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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1156625
審判番号 不服2003-17402  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-08 
確定日 2007-05-14 
事件の表示 平成 7年特許願第511106号「幅広い分子量分布を示すポリエチレンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 4月20日国際公開、WO95/10548、平成 8年 5月28日国内公表、特表平 8-504883〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1].手続きの経緯
本願は、平成5年10月15日の国際出願であって、平成14年1月16日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成14年7月24日に意見書及び手続補正書が提出され、更に、平成14年10月7日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成15年4月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成15年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成15年9月8日に審判請求がなされるとともに、平成15年10月7日に手続補正書が提出されたものである。

[2].本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年10月7日に提出された手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「直列連結している2個の液体充填ループ反応槽内で、有機マグネシウム化合物とチタン化合物との反応生成物である遷移金属成分(成分A)、有機アルミニウム化合物(成分B)および任意に1種以上の電子供与体を含む触媒を存在させ、1から100バールの絶対圧力下50から120℃、好適には60から110℃の温度で、3から10個の炭素原子を有する1種以上の他のアルファ-アルケンコモノマーを、該アルファ-アルケンコモノマーとエチレンとの合計を100モル%として、多くとも20モル%用い、水素で平均分子質量を調節することによってエチレンを共重合させる方法において、該コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行いそしてこの第一反応槽内の水素濃度を非常に低い濃度にすることにより0.01から5g/10’のHLMIを示すエチレンポリマー類が生じるようにし、そして第二反応槽内の水素圧を非常に高く維持することにより5g/10’より大きいHLMIを示すエチレンポリマー類が生じるようにし、且つ、該第一反応槽内の水素濃度を0.005から0.07体積%にし、そして第二反応槽内の水素濃度を0.5-2.2体積%にして、この重合を実施することを含む方法。」

[3].拒絶査定の理由についての判断
(3-1)引用例
原査定の拒絶の理由(特許法第29条第2項違反)には次の文献(以下、「引用例」という。)が引用され、引用例には、以下の点が記載されている。
引用例:特開昭58-13605号公報

(ア)「チーグラー型触媒の存在下にエチレンとα-オレフインとを共重合する方法において、(イ)・・・高活性触媒を用いること (ロ)極限粘度〔η〕a≧2のエチレンと炭素数5以上のα-オレフイン共重合体を30?70%生成せしめるa工程と、極限粘度〔η〕b0.3?1.0のエチレンと炭素数5以上のα-オレフイン共重合体を70?30%生成せしめるb工程からなること及び (ハ)上記〔η〕aと〔η〕bとの比〔η〕a/〔η〕bが4.5?9.0かつ共重合体の極限粘度〔η〕cが2.0?3.5であることを特徴とするエチレン系共重合体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「本件発明は・・・、衝撃強度、耐環境応力亀裂性(以下ESCRということがある。)に優れ、かつ成形加工性の高いエチレン系共重合体を効率よく製造する方法を提供することを目的としたものである。」(第2頁右上欄第15?20行)
(ウ)「重合反応は二段階に分けて単一もしくは複数の反応器にて実施し、複数の反応器を用いて行なう場合は第一段の反応帯域で、重合して得られた反応混合物を続いて、第二段の反応帯域に連続して供給する。第一段の反応帯域より第二段の反応帯域への移送は、連絡管を通して行ない、第二段反応帯域からの重合反応混合物の連続的排出による差圧により行なわれる。」(第3頁右下欄第11?18行)
(エ)「(a)工程に於いては、〔η〕>2.0のエチレンと炭素数5以上のα-オレフインとの共重合体を、液相中の水素濃度のエチレン濃度に対する重量比で調節しながら、共重合反応を行なう。この液相中の水素のエチレンに対する濃度比は、一般的に1.0×10-3(重量比)以下となるような水素の存在下にて行なう。またこの(a)工程で作られるエチレンとα-オレフインの共重合体は、〔η〕aが2.0以上即ち、粘度平均分子量で12.8×104以上の高分子量体で、共重合体中のα-オレフインの含有量は、0.2?5重量%が一般的で、特に、0.5?2.5重量%が好ましい。」(第4頁左上欄第14行?同頁右上欄第5行)
(オ)「(b)工程に於いては、〔η〕bが0.3?1.0の範囲のエチレンと他のαオレフインとの共重合体を液相に於けるエチレン濃度に対する水素濃度の濃度比を10?50×10-3(重量比)に保ち、(a)工程から流れこむ反応混合物中のα-オレフインを共重合させて行なうか、必要に応じて第二反応帯域にα-オレフインを供給してもよい。
従って(b)工程においては相対的に低分子量の(a)工程で生成するエチレンとα-オレフインとの共重合体のコモノマー含量より低い分岐度の共重合体を生成させることになる。」(第4頁右上欄6?16行)
(カ)「重合反応は、50℃?100℃の温度にて、20分?10時間、その圧力は使用する溶媒にもよるが、0.5?100kg/cm2の圧力下にて実施される。
反応器のタイプは槽型(ベツセル型)でも環状型(ループ型)でもよい。」(第5頁左上欄第3?7行)
(キ)「メルトインデックス(以下MIと略す)はASTM-D-1238に基づき、190℃、2.16kg荷重下で測定し、ハイロードメルトインデックス(以下HLMIと略す)は21.6kg荷重下での流量(g/10min)で表わす。」(第5頁右上欄第18行?同頁左下欄第2行)
(ク)「実施例1
1)触媒調製
無水塩化アルミニウム4.37モル、ジフエニルジエトキシシラン3.06モルをトルエン8lとともに20lの反応容器に入れ、60℃にて攪拌しながら30分反応後、マグネシウムエチラート8.75モル(1kg)を添加後90℃にて1.5時間反応後40℃まで冷却し、上澄み液を抜きとり、n-ヘキサンで数回洗浄後、四塩化チタン2.5lを添加し、90℃にて1.5時間反応させた。・・・」(第5頁左下欄第19行?同頁右下欄第12行)
(ケ)「2)二段重合
内容積200lの第一段重合器に脱水精製したイソブタンを117l/hr、トリイソブチルアルミニウムを175mmol/hrの速度で、前記担持触媒を5.09g/hrの速度で連続的に供給し、重合器内容物を所要速度で排出しながら、80℃におい(註:「におい」は「において」の誤記と認める。)エチレンを21.0kg/Hr、ヘキセン-1を0.910kg/Hrの速度で供給し、液相中の水素濃度0.35×10-3wt%、エチレン濃度1.0wt%、水素の対エチレン濃度比0.35×10-3(w/w)、ヘキセン-1の対エチレン濃度比を1.3(w/w)に一定に保ち、全圧41kg/cm2、平均滞留時間を0.80hrの条件下で液充満の状態で連続的に第一段共重合を行なう。」(第5頁右下欄第13行?第6頁左上欄第5行)
(コ)「共重合で生成したエチレン・ヘキセン-1共重合体を含むイソブタンのスラリー(重合体濃度23重量%、重合体の極限粘度4.8、ヘキセン含有量は1.1重量%、共重合体密度は0.929g/cm3)をそのまま内容積400lの第二段重合器に全量、内径50mmの連結管を通して、導入し、触媒を追加することなく、イソブタン55l/hrと水素を供給し、重合器内容物を所要速度で排出しながら、90℃において、エチレンを23.7kg/Hrの速度で供給し、エチレン濃度を1.20重量%、ヘキセンの対エチレン濃度比を0.65(w/w)、水素の対エチレン濃度比を30×10-3(w/w)に保ち、全圧を41.0kg/cm2、滞留時間を1.05hrの条件下に第二段重合を行なう。」(第6頁左上欄第6?19行)
(サ)「第二段重合器からの排出物は、エチレン重合体混合物31重量%含み、該重合体の極限粘度〔η〕=2.61、HLMIは9.48g/10min、コモノマーの1-ヘキセン含量は0.75重量%であり、エチレン共重合体混合物の密度は0.9505g/cm3であつた。第一段と第二段の重合体の生成割合は47:53に相当し、第二段重合器のみで生成しているエチレン共重合体の極限粘度〔η〕は0.67、1-ヘキセン含量は0.43重量%であり、その密度は0.965g/cm3に相当する。
フイルムの衝撃強度は458kg-cm/mm、MD強度13.2kg-cm/mm2、TD強度9.1kg-cm/mm2、フイツシユアイは2ケ/cc、高速成形性は115m/min、と優れ、強度及び流動加工性の優れたフイルムが得られた。」(第6頁左上欄第20行?同頁右上欄第14行)

(3-2)対比・判断
引用例には、その特許請求の範囲に、チーグラー型触媒の存在下にエチレンとα-オレフインとを共重合する方法であって、(イ)高活性触媒を用い、(ロ)極限粘度〔η〕a≧2のエチレンと炭素数5以上のα-オレフイン共重合体を30?70%生成せしめるa工程と、極限粘度〔η〕b0.3?1.0のエチレンと炭素数5以上のα-オレフイン共重合体を70?30%生成せしめるb工程からなる方法(摘示記載(ア))が記載されており、発明の詳細な説明には、この方法が、衝撃強度、耐環境応力亀裂性(ESCR)に優れ、かつ成形加工性の高いエチレン系共重合体を効率よく製造することを目的とするものであること(摘示記載(イ))、a工程においては、液相中の水素のエチレンに対する濃度比を1.0×10-3(重量比)以下となるように調節しながらエチレンとα-オレフインとの共重合反応を行なって〔η〕aが2.0以上即ち、粘度平均分子量で12.8×104以上の高分子量体を生成させ、b工程においては、エチレン濃度に対する水素濃度の濃度比を10?50×10-3(重量比)に保ち、a工程から流れこむ反応混合物中のα-オレフインを共重合させて相対的に低分子量の共重合体を生成させること(摘示記載(エ)、(オ))、重合反応に複数の反応器を用いて行なう場合は、第一段の反応帯域より第二段の反応帯域への移送は連絡管を通して行なうこと(摘示記載(ウ))、及び、重合反応に環状型(ループ型)反応器を用い得ること(摘示記載(カ))も記載されている。更に、実施例1には、マグネシウムエチラートと四塩化チタンを原料として含む反応生成物からなる触媒を調製(摘示記載(ク))し、第一段重合器にイソブタン、ブチルアルミニウム及び該触媒を連続的に供給し、80℃においてエチレンを21.0kg/Hr、ヘキセン-1を0.910kg/Hrの速度で供給し、液相中の水素濃度0.35×10-3wt%、エチレン濃度1.0wt%、水素の対エチレン濃度比0.35×10-3(w/w)、ヘキセン-1の対エチレン濃度比を1.3(w/w)に保ち、全圧41kg/cm2、平均滞留時間を0.80hrの条件下で液充満の状態で連続的に第一段共重合を行なうこと(摘示記載(ケ))、共重合で生成したエチレン・ヘキセン-1共重合体を含むイソブタンのスラリー(重合体濃度23重量%、重合体の極限粘度4.8、ヘキセン含有量は1.1重量%、共重合体密度は0.929g/cm3)をそのまま第二段重合器に連結管を通して導入し、触媒を追加することなく、イソブタンと水素を供給し、重合器内容物を所要速度で排出しながら、90℃において、エチレンを23.7kg/Hrの速度で供給し、エチレン濃度を1.20重量%、ヘキセンの対エチレン濃度比を0.65(w/w)、水素の対エチレン濃度比を30×10-3(w/w)に保ち、全圧を41.0kg/cm2、滞留時間を1.05hrの条件下に第二段重合を行なうこと(摘示記載(コ))、及び、第二段重合器からの排出物は、エチレン重合体混合物31重量%含み、該重合体の極限粘度〔η〕=2.61、HLMIは9.48g/10min、コモノマーの1-ヘキセン含量は0.75重量%であり、第二段重合器のみで生成しているエチレン共重合体の極限粘度〔η〕は0.67、1-ヘキセン含量は0.43重量%であって、その密度は0.965g/cm3に相当すること(摘示記載(サ))が記載されている。
引用例の実施例1に記載された方法において、マグネシウムエチラートと四塩化チタンを原料として含む反応生成物からなる触媒は本願発明における「有機マグネシウム化合物とチタン化合物との反応生成物である遷移金属成分(成分A)」に相当し、これとともに用いるブチルアルミニウムは本願発明における「有機アルミニウム化合物(成分B)」に相当し、第一段共重合でエチレンと共重合させるヘキセン-1は本願発明における「3から10個の炭素原子を有する1種以上の他のアルファ-アルケンコモノマー」に該当するものである。また、第一段共重合に用いる第一段重合器及び第二段共重合に用いる第二段重合器は、それぞれ本願発明における「第一反応槽」及び「第二反応槽」に相当するものであり、第一段共重合における温度80℃、全圧41kg/cm2 という反応条件、及び、第二段共重合における温度90℃、全圧41.0kg/cm2 という反応条件は、いずれも本願発明における「1から100バールの絶対圧力下50から120℃」という範囲に含まれるものであって、引用例の実施例1の方法において、液充満の状態で行われる第一段共重合で生成したエチレン・ヘキセン-1共重合体を含むイソブタンのスラリーをそのまま第二段重合器に連結管を通して導入して第二段共重合を行うための第一段重合器及び第二段重合器として、直列連結している2個の液体充填反応槽が用いられることは自明である。更に、引用例の実施例1の方法において、第二段重合器にヘキセン-1を導入することは記載されておらず、発明の詳細な説明の「(b)工程に於いては・・・(a)工程から流れこむ反応混合物中のα-オレフインを共重合させて行なう」(摘示記載(オ))との記載からみても、ヘキセン-1の導入は本質的に第一段重合器で行われるものと解される。そして、引用例の発明の詳細な説明には、(a)工程(第一段共重合)においては液相中の水素濃度のエチレン濃度に対する重量比で調節しながら共重合反応を行ない、〔η〕aが2.0以上即ち、粘度平均分子量で12.8×104以上の高分子量体の共重合体を得ること(摘示記載(エ))及び(b)工程(第二段共重合)においては液相におけるエチレン濃度に対する水素濃度の濃度比を10?50×10-3(重量比)に保ち、相対的に低分子量の共重合体を生成させること(摘示記載(オ))が記載されており、また、実施例1においては、第一段共重合では液相中の水素のエチレンに対する濃度比が相対的に低く、第二段共重合では高く保たれて、第一段共重合では極限粘度4.8、第二段共重合では極限粘度0.67の共重合体が得られており、極限粘度が高いほど平均分子量が大きいことはよく知られているから、引用例の実施例1の方法においても、水素で共重合体の平均分子質量を調節するものというべきである。
そうすると、本願発明と引用例の実施例1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とは、ともに、良好な物性と加工性を兼ね備えたエチレン系共重合体の製造方法に係るものであり、
「直列連結している2個の液体充填反応槽内で、有機マグネシウム化合物とチタン化合物との反応生成物である遷移金属成分(成分A)及び有機アルミニウム化合物(成分B)を含む触媒を存在させ、1から100バールの絶対圧力下50から120℃の温度で、3から10個の炭素原子を有する1種以上の他のアルファ-アルケンコモノマーを用い、水素で平均分子質量を調節することによってエチレンを共重合させる方法において、該コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い、第一反応槽内の水素濃度を非常に低い濃度に、第二反応槽内の水素圧を非常に高く維持することを含む方法」
である点で一致しているが、本願発明における以下の構成要件について引用例には明示されていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)液体充填反応槽として「ループ反応槽」を用いる点、
(い)「(1種以上の他のアルファ-アルケンコモノマーを)アルファ-アルケンコモノマーとエチレンとの合計を100モル%として、多くとも20モル%用いる」点、
(う)「(第一反応槽内の水素濃度を非常に低い濃度にすることにより)0.01から5g/10’のHLMIを示すエチレンポリマー類が生じるように」する点、
(え)「(第二反応槽内の水素圧を非常に高く維持することにより)5g/10’より大きいHLMIを示すエチレンポリマー類が生じるように」する点、
(お)「第一反応槽内の水素濃度を0.005から0.07体積%に」する点、及び、
(か)「第二反応槽内の水素濃度を0.5-2.2体積%に」する点

そこで、これらの相違点について以下に検討する。
(i)(あ)の点について
引用例には、「反応器のタイプは槽型(ベツセル型)でも環状型(ループ型)でもよい」(摘示記載(カ))と記載されており、引用発明における第一段重合器及び第二段重合器としてループ型の反応器、即ちループ反応槽は当然用い得るものであるから、この点は実質的な相違点とはいえない。

(ii)(い)の点について
引用例の実施例1には、第一段重合器にエチレンを21.0kg/Hr、ヘキセン-1を0.910kg/Hrの速度で供給することが記載されており、第一段重合器に供給されるエチレンとヘキセン-1の合計100モルに対してヘキセン-1は約1.4モルの割合[〔(0.910/84)/{(21.0/28)+(0.910/84)}〕×100;「28」及び「84」は、それぞれエチレン及びヘキセン-1の分子量]である。そして、引用例の実施例1には第二段重合器にエチレンを23.7kg/Hrの速度で供給することが記載されておりヘキセン-1を供給することは記載されていないから、第一段重合器及び第二段重合器全体として、エチレンとヘキセン-1の合計100モルに対するヘキセン-1の供給量は約1.4モル以下であることが明らかであり、このモル比の範囲は、本願発明における(い)の要件を満たすものである。

(iii)(う)及び(え)の点について
引用例には、第一段共重合及び第二段共重合で得られる共重合体についてのHLMIの測定値は記載されていない。
しかしながら、実施例1には、第二段重合器からの排出物は極限粘度〔η〕=2.61、HLMIが9.48g/10minであることが記載されており、第二段重合器のみで生成しているエチレン共重合体の極限粘度〔η〕は0.67であることも記載されている。そして、極限粘度が小さいものほど平均分子量が小さくHLMIが大きいことは自明であるから、第二段重合器のみで生成しているエチレン共重合体のHLMIが9.48g/10minより大きいことは明らかであり、該エチレン共重合体は「5g/10’より大きいHLMI」という本願発明の(え)の要件を満たすものである。
また、引用例の発明の詳細な説明には、(a)工程(第一段共重合)においては液相中の水素濃度のエチレン濃度に対する重量比で調節しながら共重合反応を行ない、〔η〕aが2.0以上即ち、粘度平均分子量で12.8×104以上の高分子量体の共重合体を得ること(摘示記載(エ))が記載されており、第一段共重合においては高い平均分子量、即ち、小さいHLMIの共重合体を得ることが開示されているのであるから、引用発明においても、第一段共重合においては相対的に小さいHLMIの共重合体を生成させるものであり、そのHLMIの範囲を本件発明の(う)のように限定することは、当業者が製品に付与すべき物性を勘案して適宜実験的に行い得るものというほかはない。
なお、この点について審判請求人は審判請求書において、ポリエチレンの場合、粘度[η](dl/g)と分子量Mwとの間には
Mw=38220・[η]1.43 (以下、「I式」という。)
の関係があること、及び、本願発明の第一反応槽で生成される共重合体の「0.01?5g/10’」なるHLMIは236?708[kDa]の分子量に相当する旨、述べており、これらにしたがえば、引用例の実施例1の方法において第一段共重合により得られる極限粘度4.8の共重合体の平均分子量はI式より約360000(360kDa)と計算されて、本願発明の(う)の要件を満たすこととなる。

(iv)(お)及び(か)の点について
引用例の実施例1には、第一段重合器において、液相中の水素濃度を0.35×10-3wt%、エチレン濃度を1.0wt%、水素の対エチレン濃度比を0.35×10-3(w/w)、ヘキセン-1の対エチレン濃度比を1.3(w/w)に保ち、第二段重合器において、エチレン濃度を1.20重量%、ヘキセン-1の対エチレン濃度比を0.65(w/w)、水素の対エチレン濃度比を30×10-3(w/w)に保つことが記載されている。
そうすると、第一段重合器における液相中の水素、エチレン、ヘキセン-1及び溶媒であるイソブタンの重量割合は、それぞれ、0.35×10-3wt%、1.0wt%、1.3wt%及び97.69935wt%となり、これをそれぞれの分子量である2、28、84及び58で除して総モル数に対する水素のモル分率を求めると0.01%となる。
同様にして、第二段重合器における総モル数に対する水素のモル分率を求めると1.0%となる。
そして、モル分率はほぼ体積%に等しいから、引用例の実施例1において、第1段重合器及び第二段重合器における水素濃度はそれぞれ0.01体積%及び1.0体積%であり、これらはいずれも本願発明における(お)及び(か)の要件を満たすものである。

(v)まとめ
したがって、これらの相違点に格別のものはなく、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4].むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-27 
結審通知日 2006-03-07 
審決日 2006-03-24 
出願番号 特願平7-511106
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
発明の名称 幅広い分子量分布を示すポリエチレンの製造方法  
代理人 小田島 平吉  

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