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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01B
管理番号 1153469
異議申立番号 異議2003-73723  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-08-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2007-02-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3442741号「複合高分子電解質膜及びその製造方法」の請求項1ないし5、8ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3442741号の請求項1ないし5、8ないし12に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3442741号の手続の経緯は次のとおりである。
特許出願 平成13年 1月19日
設定登録 平成15年 6月20日
特許掲載公報発行 平成15年 9月 2日
特許異議申立(異議申立人:住吉かづみ)平成15年12月25日
取消理由通知 平成17年 1月 4日付け
訂正請求 平成17年 3月22日
特許異議意見書 平成17年 3月22日
取消理由通知 平成17年 7月 7日
特許異議意見書 平成17年 9月20日

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成17年3月22日付け訂正請求における訂正事項は、特許請求の範囲の請求項1の
「イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物又は多孔質膜からなる補強材とを有し、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであり、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであることを特徴とする複合高分子電解質膜。」を、
「イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材に、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物からなる補強材を均一に分散させるか、前記母材をイオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材に含浸させてなり、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであり、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであることを特徴とする複合高分子電解質膜。」
と訂正する、というものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項は、特許明細書【0014】「・・・前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物を前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液に均一に分散させ、キャスト法により製膜する・・・」、同【0015】の「・・・前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜に前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液を含浸させることにより製膜する・・・」の記載を根拠として、「イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材」と「イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物又は多孔質膜からなる補強材」との相互の関係について、「母材に・・・繊維状物からなる補強材を均一に分散させる」か、「母材を・・・多孔質膜からなる補強材に含浸させ」てなると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成15年改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件訂正発明についての判断
1.取消理由の概要
平成17年7月7日付け取消理由の概要は、本件特許の請求項1?5,8?12に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1?4(それぞれ異議申立人の提出した甲第1,2,4,5号証に相当)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1?5,8?12に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである、というものである。

2.本件訂正発明
上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5,8?12に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?5,8?12に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材に、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物からなる補強材を均一に分散させるか、前記母材をイオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材に含浸させてなり、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであり、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項2】 請求項1に記載の複合高分子電解質膜において、前記スルホン化高分子化合物はいずれも非フッ素系スルホン化高分子化合物であることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項3】 請求項2に記載の複合高分子電解質膜において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物と前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物はイオン交換容量を除いて同一の骨格を有することを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の複合高分子電解質膜において、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+が少なくとも部分的にNa+に置換されていることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項5】 請求項3又は4に記載の複合高分子電解質膜において、前記スルホン化高分子化合物はいずれもフェニレン基を含有することを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項8】 イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材とを有する複合高分子電解質膜の製造方法において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を1.0?2.8meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を0.5?1.5meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜に前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液を含浸させることにより製膜することを特徴とする方法。
【請求項9】 請求項7又は8に記載の方法において、前記スルホン化高分子化合物としていずれも非フッ素系スルホン化高分子化合物を使用することを特徴とする方法。
【請求項10】 請求項9に記載の方法において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物及び前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物を同一の骨格構造を有する高分子化合物に対して異なるイオン交換容量でスルホン化することにより得ることを特徴とする方法。
【請求項11】 請求項7?10のいずれかに記載の方法において、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+を少なくとも部分的にNa+で置換することを特徴とする方法。
【請求項12】 請求項7?11のいずれかに記載の方法において、前記スルホン化高分子化合物はいずれもフェニレン基を含有することを特徴とする方法。」
(以下、この請求項1?5,8?12に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1?5,8?12」という。)

3.刊行物1?4とその記載事項
(1)刊行物1:国際公開第00/22684号パンフレット)
(1-ア)「6.イオン伝導性物質を相互貫入させた多孔質ポリマー基材を含む複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)であって、
(i)多孔質ポリマー基材が、液晶ポリマー又は溶媒可溶性熱硬化性若しくは熱可塑性芳香族ポリマーのホモポリマー又はコポリマーを含み、そして
(ii)イオン伝導性物質が、スルホン化、ホスホン化若しくはカルボキシル化イオン伝導芳香族ポリマー又は過フッ化アイオノマーの少なくとも1種のホモポリマー又はコポリマーを含む、複合固体ポリマー電解質膜。」(請求項6)
(1-イ)「13.熱硬化性又は熱可塑性芳香族ポリマー基材が、ポリスルホン(PSU)・・・ポリマーの少なくとも1種を含む、請求項5又は6記載のSPEM。」(請求項13)
(1-ウ)「20.イオン伝導芳香族ポリマーが、全芳香族イオン伝導ポリマーを含む、請求項5又は6記載のSPEM。
(中略)
23.スルホン化全芳香族イオン伝導ポリマーが、ポリスルホン(PSU)、・・・ポリマーの少なくとも1種のスルホン化誘導体を含む、請求項20記載のSPEM。」(請求項20,23)
(1-エ)「37.イオン伝導ポリマーを可溶化させ、多孔質ポリマー基材にイオン伝導ポリマーを吸収させる工程を含む、請求項1又は6記載の複合固体ポリマー電解質膜(SPEM)の製造方法。」(請求項37)
(1-オ)「本発明の中心的な目的は、以下の特性:高イオン伝導性、高耐劣化性、高機械強度、酸化および加水分解中の薬品安定性、寄生損失を制限する低ガス透過性、および高温および高圧下での安定性、を有する改善された固体ポリマー電解質膜(SPEM)を提供することである。」(第9頁第15?19行)
(1-カ)「フォスター-ミラー(Foster-Miller)は、多孔質ポリマー基材とイオン伝導性材料とを互いに浸透させて複合膜を形成することによって、燃料電池における使用に適する高性能SPEMを製造することができることを発見した。この複合イオン導電性膜は、ポリマー基材の強度および熱安定性を示すと共に、イオン伝導性材料のイオン伝導性を示すであろう。本発明の複合SPEMは、イオン伝導性材料と相互に浸透する多孔質ポリマー基材を含んでなる。」(第10頁第15?22行)
(1-キ)「好ましいイオン伝導性材料は、乾燥膜1グラムに対して1.0ミリグラム当量(meq/g)より大きい(好ましくは、1.5から2.0ミリグラム当量)のイオン交換容量(IEC)を有し、・・・」(第24頁第22?24行)
(1-ク)「ポリマー基材の細孔へのイオン導電性ポリマーの浸透を促進させるために、界面活性、すなわち、疎水性部分および親水性部分を有する表面活性剤を、ポリマー基材の細孔へのイオン伝導性ポリマーの浸透を促進させる際に利用することができる。」(第28頁第12?16行)
(1-ケ)「芳香族PESポリマーを、スルホン化剤で、制御された程度の置換までスルホン化することができる。・・・ 所望の程度のスルホン化に達した時、スルホン化ポリマーを、通常の技術、例えば濾過、洗浄、及び乾燥によって反応混合物から分離することができる。それが望ましい時には、塩基例えば炭酸水素ナトリウムを添加して、本発明の方法のポリマー生成物を中和し、これらのアルカリ塩に転換してもよい。本発明のポリマー生成物のアルカリ塩は、親の酸ポリマーとして同じ目的のために用いることができる。」(第52頁第7行?第53頁第8行)

(2)刊行物2:特開平10-199550号公報
(2-ア)「所定のイオン交換容量を有する高分子電解質膜を、その高分子電解質膜よりイオン交換容量が大きい高分子電解質溶液中に浸漬した後、乾燥し、薄層を形成させることを特徴とするイオン交換膜の製造方法。」(請求項1)
(2-イ)「前記高分子電解質膜のイオン交換容量が乾燥重量1g当たり0.8ミリ当量以上1.2ミリ当量未満であり、高分子電解質溶液中のイオン交換容量が乾燥重量1g当たり1.2ミリ当量以上2.4ミリ当量以下であることを特徴とする請求項1記載のイオン交換膜の製造方法。」(請求項2)
(2-ウ)「そこで、前述したようなパーフロオロスルホネートなどのようなフッ素系のイオン交換膜においては、側鎖のスルホン酸基がイオン伝導性を有することから、側鎖のスルホン酸基を多くしてプロトン伝導性を高くすることにより、出力性能を向上させることが考えられている。しかしながら、側鎖のスルホン酸基を多くしたイオン交換膜を燃料電池に適用すると、加湿に伴う膨潤が大きく、膜強度が低下してしまうので、隔膜としの機能が低下し、発電自体が困難になってしまうため、実用化はされていない。
【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、所定のイオン交換容量を有する高分子電解質膜を、それより交換容量の大きい高分子電解質溶液中に浸漬した後、乾燥することにより、官能基濃度の高いイオン交換膜を製造する方法を提供することを目的とする。」(【0005】、【0006】)
(2-エ)「【実施例】以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
[原料高分子電解質の製造]
原料高分子電解質α:官能基を有するモノマー(CF2 =CFOCF2 CF (CF3 )OCF2 CF2 SO2 F)10gを脱酸素水50ml中に投入し、アンモニウムパーフルオロオクタノエイト(C7 F15COONH4 )0.5gを加えて乳化した後、ステンレス製のオートクレーブ(内容積300ml)に投入し、ペルオキソ二硫化アンモニウム((NH4 )2 S4 O6 )0.2gを加え、テトラフルオロエチレンガス(CF2 =CF2 )を2.5Kgf/cm2 まで吹き込んで8時間反応させることにより原料高分子電解質αを得た。」(【0018】)
(2-オ)「原料高分子電解質γ:テトラフルオロエチレンガスの吹き込み圧をゲージ圧で10Kgf/cm2 に変更した以外は、上述した原料高分子電解質αと同様に合成することにより、原料高分子電解質γを得た。」(【0020】)
(2-カ)「[原料高分子電解質溶液の製造]
高分子電解質溶液A:前記原料高分子電解質αをイソプロパノール/水(90/10wt%)溶媒中に樹脂濃度が10wt%になるように溶解させた。高分子電解質αのイオン交換容量を測定すると、2.35ミリ当量/g-乾燥膜であった。」(【0021】)
(2-キ)「[高分子電解質膜の製造]まず、前記原料高分子電解質γをイソプロパノール/水(90/10wt%)溶媒中に樹脂濃度が10wt%になるように溶解させ、この溶液を平滑なガラス板にコーティングし、80℃の温度で乾燥させてフィルム化した。次に、このフィルムを60℃の25wt%水酸化ナトリウム溶液中で8時間かけて加水分解した後、60℃の25wt%硫酸溶液中で8時間かけてプロトン型の高分子電解質膜γを得た。この高分子電解質膜γは、厚さが45μmであった。」(【0023】)
(2-ク)「[イオン交換膜の製造]
イオン交換膜X(実施例1):丸底フラスコ中で、高分子電解質膜γ(30×30×0.45mm)を、10wt%濃度の高分子電解質溶液A50ml中、50℃の温度で12時間浸漬した後、80℃の雰囲気で溶媒を除去してイオン交換膜Xを得た。」(【0024】)
(2-ケ)「イオン交換膜Z(比較例):高分子電解質膜γをそのまま用いた。・・・比較例に係るイオン交換膜Zは0.92ミリ当量であった。」(【0026】)

(3)刊行物3:特開平10-312815号公報

(4)刊行物4:特表平11-502245号公報
(4-ア)「1.式(II)のスルホン化芳香族ポリエーテルケトン。
[Ar-O-Ar’-CO-Ar’-O-Ar-CO-Ar”-CO-](II)
(式中、O-フェニレン-CO単位の1ないし100%はSO3M基で置換され、スルホン化および未スルホン化のO-フェニレン-CO単位は相対的に所望の順序にあることができ、基Ar、Ar′およびAr″は互いに別個に置換または未置換の1,2-、1,3-または1,4-フェニレン環であり、またMは、イオン原子価を考慮に入れて、下記の基:H、・・・またはアルカリ金属・・・の元素を含み、好ましくはH、・・・Na・・・である。)」(請求項1)
(4-イ)「18.高分子電解質溶液の調製および/またはポリマーフィルムの調製のための請求項1記載のポリマーの使用。」(請求項18)

4.当審の判断
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、記載(1-ア)によると「イオン伝導性物質を相互貫入させた多孔質ポリマー基材を含む複合固体ポリマー電解質膜であって、(i)多孔質ポリマー基材が・・・溶媒可溶性熱硬化性若しくは熱可塑性芳香族ポリマー・・・を含み(ii)イオン伝導性物質が、スルホン化・・・イオン伝導芳香族ポリマー・・・を含む、複合固体ポリマー電解質膜」が記載され、記載(1-イ)によると、(i)の「多孔質ポリマー基材」は、具体的には「ポリスルホン(PSU)・・・ポリマー」であり、記載(1-ウ)によると、(ii)の「イオン伝導性物質」は、具体的には「ポリスルホン(PSU)・・・ポリマーの少なくとも1種のスルホン化誘導体」であって、記載(1-キ)によると、そのイオン交換容量は1.5?2.0meq/gのものであり、記載(1-エ)によると、(ii)の「イオン伝導性物質」(スルホン化イオン伝導ポリマー)を(i)の「多孔質ポリマー基材」に「相互貫入」させる製造方法の一つは、「イオン伝導ポリマーを可溶化させ、多孔質ポリマー基材にイオン伝導ポリマーを吸収させる」ことであると記載されている。
上記記載事項をまとめると、甲第1号証には、「イオン交換容量が1.5?2.0meq/gであるスルホン化イオン伝導ポリマーを可溶化し、多孔質ポリマー基材に吸収させることにより相互貫入させてなる複合固体ポリマー電解質膜。」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)。

(2)対比・判断
(2-1)本件訂正発明1について
(i)対比
本件訂正発明1は、補強材が「繊維状物」からなる態様と「多孔質膜」からなる態様とを含むが、「多孔質膜」からなる態様の場合の本件訂正発明1(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の「イオン交換容量が1.5?2.0meq/gであるスルホン化イオン伝導ポリマー」、「多孔質ポリマー基材」は、それぞれ前者の「イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材」、「高分子化合物の多孔質膜からなる補強材」に相当し、後者の「スルホン化イオン伝導ポリマーを可溶化し、多孔質ポリマー基材に吸収させることにより相互貫入させてな」ることは、前者の「母材を・・・高分子化合物の多孔質膜からなる補強材に含浸させてな」ることに相当するから、両者は、「イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材を、高分子化合物の多孔質膜からなる補強材に含浸させてなり、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.5?2.0meq/gである複合高分子電解質膜。」である点で一致し、下記の点で相違するものである。
相違点A:前者は、多孔質膜からなる補強材が「イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物」であり、その「イオン交換容量は0.5?1.5meq/gである」のに対して、後者は、補強材がスルホン化されておらず、そのイオン交換容量が明らかでない点。

(ii)判断
上記相違点Aに係る本件訂正発明1の特定事項に関し、本件訂正明細書の【0021】には「・・・多孔質膜用高分子電解質のイオン交換容量が0.5meq/g未満であると、イオン伝導率及び密着性が不十分であり、また1.5meq/g超であると、耐クリープ性が不十分である。」と記載されているから、上記特定事項は、複合高分子電解質膜の「イオン伝導性」及び「密着性」、「耐クリープ性(機械的強度)」に関する課題を解決するための手段であるといえる。
これに対して、刊行物2には、「所定のイオン交換容量を有する高分子電解質膜を、その高分子電解質膜よりイオン交換容量が大きい高分子電解質溶液中に浸漬した後、乾燥し、薄層を形成させることを特徴とするイオン交換膜の製造方法。」(2-ア)に関し、「前記高分子電解質膜のイオン交換容量が乾燥重量1g当たり0.8ミリ当量以上1.2ミリ当量未満であり、高分子電解質溶液中のイオン交換容量が乾燥重量1g当たり1.2ミリ当量以上2.4ミリ当量以下である」こと(2-イ)、「イオン交換膜においては、側鎖のスルホン酸基がイオン伝導性を有する」が、出力性能を向上させるために、「側鎖のスルホン酸基を多くしたイオン交換膜を燃料電池に適用すると、加湿に伴う膨潤が大きく、膜強度が低下してしまう」ので、上記製造方法により官能基濃度の高いイオン交換膜を製造すること(2-ウ)が記載されているから、これらの記載によれば、0.8meq/g以上1.2meq/g未満の低いイオン交換容量を有するスルホン化高分子電解質膜を補強材とし、1.2meq/g以上2.4meq/g以下の高いイオン交換容量を有するスルホン化高分子化合物の薄層とで複合化することにより、官能基濃度が高く、すなわち「イオン伝導性」に優れ、「膜強度」の高い複合イオン交換膜を製造することは、公知の事項であるといえる。
また、母材と補強材との「密着性」に関しても、本件訂正発明1のような複合イオン交換膜の補強材にスルホン酸基を導入して母材(スルホン化イオン交換体)との接着性を高めることは、例えば特開昭63-48339号公報(第2頁左下欄第2?6行、第3頁左下欄第2?16行)、特開2000-231928号公報(【0021】)に記載されるように周知の事項である。
そして、刊行物1発明においても、「高イオン伝導性、高耐劣化性、高機械強度、酸化および加水分解中の薬品安定性・・・を有する改善された固体ポリマー電解質膜(SPEM)を提供する」ことを目的とし(1-オ)、「ポリマー基材の強度および熱安定性を示すと共に、イオン伝導性材料のイオン伝導性を示す」(1-カ)、すなわち、「機械的強度」と「イオン伝導性」とが両立するとともに、「ポリマー基材の細孔へのイオン導電性ポリマーの浸透を促進させる」(1-ク)、すなわち「密着性」の改善した複合高分子電解質膜を得ることを課題とするものである。
そうすると、刊行物1発明において、十分な「イオン伝導性」と「機械的強度」とが両立し、かつ「密着性」も改善された複合高分子電解質膜を得るために、「補強材」である高分子多孔質膜をスルホン化してイオン交換容量を付与することは、上記公知及び周知の事項から容易になし得ることであり、その際、補強材のイオン交換容量を、刊行物2に記載されるように母材よりは「低いイオン交換容量」であって、「0.8?1.2meq/g」程度とすることも、刊行物2の記載及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

(2-2)本件訂正発明2?5について
刊行物1には、複合高分子電解質膜の補強材及び母材として、ともに非フッ素系であり(本件訂正発明2の特定事項)、同一の骨格を有し(本件訂正発明3の特定事項)、フェニレン基を有するポリスルホン等の高分子化合物を用いる(本件訂正発明5の特定事項)ことが記載されており(1-イ、1-ウ)、また、スルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+をNa+で置換して同様に使用する(本件訂正発明4の特定事項)ことも刊行物1(1-ケ)、及び刊行物4にも記載されているから、本件訂正発明2?5は刊行物1,2,4の記載及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(2-3)本件訂正発明8について
本件訂正発明8は、本件訂正発明1の補強材が「多孔質膜」からなる場合の製造方法に対応する発明であって、刊行物1には、上記に示した相違点Aを除く本件発明8の特定事項が全て記載されているから、本件訂正発明1に対して示した上記(2-1)に示したと同様の理由により、本件訂正発明8も刊行物1,2の記載及び上記周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものといえる。

(2-4)本件発明9?12について
請求項8を引用する場合の本件発明9?12の特定事項は、上記相違点Aを除き、刊行物1または刊行物4に全て記載されているから、上記(2-1)?(2-3)に示したと同様の理由により、刊行物1,2,4の記載及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

IV.まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1?5,8?12は、刊行物1,2,4に記載された発明及び周知事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1?5,8?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
複合高分子電解質膜及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材に、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物からなる補強材を均一に分散させるか、前記母材をイオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材に含浸させてなり、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであり、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項2】請求項1に記載の複合高分子電解質膜において、前記スルホン化高分子化合物はいずれも非フッ素系スルホン化高分子化合物であることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項3】請求項2に記載の複合高分子電解質膜において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物と前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物はイオン交換容量を除いて同一の骨格を有することを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項4】請求項1?3のいずれかに記載の複合高分子電解質膜において、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+が少なくとも部分的にNa+に置換されていることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項5】請求項3又は4に記載の複合高分子電解質膜において、前記スルホン化高分子化合物はいずれもフェニレン基を含有することを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項6】請求項5に記載の複合高分子電解質膜において、前記スルホン化高分子化合物はいずれもスルホン化ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする複合高分子電解質膜。
【請求項7】イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物からなる補強材とを有する複合高分子電解質膜の製造方法において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を1.0?2.8meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を0.5?1.5meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物を前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液に均一に分散させ、キャスト法により製膜することを特徴とする方法。
【請求項8】イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材とを有する複合高分子電解質膜の製造方法において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を1.0?2.8meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を0.5?1.5meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜に前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液を含浸させることにより製膜することを特徴とする方法。
【請求項9】請求項7又は8に記載の方法において、前記スルホン化高分子化合物としていずれも非フッ素系スルホン化高分子化合物を使用することを特徴とする方法。
【請求項10】請求項9に記載の方法において、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物及び前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物を同一の骨格構造を有する高分子化合物に対して異なるイオン交換容量でスルホン化することにより得ることを特徴とする方法。
【請求項11】請求項7?10のいずれかに記載の方法において、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+を少なくとも部分的にNa+で置換することを特徴とする方法。
【請求項12】請求項7?11のいずれかに記載の方法において、前記スルホン化高分子化合物はいずれもフェニレン基を含有することを特徴とする方法。
【請求項13】請求項12に記載の方法において、前記スルホン化高分子化合物はいずれもスルホン化ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は燃料電池等に使用する複合高分子電解質膜及びその製造方法に関し、特に繊維状又は多孔質膜状の低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物により補強した高イオン交換容量のスルホン化高分子化合物からなる複合高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油資源の枯渇化と地球温暖化等の環境問題の深刻化により、クリーンな電動機用電力源として燃料電池が注目され、広範に開発されているとともに、一部実用化もされている。特に燃料電池を自動車等に搭載する場合には高分子電解質膜式の燃料電池を使用するのが好ましいが、高分子電解質膜としてはナフィオンのようなスルホン化フッ素系高分子化合物が広く利用されている。ところがナフィオンには非常に高価であるという問題がある。また燃料電池の高出力化に応じて、高温高圧下での運転に耐える耐熱水性、耐酸化性及び耐クリープ性(機械的強度)を有する高分子電解質膜が必要となってきており、従来のナフィオンでは必ずしも十分ではない。
【0003】
そこで高分子電解質膜のイオン交換特性を劣化させることなく、機械的強度等を向上させる試みが種々なされている。例えば特開平6-29032号は、延伸高分子多孔質膜の孔内にイオン交換樹脂を含有させることにより、機械的強度を向上させた高分子電解質膜を提案している。
【0004】
また特開平8-259710号は、延伸高分子多孔質膜の孔内にイオン交換樹脂を含有させた構造とすることにより、高分子電解質膜の機械的強度を向上させるともに、膜抵抗を低減してエネルギー効率を向上させた高分子電解質膜を提案している。
【0005】
また特開平2000-231928号は、スルホン酸基を含有するパーフルオロカーボン重合体からなる高分子電解質にポリエチレン繊維からなる補強材を添加してなる高強度でイオン伝導性の高い(膜抵抗の低い)高分子電解質膜を提案している。
【0006】
しかしながら、これらの高分子電解質膜に用いられている多孔質膜又は繊維はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリエチレン等の化学的に安定なポリマーからなり、イオン伝導性が低く温度及び湿度の変化による膨張、収縮が小さい。これに対して、イオン伝導性の高いイオン交換樹脂は温度及び湿度の変化による膨張、収縮が大きい。そのため多孔質膜や繊維から高分子電解質が剥離してしまうという問題があった。高分子電解質が剥離すると膜抵抗が増大するので、燃料電池の発電性能は低下する。
【0007】
高分子電解質膜のイオン伝導性を向上させるには、高分子電解質のイオン交換容量を高くする必要があるが、イオン交換容量が高くなると高分子電解質膜の機械的強度が低下したり、高分子電解質膜がクリープしやすくなってしまう。一方イオン交換容量を低下させると十分なイオン伝導性が得られず、燃料電池の発電性能が低下してしまうという問題が生じる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の目的は、温度及び湿度の変化によらず十分な発電性能を有し、かつ高い耐熱水性及び耐酸化性を有するとともに耐クリープ性等の機械的強度に優れた高分子電解質膜、及びその製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決する手段】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物を母材に用いるととにも、イオン交換容量が低い繊維状又は多孔質膜状のスルホン化高分子化合物を補強材として添加することにより、イオン伝導性を低下させることなく耐熱水性及び耐酸化性を向上させるとともに耐クリープ性等の機械的強度が優れた高分子電解質膜が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の複合高分子電解質膜は、イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材に、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物からなる補強材を均一に分散させるか、前記母材をイオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材に含浸させてなり、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであり、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであることを特徴とする。
【0011】
前記スルホン化高分子化合物はいずれも非フッ素系スルホン化高分子化合物であるのが好ましい。またイオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物とイオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物はイオン交換容量を除いて同一の骨格構造を有するのが好ましい。両スルホン化高分子化合物はいずれもフェニレン基を含有するものであるのが好ましく、特にスルホン化ポリエーテルエーテルケトンであるのが好ましい。
【0012】
前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであるのが好ましく、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであるのが好ましい。
【0013】
前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+は少なくとも部分的にNa+に置換されているのが好ましい。
【0014】
イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物からなる補強材とを有する複合高分子電解質膜を製造する本発明の方法は、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を1.0?2.8meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を0.5?1.5meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物を前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液に均一に分散させ、キャスト法により製膜することを特徴とする。
【0015】
イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜からなる補強材とを有する複合高分子電解質膜を製造する本発明の方法は、前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を1.0?2.8meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物のイオン交換容量を0.5?1.5meq/gとし、前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の多孔質膜に前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物の溶液を含浸させることにより製膜することを特徴とする。
【0016】
前記スルホン化高分子化合物としていずれも非フッ素系スルホン化高分子化合物を使用するのが好ましい。前記イオン交換容量が高いスルホン化高分子化合物及び前記イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物を、同一の骨格構造を有する高分子化合物に対して異なるイオン交換容量でスルホン化することにより得るのが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
[1]複合高分子電解質膜
本発明の複合高分子電解質膜は、イオン交換容量(1g当たりのイオン交換性基(例えばスルホン酸基)のミリ当量)が高いスルホン化高分子化合物からなる母材と、イオン交換容量が低いスルホン化高分子化合物の繊維状物又は多孔質膜からなる補強材とを有する。
【0018】
母材及び補強材を構成するスルホン化高分子化合物は、イオン交換容量を除いて同一の骨格構造を有するスルホン化高分子化合物からなるのが好ましい。これにより、母材及び補強材の膨張率がほぼ等しくなり、母材と補強材の剥離が防げる。
【0019】
イオン伝導性、耐熱水性、耐酸化性及び耐クリープ性等の機械的強度の要求を満たすとともに、低コスト化するために、いずれのスルホン化高分子化合物の骨格を形成する高分子化合物も非フッ素系高分子化合物であるのが好ましい。母材及び補強材を構成するスルホン化高分子化合物は、主鎖にフェニレン基を有するスルホン化高分子化合物であるのが好ましく、特にスルホン化ポリエーテルエーテルケトンであるのが好ましい。
【0020】
母材の高分子電解質はイオン交換容量が高く、繊維状物又は多孔質膜の高分子電解質はイオン交換容量が低い。具体的には、母材の高分子電解質のイオン交換容量は1.0?2.8meq/gであり、繊維状物又は多孔質膜の高分子電解質のイオン交換容量は0.5?1.5meq/gであるのが好ましい。
【0021】
母材用高分子電解質のイオン交換容量が1.0meq/g未満であると、イオン伝導率が不十分であり、また2.8meq/g超であると、耐クリープ性等の機械的強度が不十分である。一方、繊維状物又は多孔質膜用高分子電解質のイオン交換容量が0.5meq/g未満であると、イオン伝導率及び密着性が不十分であり、また1.5meq/g超であると、耐クリープ性が不十分である。
【0022】
母材用高分子電解質のイオン交換容量は繊維状物又は多孔質膜用高分子電解質のイオン交換容量より少なくとも0.5meq/g大きいのが好ましい。両者の差が0.5meq/g未満であると、複合化の効果が不十分である。
【0023】
低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物が繊維状の場合、長繊維でも短繊維でも良く、長繊維の場合には織布でも不織布でも良い。不織布の場合にはカレンダー加工により繊維間を適当に融着するのが好ましい。いずれの場合も、低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物の直径は1?15μm程度が好ましい。直径が1μm未満であると補強硬化が不十分であり、また15μm超であると複合高分子電解質膜のイオン伝導率が低下する。
【0024】
また多孔質膜の場合、空孔率は50?80%程度であるのが好ましく、平均孔径は0.2?3μm程度であるのが好ましい。空孔率及び平均孔径が上記下限値未満であると複合高分子電解質膜のイオン伝導率が不十分であり、また上限値超であると補強硬化が不十分である。また膜厚は、複合高分子電解質膜の性能を規制するので、15?75μmであるのが好ましい。
【0025】
繊維状物又は多孔質膜を構成する低イオン交換容量スルホン化高分子化合物のスルホン酸基の少なくとも一部のH+はNa+に置換されているのが好ましい。この置換により母材と繊維状物又は多孔質膜との密着性が向上し、複合高分子電解質膜の膜抵抗が低下する。
【0026】
複合高分子電解質膜における母材と繊維状物又は多孔質膜との重量比は3:1?1:3であるのが好ましい。母材/(繊維状物又は多孔質膜)の重量比が3:1超であると繊維状物又は多孔質膜による補強効果が不十分であり、また1:3未満であると複合高分子電解質膜のイオン伝導率が不十分である。より好ましい母材/(繊維状物又は多孔質膜)の重量比は2/1?1/1.25である。
【0027】
以上の通り、母材にイオン交換容量の高いスルホン化高分子化合物を用い、補強材にイオン交換容量の低いスルホン化高分子化合物の繊維状物又は多孔質膜を用いることにより、イオン伝導性や耐クリープ性が高いために、高効率で高耐久性の複合高分子電解質膜が得られる。なお本発明の複合高分子電解質膜の膜厚は15?75μm程度であるのが好ましい。
【0028】
[2]複合高分子電解質膜の製造方法
(A)繊維状物又は多孔質膜の作製
低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物をN-メチルピロドリン等の有機溶剤に溶解し、均一溶液とする。この均一溶液から繊維状物又は多孔質膜を作製するには、繊維の場合には公知の紡糸法を利用すれば良く、また多孔質膜の場合には均一溶液に所定量の発泡剤を添加してキャスト法により製膜し、有機溶剤が僅かに残留する状態で加熱することにより発泡させ、多孔質化する方法を利用すれば良い。勿論、低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物を繊維状又は多孔質膜状に成形するのは上記方法に限定されず、任意の公知の方法を採用することができる。
【0029】
繊維状物又は多孔質膜を構成する低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物のスルホン酸基のH+を少なくとも部分的にNa+に置換するのが好ましい。この置換は、例えば塩化ナトリウム水溶液等のNa+を含む水溶液に繊維状物又は多孔質膜を浸漬することにより行うことができる。Na+を含む水溶液の濃度は0.01?2mol/l程度であれば良く、また温度は25℃程度で良い。浸漬時間は、H+のNa+による置換度が5?50%程度になるように調節するのが好ましい。
【0030】
(B)複合高分子電解質膜の作製
繊維状物を含有する複合高分子電解質膜を製造するには、高イオン交換容量のスルホン化高分子化合物の有機溶剤溶液に繊維状物(低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物)を添加し、平坦な型にキャストし、乾燥する。
【0031】
また低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物の多孔質膜を含有する複合高分子電解質膜を製造するには、高イオン交換容量のスルホン化高分子化合物の溶液を多孔質膜に含浸させれば良い。
【0032】
【実施例】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
イオン交換容量が1.5meq/gの高スルホン化ポリエーテルエーテルケトンとN-メチルピロドリンとを95:5の重量比で混合し、高分子電解質溶液とした。またイオン交換容量が1.0meq/gの低スルホン化ポリエーテルエーテルケトンをN-メチルピロドリンに溶解し、得られた溶液(共重合体濃度:10重量%)を紡糸することにより、平均直径5μmの繊維に成形した。なおイオン交換容量は、酸処理条件(発煙硫酸濃度、浸漬時間)を変えることにより調節した。次いで25℃の2Nの塩化ナトリウム水溶液に30分間浸漬し、スルホン酸基のH+をNa+に置換し、繊維状補強材とした。この高分子電解質溶液に繊維状補強材を90:10の固形分重量比で均一に混合し、キャスト法により乾燥膜厚50μmの複合高分子電解質膜を作製した。
【0034】
実施例2
イオン交換容量が1.5meq/gの高スルホン化ポリエーテルエーテルケトンとN-メチルピロドリンとを95:5の重量比で混合し、高分子電解質溶液とした。またイオン交換容量が1.0meq/gの低スルホン化ポリエーテルエーテルケトンに耐酸性の劣る層状珪酸塩等の粒子を混ぜ、キャストした。得られた膜を5Nの塩酸で酸処理することにより粒子が欠落し、多孔膜が得られた。このようにして膜厚30μmの多孔質膜に成形した。得られた多孔質膜の平均孔径は2μmであり、空孔率は65%であった。この多孔質膜を25℃の2N塩化ナトリウム水溶液に30分浸漬し、スルホン酸基のH+をNa+に置換し、補強材とした。この高分子電解質溶液を多孔質膜状の補強材に70:30の固形分重量比で含浸させ、乾燥膜厚50μmの複合高分子電解質膜を作製した。
【0035】
比較例1
特開平8-259710号の実施例1と同様にしてスチレンとジビニルベンゼンの部分共重合体(スチレン:ジビニルベンゼン=20:1)の溶液を作製した。この溶液に直径5μmのPTFE繊維からなる補強材を均一に混合した。この高分子電解質溶液にPTFE繊維補強材を90:10の固形分重量比で添加し、キャスト法により乾燥膜厚50μmの複合高分子電解質膜を作製した。
【0036】
比較例2
特開平8-259710号の実施例6と同様にして、PTFE延伸多孔膜(8cm×8cm、膜厚15μm:空孔率70%)を2枚用意し、そのうち1枚の中央部に6cm×6cmの窓部を設けた。窓部を設けたPTFE延伸多孔膜をガラス板(8cm×8cm)2枚で挟持し、比較例1と同じイオン交換樹脂用原料の溶液を延伸多孔膜の窓部に注入し(ギャップ幅:55μm)、この状態で共重合を完了させた。ガラス板を除去した後、発煙硫酸によりイオン交換樹脂原料をスルホン化した。得られたイオン交換膜のPTFE延伸多孔膜の孔中には、イオン交換樹脂が保持されていた(イオン交換膜厚50μm)。
【0037】
比較例3
低スルホン化ポリエーテルエーテルケトンの代わりにPTFEを直径5μmの繊維状補強材に使用した以外実施例1と同様にして、乾燥膜厚50μmの複合高分子電解質膜を作製した。
【0038】
評価
(1)Q値
実施例1及び2と比較例1?3の高分子電解質膜について、80℃の熱水と20℃の水に10分間ずつ浸漬するサイクルを30回繰り返した。その後各高分子電解質膜の両面に電極を塗布し、0.2A/cm2の電流を流した時の電位を測定した。また母材と補強材との密着性の指標となるQ値を、下記の方法に従って測定した。測定結果を表1に示す。
【0039】
Q値の測定は、図1に示す電解質膜-電極複合体を用いて行う。この電解質膜-電極複合体は、高分子電解質膜1の片面のみに電極10を有する。電極10は、触媒層2と拡散層3(下地層4及びカーボンペーパー5)とからなる。
高分子電解質膜1の電極10を設けていない面はpH1の硫酸水溶液9と接触させ、電極10側は窒素ガスと接触させる。参照極8を硫酸水溶液9中に、対照極7を硫酸水溶液9と電極構造体の拡散層3につなげる。
【0040】
ポテンショスタッド6により拡散層3と硫酸水溶液9と間に電圧をかけると、硫酸水溶液9中のプロトンが高分子電解質膜1を透過して電極10に達し、電子のやり取りを行う。即ち、プロトンが触媒粒子中の白金表面に着くことにより白金から電子が渡される。逆の場合は、吸着した水素原子から電子が白金に渡されプロトンとして硫酸水溶液中に拡散する。
【0041】
電圧を-0.1Vから+0.7Vまでスキャンし、プロトンの吸着側のピーク面積からQ値(C/cm2)を求めることができる。代表的な測定例を図2に示す。図2に示す放電曲線において、Q値は電極構造体の面積当たりの電化量を示す。Q値は、電極10と高分子電解質膜1との密着性の指標とすることができ、その値を0.09?0.18C/cm2とすることにより、優れた電解質膜-電極複合体が得られることが分かった。
【0042】
(2)機械的強度
各複合高分子電解質膜の引張り強度をJIS K7127に従って測定した。測定結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
上記測定結果から、本発明の複合高分子電解質膜は従来の高分子電解質膜に比較して発電電位が向上しており、また補強材との密着性も高く、機械的強度も向上していることが分かる。
【0045】
【発明の効果】
本発明の複合高分子電解質膜は、高イオン交換容量のスルホン化高分子化合物からなる母材と低イオン交換容量のスルホン化高分子化合物からなる補強材とを複合化させてなるので、良好なイオン伝導性を有するとともに、両者の密着性に優れ、良好な機械的強度を有する。そのため本発明の複合高分子電解質膜は優れた耐熱水性、耐酸化性及び耐クリープ性(耐久性)を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電極構造体のQ値を測定する装置を示す概略断面図である。
【図2】本発明の電極構造体のQ値を求めるために、その電流密度を一定の電圧範囲内で測定した結果得られた放電曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
1・・・固体高分子電解質膜
2・・・触媒層
3・・・拡散層
4・・・下地層
5・・・カーボンペーパー
6・・・ポテンシオスタット
7・・・対照極
8・・・参照極
9・・・希硫酸水溶液
10・・・電極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-20 
出願番号 特願2001-12490(P2001-12490)
審決分類 P 1 652・ 121- ZA (H01B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 高木 康晴
吉水 純子
登録日 2003-06-20 
登録番号 特許第3442741号(P3442741)
権利者 本田技研工業株式会社
発明の名称 複合高分子電解質膜及びその製造方法  
代理人 高石 橘馬  
代理人 高石 橘馬  

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