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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200323305 審決 特許
不服20061161 審決 特許
不服200213631 審決 特許
無効200680047 審決 特許
不服20013967 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1154150
審判番号 不服2004-20247  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-30 
確定日 2007-03-12 
事件の表示 平成 9年特許願第151544号「回転軸の弾性軸継手」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月 8日出願公開、特開平10-325419〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】 手続の経緯
本願は、平成9年5月26日の出願であって、平成16年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成16年9月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月28日付けで特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合に該当する明細書についての手続補正がなされたものである。

【二】平成16年10月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】 駆動側ディスクと従動側ディスクとにより区画形成され、該両ディスク同士が補助ディスクを介して連結されてその補助ディスクとの間に円周方向に沿って複数個設けられた空所内に、前記駆動側ディスクと従動側ディスクの円周方向相対変位により伸縮する2個並列配置されたスプリングと該夫々のスプリングの両端を支持するばね受とを有するスプリング機構を収納して構成されたスプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設し、
前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成するとともに、各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを前記次段側の補助ディスクを介して着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし、前記2個並列配置されたスプリングが収納された空所とともに、前記各段の駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間に粘性流体を導き、
一段目の駆動側ディスクはエンジン等の駆動機械の出力端に着脱自在に連結するとともに、最終段の従動側ディスクはプロペラ軸、発電機の回転軸等の被駆動機械回転軸の入力端に着脱自在に連結したことを特徴とする回転軸の弾性軸継手。
【請求項2】 前記各空所内にシリコンオイル等の粘性流体を封入するとともに、前記スプリングを低ばね定数のスプリングで形成し、継手の捩り振動の共振点を使用域外へ移すように構成してなる請求項1記載の回転軸の弾性軸継手。
【請求項3】 前記各空所内に、前記スプリングを2個並列に設けた請求項1記載の回転軸の弾性軸継手。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が附したものであって、補正箇所を示すものである。)

上記補正は、請求項1においては、「円周方向に沿って複数個設けられた空所」について「該両ディスク同士が補助ディスクを介して連結されてその補助ディスクとの間に」との事項により前記「空所」が設けられた位置を限定し、「スプリング」について「2個並列配置された」と限定し、「該スプリングの両端」については「該夫々のスプリングの両端」とし、「従動側ディスク」と「駆動側ディスク」について「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成するとともに」と限定し、「従動側ディスク」と「次段の駆動側ディスク」との「連結」の態様について「前記次段側の補助ディスクを介して」と限定するものと認める。

したがって、本件補正は、請求項1においては、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を行うものと認められる。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.明細書の記載要件について
2-1.特許法第36条第6項第1号の要件について
(1)本願補正発明は、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成する」との事項を、発明を特定するために必要と認める事項としている。
そこで、発明の詳細な説明とあわせて【図1】を参照すると、「一段目従動側ディスク21」と「二段目従動側ディスク31」とを同一形状とし、「一段目補助ディスク14」と「二段目補助ディスク24」とを同一形状としたことが、推測されるものの、発明の詳細な説明及び図面の記載を検討しても、各段において、従動側ディスクと駆動側ディスクと(一段目従動側ディスク21と一段目駆動側ディスク13と、及び、二段目従動側ディスク31と二段目駆動側ディスク23と)を同一形状とした構成も一体構造とした構成も、記載されておらず、また「一段目駆動側ディスク13」と「二段目駆動側ディスク23」とを同一形状とした構成も、記載されていない。
(2)また、本願補正発明は、「各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを前記次段側の補助ディスクを介して着脱自在に連結して」との事項を、発明を特定するために必要と認める事項としている。
発明の詳細な説明及び図面には、「各段の従動側ディスク」と「次段の駆動側ディスク」とを「着脱自在に連結」した構成は、記載されているものの、発明の詳細な説明及び図面の記載を検討しても、前記「連結」を「前記次段側の補助ディスクを介して」行った構成は、記載されていない。
(3)したがって、本願補正発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは、認めることができないので、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

2-2.特許法第36条第6項第2号の要件について
(1)本願補正発明は、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成する」との事項を、発明を特定するために必要と認める事項としている。
(2)この記載は、例えば、「従動側ディスク」と「駆動側ディスク」とを各段毎に共通部品とするように、「複数段に並設した各段において、従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一形状及び材料に構成する」こと、又は、「複数段に並設した各段の従動側ディスク同士を同一部材に構成すると共に、複数段に並設した各段の駆動側ディスク同士も同一部材に構成する」こと、或いは、「従動側ディスク」と「駆動側ディスク」とを一体構造にするような、「複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成する」ことの、いずれの意味にも解釈できる。そして、明細書及び図面の全体を参酌しても、いずれの意味であるかが明確にはならない。
(3)したがって、本願補正発明が明確でないので、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しない。

3.発明の進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「特開平7-224850号公報」(以下、「刊行物1」という。)、「実願昭61-67251号(実開昭62-30041号)のマイクロフィルム」(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されていると認められる。

(1-1)刊行物1
〔あ〕「【産業上の利用分野】本発明はエンジンのクランク軸と発電機の回転軸との連結部に設けるのに好適なスプリング式弾性軸継手に関する。」(段落【0001】、1欄44?46行参照)
〔い〕「図2(A)において、10はエンジンの出力軸、20は発電機の入力軸、11は出力軸10にボルト12により締結されたフライホイール、13は駆動側ディスク、14は補助ディスクである。駆動側ディスク13及び補助ディスク14は円周方向に沿って間隔を隔てて配置された複数の締付ボルト15によりフライホイール11に着脱自在に締結されている。(段落【0020】、4欄12?18行参照)
〔う〕「21は従動側ディスクで、複数のボルト23により連結軸22に締結され、連結軸22はボルト24により入力軸20に締結されている。」(段落【0021】、4欄19?21行参照)
〔え〕「31a、31bはコイルスプリング、32は駆動側ばね受、33は従動側ばね受で、これらによりスプリング機構が構成される。スプリング機構は駆動側ディスク13、補助ディスク14及び従動側ディスク21の外周に沿って等間隔を隔てて複数個区画形成された断面長円形の空所40内に収容されている。この空所40は補助ディスク14にボルト85によって着脱自在に締結された円環状の点検カバー84によって掩蓋されている。」(段落【0022】、4欄22?29行参照)
〔お〕「コイルスプリング31a、31bは並列に配列され、各コイルスプリング31a、31bの一端は駆動側ばね受32に支持され、他端は従動側ばね受33に支持されている。駆動側ばね受32の円弧状背面は、図1に明示されるように、駆動側ディスク13及び補助ディスク14に形成された円弧状支持面51に当接し、従動側ばね受33の円弧状背面は従動側ディスク21に形成された円弧状支持面52に当接している。」(段落【0023】、4欄30?37行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物1には、
“駆動側ディスク13と従動側ディスク21とにより区画形成され、該両ディスク同士が補助ディスク14を介して連結されてその補助ディスク14との間に円周方向に沿って複数個設けられた空所40内に、前記駆動側ディスク13と従動側ディスク21の円周方向相対変位により伸縮する2個並列配置されたコイルスプリング31a、31bと該夫々のコイルスプリング31a、31bの両端を支持するばね受32、33とを有するスプリング機構を収納して構成されたスプリング式弾性軸継手を設け、
前記駆動側ディスク13はエンジンの出力軸10に着脱自在に連結するとともに、前記従動側ディスク21は発電機の入力軸20に着脱自在に連結した回転軸の弾性軸継手”
の発明が記載されていると認められる。

(1-2)刊行物2
〔か〕「本考案はエンジンの急激なトルク変動を吸収するためのダンパーディスクに関する。」(明細書1頁20行?2頁1行参照)
〔き〕「入力側の捩りユニットAと出力側の捩りユニットBとが出力軸88上に配置してある。捩りユニットAは環状の円板51を備え、円板51の両側面側(左右)に環状の側板53、54が配置してある。両側板53、54の内、捩りユニットBから遠い側の側板53は側板54よりも大径であり、外周部が複数個のボルト52によりフライホイールFに固定されている。円板51及び側板53、54の半径方向中間部の互いに対向する位置には複数個の窓孔が円周方向に間隔を隔てて設けてある。それらの窓孔は概ね矩形で、円周方向に延びており、互いに対向する各1組の窓孔には円周方向に延びる圧縮コイルスプリング58が嵌め込まれている。スプリング58よりも内周側において円板51と側板53、54の間にはフリクションワッシャー63、62等のフリクション部材が介装されている。」(明細書3頁19行?4頁16行参照)
〔く〕「出力側の捩りユニットBは上述の入力側捩りユニットAと概ね同一構造であり、環状の円板71の両側に側板73、74が配置されている。円板71、側板73、74の半径方向中間部の互いに対向する位置には複数個の窓孔が円周方向に間隔を隔てて設けてあり、それらの窓孔に圧縮コイルスプリング78が嵌込まれている。スプリング78よりも内周側において円板71と側板73、74の間にはフリクションワッシャー83、82等のフリクション部材が介装されている。」(明細書4頁17行?5頁6行参照)
〔け〕「上記捩りユニットAの円板51は外周部に捩りユニットB側へ延びるアーム87を一体に有しており、アーム87の先端部が捩りユニットBの左側(捩りユニットA側)の側板73にボルト90により固定されている。捩りユニットBの円板71の内周にはハブ70が一体に設けてある。ハブ70の内周は出力軸88にスプラインを介して嵌合している。捩りユニットAの円板51の内周にはハブ89が一体に設けてある。ハブ89の内周にはスプラインは設けられておらず、ハブ89は出力軸88に回転自在に嵌合している。」(明細書5頁7?17行参照)
〔こ〕「次に動作を説明する。フライホイールFから側板53、54に伝達されたトルクはスプリング58を介して円板51に伝わり、円板51のアーム87から側板73へ伝わる。このトルクは側板73、74からスプリング78を介して円板71へ伝わり、円板71からハブ70を経て出力軸88に伝わる。」(明細書5頁18行?6頁4行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物2には、
“環状の側板53、54と、両側板53、54間に配置された円板51と、前記側板53、54と環状の円板51との円周方向相対変位により伸縮する圧縮コイルスプリング58を備えた入力側の捩りユニットAと、環状の側板73、74と、両73、74間に配置された環状の円板71と、前記側板73、74と円板71との円周方向相対変位により伸縮する圧縮コイルスプリング78を備えた出力側の捩りユニットBとを回転軸線方向に並設し、
前記入力側の捩りユニットAと出力側の捩りユニットBとは、概ね同一構造であり、捩りユニットAの円板51は外周部に捩りユニットB側へ延びるアーム87を一体に有しており、アーム87の先端部が捩りユニットBの捩りユニットA側の側板73にボルト90により固定されてタンデム構造の連結様態となし、
入力側の捩りユニットAの側板53は外周部が複数個のボルト52によりエンジンのフライホイールFに連結されるとともに、出力側の捩りユニットBの円板71は、一体に設けられたハブ70内周のスプラインを介して、出力軸88に嵌合している、ダンパーディスク”
が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
(2-1)本願補正発明は、上記「2-2.特許法第36条第6項第2号の要件について」に説示のとおり、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成する」との事項が明確とはいえないが、本項(2-1)では、これを、「複数段に並設した各段の従動側ディスク同士を同一部材に構成すると共に、複数段に並設した各段の駆動側ディスク同士も同一部材に構成する」と解釈して、本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比する。
(2-1-1)本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「駆動側ディスクと従動側ディスクとにより区画形成され、該両ディスク同士が補助ディスクを介して連結されてその補助ディスクとの間に円周方向に沿って複数個設けられた空所内に、前記駆動側ディスクと従動側ディスクの円周方向相対変位により伸縮する2個並列配置されたスプリングと該夫々のスプリングの両端を支持するばね受とを有するスプリング機構を収納して構成されたスプリング式弾性軸継手を設け、
1つの駆動側ディスクはエンジン等の駆動機械の出力端に着脱自在に連結するとともに、1つの従動側ディスクはプロペラ軸、発電機の回転軸等の被駆動機械回転軸の入力端に着脱自在に連結した回転軸の弾性軸継手」
で一致し、次の点で相違するものと認められる。
[相違点A]
本願補正発明では、「スプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設し」、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成するとともに、各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを前記次段側の補助ディスクを介して着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし」、前記出力端に着脱自在に連結する駆動側ディスクを「一段目」の駆動側ディスクとし、前記入力端に着脱自在に連結した従動側ディスクを「最終段」の従動側ディスクとしたのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、スプリング式弾性軸継手を複数段並設したものでなく、したがって上記したその他の構成も備えていない点
[相違点B]
本願補正発明では、「空所とともに、前記各段の駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間に粘性流体を導」いたのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、空所とともに、駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間に粘性流体を導いたか否か不明な点

(2-1-2)次に、上記各相違点について検討する。
(2-1-2-1)相違点Aについて
上記刊行物2には、上述とおり、環状の二つ側板と、両側板間に配置された環状の円板と、前記側板と円板との円周方向相対変位により伸縮する圧縮コイルスプリングを備えた「入力側の捩りユニットA」と「出力側の捩りユニットB」とを「回転軸線方向に並設し」、「入力側の捩りユニットA」の「円板51」は外周部に「出力側の捩りユニットB」へ延びるアーム87を一体に有しており、アーム87の先端部が「出力側の捩りユニットB」の「側板73」にボルト90により固定されて「タンデム構造の連結様態」となした「ダンパーデイスク」が記載され、この「ダンパーデイスク」も、「スプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設し」た「回転軸の弾性軸継手」であって、前段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを着脱自在に連結して「タンデム構造の連結様態となした」ものと認められる。
刊行物2に記載された上記「ダンパーデイスク」に係る事項は、上記刊行物1に記載された発明と共通する「スプリング式弾性軸継手」を設けた「回転軸の弾性軸継手」に係るものであるから、上記刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された上記事項を適用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、上記刊行物1に記載された発明において、「スプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設し」、「タンデム構造の連結様態」となし、前記出力端に着脱自在に連結する駆動側ディスクを「一段目」の駆動側ディスクとし、前記入力端に着脱自在に連結した従動側ディスクを「最終段」の従動側ディスクとすることは、刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。
また、上記刊行物2には、上記〔く〕の記載のとおり、「入力側の捩りユニットAと出力側の捩りユニットBが概ね同一構造である」ことが記載されており、刊行物2の第1図から、「側板53」と「側板73」、「側板54」と「側板74」とを、それぞれ同一部材に構成し得ることが明白と認められ、更に、「入力側の捩りユニットA」と「出力側の捩りユニットB」とをタンデム構造の連結様態となすための部分(アーム87)をもつ部材(環状の円板51)が、この部分をもたない捩りユニット(出力側の捩りユニットB)の部材(環状の円板71)とで相違する構成をもつことが認識できる。
そして、部品を同一構造として共通化を図ることは、一般に極めて周知の技術課題であるから、刊行物1に記載された発明の「回転軸の弾性軸継手」においてその「スプリング式弾性軸継手」を回転軸線方向に複数段並設し、タンデム構造の連結様態となすに際して、「スプリング式弾性軸継手」を構成する部材のうち、タンデム構造の連結をなすための部分をどの部材に形成するか、各段を通じて共通化する部材をどの部材とするかを、入力軸及び出力軸との関係も含めて考慮することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成するとともに、各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを前記次段側の補助ディスクを介して着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となした構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとするのが相当である。

(2-1-2-2)相違点Bについて
スプリングが収納された空所とともに、駆動側のディスクと従動側のディスクとの隙間に粘性流体を導いたスプリング式弾性軸継手は、本願出願前周知のものと認められる(例えば、特開平7-27145号公報、特開平6-137380号公報、実願平1-100976号(実開平3-39643号)のマイクロフィルム、等参照)。
したがって、上記刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された事項を適用して、「スプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設」したものに対して、上記本願出願前周知の事項を適用して、「空所とともに、前記各段の駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間に粘性流体を導」いた構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとするのが相当である。

(2-2)上記「2-1.特許法第36条第6項第1号の要件について」において説示のとおり、本願補正発明の「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成する」との事項、「各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを前記次段側の補助ディスクを介して着脱自在に連結して」との事項は、発明の詳細な説明に記載されていないので、発明の詳細な説明に加えて図面を参照したうえで、本項(2-2)では、本願補正発明の上記事項を、それぞれ、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと補助ディスクとを同一部材で構成する」、「各段の従動側ディスクと次段の補助ディスクとを前記次段側の駆動側ディスクを介して着脱自在に連結して」の誤記と認め、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと補助ディスクとを同一部材で構成する」を、「複数段に並設した各段の従動側ディス同士を同一部材で構成すると共に、複数段に並設した各段の補助ディスク同士も同一部材で構成する」と解釈して、本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比する。
(2-2-1)本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、上記相違点B及び次の相違点Cで相違し、他に相違点は認められない。
[相違点C]
本願補正発明では、「スプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設し」、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと補助ディスクとを同一部材で構成するとともに、各段の従動側ディスクと次段の補助ディスクとを前記次段側の駆動側ディスクを介して着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし」、前記出力端に着脱自在に連結する駆動側ディスクを「一段目」の駆動側ディスクとし、前記入力端に着脱自在に連結した従動側ディスクを「最終段」の従動側ディスクとしたのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、スプリング式弾性軸継手を複数段並設したものでなく、したがって上記したその他の構成も備えていない点
そして、上記相違点Cについて検討しても、上記「(2-1-2-1)相違点Aについて」に説示の理由と同様の理由により、上記刊行物1に記載された発明において、「スプリング式弾性軸継手を回転軸線方向に複数段並設し」て、「タンデム構造の連結様態」となし、前記出力端に着脱自在に連結する駆動側ディスクを「一段目」の駆動側ディスクとし、前記入力端に着脱自在に連結した従動側ディスクを「最終段」の従動側ディスクとすることは、刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。
また、「前記複数段に並設した各段の従動側ディスクと補助ディスクとを同一部材で構成するとともに、各段の従動側ディスクと次段の補助ディスクとを前記次段側の駆動側ディスクを介して着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし」た構成とすることも、上記「(2-1-2-1)相違点Aについて」に説示の理由と同様の理由により、上記刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(2-3)審判請求人の主張について
(2-3-1)審判請求人は、請求書の補正書において、引用文献2(上記刊行物2)は、「従動側ディスク(側板73)と駆動側ディスク(円板51)とを直接連結している構造であって各段の従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成して単体毎の組立を可能にしていない。」、「従動側ディスク(側板73)と駆動側ディスク(円板51)とを直接連結している構造にさせて単にスプリング式弾性継手が直列の連結様態となしているのであってディスク同士が補助ディスクを介して連結してなるものではない。このような構造では補助ディスク板のみを異ならせることで2段、3段の連結が可能となるという本発明の効果は達成できない。」旨主張している。
(2-3-2)上記「(2-1-2-1)相違点Aについて」において記載したとおり、部品を同一構造として共通化を図ることは、一般に極めて周知の技術課題であるから、刊行物1に記載された発明の「回転軸の弾性軸継手」においてその「スプリング式弾性軸継手」をタンデム構造の連結様態となすに際して、「スプリング式弾性軸継手」を構成する部材のうち、タンデム構造の連結をなすための部分をどの部材に形成するか、各段を通じて共通化する部材をどの部材とするかを考慮することは、当業者が容易に想到し得ることであって、従動側ディスクと駆動側ディスクとを同一部材で構成したことは、当業者が容易に想到し得たことである。
刊行物2に記載されたダンパーディスクでは、第1図を参照すると、「入力側の捩りユニットA」は、その「側板53」が「ボルト52」によって「フライホイールF」に連結され、「出力側の捩りユニットB」はその「側板73」が「ボルト90」によって前段の「入力側の捩りユニットA」の「円板51」と一体の「アーム87」に連結されており、「入力側の捩りユニットA」及び「出力側の捩りユニットB」毎に組立は可能なものと認められる。
刊行物2に記載されたダンパーディスクでは、「入力側の捩りユニットA」がタンデム構造の連結様態となすための部分(アーム87)をもつ部材(環状の円板51)をもち、「入力側の捩りユニットA」を回転軸線方向に2段、3段複数段併設し、最終段をタンデム構造の連結様態となすための部分(アーム87)をもたない「出力側の捩りユニットB」とし得ることは、第1図から当業者が容易に認識し得ることである。このような連結態様を、上記刊行物1に記載されたものにおいて具体化することが困難とはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、先に説示の認定及び判断を覆す理由とはならない。

(2-4)このように、本願補正発明は、その発明を特定するために必要と認める事項が、上記刊行物1、2に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、作用効果も、上記刊行物1、2に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。
したがって、本願補正発明は、上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件に適合しないものであり、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【三】本願発明について
1.本願発明
平成16年10月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年5月21日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 駆動側ディスクと従動側ディスクとにより区画形成され、両ディスクの円周方向に沿って複数個設けられた空所内に、前記駆動側ディスクと従動側ディスクの円周方向相対変位により伸縮するスプリングと該スプリングの両端を支持するばね受とを有するスプリング機構を収納して構成されたスプリング式弾性軸継手を回転の軸線方向に複数段並設し、
各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし、前記一段目及び二段目スプリングが収納された空所ととともに、前記各段の駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間にも粘性流体を導き、
一段目の駆動側ディスクはエンジン等の駆動機械の出力端に着脱自在に連結するとともに、最終段の従動側ディスクはプロペラ軸、発電機の回転軸等の被駆動機械回転軸の入力端に着脱自在に連結したことを特徴とする回転軸の弾性軸継手。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である前記「特開平7-224850号公報」(以下、「刊行物1」という。)、「実願昭61-67251号(実開昭62-30041号)のマイクロフィルム」(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ、前記「【二】平成16年10月28日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「(1)引用例」に記載したとおりの事項が記載されているものと認める。

3.対比・判断
(1)本願発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「駆動側ディスクと従動側ディスクとにより区画形成され、両ディスクの円周方向に沿って複数個設けられた空所内に、前記駆動側ディスクと従動側ディスクの円周方向相対変位により伸縮するスプリングと該スプリングの両端を支持するばね受とを有するスプリング機構を収納して構成されたスプリング式弾性軸継手を設け、
1つの駆動側ディスクはエンジン等の駆動機械の出力端に着脱自在に連結するとともに、1つの従動側ディスクはプロペラ軸、発電機の回転軸等の被駆動機械回転軸の入力端に着脱自在に連結した回転軸の弾性軸継手」
で一致し、次の点で相違するものと認められる。
[相違点D]
本願発明では「スプリング式弾性軸継手を回転の軸線方向に複数段並設し」、「各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし」、前記出力端に着脱自在に連結する駆動側ディスクを「一段目」の駆動側ディスクとし、前記入力端に着脱自在に連結した従動側ディスクを「最終段」の従動側ディスクとしたのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、スプリング式弾性軸継手を複数段並設したものでなく、したがって上記したその他の構成も備えていない点
[相違点E]
本願発明は、「前記一段目及び二段目スプリングが収納された空所ととともに、前記各段の駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間にも粘性流体を導」いたのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、スプリングが収納された空所とともに、駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間に粘性流体を導いたか否か不明な点

(2)次に、上記各相違点について検討する。
(2-1)相違点Dについて
上記刊行物2には、上述とおり、環状の二つ側板と、両側板間に配置された環状の円板と、前記側板と円板との円周方向相対変位により伸縮する圧縮コイルスプリングを備えた「入力側の捩りユニットA」と「出力側の捩りユニットB」とを「回転の軸線方向に並設し」、「入力側の捩りユニットA」の「円板51」は外周部に「出力側の捩りユニットB」へ延びるアーム87を一体に有しており、アーム87の先端部が「出力側の捩りユニットB」の「側板73」にボルト90により固定されて「タンデム構造の連結様態」となした「ダンパーデイスク」が記載され、この「ダンパーデイスク」も、「スプリング式弾性軸継手を回転の軸線方向に複数段並設し」た「回転軸の弾性軸継手」であって、前段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを着脱自在に連結して「タンデム構造の連結様態となした」ものと認められる。
刊行物2に記載された上記「ダンパーデイスク」に係る事項は、上記刊行物1に記載された発明と共通する「回転軸の弾性軸継手」に係るものであるから、上記刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された上記事項を適用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、上記刊行物1に記載された発明において、「スプリング式弾性軸継手を回転の軸線方向に複数段並設し」、「各段の従動側ディスクと次段の駆動側ディスクとを着脱自在に連結してタンデム構造の連結様態となし」、前記出力端に着脱自在に連結する駆動側ディスクを「一段目」の駆動側ディスクとし、前記入力端に着脱自在に連結した従動側ディスクを「最終段」の従動側ディスクとすることは、刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。
(2-2)相違点Eについて
スプリングが収納された空所とともに、駆動側のディスクと従動側のディスクとの隙間に粘性流体を導いたスプリング式弾性軸継手は、本願出願前周知のものと認められる(例えば、特開平7-27145号公報、特開平6-137380号公報、実願平1-100976号(実開平3-39643号)のマイクロフィルム、等参照)。
したがって、上記刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された事項を適用して、「スプリング式弾性軸継手を回転の軸線方向に複数段並設」したものに対して、上記本願出願前周知の事項を適用して、「一段目及び二段目スプリングが収納された空所とともに、前記各段の駆動側ディスク及び補助ディスクと従動側ディスクとの隙間に粘性流体を導」いた構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとするのが相当である。

(3)このように、本願発明は、その発明を特定するために必要と認める事項が、上記刊行物1、2に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、作用効果も、上記刊行物に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-10 
結審通知日 2007-01-19 
審決日 2007-01-30 
出願番号 特願平9-151544
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中屋 裕一郎  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 常盤 務
大町 真義
発明の名称 回転軸の弾性軸継手  
代理人 長屋 二郎  
代理人 高橋 昌久  
代理人 長屋 二郎  
代理人 高橋 昌久  

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