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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1154140
審判番号 不服2003-22034  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-13 
確定日 2007-03-12 
事件の表示 特願2001-254535「インクジェットプリントヘッドアセンブリおよびその形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月26日出願公開、特開2002- 86735〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年8月24日の出願(パリ条約による優先権主張2000年8月25日、米国)であって、平成14年12月3日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成15年6月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月15日付けで明細書についての手続補正(特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年12月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項及びその目的
本件補正後の【請求項1】の記載は次のとおりであり(下線部が補正により追加された箇所である。)、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものと認める。
【請求項1】 インクジェットプリントヘッドアセンブリであって、
第1の側面を有するキャリアと、
前記キャリアの前記第1の側面にそれぞれ搭載され、それぞれが、基準ノズル領域、および前記基準ノズル領域の横方向に設けられた調整ノズル領域を含む第1の複数個のプリントヘッドダイと、
を備え、
前記第1の複数個のプリントヘッドダイのそれぞれは、前記調整ノズル領域に形成された、前記プリントヘッドダイ間の整列を容易にする複数個の調整ノズルを有し、
前記第1の複数個のうちの第1のプリントヘッドダイの前記調整ノズル領域が、前記第1の複数個のうちの第2のプリントヘッドダイの調整ノズル領域内で横方向に整列されているインクジェットプリントヘッドアセンブリ。

2.独立特許要件の判断
前述のとおり、上記補正事項は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される前記のとおりのものである。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物には、次の事項が記載されている。

(2-1)特開平7-276638号公報(刊行物1)
段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、一般にインクジェット・プリンタ及びその類似品に関し、特に広幅アレイのプリンタ用のプリントヘッド・データ制御回路により制御されるプリント・ヘッドに関する。」

段落【0009】「【発明が解決しようとする課題】このような構造の離散形プリントヘッド・アレイの欠点には、電気的な複雑さが増し、プリントヘッドを互いに精密に位置合わせすることが困難であり、複数個のプリントヘッドを備えるためのコストが高くなることがある。」

段落【0025】「第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24が第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22と平行に、これと偏倚して取り付けられている。第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22と第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24との空間的な関係は、図1に示したようなページ幅インクジェット・プリンタ・アレイ全体に亘って反復されて、第1列のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子56と第2列のページ幅インクジェット・プリントヘッド60の素子を形成している。第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24は第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22と同様に上列のノズル30と下列のノズル32とを有している。それによって単一のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子を設計し,プリントヘッド・アレイ全体で反復して構成できる。共通のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子を使用することによって、ページ幅インクジェット・プリントヘッド素子の生成数が最大になるように、最適なヒータ素子数に適応するように設計できる。第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24は、2つの左端のノズルが第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22の上列の2つの右端のノズル36と対向するように、第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22から偏倚されている。前記ノズルを重ね合わせた結果、第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子の下列の2つの左端のノズル38は第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22の下列の2つの右端のノズル40と対向する。」

段落【0026】「第3のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子42が第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22と同列に取り付けられ、第1列のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子56を形成している。第3のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子42も同様に、左右対称である点を除けば、第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22と同様に第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24から偏倚して取り付けられている。しかし、この場合は、2つの右端のノズル48は第3のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子42の上列のノズル44の2つの左端のノズル50と対向している。この場合も、2つの右端のノズル48が2つの左端のノズル50と対向している結果、第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24の下列のノズル32のうちの2つの右端のノズル52は、第3のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子42の第2列のノズル46のうちの2つの左端のノズル54と対向している。」

段落【0025】及び図1を参照するに、ページ幅インクジェット・プリンタ・アレイの上面に二列のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子が配置されていることが看取できる。
そして、当該段落【0025】記載によれば、第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子24は、上列の2つの左端のノズル34が第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22の上列の2つの右端のノズル36と対向するように、また、下列の2つの左端のノズル38が第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22の下列の2つの右端のノズル40と対向するように、第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子22から偏倚されていることが把握できる。
そして、後続する段落【0026】を参照するに、ページ幅インクジェット・プリントヘッド素子間で端部ノズルを対向させた配置は、他のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子間でも同様にされていることが把握できる。
よって、刊行物1記載のヘッドにおいては、ページ幅インクジェット・プリントヘッド素子の端部の複数のノズルが、他のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子の端部の複数のノズルと対向させられており、そのために横方向に「整列」、「位置決め」等が行われていることは明らかである。

よって、これらの記載からみて、当該刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「インクジェットプリンタの広幅アレイのプリンタ用のプリントヘッドであって、
上面に複数列のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子を配設したページ幅インクジェット・プリンタ・アレイを備え、
前記複数列のうちの1つの列に係るプリントヘッド素子の右端ノズルが、前記複数列のうちの対応する1つの列に係るプリントヘッド素子の左端ノズルとそれぞれ対向させて横方向に整列されているインクジェットプリントヘッド。」
(以下、「刊行物1記載発明」という。)

(2-2)特開2000-229447号公報(刊行物2)
段落【0001】「【発明の属する技術分野】本発明は、複数の印字素子を有する印字チップを複数並べたマルチアレイ印字ヘッド及びそれを用いた印字方法に関する。」

段落【0012】「【発明が解決しようとする課題】ところで、このように複数(同図の例では20個)の印字チップ2を千鳥模様状に延在させて長尺の印字ヘッド1を形成する場合には、まず、印字チップ2-1を所定の位置に実装した後、次に、印字チップ2-2を高精度な実装装置を用いて、印字チップ2-1に対して千鳥模様状の配列位置に仮配置する。続いて、印字チップ2-1と印字チップ2-2のY方向(副走査方向)に見た重複部における印字チップ2-1の印字素子3と印字チップ2-2の印字素子3のX方向(主走査方向)の配置ずれ量を検知する。そして、検知した配置ずれ量が許容値を越えていない場合には、印字チップ2-2を実装する。」

段落【0013】「一方、上記の配置ずれ量が許容値を越えていた場合には、印字チップ2-2の配置位置を調整して再配置して、再び印字素子3のX方向の配置ずれ量を検知するということを、配置ずれ量が許容値を越えなくなるまで繰り返す。」

段落【0014】「同様にして、印字チップ2-2に対する印字チップ2-3の仮配置とそれらの印字素子3の配置ずれの検知、印字チップ2-3の調整再配置とその印字素子3の配置ずれ再検知とを繰り返し、配置ずれが無くなったことを確認して実装する。このようなアライメント調整方法を千鳥模様状に隣接する印字チップ2に順次繰り返していくことによって、長尺印字ヘッド1が完成する。」

段落【0015】「このように、従来のアライメント調整方法では、印字チップを千鳥模様状の配列に実装していく過程で、高精度な実装装置を用いて、調整と再配置の作業を試行錯誤で繰り返しながらアライメント調整を実施することになる。更に、このアライメント調整は、長尺印字ヘッド1を1個作成する毎に必要となる。また、図4(b) に示すように、印字素子3の解像度が600dpi(印字素子のピッチ約42μm)と高解像度の印字チップを千鳥模様状の配列に実装するには、超高精度な実装装置が必要となる。」

段落【0016】「しかしながら、このような試行錯誤による調整と再配置の作業は非常に多くの手間と時間がかかって製造効率が悪いという問題を有している。また、600dpiというような高解像度の印字チップを千鳥模様状に配列して実装するには超高精度な実装装置を必要とするため製造コストが高くなるという問題も有していた。」

段落【0017】「本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、複数の印字素子を有する複数の印字チップを困難な調整作業なく配置できる印字ヘッド及びその印字方法を提供することである。」

段落【0018】「【課題を解決するための手段】先ず、請求項1記載の発明のマルチアレイ印字ヘッドは、複数の印字素子が主走査方向に所定間隔で配列された印字チップを複数並べて構成したマルチアレイ印字ヘッドであって、複数の上記印字素子が等間隔「L」で配列され、該等間隔で配列された印字素子に隣接し印字素子同士の間隔が「α≪L」として「L+α」又は「L-α」に設定されている第1の印字チップと、該第1の印字チップに対し副走査方向に位置ずれし、一部の上記印字素子の印字領域が上記第1の印字素子同士の間隔が「L+α」又は「L-α」に設定されている印字素子と重複し、上記印字素子の間隔が等間隔「L」で配列された第2の印字チップとを備えて構成される。」

段落【0048】「【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、例えば288個の印字素子を有する印字チップの一方の端部に他の印字素子の配列ピッチよりも僅かに大きな(又は小さな)ピッチの15個の印字素子を配置して、この部分の印字領域が隣接する印字チップの他方の端部の印字領域と重複するように実装するので、隣接する各印字チップ間の重複部において各々の印字素子のうちノギスの原理に基づいて延在方向の印字位置が一致する印字素子が必ず存在するようになり、これにより、印字位置が一致する印字素子を境界にして重複部分の印字を分担するだけで隣接する印字チップ間で位置ずれの殆ど目立たない印字を連続して実行することができ、したがって、印字チップをマルチアレイで配置して構成する印字ヘッドにおいて各印字チップごとのアライメント調整が容易となり、従来の超高精度な実装装置や特別なアライメント調整が必要なく、マルチアレイ印字ヘッドの製造効率を著しく向上させることができて、製造コスト低減に大きく貢献できるようになる。」

以上の記載からみて、当該刊行物2には、以下の発明が記載されている。
「印字素子を有する印字チップの一方の端部に他の印字素子の配列ピッチよりも僅かに大きな(又は小さな)ピッチの複数個の印字素子を配置して、この部分の印字領域が隣接する印字チップの他方の端部の印字領域と重複するように実装し、隣接する各印字チップ間の重複部において各々の印字素子のうちノギスの原理に基づいて延在方向の印字位置が一致する印字素子が必ず存在するようになし、これにより、印字位置が一致する印字素子を境界にして重複部分の印字を分担するだけで隣接する印字チップ間で位置ずれの殆ど目立たない印字を連続して実行することができるマルチアレイ印字ヘッド。」
(以下、「刊行物2記載発明」という。)

(3)本件補正発明と刊行物1記載発明との一致点及び相違点
(3-1)本件補正発明における用語の技術的意味について
対比にあたり、本件補正発明における用語の技術的意味について確認する。

(3-1-1)「基準ノズル領域」及び「調整ノズル領域」について
本件明細書の段落【0003】?【0006】には、以下の記載がある。

段落【0003】「【従来の技術】従来のインクジェットプリントシステムは、プリントヘッドと、インク液をプリントヘッドに供給するインク供給源とを含む。プリントヘッドは、インク滴を複数個のオリフィスまたはノズルを通して用紙等のプリント媒体に吐出することでプリント媒体にプリントを行う。典型的には、オリフィスは、1つ以上の軸に沿って配列され、プリントヘッドおよびプリント媒体が互いに相対移動すると、オリフィスから正しい順序でインクが吐出することにより文字またはその他画像をプリント媒体上にプリントさせる。」

段落【0004】「通常、ワイドアレイインクジェットプリントシステムと呼ばれる一構成において、プリントヘッドダイと呼ばれる複数個の個別プリントヘッドが単一キャリアに搭載されている。このように、多数のノズル、ひいては1秒当たりの吐出可能なインク滴の合計数が増大する。1秒当たりに吐出可能な全滴数が増大するため、ワイドアレイプリントシステムによりプリント速度の高速化が可能となる。」

段落【0005】「しかしながら、複数個のプリントヘッドダイを単一キャリアに搭載することで、プリントヘッドダイ間の精確な整列が必要となる。プリントヘッドダイの間に整列不良が生じると、インクジェットプリントシステムの性能に悪影響を及ぼす可能性がある。ノズルが配列される軸に沿ったプリントヘッドダイの間の整列不良により、たとえば、マルチパスプリント技術により補償されるべきプリントスウォースギャップが生じる。残念ながら、マルチパスプリントはスループットを遅くし、かつバンド形成等プリント不良の可能性を増大させる。したがって、連続するプリントスウォースを形成するために、複数個のプリントヘッドダイを単一キャリアに精確に搭載し、かつ互いに対して整列させる必要がある。さらに、複数個のプリントヘッドダイを単一キャリアに搭載させることで、キャリアがプリントヘッドダイのそれぞれに対する流体および電気的流れに適応し、これに支持体(support)を提供する必要がある。」

段落【0006】「【発明が解決しようとする課題】このため、複数個のプリントヘッドダイをワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリの単一キャリアに精確に搭載して整列させ、プリントヘッドダイのそれぞれに対して流体および電気的流れ、ならびに、これに支持体が維持された状態で、プリントヘッドダイの間の整列不良、ひいてはワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリにより形成されるプリントスウォースのギャップを回避する必要がある。
本発明は、上記課題を解決し、プリントスウォースのギャップが回避され、ワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリの有効な配置が確率されるインクジェットプリントヘッドアセンブリおよびその形成方法を提供することを目的とする。」

これらの記載からみて、本件発明は、1秒当たりの吐出可能なインク滴の合計数が増大すべく、プリントヘッドダイと呼ばれる複数個の個別プリントヘッドが単一キャリアに搭載した、ワイドアレイインクジェットプリントシステムと呼ばれる一構成において、
複数個のプリントヘッドダイをワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリの単一キャリアに精確に搭載して整列させ、プリントヘッドダイのそれぞれに対して流体および電気的流れ、ならびに、これに支持体が維持された状態で、プリントヘッドダイの間の整列不良、ひいてはワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリにより形成されるプリントスウォースのギャップを回避する目的の下で、プリントスウォースのギャップが回避され、ワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリの有効な配置が確率されるインクジェットプリントヘッドアセンブリおよびその形成方法を提供するもの、
と把握できる。

そして、段落【0007】及び【0017】には、以下の記載がある。
段落【0007】「【課題を解決するための手段】本発明の一態様は、インクジェットプリントヘッドアセンブリを提供する。該インクジェットプリントヘッドアセンブリ12は、キャリア30と、それぞれがキャリア30に搭載される複数個のプリントヘッドダイ40とを含み、プリントヘッドダイ40のそれぞれが、基準ノズル領域76と、この基準ノズル領域76の横方向に設けられた調整ノズル領域78とを含む。」

段落【0017】「一実施形態において、本発明は、それぞれが、基準ノズル領域76および調整ノズル領域7をそれぞれ形成する複数個の基準ノズルおよび複数個の調整ノズルを有する、複数個のプリントヘッドダイ40を含むワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリを提供する。このように、基準および調整ノズル領域76,78は、プリントヘッドダイ40の間の整列およびその十分な重なりが容易になる。したがって、プリントスウォースギャップが回避され、ワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリの有効な配置が確立される。」

よって、当該段落【0007】記載からは、ワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリにおける有効なノズル列を形成すべく、それぞれのプリントヘッドダイに、基準ノズル領域76と、この基準ノズル領域76の横方向に設けられた調整ノズル領域78とが設けられていることが把握できる。
そして、段落【0017】記載からは、基準ノズル領域76および調整ノズル領域78は、プリントヘッドダイ40の間の整列およびその十分な重なりが容易になることを意図されたもので、この構成により、プリントスウォースギャップが回避され、ワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリの有効な配置が確立できるものと位置付けられている。

そして、段落【0033】?【0035】には、図5及び図6を参照した以下の記載がある。
段落【0033】「図5および図6を参照して、各プリントヘッドダイ40は、ノズル領域70と、ダイエンドマージン72と、電気接続領域74とを有する。ノズル領域70は、各プリントヘッドダイ40の第2の軸402の中心に形成され、プリント要素42を囲む。ダイエンドマージン72はノズル領域70の対向端に設けられる。したがって、ダイエンドマージン72は、ノズル領域70に隣接し、かつ横方向に設けられる。ダイエンドマージン72は、インク送りスロット441から延在する各プリントヘッドダイ40の部分を含む。電気接続領域74は、ノズル領域70の対向端に設けられ、ダイエンドマージン72に隣接し、かつ横方向に設けられる。したがって、電気接続領域74は、各プリントヘッドダイ40の横方向縁部に設けられる。電気接続領域74は、プリントヘッドダイ40の電気接続を収容する各プリントヘッドダイ40の部分を含む。一実施形態において、電気接続領域74は、ワイヤボンド領域であり、たとえば、ワイヤボンドまたはプリントヘッドダイ40の電気接触子をキャリア30の電気接触子に電気結合するリード線を収容する。」

段落【0034】「一実施形態において、プリントヘッドダイ40は、添付図面の向きにおいて1つ以上の重なり行に配列される。インクジェットプリントヘッドアセンブリ12のプリントヘッドダイ40は、たとえば、第1行80および第2行82に配列される。第2行82は、第1行80と間隔をあけて略平行な向きに配置される。第1行80のプリントヘッドダイ40は、第2行82のプリントヘッドダイ40からずらして配置され、第1行80のプリントヘッドダイ40が、第1の軸401に対して第2行82の少なくとも1個のプリントヘッドダイ40に重なるような構造である。より詳細には、第1行80の各プリントヘッドダイ40のノズル領域70は、第2行82の少なくとも1個のプリントヘッドダイ40のノズル領域70に重なる。したがって、第1行80の各プリントヘッドダイ40のノズルまたはプリント要素42は、第2行82の少なくとも1個のプリントヘッドダイ40のノズルまたはプリント要素42に重なる。」

段落【0035】「一実施形態において、ノズル領域70は、基準ノズル領域76と調整ノズル領域78とを含む。基準ノズル領域76は、第2の軸402の中心に形成され、複数個の基準ノズルまたはプリント要素42を含む。調整ノズル領域78は、第1の軸401に沿って基準ノズル領域76の対向端に設けられる。したがって、調整ノズル領域78は、基準ノズル領域76に隣接され、かつその横方向に設けられる。また、調整ノズル領域78は、複数個の調整ノズルまたはプリント要素42を含む。」

これらの記載からは、図5或いは図6に示される略平行な向きで二行に配されたプリントヘッドダイ40は、第1行80のプリントヘッドダイ40と第2行82のプリントヘッドダイ40とが一部重なるような構造とされており、プリントヘッドダイ40には基準ノズル領域76の軸401に沿って対向端(両端)に調整ノズル領域78が配され、第1行80をなすプリントヘッドダイ40の図面上で右側の調整ノズル領域と、第2行82をなすプリントヘッド40の図面上で左端の調整ノズル領域とが、重なるように配置されているとされる。
本件明細書においては、これら基準ノズルと調整ノズルがどのような役割を担保するかの詳細について明記はないものの、段落【0050】には、以下の記載がある。

段落【0050】「ノズル領域70を基準ノズル領域76と調整ノズル領域78に分割することによって、プリントヘッドダイ40の間の整列およびその十分な重なりが容易になる。基準ノズル領域76および調整ノズル領域78はともに複数個のノズルまたはプリント要素42を含むため、どのピクセルドット行にもノズルが設けられる。したがって、インクジェットプリントヘッドアセンブリ12により形成されるプリントスウォースのギャップが回避される。このように、マルチパスプリントの必要がなくなる。さらに、ダイエンドマージン72および電気接続領域74をノズル領域70の横方向に設けることによって、プリントヘッドダイ40に対する流体および電気流れならびにプリントヘッドダイ40を支持するエリアが保持される。」

前記各段落記載を参酌しつつ、当該段落【0050】を参照するに、本件補正発明は、二行構成とされたプリントヘッドダイ40のノズルを軸401方向に連続したワイドアレイ・インクジェットプリントヘッドアセンブリを構成するものであることに照らせば、基準ノズル領域とは、第1行80のノズルと第2行82のノズルをいずれも軸401上に投射した際に、重なり合わないノズルの存在する領域を指し、他方、調整ノズル領域とは、前記のように投射した際に、重なり合うノズルの存在する領域を指すものと解される。

なお、本件明細書においては、これら「基準ノズル領域」或いは「調整ノズル領域」に配設されたノズルからどのようなタイミングでインク吐出を行うか、前記のように軸401上に投射した際に重なり合う、異なる行に属する「調整ノズル領域」のノズルのいずれからインク吐出を行うか等の詳しい制御内容についての詳細は記載されていないので、構成に係る記載から参酌した上記理解は妥当なものである。

(3-1-2)「第1の複数個のプリントヘッドダイ」について
本件請求項1に記載される「第1の複数個のプリントヘッドダイ」は、平成15年6月6日付け手続補正により加入されたものである。
そして、当該手続補正を行うに際し、出願人である請求人は、同日付けの意見書の「(2)補正について」で、「(i)旧請求項5を旧請求項1に組み込んで新請求項1とし、」としている。

ここで、当初明細書において記載されていた請求項5の記載は以下のとおり。
「【請求項5】 前記複数個の第1のプリントヘッドダイの前記調整ノズル領域は、前記複数個の第2のプリントヘッドダイの前記調整ノズル領域において横方向に整列される、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッドアセンブリ。」
また、当該請求項5において引用される請求項1の記載は以下のとおり。
「【請求項1】 インクジェットプリントヘッドアセンブリであって、
第1の側面を有するキャリアと、
前記キャリアの前記第1の側面にそれぞれ搭載され、それぞれが、基準ノズル領域、および前記基準ノズル領域の横方向に設けられた調整ノズル領域を含む複数個のプリントヘッドダイと、を備えるインクジェットプリントヘッドアセンブリ。」

これら請求項1と請求項5の記載を参照するに、請求項1に係る「前記キャリアの前記第1の側面にそれぞれ搭載され、それぞれが、基準ノズル領域、および前記基準ノズル領域の横方向に設けられた調整ノズル領域を含む複数個のプリントヘッドダイ」における「複数個のプリントヘッドダイ」には、請求項5に係る「第1のプリントヘッドダイ」と「第2のプリントヘッドダイ」が存在していることを表しているものと解される。
というのも、本件請求項1に係る「第1の複数個のプリントヘッドダイ」が、当初明細書における請求項5に記載される「第1のプリントヘッドダイ」を表すものと解した場合、本件請求項1に係る「第2のプリントヘッドダイ」が、本件請求項1に係る「第1の複数個のプリントヘッドダイ」に含まれたものと解さざるを得なくなり、不合理を生じることとなる。
してみるに、前記に摘示した出願人である請求人の意見書における主張を合わせて参酌するに、本件請求項1に記載される「第1の複数個のプリントヘッドダイ」は、本来、単に、「複数個のプリントヘッドダイ」と記載すべきところを誤って記載したものと解されるので、当該「第1の複数個のプリントヘッドダイ」における「第1の」には有意な意味がないものであり、また、本件請求項1において、後続する「前記第1の複数個のうちの第1の…」及び「前記第1の複数個のうちの第2の…」における「前記第1の」も、「複数個のプリントヘッドダイ」に関するものであることは明らかであり、前記同様に、有意な意味がないものと認定する。
以下では、このように認定したことを明らかにすべく、該当する「第1の」について「(第1の)」と表現する。

(3-2)本件補正発明と刊行物1記載発明との対比
本件補正発明と刊行物1記載発明のいずれも、インクジェットプリンタの広幅アレイのプリンタ用のプリンタヘッドに係るものであることは明らかである。
また、刊行物1記載発明の「ページ幅インクジェット・プリンタ・アレイ」は、その上面に「複数列のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子」を配設されており、複数列の「インクジェット・プリントヘッド素子」が整列されており、
本件補正発明の「キャリア」の「第1の側面」に「(第1の)複数個のプリントヘッドダイ」が備えられており、これら「複数個のうちのプリントヘッドダイ」が複数行をなしている構成に相当関係にあることも明らかである。
よって、刊行物1記載発明の「ページ幅インクジェット・プリンタ・アレイ」、「上面」及び「ページ幅インクジェット・プリントヘッド素子」は、本件補正発明の「キャリア」、「第1の側面」及び「プリントヘッドダイ」に相当している。
また、刊行物1記載発明の「複数列のうちの1つの列に係るプリントヘッド素子」及び「複数列のうちの対応する1つの列に係るプリントヘッド素子」が、本件補正発明の「(第1の)複数個のうちの第1のプリントヘッドダイ」及び「(第1の)複数個のうちの第2のプリントヘッドダイ」に相当している。
(なお、いずれを「第1」或いは「第2」と解するかで、表現上、「第1」或いは「第2」を取り換えた対応解釈も成立することからすれば、前記の「第1」と「第2」としての対応は便宜的である。)

したがって、本件補正発明と刊行物1記載発明とは、以下の点で一致している。
「インクジェットプリントヘッドアセンブリであって、
第1の側面を有するキャリアと、
前記キャリアの前記第1の側面にそれぞれ搭載される複数個のプリントヘッドダイを備え、
前記複数個のうちの第1のプリントヘッドダイと、前記複数個のうちの第2のプリントヘッドダイが整列されているインクジェットプリントヘッドアセンブリ。」

他方、本件補正発明と刊行物1記載発明とは、以下の点で相違している。

<相違点1>
本件補正発明においては、「(第1の)複数個のプリントヘッドダイ」が、それぞれ「基準ノズル領域、および前記基準ノズル領域の横方向に設けられた調整ノズル領域を含む」と特定されるのに対して、
刊行物1記載発明においては、このような特定を有するか定かでない点。

<相違点2>
本件補正発明においては、「前記(第1の)複数個のプリントヘッドダイのそれぞれは、前記調整ノズル領域に形成された、前記プリントヘッドダイ間の整列を容易にする複数個の調整ノズルを有」すると特定されるのに対して、
刊行物1記載発明においては、このような特定を有するか定かでない点。

<相違点3>
本件補正発明においては、「前記(第1の)複数個のうちの第1のプリントヘッドダイの前記調整ノズル領域が、前記(第1の)複数個のうちの第2のプリントヘッドダイの調整ノズル領域内で横方向に整列されている」と特定されるのに対して、
刊行物1記載発明においては、このような特定を有するか定かでない点。

(3-3)相違点に係る判断
(3-3-1)相違点1について
刊行物1記載発明においては、前記のように「前記複数列のうちの1つの列に係るプリントヘッド素子の右端ノズルが、前記複数列のうちの対応する1つの列に係るプリントヘッド素子の左端ノズルとそれぞれ対向させて整列されている」構成となっている。
そして、前記刊行物1から摘示の段落【0025】に明らかなように、第1のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子と、第2のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子に関わらず、各々のページ幅インクジェット・プリントヘッド素子の左右端部のノズル以外は、第1列と第2列で対向した配置とされていないことが明らかである。
他方、前記「(3-1-1)「基準ノズル領域」及び「調整ノズル領域」について」で確認したように、本件補正発明における基準ノズル領域とは、第1行80のノズルと第2行82のノズルをいずれも軸401上に投射した際に、重なり合わないノズルの存在する領域を指し、本件補正発明における調整ノズル領域とは、前記のように投射した際に、重なり合うノズルの存在する領域を指すものと解される。

すると、刊行物1記載発明の「前記複数列のうちの1つの列に係るプリントヘッド素子」或いは「前記複数列のうちの対応する1つの列に係るプリントヘッド素子」の各々における左右端部のノズル以外は、第1列と第2列で対向した配置とされていないことから、本件補正発明の「基準ノズル領域」に配設されたノズルに対応するものと解されると共に、刊行物1記載発明の「前記複数列のうちの1つの列に係るプリントヘッド素子」或いは「前記複数列のうちの対応する1つの列に係るプリントヘッド素子」の各々における左右端部のノズルは、第1列と第2列で対向した配置とされていることから、本件補正発明の「調整ノズル領域」に配設されたノズルに対応するものと解される。
また、本件補正発明のこれら「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」との配設関係を備える実施例である本件明細書に添付の図面である【図5】を参照するに、これら「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」とが隣接配置されていることは明らかなるも、軸401方向で並べて配設されていることから、このような配設関係を「基準ノズル領域の横方向に設けられた調整ノズル領域」と表現していると解される。
してみるに、このような「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」との配設関係は、前記で検討したように、刊行物1記載発明が既に備えている構成であって格別なものではない。

よって、相違点1に係る構成は、本件補正発明と刊行物1記載発明との実質的な差異を形成するものとはいえない。

(3-3-2)相違点2について
次に、相違点2では、本件補正発明においては、「前記(第1の)複数個のプリントヘッドダイのそれぞれは、前記調整ノズル領域に形成された、前記プリントヘッドダイ間の整列を容易にする複数個の調整ノズルを有」すると特定されている点を挙げている。
なるほど、刊行物1記載発明においては、当該特定を有しておらず、たとえ、前記のように刊行物1記載発明の「前記複数列のうちの1つの列に係るプリントヘッド素子」或いは「前記複数列のうちの対応する1つの列に係るプリントヘッド素子」の各々における左右端部のノズルは、各々における上列と下列で対向した配置とされていることから、本件補正発明の調整ノズル領域に設けられたノズルに相当するとしても、この刊行物1記載発明における前記各ノズルが、「前記プリントヘッドダイ間の整列を容易にする」ためとの明記は、刊行物1には発見できない。
しかしながら、刊行物1記載発明と本件補正発明のいずれもが、ワイドアレイインクジェットプリントシステムと呼ばれ、プリントヘッドダイと呼ばれる複数個のプリントヘッドが単一キャリアに搭載されたものである点では共通しており、プリントヘッドが精密配置されるのであれば、必要なワイドアレイに過不足のないノズルを配置できることから、異なる行に属するノズルの一部を重なり合うように配設する必要がないことは技術常識に属する。
また、本件補正発明と刊行物1記載発明とは、あえて、異なる行に属するノズルの一部を重なり合うように配設している点において共通するに加えて、刊行物1の段落【0009】記載では、ワイドアレイインクジェットプリントシステムでは、プリントヘッドを互いに精密に位置合わせすることが困難であり、複数個のプリントヘッドを備えるためのコストが高くなることが【発明が解決しようとする課題】として挙げられているのであるから、当業者の目からみれば、刊行物1記載発明における構成も実質的には、プリントヘッドダイ間の整列を容易にするためのものと認識し得るものである。

また、前記の刊行物2記載発明においては、インクジェットプリンタに適用可能な、複数行のプリントヘッドダイを設けたマルチアレイ印字ヘッドの構成であって、技術常識からみて、ワイドアレイ形式のヘッド構成と認識されるところの、本件補正発明におけるプリントヘッドダイに相当する印字チップの隣接する各印字チップ間の重複部に、複数個の印字素子を実装するものが開示されている。
そして、プリントヘッドダイと呼ばれる複数個のプリントヘッドが単一キャリアに搭載されたワイドアレイを構成するものにおいて、記録媒体幅方向にヘッドユニットを千鳥状に重複して配置させるに際して、記録素子の複数個を重複配置させた構成となすことは、前記刊行物1、刊行物2以外にも、特開昭64-4357号公報、特開平5-138885号公報等が存在していることに照らせば、調整ノズル領域に形成された調整ノズルを唯一とせずに複数個構成となすことは、当業者が必要に応じて適宜採用し得た程度のことと認められる。
したがって、相違点2に係る構成を採用することは、当業者にとり容易想到であって、それに基づく作用効果も格別なものとはいえない。

(3-3-3)相違点3について
本件補正発明においては、「横方向」なる表現が用いられているが、当該相違点3に係る「横方向」がいかなる意味をなすかについて確認しておく。
というのも、前記相違点1において検討したように、本件補正発明では、「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」との配設関係に関して、「横方向」なる表現を用いており、そこでは、これら「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」が隣接配置されていることが明らかであるも、本件明細書に添付の図面である【図5】に示される軸401方向で並べて配設されていることと解した。
また、これら「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」は、「第1のプリントヘッドダイ」或いは「第2のプリントヘッドダイ」に関わらず、いずれのプリントヘッドにも設けられているので、着目したプリントヘッド単体の上での位置関係を特定すべく「横方向」と記載していると解される。
他方、当該相違点3に係る本件補正発明の特定では「前記(第1の)複数個のうちの第1のプリントヘッドダイの前記調整ノズル領域が、前記(第1の)複数個のうちの第2のプリントヘッドダイの調整ノズル領域内で横方向に整列されている」とされることから明らかなように、「第1のプリントヘッドダイの調整ノズル領域」と「第2のプリントヘッドダイの調整ノズル領域」との配設関係が特定されているものである。
したがって、当該相違点3に係る本件補正発明の特定における「横方向」は、前記「(3-1-1)「基準ノズル領域」及び「調整ノズル領域」について」で検討したように、これら「基準ノズル領域」と「調整ノズル領域」とを軸401に投射して、当該軸401上で「横方向」に整列しているか否かを表現しているものと解される。

ここで、本件明細書の段落【0005】では、複数個のプリントヘッドダイを単一キャリアに搭載する場合には、プリントヘッドダイ間の正確な整列が必要であり、プリントヘッドダイの間の整列不良が生じた場合には、プリントスウォースギャップが生じる不都合が指摘されており、同段落【0006】では、前記プリントスウォースのギャップを回避すべく、本発明で有効な配置を提供するものと記載されている。
そして、同段落【0007】?【0017】における実施の態様においては、基準ノズル領域或いは調整ノズル領域の重なり具合をいかほどとするかについて配設関係が種々示されているものの、これらの領域内に配置されているノズル相互の配列関係の詳細について触れる記載はない。
ここで、良好なプリント結果を得る上で、インクジェットプリントヘッドアセンブリ自体におけるプリントヘッドの配列或いはプリントヘッドに配されたノズル配列の精密性が求められていることは技術常識に属するものの、ノズルからのインク吐出のタイミング或いはインクの吐出方向を適宜制御することで、良好なプリント結果が得られるようになし得ることも技術常識に属することである。
よって、仮にノズル配列自体の整列についての規定がなくとも、ノズルからのインク吐出制御により、良好なプリント結果を得ることが可能なことに照らせば、本件明細書においてノズル相互の配列関係が明らかにされていないとしても、インク吐出に係る制御内容にも依存するのであるから、プリント結果自体に影響があるものとはいえない。
してみれば、前記のようにノズル相互の配列関係詳細が不明であることから、本件補正発明における「調整ノズル」は、「第1のプリントヘッドダイの基準ノズル領域」と「第2のプリントヘッドダイの基準ノズル領域」との間隙を埋めるべく設けられているものであることからして、ここでいう「整列している」とは、適宜の重なり部分を設けていることと解される。
すると、刊行物1記載発明においては、「第1のプリントヘッドダイの調整ノズル領域」と「第2のプリントヘッドダイの調整ノズル領域」に存在する調整ノズルが一つであったとしても、これらの「調整ノズル領域」が重なり合うように整列されているのであり、また、前記相違点2で既に検討したように、調整ノズル個数は、当業者が適宜選択し得る程度のことであって周知事項であることからみて、相違点3に係る本件補正発明のような構成を採用することは、当業者にとり容易想到といわざるを得ない。
そして、相違点3に係る本件補正発明の構成を採用したことによる作用効果も、当業者が容易に推察できる程度のものといわざるを得ない。

(3-3-4)まとめ
以上のとおり、前記相違点1?3のいずれもが、本件補正発明と刊行物1記載発明の実質的差異を形成し得ないものであるか、或いは当業者にとり容易想到なものである。
そして、これら相違点1?3に係る本件補正発明の構成を採用したことによる作用効果は、当業者が予測できる範囲のものである。
なお、請求人は、本件補正発明においては領域と領域との間の整列であって、ノズルそのものを整列するものではないと主張する。
しかしながら、本件補正発明のように領域と領域との間の整列であるとしても、刊行物1記載発明のようにノズルとノズルとの間の整列と比較して、領域と領域との間の整列が困難であるとはいえず、このように表現したことにより、格別な意味があるものとは認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4)独立特許要件のむすび
したがって、本件補正発明は、刊行物1、刊行物2及び周知事項、技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項の規定で準用する同法第126条第4項に規定される独立特許要件を満たしていないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年6月6日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。

「【請求項1】 インクジェットプリントヘッドアセンブリであって、
第1の側面を有するキャリアと、
前記キャリアの前記第1の側面にそれぞれ搭載され、それぞれが、基準ノズル領域、および前記基準ノズル領域の横方向に設けられた調整ノズル領域を含む第1の複数個のプリントヘッドダイと、
を備え、
前記第1の複数個のうちの第1のプリントヘッドダイの前記調整ノズル領域が、前記第1の複数個のうちの第2のプリントヘッドダイの調整ノズル領域内で横方向において整列されているインクジェットプリントヘッドアセンブリ。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、2及びその記載事項は、前記「第2」の2.(2-1)及び(2-2)に記載したとおりである。

3.対比及び判断
本願発明は、前記「第2」の2.(3)及び(4)で検討した本件補正発明における、「前記第1の複数個のプリントヘッドダイのそれぞれは、前記調整ノズル領域に形成された、前記プリントヘッドダイ間の整列を容易にする複数個の調整ノズルを有し、」という限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「調整ノズル領域に形成された複数個」であって、これら「複数個の調整ノズル」が「プリントヘッドダイ間の整列を容易にする」ものであることを限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2」の2.(3)及び(4)に記載したとおり、刊行物1、周知事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、周知事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、平成15年8月11日付け拒絶査定には、「この出願については、平成14年12月3日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」と記載されており、この平成14年12月3日付け拒絶理由通知書に係る理由2における備考においては、「請求項1乃至3、5乃至8,10乃至12及び14」に対して、引用文献1として前記刊行物1のみが引用されており、引用文献2として挙げられた前記刊行物2は引用されていない。
しかしながら、前記「(3-3-2)相違点2について」及び「(3-3-3)相違点3について」で検討したように、「調整ノズル」が、「第1のプリントヘッドダイの基準ノズル領域」と「第2のプリントヘッドダイの基準ノズル領域」との間隙を埋めるべく設けられるものであることは技術常識に照らして明らかであり、また、調整ノズルの数を複数個とすることは、刊行物2のみに記載されている事項ではなく、前記で引用したように、ワイドアレイ方式のヘッドにおいて周知事項である。
してみるに、前記平成14年12月3日付け拒絶理由通知書において、引用文献2が請求項1に対して明示的に引用されていないとしても、最後の拒絶理由通知を発する必要はないものと認める。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、周知事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-18 
結審通知日 2006-10-20 
審決日 2006-10-31 
出願番号 特願2001-254535(P2001-254535)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成尾崎 俊彦  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 勲
國田 正久
発明の名称 インクジェットプリントヘッドアセンブリおよびその形成方法  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  

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