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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1155205
審判番号 不服2003-3286  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-02-27 
確定日 2007-04-02 
事件の表示 平成11年特許願第171716号「mes遺伝性好酸球増多症ラット」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月 9日出願公開、特開2001- 76〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年(1999年)6月17日を出願日とするものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年2月27日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
I.4週齢では白血球数の増加はみられない、
II. 白血球数は5週齢から増加しはじめ、血中の好酸球は6週齢以降急激に増加しはじめる、
III.8周齢以降では、血液中のほか血球を産生する骨髄および好酸球が活動作用する場である全身の組織器官中において好酸球が非常に増加するとともに腸間膜リンパ節の腫大が認められる、
IV. 12週齢頃から好酸球が組織に異常に浸潤し、その原因で特に、胃、腸管、リンパ節、脾臓、肺、子宮、心臓、血管などにおいて好酸球増多を原因とする病変がみられるという特性を遺伝性に自然発症することを特徴とするmes遺伝性好酸球増多症ラット。」

2.原査定の理由
これに対する原査定の拒絶理由は、本願の請求項1に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない、というものである。
<引用文献>
1.Kiyoshi Matsumoto, Norifumi Matsushita, Takeshi Umemura,A new rat model of eosinophilia ,RAT GENOME,1999年2月,Vol.5 , No.1,p.11-14

3.引用文献1の頒布時期について
JST複写サービスを通じて入手した、引用文献1が掲載された雑誌「RAT GENOME,1999年2月号」の表紙の写しには、1999年5月11日付で大英図書館に受け入れたことを示す印があることからみて、引用文献1は、遅くとも、本願出願日前である1999年5月11日には頒布されたものであるから、引用文献1は、特許法第29条第1項第3号で規定する刊行物に当たる。

請求人は、この点について、平成15年2月27日付の審判請求書において、「RAT GENOME, 1999年 2月号」の編集者による発行証明書を提出し、この発行証明書によると、「RAT GENOME, 1999年 2月号」は1999年6月に発行されたものであるから、拒絶査定の備考欄における「1999年3月11日付の図書館の受け入れ印」は信憑性に乏しいものであり、引用文献1は、特許法第29条第1項第3号の公知文献としては妥当性がない旨主張している(【請求の理由】(4))。(なお、原査定には、引用文献1の図書館への受入日に関し、JST文献複写サービスを通して入手した引用文献1が収録されている雑誌の表紙には、「1999年3月11日付けの図書館の受け入れ印がある」と記載されているが、当該表紙の写しには、「11-May-1999」と記載されていることからみて、「3月」は「5月」の誤記と認められる。)
しかしながら、JST複写サービスを通じて入手した「RAT GENOME, 1999年 2月号」の表紙の写しに記載された、1999年5月11日付で大英図書館に受け入れたことを示す印は、公的な図書館における雑誌の受入日を示すものであって、極めて信頼性の高いものである。
請求人は、当該雑誌が、当該図書館に1999年5月11日に受け入れられた点について、その信憑性を疑うに足る合理的な根拠を示しているわけでもない。

また、職権で調査した結果、引用文献1が掲載された「RAT GENOME, 1999年 2月号」は、国内の図書館である北里大学医学図書館において、1999年5月12日に、久留米大学医学図書館において1999年5月13日に受け入れられており、いずれの図書館においても、本願出願日前である1999年5月中に受け入れられたものである。
これらの事実からみて、引用文献1は、本願出願日前に頒布された刊行物であることは、明らかである。

なお、請求人が提出した発行証明書は、(a)発刊日について「6月」と本願の出願前をも含む記載がされているのみであって、本来、証明者が知っているはずのその日付について記載がないものであること、(b)「1999年2月号」とした雑誌の発刊が4ヶ月も遅れた理由については、単に「編集上の都合」とあるのみで、その具体的な理由が何ら記載されていないものであることからみて、信憑性に乏しいものであって、これにより、引用文献1が本願出願前に頒布された刊行物であることを否定する理由とはならない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、引用文献1は、特許法第29条第1項第3号で規定する刊行物に相当する。

4.特許法第30条第2項適用の可否について
請求人は、平成15年2月27日付の審判請求書において、特許法第31条第2項新規性喪失の例外規定(意に反して新規性が喪失された)を証拠に基づいて主張する意志があるから、機会を与えて欲しい旨主張している(【請求の理由】(5))。(なお、「第31条」とあるのは、主張の概要からみて、「第30条」の誤記と認める。)

当審は、請求人に対して、平成18年9月13日付で審尋を送付したが、これに対して、指定期間内に請求人からは何の回答もなかった。
その後、当審は、電話により請求人に対し、審尋に対する回答がなかったことに関してその意向を確認したところ、新たに主張すべきことはない旨の回答があり、特許法第30条第2項新規性喪失の例外規定に関する証拠については提出がされなかった。

本願発明が、特許法第30条第2項に規定する「特許を受ける権利を有する者の意に反して第29条第1項各号の一に該当するに至った発明」であることについて何ら具体的な証拠が提出されない以上、本願発明について新規性喪失に関する前記例外規定を適用することはできない。

5.引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1は、本出願の出願人兼発明者である「Kiyoshi Matsumoto」を著者の一人とするものであり、好酸球増多症の新しいモデルとして有利である新しい変異SDラットを報告するものであって(第11頁下7行?下5行)、Shizuoka Laboratory Animal Centerから購入したSPF妊娠Slc:SDラットのグループの中に好酸球増多症を有する妊娠動物を発見し、3つの雄、5つの雌の同腹子は、10週齢において、それぞれ、12000細胞/μl及び3%以上という高い白血球数及び好酸球数を示すものであったこと、そして、兄妹交配により10週齢における17000白球数/μl以上及び5%以上の好酸球数という選抜基準で選抜し(第11頁下4行?3行)、この好酸球増多症を示すラットの兄妹交配により維持された集団を、「Matsumoto Eosinophilia Shinshu」(mes)と名付けたことが記載されている(第12頁4行?5行)。
そして、このラット集団は、体重が通常のSDラットと比較して約20%低く(第12頁下8行?下7行)、組織病理学的調査によると、6ヶ月齢におけるすべての解剖されたラットは、胃、腸管、脾臓、肺、子宮及びリンパ節において好酸球の浸潤がみられたことが記載されており(第14頁5行?7行)、結論として、このラット集団は、2ケ月齢において好酸球数の増加を示すものであることが記載されている(第14頁8行?9行)。

6.当審の判断
(1)対比・判断
上記記載事項によると、引用文献1には、mesと名付けられた遺伝性に好酸球増多症を自然発症するラットが記載されている。
本願発明と引用文献1に記載された発明を対比する。
両者は、各種特性を遺伝性に自然発症するmes遺伝性好酸球増多症ラットである点で一致するが、
本願発明のラットは、
「I.4週齢では白血球数の増加はみられない、
II. 白血球数は5週齢から増加しはじめ、血中の好酸球は6週齢以降急激に増加しはじめる、
III.8周齢以降では、血液中のほか血球を産生する骨髄および好酸球が活動作用する場である全身の組織器官中において好酸球が非常に増加するとともに腸間膜リンパ節の腫大が認められる、
IV. 12週齢頃から好酸球が組織に異常に浸潤し、その原因で特に、胃、腸管、リンパ節、脾臓、肺、子宮、心臓、血管などにおいて好酸球増多を原因とする病変がみられる」
という特性を有するものであるのに対し、引用文献1に記載されたラットは、これらの特性について特に詳細に記載されていない点で一応相違する。

ここで、本願明細書によると、本願発明のラットは、信州大学医学部附属動物実験施設内の飼育室に閉鎖交配系として飼育維持されていたSlc:SDラットに由来するものであって、そこで発見された突然変異によって出現した如何なる他系をも混入しない好酸球増多症ラットを祖先として、好酸球増多症を発症する動物同士を選択的に累代交配を行ったものであって(【0013】)、選抜交配は、10週齢時に採血して白血球数および好酸球数を測定し、白血球数が12000/μl(但し、F3世代以降は17000/μl)以上で且つ好酸球数が4%以上の動物を選択することにより行ったことが記載されている(【0024】)。また、本願発明のラットの特性として、成熟時の体重は他のSDラットと比較して約20%低い傾向を示すものであることが記載されており(【0016】)、殆どの解剖動物で、現在までに脾臓、リンパ節、子宮、胃、腸管、肝臓、肺、心臓、血管、腹腔内などの臓器において好酸球の浸潤が確認されているものである(【0019】)。

そして、引用文献1は、本出願の出願人兼発明者自身が執筆した文献であって、引用文献1に記載のラットは、本願発明1のラットと同じ「mes」という名称が付与されていること、両者のラットは、その由来が共に「Slc:SD」であって、突然変異で発見された好酸球増多症を示すラットの兄妹交配により選抜するという選抜交配の方法が同一であること、体重が通常のラットと比べて20%低いという性質が一致すること、及び、好酸球の浸潤が確認された臓器が一致することからみて、引用文献1に記載されたラットは、本願発明のラットと同一であると認められる。
そうすると、引用文献1に記載のラットは、本願発明のラットと同様に請求項1の「I.?IV.」に規定する特性を本来有するものであるといえる。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載されたラットの特性を単に特定したものに過ぎず、この点は実質的な相違点とは認められないから、本願発明は引用文献1に記載された発明であると認められる。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-18 
結審通知日 2007-01-23 
審決日 2007-02-05 
出願番号 特願平11-171716
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 忠悦松本 隆彦  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
高堀 栄二
発明の名称 mes遺伝性好酸球増多症ラット  
代理人 野末 祐司  

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