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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680124 審決 特許
審判199935003 審決 特許
無効200680050 審決 特許
無効200680022 審決 特許
無効200680134 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 発明同一  A01B
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A01B
管理番号 1155020
審判番号 無効2006-80060  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-04-13 
確定日 2007-04-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第3750086号発明「整畦機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3750086号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3750086号(以下、「本件特許」という。)の出願は、平成8年8月22日に特許出願された特願平8-220841号(以下、「本件出願」という。)であって、その請求項1及び請求項2に係る発明について平成17年12月16日に設定登録され、その後、本件無効審判請求人松山株式会社(以下、「請求人」という。)により上記本件特許のうちの請求項2に係る発明の特許に対して平成18年4月13日に本件無効審判〔無効2006-80060〕が請求されたものであり、無効審判被請求人株式会社富士トレーラー製作所(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の平成18年7月5日付の審判事件答弁書が提出されるとともに同日付の訂正請求書が提出され、前記審判事件答弁書副本及び訂正請求書副本を前記請求人に送付したところ、前記請求人により指定期間内の平成18年8月8日付の審判事件弁駁書が提出されたものである。
その後、前記訂正請求についての平成18年12月14日付の訂正拒絶理由通知を請求人及び被請求人の双方に送付したところ、請求人から平成19年1月11日付の意見書が提出され、また被請求人からも平成19年1月12日付の意見書が提出されたものである。

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、「第3750086号発明の明細書の請求項2に係る発明についての特許は無効とする。審判費用は被請求人の負担にする。との審決を求める。」と主張し、下記の甲第1号証を提示して、以下の無効理由を主張する。その無効理由の概略は、次のとおりである。
〔無効理由〕:本件発明は、本件特許出願の出願の日前に出願された他の出願であって、本件特許出願後に出願公開された先願の明細書及び図面(甲第1号証)に記載された先願発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:平成8年6月12日に出願され、平成9年12月22日に特開平9-327205号公報として出願公開された特願平8-151423号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開平9-327205号公報参照)

2 被請求人の主張
被請求人は、請求人の前記主張に対し、その審判事件答弁書において「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と主張し、被請求人がした訂正請求による本件発明についての訂正を前提にして、「本件発明と先願発明とは同一ではなく、特許法第29条の2の規定には違反せず、請求人の主張は全く理由がないものであり、答弁書の趣旨のとおりの審決を求める。」旨を主張した。

第3 訂正請求の適否についての判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成18年7月5日付の訂正請求により訂正を求める訂正請求の内容は、次のとおりのものである。
〔訂正事項1〕
特許査定時の明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項2】の
「【請求項2】 走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成したことを特徴とする整畦機。」の記載を、
「【請求項2】 走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる駆動軸を含む回転機構とからなり、上記機枠に回転軸線が畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度をもって斜め上向き状に回転自在に軸受された上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成したことを特徴とする整畦機。」と訂正する。

〔訂正事項2〕
特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0007】の
「【0007】 又、請求項2記載の発明は、走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成したことを特徴とする整畦機にある。」の記載を、
「【0007】 又、請求項2記載の発明は、走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる駆動軸を含む回転機構とからなり、上記機枠に回転軸線が畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度をもって斜め上向き状に回転自在に軸受された上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成したことを特徴とする整畦機にある。」と訂正する。

〔訂正事項3〕
特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0029】の
「【0029】 図10乃至図13の第二形態例は整畦機構12の内の回転整畦体13の別例構造を示し、この場合、回転整畦体13は、畦Wの一方側面W2を整畦可能な外周面13a及び畦Wの上面W1を整畦可能な円筒状の外周面13bを有してなり、かつ回転整畦体13の回転軸線P1を畦Wの一方側面W1の側方から畦W側へ斜め上方に向かう所定角度θの上向き方向に配置してなり、上記所定角度θをもって斜め上向き状の回転軸線P1を中心として回転する駆動軸21に回転整畦体13のロータ軸13cを取り付けてなり、かつ、上部回転整畦体16、その駆動伝導系統、高低調節機構17及びその付随部分を無くして構成したものである。」の記載を、
「【0029】 図10乃至図13の第二形態例は整畦機構12の内の回転整畦体13の別例構造を示し、この場合、回転整畦体13は、畦Wの一方側面W2を整畦可能な外周面13a及び畦Wの上面W1を整畦可能な円筒状の外周面13bを有してなり、かつ回転整畦体13の回転軸線P1を畦Wの一方側面W1の側方から畦W側へ斜め上方に向かう所定角度θの上向き方向に配置してなり、上記所定角度θをもって斜め上向き状の回転軸線P1を中心として回転する駆動軸21に回転整畦体13のロータ軸13cを取り付けてなり、すなわち、上記機枠3に回転軸線P1が畦Wの一方側面W1の側方から畦W側へ斜め上方に向かう所定角度θをもって斜め上向き状に回転自在に軸受された上記回転機構14の駆動軸21の上端部に上記回転整畦体13を突設し、回転整畦体13の回転軸線P1を畦Wの一方側面W1の側方から畦W側へ斜め上方に向かう所定角度θの上向き方向に配置して構成し、かつ、上部回転整畦体16、その駆動伝導系統、高低調節機構17及びその付随部分を無くして構成したものである。」と訂正する。

〔訂正事項4〕
特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0034】の
「【0034】 又、請求項2記載の発明にあっては、走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成しているから、走行機体を畦に沿って走行すると一方では盛土機構が圃場泥土を旧畦上に盛り上げ、カバー部材は泥土飛散を防止し、他方では整畦機構が駆動され、回転整畦体は回転機構により回転し、畦の一方側面及び畦の上面を各外周面により締圧整畦することができ、構造を簡素化することができると共に回転整畦体の回転接触により畦の一方側面及び畦の上面を円滑に締圧整畦することができ、この際、回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置しているので、回転整畦体によりなされる畦の一方側面への土の押し付け送り長さを良好なものとすることができ、それだけ土の締圧を良好なものとすることができると共に回転整畦体の垂直方向の高さを低くすることができ、それだけ装置全体の機高を低くすることができて小型化を図ることができる。」の記載を、
「【0034】 又、請求項2記載の発明にあっては、走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる駆動軸を含む回転機構とからなり、上記機枠に回転軸線が畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度をもって斜め上向き状に回転自在に軸受された上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成しているから、走行機体を畦に沿って走行すると一方では盛土機構が圃場泥土を旧畦上に盛り上げ、カバー部材は泥土飛散を防止し、他方では整畦機構が駆動され、回転整畦体は回転機構により回転し、畦の一方側面及び畦の上面を各外周面により締圧整畦することができ、構造を簡素化することができると共に回転整畦体の回転接触により畦の一方側面及び畦の上面を円滑に締圧整畦することができ、この際、回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置しているので、回転整畦体によりなされる畦の一方側面への土の押し付け送り長さを良好なものとすることができ、それだけ土の締圧を良好なものとすることができると共に回転整畦体の垂直方向の高さを低くすることができ、それだけ装置全体の機高を低くすることができて小型化を図ることができる。」と訂正する。

〔訂正事項5〕
特許明細書の【符号の説明】の「20 上下調節機構」と「36 反力受け機構」の間に、「21 駆動軸」の記載を、挿入する。

2 訂正の目的についての検討
(1)上記〔訂正事項1〕の訂正は、訂正前の請求項2に係る発明特定事項を「駆動軸を含む回転機構」と限定し、そして、訂正前の請求項2に係る発明に「上記機枠に回転軸線が畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度をもって斜め上向き状に回転自在に軸受された上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の発明特定事項を加えることにより請求項2に係る発明を限定して、その構成を特定する訂正であるから、同法第134条の2ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。

(2)上記〔訂正事項2〕の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0007】の訂正前の記載を、訂正された請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

(3)上記〔訂正事項3〕の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0029】の訂正前の記載を、訂正された請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

(4)上記〔訂正事項4〕の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0034】の訂正前の記載を、訂正された請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

(5)上記〔訂正事項5〕の訂正は、特許明細書の符号の説明について、訂正された請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

(6)したがって、上記〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項5〕の訂正は、いずれも同法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とする訂正に該当する。

3 新規事項の有無について
(1)当審が平成18年12月14日に通知した訂正拒絶理由において、本件訂正請求における新規事項の有無についての判断は、次のとおりのものである。
「ア 訂正事項1について
上記訂正事項1の特許明細書等の「特許請求の範囲」についての訂正は、請求項2に、「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項を新たに追加する訂正である。
しかして、審判被請求人が訂正事項1についての前記訂正のひとつの根拠としている特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0029】には、「図10乃至図13の第二形態例は整畦機構12の内の回転整畦体13の別例構造を示し、この場合、回転整畦体13は、畦Wの一方側面W2を整畦可能な外周面13a及び畦Wの上面W1を整畦可能な円筒状の外周面13bを有してなり、かつ回転整畦体13の回転軸線P1を畦Wの一方側面W1の側方から畦W側へ斜め上方に向かう所定角度θの上向き方向に配置してなり、上記所定角度θをもって斜め上向き状の回転軸線P1を中心として回転する駆動軸21に回転整畦体13のロータ軸13cを取り付けてなり、かつ、上部回転整畦体16、その駆動伝導系統、高低調節機構17及びその付随部分を無くして構成したものである。」が記載されている。
しかしながら、段落【0029】の「駆動軸21に回転整畦体13のロータ軸13cを取り付けてなり、」の記載からは、「駆動軸21に回転整畦体13のロータ軸13cを取り付けてある」という事項が記載されてあったということはできるが、段落【0029】の前記記載からは、訂正事項1に係る前記「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項が、特許明細書等に記載されていた事項の範囲内のものである、とまではいうことができない。
また同じく、審判被請求人が訂正事項1についての前記訂正のもうひとつの根拠としている特許明細書等に添付された【図10】?【図13】の図面の図示を参酌したとしても、「駆動軸21に回転整畦体13のロータ軸13cを取り付けてある」という事項が記載されてあったことはいえるが、訂正事項1に係る前記「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項が、特許明細書等の前記図面に記載されていた事項の範囲内のものであるということはできない。
そして、訂正事項1に係る前記「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項が、特許明細書等の記載において自明の事項であるということもできない。
したがって、前記訂正事項1の「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項を請求項2に新たに加える訂正は、特許明細書等、すなわち願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということができない。
イ 訂正事項2、訂正事項3及び訂正事項4について
上記訂正事項2、訂正事項3及び訂正事項4の各訂正は、「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の記載を含む訂正であるから、「ア」欄に前述した訂正事項1についての同様の理由により、特許明細書等、すなわち願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということができない。
ウ 訂正事項5について
一方、上記訂正事項5の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面、すなわち特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
エ まとめ
したがって、本件訂正請求のうちの上記訂正事項1、訂正事項2、訂正事項3及び訂正事項4の各訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合していない。」

(2)当審の訂正拒絶理由に対して、被請求人は平成19年1月12日付の意見書において、次のような概略の主張をした。
「特許庁編纂に係る明細書、特許請求の範囲又は図面の補正に関する事例集である『新規事項の判断に関する事例39』の例示を参照すると、本件訂正においても、その訂正事項1の『上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、』の事項は、特許明細書等の段落【0029】に記載されていた事項の範囲内のものであり、また、前記段落【0029】に明確に記載されていないとしたとしても、特許明細書等に添付された【図10】?【図13】の図面に記載されていることが明らかであり、特許明細書等に添付された図面に接した当業者に自明な事項である。
なお、ここでいう『上記駆動軸の上端部』は、定寸の駆動軸の上端部であるか下端部であるかを明らかにするという技術的意義をもつものであり、前記『上端部』の字句は軸の本当の上の端であると厳密に解釈すべきでもない、すなわち、定寸切断されている駆動軸の上側なのか、下側なのかの上下のどちらを指すかを明らかにするという意味をもつものなのであって、軸の本当の上の端でなくとも、軸の中程部より上側の部分も『上記駆動軸の上端部』に含む概念である。
したがって、訂正事項1に係る前記『上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、』の事項は、特許明細書等の前記図面に記載されていた事項の範囲内においてした訂正である。
また、前記『上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、』の事項を含む訂正事項2ないし訂正事項4の各訂正も、訂正事項1についてと同様に、特許明細書等の前記図面に記載されていた事項の範囲内においてした訂正である。」

(3)当審の判断
しかしながら、被請求人の上記主張を斟酌したとしても、本件訂正請求により請求項2に新たに追加された「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項が、本件特許明細書のいずれの個所にも記載されていると認めることができず、また、前記「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項が特許明細書に記載されているに等しい事項であると推認することができるような記載も、本件特許明細書中に認めることができない。
そして、本件特許明細書に添付された図面の図10ないし図13においては、駆動軸21の延伸部分であるロータ軸13cが、回転整畦体13の畦Wの一方側面W2を整畦可能な外周面13aの部分の内部空間に存在することを示す破線による表示が、前記内部空間の途中まで破線で記載されており、しかも、破線によるロータ軸13cの前記表示が、回転整畦体13の中途位置で立ち消えるように記載されているので、破線の表示によるロータ軸13cが、回転整畦体13の内部空間の中で、はたして回転整畦体13に対し、どこまで延伸しているのかが、前記図10ないし図13の表記からは窺い知ることができない。換言すれば、図10ないし図13の記載では、駆動軸21に対して、回転整畦体13が駆動軸21のどの位置において連結ないし結合されているかが不明であるだけではなく、回転整畦体13が駆動軸21のどこに突設されているのかについても、もとより不明であるというしかない。
したがって、本件特許明細書に添付された図面の図10ないし図13においても、前記「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項を裏付ける図面の記載を認めることができない。
以上のことから、前記訂正事項1の「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項を請求項2に新たに加える訂正は、特許明細書等、すなわち願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということができない。
また、訂正事項2、訂正事項3及び訂正事項4の各訂正も、同様に前記「上記駆動軸の上端部に上記回転整畦体を突設し、」の事項を含む訂正であるから、前述した訂正事項1と同様に、特許明細書等、すなわち願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということができない。

4 むすび
上記のとおりであり、訂正拒絶理由通知書に示した理由により、本件訂正請求のうちの〔訂正事項1〕ないし〔訂正事項4〕の訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たしていないので、本件訂正請求は、これを認めない。

第4 無効理由についての検討
1 本件特許の請求項2に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められないから、本件特許の請求項2に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された次のとおりのもの(以下、これを「本件発明」という。)である。
「【請求項2】 走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成したことを特徴とする整畦機。」

2 甲第1号証〔特開平9-327205号公報参照〕の記載事項
甲第1号証には、「畦塗り機」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は畦塗り機に係り、主として水田を区画する旧畦を畦塗り修復して水漏れを防ぐものに関する。」
「【0012】 1は機枠で、この機枠1は主枠兼用の前後方向のミッションケース2を有し、このミッションケース2の前端部には前後方向の入力軸3が前方に向かって回転自在に突出され、この入力軸3は前記ミッションケース2内に設けた前後の軸受体4にて回転自在に軸支され、この入力軸3には前記前側の軸受体4の近傍部及び入力軸3の後端部に位置して傘歯車5がそれぞれ固着されている。
【0013】 また、前記ミッションケース2の前側部の右側には軸受体6を有する中空パイプ状の第1の伝動フレーム7が右側下方に向かって所定の傾斜角度に傾斜して突設され、この第1の伝動フレーム7は図示しない支持手段にて支持されるようになっている。
【0014】 また、前記ミッションケース2の前側部の左側には左右方向の中空パイプ状の支持フレーム8が左側に向かって略水平状に一体に突設されている。また、前記支持フレーム8の外端部には前後方向の連結アーム9が一体に固着され、この左側の連結アーム9の先端部にはロワピン10が突設されている。
【0015】 さらに、前記ミッションケース2の上部には前上方に向かってマスト11が一体に突設され、このマスト11の先端部の二股状部には左右方向の連結ピン12が固着されている。また、前記ミッションケース2には図示しない支持部材を介して前記連結アーム9と同一平面で平行に図示しない前後方向の連結アームが一体に固着され、この連結アームの先端部にはロワピンが突設されている。
【0016】 そして、前記左右の連結アーム9のロワピン10と前記マスト11の連結ピン12との三点にはトラクタの三点リンク機構に連結して支持されるクイックカプラ13の三点連結部が着脱自在に連結されるようになっている。
【0017】 つぎに、前記第1の伝動フレーム7内には第1の出力軸14が回転自在に挿通され、この第1の出力軸14の内端部が前記軸受体6にて回転自在に支持されているとともに、この第1の出力軸14の外端部が前記第1の伝動フレーム7の外端部内に設けられた軸受体15にて回転自在に支持されている。
【0018】 また、前記第1の出力軸14の内端部には前記入力軸3の前側の傘歯車5に噛合された傘歯車16が固着され、この第1の出力軸14の外端部には畦塗り用の泥土を切削して後述する畦塗り体に向かって跳ね上げるロータリー17が着脱可能に連結されている。
【0019】 前記ロータリー17は、前記第1の出力軸14の外端部に着脱可能に連結された回転軸18と、この回転軸18の軸方向に間隔をおいて放射状に突設された多数のブラケット19と、この各ブラケット19にそれぞれ着脱可能に取り付けられた多数の切削爪20とを有している。そして、前記ロータリー17は圃場の状況や旧畦Aの状態等に応じた傾斜角度にて連結されている。」
「【0023】 つぎに、前記伝動ケース26とブラケット27との下端部間には前記ロータリー17の後方に位置してこのロータリー17の各切削爪20にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体30が回転自在に軸架されている。
【0024】 前記畦塗り体30は、前記伝動ケース26とブラケット27との下端部間に前記第2の伝動ケース22と平行にかつ前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して軸架された回転自在の回転軸31と、この回転軸31を回転中心としてこの回転軸31に支持板32を介して固着され前記旧畦Aの側部Bを下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体33と、この側面修復体33の縮径端部34に一体に連設されこの縮径端部34から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復する円錐形状の上面修復体35とを有している。また、前記側面修復体33の縮径端部34に前記上面修復体35を一体に連設した縮径連設部が旧畦Aの肩部Dを弧状に修復する肩修復部36として形成されている。
【0025】 そして、前記側面修復体33にて前記旧畦Aの側部Bを傾斜面に修復可能にかつ前記上面修復体35にて前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復可能に前記畦塗り体30は前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して配設され、この畦塗り体30は前記回転軸31を回転中心として回転駆動されるようになっている。
【0026】 しかして、前記上面修復体35は前記側面修復体33に対して小さく相似形に形成されている。そして、前記側面修復体33、前記上面修復体35及びこれらに一体の前記肩修復部36は金属または金属の表面部を合成樹脂製被膜にて一体に形成され、前記側面修復体33は前記ブラケット27に向かって拡開して形成され、前記上面修復体35は前記伝動ケース26に向かって拡開して形成されている。
【0027】 また、前記回転軸31の一端部は前記伝動ケース26の下端部内に突出され、この回転軸31の突出端部にはスプロケット37が固着され、前記伝動ケース26の上端部内に突出された前記第2の出力軸23の突出端部にはスプロケット38が固着され、この上下のスプロケット38とスプロケット37との間には無端チェーン39が回行自在に懸架されている。
【0028】 なお、図中40は前記ロータリー17及び前記畦塗り体30の上方部を被覆した防土カバーである。また、前記ミッションケース2には連結部材を介して図示しないゲージ輪が回転自在に軸架されるようになっており、また、前記左右の連結アーム9には図示しないスタンドが上下動自在にまたは着脱自在に設けられるようになっている。」

そして、甲第1号証に添付された図1ないし図7には、甲第1号証の上記摘記事項を裏付ける記載が図示されている。

そうしてみると、上記甲第1号証の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、これを、「引用発明」という。)の記載が認められる。
「トラクタに三点リンク機構により機枠1を連結し、該機枠1のミッションケース2内の第1の出力軸14に畦塗り用の泥土を切削して畦塗り体に向かって跳ね上げるロータリー17が着脱可能に連結され、伝動ケース26とブラケット27との下端部間に前記ロータリー17の後方に位置して該ロータリー17の各切削爪20にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体30が回転自在に軸架され、さらに、前記ロータリー17及び前記畦塗り体30の上方部を被覆する防土カバー40が設けられた畦塗り機において、
前記畦塗り体30は、前記旧畦Aの側部Bを下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体33と、この側面修復体33の縮径端部34に一体に連設されこの縮径端部34から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復する円錐形状の上面修復体35とを有し、
前記畦塗り体30が、前記伝動ケース26とブラケット27との下端部間に第2の伝動ケース22と平行にかつ前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して軸架された回転自在の回転軸31と、この回転軸31を回転中心としてこの回転軸31に固着されており、
前記側面修復体33にて前記旧畦Aの側部Bを傾斜面に修復可能にかつ前記上面修復体35にて前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復可能に前記畦塗り体30が前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して配設され、前記畦塗り体30が前記回転軸31を回転中心として回転駆動されるように構成された畦塗り機」

3 当審の判断
(1)本件発明と引用発明との対比
ここで、本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「トラクタ」、「三点リンク機構」、「機枠1」、「畦塗り用の泥土を切削して畦塗り体に向かって跳ね上げるロータリー17」、「前記ロータリー17及び前記畦塗り体30の上方部を被覆する防土カバー40」、「ロータリー17の各切削爪20にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体30」、「回転軸31」及び「畦塗り機」が、それぞれ本件発明の「走行機体」、「連結機構」、「機枠」、「旧畦上に土を盛り上げる盛土機構」、「カバー部材」、「盛土を締圧整畦可能な整畦機構」、「回転整畦体を回転させる回転機構」及び「整畦機」に対応することは、明らかである。
また、引用発明の「旧畦Aの側部B」及び「旧畦Aの上部C」が、本件発明の「畦の一方側面」及び「畦の上面」に対応することも明らかである。
そうすると、引用発明の「旧畦Aの側部Bを下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体33と、この側面修復体33の縮径端部34に一体に連設されこの縮径端部34から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復する円錐形状の上面修復体35」が、本件発明の「畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体」に相当するといえる。
そして、引用発明の「旧畦Aの側部B」及び「旧畦Aの上部C」が、本件発明の「畦の一方側面」及び「畦の上面」にそれぞれ対応しており、また、引用発明においては、「前記畦塗り体30が、前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して軸架された回転自在の回転軸31と、この回転軸31を回転中心としてこの回転軸31に固着されて」いることから、引用発明の「前記側面修復体33にて前記旧畦Aの側部Bを傾斜面に修復可能にかつ前記上面修復体35にて前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復可能に前記畦塗り体30が前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して配設され」が、本件発明の「回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して」に相当するといえる。
してみれば、引用発明と本件発明とは「走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け、該盛土機構の上方にカバー部材を設け、該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり、上記整畦機構は、畦の一方側面を整畦可能な外周面及び畦の上面を整畦可能な外周面を有する回転整畦体と、該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり、該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成した整畦機」である点で一致し、両者の構成に異なるところが認められない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。
そして、本件発明をした者が甲第1号証に記載された発明の発明者と同一の者であるとも、また本件出願の時に本件出願の出願人と甲第1号証に係る特許出願の出願人とが同一の者であるとも認められないから、本件発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項2に係る本件発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-30 
結審通知日 2007-02-08 
審決日 2007-02-21 
出願番号 特願平8-220841
審決分類 P 1 123・ 161- ZB (A01B)
P 1 123・ 841- ZB (A01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 森内 正明
森口 良子
登録日 2005-12-16 
登録番号 特許第3750086号(P3750086)
発明の名称 整畦機  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 聡  
代理人 黒田 勇治  
代理人 山田 哲也  

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