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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1156128
審判番号 不服2005-12640  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-04 
確定日 2007-04-13 
事件の表示 平成 6年特許願第 21658号「画像信号符号化装置及び画像信号復号化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月29日出願公開、特開平 7-231449〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.経緯

1.手続
本願は、平成6年2月21日の出願であって、平成16年1月26日及び平成16年10月29日付けでそれぞれ手続補正がなされたが、平成16年10月29日付けの手続補正は平成17年5月30日付けで決定をもって却下され、同日付けで本願は拒絶査定された。
本件は、本願についてされた上記拒絶査定を不服とする平成17年7月4日の審判請求であり、同年8月3日付けで手続補正書が提出された。


2.査定
原査定の理由は、概略、以下のとおりである。

理 由
本願の請求項1?8に係る発明は、下記刊行物1、2に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開平2-33285号公報
刊行物2:特開平5-130592号公報






第2.補正の却下の決定
平成17年8月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という)について、以下のとおり決定する。

[結論]
平成17年8月3日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前、平成16年1月26日付け手続補正書(平成16年10月29日付け手続補正は、拒絶査定と同日(平成17年5月30日)付けで補正却下されている)により補正された特許請求の範囲についてする補正であり、

「 【請求項1】 画像信号を符号化する画像信号符号化装置において、
前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化すると共に、前記画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグも符号化する符号化手段を具備し、
前記符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含む
ことを特徴とする画像信号符号化装置。
【請求項2】 前記フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいて設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像信号符号化装置。
【請求項3】 前記符号化手段が符号化するビットストリームの前記画像情報の符号化ビットレートに基づき、前記符号化条件フラグを設定するフラグ設定手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の画像信号符号化装置。
【請求項4】 所定の予測画像信号に基づき画像信号を符号化した符号化画像信号を復号化する画像信号復号化装置において、
前記符号化画像信号は、前記画像信号及び前記画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグとからなり、
前記符号化条件フラグに基づいて、復号化された前記画像信号を補正する画像補正手段を具備し、
前記符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含む
ことを特徴とする画像信号復号化装置。
【請求項5】 前記フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいて設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の画像信号復号化装置。
【請求項6】 前記符号化条件フラグは、符号化されたビットストリームの前記画像情報の符号化ビットレートに基づき設定される
ことを特徴とする請求項4に記載の画像信号復号化装置。
【請求項7】 前記画像補正手段は、複数のフィルタからなり、前記符号化条件フラグに基づいて複数の前記フィルタを選択して前記画像信号を補正する
ことを特徴とする請求項4に記載の画像信号復号化装置。
【請求項8】 前記フィルタは、メディアンフィルタである
ことを特徴とする請求項7に記載の画像信号復号化装置。」

の記載を、

「 【請求項1】 画像信号を符号化する画像信号符号化装置において、
前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化すると共に、前記画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグも符号化する符号化手段を具備し、
前記符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含み、該フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいてポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する
ことを特徴とする画像信号符号化装置。
【請求項2】 前記符号化手段が符号化するビットストリームの前記画像情報の符号化ビットレートに基づき、前記符号化条件フラグを設定するフラグ設定手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の画像信号符号化装置。
【請求項3】 所定の予測画像信号に基づき画像信号を符号化した符号化画像信号を復号化する画像信号復号化装置において、
前記符号化画像信号は、前記画像信号及び前記画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグとからなり、
前記符号化条件フラグに基づいて、ポストフィルタの各種フィルタからフィルタを選択する選択手段と、
前記選択されたフィルタに基づいて復号化された前記画像信号を補正する画像補正手段を具備し、
前記符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含み、該フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生した各パラメータに基づいて前記ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する
ことを特徴とする画像信号復号化装置。
【請求項4】 前記符号化条件フラグは、符号化されたビットストリームの前記画像情報の符号化ビットレートに基づき設定される
ことを特徴とする請求項3に記載の画像信号復号化装置。」

と補正することを含むものである。





2.本件補正の適合性

(1)補正の範囲(第17条の2第2項において準用する第17条第2項)
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載に基づくものであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。




(2)補正の目的(第17条の2第3項第1号?4号)

ア.新請求項1について
新請求項1は、旧請求項1又は旧請求項1を引用する旧請求項2の「フィルタ選択フラグ」を、「前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいてポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」と減縮したものであるから、旧請求項1又は2を減縮したものであるとみることができる。

イ.新請求項2について
新請求項2は、旧請求項3の記載内容と同一であり、旧請求項3に対応するものといえる。そして、旧請求項3は旧請求項1を引用しているが、新請求項2は、旧請求項1又は旧請求項1を引用する旧請求項2を減縮したものといえる新請求項1を引用するものであるから、旧請求項1?3を減縮したものとみることができる。

ウ.新請求項3について
新請求項3は、旧請求項4若しくは旧請求項4を引用する旧請求項5の「画像補正手段」を減縮したもの又は旧請求項4を引用する旧請求項7の「フィルタ」を「ポストフィルタ」と減縮したものであるから、旧請求項4、5又は7を減縮したものとみることができる。

エ.新請求項4について
新請求項4は、旧請求項6の記載内容と同一であり、旧請求項6に対応するものといえる。そして、旧請求項6は旧請求項4を引用しているが、新請求項4は、旧請求項4又は旧請求項4を引用する旧請求項5若しくは旧請求項7を減縮したものといえる新請求項3を引用するものであるから、旧請求項4?7を減縮したものとみることができる。

そして、いずれの請求項も、補正の前後において産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。




(3)独立特許要件(第17条の2第5項)
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで検討をする。

ア.補正後の本願発明
本件補正後の前記請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という)は、以下のとおりのものである。

「画像信号を符号化する画像信号符号化装置において、
前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化すると共に、前記画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグも符号化する符号化手段を具備し、
前記符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含み、該フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいてポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する
ことを特徴とする画像信号符号化装置。」

ここで、上記請求項1に「該フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいてポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」とある記載については、「該フィルタ選択フラグ」と「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」と「ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」との間の関係が不明瞭である。
そこで、本願明細書の段落【0126】?【0131】の記載を参酌すると、「該フィルタ選択フラグ」は「PSTフラグ」に対応し、「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」は「1フレーム中の量子化係数」に対応することが明らかである。
また、段落【0120】、【0121】の記載及び第4図等によれば、最適フィルタは、「PSTフラグ」により選択されることがわかる。
以上のことから、上記請求項1に「該フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づいてポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」とある記載については、以下の意を指しているものと認定する。

「該フィルタ選択フラグは、前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づくものであって、ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択するものである」



イ.刊行物

[刊行物1]
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平2-33285号公報(以下「刊行物1」という)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(ア)「ビデオシーン・デコーダの1つの特定の形式では符号化過程でDCT(離散的コサイン変換)が応用される。像範囲は互いに境界を接する、重ならない部分範囲、すなわち“ブロック”に分割されており、これらのブロックのなかでそれぞれDCTが応用される。低いデータ転送率、たとえば64kbit/s、に対するコーダでは、符号化過程での転送率を制限するため、種々の方法が応用される。なかんずく、個々のブロックに対するDCT変換範囲内の係数の数を制限すること、すなわち“周波数制限”を行うことは1つの典型的なやり方である。この周波数制限の結果として像のなかにいわゆるブロッキングアーチファクトが生じ得る。その際にブロック構造が煩わしい形態で可視的になる。」(第2ページ右上欄第15行?同左下欄第9行)

(イ)「本発明の課題は、冒頭に記載した種類の方法であって、ブロッキングアーチファクトの減少により低いデータ転送率で伝送される像の質の改善を簡単な仕方で可能にする方法を提供することである。」(第2ページ右下欄第6?10行)

(ウ)「本発明によれば、符号化過程で応用されるブロック内の周波数制限に関する情報、すなわちいわゆる周波数制限パラメータが利用される。」(第2ページ右下欄第17?19行)

(エ)「1つのDCT/DPCMハイブリッドコーダの一般的な回路図が第1図に示されている。」(第3ページ右上欄第1、2行)

(オ)「コーダから個々のブロックに対応付けられている“周波数制限パラメータ”がデコーダに送られる。デコーダにおいてこれらのパラメータはデコーダ出力端において、すなわちDPCMループの後で“ブロックフィルタリング”を制御する役割をする。この例では本方法は復号された像の後処理として応用される。」(第3ページ右上欄第5?11行)

(カ)「“ブロックフィルタ”法
先に一般的に説明されたように、像信号は、DCT変換範囲内で周波数制限された後に、像ブロックごとに1つの低域通過信号と、1つのブロック境界において鏡映されたそれぞれ1つの付属の信号とから成っており、両信号はそれぞれ像ブロック上で制限されている。
本発明の発明思想は、各像ブロックのなかに存在する周波数制限された信号から、ブロックを覆っている補正範囲のなかに近似的に低域通過信号のみを、鏡映された低域通過信号成分なしに構成し、かつ加算的に重畳することにある。
先の説明に相応して、その際に“ブロックフィルタリング”は、それぞれ一次元に像行のなかまたは像列のなかで実行される部分演算に分割されていなければならない。
本方法の1つの好ましい実施例では、2つの隣接する像ブロックの補正範囲内の“ブロックフィルタリング”を制御するため、共通の周波数制限パラメータNとして、個々のブロックに対応付けられている各周波数制限パラメータの大きいほうがとられる、(5)参照。」(第5ページ左下欄第2行?同右下欄第3行)

(キ)「“ブロックフィルタ”部分演算の結果STは
S ̄T(ξ)=S ̄T1(ξ)+S ̄T2(ξ)
=ST(ξ)+L(ξ)-L∧(ξ)
第4c図参照 (11)
ξε:補正範囲K(N)
である。ここで
ST(ξ)=ST1(ξ)+ST2(ξ)
:存在する像信号の“ブロックフィルタ”部分演算の前
L(ξ)=L1(ξ)-L∧2(ξ)
=H-2H(N/NB)(ξ-ξ0)
:ξε(ξ0,ξ0+(1/2)(NB/N)に対して
0:上記以外に対して (11’)
H=H1-H2=(1/2)(ST(l0)-ST(l0+1))
L∧(ξ)はL(ξ)に対してξ=ξ0において鏡映された線形間数片である。」(第6ページ右下欄第3行?第7ページ左上欄第1行)(なお、刊行物1原文においては、上記「S ̄」は、大文字Sにアッパーラインが付いた記号、上記「L∧」は、大文字Lの上に∧が付いた記号でそれぞれ記載されている。)


[刊行物2]
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平5-130592号公報(以下「刊行物2」という)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(ク)「量子化回路205で量子化されたDCT係数の情報、スイッチ203でフレーム内予測およびフレーム間予測のいずれの予測が選ばれたかを示すフレーム内/フレーム間判別情報、動きベクトル検出回路213で得られた動きベクトル情報および符号化制御回路216で設定された量子化回路205の量子化ステップサイズの情報は、可変長符号化回路206に送られて可変長符号化され、多重化された後、伝送バッファ207を経て端子218から受信側または蓄積メディアに供給される。」(段落【0022】)

(ケ)「そして、このステップサイズQ′の情報に基づき、ステップサイズQ′と可変特性フィルタ212の特性との間に予め設定した対応関係に基づいて、フィルタ212の特性を切替える。」(段落【0025】)

(コ)「ここで、ステップサイズQ′と可変特性フィルタ212のフィルタ特性との対応のさせ方のポイントは、図4に示されるように量子化ステップサイズQ′が大きい値であるほど、可変特性フィルタ212に用いる低域通過フィルタの通過域を狭帯域にするという点である。」(段落【0027】)

(サ)「次に、図7を参照して図5の動画像符号化装置に対応する動画像復号化装置の実施例を説明する。」(段落【0034】)

(シ)「一方、可変長復号化回路302から出力される量子化ステップサイズの情報はステップサイズメモリ309に記憶される。電力スペクトル推定回路310は、動きベクトルによって指定された位置の予測信号の中で、実際の信号成分がどのような周波数成分を持つかを推定する。これらステップサイズメモリ309に記憶された量子化ステップサイズと、電力スペクトル推定回路310で推定された情報に基づいて、図6の実施例と全く同様に可変特性フィルタ307の特性が制御される。」(段落【0036】)

(ス)「なお、本発明の他の実施例として、動画像符号化装置から可変特性フィルタの特性を示す情報をサイド情報として伝送し、その情報に基づいて動画像復号装置において図7の可変特性フィルタ307の特性を設定してもよい。その場合、図7におけるステップサイズメモリ309および電力スペクトル推定回路310は不要となる。」(段落【0037】)



ウ.対比
本願補正発明と刊行物1に記載の発明(以下「刊行物1発明」という)とを対比する。

(ア)本願補正発明の「画像信号を符号化する画像信号符号化装置」について

上記第2.2.(3)イ.(エ)で指摘した箇所の記載によれば、第1図はDCT/DPCMハイブリッドコーダの一般的な回路図であるから、第1図に(a)として記載されている「コーダ」が、本願補正発明でいう「画像信号を符号化する画像信号符号化装置」に相当することは明らかである。


(イ)本願補正発明の「符号化条件フラグ」について

上記第2.2.(3)イ.(ア)、第2.2.(3)イ.(イ)で指摘した箇所にあるように、刊行物1発明は、像範囲を複数のブロックに分割し、個々のブロックに対するDCT変換範囲内の係数の数を制限することにより、符号化過程での転送率を制限するよう構成されたコーダを前提とし、上記第2.2.(3)イ.(ウ)、第2.2.(3)イ.(オ)で指摘した箇所にあるように、符号化過程で応用されるブロック内の周波数制限に関する情報、すなわち周波数制限パラメータをコーダからデコーダに送り、デコーダにおいて周波数制限パラメータよりブロックフィルタリングを制御するよう構成するものである。
刊行物1発明における「周波数制限パラメータ」は、符号化過程で応用されるブロック内の周波数制限に関する情報であるから、「画像信号を符号化する際に発生するパラメータ」であるといえる。

上記第2.2.(3)イ.(オ)には「個々のブロックに対応付けられている“周波数制限パラメータ”・・・これらのパラメータはデコーダ出力端において、すなわちDPCMループの後で“ブロックフィルタリング”を制御する役割をする。」とある。
上記第2.2.(3)イ.(カ)には「“ブロックフィルタリング”は、それぞれ一次元に像行のなかまたは像列のなかで実行される部分演算に分割されていなければならない。」とある。
上記第2.2.(3)イ.(キ)には「ブロックフィルタリング」の「部分演算」を示す演算式が記載されており、それらの演算式は「隣接する像ブロックに対応付けられている各周波数制限パラメータ」の内の大きい方である「N」を変数に含んでいる。
これらの記載からして、「ブロックフィルタリング」は、「隣接する像ブロックに対応付けられている各周波数制限パラメータ」の内の大きい方である「N」を変数とした演算の実行によるものであることが明らかである。
よって、刊行物1発明における「ブロックフィルタリング」の「特性」は、「隣接する像ブロックに対応付けられている各周波数制限パラメータ」に基づいて設定されるものといえる。

刊行物1発明の上記「隣接する像ブロックに対応付けられている各周波数制限パラメータ」は、「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」であるとともに、「画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグ」でもあるといえる。

上記第2.2.(3)イ.(オ)で指摘した箇所の記載によれば、「ブロックフィルタリング」は、デコーダ出力端で復号された像の後処理として行われるから、「ポストフィルタ」であるといえる。

よって、刊行物1発明には、「符号化条件フラグは、ポストフィルタの特性を設定する」構成の存在が認められる。
一方、本願補正発明においても、「符号化条件フラグ」に含まれる「フィルタ選択フラグ」により「ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」ことは、「符号化条件フラグ」により「ポストフィルタの特性を設定する」ことであるから、結局、「符号化条件フラグ」が「ポストフィルタの特性を設定する」ものである点で、刊行物1発明と本願補正発明とは一致しているといえる。
もっとも、「符号化条件フラグは、ポストフィルタの特性を設定する」構成が、
本願補正発明では、「符号化条件フラグ」に含まれるとともに「前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」に基づいた「フィルタ選択フラグ」により、「ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」ことによるものであるのに対し、
刊行物1発明では、「前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」そのものである「符号化条件フラグ」により、「ポストフィルタ」の演算内容を「設定する」ことによるものである。相違が認められる。


(ウ)本願補正発明の「符号化手段」について

刊行物1の第1図に(a)として記載されている「コーダ」は、「DCT」、「周波数制限量子化」、「逆DCT」、「フレームメモリ」、「予測」及び「ハフマンコーダ」、と記載された複数のブロックから構成されているものの、それら各ブロックが何であるかについては何ら記載がない。
しかし、上記第2.2.(3)イ.(エ)で指摘した箇所の記載によれば、第1図がDCT/DPCMハイブリッドコーダの一般的な回路図であるから、「フレームメモリ」と称されているブロックからの出力が予測画像信号であることは当業者にとって明らかである。

また、刊行物1の第1図における、入力端からのビデオ信号とフレームメモリからの予測画像信号との差をとる減算手段「-」並びに「DCT」、「周波数制限量子化」、「逆DCT」、「フレームメモリ」、「予測」及び「ハフマンコーダ」と記載されている各ブロックを合わせたものの動作が、本願補正発明でいう「前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化する」に相当することも当業者にとって明らかである。

以上によれば、刊行物1発明の減算手段「-」並びに「DCT」、「周波数制限量子化」、「逆DCT」、「フレームメモリ」、「予測」及び「ハフマンコーダ」と記載されている各ブロックを合わせたものは、本願補正発明でいう「符号化手段」に対応するといえる。
もっとも、刊行物1発明の「符号化条件フラグ」は、第1図によれば、ハフマンコーダを介さないで直接バッファに入力されるから、少なくとも「符号化手段」で符号化されるわけではない。相違が認められる。


(エ)一致点、相違点

以上から、本願補正発明と刊行物1発明とは、
[一致点]
「画像信号を符号化する画像信号符号化装置において、
前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化する符号化手段を具備し、
符号化条件フラグは、ポストフィルタの特性を設定する
ことを特徴とする画像信号符号化装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

[相違点1]
「符号化条件フラグは、ポストフィルタの特性を設定する」構成が、
本願補正発明では、「符号化条件フラグ」に含まれるとともに「前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータに基づい」た「フィルタ選択フラグ」により、「ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」ことによるものであるのに対し、
刊行物1発明では、「前記画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」そのものである「符号化条件フラグ」により、「ポストフィルタ」の演算内容を「設定する」ことによるものである点。

[相違点2]
「符号化条件フラグ」が、本願補正発明では、「符号化手段」で符号化されるのに対し、刊行物1発明では、「符号化手段」で符号化されない点。



エ.判断
上記各相違点について検討する。

(ア)[相違点1]について

a.刊行物2発明
上記第2.2.(3)イ.(ケ)?第2.2.(3)イ.(ス)で指摘した箇所には、復号化装置に設けられている可変特性フィルタ307の特性を示す情報をサイド情報として、符号化装置から復号化装置に伝送し、その情報に基づいて復号化装置に設けられている可変特性フィルタ307の特性を設定する構成が記載されている。
ここで、サイド情報として伝送される「可変特性フィルタ307の特性を示す情報」と復号化装置に設けられている「可変特性フィルタ307の特性」とは1対1の関係にあるから、「可変特性フィルタ307の特性を示す情報」は、可変特性フィルタ307の各種特性から最適な特性を選択する「フィルタ選択フラグ」であるといえる。
したがって、刊行物2には、符号化装置から復号化装置にフィルタ選択フラグを伝送し、復号化装置において、フィルタ選択フラグにより、フィルタの各種特性から最適な特性を選択するよう構成する発明(以下「刊行物2発明」という)が記載されている。

b.容易性判断
刊行物1発明において、ポストフィルタの特性は、画像信号を符号化する際に発生する各パラメータにより決定され、「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」と「ポストフィルタの特性」とは1対1の関係にあるところ、
刊行物1発明と刊行物2発明とは、符号化装置における符号化処理の過程で生じたノイズを復号化装置に設けたフィルタにより除去するものであって、符号化装置から伝送した情報により復号化装置に設けたフィルタの特性を制御するものとして一致するから、
刊行物1発明に刊行物2発明を採用し、
「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」に基づいてポストフィルタの特性を示す「フィルタ選択フラグ」を決定し、「フィルタ選択フラグ」を「符号化条件フラグ」とし、「フィルタ選択フラグ」により「ポストフィルタの各種特性から最適な特性を選択する」よう構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、そのようにする場合、一般に、フィルタの各種特性から最適な特性を選択するための具体的手法として、各種フィルタから最適なフィルタを選択する手法を採用することは分野を問わず周知であるから(周知例1:特開平4-10884号公報(第6図)、周知例2:特開平6-38197号公報(段落【0080】及び第6図)参照)、上記「ポストフィルタの各種特性から最適な特性を選択する」の構成を、「ポストフィルタの各種フィルタから最適なフィルタを選択する」ものとすることは、単なる設計事項にすぎない。
また、一般に、画像信号の符号化装置において、動き量や量子化ステップサイズ等の符号化条件を示す様々なサイド情報を復号化装置に伝送することも周知であるから(周知例3:平成15年11月25日付けの拒絶理由通知に引用された刊行物である特開平3-124143号公報(第5ページ右上欄第9?16行及び第1図)参照)、刊行物1発明においても、「符号化条件フラグ」に、符号化条件を示す様々なサイド情報を含めることで、「符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含み」とすることも、単なる設計事項にすぎない。

(イ)[相違点2]について
一般に、画像信号の符号化装置において、復号化の際必要となるサイド情報を符号化手段により符号化して伝送することは周知であるから(刊行物2の上記第2.2.(3)イ.(ク)で指摘した箇所、上記周知例3(第5ページ右上欄第9?16行及び第1図)参照)、刊行物1発明においても、符号化条件フラグを符号化手段により符号化して伝送するよう構成することは単なる設計事項にすぎない。



オ.効果等
以上のとおり、上記相違点1、2に係る本願補正発明の構成は、いずれも当業者が容易に想到し得たものであるところ、上記各相違点を総合しても格別の作用効果を奏するものとはいえず、本願補正発明を全体としてみても、その作用効果は、刊行物1、2から当業者が予測できる範囲のものである。



カ.まとめ(独立特許要件)
以上によれば、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。




(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合しないものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。






第3.本願発明
平成17年8月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明は、平成16年1月26日付け手続補正書(平成16年10月29日付け手続補正は、拒絶査定と同日(平成17年5月30日)付けで補正却下されている)により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのもの(以下「本願発明」という)である。

「画像信号を符号化する画像信号符号化装置において、
前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化すると共に、前記画像信号の符号化条件を示す符号化条件フラグも符号化する符号化手段を具備し、
前記符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含む
ことを特徴とする画像信号符号化装置。」





第4.査定の検討

1.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物1、2には、上記第2.2.(3)イ.に記載したとおりの記載がある。


2.対比
そこで、本願発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」という)とを比較すると、本願発明と刊行物1発明との対応関係については、上記第2.2.(3)ウ.に記載したとおりであるところ、これを援用する。

本願発明と刊行物1発明とは、
[一致点]
「画像信号を符号化する画像信号符号化装置において、
前記画像信号を所定の予測画像信号に基づいて符号化する符号化手段を具備する
ことを特徴とする画像信号符号化装置。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

[相違点1]
「符号化条件フラグ」が、
本願発明では「少なくともフィルタ選択フラグを含む」のに対し、
刊行物1発明では、画像信号を符号化する際に発生する各パラメータそのものである点。

[相違点2]
「符号化条件フラグ」が、本願発明では、「符号化手段」で符号化されるのに対し、刊行物1発明では、「符号化手段」で符号化されない点。


3.相違点の判断

(1)[相違点1]について

ア.刊行物2発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2には、上記第2.2.(3)エ.に記載したとおりの発明(以下「刊行物2発明」という)が記載されている。

イ.容易性判断
刊行物1発明において、ポストフィルタの特性は、画像信号を符号化する際に発生する各パラメータにより決定され、「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」と「ポストフィルタの特性」とは1対1の関係にあるところ、
刊行物1発明と刊行物2発明とは、符号化処理の過程で生じたノイズを復号化装置に設けたフィルタにより除去するものであって、符号化装置から伝送した情報により、復号化装置に設けたフィルタの特性を制御するものとして一致するから、
刊行物1発明に刊行物2発明を採用し、
「画像信号を符号化する際に発生する各パラメータ」に基づいてポストフィルタの特性を示す「フィルタ選択フラグ」を決定し、「フィルタ選択フラグ」を「符号化条件フラグ」とし、「フィルタ選択フラグ」により、「ポストフィルタの各種特性から最適な特性を選択する」よう構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、一般に、画像信号の符号化装置において、動き量や量子化ステップサイズ等の符号化条件を示す様々なサイド情報を復号化装置に伝送することも周知であるから(上記周知例3(第5ページ右上欄第9?16行及び第1図)参照)、刊行物1発明においても、「符号化条件フラグ」に符号化条件を示す様々なサイド情報を含めることで、「符号化条件フラグは、少なくともフィルタ選択フラグを含み」とすることは、単なる設計事項にすぎない。

(2)[相違点2]について
上記第2.2.(3)エ.で[相違点2]について判断したとおりであるから、刊行物1発明においても、符号化条件フラグを符号化手段により符号化して伝送するよう構成することは単なる設計事項にすぎない。

以上のとおり、上記相違点1、2に係る本願発明の構成は、いずれも当業者が容易に想到し得たものであるところ、上記各相違点を総合しても格別の作用効果を奏するものとはいえず、本願発明を全体としてみても、その作用効果は、刊行物1、2から当業者が予測できる範囲のものである。


4.まとめ(査定の検討)
したがって、本願発明は、上記刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。






第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-16 
結審通知日 2007-02-19 
審決日 2007-03-02 
出願番号 特願平6-21658
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國分 直樹畑中 高行  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 益戸 宏
松永 隆志
発明の名称 画像信号符号化装置及び画像信号復号化装置  
代理人 稲本 義雄  

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