットプリンティング検定において、合成ジアゾ結合アクリジンは紫外線照射下において、DNAと相互作用した場合にDNAを開裂させる(但し、DNAが前記結合性物質で保護されている場合は除く)。このような実験は、上記した248bpdsDNAを用いて行ったが、その結果PNA結合部位の光開裂に対する保護が明らかとなった(第3b図)。3)様々な種類の実験において、DNA-開裂性酵素であるミクロコッカスヌクレアーゼは、矢張り大抵のDNA-結合性試薬によってその作用が阻害されるが、T10-標識における開裂を増大させた(第3c図)。…5)同種の証明実験において、S1ヌクレアーゼが持つ一本鎖特異性によって、標的のT10-鎖のみが攻撃されたことが判った(第3d図)。」(第23頁左上欄1?30行目)と記載されており、
また、ヌクレアーゼが核酸類縁体に捕捉された一本鎖DNAの懸垂状態の一重鎖DNAを消化することについて、「前記において定義された核酸類縁体は、固体支持体に固定化された本発明において用いられる核酸類縁体にハイブリッド形成条件下で核酸に接触せしめることから成る核酸を捕捉する方法において、該固定化核酸類縁体が、補足されるべき前記核酸または核酸類縁体とハイブリッド形成に適したリガントの配列を有している前記核酸捕捉方法に使用してもよい。(・・・中略・・・)捕捉された核酸は、極めて多くの方法によって認識され、検出され、同定されまたは定量化されることが出来る。洗浄後はかかる捕捉された核酸は系内に残留する唯一の核酸であり得るので、捕捉された配列に特異的か否かを問わず、核酸の存在を証明するのに適した試薬系であれば如何なるものによっても検出され得る。即ち、例として挙げれば、捕捉された核酸がDNAでありかつ比較的短いPNAによって一本鎖の形態で捕捉された場合、懸垂状態の一重鎖DNAは、ヌクレアーゼによって消化してもよく、かつこのような消化物は通常の方法に依って検出すればよい。」(第5頁左下欄6行目?27行目)と記載されている。
(2-5)明細書に、PNA-DNAハイブリッドがDNA-DNAハイブリッドよりも安定であり、ゲル電気泳動において安定して検出することができることについて、「実施例56 Acr1-(Taeg)10-Lys-NH2のdA10への結合(第11a図) Acr1-(Taeg)10-Lysを20μlのTE緩衝液中において50cpsの5’-[32P]-end-で標識したオリゴヌクレオチドと一緒に室温で15分間培養した。試料を氷で冷却し(15分間)、ポリアクリルアミドゲル中でのゲル電気泳動(PAGE)で分析した。…[32P]-含有DNAバンドを増幅スクリーンおよび-80℃において2時間露光したアグファクリックスRPIX-線フィルムを用いて、オートラジオグラフィーで可視化した。…第11a図および第11b図において、5’-32Pで標識したオリゴヌクレオチド1は、5’-GASTCCA10Gであり、Acr-T10-Lys-NH2の不存在下(レーン1及び4)または存在下(レーン2および5、25pmol;レーン3および6、75pmol)で培養し、また5’-GATCCT10Gである”オリゴ-2”の不存在下(レーン1から3まで)または存在下(レーン4から6まで)で培養した。5’-32Pで標識したオリゴ2は、同じPNAの不存在下(レーン7)または存在下(レーン8、25pmol;レーン9、75pmol)で培養し、上記において詳細に記載したようなPAGEで分析した。第11a図に示した結果によれば、PNAでハイブリダイゼーションしたと同様に(レーン1から3まで)ssDNAの遅延化が明らかであり、PNAが、標識した相補オリゴヌクレオチド(レーン4から6まで)に対してDNAオリゴヌクレオチドと競合・拮抗する能力を有していることが判る。dsDNAに起因するバンドの強度は、PNA濃度を上げるに応じてより急速に増大し、泳動速度が遅いPNA-DNAハイブリッドを表すバンドで置換される。レーン7から9までは、このPNAは、相補的でないT10オリゴDNAには影響を及ぼさないことを示す。第11b図においては、DNA変成条件で行ったものであるが、PNA-DNA二重らせんが未変成のままである。」(第23頁右下欄21行目?第24頁左上欄28行目)と記載されている。
(上記引用記載等における下線は、当審によるものである。)

(3)対比
本願補正発明は、上述のとおりのものであるところ、上記補正後の本願請求項4、7および9には、本願補正発明を引用する以下のとおりの発明が記載されている。
【請求項4】 該試薬がヌクレアーゼである、請求項1?請求項3いずれか1項に記載の方法。
【請求項7】 核酸類似体が相補的配列の核酸とハイブリダイズして、配列上該類似体に対応する通常のデオキシリボヌクレオチドと該核酸との間のハイブリッドよりも熱変性に対してより安定なハイブリッドを形成することができるものである、請求項1?請求項6いずれか1項に記載の方法。
【請求項9】 核酸類似体が一方の鎖が該類似体に相補的な配列を持つ二本鎖核酸にハイブリダイズして一方の鎖から他方の鎖を置換することができるものである、請求項1?請求項8いずれか1項に記載の方法。
【請求項11】該核酸類似体が一般式III、IV又はVの化合物を含むものである、請求項9記載の方法、(一般式III、IV、Vは、ここでは省略)
このことからみて、本願補正発明は、
「試料中に二本鎖核酸の形態で含まれるある核酸配列の存在を検出する方法であって、該配列が該試料中に存在すれば配列特異的にそれにハイブリダイズして該配列を持つ一方の鎖から他方の鎖を置換することができる核酸類似体に該試料をハイブリッド形成条件下で接触させて該核酸類似体と該配列を含む該一方の鎖の核酸との間に複合体を形成させ、核酸を分解することができる試薬であるヌクレアーゼによる攻撃から該核酸複合体の該配列は保護されるが該核酸の残りは分解されるような条件下で該核酸を該ヌクレアーゼに接触させ、そして核酸類似体の性質とは異なる核酸-核酸類似体複合体の性質に基づいて該複合体の存在を検出することを含み、該核酸類似体が、連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミド又はポリスルホンアミドのバックボーンである、方法。」
を、その一態様として包含する発明であるといえる。
これに対し、上記引用例1には、(2-2)で上述したとおり、「本発明は、前記において定義した置換核酸類縁体に相補的な配列を一方の鎖が有する二本鎖標的から他の一本鎖を置換する能力がある前記核酸類縁体を二本鎖標的にハイブリッドさせるに際して、前記置換核酸類縁体が、ハイブリダイゼーションさせるに充分な、前記二本鎖標的の内の前記もう一方の鎖に対する相補的配列を有しており、その結果一本鎖の形態における前記標的の前記一本鎖を置換するものであり、次いで前記二本鎖標的からの置換後に前記一本鎖の存在を検出しまたはこれを定量化することから成る、二本鎖標的核酸を検出し、同定しまたは定量化する方法を包含する。このように置換された一本鎖を断片に破断し、次いで前記斑だ(断片の誤記と思われる)の存在を検出してもよい。置換された一本鎖は好ましくは、ヌクレアーゼによる作用によって破断させてもよい。すなわち、特異的な二本鎖標的核酸配列の存在の検出を、該標的核酸配列に相補的PNAをハイブリッドさせて鎖置換を行わしめ、かくして該反応混合物中において一本鎖DNAを生成せしめ、次いでヌクレアーゼを用いて一本鎖DNAを消化させてヌクレオチド類を生成させることによって行うことが出来るが、この際かかるヌクレオチドの存在を、当該標的二本鎖DNAが当初に存在していたという指標・標識として検出することが可能である。」(第6頁右下欄7行目?26行目)と記載されている。
そして、その際に使用される核酸類縁体であるPNA(核酸ペプチド)は、引用例1の例えば請求項3に記載された化学式により特定されるものと認められるところ、これは、本願補正発明の請求項11に規定する、請求項9記載の方法に用いられる式IIIの核酸類似体に該当するものであるから、本願補正発明で規定する「連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミドのバックボーンである「核酸類似体」に相当するものである。
そうすると、引用例1には、
「試料中に二本鎖核酸の形態で含まれるある核酸配列の存在を検出する方法であって、該配列が該試料中に存在すれば配列特異的にそれにハイブリダイズして該配列を持つ一方の鎖から他方の鎖を置換することができる核酸類似体に該試料をハイブリッド形成条件下で接触させて該核酸類似体と該配列を含む該一方の鎖の核酸との間に複合体を形成させ、ヌクレアーゼに接触させて、二本鎖の標的核酸配列に核酸類似体をハイブリッドさせて鎖置換を行わしめることにより生じた一本鎖DNAを該ヌクレアーゼでフラグメントに切断し、当該フラグメントの存在を検出することを含み、該核酸類似体が、連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミド又はポリスルホンアミドのバックボーンである、方法。」
の発明が記載されているといえる。
そこで、本願補正発明の上記態様と引用例1に記載された上記発明を対比すると、
両者は、
「試料中に二本鎖核酸の形態で含まれるある核酸配列の存在を検出する方法であって、該配列が該試料中に存在すれば配列特異的にそれにハイブリダイズして該配列を持つ一方の鎖から他方の鎖を置換することができる核酸類似体に該試料をハイブリッド形成条件下で接触させて該核酸類似体と該配列を含む該一方の鎖の核酸との間に複合体を形成させ、ヌクレアーゼに接触させることを含み、該核酸類似体が、連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミド又はポリスルホンアミドのバックボーンである、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
「ヌクレアーゼに接触させる」ことについて、本願補正発明の上記態様は、「核酸を分解することができる試薬であるヌクレアーゼによる攻撃から該核酸複合体の該配列は保護されるが該核酸の残りは分解されるような条件下で該核酸を該ヌクレアーゼに接触させる」ものであるのに対し、引用例1に記載された発明は、「ヌクレアーゼに接触させて、二本鎖の標的核酸配列に核酸類似体をハイブリッドさせて鎖置換を行わしめることにより生じた一本鎖DNAを該ヌクレアーゼでフラグメントに切断する」ものであり、引用例1には、本願補正発明の上記条件下で核酸をヌクレアーゼに接触させるとは記載されていない点。
[相違点2]
本願補正発明は、「核酸類似体の性質とは異なる核酸-核酸類似体複合体の性質に基づいて該複合体の存在を検出する」ことにより、試料中に含まれるある核酸配列の存在を検出するものであるのに対し、引用例1に記載された発明は、「二本鎖の標的核酸配列に核酸類似体をハイブリッドさせて鎖置換を行わしめることにより生じた一本鎖DNAをヌクレアーゼで切断することにより生じたフラグメントの存在を検出する」ことにより行なうものである点。

(4)判断
[相違点1]について
引用例1に記載された発明の「ヌクレアーゼ処理」は、「二本鎖の標的核酸配列に核酸類似体をハイブリッドさせて鎖置換を行わしめることにより生じた一本鎖DNAを該ヌクレアーゼでフラグメントに切断する」ために行われるものである。
これにつき、引用例1には、(2-3)に示したとおり、核酸類似体であるPNAプローブAcr1-(Taeg)10-Lys-NH2をdA10/dT10標的配列を含む248bpの標識したDNAフラグメントとともに培養することにより生成した鎖置換複合体を、スタフィロコッカス・ヌクレアーゼないしS1ヌクレアーゼで処理し、これにより得られた反応生成物を高分解PAGEとオートラジオグラフィーによって分析し、T10に由来するヌクレアーゼ分解生成物のフットプリントが生じたことをもって、標的配列の存在を検出することが記載されている(実施例57、58)ところ、これらの実施例においては、PNAを系に含まない、二本鎖DNAフラグメントのみからなるものをヌクレアーゼ処理して得た生成物を、対照例としており、このことからみても、上記鎖置換複合体とは、PNAプローブを標的配列を含む二本鎖DNAフラグメントとともに培養することにより生じた全てのもの、すなわち、二本鎖DNAフラグメントにPNAをハイブリッドさせて鎖置換を行わしめることにより生じた一本鎖DNAのみならず、それにより生じたPNA-DNAハイブリッドをも含むものであることは明らかであり、上記実施例では、これらを含む鎖置換複合体をヌクレアーゼ処理していることは明らかである。
一方、引用例1には、(2-4)に示したとおり、ヌクレアーゼが一本鎖DNAを開裂させる条件下において、標的DNAフラグメントのPNA結合部位はヌクレアーゼによる開裂から保護されることが記載されている。
引用例1のこれらの記載によれば、引用例1の「二本鎖の標的核酸配列に核酸類似体をハイブリッドさせて鎖置換を行わしめることにより生じた一本鎖DNAを該ヌクレアーゼでフラグメントに切断する」ための「ヌクレアーゼ処理」は、本願補正発明における「核酸を分解することができる試薬であるヌクレアーゼによる攻撃から該核酸複合体の該配列は保護されるが該核酸の残りは分解されるような条件下」で行うことができるということができ、引用例1に記載された発明における「ヌクレアーゼ処理」には、そのような条件下で該核酸を該ヌクレアーゼに接触させる態様が含まれていることは明らかであるといえるから、上記相違点1は、実質的な相違点とはならない。
[相違点2]について
試料中に含まれるある核酸配列の存在をプローブを用いて検出する場合、例えば周知のサザンブロット法(要すれば、社団法人日本生化学会編集、株式会社東京化学同人発行、「新生化学実験講座第2巻、核酸II?構造と性質?」、p.197?209、1991年10月1日発行を参照)などでも行われているように、標的核酸とプローブ核酸とのハイブリッド形成により生じた「標的核酸とプローブの複合体」を直接検出することは、ごく一般的な手法であり、当業者がまず最初に想起するものといえる。
そして、引用例1に記載された発明において、標的核酸とプローブである核酸類似体とから形成され、鎖置換複合体中に存在する「核酸-核酸類似体複合体」の二重鎖は、熱的にも、また、前述したようにヌクレアーゼに対しても安定であると認められるうえ、当該鎖置換複合体中に遊離の核酸類似体プローブが残っていても、これと「核酸-核酸類似体複合体」は、例えば分子量の点で十分識別が可能であることは明らかであるから、例えば、(2-5)に示したとおり、引用例1において、核酸-核酸類縁体の形成を確認する手段として用いられている(実施例56及び図11a)ことからみて、系中で核酸-核酸類縁体が安定に存在し得ることが明らかな、PAGEゲル電気泳動法などの適宜の手法により、これを識別すること、すなわち、核酸類似体の性質とは異なる核酸-核酸類似体複合体の性質に基づいて該複合体の存在を検出することができることは明らかである。
してみると、引用例1に記載された発明において、目的とする核酸配列の存在を検出するにあたり、核酸-核酸類似体複合体の形成に伴い生じた一本鎖をヌクレアーゼにより開裂し、当該開裂された一本鎖を検出することに替えて、核酸類似体の性質とは異なる核酸-核酸類似体複合体の性質に基づいて当該「核酸-核酸類似体複合体」自体を直接検出することは、引用例1に記載された技術的事項及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明が、引用例1に記載された技術的事項及び本願優先日当時の技術常識から予測しがたい格別の効果を奏するものともいえない。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成6年改正前の特許法第17条の2第4項で準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、平成6年改正前の特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年9月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明」という。)は、特許法第184条の8第1項の規定に基づき平成8年6月5日付で提出されたPCT条約第34条に基づく補正書の翻訳文により補正されたと見なされる本願明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものであると認められる。
「試料中に含まれるある核酸配列の存在を検出する方法であって、該配列が該試料中に存在すれば配列特異的にそれにハイブリダイズすることができる核酸類似体に該試料をハイブリッド形成条件下で接触させて該核酸類似体と該配列を含む該核酸との間に複合体を形成させ、核酸を分解することができる試薬による攻撃から該核酸複合体の該配列は保護されるが該核酸の残りは分解されるような条件下で該核酸を該試薬に接触させ、そして核酸類似体の性質とは異なる核酸-核酸類似体複合体の性質に基づいて該複合体の存在を検出することを含んでなる方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「核酸類似体」の限定事項である「連結バックボーン部分からなるバックボーンに結合したリガンドの配列を含むポリマー鎖を含み、バックボーンがポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミド又はポリスルホンアミドのバックボーンである」との構成要件が除かれた、その上位概念の発明にあたるものである。
そうすると、本願発明は本願補正発明をその態様として包含するものであるところ、本願補正発明は、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1、及び、本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明を包含する本願発明も、これと同様の理由により、引用例1、及び、本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-03 
結審通知日 2006-10-04 
審決日 2006-10-18 
出願番号 特願平7-515942
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六笠 紀子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鈴木 恵理子
鵜飼 健
発明の名称 核酸の保護方法および分析方法  
代理人 細田 芳徳  

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