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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200480150 審決 特許
異議200171713 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特38条共同出願  A01G
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  A01G
管理番号 1154832
審判番号 無効2004-80189  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-18 
確定日 2007-04-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第3509736号生理機能活性を有するハナビラタケの菌床作製方法の特許無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 無効2004-80150 特許第3509736号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 無効2004-80189 特許第3509736号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。  
理由 第1 手続の経緯
出願 平成12年10月26日
特許査定 平成15年12月2日
設定登録 平成16年1月9日
審判請求(無効2004-80150) 平成16年9月13日
審判請求(無効2004-80189) 平成16年10月18日
答弁書(無効2004-80150) 平成16年12月20日
答弁書(無効2004-80189) 平成17年1月4日
当事者尋問申立書(無効2004-80189)平成17年5月30日
証拠差出書(請求人:無効2004-80150)平成17年6月2日
証拠差出書(請求人:無効2004-80189)平成17年6月2日
口頭審理陳述要領書(請求人:無効2004-80150)
平成17年6月28日
口頭審理陳述要領書、上申書(請求人:無効2004-80189)
平成17年6月28日
口頭審理陳述要領書(被請求人:無効2004-80189)
平成17年6月28日
併合審理通知、口頭審理(併合) 平成17年6月28日
当事者尋問(無効2004-80189) 平成17年6月28日
口頭審理調書(併合) 平成17年6月28日
審理終結通知(併合) 平成17年6月28日

第2 本件特許の請求項に係る発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 大鋸屑を主成分とする培地に、該培地対して高温水蒸気処理および水洗を行なうことなく、ハナビラタケMH-3(受託番号FERM P-17221)を接種することを特徴とするハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法。
【請求項2】 菌床容器としてプラスチック製容器を用いることを特徴とする、請求項1に記載のハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法。
【請求項3】 前記培地が小麦粉を5?10%含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法。
【請求項4】 前記培地が粉末蜂蜜を含有することを特徴とする、請求項1?3の何れか1項に記載のハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法。」

第3 無効2004-80150(以下「請求1」という)に係る当事者の求めた審判
1.請求人の求めた審判
請求人ユニチカ株式会社及び福島隆一は、以下に示す理由を挙げ、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を無効とし、審判費用を被請求人の負担とすることを求め、証拠方法として甲第1?15号証を提出し、口頭審理陳述要領書と共に参考資料1?7を提出した。
(1)無効理由1
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、または、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件の請求項1ないし4に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当する。
(2)無効理由2
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第5号証ないし甲第6号証により本件出願前に公然知られた発明もしくは公然実施された発明であるか、またはそれらの発明に基づいて、その発明の属する分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第1号もしくは第2号に該当し、または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件の請求項1ないし4に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当する。

[証拠方法]
甲第1号証:月刊誌「リーダーシップ」,第48巻第5号(日本学校農業クラブ連盟事務局,平成10年5月1日発行)
甲第2号証:きのこの科学,VOL.1NO.1(きのこ技術集談会,平成6年10月30日発行)
甲第3号証:特開平11一56098号公報(平成11年3月2日公開)
甲第4号証の1の1:ユニチカ株式会社中央研究所開発1グループ、大江健一氏によるRAPD解析の実験成績証明書(甲第4号証の1の2)についての九州大学大学院農学研究院森林資源科学部門助教授大賀祥治氏による鑑定書(写し)
甲第4号証の1の2:ユニチカ株式会社中央研究所開発1グループ、大江健一氏によるRAPD解析の実験成績証明書実験証明書(写し)
甲第4号証の2:平成14年8月12日付、福島隆一からユニチカ株式会社の鈍宝宗彦への菌株譲渡の確認証(写し)
甲第4号証の3:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターへのハナビラタケ菌株MH-3の分譲請求書及び受領確認書(写し)
甲第4号証の4:Rep.Tottori Myco1.Inst.No.37、36-49頁、1999年発行
甲第4号証の5:園芸学会雑誌69 No.6、758-763頁、2000年発行
甲第4号証の6:ユニチカ株式会社中央研究所開発1グループ、大江健一氏による対時培養の実験成績証明書(写し)
甲第5号証の1:第48回日本学校農業クラブ全国大会実施要綱
甲第5号証の2:第48回日本学校農業クラブ全国大会、埼玉県立熊谷農業高等学校発表配布資料(平成9年10月22日・23日)
甲第5号証の3:第48回日本学校農業クラブ全国大会において発表会場で閲覧に供された活動記録資料(写し)(埼玉県立熊谷農業高等学校科学部部員作製、完成日;平成9年9月17日)
甲第5号証の4の1(1)?(5):平成9年度の科学部部員に対する質問状への回答書(写し)
甲第5号証の4の2(1)?(5):平成9年度の科学部部員に対する証明願への回答書(写し)
甲第5号証の5:平成16年8月16日付、元埼玉県立熊谷農業高等学校農場長大澤重夫氏の証明願への回答書(写し)
甲第5号証の6の1:平成16年8月25日付、元埼玉県立熊谷農業高等学校長松本重男氏の証明願への回答書(写し)
甲第5号証の6の2:平成16年9月6日付、元埼玉県立熊谷農業高等学校校長松本重男氏陳述書(写し)
甲第5号証の7:第四十八回日本学校農業クラブ全国大会、記録簿展会場写真(平成9年10月22日、田村祐一氏撮影、鳥取市文化ホール)(写し)
甲第5号証の8の1?6:平成9年当時の科学部部員の父兄に対する証明願への回答書(写し)
甲第6号証の1:第四十七回日本学校農業クラブ全国大会発表要綱
甲第6号証の2:第四十七回日本学校農業クラブ全国大会、埼玉県立熊谷農業高等学校発表配布資料
甲第6号証の3:第四十七回日本学校農業クラブ全国大会において発表会場で閲覧に供された活動記録資料抜粋(写し)(埼玉県立熊谷農業高等学校科学部部員作製、完成日:平成8年8月10日)
甲第7号証:平成16年9月6日付、福島隆一の陳述書(写し)
甲第8号証の1:平成10年度科学技術振興事業団への独創的研究育成事業の採択決定企業の一覧
甲第8号証の2:株式会社ミナヘルスの同申請資料下書き((株)ミナヘルスの中島三夫氏から福島隆一への同申請に当たっての記入依頼)(写し)
甲第8号証の3:平成10年7月8日付けの同申請書類の控え(写し)
甲第9号証:「菌類研究法」共立出版株式会社 昭和59年5月10日発行
甲第10号証:本件特許の出願経過を示す書類一式
甲第11号証:NCIMB Japanの作成したRAPD解析報告書
甲第12号証:同社の作成した対峙培養試験解析報告書
甲第13号証の1:ユニチカ株式会社から独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターへのハナビラタケ(受託番号FERMP-17221)菌株の分譲依頼書
甲第13号証の2:同菌株の分譲請求書
甲第13号証の3:同菌株の分譲試料送付先
甲第14号証:NCIMB Japanから独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターへの分譲微生物受領書
甲第15号証:NCIMB Japanの会社案内

参考資料1:ミツワ興業株式会社が福島隆一から平成12年6月16日に菌株No.583の分譲を受けたことを示す証明書
参考資料2:「特許微生物寄託Q&A」社団法人発明協会 平成5年3月1日発行
参考資料3:工業技術院生命工学技術研究所が平成11年2月17日にハナビラタケ(茸)MH-3を受領したことを示す受領証及び菌株の生存に関する証明書(写し)
参考資料4:「生物化学事典」第4版 株式会社岩波書店1996年3月21日発行、991頁「同定」の項
参考資料5:株式会社ミナヘルスのホームページ「I・ハナビラタケの注目度/ハナビラタケの歴史」に掲載されているハナビラタケMH-3の成分分析
参考資料6:株式会社ミナヘルスのホームページ「[コラム]ハナビラタケMH-3製品の安定化を目指して」
参考資料7:日本食品分析センターによるハナビラタケの5つの菌株についてのβ-グルカンの分析試験成績表及び分析試験成績表の分析結果の一覧表

2.被請求人の主張
被請求人中島三博は、概略次のように主張し、審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めた。
(1)本件の請求項1ないし4に係る発明の菌株MH-3は、培地を高温水蒸気処理および水洗を行なわない栽培方法によっても栽培が可能であり、抗腫瘍効果に優れるβ-1,3-Dグルカンを多量に含有する作用効果を奏するものであり、ポリエチレン容器での栽培が可能で、MH-3菌の使用により大型自動機械の使用が可能な大量栽培が可能となったものであるが、甲第1号証ないし甲第3号証、又は甲第5号証ないし甲第6号証には、このような技術的意義は記載も示唆もない。
(2)無効理由1について、本件特許発明に係るハナビラタケMH-3(受託番号FERM P-17221)と甲第1号証ないし甲第2号証に示されている菌株No.583と称される菌株が同一であることを示す証拠は存在せず、ハナビラタケ菌株MH-3が本件出願前に公知であったことを示す証拠は存在しないから、本件の請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではない。
また、甲第1、3号証には、オガクズを加熱しない実験が行われているが、加熱しないものは栽培法として適切でないことが示され、上記(1)に示す本件特許発明の技術的意義については記載も示唆もないから、本件の請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到しうるものではない。
(3)無効理由2について、本件特許発明に係るハナビラタケMH-3(受託番号FERM P-17221)と甲第5号証ないし甲第6号証に示されている菌株No.583と称される菌株が同一であることを示す証拠は存在せず、ハナビラタケ菌株MH-3が本件出願前に公知であったことを示す証拠は存在しないから、本件の請求項1ないし4に係る発明は甲第5号証又は甲第6号証により本件出願前に公然知られた発明もしくは公然実施された発明ではない。
また、甲第5、6号証にはオガクズを加熱しない実験が記載されているが、比較例として示されたものであり、上記(1)に示す本件特許発明の技術的意義については記載も示唆もないから、本件の請求項1ないし4に係る発明は甲第5号証ないし甲第6号証により知られた発明に基いて当業者が容易に想到しうるものではない。

第4 無効2004-80150についての当審の判断
[無効理由2について]
1.証拠方法に記載された事項
[1]甲第5号証の3は、本件出願前の平成9年10月22、23日に開催された第48回日本学校農業クラブ全国大会において公開された、埼玉県立熊谷農業高等学校のきのこ研究班の平成9年度の活動記録に関するものであり、次の事項が記載されている。
(1)平成3年度から、ハナビラタケの人工栽培の研究をしており、平成6年度からオガクズによる人工栽培実験を行っている(21?28頁)。
(2)埼玉県立熊谷農業高等学校に保存されているハナビラタケの菌株には、次のものが含まれ、No583の種菌は、菌糸の成長や子実体の劣化や子実体形成の劣化が認められず、菌糸成長速度が他の種菌を上回る場合も見られるため、実験3以降の種菌は、No583を使うこととした(29?30頁)。
菌株No.162(採取場所埼玉県十文字峠)
583(同新潟県十日町)
3776(同埼玉県十文字峠)
3777(同北海道藻岩山(札幌))
3779(同北海道藻岩山(札幌))。
(3)実験に使用した「F培地」とは、福島隆一がコチョウラン用の培地の中に、菌糸の成長に有効なものを発見し、その培地に改良を加え実験を試みて見いだしたもので、その成分は次のとおりである(31頁)。
ペプトン 1.0g
エビオス 3.0g
塩化カルシウム 0.5g
ハイポネックス 0.5ml
バナナ 40.0g
ハチミツ 30.0g
粉末寒天 20.0g
水 1000ml
(4)平成8年12月から平成9年6月にかけて行った「予備実験」では、オガクズを詰めたびんによるハナビラタケ菌床栽培の基礎実験を行った(42?205頁)。該実験の内容は次のとおりであった。
(4a)ハナビラタケ菌株は、No.3776、3777、3779を使用した(46頁)、
(4b)培地は、カラマツのオガクズに「F培地」、「1/2F培地」、「1/3F培地」と小麦粉0、5、10、15、20%を組み合わせて添加した(44-2、46頁)、
(4c)培地の水分を調整して900ccのビンに詰め、110℃で70分間滅菌した(44-2)、
(4d)平成8年12月22日に上記の菌を植え、30日ないし55日栽培したところ、平均46.1日で菌糸が蔓延した(44?61頁、203頁)。
(4e)「F培地」+小麦粉5%、「F培地」+小麦粉10%、「F培地」+小麦粉15%、「1/2F培地」+小麦粉10%、「1/2F培地」+小麦粉15%、「1/3F培地」+小麦粉5%、「1/3F培地」+小麦粉10%を添加したオガクズ培地で培養し、子実体が形成された菌床は、びんの蓋をあけ、5月4日にびんごと赤玉土に伏せ込み、6月16日にハナビラタケを収穫したが、ハナビラタケはほぼ成長を終了したようであり、平均収量は、菌株No.3776では平均82.3g、菌株No.3779では平均92.1gであった(64?202頁)。平成9年5月4日?6月27日の栽培期間の収量は、培地及び個体により差異があり、菌株No.3776では約48?120g、菌株No.3779では70?187.6gであった(63頁)。
(4f)「これまでの研究により、900ccにカラマツのオガクズに小麦粉15?20%入れて、オガクズ種菌を接種した場合、培養温度が25℃前後であれば約35日?40日程で菌糸が満延する。」(203頁)、「ハナビラタケの成長は、約1ヶ月かかる。これまでの原木栽培や実験3の成長速度などを考え合わせると、発生操作(伏せ込み)をしてから約1カ月で立派なハナビラタケに成長することが分かった。」(204頁)。204頁には、1997年6月7日及び6月16日付けの写真が記載され、ビンの開口部に形成された成長したハナビラタケが示されている。
(4g)栽培室の湿度をコントロールすれば、赤玉土に伏せ込む必要はなく、棚の上でも成長することが分かった(205頁)。
(5)平成9年に行った「実験2」では、オガクズブロックによるハナビラタケ菌床栽培を行った(357?378頁)。該実験の内容は、次のとおりであった。
(5a)ハナビラタケ菌株は、No.3776、3777、583を使用した(361?362頁)。
(5b)No.3777の培地は、カラマツのオガクズと小麦粉を5:1(小麦粉20%)の割合で混合し、さらに「F培地」、「1/2F培地」又は「1/3F培地」を添加した(359、361頁)。
(5c)培地の水分を調整してフィルム製の栽培袋に詰め、118℃で2時間滅菌した、袋が破裂したものについては2度滅菌したが、2度滅菌したものの方が菌糸の成長が著しく良好であった(377頁)。
(5d)オガクズブロックに植菌し3ヶ月経って、子実体原基が大きくなったものは袋の上部を切り取り、ブロックごと赤玉土に伏せ込んだが(368頁)、カビが発生し成長が止まった(378頁)。
(6)平成9年に行った「実験3」では、ハナビラタケのきのこを早く出すための比較実験を行った(398?418頁)。該実験の内容は、次のとおりであった。
(6a)F培地は溶液としてではなく、固形成分(粉末)をオガクズ培地に直接添加した(399頁)。
(6b)培地にはカラマツのオガクズを使用し、無加熱(煮ない)のオガクズに「F培地」を多く添加した実験区(多く添加した区と普通区)、煮たオガクズに「F培地」を添加した実験区(多く添加した区と普通区)、無加熱(煮ない)のオガクズに「F培地」と小麦粉10%を添加した実験区、煮たオガクズに「F培地」と小麦粉10%を添加した実験区、無加熱のカラマツのオガクズに「1/2F培地」と小麦粉10%を添加した実験区、煮たオガクズに「1/2F培地」と小麦粉10%を添加した実験区を設けた(399頁、416頁)。
(6c)煮たオガクズとは100℃で60分間煮た後煮汁を捨てる作業を、3回繰り返したオガクズである(416頁)。
(6d)ビンに培地を詰め115℃で70分滅菌し、菌(No.583)を植えて培養した。その経過及び結果が408?416頁に示され、無加熱オガクズに「F培地を多く」添加したものは、菌糸の成長が遅く45.2日で菌糸が満延し、子実体原基は小型であった。無加熱オガクズに「F培地」を添加したものは30.9日で菌糸が満延したが、子実体原基の成長が悪かった。無加熱オガクズに「F培地」と小麦粉10%を添加したものは、40.6日で菌糸が満延し、菌糸の成長は早く、子実体原基の形成率がよかった。無加熱のオガクズに「1/2F培地」と小麦粉10%を添加したものは、41.0日で菌糸が満延し、菌糸の成長が遅く、子実体原基は形成されたが、成長が遅かった(なお、416頁の表には「小麦粉20%を添加」と記載されているが、399、408、409頁の記載から「小麦10%を添加」の誤記と認めた。)。煮たオガクズに「F培地」と小麦粉10%を添加したものは、37.4日で菌糸が満延し、菌糸の成長速度は速く菌層が厚く、子実体原基の形成はよいが成長にバラツキがあった。煮たオガクズに「1/2F培地」と小麦粉10%を添加したものは、子実体形成率が極度に良く、菌糸の成長が良好で、菌糸が廻りきらないうちに子実体原基が盛り上がって成長した。(408?416頁)。
(6e)実験3によりわかったこととして、「わずかの差であるが、オガクズを煮た培地の方が菌糸の成長が良く、子実体が速くでる。」、「煮たオガクズに1/2F培地と小麦粉10%を添加した培地は子実体形成が非常に良く、その後の追跡実験で、1ヶ月で菌糸がまわり、まわり切った時には子実体原基が大きく成長し、フタをあけてから1ヶ月できのこが大きく成長し2ヶ月で収穫できた。」(417頁)
(6f)今後の課題として、「ハナビラタケのオガクズ栽培をさらに進める。・プラスチック培養ビン(ブロービン)を利用した、オガクズ大量栽培」

以上のことから、甲第5号証の3に記載された次の事項は、本件出願前に開催された第48回日本学校農業クラブ全国大会において公開されたことにより、本件出願前に公然と知られたものと認める。
「培養容器としてガラスビンを用い、加熱処理を行なわないカラマツのオガクズを主成分とし、小麦粉を5?20%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し、ハナビラタケ菌株No.3776、3777、3779を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を形成させ、その後ビンの蓋を取り外してハナビラタケ子実体を成長させるハナビラタケの菌床栽培方法。」(以下「公知事項1」という。)
「培養容器としてプラスチック製栽培袋を用い、加熱処理を行なわないオガクズを主成分とし、小麦粉20%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し、ハナビラタケ菌株No.3777、583を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を形成させるハナビラタケの菌床栽培方法」(以下「公知事項2」という。)
「培養容器としてガラスビンを用い、加熱しないオガクズを主成分とし、小麦粉を10%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し、ハナビラタケ菌株No.583を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を形成させるハナビラタケの菌床栽培方法。」(以下「公知事項3」という。)

[2]甲第9号証には、食用キノコの子実体生産に関して記載され、
(7)鋸屑による生産における培地の調整について、「栽培容器によって箱栽培・・・,ビン栽培(800?1000ml容量のPPビン使用)および袋栽培(培地重量500g,1kg,2kg入りなど大きさは各種ある。耐熱ビニール製の袋)の三つに分けられている。」(316頁右欄5?10行)、
(8)培養について、「箱栽培や袋栽培は雑菌が混入しやすい栽培法であるから培養中はとくにこの点に注意しなければならかい。」(317頁左欄5?10行)、「ビン栽培の場合は温・湿度を調節できる栽培舎内で管理するので,雑菌の混入も少なく,菌糸も順調にまんえんさせることができる。」(317頁左欄23?25行)、と記載されている。

2.無効理由2についての対比、判断
(1)請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明における「培地に対して高温水蒸気処理及び水洗を行なうことなく」とは、特許明細書の段落【0005】に記載されているような「大鋸屑を、予め120?121℃、圧力2気圧程度の高温水蒸気にさらした後、水洗する処理」を行なわないことを意味しており、特許明細書の段落【0023】に記載されているような通常行われる蒸気滅菌処理を行なわないことまでも意味するものではない。
そうすると、公知事項1ないし3にはいずれも、「オガクズを主成分とする培地に、該培地対して高温水蒸気処理および水洗を行なうことなく、ハナビラタケを接種するハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法」の発明(以下、「公知発明」という。)が示されているから、請求項1に係る発明と公知発明を対比すると、両者は、以下の点でのみ相違する。
相違点1:請求項1に係る発明では、菌株として「ハナビラタケMH-3(受託番号FERM P-17221)」(以下、「MH-3」という。)を接種するのに対し、公知発明で、具体的に使用された菌株は、埼玉県立熊谷農業高校で保管されている菌株No.3776、3777、3779、583である点。

上記相違点について検討する。
甲第7号証、甲第8号証の3には、埼玉県立熊谷農業高校で保管されている菌株No.3776(採取地十文字峠)、No.3777(同北海道)、No.583(同十日町)が株式会社ミナヘルスに分譲されたことが示され、さらに参考資料1には同菌株No.583が、本件出願前の平成12年6月16日にミツワ興業に分譲されたことが示されており、埼玉県立熊谷農業高校で保管されているハナビラタケ菌株No.3776、No.3777、No.583は、本件出願前当業者が容易に入手することができたものである。
そこで、上記の本件出願前に公然と知られ、当業者が容易に入手することができたハナビラタケ菌株と菌株MH-3との特性の差異について検討する。
本件特許明細書には、菌株MH-3は次のような作用効果を奏する特性を有するものであることが記載されている。
特性1:阻害物質除去操作を必要とせずに、ハナビラタケを順調に生育せしめることができる(段落【0015】、【0033】)。
特性2:ポリエチレン容器を使用できる(段落【0015】、【0036】)。
特性3:β-1,3-Dグルカンを多量に含有する(段落【0024】)。

ア.特性1についてみると、上記公知事項1ないし3は、ハナビラタケの菌株No.3776、3777、3779、583がいずれも「高温高圧処理及び水洗処理」あるいは煮沸処理等の生育阻害物質除去操作をすることのない培地に接種して生育させ収穫することができることを示しており、阻害物質除去操作を必要とせずに生育することは、菌株MH-3の特有の性質とはいえない。
生育期間についてみると、本件特許明細書には、培地の種類によって生育期間や収穫量は異なることが示され、温度20℃で栽培したところ、小麦粉を含まない培地Aでは菌糸接種から原基発生までの期間は2ヶ月、子実体発生から収穫までの期間は1ヶ月収穫時の重量は50.5g/株であり、小麦粉を含む培地Bでは菌糸接種から原基発生までの期間は1ヶ月、子実体発生から収穫までの期間は1ヶ月収穫時の重量は100.5g/株であったことが示されている。一方、甲第5号証の3の実験3では、菌株No583は、煮たオガクズに小麦粉10%と1/2F培地を添加した培地に接種し25℃で培養したところ、1ヶ月で子実体が形成され、その後1ヶ月(合計2ヶ月)で収穫できること、煮ないオガクズを使用したときは40.6?41.0日で菌糸が蔓延し子実体が形成され、煮沸したオガクズよりも子実体の形成がわずか遅れる程度であること、ハナビラタケは子実体形成後は菌株、培地の種類にかかわらず約1ヶ月で収穫できることが記載され、菌株No.583を加熱しないオガクズに小麦粉及び蜂蜜を添加した培地に接種したときの生育期間は、子実体原基が形成するまでが40?41日、その後収穫までが1ヶ月の合計2ヶ月半程度であることが示されている。また、同実験3には、無加熱のオガクズにF培地を添加し小麦粉を加えない培地に接種し25℃で培養したところ、30?45日で子実体原基が形成されることが記載されている。そうすると、「高温高圧処理及び水洗処理を行わない」培地に接種したときの菌株MH-3の生育期間が、公知の菌株No.583に比べて格別早いと言うことはできない。
甲第5号証の3には、菌株No.583の収穫量について記載されていないが、甲第5号証の3の「予備実験」には、「高温高圧処理及び水洗処理」することのない培地で生育させたハナビラタケは培地により差異はあるが、平均収量は菌株No.3776は、平均82.3g、菌株No.3779は平均92.1gであったことが示されており、子実体原基の発生から1ヶ月で、1株あたり50?100gの収穫量が格別多いということもできない。
また、仮に菌株MH-3の生育期間が短く、収穫量が従来公知の菌株よりすぐれているとしても、キノコの栽培においては、同一の菌株であっても生育期間や収穫量にバラツキがあることは普通であって、生育期間の短いもの、収穫量の多いものを選抜し育種することは本件出願前周知の技術であるから、容易に入手可能な公知のハナビラタケ菌株を用いて、生育期間が短く、収穫量の多いものを選抜することは、当業者が容易になしうることである。

イ.特性2についてみると、甲第5号証の3には、菌株No.3777、583は、プラスチックフィルム製の栽培袋を使用した菌床で子実体が形成できることが記載されており(記載事項(2))、ポリエチレン容器で培養できることは明らかであって、特性2も、菌株MH-3の特有の効果ということはできない。
なお、甲第5号証の3の「実験2」では子実体形成後の伏せ込みで雑菌が混入したことが記載されているが、栽培袋を使用した菌床は雑菌が混入しやすいこと、培養ビンを使用し、温度湿度を管理した栽培室で培養すれば雑菌の混入が防止できることは甲第9号証に記載されているように周知であり、さらに甲第5号証の3には、今後の課題としてプラスチック培養ビンを利用した培養が示されており(記載事項(6f))、ハナビラタケの菌株が、ガラスビンを使用しなければ栽培できないものでないことは明らかである。

ウ.特性3についてみると、本件特許明細書には、培地の成分によりβ-1,3-Dグルカンの含有量は異なることが示されているので、1株あたりの収量が多いとされる培地Bを使用した場合についてみると、1株あたりのβ-1,3-Dグルカンの含有量は45.2gであり、1株あたりの収量は100.2gであるから、この含有量は100gあたり約45.0gに相当する。
甲第5号証の3には、ハナビラタケの含有するβ-1,3-Dグルカンの含有量については記載されていないが、請求人の提出した甲第8号証の3には、本件出願前の平成10年4月3日付けの日本食品分析センターによるハナビラタケの分析試験結果が示され、β-グルカンの含有量は43.6g/100gであることが示されている。β-1,3-Dグルカンは、ハナビラタケの含有するβ-グルカンであるから(特開2000-217543号公報(請求2の参考資料)参照)、日本食品分析センターによるβ-グルカンの含有量は実質的にβ-1,3-Dグルカンの含有量を示していると見ることができるので、両者を比較すると、菌株MH-3の含有するβ-1,3-Dグルカンの含有量は、日本食品分析センターにより分析された本件出願前に存在していたハナビラタケに比べて格別多いということはできない。

そうすると、ハナビラタケの菌株MH-3(受託番号FERM P-17221)の特性は公知のハナビラタケ菌株と同じか、公知のハナビラタケから容易に得ることができる程度のものであり、請求項1に係る発明は、特にハナビラタケの菌株MH-3を接種したことにより格別顕著な効果を奏するものとはいえず、請求項1に係る発明は、本件出願前に甲第5号証の3により公然と知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項2に係る発明について
本件の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明においてさらに、菌床容器としてプラスチック製容器を用いるものであるが、公知事項2は、菌床容器としてプラスチック製容器の一種であるプラスチック製栽培袋を用いることを示しており、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明と同様の理由により、本件出願前に甲第5号証の3により公然と知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、本件特許明細書の実施例においてはプラスチック製容器として、プラスチック瓶を使用しているが、菌床栽培においてプラスチック瓶を使用することは、甲第9号証に示されているように本件出願前周知である。

(3)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明においてさらに、培地が小麦粉を5?10%含有するものであるが、公知事項1、3は培地が小麦粉を5?10%含有するものであり、請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明と同様の理由により、本件出願前に甲第5号証の3により公然と知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3に係る発明においてさらに、培地が粉末蜂蜜を含有するものであるが、公知発明は培地が蜂蜜含有するものである。また、甲第5号証の3には、F培地を固形粉末としてオガクズに添加することが示され(記載事項(6a))、また、粉末蜂蜜は本件出願前周知であり(例えば特開昭55-77868号公報、特開昭59-85262号公報参照)、蜂蜜として粉末蜂蜜を使用することは当業者が適宜選択しうることである。
したがって、請求項4に係る発明は、本件出願前に甲第5号証の3により公然と知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.無効2004-80150の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するから、他の無効理由について検討するまでもなく、本件請求項1ないし4に係る特許は、無効とすべきものである。

第5 無効2004-80189(以下「請求2」という)に係る当事者の求めた審判
1.請求人の求めた審判
請求人ユニチカ株式会社及び福島隆一は、以下の理由により、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を無効とし、審判費用を被請求人の負担とすることを求め、証拠として甲第1?26号証を提出し、さらに、口頭弁論陳述要領書及び上申書とともに参考資料1ないし9を提出した。
無効理由3
本件特許は、本件発明の発明者でない者であって、その発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第6号に該当するか、少なくとも本件特許発明者の独自の発明でなく、特許法法第38条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

[証拠方法]
(書証)
甲第1号証:本件特許第3509736号公報
甲第1号証の1?9:本件特許の出願経過を示す書類一式
甲第2号証の1:平成10年5月20日付 株式会社ミナヘルスの中島三夫氏から福島先生宛て依頼状
甲第2号証の2(1?21):甲第2号証の1の依頼状に添付された「新技術コンセプト・モデル化課題申込書」の下書き(写し)
甲第2号証の3:科学技術振興事業団に提出された、平成10年7月8日付けの「新技術コンセプト・モデル化課題申込書」の控書類(写し)(請求1の甲第8号証の3の6頁目以降)
甲第3号証:科学技術振興事業団報、平成10年9月29日配布資料 「独創的研究育成事業」の採択決定企業の一覧(請求1の甲第8号証の1)
甲第4号証:特開平11-56098号公報(請求1の甲第3号証)
甲第5号証:平成16年9月6日付 福島隆一の陳述書(請求1の甲第7号証)
甲第6号証:平成16年9月6日付 元埼玉県立熊谷農業高等学校長松本重男氏陳述書(請求1の甲第5号証の6の2)
甲第7号証:第四十七回日本学校農業クラブ全国大会(47th FFJ全国大会 1996.10.2?3)実施要綱(抜粋)(請求1の甲第6号証の1)
甲第8号証:第四十七回日本学校農業クラブ全国大会における埼玉県立熊谷農業高等学校発表配布資料(請求1の甲第6号証の2)
甲第9号証:第四十七回日本学校農業クラブ全国大会の記録簿展で展示公開された、埼玉県立熊谷農業高等学校科学部の平成8年度活動記録(抜粋)
甲第10号証:第48回日本学校農業クラブ全国大会 鳥取大会(1997年10月22(水)、23日(木)) 実施要綱(抜粋)(請求1の甲第5号証の1)
甲第11号証:第48回日本学校農業クラブ全国大会において来場者に配布された埼玉県立熊谷農業高等学校発表配布資料(請求1の甲第5号証の2)
甲第12号証:第48回日本学校農業クラブ全国大会において審査資料とされ、同大会の記録簿展で展示公開された、埼玉県立熊谷農業高校の活動記録(写し)(請求1の甲第5号証の3)
甲第13号証:1997年10月25日 埼玉新聞の「熊谷高校に最優秀賞」との記事
甲第14号証:1998年4月11日 毎日新聞の「抗がんで脚光」との記事
甲第15号証の1:ユニチカ株式会社中央研究所開発1グループ、大江健一氏によるRAPD解析の実験成績証明書(甲第15号証の2)についての九州大学大学院農学研究院森林資源科学部門助教授大賀祥治氏による鑑定書(写し)(請求1の甲第4号証の1の1)
甲第15号証の2:ユニチカ株式会社中央研究所開発1グループ、大江健一氏によるRAPD解析の実験成績証明書(写し)(請求1の甲第4号証の1の2)
甲第16号証:ユニチカ株式会社中央研究所開発1グループ、大江健一氏による対峙培養の実験成績証明書(写し)(請求1の甲第4号証の6)
甲第17号証:平成14年8月12日付、福島隆一からユニチカ株式会社の鈍宝宗彦への菌株譲渡の確認証(写し)(請求1の甲第4号証の2)
甲第18号証の1:平成16年7月30日付、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターからユニチカ株式会社への分譲微生物(受託番号FERMP-17221)の送付状(写し)
甲第18号証の2:甲第18号証の1に添付されていた微生物条件記録書(写し)(甲第18号証の1、2は請求1の甲第4号証の3)
甲第19号証:Rep.Tottori Myco1.Inst.No.37、36-49頁、1999年発行(請求1の甲第4号証の4)
甲第20号証:園芸学会雑誌69 No.6、758-763頁、2000年発行(請求1の甲第4号証の5)
甲第21号証:「菌類研究法」共立出版株式会社 昭和59年5月10日発行(請求1の甲第9号証)
甲第22号証:NCIMB Japanの作成したRAPD解析報告書(請求1の甲第11号証)
甲第23号証:同社の作成した対峙培養試験解析報告書(請求1の甲第12号証)
甲第24号証の1:ユニチカ株式会社から独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターへのハナビラタケ(受託番号FERMP-17221)菌株の分譲依頼書(請求1の甲第13号証の1)
甲第24号証の2:同菌株分譲請求書(請求1の甲第13号証の2)
甲第24号証の3:同菌株の分譲試料送付先(請求1の甲第13号証の3)
甲第25号証:NCIMB Japanから独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターへの分譲微生物受領書(請求1の甲第14号証)
甲第26号証:NCIMB Japanの会社案内(請求1の甲第15号証)

参考資料1:「特許微生物寄託Q&A」社団法人発明協会 平成5年3月1日発行(請求1の参考資料2)
参考資料2:工業技術院生命工学技術研究所が平成11年2月17日にハナビラタケ(茸)MH-3を受領したことを示す受領証及び菌株の生存に関する証明書(写し)(請求1の参考資料3)
参考資料3:株式会社ミナヘルスのホームページ「I・ハナビラタケの注目度/ハナビラタケの歴史」に掲載されているハナビラタケMH-3の成分分析(請求1の参考資料5)
参考資料4:特開2000-217543号公報
参考資料5:日本食品分析センターによるハナビラタケの5つの菌株についてのβ-グルカンの分析試験成績表及び分析試験成績表の分析結果の一覧表(請求1の参考資料7)
参考資料6:平成11年3月8日熊谷農業高等学校での合同記者会見の写真
参考資料7の1、2:1998年12月19日「ハナビラタケ栽培機械」と記載された、株式会社ミナヘルスにおける写真
参考試料8の1、2:福島先生用「11.5.27(1:30?3:30)」と記載された、株式会社ミナヘルスにおける原木栽培の写真
参考資料9:平成10年6月30日付けの中島三夫から福島隆一宛の手紙(請求1の甲第8号証の3の2?4頁)

(証人)
氏名 福島隆一
住所 京都府宇治市宇治戸ノ内33 カーサ小桜511号

2.被請求人の主張
被請求人は、概略次のように主張し、審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めた。
(1)本件特許の請求項1ないし4に係る発明に係るハナビラタケMH-3(受託番号FERM P-17221)と本件請求人の一人である福島隆一が株式会社ミナヘルスに分譲したNo.583と称される菌株が同一であることを示す証拠は存在しない。
(2)本件発明の菌株MH-3は、培地を高温水蒸気処理および水洗を行なわない栽培方法によっても発育に悪影響を及ぼすことがなく、抗腫瘍効果に優れるβ-1,3-Dグルカンを多量に含有する作用効果を奏するものである
(3)福島隆一氏の指導の下に確立された栽培方法は、予め高温水蒸気処理および水洗を行うことを要旨とするものである。
(4)したがって、本件特許発明と本件請求人の一人である福島隆一氏が本件特許出願前に株式会社ミナヘルスに対して指導した発明とは全く別の発明である。

第6 無効2004-80189に係る当審の判断
1.証拠から認定できる事実
成立の争いのない書証及び真正に成立したものと認められる福島隆一の証言(以下、「証言」という。)によれば、次の事柄は、事実と認定することができる。
(1)本件特許出願は、平成12年10月26日になされた。
(2)本件特許出願では、発明者及び出願人は中島三博であるとされている。
(3)本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、平成16年1月9日に設定された。
(4)請求人の一人である福島隆一は、埼玉県立熊谷高等学校において、平成3年からハナビラタケの人工栽培の試験を行い、平成6年から平成9年にかけては、オガクズを使用した菌床栽培によるハナビラタケのきのこの発生及び成長を調べる実験を行った(証言、甲第5号証、甲第8号証3?10頁、甲第9号証?甲第14号証)。
該実験の内容は次のようなものであった。
(4a)平成6年度、平成7年度は、カラマツ、アカマツ、モミのオガクズを培地として用いた実験を行い、ハナビラタケ栽培に使うオガクズとしてカラマツがよいことを見出した(甲第12号証24?26頁)。
(4b)平成7年12月から平成8年1月にかけて行った「実験2」では、粗さの異なるカラマツのオガクズに、強力粉、中力粉、薄力粉の3種類の小麦粉のいずれかを15%添加した培地を200ccのジャムのビンに詰め込み滅菌し、ハナビラタケ菌株No.583を接種して培養し、オガクズの粗さ、小麦粉の種類による菌糸成長速度を比較し、細かいオガクズに中力粉、薄力粉を添加した培地は子実体が形成されること、薄力粉を添加した培地は子実体形成率が良いことを見出した(甲第9号証64?68頁、111?112頁)。
(4c)平成8年12月から平成9年6月にかけて行った「予備実験」では、培養容器としてガラスビンを用い、カラマツのオガクズに、小麦粉5?10%及び蜂蜜を含有するF培地を添加し、ビンに詰めて滅菌処理し、ハナビラタケ菌株No.3776、3777、3779を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を形成させ、その後ビンの蓋を取り外して赤玉土に伏せ込んで子実体を成長させ、ハナビラタケを収穫した(甲第12号証42?205頁)。
(4d)平成9年に行った「実験2」では、培養容器としてプラスチック製栽培袋を用い、オガクズに小麦粉20%及び蜂蜜を含有するF培地を添加し、栽培袋に詰めて滅菌処理し、ハナビラタケ菌株No.3777、583を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を形成させた。また、滅菌処理中に袋が破裂したものについては2度滅菌したが、2度滅菌したものの方が菌糸の成長が良好であることを見出した(甲第12号証357?378頁)。
(4e)平成9年に行った「実験3」では、培養容器としてガラスビンを用い、熱水で煮たオガクズに蜂蜜を含有するF培地及び小麦粉を10%を添加した培地を使用する実験区と、煮ないオガクズに蜂蜜を含有するF培地及び小麦粉10%を添加した培地を使用する実験区を設け、培地をビンに詰めて滅菌した後、ハナビラタケ菌株No.583を接種して菌床を作製し、これを培養して生育を比較したところ、いずれの実験区も子実体原基が形成され、わずかの差であるが、オガクズを煮た培地の方が菌糸の成長が良く、子実体が速くでることを確認した(甲第12号証398?418頁)。
(4f)「F培地」は、福島隆一がハナビラタケの成長に有効な培地として開発したもので(甲第12号証31頁)、菌株の保存培地として使用していたものであり、その成分は、水1l中に、ペプトン1.0g、エビオス3.0g、塩化カルシウム0.5g、ハイポネックス0.5ml、バナナ40.0g、ハチミツ30.0g、粉末寒天20.0gを添加したものである(甲第12号証31?33頁、甲第8号証4頁)
(4g)ハナビラタケの菌株の保存は、試験管に「F培地」(寒天培地)を入れた保存培地で菌を植え継ぐ方法により行い、常温で保存し、高温期は20℃?25℃の培養室内で保存する(甲第9号証15頁)。培地は試験管に入れて滅菌後、溶けているうちに試験管を斜めに傾けて固め、斜面培地とする(甲第12号証32?36頁)。
(5)福島隆一は、平成9年8月25日に「ハナビラタケ人工栽培用の菌床作成方法」について特許出願を行った。当該出願の明細書(甲第4号証:特開平11-56098号公報)には次の事項が記載されている。
(5a)「カラマツ材を主成分とする大鋸屑又はチップ、もしくはこれらを含む混合物を水の存在下で加熱し、熱水可溶成分を除去した後、栄養成分を加えることを特徴とするハナビラタケ人工栽培用の菌床作成方法」(請求項1)
(5b)「ハナビラタケは成長が遅く、人工栽培は非常に困難であるとされていた。実際に、本発明者らも、以前にカラマツの大鋸屑を主成分とする菌床に、様々な栄養を添加して、栽培を試みたが、発茸までに、4ケ月程度かかり、産業的な栽培を行うことが出来なかった。」(段落【0002】)
(5c)「実施例1 カラマツの大鋸屑1kgを、熱水5リットルで、98℃180分煮沸し、冷却後脱水し、さらに乾燥した。その後、固形成分として小麦粉を336グラム、・・・液状成分として水を1470ミリリットル、蜂蜜を23グラム、市販のハイポネックスを0.3ミリリットル加えて菌床とした。次にこの菌床を115℃、1.8気圧の条件で70分加熱して滅菌し、冷却後、ハナビラタケの種菌を接種した。さらに室温25℃、相対湿度70%の環境下で1.5ケ月間培養し、1ケ月間生育させて、ハナビラタケの子実体を収穫するに至った。
実施例2 実施例1の方法の中で、熱水煮沸に替えて、温度121℃、圧力2気圧の高温水蒸気のもとに、60分間さらした後に水洗して、以下同様に実施した結果、同様に短期間で子実体を得ることが出来た。」(段落【0010】)。
(6)平成9年12月に、株式会社ミナヘルス(以下、「ミナヘルス」という。)の会長中島三夫から埼玉県立熊谷農業高校の当時の校長松本重男氏のもとに、ハナビラタケの栽培技術指導をしてもらいたいとの依頼があり、職員会議において了解を得た上で、福島隆一は、ミナヘルスの社員斉木治平及び鈴木正一に、ハナビラタケの菌床栽培方法を指導し、同校の生徒が作成し、日本学校農業クラブ全国大会において展示された研究活動記録(甲第9号証及び甲第12号証)を自由に閲覧させた(甲第5号証、甲第6号証)。
(7)甲第9号証には、上記事実(4b)、(4g)の実験内容が示されている。
(8)甲第12号証は、上記「請求1」における甲第5号証の3と同一の資料であり、上記第4 1.[1]に記載した事項が記載され、上記事実(4a)、(4c)ないし(4g)の実験内容が示されている。
(9)福島隆一は、平成10年1月に、菌株No.162(採取地十文字峠)、No.583(同十日町)、No.3372(同浅間山)、No.3777(同北海道)を斉木治平に譲渡した(甲第5号証、甲第2号証の3)。
(10)ミナヘルスは、「ハナビラタケの経済的実用化栽培方法並びに一般嗜好食品と有用食品の試作研究」について、平成10年7月8日付けで科学技術振興事業団の平成10年度「独創的研究育成事業」の補助金を申請した(甲第2号証の3)。当該申請書には、次の事項が記載されている。
(10a)申込者企業として「株式会社ミナヘルス」、その代表者「中島三博(役職:代表取締役)、大学 国立研究所等の研究者として「福島隆一」、その連絡先[埼玉県立熊谷農業高等学校」、企業の担当者として「中島三夫(役職:代表取締役会長)」。
(10b)新技術コンセプト、モデル化題の概要として、「福島隆一が平成9年8月にキノコ界に於いて、何人も成功しなかった、ハナビラタケの人工栽培に成功した。(特許願第228648号)」、「(財)日本食品分析センターより得られたハナビラタケの、乾物中にβ-グルカンの含量が多く別紙分科表参照の如く、機能食品として極めて有望と推察されるので、ハナビラタケの機能食品(例、抗癌性、血糖値降下、血圧降下試験等)として開発することが実用化に対し、基本条件となる」(3頁)。
(10c)4.コンセプトの内容には、(1)コンセプトの新規性として「従来方でハナビラタケの人工栽培を実施したが不成功であったが、福島倍地(仮称)で倍地の研究により(オガコ、カラマツ)によって日本で初めて福島隆一氏が成功し、特許申請されたものである。」、(4)コンセプトの周辺として「ハナビラタケは従来希少価値があるが、日本国内で野外に於ける発見採取が不可能に近いと言われた、ハナビラタケが埼玉県立農業高等学校の福島隆一氏によって日本で初めて、オガコによる人口栽培に成功し、この人工栽培の方法が特許出願された。」(4頁)。
(10d)添付された財団法人日本食品分析センターの分析試験成績書には、「株式会社ミナヘルス」に依頼され、平成10年03月17日に当該センターに提出されたハナビラタケ検体についての分析試験結果が記載され、β-グルカンは46.6g/100gであったこと(5頁)。
(10e)「埼玉県立熊谷農業高等学校福島隆一氏より株式会社ミナヘルスが4株(生産地:十日町、北海道、十文字峠、浅間)を受け、同福島氏の開発した「培地」をカラマツのオガコに混合し、ガラスビン又はポリビン850mlに充填し、同充填された容器を100℃ 3時間滅菌後自然冷却し、この容器(ガラスビン、ポリビン)に上記4株を、それぞれ接種し、20-25℃の部屋に放置培養する。接種後約2?2.5ヶ月目に菌糸より、子実体(カサ)が発生し、加湿室に移し、温度20-25℃、湿度80?90%の部屋に放置し、生育を推進している。」(8頁)。
(10f)福島隆一の特許出願(事実(5))の公開公報が添付されている。
(11)上記(10a)において食品分析センターに提出されたハナビラタケ菌株は、福島隆一が所有していた、菌株No.583である(証言)。
(12)中島三博は、工業技術院生命工学技術研究所に対しハナビラタケ(茸)MH-3を寄託し、平成11年2月17日付けで「受託番号FERM P-17221」として受託された(参考資料2)。
(13)ハナビラタケ(茸)MH-3(受託番号FERM P-17221)の微生物条件記録書(甲第18号証の2)の記載によれば、当該微生物は、次の条件で培養することができる。
(13a)寒天培地及びオガコ培地で培養することができる。
(13b)斜面寒天培地の組成は、常水1l、ペプトン1.2g、エビオス3.6g、塩化カルシウム0.6g、ハイポネックス0.6ml、バナナ48g、ハチミツ18g、粉末寒天20g、オガコ培地の組成は、カラマツオガコ1l、ペプトン1.2g、エビオス3.6g、塩化カルシウム0.6g、ハイポネックス0.6ml、バナナ48g、ハチミツ18gである。
(13c)その他注意すべき事項として、オガコ培地では、20℃で2ヶ月にて原基発生、20℃80%加湿子実体(カサ)が約1ヶ月頃に完全に生育すること。
(14)福島隆一は、菌株No.583をユニチカ株式会社中央研究所の鈍宝宗彦に譲渡した(甲第17号証)。
(15)ユニチカ株式会社中央研究所が保有している菌株No.583と、菌株MH-3(受託番号FERM P-17221)とは、RAPD解析によるバンドパターンが一致しており、対峙培養で帯線が形成されない(甲第15号証、甲第16号証、甲第22号証、甲第23号証)。

2.本件特許に係る発明の発明者についての判断
(1)培地の調整、培養容器について
(1a)上記事実(4)によれば、福島隆一は、埼玉県立熊谷農業高等学校において、平成6年頃から、カラマツのオガクズを利用したハナビラタケの人工栽培の研究を始め、次の技術を開発したことが認められる。
ア.平成8年から平成9年にかけて行った「予備実験」により、「培養容器としてガラスビンを用い、加熱処理を行なわないカラマツのオガクズを主成分とし、小麦粉5?20%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し、ハナビラタケ菌株を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を形成させ、その後ビンの蓋を取り外してハナビラタケ子実体を成長させるハナビラタケの菌床栽培方法。」
イ.平成9年に行った「実験2」により、「培養容器としてビニールフィルム製栽培袋を使用し、加熱処理を行なわないカラマツのオガクズを主成分とし、小麦粉20%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し、この培地に菌株を接種して菌床を作製し、これを培養して子実体原基を発生させるハナビラタケの菌床栽培方法。」
ウ.平成9年に行った「実験3」により、「熱水で煮たオガクズ及び煮ないオガクズそれぞれに、小麦粉10%及び蜂蜜を含有させた培地を作製し、菌株No.583を接種して子実原基を発生させるハナビラタケの菌床栽培方法。」
(1b)福島隆一は、平成9年12月から、被請求人が代表取締役を務めていたミナヘルスの社員に対して栽培指導を行い、上記(1a)の菌床栽培技術等が記載された、埼玉県立熊谷農業高等学校における活動報告の資料(甲第9号証、甲第12号証)を公開し、栽培方法を指導し、ハナビラタケの大量栽培に向けて共同で開発にあたったことが認められる(事実(6)、(10))。
(1c)本件明細書の実施例に使用されている、ハナビラタケの培地は、実施例1では「粉末バナナ6g、エビオス(当審注:ビール酵母の登録商品名)45g、ペプトン1g、カルシウム0.6g、塩化マグネシウム0.5g、粉末蜂蜜2g、小麦粉100gを混合し、これを1kgのカラマツ大鋸屑(水分約20%)に添加し、常水1.5Lを注加して混合したものであり、実施例2の培地Bは、粉末バナナ6g、ビール酵母45g、ペプトン1g、塩化カルシウム0.6g、粉末蜂蜜2g、塩化マグネシウム0.5g、小麦粉100g、カラマツ大鋸屑1kgであって、塩化マグネシウムを使用すること、添加量を除いては上記福島隆一の開発した「F培地」の成分(事実(4f))と類似している。
(1d)これらのことからみて、本件請求項1ないし4に係る発明の「大鋸屑を主成分とする培地に、該培地対して高温水蒸気処理および水洗を行なうことなく、ハナビラタケの菌株を接種する」、請求項2に係る発明の「菌床容器としてプラスチック製容器を用いる」、請求項3に係る発明の「培地が小麦粉を5?10%含有する」、請求項4に係る発明の「培地が蜂蜜を含有する」ことは、福島隆一が被請求人が代表取締役を務めていたミナヘルスの社員に指導した培地の調整方法、培養容器に基づくものと認められる。
(1e)なお、被請求人は、福島隆一の指導の下に確立された栽培方法は、予め高温水蒸気処理および水洗を行うことを要旨とするものである旨主張するが、上記事実によれば、福島隆一は、加熱処理を行わない大鋸屑に栄養成分を添加した培地を使用してハナビラタケ菌株を接種し、培養することによりハナビラタケ子実体(きのこ)を形成させる人工栽培方法を開発した後、さらに子実体の発生期間を短縮する手段として、予め大鋸屑を熱水で加熱処理する菌床作製方法、予め大鋸屑を高温水蒸気処理及び水洗する菌床作製方法を開発したことは明らかであり、被請求人の上記主張は前記開発過程を無視するものであって採用できない。

(2)菌株について
本件請求項1ないし4に係る発明では、菌株として特にMH-3(受託番号FERM P-17221)を使用しているので、菌株について検討する。
(2a)福島隆一は平成10年1月に、被請求人が代表取締役を務めていたミナヘルスの社員に対して、菌株No.162、No.583、No.3372、No.3777を譲渡したことが認められる(事実(9))。
(2b)一方、福島隆一からユニチカ株式会社の社員に分譲され、ユニチカ株式会社中央研究所で保有していることが認められる菌株No.583と、ハナビラタケMH-3(受託番号FERM P-17221)との間には、RAPD解析試験において、バンドパターンが一致していること、対峙培養では帯線が認められないことが認められ(事実(15))、RAPD解析試験において、バンドパターンが一致していることは、遺伝的系統が同じであることを示し、また帯線が認められないことは菌株の生理的特性が同一であることを示しているから(甲第15号証の1、甲第19号証、甲第20号証)、ユニチカ株式会社が保有する菌株No.583と本件特許に係る菌株MH-3(受託番号FERM P-17221)の遺伝的系統は同じであると認められる。
(2c)ユニチカ株式会社が保有する菌株No.583は、福島隆一が所有していた菌株No.583に由来するものであるから(事実(14))、福島隆一が所有しミナヘルスの社員に分譲した菌株No.583と、本件特許に係る菌株MH-3(受託番号FERM P-17221)も遺伝的系統は同じであると認められる。
(2d)遺伝的系統が同じであっても、菌の生育期間や収穫量等にバラツキがあることは普通であり、その中から、優れた特性のものを選抜育種することは本件出願前普通に行われていることであるが、上記第4の2.(1)で検討したとおり、菌株MH-3(受託番号FERM P-17221)は、菌株No.583に比較し格別優れた特性を有するものとはいえない。
(2e)また、MH-3(受託番号FERM P-17221)の微生物条件記録書(甲第18号証の2)に記載された、MH-3菌の培地である「斜面寒天培地」及び「オガコ培地」の組成(事実(13b))は、配合比率及びオガコ培地では寒天を添加しないことを除いて福島隆一の開発したハナビラタケ菌株の培地の組成(事実(4c)?(4g))と同じである。
(2f)これらのことから、本件特許に係る発明で接種されるハナビラタケ菌株MH-3(受託番号FERM P-17221)は、福島隆一がミナヘルスの社員に分譲した菌株No.583に由来するものであって、福島隆一がミナヘルスの社員に指導した培地の調整方法、菌床栽培方法により培養される菌株であり、菌株No.583に比較し格別優れた特性を有するものではないと認められる。

(3)以上のことを総合的に考慮すれば、本件特許の請求項1ないし4に係る発明の完成には福島隆一が深く関与しており、福島隆一なくして本件発明の完成はなかったものと認められる。
そうすると、福島隆一は、単独の発明者か、共同発明者の一人かは措くとしても、本件特許の請求項1ないし4に係る発明の発明者であるというべきである。

3.無効2004-80189の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4に係る特許は、特許法第38条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから無効とすべきものである。

第7 むすび
以上のとおり、無効2004-80150については、本件請求項1ないし4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、無効2004-80189については、本件請求項1ないし4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、いずれも、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2005-09-06 
出願番号 特願2000-326881(P2000-326881)
審決分類 P 1 113・ 152- Z (A01G)
P 1 113・ 151- Z (A01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 江藤 保子
二宮 千久
登録日 2004-01-09 
登録番号 特許第3509736号(P3509736)
発明の名称 生理機能活性を有するハナビラタケの菌床作製方法  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 原田 智裕  
代理人 平野 和宏  
代理人 原田 智裕  
代理人 平野 和宏  
代理人 小谷 悦司  
代理人 中村 誠  
代理人 小谷 悦司  
代理人 河野 哲  
代理人 小原 真一  
代理人 堀内 美保子  

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