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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1155938 |
審判番号 | 不服2004-20873 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-10-07 |
確定日 | 2007-04-09 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第156803号「プリント方法およびプリントシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月 6日出願公開、特開平10- 767〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成8年6月18日の出願であって、平成16年9月2日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月7日付けで本件審判請求がされるとともに、同年11月8日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成16年11月8日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正目的 本件補正は特許請求の範囲の補正を含んでおり、特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号該当)することを補正目的に含むものと認める。 そこで、本件補正後の請求項5に係る発明(以下「補正発明」という。なお、本件補正後の請求項5は補正前請求項7に対応している。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。 2.補正発明の認定 補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項5】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「制御装置に、プリント素子を複数備えるインクジェットヘッドを用いる複数のプリンタを選択的に接続し、前記制御装置によって、該制御装置に接続されるプリンタを制御してプリント媒体に画像をプリントするプリントシステムにおいて、 前記制御装置に接続されるプリンタ毎の、前記インクジェットヘッドに備えられた複数のプリント素子それぞれの濃度に関する補正データを記憶する前記制御装置内の記憶装置と、 前記プリンタに付された識別コードから前記制御装置に接続された制御対象のプリンタを識別する識別手段と、 前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から検索して読み出す検索手段と、 前記読み出した補正データを用いて、前記制御対象のプリンタのインクジェットヘッドが備える複数のプリント素子毎に対応したプリントデータを補正する補正手段と、 を備え、 前記制御装置内の前記記憶装置は、前記補正データと前記識別コードとを対応付けて記憶し、 前記検索手段は、前記記憶装置から前記識別コードを検索し、該識別コードに対応する前記補正データを読み出すことで、前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から読み出す ことを特徴とするプリントシステム。」 3.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-236276号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?キの記載が図示とともにある。 ア.「中間調の濃度を含む中間調画像を2値化する擬似中間調2値化方法において、 出力形式の異なるプリンタに対応して出力用の濃度補正テーブルを設け、 出力するプリンタに応じて当該プリンタの出力用の濃度補正テーブルを選択して当該濃度補正テーブルにより原画像を補正し、補正後の画像データに対して擬似中間調2値化処理を施すことを特徴とする画像処理方式。」(【請求項1】) イ.「従来の中間調2値化処理装置は、出力装置を1種類のみ想定し、そのプリンタの出力が高品質になるように濃度補正を行った後中間調2値化処理を行っていた。擬似中間調2値化画像は、出力装置がレーザービームプリンタか、感熱式のプリンタ、あるいはLEDプリンタ等、種々のプリンタのいずれかによって、出力画像にかなりの差が現れる。これは、ドットの形状と黒ベタ出力の関係から黒つぶれの状態が違うためである。従来、画像の中間調2値化は、レーザービームプリンタ、感熱式のプリンタ、あるいはその他の方式のプリンタのいずれかで出力した場合に高品質な画像が得られるように濃度補正した後に行っていた。」(段落【0002】) ウ.「本発明の実施例について図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施例を示す図である。同図において、1は入力部、2はテーブルA、3はテーブルB、4はセレクタ、5はプリンタ種別判別部、6は擬似中間調2値化回路、7は出力部である。」(段落【0007】) エ.「入力部1には、センサ等の画像読取装置からのディジタル変換された複数ビットの画像データが画素単位で供給される。テーブルA2は、ここではレーザービームプリンタ用の画像データ補正テーブルである。この変換テーブルを用いて、擬似中間調2値化処理後のレーザービームプリンタによる出力の視覚的な高品質過を図る。テーブルB3は、ここでは感熱式プリンタ用の画像データ補正テーブルである。セレクタ4はプリンタ種別判別部5からの信号に従ってテーブルA2による補正後のデータか、又はテーブルB3による補正後のデータかを選択し、出力する。」(段落【0008】) オ.「プリンタ種別判別部5は出力部7がレーザービームプリンタか感熱式のプリンタかでテーブルA2かテーブルB3を選択する信号を出力する。擬似中間調2値化回路6は組織的ディザあるいは誤差拡散法等の擬似中間調の2値化回路であり、入力された多値画像を2値化して出力する。」(段落【0009】) キ.「出力部7は最終的にはレーザービームあるいは感熱式のプリンタである。ただしこの画像処理装置が搭載されている機器がファクリミリの場合、出力部は符号化装置および受信側のファクシミリであり、レーザービームあるいは感熱式のプリンタである。」(段落【0010】) 4.引用例1記載の発明の認定 記載イは従来技術についての説明であるが、そこに記載の「中間調2値化処理装置」は実施例においても当然存在し、記載ウの「2はテーブルA、3はテーブルB、4はセレクタ、5はプリンタ種別判別部、6は擬似中間調2値化回路」を併せたものがこれに相当する(「入力部1」をこれに加えて認定しても差し支えない。)。 記載キが「出力部7は・・・プリンタである。・・・出力部は・・・プリンタである。」との構文になっていることからみて、出力部をプリンタと表現しても差し支えない。 そうすると、引用例1に記載されたプリントシステム(中間調2値化処理装置に出力部7を加えたもの)は次のようなものである。 「中間調2値化処理装置及び出力部たるプリンタからなるプリントシステムであって、 前記中間調2値化処理装置は、出力形式の異なるプリンタに対応した複数の濃度補正テーブル、セレクタ、プリンタ種別判別部及び擬似中間調2値化回路を備え、 前記プリンタ種別判別部は濃度補正テーブルを選択する信号を出力するものであり、 前記セレクタは、前記プリンタ種別判別部からの信号に従って、選択された濃度補正テーブルによる補正後の画像データを出力するものであり、 前記擬似中間調2値化回路は、前記補正後の画像データに対して擬似中間調2値化処理を施すものであるプリントシステム。」(以下「引用発明1」という。) 5.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定 以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。 引用発明1の「複数の濃度補正テーブル」は「濃度に関する補正データを記憶する」記憶装置であるということができる。同じく「セレクタ」は「選択された濃度補正テーブルによる補正後の画像データを出力する」のであるから、補正発明の「補正手段」に相当する手段は引用発明1に備わっている。引用発明1の「中間調2値化処理装置」は、これら「複数の濃度補正テーブル」及び「セレクタ」並びに「擬似中間調2値化回路」を備えているから、複数のプリンタを選択的に接続する「制御装置」ということができる。 引用発明1の「プリンタ種別判別部」は補正発明の「制御装置に接続された制御対象のプリンタを識別する識別手段」に相当するものである。ただし、補正発明の「補正データ」が「複数のプリント素子それぞれの濃度に関する補正データ」であるため、「プリンタを識別する」に当たっても、プリンタ種別ではなく個体毎の識別である点は相違点になるが、「プリンタを識別」及び「プリンタ毎の濃度に関する補正データ」との限度では一致点に含める。識別内容の相違は、「補正データ」の内容や「プリンタに付された識別コード」等により認定する。 引用発明1の「セレクタ」は、「選択された濃度補正テーブルによる補正後の画像データを出力する」のであるが、その前提として、引用発明1においては、選択された濃度補正テーブルのデータを読み出すと解すべきであるから、引用発明1の「中間調2値化処理装置」は、「制御対象のプリンタに対応する補正データを記憶装置から読み出す手段」との限度で補正発明の「検索手段」と一致する手段を備えている。 したがって、補正発明と引用発明1とは、 「制御装置に、複数のプリンタを選択的に接続し、前記制御装置によって、該制御装置に接続されるプリンタを制御してプリント媒体に画像をプリントするプリントシステムにおいて、 前記制御装置に接続されるプリンタ毎の濃度に関する補正データを記憶する前記制御装置内の記憶装置と、 前記制御装置に接続された制御対象のプリンタを識別する識別手段と、 前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から読み出す手段と、 前記読み出した補正データを用いて、前記制御対象のプリンタのプリントデータを補正する補正手段とを備えたプリントシステム。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉制御装置に接続される複数のプリンタにつき、補正発明が「プリント素子を複数備えるインクジェットヘッドを用いる複数のプリンタ」と限定しているのに対し、引用発明1にはそのような限定がない点。 〈相違点2〉「濃度に関する補正データ」につき、補正発明が「プリンタ毎の、前記インクジェットヘッドに備えられた複数のプリント素子それぞれの濃度に関する補正データ」としているのに対し、引用発明1では「出力形式の異なるプリンタに対応した」データである点。 〈相違点3〉「識別手段」につき、補正発明が「プリンタに付された識別コードから」識別すると限定しているのに対し、引用発明1にはそのような限定がない点。 〈相違点4〉プリントデータの補正につき、補正発明が「制御対象のプリンタのインクジェットヘッドが備える複数のプリント素子毎に対応したプリントデータを補正」としているのに対し、引用発明1では相違点2に係る構成と相俟って、出力形式に対応して補正するものと解される点。 〈相違点5〉補正発明が記憶装置における記憶形態を「前記補正データと前記識別コードとを対応付けて記憶」と限定し、読み出し手段を「前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から検索して読み出す検索手段」と限定しているのに対し、引用発明1にはこれら限定がない点。 なお、補正発明において「前記検索手段は、前記記憶装置から前記識別コードを検索し、該識別コードに対応する前記補正データを読み出すことで、前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から読み出す」としている点は、相違点3及び相違点5に係る構成を採用した結果にすぎないので、別途独立した相違点には該当しない。 6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断 (1)相違点1について 引用発明1は「擬似中間調2値化処理を施す」ものであり、「組織的ディザあるいは誤差拡散法等の擬似中間調の2値化回路であり、入力された多値画像を2値化して出力する」(記載オ)ものであるが、そのような出力が有効なプリンタとして「プリント素子を複数備えるインクジェットヘッドを用いるプリンタ」(以下「インクジェットプリンタ」という。)は周知である。 したがって、引用発明1の「プリンタ」をインクジェットプリンタとすることは設計事項であり、複数のインクジェットプリンタを選択的に接続することも設計事項であるから、結局のところ、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項である。 (2)相違点2,4について 原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-295675号公報(以下「引用例2」という。)には、 「本発明は複数の記録素子を有する記録ヘッドにより画像を記録するようにした画像記録装置に関する。」(2頁右上欄3?5行)、 「このような装置では、記録ヘッドの製造プロセスによる特性ばらつきや、記録ヘッド構成材料の特性ばらつき等により出力画像に濃度のむらが発生することがあった。このような問題点を解決した画像記録装置としては、記録ヘッドを構成する記録素子の出力特性に応じたデータを記憶し、記憶されたデータに基づき、入力画像データを補正し、濃度むらを防止するようにした装置が提案されている。」(2頁右上欄12行?左下欄1行)、 「記録ヘッド1C,1M、1Y,1Bkは、256個の吐出口を有し、熱により気泡を形成してその圧力でインク滴を吐出するようになっており、図示しないインクタンクからインクチューブを介して、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)の各色のインクが供給されている。」(3頁右上欄5?10行)及び 「0?60の61種類の値を有するむら補正信号を256個の吐出口分だけ記憶しており、入力される画像信号と同期してむら補正信号30C,30M,30Y,30Bkを出力する。」(5頁左上欄19行?右上欄2行)などの記載があり、これら記載からみて引用例2に示されたプリンタはインクジェットプリンタであり、「複数のプリント素子それぞれの濃度に関する補正データ」によりプリントデータを補正することが記載されている。当然、その補正データは、同一機種であってもプリンタ個体毎に異なる。 引用発明1のプリンタをインクジェットプリンタとすることが設計事項であることは(1)で述べたとおりであるが、インクジェットプリンタを採用する場合に、引用例2記載の技術を併せ採用することは当業者にとって想到容易である。 ところで、引用例2には、1つの制御装置に複数のインクジェットプリンタを接続することに関する記載は一切なく、制御装置とプリンタは1対1の関係になると解される。制御装置とプリンタが1対1の関係にあれば、補正データをどこに記憶するかは問題にならないが、引用発明1では補正データ(データの内容は引用例2記載のものとは異なる。)を濃度補正テーブルとして中間調2値化処理装置内に記憶しているのであるから、引用発明1に引用例2記載の技術を採用する場合には、中間調2値化処理装置内に記憶するのが自然であり、それは設計事項というべきである。 そして、引用例2記載の技術を採用し、「複数のプリント素子それぞれの濃度に関する補正データ」を中間調2値化処理装置内に記憶するからには、「制御対象のプリンタのインクジェットヘッドが備える複数のプリント素子毎に対応したプリントデータを補正」することは必然である。 以上のとおりであるから、相違点2,4に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 (3)相違点3について 引用例1の記載のみからは、引用発明1において制御装置(中間調2値化処理装置)と1つのプリンタが1つの器体に設けられているのか、別体として設けられているのか明らかでない。しかし、前者であれば、制御装置とプリンタは1対1の関係にあるから、制御装置内に「複数の濃度補正テーブル」を設けなければならない積極的理由が見あたらず、後者解釈が妥当である。 そればかりか、制御装置とプリンタを別体とし、1つの制御装置に複数のプリンタを同時に接続したプリントシステムは周知である(例えば、特開平2-258272号公報に「本発明の目的は、・・・共通の外部装置と異なった特性の複数種のプリンタとを用いて1つのシステムを構成した場合でも、各プリンタの特性に合わせてプリンタ毎に最適な高品位の可視画像出力が常に得られる記録装置を提供することにある。」(2頁右下欄2?7行)、「プリンタ毎に異なる記録特性に関する情報を装置特性信号としてホストコンピュータやコントローラ等の外部装置に出力するように構成し、外部装置においてその装置特性データに基いてそのプリンタの記録特性に対応した最適な画像処理補正を画像データに対して行ってプリンタへ入力できるようにした」(3頁左上欄3?9行)及び「コントローラAとプリンタBは夫々別箇体」(3頁右上欄8?9行)と記載されているとおりである。)から、引用例1に接した当業者であれば、上記後者解釈を採用し、中間調2値化処理装置に複数のプリンタを同時に接続することには何の困難性もない。 そして、制御装置と1つのプリンタが1つの器体に設けられており、1対1の関係にある場合には、選択すべき「濃度補正テーブル」は1つだけであるから、どのテーブルを採用すべきかの情報を「プリンタ種別判別部」が有しておれば十分であり、ことさら「プリンタに付された識別コードから」識別する必要はないであろう。 しかし、制御装置に複数のプリンタを同時に接続した場合には全く状況が異なる。なぜなら、プリンタの個体毎に異なる補正データを制御装置(中間調2値化処理装置)に記憶するのであれば、どのプリンタを用いるかによって、読み出すべき補正データが異なるから、使用するプリンタを特定(機種の特定ではなく個体の特定)した上で、特定された個体用の補正データを読み出さなければならないからである。 ところで、制御装置とプリンタの通信についてみると、制御装置からプリンタに情報が送信されることは当然であるが、その逆にプリンタから制御装置に対しても種々のデータを送信することは周知である。そのことは、例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-67168号公報及び特開平5-341928号公報にプリンタの機種名コードやプリンタの種類を送信することが記載されていることによって裏付けられる。ここで、引用発明1に引用例2記載の技術及び上記周知技術を採用した場合には、プリンタ個体毎に異なる補正データを読み出さねばならないのだから、制御装置(中間調2値化処理装置)に必要な情報がプリンタ個体を識別する情報であることは自明であり、同情報は補正発明の「プリンタに付された識別コード」に相当する。 以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 (4)相違点5について 相違点2,3に係る補正発明の構成を採用することの容易性は既に述べたとおりである。すなわち、プリンタ毎のインクジェットヘッドに備えられた複数のプリント素子それぞれの濃度に関する補正データを制御装置内に記憶し、プリンタに付された識別コードから制御対象のプリンタを識別することは当業者にとって想到容易である。 相違点2,3に係る補正発明の構成を採用した場合には、制御装置にはプリンタ毎の異なる補正データが記憶されているから、プリンタに付された識別コードに基づき、どの補正データを読み出すべきかを決定しなければならないことは当然である。 一般に異なるデータを読み出すに当たり、データが所属する対象を特定する情報(補正発明では「プリンタに付された識別コード」)とデータを対にして記憶し(相違点5の「対応付けて記憶」に相当)、対象を特定する情報を手掛かりとして読み出すべきデータを検索することは、データベースを構築し、検索する上での周知技術である。 そうである以上、相違点2,3に係る補正発明の構成の採用を前提とした場合に相違点5に係る補正発明の構成を採用することは設計事項であり、引用発明1を出発点とした場合には当業者にとって想到容易である。 (5)補正発明の独立特許要件の判断 以上のとおり、相違点1?5に係る補正発明の構成を採用することは、設計事項又は当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、補正発明は引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 [補正の却下の決定のむすび] 特許請求の範囲の減縮を目的として補正された補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない、すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により本件補正は却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 1.本願発明の認定 本件補正が却下されたから、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年4月26日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項7】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「制御装置に、プリント素子を複数備えるインクジェットヘッドを用いる複数のプリンタを選択的に接続し、前記制御装置によって、該制御装置に接続されるプリンタを制御してプリント媒体に画像をプリントするプリントシステムにおいて、 前記制御装置に接続されるプリンタ毎の制御に関する補正データを記憶する記憶装置と、 前記プリンタに付された識別コードから前記制御装置に接続された制御対象のプリンタを識別する識別手段と、 前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から検索して読み出す検索手段と、 前記読み出した補正データを用いて前記制御対象のプリンタの制御内容を補正する補正手段と、 を備え、 前記記憶装置は、前記補正データとして、前記プリンタのプリント素子毎の制御に関する補正データを記憶する ことを特徴とするプリントシステム。」 2.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点 本願発明の「補正手段」は「制御対象のプリンタの制御内容を補正する」とあるが、補正前請求項7を補正した補正発明では「プリントデータを補正する」とされており、プリントデータの補正は結果的にプリンタの制御内容の補正に結びつくから、この点は本願発明と引用発明1との一致点とすべきである。また、引用発明1における「濃度補正テーブル」は「プリンタ毎の制御に関する補正データ」を記憶したものである。 したがって、本願発明と引用発明1とは、 「制御装置に、複数のプリンタを選択的に接続し、前記制御装置によって、該制御装置に接続されるプリンタを制御してプリント媒体に画像をプリントするプリントシステムにおいて、 前記制御装置に接続されるプリンタ毎の制御に関する補正データを記憶する記憶装置と、 前記制御装置に接続された制御対象のプリンタを識別する識別手段と、 前記識別した制御対象のプリンタに対応する補正データを前記記憶装置から読み出す手段と、 前記読み出した補正データを用いて前記制御対象のプリンタの制御内容を補正する補正手段とを備えたプリントシステム。」である点で一致し、「第2[理由]5」で述べた相違点1,3及び次の各点で相違する(相違点1,3については「補正発明」を「本願発明」と読み替える。) 〈相違点2’〉「補正データ」につき、本願発明が「プリンタのプリント素子毎の制御に関する補正データ」としているのに対し、引用発明1では「出力形式の異なるプリンタに対応した」データである点。 〈相違点5’〉本願発明が読み出し手段を「記憶装置から検索して読み出す検索手段」と限定しているのに対し、引用発明1では検索するのかどうか明らかでない点。 3.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 相違点1,3については「第2[理由]6」で述べたとおり、設計事項又は当業者にとって想到容易であり(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)、相違点2’及び相違点5’については、「第2[理由]6」で相違点2及び相違点5について述べたと同様の理由により当業者にとって想到容易である。 また、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-02-09 |
結審通知日 | 2007-02-16 |
審決日 | 2007-02-27 |
出願番号 | 特願平8-156803 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小松 徹三、後藤 時男 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
國田 正久 尾崎 俊彦 |
発明の名称 | プリント方法およびプリントシステム |
代理人 | 谷 義一 |
代理人 | 阿部 和夫 |
復代理人 | 伊藤 勝久 |