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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680155 審決 特許
無効200580311 審決 特許
無効200480273 審決 特許
無効200680178 審決 特許
無効200680074 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01B
審判 全部無効 発明同一  A01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
管理番号 1154129
審判番号 無効2006-80061  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-04-13 
確定日 2007-02-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3704278号発明「農作業機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3704278号(以下、「本件特許」という。)の出願は、平成12年7月5日に特許出願された特願2000-204323号(以下、「本件特許出願」という。)であって、その請求項1ないし請求項4に係る発明についての特許が平成17年7月29日に設定登録され、その後の平成18年4月13日に、前記本件特許の請求項1、請求項2、請求項3及び請求項4に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人小橋工業株式会社(以下、「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2006-80061〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人松山株式会社(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の平成18年7月6日付の審判事件答弁書が提出されるとともに、同日付の訂正請求書が提出され、それらの副本を平成18年7月19日(発送日)に請求人に送付したところ、請求人からは何らの応答もなく弁駁書提出の指定期間が経過したものである。

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、平成18年4月13日付の審判請求書において、本件特許出願前に頒布された刊行物である下記の甲第1?5号証、及び本件特許出願の日前の特許出願の願書に最初に添付した明細書及び図面である下記の甲第6号証を提示し、「特許第3704278号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張して、概略を次に示すところの無効理由を主張した。
[無効理由1]:本件の請求項1?4に係る各特許発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に甲第3?5号証に記載された周知技術を適用することにより、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由2]:本件の請求項1?4に係る各特許発明は、甲第6号証の先願明細書に記載の発明と実質的に同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由3]:本件の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の要件を満たしていない、よって、本件の請求項1及びこれを引用する請求項2?4に係る発明の特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

甲第1号証:特公平5-87201号公報
甲第2号証:特開平8-149902号公報
甲第3号証:実願昭55-97227号(実開昭57-22557号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭54-108246号(実開昭56-26507号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭55-27971号(実開昭56-131723号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
甲第6号証:特願平11-207579号(特開2001-28903号公報)の願書に最初に添付した明細書及び図面

2 被請求人の主張
被請求人は、請求人の無効審判の請求に対して、平成18年7月6日付の審判事件答弁書とともに同日付の訂正請求書を提出し、請求人が主張する無効理由に対して、概略が次のような主張をした。
すなわち、被請求人の主張を要約すると、無効理由1に対しては、「甲第1?5号証には、訂正後の請求項1の少なくとも『作業側フレームは、第2の連結アーム体の他端側に土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結された』という構成に関する記載がなく、甲第1?5号証を適宜組合わせたとしても、本件請求項1?4に係る発明とはならない。そして、請求項1に係る発明は、前記構成に基づく格別の作用効果を奏することができるから、当業者といえども引用発明から容易に発明することができたものではない。」と主張し、無効理由2に対しては、「甲第6号証に記載の発明は、訂正後の請求項1の少なくとも『作業側フレームは、第2の連結アーム体の他端側に土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結された』という構成を備えておらず、両者の構成は明らかに相違する。そして、請求項1に係る発明は、前記構成に基づく格別の作用効果を奏することができる。したがって、本件請求項1に係る発明は、構成および作用効果において甲第6号証に記載の発明とは明らかに異なり、同一ではない。また、本件請求項2?4に係る発明は、前記請求項1の構成を前提とするものであるから、甲第6号証に記載の発明と同一ではない。」と主張し、そして、無効理由3に対しては、「本件請求項1に係る発明は明確であり、かつ発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件請求項1?4の記載が特許法第36条第6項第1号および第2号の要件を満たしていることは明らかである。」と主張し、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と主張した。

第3 被請求人がした訂正請求の適否についての検討
被請求人は、平成18年7月6日付の訂正請求書を提出して、特許請求の範囲の請求項1の記載及び発明の詳細な説明の記載についての訂正を求めているので、その訂正請求の適否について検討する。
1 訂正請求の内容
(1)訂正事項1:特許明細書の特許請求の範囲についての訂正請求
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】 トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、
このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、
この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、
この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、
この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、
前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、
前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、
前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、
前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定することを特徴とする農作業機。」
の記載を、
「【請求項1】 トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、
このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、
この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、
この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、
この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、
前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、 前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、
前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、
前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、
前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定することを特徴とする農作業機。」
と訂正することを求める。

(2)訂正事項2:特許明細書の発明の詳細な説明についての訂正請求
特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】の
「【0006】【課題を解決するための手段】 請求項1記載の農作業機は、トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定するものである。」
の記載を、
「【0006】【課題を解決するための手段】 請求項1記載の農作業機は、トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定するものである。」
と訂正することを求める。

2 訂正の目的要件の適合についての検討
上記訂正事項1における訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特定事項として、請求項1に、「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の文言を加えることにより、請求項1に係る発明を限定するものであるから、前記訂正事項1における訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正事項2における訂正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明に対する訂正事項1の訂正にともない、特許明細書の発明の詳細な説明の明りようでない記載を、訂正される請求項1の記載に整合させるためにする訂正であるから、前記訂正事項2における訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
したがって、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書に掲げる訂正の目的要件に適合する。

3 新規事項の追加の存否についての検討
上記訂正事項1及び訂正事項2の各訂正により請求項1の記載及び段落【0006】の記載にそれぞれ加えられる「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の文言は、特許明細書の段落【0036】の「また一方、畦塗り機1は、図1ないし図5に示すように、上述のように前進作業姿勢、非作業姿勢および後退作業姿勢に姿勢変更可能な土作業手段45を支持した移動可能な可動機枠である作業側フレーム51を備えている。この作業側フレーム51は、第2の連結アーム体35の先端側に取り付けられており、第1の連結アーム体23の回動調節および第2の連結アーム体35の回動調節に応じて土作業手段45とともに回動調節可能とされている。また、作業側フレーム51は、第2の連結アーム体35の先端側に、土作業手段45の左右方向の位置を調節すなわちトラクタTの左右方向中心線Xからの距離を調節できるように、畦塗り機1の左右方向に沿って往復直線移動可能とされている。」の記載に基づくものであるから、前記訂正事項1及び訂正事項2の各訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であると認められる。
したがって、本件訂正請求は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合する。

4 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の有無についての検討
上記訂正事項1の訂正において、特許請求の範囲の請求項1に「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の文言が加えられたことにより、実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されたということができないので、本件訂正請求は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

5 まとめ
以上のとおりであり、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書の規定、並びに、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合しているから、本件訂正請求を認める。

第4 本件特許に係る発明
当審が審理すべき本件特許に係る発明であるところの請求項1に係る発明、請求項2に係る発明、請求項3に係る発明及び請求項4に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」及び「本件発明4」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の訂正された請求項1、並びに、訂正されていない請求項2、同請求項3及び同請求項4の各請求項に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、
このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、
この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、
この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、
この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、
前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、 前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、
前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、
前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、
前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定することを特徴とする農作業機。」
「【請求項2】 作業側フレームは一端面が開口した筒形状のアーム連結部を有し、このアーム連結部内には第2の連結アーム体のアーム部材がスライド自在に挿入されていることを特徴とする請求項1記載の農作業機。」
「【請求項3】 トラクタからの駆動力を土作業手段側に伝達する動力伝達軸体を備え、
トラクタ側フレームと作業側フレームとの間は、互いに連結された第1の連結アーム体および第2の連結アーム体と前記動力伝達軸体との二つの部材のみで連結されていることを特徴とする請求項1または2記載の農作業機。」
「【請求項4】 土作業手段は、畦塗り用の土を耕耘して跳ね上げるロータリーとこのロータリーにて耕耘されて跳ね上げられた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り体とを有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の農作業機。」

第5 無効理由1〔特許法第29条第2項〕についての当審の判断
1 甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第1号証の刊行物〔特公平5-87201号公報〕には、「対地作業機」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「1 トラクタ2に装着される固定機枠14と;固定機枠14に縦軸心31廻りに回動自在に備えられて、縦軸心31から左右各側方に延設された2つの延設姿勢に姿勢変更固定自在とされた可動機枠15と;可動機枠15の自由端側に備えられて、前後方向一方に進行し乍ら作業を行う対地作業部17と;を有するものにおいて、上記縦軸心31が、トラクタ2の左右方向中心24から左右方向一側方にオフセツト配置され、可動機枠15が上記一側方側の延設姿勢にある際に、対地作業部17が左右方向に関してトラクタ2の走行部6よりも外側方に配置されたことを特徴とする対地作業機。」(1頁1欄2?14行の特許請求の範囲の記載)
「(発明が解決しようとする問題点) このため、上記距離を小として、可動機枠の一方の延設姿勢で、対地作業部を左右方向に関してトラクタの一側の後輪の外側方に隣接して配置した場合には、可動機枠の他方の延設姿勢でも、対地作業部が左右方向に関してトラクタの他側の後輪の外側方に隣接して配置されることとなる。そして、上記のようにした場合には、圃場の隅部で、可動機枠を反転させて、トラクタを後進させ乍ら、対地作業を行つた場合には、トラクタの後輪により畦の既作業部分が潰されることとなる。従つて、上記従来の対地作業機では、トラクタの左右方向中心から対地作業部までの左右方向に関する距離を小とできず、そのため、可動機枠をいずれの延設姿勢にした場合でも、対地作業時に、対地作業機に無理な力が掛かると共に、トラクタのハンドルがとられると云う問題があつた。本発明は、上記問題を解決できる対地作業機を提供することを目的とする。」(2頁3欄2?21行)
「(作用) 圃場で対地作業を行う際には、通常は、対地作業機1の可動機枠15を、縦軸心31をオフセツト配置した側の延設姿勢にし、対地作業部17を回転駆動し乍ら、トラクタ2を前進又は後進させて、対地作業部17により作業を行う。そして、圃場の隅部に到達したら、トラクタ2を180度反転させると共に、対地作業機1の可動機枠15を縦軸心31廻りに反転させて、可動機枠15を、縦軸心31をオフセツト配置した側の延設姿勢にする。この状態で、対地作業部17を回転駆動し乍ら、トラクタ2を後進又は前進させ、対地作業部17により、既作業部分に続けて、作業を行う。」(2頁3欄37行?4欄6行)
「溝堀部17は対地作業部として例示されるもので、可動機枠15の本体部33の自由端に縦設された筒状支持部35と、支持部35の下端部から下設されたオーガケース36と、オーガケース36から後方に突設された左右一対の溝成形板48と、支持部35内から上下に延設され且つ下部がオーガ軸37とされた従動軸38と、オーガ軸37の上部に周方向に等配された掻出羽根39と、オーガ軸37の下部に螺旋状に周設されたスクリユウ部40とから成る。従動軸38の上端部には、従動スプロケツト41が固設され、この従動スプロケツト41と駆動スプロケツト30間にチエン42が巻装されて、チエン伝動機構43が構成され、該機構43はカバー44により覆被されている。」(3頁5欄27?41行)
「上記のように、圃場の排水用溝を掘削する際には、通常は、溝堀機1の可動機枠15を、縦軸心31をオフセツト配置した側とは反対側の延設姿勢、即ち、右側延設姿勢にして、溝堀作業をするようにして、圃場の隅部でのみ、溝堀機1の可動機枠15を、縦軸心31をオフセツト配置した側の延設姿勢、即ち、左側延設姿勢にして、溝堀作業を行うようにしたので、圃場の溝堀作業時の大半において、トラクタ2の左右方向中心24から溝堀部17までの左右方向に関する距離が小さく、溝堀機1に無理な力が掛かることがないと共に、トラクタ2のハンドル9がとられることもない。
又、可動機枠15が左側延設姿勢にある際に、溝堀部17がトラクタ2の左側後輪6よりも左右方向に関して外側方に配置されているので、圃場の隅部で、トラクタ2や溝堀部1の可動機枠15を反転させる等して、排水用溝47を掘削した際に、トラクタ2の左側後輪6により、既掘削の排水用溝47を潰したりするともない。」(3頁6欄33行?4頁7欄8行)
「又、対地作業機として、畦塗り機や畦削り機を用いてもよい。」(4頁7欄17?18行)

上記甲第1号証の刊行物の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第1号証の刊行物には、次の発明(以下、これを「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「トラクタ2に装着される固定機枠14と、固定機枠14に縦軸心31廻りに回動自在に備えられて、縦軸心31から左右各側方に延設された2つの延設姿勢に姿勢変更固定自在とされた可動機枠15と、可動機枠15の自由端側に備えられて、前後方向一方に進行し乍ら作業を行う畦塗り機や畦削り機等の対地作業部17と、を備える対地作業機において、
可動機枠15の自由端には筒状支持部35が縦設され、前記筒状支持部35に対地作業部17が取り付けられており、
可動機枠15の上記縦軸心31がトラクタ2の左右方向中心24から左方側にオフセット配置され、
右側延設姿勢の前進作業ではトラクタ2の左右方向中心24から対地作業部17までの左右方向に関する距離が小さく、
左側延設姿勢の後進作業ではトラクタ2の左右方向中心24から対地作業部17までの左右方向に関する距離が大きく、トラクタ2の左側後輪よりも対地作業部17が左右方向に関して外側方に配置されている対地作業機」

(2)甲第2号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第2号証の刊行物〔特開平8-149902号公報〕には、「畦塗り機」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【請求項1】 トラクタに連結する三点連結部を有する機枠と、この機枠の後側部に取着された上下方向の回動中心軸と、この回動中心軸に進行方向に対して左右方向に回動自在に取着され旧畦に向かって畦塗り用の泥土を跳ね上げる回転自在のロータリー及びこのロータリーから跳ね上げられた泥土を旧畦に塗り付けて整畦する回転自在の畦塗り体を有する可動機枠と、前記機枠に設けられ前記回動中心軸を中心として前記可動機枠を左右方向に回動し旧畦の畦塗り作業位置にロータリー及び畦塗り体を配置してロックするロック手段と、を具備したことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】 可動機枠は、回動中心軸に左右方向に回動自在に取着され前方に向かって回転自在に突出した第1の入力軸及び後方に向かって回転自在に突出した第2の入力軸を有するミッションを内蔵したミッションケースと、このミッションケースに連結され前記ミッションからの出力によって回転駆動されるロータリーを有する第1の伝動ケースと、前記ミッションケースに連結され前記ミッションからの出力によって回転駆動される畦塗り体を有する第2の伝動ケースと、を備えていることを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。」
「【0022】 1は機枠で、この機枠1は基板2を有し、この基板2の上方部には左右の側板3を介して支持板4が一体に固着され、この支持板4の左右方向の略中間上部にはマスト5が前方に向かって一体に突設され、このマスト5の突出端部には左右方向の連結ピン6が取着されている。
【0023】 また、前記基板2と支持板4との間の前側左右部には左右のヒッチアーム7がそれぞれ前方に向かって一体に突設され、この左右のヒッチアーム7の突出端部には左右方向のロワピン8がそれぞれ一体に固着されている。そして、前記マスト5の連結ピン6及び前記左右のヒッチアーム7のロワピン8にてトラクタTに連結する三点連結部が構成されている。」
「【0031】 つぎに、前記機枠1の後側部すなわち、前記基板2と前記支持板4との間において、前記入力連結軸11の前後方向の軸線に対して一側部に偏位した位置の後側部間には上下方向の回動中心軸33が垂直状に一体に取着されている。また、前記回動中心軸33には可動機枠34が前記機枠1の進行方向に対して左右方向に水平回動自在に取着されている。
【0032】 前記可動機枠34は、前記回動中心軸33に左右方向に水平回動自在に取着されたミッションケース35を有し、このミッションケース35の前側部には前記入力連結軸11の前後方向の軸線上に位置して第1の入力軸36が前方に向かって回転自在に突出されているとともに、前記ミッションケース35の後側部には前記回動中心軸33より左側に位置し、かつ、このミッションケース35が180度回動した場合に前記入力連結軸11の前後方向の軸線上に位置する第2の入力軸37が後方に向かって回転自在に突出されている。」
「【0036】 さらに、前記第1の伝動ケース39の前側部には前記ロータリー40を被覆しロータリー40の各跳上爪44にて跳ね上げられる泥土を旧畦Aに向けて案内するカバー体48が固着されている。このカバー体48は、前記ロータリー40の前後方向の両側部を被覆した前後の側板部、この両側板部間に連設され前記ロータリー40の上方部を被覆した天板部及び前記両側板部と天板部間に連設され前記ロータリー40の回転方向の外端部を被覆した外側板部とを有して形成されている。」
「【0038】 また、前記第2の伝動ケース49の右側端部には第2の伝動ケースとしての前後方向の第3の伝動ケース52が前記第1の出力軸51を中心として上下方向に回動可能に取着支持され、この第3の伝動ケース52の後端部には軸受体53にて水平状に配設された左右方向の回転軸54が回転自在に軸架されている。また、前記第3の伝動ケース52内において前記回転軸54の基端部にはスプロケット55が固着され、このスプロケット55と前記第1の出力軸51の右側端部に固着されたスプロケット56との間には無端チェーン57が回行自在に懸架されている。」
「【0044】 つぎに、前記第3の伝動ケース52の後端上部に前記カバー体48及び前記畦塗り体58の右側部に対して配設された前後方向の側板69を支持した門型フレーム70が固着されている。この門型フレーム70は、前記第3の伝動ケース52の後端上部に固定された固定フレーム部71と、この固定フレーム部71の上端部の水平状部72に左右方向に摺動自在に嵌合された水平状の摺動部73を上端部に有して前記側板69を支持した可動フレーム部74とからなっている。」
「【0056】 したがって、回動中心軸33及び右側のロックアーム23にて機枠1に対して可動機枠34がそのロータリー40及び畦塗り体58を機枠1の右側部に突出した状態でロックされ、畦塗り作業に備えることができる。」
「【0063】 つぎに、機枠1に取着した回動中心軸33を中心として可動機枠34を進行方向に対して左側に向かって略180度回動すると、この可動機枠34に設けたロータリー40及び畦塗り体58が機枠1の左側部に突出した状態に配置されるとともに、この可動機枠34のミッションケース35に設けた第2の入力軸37の先端部が機枠1に設けた入力連結軸11のスプライン軸部12の後端部に接続可能状態に対向される。」
「【0066】 したがって、回動中心軸33及び左側のロックアーム23にて機枠1に対して可動機枠34がそのロータリー40及び畦塗り体58を機枠1の左側部、すなわち、前行程の旧畦Aに向かって突出した状態でロックされ、畦塗り作業に備えることができる。」

上記甲第2号証の刊行物の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第2号証の刊行物には、次の発明(以下、これを「引用発明2という。)の記載が認められる。
「トラクタTに連結する三点連結部を有する機枠1と、
前記機枠1の後側部に取着された上下方向の回動中心軸33と、
前記回動中心軸33に進行方向に対して左右方向に回動自在に取着され旧畦Aに向かって畦塗り用の泥土を跳ね上げる回転自在のロータリー40及び該ロータリー40から跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて整畦する回転自在の畦塗り体58を有する可動機枠34と、
前記可動機枠34に設けられ前記回動中心軸33を中心として前記可動機枠34を左右方向に回動し旧畦Aの畦塗り作業位置にロータリー40及び畦塗り体58を配置してロックするロック手段と、を具備した畦塗り機において、
可動機枠34は、回動中心軸33に左右方向に回動自在に取着され前方に向かって回転自在に突出した第1の入力軸36及び後方に向かって回転自在に突出した第2の入力軸37を有するミッションを内蔵したミッションケース35と、
前記ミッションケース35に連結され前記ミッションからの出力によって回転駆動されるロータリー40を有する第1の伝動ケース39と、
前記ミッションケース35に連結され前記ミッションからの出力によって回転駆動される畦塗り体58を有する第2の伝動ケース49と、を備えている畦塗り機」

(3)甲第3号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物〔実願昭55-97227号(実開昭57-22557号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム〕には、「溝掘機」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「1. 車軸に3点リンク機構等を介して装着される固定機枠に、溝を掘削する溝掘機本体を備えた可動機枠を平行リンク機構を介して平面視において平行移動固定自在に装着したことを特徴とする溝掘機。」(明細書1頁5?9行の実用新案登録請求の範囲の記載)
「可動機枠(10)中央部からは入力軸(32)が上方に突出され、この入力軸(32)に固設された従動プーリ(33)と固定機枠(8)側の駆動プーリ(20)との間にベルト(34)が巻掛けられて、巻掛伝動機構(35)が構成されている。可動機枠(10)の右側部分には伝動軸(36)が内装され、この伝動軸(36)と入力軸(32)とが一対のべベルギヤ(37)(38)により連動連結されている。平行リンク機構(9)は上下一対であり、各機構(9)は左右一対のリンク(39)から成る。各リンク(39)の前後端部側は固定・可動機枠(8)(10)の天壁及び底壁に枢結ピン(40)(41)により枢結されて、可動機枠(10)は固定機枠(8)に平面視において平行移動自在に備えられている。また、リンク(39)先端部に挿通された固定ピン(42)が、固定機枠(8)の天壁及び底壁に形成された複数個の固定孔(43)の一個に挿脱自在に挿入されることにより可動機枠(10)が所定の各平行移動位置で固定機枠(8)に固定される。なお、上部側リンク(39)前端部側の左右の枢結ピン(40)とギヤケース(12)の出力軸(19)の軸心は同一平面上にあるようにされ、また、上部側リンク(39)後端部側の左右の枢結ピン(41)と可動機枠(10)の入力軸(32)の軸心とは同一平面上にあるようにされており、これにより可動機枠(10)が平行移動されても、上記出力軸(19)と入力軸(32)の軸間距離が変わらず、ベルト(34)が緩むことはない。」(明細書5頁13行?6頁17行)
「溝掘機本体(11)はトラクタの右後輪(7)後方に位置して、その轍跡(44)を掘削するもので、可動機枠(10)のギヤケース部(23)から下設されたスクリュウオーガにて例示する掘削部(45)と、ギヤケース部(23)下面の取付フランジ(46)に着脱自在に取付けられて主要部が掘削部(45)の後方側を覆うケーシング(47)と、ケーシング(47)の後面に取付けられ且つ相互に連結された左右一対の溝整形板(48)と、左側の溝整形板(48)に固設された排土板(49)とから成る。」(明細書6頁18行?7頁6行)
「第2図に示すように、各固定ピン(42)を抜いて、各リンク(39)の固定を解除し、可動機枠(10)を平行移動させて、溝堀機本体(11)のオフセット量を調整し、該本体(11)をトラクタの右後輪後方に位置させて、リンク(39)を固定ピン(42)により固定する。」(明細書8頁16行?9頁1行)

(4)甲第4号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第4号証の刊行物〔実願昭54-108246号(実開昭56-26507号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム〕には、「農耕トラクタ用牧草機械の牽引装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「先端に掛具を配した牽引桿の基部を前部フレームに支軸によって回動自在に設け、農耕トラクタ巾より側方に位置して作業をする牧草機械において、牽引桿のブラケットに油圧シリンダーの基部を固着し、前部フレームに前記油圧シリンダーに伸縮するピストンロッドの先端を固着して、農耕トラクタに座乗走行したまま牽引桿に対して作業機体を独立して姿勢変更可能に構成した牧草機械の牽引装置」(明細書1頁5?13行の実用新案登録請求の範囲の記載)
「1は牽引桿で先端に掛具2を設け、基部は前部フレームである入力ボックス11の底部に支持板8と、支軸9によって回動自在に固着される。5は係止装置を示し、牽引桿1の上部に弾機を装備して20の固定ピンを入力ボックス11の前部に設けたガイド板16に挿脱自在に構成してなる。10は牽引桿1の外側面に固定したブラケットで油圧シリンダー3の基部を枢着する。7はアームで、入力ボックス11の前部側面に外方に向けて突設され、前記した油圧シリンダー3に挿通伸縮されたピストンロッド4の先端が枢着される。」(明細書2頁14行?3頁6行)
「第2図に示すように、ほぼ直角に乾草畦13が続く場合において、トラクタ後部Aのヒッチ18と掛具2によってほぼ直角に屈折されているが、ここで座乗進行のまま油圧シリンダー3を短縮操作すると、第2図の仮想線のように作業機B自体が支軸9を支点として姿勢変更して乾草畦13に沿って、最小半径で作業を進めることができる。この時は、予め係止装置5は解除したまま固定しておく。」(明細書3頁15行?4頁4行)

(5)甲第5号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物〔実願昭55-27971号(実開昭56-131723号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム〕には、「移動農機の作業装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「走行部に折曲可能なブームを取付けると共に、該ブームの先端に異物検知センサを有する作業機具並びに該機具を駆動する油圧モータを取付けて、前記センサの異物検出動作により適宜作業機具を前後左右何れにも変位させるように構成したことを特徴とする移動農機の作業装置。」(明細書1頁5?10行の実用新案登録請求の範囲の記載)
「トラクタ(1)前方に主及び副ブーム(20)(21)を介して草刈り作業機具であるロータリモーア(22)を装備している。第3図に示す如く、前記主ブーム(20)はフロントバンパー(23)中央に固着させるブラケット(24)に軸(25)を介してその中間部を可揺動に枢支させたものであり、このブーム(20)の機内側端とフロントバンパー(23)に横設するブラケット(26)間に油圧シリンダ(27)を張架すると共に、ブーム(20)の機体外方側端と副ブーム(21)とを軸(28)を介して折曲げ自在に連結し、且つこれらブーム(20)(21)間に油圧シリンダ(29)を介設して、前記油圧シリンダ(27)により軸(25)を支点に主ブーム(20)を、また油圧シリンダ(29)により軸(28)を支点に副ブーム(21)を回揺動させるべく構成している。また、前記副ブーム(21)の先端に前記ロータリモーア(22)駆動用の油圧モータ(30)を装着し、このモータ(30)の出力軸(31)に連結具(32)を介して前記ロータリモ一ア(22)の回転軸(33)を着脱可能に取付けている。」(明細書3頁4行?4頁1行)

2 本件発明1について
(1)引用発明1と本件発明1との対比
本件発明1と甲第1号証の刊行物に記載された引用発明1とを対比すると、引用発明1の「固定機枠14」、「縦軸心31」、「対地作業部17」及び「対地作業機」のそれぞれが、本件発明1の「トラクタ側フレーム」、「回動中心軸線」、「土作業手段」及び「農作業機」のそれぞれに相当する。
また、引用発明1の「可動機枠15」と、本件発明1の「トラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体」及び「この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体」とからなる「連結アーム体」とは、いずれも回動軸心の周りに回動可能に構成された「揺動アーム体」である点で共通する。
そして、引用発明1の可動機枠15は縦軸心31を中心として回動調節可能であり、また、対地作業部17はトラクタ2の前進走行に基づいて土作業可能な右側延設姿勢およびトラクタ2の後進走行に基づいて土作業可能な左側延設姿勢に設定されるものであって、しかも、可動機枠15の上記縦軸心31がトラクタ2の左右方向中心24から左方側にオフセット配置されているので、左側延設姿勢にある対地作業部17のトラクタ2に対する左方側への突出寸法は、右側延設姿勢にある対地作業部17のトラクタ2に対する右方側への突出寸法より大きくなっているから、引用発明1の前記構成は、本件発明1の「前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定する」構成を具備しているといえる。
そうすると、本件発明1と引用発明1の両者は、
「トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、
このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な揺動アーム体と、
この揺動アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、
この作業側フレームに取り付けられ、前記揺動アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、
前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定することを特徴とする農作業機」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:揺動アーム体が、本件発明1では、「このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体」とからなるものであるのに対して、引用発明1では、トラクタ2に装着される固定機枠14に縦軸心31廻りに回動自在に備えられ、縦軸心31から左右各側方に延設されて2つの延設姿勢に姿勢変更固定自在とされる可動機枠15のみで構成されている点。
相違点2:土作業手段のトラクタの前進走行に基づく土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づく土作業可能な後退作業姿勢の設定が、本件発明1では、「前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節」によるのに対して、引用発明1では、縦軸心31から左右各側方に延設されて2つの延設姿勢に姿勢変更固定自在とされる可動機枠15による点。
相違点3:本件発明1が、「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の構成を備えるのに対して、引用発明1は、単に可動機枠15の自由端に縦設された筒状支持部35に対地作業部17が取り付けられており、対地作業部17はその左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結されてはいない点。
相違点4:本件発明1が、「前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置」するのに対して、引用発明1は、可動機枠15の上記縦軸心31がトラクタ2の左右方向中心24から左方側にオフセット配置されている点。
相違点5:本件発明1が、「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」するのに対して、引用発明1は、可動機枠15の縦軸心31から可動機枠15の自由端に縦設された筒状支持部35に取り付けられる対地作業部17までの離間距離が一定である点。

(2)相違点1?5についての検討
ア 相違点3について
本件発明1の上記相違点3に係る「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の構成は、請求人が提示した甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも記載されていない。
また、本件発明1の相違点3に係る前記構成が、特許明細書における自明の事項であるとも、あるいは、本件特許出願時の周知技術であるということもできない。
そして、本件発明1は、相違点3に係る前記構成により、「作業側フレームが第2の連結アーム体の他端側に土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結されているため、作業側フレームを第2の連結アーム体に対して移動させることにより、土作業手段の左右方向の位置(トラクタに対するオフセット量)を簡単に調節することができる」という作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1の前記相違点3に係る構成は、請求人が提示した甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものである、ということができない。

イ 相違点5について
(ア)甲第2号証ないし甲第5号証の記載事項を検討しても、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれかに、本件発明1の上記相違点5に係る「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成が記載されている、とするに足る証拠を見いだすことができない。
a すなわち、甲第2号証に「前記入力連結軸11の前後方向の軸線に対して一側部に偏位した位置の後側部間には上下方向の回動中心軸33が垂直状に一体に取着されている。」と記載されていることからみて、甲第2号証記載の発明は、オフセット量を確保するために、初めから回動中心軸33が入力連結軸11の前後方向の軸線に対して一側部に偏位した位置に取着されているのであるから、本件発明1の「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成は、引用発明1と同様にもとより必要とされていないことが明らかである。

b 甲第3号証に「平行リンク機構(9)は上下一対であり、各機構(9)は左右一対のリンク(39)から成る。各リンク(39)の前後端部側は固定・可動機枠(8)(10)の天壁及び底壁に枢結ピン(40)(41)により枢結されて、可動機枠(10)は固定機枠(8)に平面視において平行移動自在に備えられている。」及び「また、上部側リンク(39)後端部側の左右の枢結ピン(41)と可動機枠(10)の入力軸(32)の軸心とは同一平面上にあるようにされており、これにより可動機枠(10)が平行移動されても、上記出力軸(19)と入力軸(32)の軸間距離が変わらず、ベルト(34)が緩むことはない。」と記載されていて、甲第3号証記載の発明では、左右一対のリンク(39)により連結される固定機枠(8)の枢結ピン40と可動機枠(10)の枢結ピン41間の軸間距離が、出力軸(19)と入力軸(32)の軸間距離と同様に不変であるから、甲第3号証記載の発明は、もとより本件発明1の相違点5に係る前記構成を備えていないことが明らかである。
さらにいえば、甲第3号証記載の発明は、可動機枠(10)が固定機枠(8)に対して左右一対のリンク(39)により左右に平行移動自在に備えられているだけであり、本件発明1のように、土作業手段の前進作業姿勢から土作業手段の後退作業姿勢への姿勢変更をすることを前提としていないものであるから、甲第3号証記載の発明は、もとより本件発明1の前提を欠くものであって、本件発明1の相違点5に係る少なくとも「前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成も備えていないことが明らかである。

c 甲第4号証に「先端に掛具を配した牽引桿の基部を前部フレームに支軸によって回動自在に設け、農耕トラクタ巾より側方に位置して作業をする牧草機械において、牽引桿のブラケットに油圧シリンダーの基部を固着し、前部フレームに前記油圧シリンダーに伸縮するピストンロッドの先端を固着して、農耕トラクタに座乗走行したまま牽引桿に対して作業機体を独立して姿勢変更可能に構成した牧草機械の牽引装置」及び「第2図に示すように、ほぼ直角に乾草畦13が続く場合において、トラクタ後部Aのヒッチ18と掛具2によってほぼ直角に屈折されているが、ここで座乗進行のまま油圧シリンダー3を短縮操作すると、第2図の仮想線のように作業機B自体が支軸9を支点として姿勢変更して乾草畦13に沿って、最小半径で作業を進めることができる。」と記載されていて、甲第4号証記載の発明は、トラクタ後部Aのヒッチ18に掛具2によってほぼ直角に屈折した状態の農耕トラクタ巾より常に側方に位置して作業をする牧草機械により、トラクタの前進走行のみで作業が進められるものであり、本件発明1のように、土作業手段の前進作業姿勢から土作業手段の後退作業姿勢への姿勢変更をすることを前提としていないものであるから、甲第4号証記載の発明は、もとより本件発明1の前提を欠くものであり、本件発明1の相違点5に係る少なくとも「前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成を備えていないことが明らかである。

d 甲第5号証に「走行部に折曲可能なブームを取付けると共に、該ブームの先端に異物検知センサを有する作業機具並びに該機具を駆動する油圧モータを取付けて、前記センサの異物検出動作により適宜作業機具を前後左右何れにも変位させるように構成したことを特徴とする移動農機の作業装置。」及び「トラクタ(1)前方に主及び副ブーム(20)(21)を介して草刈り作業機具であるロータリモーア(22)を装備している。」と記載されていて、甲第5号証には、トラクタ(1)前方に折曲可能な主及び副ブーム(20)(21)を取付けて、適宜草刈り作業機具を前後左右何れにも変位させるように構成した移動農機の作業装置の発明が記載されてはいるが、甲第5号証記載の発明は、トラクタの前方において、かつトラクタの前進走行時に草刈り作業が行われるものであり、本件発明1のように、土作業手段の前進作業姿勢から土作業手段の後退作業姿勢への姿勢変更をすることを前提としていないものであるから、甲第5号証記載の発明は、もとより本件発明1の前提を欠くものであり、甲第4号証記載の発明と同様に、本件発明1の相違点5に係る少なくとも「前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成を備えていないことが明らかである。

(イ)また、本件発明1の前記相違点5に係る「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」する構成が、特許明細書における自明の事項であるとも、あるいは、本件特許出願時の周知技術であるということもできない。

(ウ)そして、本件発明1は、相違点5に係る「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成により、「作業側フレームが第2の連結アーム体の他端側に土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結されているため、作業側フレームを第2の連結アーム体に対して移動させることにより、土作業手段の左右方向の位置(トラクタに対するオフセット量)を簡単に調節することができる」という作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1の前記相違点5に係る構成は、請求人が提示した甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものである、ということができない。

ウ その他の相違点1、相違点2及び相違点4について
以上のとおりであり、前述した少なくとも相違点3及び相違点5について、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものである、ということができないから、当審は、さらに進んで本件発明1の相違点1、相違点2及び相違点4についての検討をする必要を認めない。
エ しかも、本件発明1が奏する前記作用効果については、請求人が提示した甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明から予測できる範囲内のものであるということもできない。

オ 以上のとおりであるから、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物のいずれにも、本件発明1の少なくとも相違点3及び相違点5に係る構成が記載されているということができず、また、上記相違点3及び相違点5に係る構成が、本願特許出願時の周知慣用技術であるとも、或いは、自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点3及び相違点5に係る構成は、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

カ 甲第2号証に記載の引用発明2を主たる引用発明とした場合についての検討
請求人は、その無効理由1において、甲第1号証に記載の引用発明1を主たる引用発明とした場合だけではなく、甲第2号証に記載された発明についても、「本件の請求項1?4に係る各特許発明は、甲第2号証に記載された発明に甲第3?5号証に記載された周知技術を適用することにより、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」と主張している。
そこで、次に甲第2号証に記載の発明を主たる引用発明2とした場合についての検討する。
(ア)引用発明2と本件発明1との対比
本件発明1と甲第2号証の刊行物に記載された引用発明2とを対比すると、引用発明2の「トラクタTに連結する三点連結部を有する機枠1」、「第1の伝動ケース39及び第2の伝動ケース49」、「ロータリー40及び畦塗り体58」及び「畦塗り機」のそれぞれが、本件発明1の「トラクタに連結されるトラクタ側フレーム」、「この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレーム」、「前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段」及び「農作業機」のそれぞれに相当する。
また、引用発明2の「可動機枠34」と、本件発明1の「トラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体」及び「この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体」とからなる「連結アーム体」とは、いずれも回動軸心の周りに回動可能に構成された「揺動アーム体」である点で共通する。
そして、引用発明2の可動機枠34は回動中心軸33を中心として回動調節可能であり、また、ロータリー40及び畦塗り体58はトラクタTの前進走行に基づいて土作業可能な右側回動姿勢およびトラクタTの後進走行に基づいて土作業可能な左側回動姿勢に設定されるものであって、しかも、可動機枠34の上記回動中心軸33がトラクタTの入力連結軸11の前後方向の軸線に対して左側の偏位した位置にオフセット配置されているので、左側延設姿勢にあるロータリー40及び畦塗り体58のトラクタTに対する左方側への突出寸法は、右側延設姿勢にあるロータリー40及び畦塗り体58のトラクタTに対する右方側への突出寸法より大きくなっているから、引用発明2の前記構成は、本件発明1の「前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定する」構成を具備しているといえる。
そうすると、本件発明1と引用発明2の両者は、
「トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、
このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な揺動アーム体と、
この揺動アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、
この作業側フレームに取り付けられ、前記揺動アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、
前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定することを特徴とする農作業機」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点a:揺動アーム体が、本件発明1では、「このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体」とからなるものであるのに対して、引用発明2では、トラクタTに装着される機枠1に回動中心軸33廻りに回動自在に備えられ、回動中心軸33から左右各側方に回動されて2つの回動姿勢に姿勢変更固定自在とされる可動機枠34のみで構成されている点。
相違点b:土作業手段のトラクタの前進走行に基づく土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づく土作業可能な後退作業姿勢の設定が、本件発明1では、「前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節」によるのに対して、引用発明2では、回動中心軸33から左右各側方に回動されて2つの回動姿勢に姿勢変更固定自在とされる可動機枠34による点。
相違点c:本件発明1が、「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の構成を備えるのに対して、引用発明2は、単に可動機枠34の自由端に配設された第1の伝動ケース39及び第2の伝動ケース49にそれぞれロータリー40及び畦塗り体58が取り付けられており、ロータリー40及び畦塗り体58はその左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結されてはいない点。
相違点d:本件発明1が、「前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置」するのに対して、引用発明2は、可動機枠34の回動中心軸33がトラクタTの入力連結軸11の前後方向の軸線に対して左側の偏位した位置にオフセット配置されている点。
相違点e:本件発明1が、「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」するのに対して、引用発明2は、可動機枠34の回動中心軸33から可動機枠34の自由端に配設された第1の伝動ケース39及び第2の伝動ケース49にそれぞれロータリー40及び畦塗り体58に取り付けられるロータリー40及び畦塗り体58までの離間距離が一定である点。

(イ)相違点a?eについての検討
引用発明2と本件発明1との対比は、以上のとおりであり、結局のところ、引用発明2と本件発明1とを対比した結果としての相違点a?eは、上記「(1)引用発明1と本件発明1との対比」欄に前述した引用発明1と本件発明1とを対比した結果としての相違点1?5と、軌を一にするといえるものである。
そうすると、引用発明1と本件発明1とを対比した結果としての相違点1?5についての判断は、上記「(1)引用発明1と本件発明1との対比」欄及び「(2)相違点1?5についての検討」欄の「ア」?「オ」に前述したとおりであり、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物のいずれにも、本件発明1の少なくとも相違点3及び相違点5に係る構成が記載されているということができず、また、上記相違点3及び相違点5に係る構成が、本願特許出願時の周知慣用技術であるとも、或いは、自明の技術事項であるとも認めることができないので、本件発明1の上記相違点3及び相違点5に係る構成は、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、引用発明2と本件発明1とを対比した結果としての相違点a?eについての判断も、相違点1?5についての理由と同様に、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物のいずれにも、本件発明1の少なくとも相違点c及び相違点eに係る構成が記載されているということができず、また、上記相違点c及び相違点eに係る構成が、本願特許出願時の周知慣用技術であるとも、或いは、自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点c及び相違点eに係る構成は、当業者が容易に想到できたものとはいえない、というべきものである。

キ まとめ
以上のとおり、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物のいずれにも、本件発明1の少なくとも相違点3及び相違点5に係る「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の構成及び「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定」の構成が記載されているということができない。
また、本件発明1の上記相違点3及び相違点5に係る前記構成が、本願特許出願時の周知慣用技術であるとも、或いは、自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1は、引用発明1又は引用発明2に甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物に記載の発明を適用したとしても、当業者が容易に本件発明1の相違点3及び相違点5に係る構成を得ることができたものということができないので、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
そして、本件発明1が奏する作用効果は、甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物に記載の発明から予測できる範囲内のものということができない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができないから、本件発明1についての特許が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものということはできない。

3 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と引用発明1又は引用発明2とを対比する前に、本件発明2と本件発明1とを比較する。
本件発明2は、本件発明1に係る請求項1の発明特定事項を引用することにより特定される引用請求項であるところ、上記「2 本件発明1について」欄に前述したとおり、本件発明1については、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、請求項1を引用し、さらに請求項1の発明特定事項に「作業側フレームは一端面が開口した筒形状のアーム連結部を有し、このアーム連結部内には第2の連結アーム体のアーム部材がスライド自在に挿入されていること」の限定を加えた請求項2に係る本件発明2は、本件発明1について前述した理由と同様に、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない、というべきものである。
そして、本件発明2が奏する作用効果は、甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物に記載の発明から予測できる作用効果の範囲内のものとはいえない。
したがって、本件発明2と引用発明1又は引用発明2とを対比し、両者の相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2についての特許が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものということはできない。

4 本件発明3について
(1)対比
本件発明3と引用発明1又は引用発明2とを対比する前に、本件発明3と本件発明1とを比較する。
本件発明3は、本件発明1に係る請求項1の発明特定事項を引用することにより特定される引用請求項であるところ、上記「2 本件発明1について」欄に前述したとおり、本件発明1については、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、請求項1を引用し、さらに請求項1の発明特定事項に「トラクタからの駆動力を土作業手段側に伝達する動力伝達軸体を備え、トラクタ側フレームと作業側フレームとの間は、互いに連結された第1の連結アーム体および第2の連結アーム体と前記動力伝達軸体との二つの部材のみで連結されていること」の限定を加えた請求項3に係る本件発明3は、本件発明1について前述した理由と同様に、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない、というべきものである。
そして、本件発明3が奏する作用効果は、甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物に記載の発明から予測できる作用効果の範囲内のものとはいえない。
したがって、本件発明3と引用発明1又は引用発明2とを対比し、両者の相違点について検討するまでもなく、本件発明3を、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明3についての特許が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものということはできない。

5 本件発明4について
(1)対比
本件発明4と引用発明1又は引用発明2とを対比する前に、本件発明4と本件発明1とを比較する。
本件発明4は、本件発明1に係る請求項1の発明特定事項を引用することにより特定される引用請求項であるところ、上記「2 本件発明1について」欄に前述したとおり、本件発明1については、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、請求項1を引用し、さらに請求項1の発明特定事項に「土作業手段は、畦塗り用の土を耕耘して跳ね上げるロータリーとこのロータリーにて耕耘されて跳ね上げられた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り体とを有すること」の限定を加えた請求項4に係る本件発明4は、本件発明1について前述した理由と同様に、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない、というべきである。
そして、本件発明4が奏する作用効果は、甲第1号証ないし甲第5号証の刊行物に記載の発明から予測できる作用効果の範囲内のものとはいえない。
したがって、本件発明4と引用発明1又は引用発明2とを対比し、両者の相違点について検討するまでもなく、本件発明4を、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることができない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明4についての特許が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものということはできない。

6 小括
以上のとおりであり、請求人が主張する無効理由1によっては、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4に係る本件特許を無効とすることができない。

第6 無効理由2〔特許法第29条の2〕についての当審の判断
1 甲第6号証の記載事項
本件特許出願の日前に出願された甲第6号証の特許出願〔特願平11-207579号(特開2001-28903号公報)〕の願書に最初に添付された明細書及び図面には、「畦塗り機」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【0008】【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。図1及び図2において、符号1は図示しないトラクタの後部に設けられたトップリンク及びロアリンクからなる三点リンク連結機構に連結されて、整畦作業を行う畦塗り機である。この畦塗り機1は、伝動フレームを兼ねる本体フレーム2を、機体の進行方向と直交するようにして設けている。この本体フレーム2には、前端部から前方に向け突出し、トラクタのPTO軸からユニバーサルジョイント及び伝動軸を介して動力を受ける図示しない入力軸が設けられ、また、上方に突出するトップリンク連結部3を設けると共に、下部左右両側にロアリンク連結部4,4を設け、トラクタの三点リンク連結機構に連結するようにしている。
【0009】 本体フレーム2の後部に前端が枢着された左右一対の平行リンク5,6の後端部に支持・伝動フレーム7が枢着され、左右方向に移動(オフセット)可能になっている。この支持・伝動フレーム7の左右中央位置に、入力軸から入力された動力が伝動機構8を介して伝達され、ベベルギヤ9,10により変速して後述する前処理体19及び整畦体20に動力伝達する変速ギヤボックス11を設けている。この変速ギヤボックス11の下側に伝動フレーム12の基端部がベアリング13を介して水平方向に回動自在に軸支されている。伝動フレーム12の基端部にはベアリング14,14を介して伝動軸15が軸支され、その上端部は変速ギヤボックス11内に突出していて、ここに上記ベベルギヤ10が固設されている。伝動フレーム12は1つのフレーム構造のもので、伝動軸15に固設されているスプロケットホイール16に巻装されたチェーン17を介して先端側に動力伝達するようにしている。
【0010】 伝動フレーム12の先端部には、元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ18を備えた前処理体19、及びこの前処理体19により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形する多角円錐ドラムからなる整畦体20を支持している。前処理体19及び整畦体20には、伝動フレーム12の先端部に水平方向に回動自在に枢着された伝動ケース21からそれぞれ動力伝達される。そして、前処理体19及び整畦体20は、伝動フレーム12の基端部(変速ギヤボックス11の位置)及び伝動フレーム12の伝動ケース21への枢着部を回動中心として水平方向に180度回動可能である。
【0011】 上記平行リンク5,6の一方のリンク5の支持・伝動フレーム7との枢支位置と、他方のリンク6の中間部との間に、オフセット量調節用電動シリンダ22が介装され、この電動シリンダ22の伸縮作動により前処理体19及び整畦体20の左右のオフセット量が無段階に調節可能である。そして、前処理体19及び整畦体20を右側にオフセットした図1及び図2の状態から、図4の前処理体19及び整畦体20を機体中央側に寄せた状態、図5の前処理体19及び整畦体20を180度回転させて左側にオフセットした状態、図6の前処理体19及び整畦体20を180度回転させて機体中央側に寄せた状態まで、無段階に調節可能である。」
「【0016】 この実施例の畦塗り機1は、通常は前処理体19及び整畦体20を図1及び図2の状態に機体の右側セットされて前進方向に移動しながら圃場を左回りし、畦塗り機1の右側に畦を形成していく。圃場の角部などにおいて畦を精度良く形成しようとするときは、一旦前処理体19及び整畦体20の駆動回転を停止し、トラクタの三点リンク連結機構により畦塗り機1を持ち上げ、電動シリンダ26を伸長させる。すると、リンク体25を介して伝動フレーム12は基端部を中心に水平方向に回動し、前処理体19及び整畦体20は、図1の位置から図5の位置まで180度回転移動する。このとき、電動シリンダ26及びリンク体25は、図3(a)?(c)のように順に作動する。そして、畦塗り機1が図5または図6の状態で前処理体19及び整畦体20を駆動させ、トラクタを畦を形成しようとする側に後退させて畦塗り機1を矢印方向に移動させながら作業を行うことで、畦際まで精度の高い畦形成が行われる。」

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲第6号証に記載の事項からなる発明(以下、これを「引用発明6」という。)とを対比すると、引用発明6の「伝動フレームを兼ねる本体フレーム2」、「本体フレーム2の後部に前端が枢着された左右一対の平行リンク5,6、及び前記平行リンク5,6の後端部に枢着されて左右方向に移動(オフセット)可能になっている支持・伝動フレーム7」、「支持・伝動フレーム7の左右中央位置に設けられた変速ギヤボックス11の下側にベアリング13を介して水平方向に回動自在に基端部が軸支されている伝動フレーム12」、「伝動フレーム12に枢着されている伝動ケース21」、「元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ18を備えた前処理体19、及びこの前処理体19により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形する多角円錐ドラムからなる整畦体20」、「本体フレーム2と左右一対の平行リンク5,6の前端の枢着部」、「伝動フレーム12の伝動ケース21への枢着部」及び「畦塗り機1」のそれぞれが、本件発明1の「トラクタに連結されるトラクタ側フレーム」、「トラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体」、「第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体」、「第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレーム」、「前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段」、「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分」、「前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分」及び「農作業機」にそれぞれに対応するものとして、甲第6号証に記載されている。
しかしながら、引用発明6の伝動ケース21(本件発明1の「作業側フレーム」に対応するもの)が、伝動フレーム12(本件発明1の「第2の連結アーム体」に対応するもの)に枢着されていることは、甲第6号証の記載から明らかであるから、引用発明6の伝動ケース21が伝動フレーム12の他端側に前処理体19及び整畦体20(本件発明1の「土作業手段」に対応するもの)の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結されるという技術事項の記載を、甲第6号証に認めることができない。
そうすると、甲第6号証には、本件発明1の少なくとも「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の構成が明らかに記載されていないので、本件発明1が引用発明6と同一である、ということができない。
そしてまた、本件発明1の前記「前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、」の構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書の記載において自明の事項であるともいえないので、本件発明1の前記構成が甲第6号証に記載されているに等しい技術事項であるということができないから、本件発明1が引用発明6と実質的に同一の発明である、ということもできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1についての特許が、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものということはできない。

3 本件発明2、本件発明3及び本件発明4について
(1)対比
本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれと引用発明6とを対比する前に、本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれと本件発明1とを比較する。
本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれは、本件発明1に係る請求項1の発明特定事項を引用することにより特定される引用請求項であるところ、上記「第6」の「2 本件発明1について」欄に前述したとおり、本件発明1については、甲第6号証に記載された引用発明6と同一の発明であるとすることができない以上、請求項1を引用し、さらに請求項1の発明特定事項に「作業側フレームは一端面が開口した筒形状のアーム連結部を有し、このアーム連結部内には第2の連結アーム体のアーム部材がスライド自在に挿入されていること」、「トラクタからの駆動力を土作業手段側に伝達する動力伝達軸体を備え、トラクタ側フレームと作業側フレームとの間は、互いに連結された第1の連結アーム体および第2の連結アーム体と前記動力伝達軸体との二つの部材のみで連結されていること」及び「土作業手段は、畦塗り用の土を耕耘して跳ね上げるロータリーとこのロータリーにて耕耘されて跳ね上げられた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り体とを有すること」の各限定を加えた、請求項2、請求項3及び請求項4に係る本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれは、本件発明1について前述した理由と同様に、甲第6号証に記載された引用発明6と同一の発明、あるいは実質的に同一の発明であるとすることができない。
したがって、本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれと引用発明6とを対比し、両者の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれを、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、とすることができない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2、本件発明3及び本件発明4のそれぞれについての特許が、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものということはできない。

4 小括
以上のとおりであり、請求人が主張する無効理由2によっては、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4に係る本件特許を無効とすることができない。

第7 無効理由3〔特許法第36条第6項第1号及び第2号〕についての当審の判断
1 無効理由3の特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1の記載についての請求人の主張
請求人は、「請求項1の『前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、』の構成要件に対応する実施の形態は、段落0032,0033,0034及び図1及び図3に示される例に限られている。すなわち、一端部が第1の連結アーム体23に軸支された「第1の固定体27」の他端部をトラクタ側フレームに軸支する位置を複数の位置で軸支することで、オフセット量の調節を行い、一端部が第2の連結アーム体35に軸支された「第2の固定体39」の他端部を第1の連結アーム体23に軸支する位置を複数の位置で軸支することで、トラクタ側フレームと第1の連結アーム体との連結部分と作業側フレームと第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成にしたもののみが、発明の詳細な説明における実施形態には記載されている。これに対して、請求項1で特定されている前記の構成要件は、その実施の形態の記載内容と比べて余りにも広い技術的範囲を包含する記載になっている。」として、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合していないと主張する。

(2)当審の判断
しかしながら、請求項1の「前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、」の構成要件に対応する実施の形態は、請求人が指摘する「第1の固定体27」及び「第2の固定体39」による作業者の手作業を必要とする構成ばかりではなく、本件の特許明細書の段落【0095】に「また、上記いずれの実施の形態でも、畦塗り機1は、畦塗り機1の姿勢設定に際し、第1の操作ピン43、第2の操作ピン44、調節ピン55,69の抜き差し等、作業者の手作業を必要とする構成として説明したが、例えば、流体圧シリンダ等の駆動手段およびこの駆動手段を制御する制御手段等を利用することにより、作業者の手作業を要しない全自動の構成とすることもできる。なお、第1の操作ピン43、第2の操作ピン44および調節ピン55,69の抜き差し方式に代えて、ねじ等を用いたねじ方式の構成とすることもできる。」と記載されているように、「流体圧シリンダ等の駆動手段およびこの駆動手段を制御する制御手段等」の全自動の構成を採用することができることも明記されている。
したがって、請求項1に記載された本件発明1の実施の形態の例として、複数の変更例が特許明細書に記載されているから、特許法第36条第6項第1号に規定されている「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」の要件を満たしていない、とはいえない。
したがって、請求人の前記「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない」との主張は、まったく根拠のないものである。

(3)請求項2?4の記載について
請求人は、「本件の請求項1を引用する他の請求項2?4の記載についても、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない」と主張する。
しかしながら、上記「第7」の「1(2)当審の判断」欄に前述したとおり、請求項1の記載については、特許法第36条第6項第1号に規定されている「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」の要件を満たしていない、とはいえないものであるから、その請求項1を引用する請求項2?4の記載についても、請求項1の記載について前述した理由と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定されている「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」の要件を満たしていない、とはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求人の無効理由3の特許法第36条第6項第1号に関する前記主張は、採用することができない。

2 無効理由3の特許法第36条第6項第2号について
(1)請求項1の記載についての請求人の主張
請求人は、「請求項1の『前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、』の記載は、離間距離を調整可能な構成にしておいて、人為的に後退作業姿勢時での離間距離の設定を前進作業姿勢時での離間距離の設定より長い距離に設定することを含み得る記載になっており、物の発明の構成要件として『設定し』なる表現が如何なる技術範囲を包含するかが不明確である。」として、請求項1に係る発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合していないと主張する。

(2)当審の判断
しかしながら、特許法第36条第5項に「第三項第四号の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定されているとおり、特許請求の範囲には、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(以下、これを「発明特定事項」という。)のすべてを記載することができることが、法定されている。
そして、同法第36条第5項の「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載」すべき旨の規定の趣旨からみて、特許出願人が請求項において特許を受けようとする発明について記載するにあたっては、種々の表現形式を用いることができるのであり、例えば、「物の発明」の場合に、発明を特定するための事項として物の結合や物の構造の表現形式を用いることができる他、作用・機能・性質・特性・方法・用途・その他のさまざまな表現方式を用いることができることとされている。なお、同様に、「方法(経時的要素を含む一定の行為又は動作)の発明」の場合においても、発明を特定するための事項として、方法(行為又は動作)の結合の表現形式を用いることができる他、その行為又は動作に使用する物、その他の表現形式を用いることができることとされている。そうすると、特許出願人による前記種々の表現形式を用いた発明の特定は、発明が明確である限りにおいて許容されるというべきである。
そこで、本件発明1に係る請求項1の記載についてみると、請求項1における物(本件発明1に係る請求項1の場合は、「農作業機」を指す。)の有する作用、機能、性質又は特性(以下、「機能・特性等」という。)として特許出願人が用いた表現形式である前記「設定し、」の記載から、その物(農作業機)の構造を予測することが困難であるということができないから、本件発明1に係る請求項1が、「設定し、」の記載による物の特定を含む結果、本件発明1に属する具体的な事物の範囲が不明確であるということができない。
そうすると、物の発明の構成要件として『設定し』なる表現が記載された請求項1に係る発明が明確でないとはいえず、したがって、請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定されている「特許を受けようとする発明が明確であること」の要件を満たしていない、とはいえない。

(3)請求項2?4の記載について
請求人は、「本件の請求項1を引用する他の請求項2?4の記載についても、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない」と主張する。
しかしながら、上記「第7」の「2(2)当審の判断」欄に前述したとおり、請求項1の記載については、特許法第36条第6項第2号に規定されている「特許を受けようとする発明が明確であること」の要件を満たしていない、とはいえないものであるから、その請求項1を引用する請求項2?4の記載についても、請求項1の記載について前述した理由と同様に、特許法第36条第6項第2号に規定されている「特許を受けようとする発明が明確であること」の要件を満たしていない、とはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求人の無効理由3の特許法第36条第6項第2号に関する前記主張は、採用することができない。

3 小括
以上のとおりであり、請求人が主張する無効理由3によっては、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4に係る本件特許を無効とすることができない。

第8 むすび
請求人の主張する無効理由1?無効理由3についての当審の判断は、以上のとおりであり、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4の各発明を、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができず、また、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4の各発明を、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとすることができず、さらに、請求項1?4の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定を満たしていないということができないから、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4に係る本件特許は、同法第123条第1項第2号及び第4号の規定に該当せず、したがって、無効とすることができない。
また、本件発明1、本件発明2、本件発明3及び本件発明4に係る本件特許を無効とする他の理由を発見しない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
農作業機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、
このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、
この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、
この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、
この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、
前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、
前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、
前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、
前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、
前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定する
ことを特徴とする農作業機。
【請求項2】作業側フレームは一端面が開口した筒形状のアーム連結部を有し、このアーム連結部内には第2の連結アーム体のアーム部材がスライド自在に挿入されている
ことを特徴とする請求項1記載の農作業機。
【請求項3】トラクタからの駆動力を土作業手段側に伝達する動力伝達軸体を備え、
トラクタ側フレームと作業側フレームとの間は、互いに連結された第1の連結アーム体および第2の連結アーム体と前記動力伝達軸体との二つの部材のみで連結されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の農作業機。
【請求項4】土作業手段は、畦塗り用の土を耕耘して跳ね上げるロータリーとこのロータリーにて耕耘されて跳ね上げられた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り体とを有する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の農作業機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トラクタに装着して使用する農作業機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の農作業機として、例えば、トラクタの後部に装着可能な機枠を備え、この機枠の一側である右側に、畦塗り作業等を行う土作業手段を右側方に向けて突出させて取り付けた構造の畦塗り機が知られている。
【0003】
そして、トラクタの前進走行により、このトラクタとともに畦塗り機が移動し、この畦塗り機のトラクタの右端位置より突出した土作業手段で、圃場の土が耕耘されて跳ね上げられ、この跳ね上げられた土が旧畦に塗り付けられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の畦塗り機は、例えば圃場の端部で、トラクタの前後方向の長さ寸法に応じた距離分だけ、旧畦に対して畦塗り作業を行えないため、この旧畦の未作業部分は作業者が手作業で畦塗り作業をしなければならず、作業効率が悪い問題を有している。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、作業効率を向上できる農作業機を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の農作業機は、トラクタに連結されるトラクタ側フレームと、このトラクタ側フレームに一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第1の連結アーム体と、この第1の連結アーム体の他端側に一端側が回動可能に連結され、この一端側の上下方向の回動中心軸線を中心として回動調節可能な第2の連結アーム体と、この第2の連結アーム体の他端側に連結された作業側フレームと、この作業側フレームに取り付けられ、前記第1の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節および前記第2の連結アーム体の前記回動中心軸線を中心とした回動調節により、前記トラクタの前進走行に基づいて土作業可能な前進作業姿勢および前記トラクタの後退走行に基づいて土作業可能な後退作業姿勢に設定される土作業手段とを備え、前記作業側フレームは、前記第2の連結アーム体の他端側に前記土作業手段の左右方向の位置を調節できるように移動可能に連結され、前記第1の連結アーム体の一端側の上下方向の回動中心軸線は、平面からみて前記トラクタの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線上に位置し、前記トラクタ側フレームと前記第1の連結アーム体との連結部分と、前記作業側フレームと前記第2の連結アーム体との連結部分との離間距離を調節可能な構成とし、前記土作業手段の後退作業姿勢時における前記離間距離は、前記土作業手段の前進作業姿勢時における前記離間距離より長い距離に設定し、前記後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法は、前記前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定するものである。
【0007】
そして、この構成では、第1の連結アーム体の回動調節および第2の連結アーム体の回動調節により、土作業手段を前進作業姿勢および後退作業姿勢に設定できるので、圃場全体にわたって土作業を行うことができ、作業効率が向上する。また、トラクタ側フレームに、ともに回動調節可能な第1の連結アーム体および第2の連結アーム体を介して作業側フレームを連結した構成であるので、トラクタ側フレームに直線状の一本の連結アーム体を介して作業側フレームを連結した構成等に比べて、土作業手段をトラクタ寄りの前方位置に設定可能である。また、土作業手段の後退作業姿勢時における離間距離を土作業手段の前進作業姿勢時における離間距離より長い距離に設定でき、後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法を前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定できるので、後退作業時における不具合の発生、例えば車輪で新畦を潰してしまうこと、車輪が圃場面の凹部に落ち込んでしまうこと等を防止可能であり、かつ、前進作業時における土作業手段の位置をトラクタ寄りの前方位置に設定でき、作業時および移動時のトラクタの前後バランスが良好になる。
【0008】
請求項2記載の農作業機は、請求項1記載の農作業機において、作業側フレームは一端面が開口した筒形状のアーム連結部を有し、このアーム連結部内には第2の連結アーム体のアーム部材がスライド自在に挿入されているものである。
【0009】
請求項3記載の農作業機は、請求項1または2記載の農作業機において、トラクタからの駆動力を土作業手段側に伝達する動力伝達軸体を備え、トラクタ側フレームと作業側フレームとの間は、互いに連結された第1の連結アーム体および第2の連結アーム体と前記動力伝達軸体との二つの部材のみで連結されているものである。
【0010】
そして、この構成では、トラクタ側フレームと作業側フレームとの間を動力伝達軸体と第1の連結アーム体および第2の連結アーム体との二つの部材のみで連結した構成であるので、構成が簡単であり、農作業機全体の重量が軽く、小型のトラクタに最適である。
【0011】
請求項4記載の農作業機は、請求項1ないし3のいずれかに記載の農作業機において、土作業手段は、畦塗り用の土を耕耘して跳ね上げるロータリーとこのロータリーにて耕耘されて跳ね上げられた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り体とを有するものである。
【0012】
そして、この構成では、跳ね上げた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り作業が効率良く適切に行われる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の畦塗り機の一実施の形態の構成を図面を参照して説明する。
【0014】
図1ないし図5において、1は農作業機としての畦塗り機で、この畦塗り機1は、トラクタTに着脱可能に装着され、牽引されて畦塗り作業を行うものである。
【0015】
この畦塗り機1は、トラクタTの後端部に連結される略左右対称形状の固定機枠であるトラクタ側フレーム2を備え、このトラクタ側フレーム2は、畦塗り機1のトラクタTと対向する側である前側位置に配置されている。
【0016】
このトラクタ側フレーム2は、畦塗り機1の後方に向って開口した外形略直方体で箱形状のベース部3を有し、このベース部3にはトラクタ連結部である三点連結部4がトラクタT側である前方に向って突設され、この三点連結部4にトラクタTの三点リンク機構T1が着脱可能に連結されている。なお、三点連結部4は、トップピン5を有するトップマスト6、ロワピン7を有する左右一対のロワアーム8,8等にて構成されている。
【0017】
また、ベース部3の下部の左右方向の中央位置には、軸受け部11にて回転可能に軸支された入力軸12が前方に向って突設され、この入力軸12の先端側にトラクタTのPTO軸(図示せず)がユニバーサルジョイント等を介して連結されているとともに、この入力軸12の基端側に軸方向に伸縮自在の動力伝達軸体13の軸本体部材13cの一端側が連結部材13aを介して連結されている。なお、図5に示すように動力伝達軸体13の外周側には保護カバー14が取り付けられている。この保護カバー14は、動力伝達軸体13と一体となって回転しないように図示しないチェーンで回転規制されている。
【0018】
さらに、ベース部3の上部の左右方向の中央位置には、軸方向が上下方向に一致したアーム連結部としての第1の支軸体15が設けられており、この第1の支軸体15は、互いに上下に離間対向した上板部16および中間板部17にて支持されている。なお、入力軸12と第1の支軸体15とは互いに直交状に配置され、これらの入力軸12および第1の支軸体15は、それぞれ、図1に示されるように、平面からみてトラクタTの左右方向の長さの中心を結んだ線である左右方向中心線X上に常時位置している。
【0019】
また、ベース部3の左右一対の側板部18,19のうちの一方の側板部19、すなわち、図1中、右側の側板部19は、畦塗り機1の前後方向である幅方向の寸法が左側の側板部18に比べて短い寸法に設定されている。また、この右側の側板部19の内面側には、互いに上下に離間対向した一対のピン保持体としてのピン保持板21,21がこの右側の側板部19の内面に沿って水平面状に固着されている。
【0020】
各ピン保持板21は、畦塗り機1の前後方向に長手方向を有する細長矩形板形状に形成され、長手方向の一端部が左側の側板部18より畦塗り機1の後方側の位置に位置し、上板部16および中間板部17の後端より畦塗り機1の後方に向って突出している。そして、各ピン保持板21の突出した一端部には、上下に貫通したピン挿通用孔22が形成されている。
【0021】
また、畦塗り機1は、図1ないし図5に示すように、トラクタ側フレーム2に長手方向の一端側である基端側が回動可能に連結され、この一端側である基端側の上下方向の回動中心軸線Y1(第1の支軸体15の軸心を通る線)を中心として回動調節可能な細長形状の第1の連結アーム体23を備えており、この第1の連結アーム体23は基端側の回動中心軸線Y1を中心とした回動により他端側である先端側が水平面に沿って往復移動する。なお、第1の連結アーム体23は、例えば、長手方向の中間で折り曲げられることなく、長手方向に一直線状に形成された四角筒状の一本のアーム形成部材24のみで形成されている。
【0022】
この第1の連結アーム体23は、長手方向の一端側である基端側に、上下に開口した細長円筒形状の第1の連結部25aが形成されており、この第1の連結部25a内に第1の支軸体15が回動可能に挿通保持されている。なお、この第1の連結アーム体23の長手方向の他端側である先端側には、第1の連結部25aと同一形状の上下に開口した細長円筒形状の第2の連結部25bが形成されている。
【0023】
また、第1の連結アーム体23の長手方向の中央部下面には、軸方向が上下方向に一致した連結軸部26が下方に向って突出形成されており、この連結軸部26に、第1の連結アーム体23の回動を規制してこの第1の連結アーム体23をトラクタ側フレーム2に対して固定する細長板形状の第1の固定体27の長手方向の一端部が回動可能に連結されている。この第1の固定体27は、長手方向の一端部を中心として水平面に沿って揺動自在に配置され、長手方向の中央部には上下面に貫通した第1孔28が開口形成され、長手方向の他端部である自由端部には上下面に貫通した第2孔29が開口形成されている。
【0024】
さらに、第1の連結アーム体23の長手方向に沿った一側面(図1中、右側の側面)には、長手方向の略中央位置に、互いに上下に離間対向した一対のピン保持体としての一側ピン保持板部31,31が側方に向って水平面状に突出形成されており、各一側ピン保持板部31には上下に貫通したピン挿通用孔32が形成されている。
【0025】
また、第1の連結アーム体23の長手方向に沿った他側面(図1中、左側の側面)には、長手方向の略中央位置より先端側寄りの位置に、互いに上下に離間対向した一対のピン保持体としての他側ピン保持板部33,33が側方に向って水平面状に突出形成されており、各他側ピン保持板部33には上下に貫通したピン挿通用孔34が形成されている。一側ピン保持板部31と他側ピン保持板部33とは同一形状に形成されている。なお、第1の連結アーム体23は、図4に示されるように、トラクタ側フレーム2側の基端から先端に向って徐々に下方に傾斜した傾斜状に位置している。
【0026】
さらに、畦塗り機1は、図1ないし図5に示すように、第1の連結アーム体23のトラクタ側フレーム2とは反対側の先端側に一端側である基端側が回動可能に連結され、この一端側である基端側の上下方向の回動中心軸線Y2を中心として回動調節可能な細長形状の第2の連結アーム体35を備えており、この第2の連結アーム体35は基端側の回動中心軸線Y2を中心とした回動により他端側である先端側が水平面に沿って往復移動する。
【0027】
この第2の連結アーム体35は、例えば、長手方向に一直線状に形成された四角筒状の一本のアーム部材36、このアーム部材36の一端部に固定的に取り付けられた断面コ字形状の連結部材37等にて構成されている。
【0028】
この連結部材37は、鉛直面に沿った取付け板部37aで連結された互いに上下に離間対向した上板部37bおよび下板部37cを有し、これらの上板部37bおよび下板部37cによって第2の支軸体38が支持され、この第2の支軸体38の軸方向は上下方向に一致しており、この第2の支軸体38は第1の支軸体15と平行に配置されている。
【0029】
そして、この第2の支軸体38は、図5に示されるように、第1の連結アーム体23の先端側の第2の連結部25b内に回動可能に挿通保持されており、第2の連結アーム体35はこの第2の支軸体38の軸心を通る線、すなわち回動中心軸線Y2を中心として第1の連結アーム体23に対して回動調節可能とされている。
【0030】
また、アーム部材36は、長手方向の一端部が連結部材37の取付け板部37aに固着され、長手方向の中央近傍上面には軸方向が上下方向に一致した連結軸部48が上方に向って突出形成されており、この連結軸部48に、第2の連結アーム体35の回動を規制してこの第2の連結アーム体35を第1の連結アーム体23に対して固定する細長板形状の第2の固定体39の長手方向の一端部が回動可能に連結されている。この第2の固定体39は、長手方向の一端部を中心として水平面に沿って揺動自在に配置され、長手方向の他端部である自由端部には上下面に貫通した挿通孔40が開口形成されている。
【0031】
さらに、アーム部材36の長手方向の他端部には、例えば上下に貫通したオフセット量調節用の複数、例えば二つの調節用孔41,41が形成されている。二つの調節用孔41,41は、アーム部材36の長手方向に間隔を介して並んで配置されている。なお、第2の連結アーム体35は、図5に示されるように、傾斜状の第1の連結アーム体23とは異なり、水平状に位置している。
【0032】
そして、図1に示すように、第1の固定体27の第1孔28と、トラクタ側フレーム2のピン保持板21のピン挿通用孔22とを上下に一致させた状態で、これらの第1孔28およびピン挿通用孔22に操作体としての第1の操作ピン43を挿通して装着するとともに、第2の固定体39の挿通孔40と、第1の連結アーム体23の一側ピン保持板部31のピン挿通用孔32とを上下に一致させた状態で、これらの挿通孔40およびピン挿通用孔32に操作体としての第2の操作ピン44を挿通して装着すると、第1の連結アーム体23および第2の連結アーム体35がトラクタ側フレーム2に対して固定され、土作業手段45がトラクタTの前進走行に基づいて畦塗り作業可能な前進作業姿勢に設定された状態となる。なお、この状態では、第2の連結アーム体35の回動中心軸線Y2は、トラクタTの左右方向中心線X上には位置せず、左右方向中心線XからトラクタTの一側である右側に所定距離だけずれた位置に位置する。また、第2の連結アーム体35は、第2の連結アーム体35の長手方向が畦塗り機1の左右水平方向に略一致した状態に位置する。
【0033】
また、図2に示すように、図1の土作業手段145の前進作業姿勢状態から、第1の操作ピン43のみを一旦抜き取り、第1の連結アーム体23を回動中心軸線Y1を中心として第2の連結アーム体35等とともに所定量回動させ、第1の固定体27の第2孔29と、トラクタ側フレーム2のピン保持板21のピン挿通用孔22とを上下に一致させた状態とし、これらの第2孔29およびピン挿通用孔22に第1の操作ピン43を挿通して装着し直すと、第1の連結アーム体23および第2の連結アーム体35がトラクタ側フレーム2に対して固定され、土作業手段45がトラクタTの後方位置に位置する非作業姿勢に設定された状態となる。なお、この状態では、第2の連結アーム体35の回動中心軸線Y2は、トラクタTの左右方向中心線X上には位置せず、左右方向中心線XからトラクタTの他側である左側に所定距離だけずれた位置に位置する。
【0034】
さらに、図3に示すように、図2の土作業手段45の非作業姿勢状態から、今度は、第2の操作ピン44のみを一旦抜き取り、第1の連結アーム体23を固定させたまま、第2の連結アーム体35を回動中心軸線Y2を中心として所定量回動させ、第2の固定体39の挿通孔40と、第1の連結アーム体23の他側ピン保持板部33のピン挿通用孔34とを上下に一致させた状態とし、これらの挿通孔40およびピン挿通用孔34に第2の操作ピン44を挿通して装着し直すと、第1の連結アーム体23および第2の連結アーム体35がトラクタ側フレーム2に対して固定され、土作業手段45がトラクタTの後退走行に基づいて畦塗り作業可能な後退作業姿勢に設定された状態となる。
【0035】
なお、この状態では、第2の連結アーム体35の回動中心軸線Y2は、トラクタTの左右方向中心線X上には位置せず、左右方向中心線XからトラクタTの他側である左側に所定距離だけずれた位置に位置する。また、第2の連結アーム体35は、第2の連結アーム体35の長手方向が畦塗り機1の左右水平方向に略一致した状態に位置する。
【0036】
また一方、畦塗り機1は、図1ないし図5に示すように、上述のように前進作業姿勢、非作業姿勢および後退作業姿勢に姿勢変更可能な土作業手段45を支持した移動可能な可動機枠である作業側フレーム51を備えている。この作業側フレーム51は、第2の連結アーム体35の先端側に取り付けられており、第1の連結アーム体23の回動調節および第2の連結アーム体35の回動調節に応じて土作業手段45とともに回動調節可能とされている。また、作業側フレーム51は、第2の連結アーム体35の先端側に、土作業手段45の左右方向の位置を調節すなわちトラクタTの左右方向中心線Xからの距離を調節できるように、畦塗り機1の左右方向に沿って往復直線移動可能とされている。
【0037】
この作業側フレーム51は、一端面が開口した四角筒形状のアーム連結部52を有し、このアーム連結部52内に、第2の連結アーム体35のアーム部材36の先端部がスライド自在に挿入されている。
【0038】
そして、作業側フレーム51のアーム連結部52に形成されたピン挿通用孔54と、第2の連結アーム体35の選択された一の調節用孔41とを上下に一致させた状態で、これらの調節用孔41およびピン挿通用孔54に操作体としての調節ピン55を挿通して装着すると、作業側フレーム51が第2の連結アーム体35に対して固定され、土作業手段45がトラクタTの大きさ、すなわち、例えば車輪幅寸法に応じた所定の作業位置に調節された状態、すなわち、トラクタTの左右方向中心線Xからのずれ量(オフセット量)が所定量に調節された状態となる。
【0039】
一方、アーム連結部52の上面には、調節体取付け部材57が固着され、この調節体取付け部材57は例えばアーム連結部52の上面から上方に向って突出した二つの板部56,56にて形成されている。一方、アーム連結部52の下面には、断面コ字形状の支軸体取付け部材58が下方に向って突出した状態に固着されている。
【0040】
そして、調節体取付け部材57には、細長板形状に形成された作業深さ調節用の調節体60の長手方向の一端部である基端部が、水平状のピン61を介して回動可能に取り付けられている。この調節体60は、先端側が昇降するように基端部を中心として略鉛直面に沿って揺動自在に配置され、先端部には左右に貫通した複数、例えば三つの調節用孔62,62,62が開口形成され、これらの三つの調節用孔62,62,62は調節体60の長手方向に互いに等間隔を介して並んで位置している。
【0041】
また、支軸体取付け部材58は、互いに左右に離間対向した板部58a,58b間に支軸体65が水平状に架け渡され、この支軸体65の軸方向は水平方向に一致している。この支軸体65には、前後方向に長手方向を有する細長形状の支持アーム66の基端部が回動可能に取り付けられている。この支持アーム66は、先端側が昇降するように基端部を中心として略鉛直面に沿って揺動自在に配置され、先端部近傍の上面には互いに左右に離間対向した一対のピン保持部67,67が突出形成され、各ピン保持部67には左右に貫通したピン挿通用孔68が開口形成されている。
【0042】
そして、支持アーム66のピン挿通用孔68と、調節体60の選択された一の調節用孔62とを左右に一致させた状態で、これらの調節用孔62およびピン挿通用孔68に操作体としての調節ピン69を挿通して装着すると、支持アーム66がアーム連結部52に対して固定され、土作業手段45が圃場の土の状態等に応じた所定の作業位置に調節された状態、すなわち、所定の作業深さ位置に調節された状態となる。
【0043】
すなわち、この回動調節可能な支持アーム66には、支持アーム66の前端部および後端近傍に配置された複数の取付け枠71を介して単一伝動ケース72が取り付けられており、この単一伝動ケース72は、支持アーム66によって吊下げ状態に支持され、この支持アーム66とともにこの支持アーム66と一体となって支軸体65を中心として回動調節可能とされている。つまり、単一伝動ケース72は、図5に示すように、支軸体65の軸心を通る線(左右右水平方向の回動中心軸線A)を中心として回動調節可能、すなわち、前端側が昇降するように後端側を中心としての回動中心軸線Aを中心として回動調節可能とされている。また、単一伝動ケース72は、第1の連結アーム体23の回動調節および第2の連結アーム体35の回動調節に応じて、上下方向の回動中心軸線Y1,Y2を中心として回動調節可能とされている。
【0044】
ここで、単一伝動ケース72は、一つのユニットとして形成され、土作業手段45を支持する支持フレームの機能を備えたもので、図6に示すように、中空状の入力軸用支持部74を有し、この入力軸用支持部74の一側面側である前面側から略細長円筒形状で中空状のロータリー用支持部75が畦塗り機1の前方に向って突出形成され、入力軸用支持部74の他側面側である後面側から中空状の畦塗り体用支持部76が畦塗り機1の後方に向って突出形成されている。
【0045】
この入力軸用支持部74は、駆動軸である中間入力軸82を複数の軸受け部材81を介して回転可能に水平状に支持しており、この中間入力軸82の先端側は、入力軸用支持部74の一側面である左側面に開口形成された円形の挿通口74aを介して入力軸用支持部74外に突出して露出している。
【0046】
この中間入力軸82の入力軸用支持部74外に突出した先端部には、一端側を連結部材13aを介して入力軸12に連結した動力伝達軸体13の軸本体部材13cの他端側が連結部材13bを介して連結されている。連結部材13aおよび連結部材13bは、それぞれ、例えばダブル広角のユニバーサルジョイント等であり、軸本体部材13c、連結部材13aおよび連結部材13bにて動力伝達軸体13が構成されている。また、図1に示されるように、中間入力軸82の軸方向は、畦塗り機1の左右水平方向に略一致しており、平面からみて、入力軸12の軸方向と直交している。
【0047】
また、中間入力軸82の入力軸用支持部74内に収容された基端部には、第1ベベルギア83および第1ギア84が軸方向に並んで固着されている。この中間入力軸82の第1ベベルギア83には、複数の軸受け部材85にて回転可能に軸支された中間連絡軸86の第2ベベルギア87が噛み合わされ、この中間連絡軸86の第2ギア88にロータリー出力軸91の第3ギア92が噛み合わされている。なお、第1ベベルギア83、第2ベベルギア87、第1ギア84、第2ギア88、第3ギア92および中間連絡軸86は、入力軸用支持部74内に収容されている。
【0048】
このロータリー出力軸91は、ロータリー用支持部75によって軸方向が前後方向に一致した状態に支持されており、このロータリー出力軸91は、入力軸用支持部74内に設けられた一方の軸受け部材93と、ロータリー用支持部75の先端に設けられた他方の軸受け部材94とで回転可能に軸支され、基端部除く部分がロータリー用支持部75内に収容されている。また、図4に示されるように、ロータリー出力軸91の軸方向は、畦塗り機1の前後水平方向に一致している。
【0049】
そして、ロータリー出力軸91のロータリー用支持部75外に挿通口75aを介して突出した先端部に、爪取付け部材95が直結固着され、この爪取付け部材95に複数の爪96が放射状に取り付けられている。そして、これらの爪96、爪取付け部材95等にて前処理体としてのロータリー98が構成され、このロータリー98はロータリー出力軸91を介して単一伝動ケース72のロータリー用支持部75にて回転可能に支持されている。このロータリー98は、トラクタTからの駆動力を受けて、ロータリー出力軸91と一体となって回転し、畦塗り用の土を耕耘して跳ね上げる。なお、ロータリー98の上方および側方には、図1に示されるように土の飛散を防止するカバー体99が配置されている。
【0050】
一方、入力軸用支持部74にて支持された中間入力軸82の第1ギア84には、畦塗り体出力軸101の第4ギア102が噛み合わされている。この畦塗り体出力軸101は、畦塗り体用支持部76によって軸方向が左右水平方向に一致した状態に支持されており、この畦塗り体出力軸101は、畦塗り体用支持部76内に設けられた複数の軸受け部材100にて回転可能に軸支されている。
【0051】
また、畦塗り体出力軸101は、基端側半分が畦塗り体用支持部76内に収容され、先端側半分が畦塗り体用支持部76外に挿通口76aを介して突出している。なお、畦塗り体出力軸101の軸方向とロータリー出力軸91の軸方向とは平面視で直交し、ロータリー出力軸91の軸方向はトラクタTの走行方向に一致し、畦塗り体出力軸101の軸方向はトラクタTの走行方向と交差する方向に一致している。また、畦塗り体出力軸101の軸方向と支軸体65の軸方向とは、平面視で一致している。なお、図5に示されるように、単一伝動ケース72の回動中心軸線Aは、畦塗り体出力軸101の軸心を通る線である左右水平方向の回転中心軸線Bの近傍上方位置に位置し、この畦塗り体出力軸101の回転中心軸線Bと略平行に位置している。
【0052】
そして、畦塗り体出力軸101の畦塗り体用支持部76外に突出した先端部に、截頭円錐形状の環状部材104を介して畦塗り体105が取り付けられている。この畦塗り体105は、ロータリー98の後方位置に位置し、例えば、旧畦の上面部を整畦する円筒形状の上面塗り部材106、旧畦の傾斜状の側面部を整畦する截頭円錐形状の側面塗り部材107等にて構成されている。この畦塗り体105の上方には土の飛散を防止するカバー体108が配設されている。
【0053】
そして、これらのロータリー98および畦塗り体105にて構成された土作業手段45が所定の作業位置に設定された状態で、トラクタT側からの駆動力が、入力軸12、動力伝達軸体13等を介して、中間入力軸82に入力されると、ロータリー出力軸91が回動駆動されるとともに畦塗り体出力軸101が回動駆動され、その結果、ロータリー98の爪96で畦塗り用の土が耕耘されて跳ね上げられ、この土が畦塗り体105の上面塗り部材106にて旧畦の上面部に塗り付けられ、側面塗り部材107にて旧畦の側面部に塗り付けられ、新畦が形成される。畦塗り体105の回転速度は、トラクタTの車輪回転速度よりも速くなるように設定されている。
【0054】
また一方、畦塗り機1は、図4および図5に示すように、作業時に、圃場の土から受ける力によって土作業手段45のロータリー98および畦塗り体105の畦からの浮き上りを阻止する浮上り阻止手段111を備えている。
【0055】
この浮上り阻止手段111は、支持アーム66および単一伝動ケース72のロータリー用支持部75に取付け部材112を介して固定的に取り付けた上下方向に長手方向を有する細長板状の支持体113を有し、この支持体113の下端部に圃場の土中を走行可能な土中走行体115がこの支持体113と一体となって形成されている。
【0056】
この土中走行体115は、例えば、畦塗り体105の側面塗り部材107を旧畦の側面部に押え付ける側面塗り部材押付け部117と、畦塗り体105の上面塗り部材106を旧畦の上面部に押え付ける上面塗り部材押付け部116とにて構成されている。
【0057】
この側面塗り部材押付け部117は、例えば、上下方向に長手方向を有する細長板形状に形成され、図1に示すように傾斜状に配置されている。すなわち、側面塗り部材押付け部117は、幅方向の一端側から他端側に向って、すなわち、走行方向の後端側から前端側に向って、トラクタTの左右方向中心線Xからの距離が徐々に増大する方向に傾斜しており、前端側が畦側に向う方向に傾斜している。なお、図4に示すように、側面塗り部材押付け部117の走行方向前端縁部には地面を垂直状に切削する切削刃部117aが形成されている。
【0058】
また、上面塗り部材押付け部116は、略四角板形状に形成され、図4に示すように、側面塗り部材押付け部117の下端部に傾斜状に固定されている。すなわち、上面塗り部材押付け部116は、走行方向の後端側から前端側に向って下方向に傾斜し、走行方向前端側が先細形状に形成されている。
【0059】
そして、トラクタTの走行に基づく土中走行体115の走行時に、側面塗り部材押付け部117の走行方向前方を向いた一側面に土圧が作用し、その結果、側面塗り部材107が走行方向一側である右方に付勢され、側面塗り部材107の外面側が旧畦の傾斜した側面部に比較的強い押圧力で押え付けられる。同時に、上面塗り部材押え部116の上面に土圧が作用し、その結果、上面塗り部材106が下方に付勢され、上面塗り部材106の下面側が旧畦の上面部に比較的強い押圧力で押え付けられる。このため、畦塗り体105にて固く締った畦が形成される。
【0060】
なお、入力軸12、動力伝達軸体13、連結部材13a,13b、中間入力軸82、第1ベベルギア83、第2ベベルギア87、中間連絡軸86、第2ギア88、第3ギア92、ロータリー出力軸91、第1ギア84、第4ギア102、畦塗り体出力軸101等にて伝動手段110が構成され、この伝動手段110は、トラクタT側からの動力をロータリー98および畦塗り体105からなる土作業手段45に伝達するものである。
【0061】
次に、上記一実施の形態を用いて、旧畦を補修する畦塗り作業を行う場合について説明する。
【0062】
土作業である畦塗り作業を行うに当って、作業者は、トラクタTの三点リンク機構T1を利用して畦塗り機1を所定の高さ位置に持上げ保持し、第1の操作ピン43および第2の操作ピン44等を適宜に操作して、ロータリー98および畦塗り体105からなる土作業手段45を図1の前進作業姿勢に設定する。
【0063】
なお、この図1の前進作業姿勢時には、ロータリー98および畦塗り体105は、畦塗り機1の片側である右側に配置され、トラクタTに対して右側方に突出しており、ロータリー98がトラクタT側に位置し、このロータリー98の後方に畦塗り体105が位置する。
【0064】
また、トラクタTの車輪幅寸法に応じて、調節ピン55の抜き差しにより、土作業手段45のオフセット量を調節する。すなわち、ロータリー98および畦塗り体105を、トラクタTの一側である右側の車輪の後方位置より所定距離だけ畦側寄りに位置させる。
【0065】
さらに、圃場の土の状態に応じて、調節ピン69の抜き差しにより、土作業手段45の作業深さを調節する。すなわち、作業側フレーム51の単一伝動ケース72を左右水平方向の回動中心軸線Aを中心として回動調節することによって、圃場の土の状態等に応じてロータリー98の作業深さを設定する。例えば、図4に示すように、ロータリー98および畦塗り体105のそれぞれを同じ高さ位置に設定したり、或いは、図示しないが、ロータリー98を畦塗り体105より低い位置または高い位置に設定したりする。
【0066】
こうして、ロータリー98および畦塗り体105を所定の前進作業姿勢に設定し、トラクタTの三点リンク機構T1による持上げ保持を解除した後、トラクタTの車輪を旧畦に沿わせながら、トラクタTを前進走行方向に走行させると、このトラクタTと一体となって畦塗り機1が圃場を走行し、土作業手段45のロータリー98で畦塗り用の土が耕耘されて跳ね上げられ、この跳ね上げられた土が畦塗り体105にて旧畦に塗り付けられて整畦され、新畦が形成される。運転席の作業者は、トラクタTの車輪を旧畦に沿わせることで、トラクタTを前進走行方向にまっすぐに走行させることができる。
【0067】
また、この畦塗り機1の走行時には、浮上り阻止手段111の土中走行体115は、圃場の土の中を走行し、この土中走行体115には所定方向の土圧が作用し、その結果、畦塗り機1の重量がその分だけ増大し、畦塗り体105の側面塗り部材107が旧畦の傾斜した側面部に比較的強い押圧力で押え付けられ、畦塗り体105の上面塗り部材106が旧畦の上面部に比較的強い押圧力で押え付けられ、固く締った新畦が形成される。
【0068】
そして、新畦形成が進み、トラクタTが圃場の端部に到達した場合、運転席の作業者は、トラクタTのハンドルをきってトラクタTの向きを反対にする。
【0069】
次いで、作業者は、トラクタTの三点リンク機構T1を利用して畦塗り機1を所定の高さ位置に持上げ保持した状態で、第1の操作ピン43を一旦抜き取り、第1の連結アーム体23を回動中心軸線Y1を中心として第2の連結アーム体35、作業側フレーム51等とともに所定量回動させ、第1の固定体27の第2孔29と、トラクタ側フレーム2のピン保持板21のピン挿通用孔22とを上下に一致させた状態とし、これらの第2孔29およびピン挿通用孔22に第1の操作ピン43を挿通して装着し直す。
【0070】
また、作業者は、第2の操作ピン44を一旦抜き取り、第1の連結アーム体23を固定させたまま、第2の連結アーム体35を回動中心軸線Y2を中心として作業側フレーム51等とともに所定量回動させ、第2の固定体39の挿通孔40と、第1の連結アーム体23の他側ピン保持板部33のピン挿通用孔34とを上下に一致させた状態とし、これらの挿通孔40およびピン挿通用孔34に第2の操作ピン44を挿通して装着し直す。なお、伝動手段110の動力伝達軸体13は、第1の連結アーム体23の回動調節時および第2の連結アーム体35の回動調節時において、入力軸12および中間入力軸82と連結させたままでよく、連結解除する必要はない。
【0071】
すると、ロータリー98および畦塗り体105が、トラクタTの後退走行に基づいて畦塗り作業可能な図3の後退作業姿勢に設定された状態となる。
【0072】
この図3の後退作業姿勢時には、ロータリー98および畦塗り体105は、畦塗り機1の片側である左側に配置され、トラクタTに対して左側方に突出しており、畦塗り体105がトラクタT側に位置し、この畦塗り体105の後方にロータリー98が位置する。なお、図3の後退作業姿勢状態では、ロータリー98および畦塗り体105は、上述の図1の前進作業姿勢時に比べて、トラクタTに対する突出量である突出寸法(トラクタTの左右中心線Xからの距離)が大きくなるように設定されている。
【0073】
そして、作業者は、トラクタTの三点リンク機構T1による持上げ保持を解除した後、トラクタTの車輪と新畦との空間を維持したまま、トラクタTを後退走行方向に走行させる。
【0074】
すると、トラクタTと一体となって畦塗り機1が圃場を走行し、土作業手段45のロータリー98で畦塗り用の土が耕耘されて跳ね上げられ、この跳ね上げられた土が畦塗り体105にて旧畦に塗り付けられて整畦され、新畦が形成される。このとき、トラクタTの車輪で新畦を潰してしまうことがなく、また、ロータリー98で圃場面に形成された凹部に車輪が落ち込み、トラクタが傾いてしまうこともない。
【0075】
一方、作業者は、畦塗り機1の運搬時、畦塗り機1のトラクタTへの脱着時等には、作業者は、ロータリー98および畦塗り体105からなる土作業手段45を図2の非作業姿勢に設定する。
【0076】
すなわち、図2に示すように、土作業手段45であるロータリー98および畦塗り体105を、トラクタTの走行方向と交差する傾斜方向に並べた状態として、トラクタTの後方位置に設定する。
【0077】
このトラクタTの後方位置とは、例えば、畦塗り機1を持上げ保持した状態でのトラクタTの左右重量バランスを良好にできるように、畦塗り機1全体の重心がトラクタTの後方で左右方向中心線X上に位置する位置、或いは、例えば、畦塗り機1のトラクタT側方への出っ張りを少なくできるように、畦塗り機1の左右方向の寸法(幅方向寸法)の中心がトラクタTの後方で左右方向中心線X上に位置する位置である。なお、トラクタTの後方位置は、畦塗り機1全体の重心および畦塗り機1の左右方向の寸法(幅方向寸法)の中心が、ともにトラクタTの後方で左右方向中心線X上に位置する位置であればより好ましい。
【0078】
このようにして、上記一実施の形態によれば、第1の連結アーム体23の回動調節および第2の連結アーム体35の回動調節により、ロータリー98および畦塗り体105を前進作業姿勢および後退作業姿勢に設定できるので、圃場全体にわたって土作業を行うことができ、旧畦の未作業部分が生じることがなく、作業効率を向上できる。
【0079】
また、トラクタ側フレーム2に、ともに回動調節可能な第1の連結アーム体23および第2の連結アーム体35を介して作業側フレーム51を連結した構成であり、トラクタ側フレーム2と第1の連結アーム体23との連結部分と、作業側フレーム51と第2の連結アーム体35との連結部分との離間距離を調節可能な構成とされている。
【0080】
したがって、ロータリー98および畦塗り体105からなる土作業手段45の後退作業姿勢時における離間距離を土作業手段45の前進作業姿勢時における離間距離より長い距離に設定でき、後退作業姿勢にある土作業手段45のトラクタTに対する一方側への突出寸法を前進作業姿勢にある土作業手段45のトラクタTに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定できるので、ロータリー98および畦塗り体105を保持したトラクタ側フレーム2に直線状の一本の連結アーム体を介して作業側フレーム51を連結した構成等に比べて、後退作業時における不具合の発生、例えば車輪で新畦を潰してしまうこと、車輪が圃場面の凹部に落ち込んでしまうこと等を防止できる。
【0081】
しかも、ロータリー98および畦塗り体105をトラクタT寄りの前方位置に設定できるため、前進作業時のトラクタTの前後バランスを良好にでき、前進作業姿勢の作業時に生じる未作業部分を少なくできる。
【0082】
さらに、トラクタ側フレーム2と作業側フレーム51との間を動力伝達軸体13と第1の連結アーム体23および第2の連結アーム体35との二つの部材のみで連結した構成であり、かつ、従来のロータリー用伝動ケースおよび畦塗り体用伝動ケースの両方の機能を単一伝動ケース72に持たせた構成であるので、畦塗り機全体の重量が軽く、小型のトラクタに最適であり、しかも、従来の畦塗り機に比べて、部品点数が少なく、製造、メンテナンスを容易にでき、きわめて安価に製造できる。
【0083】
また、単一伝動ケース72にて、中間入力軸82をこの中間入力軸82の軸方向を左右水平方向に略一致させた状態に回転可能に支持させた構成であるので、トラクタ側フレーム2に第1の連結アーム体23および第2の連結アーム体35を介して作業側フレーム51を連結した構成であることと相俟って、ロータリー98および畦塗り体105をトラクタT寄りの前方位置であるトラクタTの近傍位置に設定でき、作業中のトラクタTの前後バランスを確実に良好にできる。
【0084】
すなわち、単一伝動ケース72の入力軸用支持部74で支持した中間入力軸82は、軸方向を畦塗り機1の左右水平方向に略一致させたので、中間入力軸82の軸方向を畦塗り機1の前後方向に一致させた構成等に比べて、動力伝達軸体13の折れ角度を小さく維持しつつ、ロータリー98および畦塗り体105をトラクタT寄りの位置に設定できる。
【0085】
また、単一伝動ケース72は、左右水平方向の回動中心軸線Aを中心として回動調節することによって、圃場の土の状態等に応じてロータリー98の作業深さを畦塗り体105の高さ位置を基準として容易に設定でき、作業状況に適切に対応できる。
【0086】
さらに、伝動手段110の動力伝達軸体13は、ロータリー98および畦塗り体105の姿勢変更の際に、両端側が連結部材13a,13bを介して入力軸12および中間入力軸82と連結した状態のまま、第1の連結アーム体23の回動および第2の連結アーム体35の回動すなわち単一伝動ケース72の回動に応じて、入力軸12側の端部の上下方向の回動中心軸線を中心として回動するとともに、軸方向に必要量だけ適宜伸縮するので、ロータリー98および畦塗り体105の姿勢設定時に、動力伝達軸体13の連結状態を一旦解除する操作を要する構成等に比べて、ロータリー98および畦塗り体105の作業姿勢を容易に設定できる。
【0087】
また一方、小型のトラクタに適した小型の畦塗り機1であり、畦塗り機1全体の重量も軽いが、浮上り阻止手段111がロータリー98および畦塗り体105の浮上りを阻止するので、ロータリー98で畦塗り用の土を適切に耕耘して跳ね上げることができ、畦塗り体105で固く締った畦を形成できる。
【0088】
なお、上記実施の形態においては、単一伝動ケース72は、中間入力軸82をこの中間入力軸82の軸方向を左右水平方向に略一致させた状態に支持した構成について説明したが、ここでいう略一致には、中間入力軸82の軸方向と畦塗り機1の左右水平方向とが完全に一致する場合が含まれ、また、中間入力軸82の軸方向が左右水平方向と少しずれる場合も含まれる。
【0089】
さらに、図示しないが、ロータリー98および畦塗り体105をトラクタT側寄りの前方位置に設定できるように、単一伝動ケース72の中間入力軸82の軸方向を畦塗り機1の前後方向に対して平面視で傾斜した傾斜方向、すなわち、前後方向に対して平面視で鋭角的な角度(0度より大きく90度未満の所定角度、例えば略45度)をもって動力伝達方向下流の端部から上流の端部に向って徐々に左右方向の中心側の入力軸12側の方向に傾斜した傾斜方向、に略一致させた構成でもよい。
【0090】
また、上記いずれの実施の形態でも、単一伝動ケース72は、この単一伝動ケース72の回動中心軸線Aが畦塗り体出力軸101の回転中心軸線B(畦塗り体105の回転中心軸線)の近傍上方位置にこの畦塗り体出力軸101の回転中心軸線Bと略平行に位置するように配置した構成について説明したが、例えば、図示しないが、単一伝動ケース72の回動中心軸線Aを、畦塗り体出力軸101の回転中心軸線Bと同じ高さに位置させ、この回転中心軸線Bと略一致させてよい。
【0091】
そして、単一伝動ケース72の回動中心軸線Aと畦塗り体出力軸101の回転中心軸線Bとを略一致させた構成とすると、畦塗り体105の高さ位置を一定に維持しつつ、畦塗り体105の高さ位置を基準としてロータリー98のみの作業深さを適切に設定できる。
【0092】
また、上記いずれの実施の形態でも、作業側フレーム51は、土作業手段45の左右方向の位置を調節できるように第2の連結アーム体35の先端側に往復移動可能に連結した構成として説明したが、例えば、第2の連結アーム体35の先端部を作業側フレーム51のアーム連結部に連結固定した構成でもよい。
【0093】
さらに、上記いずれの実施の形態でも、浮上り阻止手段111は、支持体113の下端部に土中走行体115を一体形成した構成として説明したが、例えば、土中を走行する土中走行体115と、地面の上を走行する支持体113とを別体の構成としてもよく、支持体113は土中走行体115を支持可能な部材であればよく、例えば、支持体113は上端から下端に向って徐々に走行方向前方に傾斜状に配置した構成には限定されず、上下方向に直線状に配置した構成でもよく、また、土中走行体115のみを前端側が畦側に向う方向に傾斜状とした構成、すなわち、細長板状の支持体113を畦塗り機1の前後方向に沿った鉛直面上に配置しかつ細長板状の土中走行体115を畦塗り機1の前後方向に対して傾斜した傾斜方向に沿った鉛直面上に配置し、この土中走行体115が走行方向後端から前端に向って畦側に接近する方向に傾斜した傾斜状に位置するようにした構成でもよい。
【0094】
なお、土中走行体115は、側面塗り部材押付け部117および上面塗り部材押付け部116の両方を有する構成として説明したが、例えば、側面塗り部材押付け部117および上面塗り部材押付け部116のいずれか一方のみを有する構成でもよい。
【0095】
また、上記いずれの実施の形態でも、畦塗り機1は、畦塗り機1の姿勢設定に際し、第1の操作ピン43、第2の操作ピン44、調節ピン55,69の抜き差し等、作業者の手作業を必要とする構成として説明したが、例えば、流体圧シリンダ等の駆動手段およびこの駆動手段を制御する制御手段等を利用することにより、作業者の手作業を要しない全自動の構成とすることもできる。なお、第1の操作ピン43、第2の操作ピン44および調節ピン55,69の抜き差し方式に代えて、ねじ等を用いたねじ方式の構成とすることもできる。
【0096】
さらに、上記実施の形態では、農作業機は畦塗り機1であるとして説明したが、例えば、図示しないが、溝堀機等の左右方向の片側で土作業を行うオフセット農作業機であれば、いかなる種類のものにも適用できる。
【0097】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、第1の連結アーム体の回動調節および第2の連結アーム体の回動調節により、土作業手段を前進作業姿勢および後退作業姿勢に設定できるので、圃場全体にわたって土作業を行うことができ、作業効率を向上できる。また、トラクタ側フレームに、ともに回動調節可能な第1の連結アーム体および第2の連結アーム体を介して作業側フレームを連結した構成であるので、トラクタ側フレームに直線状の一本の連結アーム体を介して作業側フレームを連結した構成等に比べて、土作業手段をトラクタ寄りの前方位置に設定でき、作業中のトラクタの前後バランスを良好にできる。また、土作業手段の後退作業姿勢時における離間距離を土作業手段の前進作業姿勢時における離間距離より長い距離に設定でき、後退作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する一方側への突出寸法を前進作業姿勢にある土作業手段のトラクタに対する他方側への突出寸法より大きい寸法に設定できるので、後退作業時における不具合の発生、例えば車輪で新畦を潰してしまうこと、車輪が圃場面の凹部に落ち込んでしまうこと等を防止でき、かつ、前進作業時における土作業手段の位置をトラクタ寄りの前方位置に設定でき、作業時および移動時のトラクタの前後バランスを良好にできる。
【0098】
請求項3記載の発明によれば、トラクタ側フレームと作業側フレームとの間を動力伝達軸体と第1の連結アーム体および第2の連結アーム体との二つの部材のみで連結した構成であるので、構成が簡単であり、農作業機全体の重量が軽く、小型のトラクタに最適である。
【0099】
請求項4記載の発明によれば、跳ね上げた土を旧畦に塗り付けて整畦する畦塗り作業を効率良く適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の畦塗り機の一実施の形態を示す作業時の平面図である。
【図2】
同上畦塗り機の非作業時における平面図である。
【図3】
同上畦塗り機の後退作業時における平面図である。
【図4】
同上畦塗り機の側面図である。
【図5】
同上畦塗り機の後面図である。
【図6】
同上畦塗り機の伝動手段の断面図である。
【符号の説明】
1 農作業機である畦塗り機
2 トラクタ側フレーム
13 動力伝達軸体
23 第1の連結アーム体
35 第2の連結アーム体
45 土作業手段
51 作業側フレーム
98 ロータリー
105 畦塗り体
T トラクタ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-12-19 
結審通知日 2006-12-25 
審決日 2007-01-05 
出願番号 特願2000-204323(P2000-204323)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A01B)
P 1 113・ 537- YA (A01B)
P 1 113・ 161- YA (A01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 恭  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 森口 良子
森内 正明
登録日 2005-07-29 
登録番号 特許第3704278号(P3704278)
発明の名称 農作業機  
代理人 山田 哲也  
代理人 特許業務法人エビス国際特許事務所  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 聡  
代理人 樺澤 聡  
代理人 樺澤 襄  
代理人 山田 哲也  

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