【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580340 審決 特許
無効200680214 審決 特許
無効200680135 審決 特許
無効200680020 審決 特許
無効200680057 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01N
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  G01N
管理番号 1157711
審判番号 無効2006-80027  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-02-21 
確定日 2007-05-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3518800号発明「ガスセンサ及びガス検出装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3518800号に係る発明についての出願は、平成11年12月16日に出願され、平成16年2月6日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
これに対して、請求人は平成18年2月21日に本件無効審判を請求し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出して、本件請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めた。
また、被請求人は平成18年5月19日付けで答弁書とともに訂正請求書を提出して訂正を求め、乙第1号証ないし乙第3号証を提出して、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めた。
その後、請求人は平成18年6月28日付けで弁駁書とともに新たに甲第9号証ないし甲第11号証を提出した。
また、被請求人は平成18年10月13日付けで、口頭審理陳述要領書とともに参考資料1を、また上申書とともに参考資料2?8をそれぞれ提出した。
そして、平成18年10月13日に口頭審理が行われ、その後、当審において平成18年10月26日付けで無効理由通知がなされ、これに対して、被請求人は平成18年11月27日付けで意見書とともに訂正請求書を提出して訂正を求め、一方、請求人は平成18年11月29日付けで意見書とともに新たに甲第12号証及び甲第13号証を提出した。
その後、請求人は平成19年1月12日付けで弁駁書とともに新たに甲第13号証の2を提出した。

II.訂正の適否
1.訂正事項
平成18年11月27日付けの訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。
なお、本件訂正より先にした平成18年5月19日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げされたものとみなされる。

[訂正事項a]
特許請求の範囲における
「【請求項1】 コイル状のヒータ兼用電極(10)を覆うように、SnO2の内部領域(6)を設け、該内部領域をフィルター(8)で被覆したガスセンサにおいて、
内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、
かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20としたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】 内部領域(6)の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3 としたことを特徴とする、請求項1のガスセンサ。
【請求項3】 内部領域(6)の体積を4×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を5?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を30×10-3mm3?60×10-3mm3 としたことを特徴とする、請求項2のガスセンサ。
【請求項4】 前記ヒータ兼用電極の中心部に、中心電極(12)を設けたことを特徴とする、請求項1?3のいずれかのガスセンサ。
【請求項5】 フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で、骨材を含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれかのガスセンサ。
【請求項6】 フィルター(8)での貴金属触媒濃度が、内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低いことを特徴とする、請求項1?5のいずれかのガスセンサ。」
との記載を、
「【請求項1】 コイル状のヒータ兼用電極(10)を覆うように、SnO2の内部領域(6)を設け、該内部領域をフィルター(8)で被覆すると共に、前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極(12)を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサにおいて、
フィルター(8)が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター(8)での貴金属触媒濃度を内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低くし、
内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、
かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20としたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】 内部領域(6)の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3 としたことを特徴とする、請求項1のガスセンサ。
【請求項3】 内部領域(6)の体積を4×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を5?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を30×10-3mm3?60×10-3mm3 としたことを特徴とする、請求項2のガスセンサ。
【請求項4】 削除
【請求項5】 削除
【請求項6】 削除 」
と訂正する。

[訂正事項b]
本件特許明細書の段落【0004】における「この発明は、コイル状のヒータ兼用電極10を覆うように、SnO2の内部領域6を設け、該内部領域をフィルター8で被覆したガスセンサにおいて、」との記載を、「この発明は、コイル状のヒータ兼用電極10を覆うように、SnO2の内部領域6を設け、該内部領域をフィルター8で被覆すると共に、前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極12を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサにおいて、
フィルター8が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター8が内部領域6以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター8での貴金属触媒濃度を内部領域6での貴金属触媒濃度よりも低くし、」と訂正する。

[訂正事項c]
本件特許明細書の段落【0005】における「好ましくは、前記ヒータ兼用電極の中心部に、中心電極12を設ける。また好ましくは、フィルター8も内部領域6も共にSnO2を含有し、フィルター8に内部領域6以上の割合で、アルミナやシリカ、ゼオライト等の骨材を含有させる。なお内部領域6での骨材含有量は0でも良い。また好ましくは、フィルター8でのPdやPt等の貴金属触媒濃度を、内部領域6での貴金属触媒濃度よりも低くし、極端な場合、フィルター8は貴金属触媒を含有しなくても良い。」との記載を、「この発明では、前記ヒータ兼用電極の中心部に、中心電極12を設ける。
この発明では、フィルター8は貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体で、内部領域6はSnO2を含有し、フィルター8に内部領域6以上の割合で、アルミナやシリカ、ゼオライト等の骨材を含有させる。なお内部領域6での骨材含有量は0でも良い。
またこの発明では、フィルター8でのPdやPt等の貴金属触媒濃度を、内部領域6での貴金属触媒濃度よりも低くする。」と訂正する。

[訂正事項d]
本件特許明細書の段落【0012】における「固定した。中心電極12は設けなくても良く、その場合、ヒータ10とビーズ4の並列抵抗がガスにより変化することを用いて、ガスを検出する。」との記載を、「固定した。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否

<訂正事項aについて>
・特許請求の範囲の請求項1において「前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極(12)を設け、」と、ガスセンサの構造を限定するこの構成は、本件特許明細書の【請求項4】、段落【0012】などに記載されている。本件特許明細書の【実施例】や【試験例】は全て、ヒータ兼用電極の中心部に中心電極12を設けたガスセンサに関するものである。

・特許請求の範囲の請求項1において「ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出する」と、ガスセンサの用途と動作条件を限定するこの構成は、本件特許明細書の段落【0002】などに記載されている。本件特許明細書の【実施例】や【試験例】は全て、高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサに関するものである。

・特許請求の範囲の請求項1において「フィルター(8)が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター(8)での貴金属触媒濃度を内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低くし、」と、フィルター(8)の材質と内部領域(6)の材質を限定するこの構成は、本件特許明細書の【請求項5】、【請求項6】、段落【0005】、段落【0009】、段落【0010】などに記載されている。本件特許明細書の【実施例】や【試験例】は全て、フィルターが貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルターが内部領域以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルターでの貴金属触媒濃度を内部領域での貴金属触媒濃度よりも低くしたガスセンサに関するものである。

以上のことから、特許請求の範囲の請求項1を「前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極(12)を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出する」と限定し、「フィルター(8)が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター(8)での貴金属触媒濃度を内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低くし、」と限定することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また特許請求の範囲の請求項4?6を削除することも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そしてこれらの訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

<訂正事項b?dについて>
訂正事項b?dは、本件特許明細書及び図面の記載において訂正後の特許請求の範囲の記載と整合しなくなった部分を、訂正後の特許請求の範囲の記載に合わせて訂正するもので、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。そしてこれらの訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.訂正請求に対する結論
以上のとおり、本件訂正は特許法第134条の2第1項ただし書、及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.無効審判請求について
1.請求人の主張の概要
請求人は、平成18年2月21日付け審判請求書、平成18年6月28日付け弁駁書、平成18年11月29日付け意見書、及び平成19年1月12日付け弁駁書において、下記の甲第1号証ないし甲第13号証の2を提出し、本件特許は次の理由により無効である旨主張した。


・平成18年2月21日付け審判請求書において、本件特許が容易に発明できたことを証明するために提出した証拠
甲第1号証:特開平9-269306号公報
甲第2号証:特開平4-66858号公報
甲第3号証:特開平5-45318号公報
甲第4号証:特開平9-105731号公報
甲第5号証:特開平11-142356号公報
甲第6号証:特開平7-198644号公報
甲第7号証:特開平9-166567号公報
甲第8号証:Junko Yanagitani,Mitsuharu Kira 「Development of the Semiconductor Gas Sensor for Air Damper Control Systems in Automobiles 」 SENSOR 99 Proceedings 1. 9th Int'l Trade Fair and Conference for Sensors, Transducers & Systems May 18-20,1999 p.333-338
・平成18年6月28日付け弁駁書において、本件特許の出願時における周知技術を証明するために提出した証拠
甲第9号証:特開昭59-38641号公報
甲第10号証:特開平1-221649号公報
甲第11号証:特開平7-174725号公報
・平成18年11月29日付け意見書において提出した証拠
甲第12号証(「貴金属」の定義について立証):化学大事典編集委員会編 化学大事典2 縮刷版 共立出版株式会社 昭和56年10月15日縮刷版第26刷発行 第701頁
甲第13号証(参考資料):請求人が本件特許明細書に記載の試験例に基づいて作成した、当該試験例のサンプルの分布を示すグラフ
・平成19年1月12日付け弁駁書において提出した証拠
甲第13号証の2(参考資料(2)):甲第13号証を本件訂正の内容に合わせて修正したもの

(1)無効理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許は、CO中と可燃性ガス中とでセンサの抵抗値を近づけ、可燃性ガス中でもCO中でも水素からのこれらのガスへの選択性を改善し、可燃性ガス中での濃度依存性を高め、低濃度のCO中での濃度依存性を低めることができるという作用効果を奏する旨記載されているが、本件特許は、所期の作用効果を奏するか不明確であるため、本件特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、特許請求の範囲に記載されている特許を受けようとする発明が不明確なものであり、且つ、発明の詳細な説明がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
請求項1ないし6に係る特許発明は、上記の甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づき、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

2.被請求人の主張の概要
被請求人は、平成18年5月19日付け答弁書、平成18年10月13日付け口頭審理陳述要領書、及び同日付け上申書において、下記の乙第1号証ないし乙第3号証、及び参考資料1?8を提出し、本件発明には、上記無効理由1及び2のいずれも存在しない旨主張した。


・平成18年5月19日付け答弁書において提出した証拠
乙第1号証(本件特許の課題や構成の意義を立証):フィガロ技研株式会社 センサ製造部部長 野村 徹氏の2006年5月17日付け報告書
乙第2号証(請求人が指摘する図5、図7、図9の誤記が、本件特許の実施を困難にする程のものではないことを立証):本件特許での図5、図7、図9の誤記を修正した図
乙第3号証(本件特許の対応米国特許が、甲第3号証のフィルターの厚さと、甲第5号証のガスセンサの構造を考慮した上で付与されていることを立証):米国特許第6499335号明細書(B2)
・平成18年10月13日付け口頭審理陳述要領書において提出した証拠
参考資料1:被請求人が本件特許明細書の図4?図9のデータに相関係数Rの2乗を追加したグラフ
・平成18年10月13日付け上申書において提出した証拠
参考資料2:甲第1号証に関する審査経過の記録
参考資料3:甲第2号証に対応する特許公報のフロントページ
参考資料4:甲第3号証に対応する特許公報のフロントページ
参考資料5:甲第4号証に対応する特許公報のフロントページ
参考資料6:甲第5号証に対応する特許出願の平成18年6月19日付け補正書
参考資料7:甲第5号証に対応する特許出願の平成18年6月19日付け意見書
参考資料8:甲第7号証に対応する特許公報のフロントページ

3.当審の判断
(1)本件発明
上記「II.訂正の適否」の項において述べたように、本件訂正を認めるので、本件特許発明は、平成18年11月27日付け訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。)

「【請求項1】 コイル状のヒータ兼用電極(10)を覆うように、SnO2の内部領域(6)を設け、該内部領域をフィルター(8)で被覆すると共に、前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極(12)を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサにおいて、
フィルター(8)が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター(8)での貴金属触媒濃度を内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低くし、
内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、
かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20としたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】 内部領域(6)の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3 としたことを特徴とする、請求項1のガスセンサ。
【請求項3】 内部領域(6)の体積を4×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を5?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を30×10-3mm3?60×10-3mm3 としたことを特徴とする、請求項2のガスセンサ。」

(2)本件発明の効果等
本件発明の「内部領域の体積」、「内部領域とフィルターの総体積」、「総体積と内部領域との体積比」のそれぞれの数値範囲における技術的な意味ないしは本件発明の奏する作用効果について、本件特許明細書の段落【0006】?【0008】、段落【0015】?【0016】、段落【0023】?【0026】の記載によれば、本件発明は、「内部領域の体積」を小さくし「総体積と内部領域との体積比」を大きくすると低温側のセンサ特性が向上し、また「内部領域とフィルターの総体積」を小さくすると高温側のセンサ特性が向上するという傾向が、試験例に基づき判明したため、本件出願時の技術常識や製造能力を考慮し、これら3要素をそれぞれの数値範囲に規定したものであり、これらの上限値・下限値に臨界的な意義を有するものでない。
そして、本件特許明細書には、本件発明が、CO中と可燃性ガス中とでセンサの抵抗値を近づけ、可燃性ガス中でもCO中でも水素からのこれらのガスへの選択性を改善し、可燃性ガス中での濃度依存性を高め、低濃度のCO中での濃度依存性を低めることができるという作用効果を奏するものと記載されている。

(3)無効理由1について
[特許法第36条第4項]
(3.1)請求人は、審判請求書(第14頁第21行?第15頁第1行)、平成18年6月28日付け弁駁書(第2頁末行?第3頁第26行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第3頁第4行?第44行)において、本件特許明細書には、内部領域及びフィルターの組成が一種類の試験例しか示されていないため、内部領域及びフィルターにおける貴金属触媒や骨材の種類・配合量を種々変更可能な本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
本件発明1においては、内部領域及びフィルターの組成に関して、「・・・SnO2の内部領域を設け、該内部領域をフィルターで被覆すると共に、・・・ガスセンサにおいて、フィルターが貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルターが内部領域以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルターでの貴金属濃度を内部領域での貴金属触媒濃度よりも低くし、・・・を特徴とするガスセンサ。」と記載されているのみで、貴金属触媒や骨材の具体的な種類は規定されておらず、また、SnO2や骨材や貴金属触媒の配合割合も規定されていない。
これに対して、本件特許明細書には、試験例として、段落【0018】に「【試験例】・・・SnO2が100重量部に対し1重量部のPdを添加したSnO2と、SnO2が100重量部に対し10重量部のα-アルミナとの混合物を、適当な粘度のペーストに調製して、ヒータ兼用電極10のコイルに滴下し、乾燥させて内部領域6を形成した。これにPdをSnO2が100重量部に対して0.5重量部加えたSnO2と、α-アルミナとを重量比で1:1に混合して適当な粘度のペーストとし、内部領域6に滴下乾燥してフィルター8を形成後、650?700℃で焼成した。」と記載されており、内部領域の組成を、100重量部のSnO2に対し、1重量部のPd、10重量部のα-アルミナとし、また、フィルターの組成を、100重量部のSnO2に対し、0.5重量部のPd、100.5重量部のα-アルミナとしたものしか示されていない。
しかし、本件特許明細書には、実施例として、段落【0009】及び【0010】に「【実施例】・・・図1にガスセンサ2の構造を示すと、4は金属酸化物半導体ビーズで、内部領域6とフィルター8との2層構造を有する。内部領域6を、後述のヒータ兼用電極10のコイルを完全に覆うように設け、例えばPd等の貴金属触媒を添加したSnO2を主成分とし、所望によりα-アルミナ等の骨材を混合した酸化物の焼結体とする。α-アルミナ含有量をSnO2の100重量部に対し例えば0?50重量部とし、ここでは10重量部とした。フィルター8を内部領域6を完全に覆うように設け、内部領域6と同様に、フィルター8を、貴金属触媒を添加したSnO2と、α-アルミナ等の骨材との混合物の焼結体とした。フィルター8は内部領域6とは異なる材質を用い、一般にフィルター8の骨材含有量(重量%基準)は内部領域6以上とし、内部領域6は骨材を含有しなくても良い。内部領域6やフィルター8の骨材は、α-アルミナに限らずシリカやゼオライト等でも良く、また内部領域6とフィルター8とで骨材の種類が異なっても良い。触媒はここではPdを用いたが、Pt等の貴金属でも良く、内部領域6とフィルター8で異なっても良く、例えば金属換算での貴金属触媒の重量濃度(骨材+SnO2の合計量への濃度)は、フィルター8で内部領域6よりも低くする。」と記載されており、貴金属触媒としてPdに限らずPt等の貴金属を用い、骨材としてα-アルミナに限らずシリカやゼオライト等を用い、また、SnO2や骨材の配合割合も変更できることが示されている。
また、半導体ガスセンサに用いる貴金属触媒として、Pd,Pt等を適宜選択することは、例えば、甲第5号証(段落【0011】)、甲第7号証(段落【0011】)などに記載されているように本件出願時の技術常識であり、また、半導体ガスセンサに用いる骨材として、α?アルミナ,シリカ等を適宜選択することも、例えば、特公昭50-30480号公報(特許請求の範囲)、特公昭61-36175号公報(第4?6頁の第1表)、甲第7号証(段落【0025】)などに記載されているように本件出願時の技術常識である。
そして、本件発明も半導体ガスセンサであるから、貴金属触媒や骨材の具体的な種類を変更したり、SnO2や骨材や貴金属触媒の配合割合を変化させれば、センサ抵抗、H2選択性、濃度依存性などセンサ特性に関する絶対的な値は変化するが、本件発明においては、「内部領域の体積」、「内部領域とフィルターの総体積」、「総体積と内部領域との体積比」をそれぞれの数値範囲に規定することにより、規定外のものと比べて、センサ抵抗、H2選択性、濃度依存性などセンサ特性に関する相対的な値が向上するという作用効果を奏するものである。
してみると、本件発明において、試験例に記載された貴金属触媒としてのPdをPt等の他の貴金属触媒に変更したとしても、また、Pdの量を0.5重量%から0?数重量%の範囲で変化させたとしても、本件発明の作用効果を奏することは当業者であれば予測できることである。そして、骨材としてのα-アルミナをシリカやゼオライト等に変更したとしても、また、α-アルミナの配合割合を変化させたとしても、本件発明の作用効果を奏することは当業者であれば予測できることである。
したがって、本件特許明細書に内部領域及びフィルターの組成が一種類の試験例しか示されていないとしても、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.2)請求人は、審判請求書(第15頁第2行?第17行)、及び平成18年6月28日付け弁駁書(第3頁第27行?末行)において、本件発明が、フィルターに厚みの分布が生じているガスセンサである場合、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
しかしながら、半導体式ガスセンサにおいて、フィルターの厚みをできるだけ均一にすることは、本件出願時の技術常識であり、フィルターの厚さが、通常、許容される程度のバラツキの範囲であれば、本件発明が、本件発明の作用効果を奏することは明らかであるから、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.3)請求人は、審判請求書(第15頁第18行?第16頁第11行)、平成18年6月28日付け弁駁書(第4頁第3行?第21行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第4頁第30行?第41行)において、本件特許明細書の試験例では、「内部領域の体積」の影響、「内部領域とフィルターの総体積」の影響、「総体積と内部領域の体積比」の影響を個別に抽出することは不可能であるから、このような試験例は、本件発明の作用効果の根拠とするに値せず、本件発明が、たとえ試験例に示されている特定組成のガスセンサであったとしても、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
本件特許明細書の試験例は、確かに、「内部領域の体積」の影響、「内部領域とフィルターの総体積」の影響、「総体積と内部領域の体積比」の影響を個別に抽出していない。
しかしながら、当該試験例は、本件特許図面の図4?9に示されているように、それぞれが互いに独立した要素である「内部領域の体積」、「内部領域とフィルターの総体積」、「総体積と内部領域の体積比」の切り口から、「内部領域の体積」を小さくし「総体積と内部領域との体積比」を大きくすると低温側のセンサ特性が向上し、「内部領域とフィルターの総体積」を小さくすると高温側のセンサ特性が向上するという傾向を導き出したものであるから、本件発明の作用効果の根拠となるものである。そして、試験例における特定組成のガスセンサが、本件発明のそれぞれの数値範囲に規定されたものであれば、本件発明の作用効果を奏することは明らかであるから、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるはいえない。

(3.4)請求人は、審判請求書(第16頁第12行?第17頁第11行)、平成18年6月28日付け弁駁書(第4頁第32行?第5頁第7行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第4頁第22行?第29行)において、本件特許明細書の段落【0023】?【0025】におけるセンサ特性の傾向に関する評価では、真の値が不明なサンプルなどもあり信頼することができないから、このような評価は、本件発明の作用効果の根拠とするに値せず、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0023】?【0025】におけるセンサ特性の傾向に関する評価は、たとえ請求人の主張する真の値が不明なサンプルを除いたとしても、本件特許図面の図4?9に照らし合わせると信頼することができないとはいえないから、本件発明の作用効果の根拠となるものであり、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.5)請求人は、審判請求書(第17頁第12行?第28行)、平成18年6月28日付け弁駁書(第5頁第8行?第12行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第5頁第19行?第25行)において、本件特許図面の図4、6、8では、可燃性ガス中での濃度依存性の向上を確認できないから、本件発明の作用効果の根拠とするに値せず、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
しかしながら、可燃性ガス中での濃度依存性の指標である濃度依存性β(1000-3000)について、段落【0024】に「高温側では図6に示すように、総体積を小さくすると、・・・濃度依存性βの値を小さくできた。」と記載されているように、本件特許図面の図6が、可燃性ガス中での濃度依存性の向上を確認できない図面であるとはいえないから、本件発明の作用効果の根拠となるものであり、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.6)請求人は、平成19年1月12日付け弁駁書(第4頁第1行?第21行)において、試験例のサンプルの寸法分布は、甲第13号証の2で示したように、本件発明1で規定された数値範囲内で大きな偏りを生じているから、本件発明1が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
しかしながら、上記[(2)本件発明の効果等]の項において述べたように、本件発明1で規定されたそれぞれの数値範囲は、それらの上限値・下限値に臨界的な意義を有するものでなく、内部領域の体積の下限値方向と、総体積と内部領域との体積比の上限値方向が、低温側センサ特性が向上する方向であって、請求人が指摘する領域はこれら低温側センサ特性が向上する方向であることから、本件特許明細書に接した当業者であれば、内部領域の体積と、総体積と内部領域との体積比をそれぞれの数値範囲に規定した本件発明1が、本件発明の作用効果を奏することは予測できることであり、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.7)請求人は、平成19年1月12日付け弁駁書(第4頁第42行?第5頁第4行)において、本件発明1の作用効果が、「内部領域の体積」と「総体積と内部領域との体積比」との数値範囲を組み合わせたことにより得られることを明らかにするためには、比較例として、「内部領域の体積」と「総体積と内部領域との体積比」の一方は充足するが他方は充足しないサンプルを示す必要があるのに、試験例では、このようなサンプルを示していないから、本件発明1が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
しかしながら、上記(3.3)の項において述べたように、試験例では、互いに独立した要素である「内部領域の体積」、「総体積と内部領域の体積の比」の切り口から、「内部領域の体積」を小さくし「総体積と内部領域との体積比」を大きくすると低温側のセンサ特性が向上するという傾向を導き出したものであるから、請求人の主張するような比較例が必ずしも必要であるとはいえず、本件発明1が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.8)請求人は、平成19年1月12日付け弁駁書(第5頁第8行?第18行)において、本件発明2及び3も、上記(3.1)?(3.7)の項における請求人の主張のとおり、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確である旨主張する。
しかしながら、本件発明2及び3も、上記(3.1)?(3.7)の項において述べたように、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

[特許法第36条第6項第1号]
(3.9)請求人は、審判請求書(第17頁第36行?第41行)、平成18年11月29日付け意見書(第2頁第35行?第4頁第39行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第5頁第31行?第6頁第7行)において、本件発明は、上記(3.1)?(3.8)の項における請求人の主張のとおり、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるから、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものでない旨主張する。
しかしながら、本件発明においては、上記(3.1)の項において述べたように、「内部領域の体積」、「内部領域とフィルターの総体積」、「総体積と内部領域との体積比」をそれぞれの数値範囲に規定することにより、規定外のものと比べて、センサ抵抗、H2選択性、濃度依存性などセンサ特性に関する相対的な値が向上するという作用効果を奏するものであり、本件特許明細書の記載や本件出願時の技術常識を斟酌し、貴金属触媒や骨材の組成を変更したとしても、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏することは、当業者であれば予測できることであり、また、本件発明は、上記(3.1)?(3.8)の項において述べたように、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえないことから、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

[特許法第36条第6項第2号]
(3.10)請求人は、審判請求書(第17頁第42行?第46行)、平成18年6月28日付け弁駁書(第5頁第21行?第24行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第6頁第9行?第12行)において、本件発明は、上記(3.1)?(3.8)の項における請求人の主張のとおり、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるから、特許請求の範囲からは、所期の作用効果を奏する特許発明を特定することができない旨主張する。
しかしながら、本件発明の構成は、特許請求の範囲の記載から明確に把握できるものであり、また、本件発明が、上記(3.1)?(3.8)の項において述べたように、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるとはいえない。

(3.11)請求人は、平成18年11月29日付け意見書(第4頁第40行?第5頁第19行)、及び平成19年1月12日付け弁駁書(第6頁第13行?第37行)において、本件発明は、内部領域とフィルターとが貴金属触媒の濃度の相違で決定され、その相違の程度が特定されていない結果、発明の外延が不明確となっている旨主張する。
しかしながら、本件発明1における「フィルター(8)での貴金属触媒濃度を内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低くし」という記載は明確であり、本件発明は、内部領域とフィルターとの貴金属触媒濃度の相違の程度が特定されていなくても、内部領域とフィルターとの境界が貴金属触媒濃度差により特定されることが明らかであるから、発明の外延が不明確であるとはいえない。

(3.12)まとめ
以上のとおり、本件発明は、CO中と可燃性ガス中とでセンサの抵抗値を近づけ、可燃性ガス中でもCO中でも水素からのこれらのガスへの選択性を改善し、可燃性ガス中での濃度依存性を高め、低濃度のCO中での濃度依存性を低めることができるという本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるといえず、本件発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、また、特許請求の範囲に記載されている特許を受けようとする発明が明確なものであり、且つ、発明の詳細な説明がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしており、同法第123条第1項第4号の規定に該当しない。

(4)無効理由2について
(4.1)証拠の記載等
[甲第1号証の記載事項]
(1a)「【請求項4】 貴金属線コイルを覆って酸化スズを主成分とする半導体から形成される感応部を設けてある熱線型半導体式ガス検知素子であって、前記感応部を、その長径が短径の1.5倍以下で、かつ、体積が6.5×10-5mm3 以上8.2×10-3mm3 以下に形成し、前記貴金属線コイルのコイル部から前記感応部外表面までの距離を50μm以下に形成してあるとともに、前記感応部にパラジウムを担持させてガス透過性の第一被覆層を形成してあるとともに、前記感応部の外表面に、パラジウムを担持させてあるアルミナ、シリカ、シリカアルミナのすくなくともいずれか一種を主成分としてなるガス透過性の第二被覆層を形成してある熱線型半導体式ガス検知素子。
・・・
【請求項9】 ・・・前記熱線型半導体式ガス検知素子を450℃以上550℃以下の設定温度に維持制御可能に構成してある・・・」
(1b)「【0007】〔作用効果〕つまり、前記感応部の体積が8.2×10-3mm3 以下に形成してあることで、上述した従来の熱線型半導体式ガス検知素子よりも、さらに消費電力を低減させられることが分かる。・・・また、このような熱線型半導体式ガス検知素子を形成する場合には、その体積の小ささから、感応部の長径が短径よりも大きくなるなど、表面積の大きなものとなり、吸・放熱の熱収支の関係等から、特性の安定した熱線型半導体式ガス検知素子を形成しにくくなるのに対して、長径を短径の1.5倍以下に制御しておくことで、特性の安定した熱線型半導体式ガス検知素子を形成しやすい。ここで、前記感応部にパラジウムを担持させてガス透過性の第一被覆層を形成してあると、前記パラジウムは妨害ガスとなる種々のガスを燃焼除去するなどして前記感応部に炭化水素ガス以外のガスを到達させにくくし、前記感応部に極めて高い炭化水素ガス選択性を付与することが出来るとともに、前記ガス透過性の第一被覆層に替え、パラジウムを担持させてあるアルミナ、シリカ、シリカアルミナのすくなくともいずれか一種を主成分としてなるガス透過性の第二被覆層を形成してあっても同様に前記感応部に高い炭化水素ガス選択性を付与する事が出来るようになるとともに、パラジウムをアルミナ、シリカ、シリカアルミナの少なくとも一種に担持させてあっても前記第一被覆層の焼結進行による劣化を抑制でき、効果的に安定化する事が出来て、長期安定性が実現できる。勿論、前記ガス透過性の第一被覆層、ガス透過性の第二被覆層共に備えた構成であれば、高いガス選択性と、、高い長期安定性とを実現できるのでより一層有効である。」
(1c)「【0015】・・・本発明において50μm以下に形成されるべき寸法は、前記コイル部から感応部外表面までの距離d4であって、前記第一、ガス透過性の第二被覆層の厚さにはよらない。尚、前記ガス透過性の第一、第二被覆層の厚さは、第一被覆層が5μm以下、第二被覆層の厚さは10μm以上30μm以下が望ましい。」

これら記載事項によれば、甲第1号証には、
「貴金属線コイルを覆って酸化スズを主成分とする半導体から形成される感応部を設け、該感応部に妨害ガスを燃焼除去させるための被覆層を形成し、450℃以上550℃以下で炭化水素ガスを検知する熱線型半導体式ガス検知素子において、
前記被覆層を、前記感応部にパラジウムを担持させたガス透過性の第一被覆層と、前記感応部の外表面に、パラジウムを担持させてあるアルミナ、シリカ、シリカアルミナのすくなくともいずれか一種を主成分としたガス透過性の第二被覆層とから形成し、
前記感応部の長径を短径の1.5倍以下で、かつ、前記感応部の体積を6.5×10-5mm3 以上8.2×10-3mm3 以下とし、さらに、前記第一被覆層の厚さを5μm以下、前記第二被覆層の厚さ10μm以上30μm以下とした、熱線型半導体式ガス検知素子。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第2号証の記載事項]
(2a)「2.特許請求の範囲
(1)ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの中から選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物が添加された主として酸化錫半導体よりなるガス感応層、
クロムを有する触媒層、及び
タングステン、モリブデン、バナジウムの中から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物を有する触媒層、
を具備する一酸化炭素ガスセンサ。
(2)ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの中から選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物が添加された主として酸化錫半導体よりなるガス感応層、及び
タングステン、モリブデン、バナジウムの中から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物を有する触媒層、
を具備する一酸化炭素ガスセンサ。」(第1頁左下欄第4行?右下欄第1行)
(2b)「又以上の第2図(a)及び(c)から分るように本発明の一酸化炭素ガスセンサ(5a)及び(5b)はいづれも比較的高温(300?400℃程度)で一酸化炭素ガスセンサを使用した場合に上述のような性能を示す。・・・
以上説明した一酸化炭素ガスセンサは貴金属製のコイル(4)の両端の抵抗の変化をガスセンサの出力として測定する熱線型半導体式ガスセンサである。この貴金属製のコイル(4)は一定の電流を流すことによって、ガスセンサの温度を一定に保つヒータの役割を果している。」(第5頁左下欄第8行?右下欄第2行)
(2c)第2表(第4頁右上欄)には、クロム酸化物触媒層の厚さを5?300μmで変化させた例が記載されており、また、第4表(第5頁左上欄)には、タングステン酸化物触媒層を5?300μmで変化させた例が記載されている。

これら記載事項によれば、甲第2号証には、
「貴金属製のコイルの回りに主として酸化錫半導体よりなるガス感応層を形成し、該ガス感応層の回りに触媒層を設け、比較的高温で一酸化炭素ガスを検出する熱線型半導体式ガスセンサにおいて、
前記触媒層を各層5μm以上300μm以下の厚さで単層もしくは2層に形成した、熱線型半導体式ガスセンサ。」(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第3号証の記載事項]
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 原子価制御された酸化スズ半導体に、バナジウム、鉛の夫々の酸化物を添加物として添加した金属酸化物半導体部(3)を備えた半導体式アンモニアガスセンサ。
【請求項2】 前記金属酸化物半導体部(3)の外周部に、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトの中から選択された少なくとも1種を担体とする担体層を設け、前記担体層にタングステンの酸化物もしくはモリブデンの酸化物の一方もしくは両方を担持物として担持させた触媒層(4)を設けた請求項1記載の半導体式アンモニアガスセンサ。」
(3b)「【0008】
・・・
〔センサの構造〕図1に本願の半導体式アンモニアガスセンサ1が示されている。・・・このセンサ1は、白金線コイル2上に酸化スズの金属酸化物半導体部3を備えたものであり、さらにこの金属酸化物半導体部3の外層側に触媒層4を設けたものである。・・・
【0009】この反応は比較的高温(300℃程度以上)で起こるものであり、・・・」
(3c)「【0031】・・・
(ニ) さらに、上記の実施例においては図1に示すように熱線型のセンサ構成を示した・・・」
(3d)第3表(【0027】)には、触媒層の厚さを5?200μmで変化させた例が記載されている。

これら記載事項によれば、甲第3号証には、
「白金線コイル上に酸化スズの金属酸化物半導体部を備え、該金属酸化物半導体部の外層側に触媒層を設け、比較的高温でアンモニアガスを検出する熱線型半導体式ガスセンサにおいて、
前記触媒層を5μm以上200μm以下の厚さに形成した、熱線型半導体式ガスセンサ。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第4号証の記載事項]
(4a)「【請求項1】 塩基性金属酸化物を添加してある金属酸化物半導体を主成分としてなる感応部(2)を設け、前記感応部(2)を加熱する加熱手段(1)を設け、ガス検知に基づいて出力信号を得る検出電極(1a)を設けたガス検知素子であって、前記感応部(2)に、シリカ(SiO2) 含有率が、アルミナ(Al2O3)含有率よりも高い合成H型ゼオライトを主成分としてなる被覆層(3)を設けたガス検知素子。
・・・
【請求項3】 前記感応部(2)が、酸化スズ半導体を主成分としてなる金属酸化物半導体にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物あるいはランタノイド金属酸化物の少なくとも一種以上を添加してなる請求項1?2のいずれかに記載のガス検知素子。」
(4b)「【0006】・・・このようなガス検知素子は感応部に添加される塩基性金属酸化物、及び、その他の金属成分によって、ガス検知特性を制御することが出来、例えば、アルカリ土類金属の添加により、一酸化炭素ガス検知素子、さらに貴金属を添加することによってアンモニアガス検知素子として用いることが出来る。」
(4c)「【0010】
【発明の実施の形態】・・・図1に示すように、本発明のガス検知素子Sは、白金コイル1a上に、酸化スズを主成分としてなる半導体に、酸化ランタン及び金を添加してなる感応部2を、設け、前記感応部2をH型高シリカゼオライトからなる被覆層3によって被覆形成して構成してある。」
(4d)第3表(【0023】)には、被覆層の厚さを50?125μmで変化させた例が記載されている。

これら記載事項によれば、甲第4号証には、
「白金線コイル上に酸化スズ半導体を主成分としてなる感応部を設け、該感応部に被覆層を設け、一酸化炭素ガス又はアンモニアガスを検知する熱線型半導体式ガス検知素子において、
前記被覆層を50μm以上125μm以下の厚さに形成した、熱線型半導体式ガス検知素子。」(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第5号証の記載事項]
(5a)「【請求項1】ガスを吸着することによって電気抵抗が変化する外形寸法が略0.8mm以下の略球状の感ガス体と、感ガス体中に埋設されたコイル状の白金からなるヒータ兼用電極と、ヒータ兼用電極のコイルの中心を貫通するように感ガス体中に埋設された白金電極と、感ガス体の表面に形成された雑ガスを除去するフィルタ層とを備えて成ることを特徴とする半導体ガスセンサ。
【請求項2】上記フィルタ層がSiO2 にW、Mo又はVのいずれかを添加して形成されたことを特徴とする請求項1記載の半導体ガスセンサ。
【請求項3】上記フィルタ層がAl2 O3 にW、Mo又はVのいずれかを添加して形成されたことを特徴とする請求項1記載の半導体ガスセンサ。
【請求項4】上記フィルタ層がSiO2 にPt又はPdのいずれかを添加して形成されたことを特徴とする請求項1記載の半導体ガスセンサ。
【請求項5】上記フィルタ層がAl2 O3 にPt又はPdのいずれかを添加して形成されたことを特徴とする請求項1記載の半導体ガスセンサ。
【請求項6】上記フィルタ層が請求項2又は3のフィルタ層と請求項4又は5のフィルタ層との二重のフィルタ層からなることを特徴とする請求項2乃至5記載の半導体ガスセンサ。
・・・
【請求項9】ヒータ兼用電極に高低2段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体を高低2段階の温度で加熱し、感ガス体の高温時に可燃性ガスを、感ガス体の低温時に一酸化炭素、二酸化炭素、及び悪臭成分ガスを検出することを特徴とする請求項1乃至6記載の半導体ガスセンサ。」
(5b)「【0016】センサシング素子10は、図1に示すように、全長、全幅が夫々略0.8mmのSnO2 からなる略球状の感ガス体1と、感ガス体1内に埋設されたコイル状の白金からなるヒータ兼用電極2と、ヒータ兼用電極2のコイル部を貫通するように感ガス体1内に埋設された白金からなる白金電極4と、感ガス体1の表面に形成された第1のフィルタ層5と、第1のフィルタ層5の表面に形成された第2のフィルタ層6とから構成される。尚、第1のフィルタ層5は例えばアルミナ(Al2 O3 )にタングステン(W)、モリブデン(Mo)又はバナジウム(V)などの第二成分を添加して形成され、第2のフィルタ層6はAl2 O3 に白金(Pt)又はパラジウム(Pd)などの第二成分を添加して形成されている。本実施形態では、第1及び第2のフィルタ層5,6の母材としてAl2 O3 を用いているがAl2 O3 のかわりにSiO2 を用いても良いし、第1及び第2のフィルタ層5,6の内、いずれか一方のみを形成しても良い。また、本実施形態では感ガス体1の外形寸法を略0.8mmとしているが、感ガス体1の外形寸法を0.8mmに限定する趣旨のものではなく、感ガス体1の外径寸法が略0.4mm?0.8mm以下であれば良い。
【0017】このように、白金電極4はヒータ兼用電極2のコイルの中心を貫通するように配設されているので、ヒータ兼用電極2及び白金電極4をまとまり良く配設することができ、従来の半導体ガスセンサに比べて、感ガス体1の小型化を図ることができる。」
(5c)「【0023】・・・本実施形態の半導体ガスセンサでは、ヒータ兼用電極2に高低2段階の電力を交互に印加することによって、感ガス体1の温度を高低2段階に間欠的に加熱し、感ガス体1の高温時にメタンガスやプロパンガス等の可燃性ガスを検出するとともに、感ガス体1の低温時に一酸化炭素を検出することができるので、一つの半導体ガスセンサを用いて、可燃性ガスと一酸化炭素の両方を検出することができる。・・・
【0024】ところで、可燃性ガスや一酸化炭素を検知する半導体ガスセンサとしては、長期的に特性が安定し、検知対象以外のガス(通常、これらの所謂雑ガスとしては水素が代表的なガス種である)に対しては極力感度が低いことが望ましい。そこで、本実施形態の半導体ガスセンサでは、感ガス体1の表面に形成したアルミナよりなる第1のフィルタ層5に例えばWを添加しており、第1のフィルタ層により長期的にセンサ特性を安定させることができるとともに、感ガス体1の温度が低温状態(即ち一酸化炭素の検出時)で水素の感度を低減している。また、第1のフィルタ層5の表面に形成したアルミナよりなる第2のフィルタ層6に例えばPtを添加しており、感ガス体1の温度が高温状態(即ちメタンガスやプロパンガスなどの可燃性ガスの検出時)で雑ガス(水素)の感度を低減している。したがって、第1及び第2のフィルタ層5,6により、長期的にセンサ特性が安定するとともに、感ガス体1の高温状態及び低温状態で雑ガスの感度を低減することができる。尚、第1のフィルタ層5にWのかわりにMo又はVを第二成分として添加したものでも同様の効果を得ることができ、第2のフィルタ層6にPtのかわりにPdを第二成分として添加したものでも同様の効果を得ることができる。また、第1及び第2のフィルタ層の材質がSiO2 の場合でも同等の効果が得られる。」

これら記載事項によれば、甲第5号証には、
「コイル状のヒータ兼用電極を覆うように、SnO2からなる略球状の感ガス体を設け、該感ガス体の表面に雑ガスを除去するためのフィルタ層を形成すると共に、前記ヒータ兼用電極のコイル部を貫通する白金電極を設け、前記感ガス体の温度を高低2段階に間欠的に加熱し、高温時に水素以外の可燃性ガスを検出するとともに、低温時に一酸化炭素を検出する半導体ガスセンサにおいて、
前記フィルタ層がPt,Pdのいずれかを添加したAl2 O3又はSiO2 の焼結体であり、
さらに、前記感ガス体の外径寸法を略0.4mm?0.8mm以下に形成した、半導体ガスセンサ。」(以下、「甲第5号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第6号証の記載事項]
(6a)「【請求項1】円球、楕円球等の略球体状に形成されたガス感応金属酸化半導体中に貴金属線からなるヒータ兼用電極コイルを埋設するとともにヒータ兼用電極コイルの内部に貴金属からなる検知電極を設けて形成され、ヒータ兼用電極コイルの長手方向に対応するガス感応金属酸化半導体の外形寸法を約0.8mm以下とし且つ上記長手方向に直交する外形寸法を約0.7mm以下としたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】請求項1記載のガス感応金属酸化物半導体からなるガスセンサの内蔵ヒータに印加する電圧を高くしガスセンサのクリーニングを行う第1の期間と、印加電圧を低くして低温で感度ピークを持つガスの検知を行う第2の期間とを交互に繰り返し、第2の期間におけるガス種のレスポンス特性の相違に基づいて検知対象ガスを弁別する・・・」
(6b)「【0014】
【実施例】
・・・ガスセンサ2は、図1(a)(b)に示すように外形形状がラクビーボール状若しくは楕円球状に形成したSnO2 に貴金属触媒を加えたガス感応金属酸化物半導体2c中に貴金属線(25μφ以下)からなるヒータ兼用電極コイル2aを埋設し、この電極コイル2aの内部に貴金属線(25μφ以下)からなる検知電極2bを設けた構造のものであり、・・・」
(6c)「【0035】かように構成された図5の装置では、高温状態期間と低温状態期間とが交互に切り換えられ、低温状態期間において、ガスセンサ2の温度がCOの感度ピークになる時点、つまり約7秒後に演算制御回路34がA/D変換した負荷抵抗Rの両端電圧を取り込み汚染度を判定する・・・」

これら記載事項によれば、甲第6号証には、
「ヒータ兼用電極コイルを覆うように、SnO2からなる略球状のガス感応金属酸化半導体を設け、前記ヒータ兼用電極コイルの内部に検知電極を設け、ガスセンサの温度を高温状態期間と低温状態期間とに交互に切り換え、低温状態期間においてCOを検知するガスセンサにおいて、
ヒータ兼用電極コイルの長手方向に対応するガス感応金属酸化半導体の外形寸法を約0.8mm以下とし且つ上記長手方向に直交する外形寸法を約0.7mm以下とした、ガスセンサ。」(以下、「甲第6号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第7号証の記載事項]
(7a)「【請求項1】酸化錫半導体からなる感ガス体を覆うように酸化錫と、無定型アルミナ或いはベーマート或いはγ-アルミナ、又は無定型アルミナ、ベーマイト、γ-アルミナの内の少なくとも二つの混合物とからなるフィルタ層を形成したことを特徴とする半導体式ガスセンサ。
【請求項2】酸化錫半導体からなる感ガス体を覆うように、酸化錫とα-アルミナとに、無定型アルミナ或いはベーマート或いはγ-アルミナ、又は無定型アルミナ、ベーマイト、γ-アルミナの内の少なくとも二つの混合物を加えてなるフィルタ層を形成したことを特徴とする半導体式ガスセンサ。
【請求項3】上記フィルタ層を形成する酸化錫は貴金属触媒を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の半導体式ガスセンサ。
・・・
【請求項5】フィルタ層の貴金属触媒濃度を感ガス体中の金属触媒濃度未満としたことを特徴とする請求項3記載の半導体式ガスセンサ。」
(7b)「【0009】
【発明の実施の形態】・・・図1は平板-厚膜型センサを構成する本発明の一実施形態の構成を示しており、・・・そして各金電極4A,4Bの間に亘るようにSnO2 又はSnO2 とアルミナからなる感ガス材料を塗布焼成する。」
(7c)「【0015】・・・フィルタ層7の機械的に強度を高めるためにフィルタ材料にαーアルミナを骨材として加えても良い。」
(7d)「【0025】(実施例10)本実施例のガスセンサはPdが1.5重量%入った感ガス体6をフィルタ層7で覆ったもので、フィルタ材料は貴金属触媒であるPd(SnO2 に対して0.2重量%)を担持した酸化錫(SnO2 )と骨材としてのα-アルミナ〔(α-Al2 O3 )でSnO2 に対して50重量%)〕とをアルミナゾルに混合したものを用い、このフィルタ材料を感ガス体6を覆うように塗布して空気中で700℃で1時間焼成することによりフィルタ層7を形成している。」
(7e)「【0042】・・・実施例10・・・のようにフィルタ層7を設けた場合、メタンガスに対する選択性が向上していることが分かる。」
(7f)「【0047】尚上記各実施例は平板厚膜型センサの構造を持つものであるが、・・・図12(a)(b)に示すように感ガス体6内にヒータ5を埋設した焼結型センサにおいて、感ガス体6の表面を覆うようにフィルタ層7を形成しても良い。」
(7g)図12の焼結型センサには、コイル状のヒータの中心部にリードワイヤを設けることが図示されている。

これら記載事項によれば、甲第7号証には、
「コイル状のヒータを覆うように、SnO2の感ガス体を設け、該感ガス体の表面をフィルタ層で覆うと共に、前記ヒータの中心部にリードワイヤを設け、メタンガスを検知する半導体式ガスセンサにおいて、
フィルタ層が貴金属触媒を担持したSnO2と骨材とを混合した焼結体であり、さらにフィルタ層の貴金属触媒濃度を感ガス体中の金属触媒濃度未満とした、半導体式ガスセンサ。」(以下、「甲第7号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第8号証の記載事項(抄訳文)]
(8a)「3.実験
3.1 感応材料
感応材料である酸化スズは、次のようなプロセスで調製される。NH4OHにSnCl4を加えて水酸化スズゲルを調製する。これを水洗、ろ過、乾燥し、空気雰囲気中で500℃で焼結させて、基本的な酸化スズ感ガス材料を得る。活性化触媒(Pd,Au)、原子価制御剤(Sb)、その他の添加剤(希土類元素)を適量配合することでセンサの特性を制御することが研究されている。この基本的な材料は、α-アルミナ(骨材)及び溶剤と混合し、感応材料のペーストを調製する。
3.2 センサ構造
このペーストを、中心電極とヒータコイル(φ20μmの白金線)の周りに塗布し、直径0.3mm、長さ0.5mmのビーズ型の成形体が形成される(Fig.1)。これを700℃で30分間焼成して、感応成形体を得る。感応成形体は、センサユニット(Fig.1b)内への空気の流入を規制する金属メッシュを備えたセンサハウジング内に配置される。ディーゼル排気ガス検知のために、我々は還元性ガスの感度を低減するための被覆層の適用について研究してきた。このフィルタ層は、少量の酸化触媒(Pt、Pd)を担持した活性アルミナ粒子から構成され、感応材料の表面に0.1mm未満の厚みで形成される。」(第334頁第1行?第30行)
(8b)「4.結果
4.1 ディーゼル排気ガスセンサ
4.1.1 ビーズ型形状の影響
Fig.4は、ビーズ型とプレート型のセンサとの間の、NO2検知時の応答速度の比較を示す。この比較においては、同一のセンサ材料と同一の作動温度(300℃)を異なる二つの形状のセンサに適用している。これによると、NO2検知時はビーズ型センサの方が、より高い感度を発揮するものである。
4.1.2 感度特性
我々は、1)酸化活性触媒のタイプ及び量、2)原子価制御のためのSbの量、3)添加剤の条件、そして4)被覆層の製造条件という、種々の製造条件について調査した。そして、我々は、次の範囲において、ディーゼル排気ガス検知用として十分な機能を発揮することを見出した。
1)活性触媒:SnO2に対して0.1?0.3重量%のPd
2)原子価制御の状態: SnO2に対して0.05?0.2重量%のSb
3)追加的添加剤:希土類(イットリウム類)
4)フィルタ層の適用:活性アルミナに対してPt(0.1?0.3重量%)」(第335頁第1行?第26行)

これら記載事項によれば、甲第8号証には、
「ヒータコイルを覆うように、SnO2の感応成形体を設け、該感応成形体の表面をフィルタ層で被覆すると共に、前記ヒータコイルの内部に中心電極を設け、300℃の作動温度でディーゼル排気ガスメタンガスを検知するガスセンサにおいて、
前記感応成形体を直径0.3mm、長さ0.5mmのビーズ型に形成し、
さらにフィルタ層を0.1mm未満の厚みに形成した、ガスセンサ。」(以下、「甲第8号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第9号証の記載事項]
(9a)「〔発明の技術分野〕
本発明はガス検知素子に関し、更に詳しくは低濃度の還元性ガスに対し高感度で、しかも低温域(室温?約120℃)では一酸化炭素(CO)を、高温域(350?450℃)ではメタン(CH4)、プロパン(C3H8)を選択的に検出するガス検知素子に関する。」(第1頁左下欄第15行?右下欄第1行)
(9b)「まず、第1図で1は、例えばアルミナあるいはムライトから成る筒状の絶縁基体で、該基体1の外周面には1対の電極2が設けられている。該基体1及び電極2を被覆して、酸化第二スズ(SnO2)の薄膜又は不純物としてニオビウム(Nb)若しくはアンチモン(Sb)の酸化物を含むSnO2の薄膜3が設けられ、更にその上には全体を被覆して厚膜触媒層4が積層されて本発明のガス検知素子が構成される。」(第2頁右上欄第19行?左下欄第7行)

これら記載事項によれば、甲第9号証には、
「SnO2の薄膜を設けたガス検知素子において、低温域では一酸化炭素を、高温域ではメタン、プロパンを選択的に検出する、ガス検知素子。」(以下、「甲第9号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第10号証の記載事項]
(10a)「3.酸化スズ半導体からなるガス感応体(5)を加熱、冷却の繰返しにより交互に低温状態と高温状態にして、その低温状態のガス感応体(5)により一酸化炭素ガスを検出し、前記ガス感応体(5)の表面の汚れを前記高温状態において除去し、その汚れを除去した高温状態の感応体(5)によりメタンを検出する一酸化炭素ガス及びメタンガス検出方法であって、・・・一酸化炭素ガス及びメタンガス検出方法。」(第1頁右下欄第7行?第20行)
(10b)「その結果、低温状態での感度良好な一酸化炭素ガスの検出、必要に応じて実施する高温状態でのメタンガス検出を、・・・短時間間隔で実行できるようになり、また、そのような実用価値の高い一酸化炭素ガス検出用センサーや一酸化炭素ガス及びメタンガス検出用センサーを提供できるようになった。」(第3頁左上欄第6行?第14行)

これら記載事項によれば、甲第10号証には、
「酸化スズ半導体からなるガス感応体を設けた一酸化炭素ガス及びメタンガス検出センサにおいて、加熱、冷却の繰返しにより交互に低温状態と高温状態にして、その低温状態のガス感応体により一酸化炭素ガスを検出し、その高温状態のガス感応体によりメタンを検出する、一酸化炭素ガス及びメタンガス検出センサ。」(以下、「甲第10号証記載の発明」という。)について記載されている。

[甲第11号証の記載事項]
(11a)「【請求項4】 センサ感応部(2)として、主として酸化スズよりなる酸化物半導体を備えた低熱容量の熱線型半導体式ガスセンサを備え、メタンを主成分とする燃料ガスととを識別検知するガス検知装置であって、
前記熱線型半導体式ガスセンサ(1)が、原子価制御された酸化スズ(SnO2)を主成分とするとともに燃焼不活性の耐熱性のある4価の金属酸化物を担持したセンサ感応部(2)を備え、前記センサ感応部(2)の表面層に比表面積の大きい前記酸化スズの緻密焼結層(4)を備えたものであり、
前記熱線型半導体式ガスセンサのセンサ感応部(2)の温度を、前記燃料ガスを検知するための燃料ガス検知温度と、前記燃料ガス検知温度とは異なる前記不完全燃焼ガスを検知するための不完全燃焼ガス検知温度とに交互に切替える切替え手段を備えたガス検知装置。」
(11b)「【0026】(ハ)上記の実施例においては、燃料ガス検知温度と不完全燃焼ガス検知温度との交互切替えのサイクルを単位時間(実施例では10秒)としたが、検知温度が高い燃料ガス検知状態を長く、検知温度が低い不完全燃焼検知状態を短く設定(例えば低温側検知を3秒、高温側検知を27秒)して、通常状態においては燃料ガス検知状態を維持するようにしておくこともできる。」

これら記載事項によれば、甲第11号証には、
「酸化スズよりなる酸化物半導体を備えた熱線型半導体式ガスセンサにおいて、前記熱線型半導体式ガスセンサのセンサ感応部を高温側と低温側とに交互に切換えて、高温側でメタンを主成分とする燃料ガスを低温側で一酸化炭素を主成分とする不完全燃焼ガスを検知する、熱線型半導体式ガスセンサ。」(以下、「甲第11号証記載の発明」という。)について記載されている。

<本件発明1について>
(4.2)甲第1号証記載の発明との対比
請求人は、訂正前の請求項1?6に係る本件特許は、甲第1号証に記載された発明に対し、甲第2?11号証記載の技術を適用することによって容易に発明をすることができたものである旨主張しているので、まず、本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比する。
甲第1号証記載の発明の「貴金属線コイル」、「酸化スズを主成分とする半導体」、「感応部」、「妨害ガスを燃焼除去させるための被覆層」は、それぞれ機能的に本件発明1の「コイル状のヒータ兼用電極(10)」、「SnO2」、「内部領域(6)」、「フィルター(8)」と対応するから、甲第1号証記載の発明の「貴金属線コイルを覆って酸化スズを主成分とする半導体から形成される感応部を設け」、「該感応部に妨害ガスを燃焼除去させるための被覆層を形成し」は、それぞれ本件発明1の「コイル状のヒータ兼用電極(10)を覆うように、SnO2の内部領域(6)を設け」、「該内部領域をフィルター(8)で被覆する」に相当することは明らかである。
また、甲第1号証記載の発明の「炭化水素ガス」、「熱線型半導体式ガス検知素子」は、それぞれ本件発明1の「水素以外の可燃性ガス」、「ガスセンサ」と対応するから、甲第1号証記載の発明の「450℃以上550℃以下で炭化水素ガスを検知する熱線型半導体式ガス検知素子」と、本件発明1の「ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサ」とは、「高温で水素以外の可燃性ガスを検出するガスセンサ」という点で共通するものである。
また、甲第1号証記載の発明のガスセンサは、感応部を「酸化スズを主成分とする半導体」で形成し、被覆層を「パラジウムを担持させたガス透過性の第一被覆層と、前記感応部の外表面に、パラジウムを担持させてあるアルミナ、シリカ、シリカアルミナのすくなくともいずれか一種を主成分としたガス透過性の第二被覆層」で形成しており、被覆層が感応部以上の割合でアルミナ、シリカ、シリカアルミナなどの骨材を含有しているから、甲第1号証記載の発明の被覆層が、本件発明1の「フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し」ていることは明らかである。
また、甲第1号証記載の発明の「前記感応部を、その長径が短径の1.5倍以下で、かつ、体積が6.5×10-5mm3 以上8.2×10-3mm3 以下に形成し、さらに、前記被覆層を、5μm以下の厚さの第一被覆層、及び/又は10μm以上30μm以下の厚さの第二被覆層で形成した」と、本件発明1の「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20とした」とは、両者の内部領域の体積の数値範囲が一部重複しているので、「内部領域(6)の体積を1.0×10-3mm3?8.2×10-3mm3 とした」という点で共通するものである。
なお、仮に、甲第1号証記載の発明の「前記感応部の長径を短径の1.5倍以下で、かつ、前記感応部の体積を6.5×10-5mm3 以上8.2×10-3mm3 以下とし、さらに、前記第一被覆層の厚さを5μm以下、前記第二被覆層の厚さ10μm以上30μm以下とした」という条件に含む寸法の、感応部の長径を短径の1.0倍、感応部の体積を本件発明1の内部領域の体積の下限値である1.0×10-3mm3 、被覆層を第一被覆層と第二被覆層のそれぞれの上限値の厚さで形成した厚さ35μmとした場合、つまり、感応部の体積を本件発明1の最小値を用いて、甲第1号証記載の発明の感応部と被覆層との総体積を最大値とした場合の「総体積と感応部との体積比」を、球の公式を用いて計算してみると3.82・・・となり、計算のもとになる2桁の有効数字に合わせると3.8となることから、甲第1号証記載の発明では、総体積と感応部との体積比は、3.8以下と解するのが相当である。そして、本件発明1の「内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20とした」という記載は、その記載自体が一義的に明確であるので、本件特許明細書の段落【0020】において、その体積比を、小数第一位を四捨五入し一の位の概数にしてあるとしても、これを根拠に「内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を3.5?20.4とした」と数値範囲を広く解釈したり、「内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比をおよそ4?20とした」と概数として解釈する特段の事情は存在しない。

したがって、両者は、
「 コイル状のヒータ兼用電極を覆うように、SnO2の内部領域を設け、該内部領域をフィルターで被覆すると共に、高温側で水素以外の可燃性ガスを検出するガスセンサにおいて、
フィルターが内部領域以上の割合で骨材を含有し、
内部領域の体積を1.0×10-3mm3?8.2×10-3mm3 とした、ガスセンサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1では、ヒータ兼用電極の中心部に中心電極を設けているのに対し、甲第1号証記載の発明では、このような電極を設けていない点。
(相違点2)
本件発明1では、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、このようなガスセンサでない点。
(相違点3)
本件発明1では、フィルターが貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、このようなフィルターであるか明らかでない点。
(相違点4)
本件発明1では、フィルターでの貴金属触媒濃度を内部領域での貴金属触媒濃度よりも低くしているのに対し、甲第1号証記載の発明では、このような構成であるか明らかでない点。
(相違点5)
本件発明1では、「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20とした」のに対し、甲第1号証記載の発明では、「前記感応部を、その長径が短径の1.5倍以下で、かつ、体積が6.5×10-5mm3 以上8.2×10-3mm3 以下に形成し、さらに、前記被覆層を、5μm以下の厚さの第一被覆層、及び/又は10μm以上30μm以下の厚さの第二被覆層で形成した」点。

(4.3)判断
<相違点1について>
ガスセンサにおいて、ヒータ兼用電極の中心部に中心電極を設けることは、甲第5号証?甲第8号証などに記載されているように本件出願前周知の技術であり、甲第1号証記載の発明のコイル状のヒータ兼用電極を備えたガスセンサに、当該周知技術を適用して、ヒータ兼用電極の中心部に中心電極を設けることは、当業者であれば容易に為し得ることである。

<相違点2について>
ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサは、甲第5号証,甲第10号証,甲11号証などに記載されているように本件出願前周知の技術であり、当該周知技術を適用して、甲第1号証記載の発明の高温側で水素以外の可燃性ガスを検出するガスセンサを、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサとすることは、当業者であれば容易に為し得ることである。

<相違点3について>
ガスセンサのフィルターを貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体とすることは、甲第7号証などに記載されているように本件出願前周知の技術であり、当該周知技術を適用して、甲第1号証記載の発明のフィルターを、貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体とすることは、当業者であれば容易に為し得ることである。

<相違点4について>
ガスセンサにおいて、フィルターでの貴金属触媒濃度を内部領域での貴金属触媒濃度よりも低くすることは、甲第7号証などに記載されているように本件出願前周知の技術であり、甲第1号証記載の発明のガスセンサにおいて、当該周知技術を適用して、フィルターでの貴金属触媒濃度を内部領域での貴金属触媒濃度よりも低くすることは、当業者であれば容易に為し得ることである。

<相違点5について>
本件特許明細書の試験例によれば、段落【0020】に「・・・内部領域6の体積は4,4,8,8,9,14,15,24,29(各10-3mm3単位)の9種類とした。・・・また、ビーズ4の総体積と内部領域6の体積との比は、前記の9種類のセンサで、8,13,5,12,9,7,4,3,2の順となった。」と記載されているように、「内部領域の体積」と、「総体積と内部領域の体積比」を、同じガスセンサを用いて同時に評価しており、これら2要素のどちらか一方を固定し他方を変動させて、それぞれを独立に評価したものではない。そして、本件発明1は、内部領域の体積が小さく、総体積と内部領域との体積比が大きいほど低温側のセンサ特性が向上するという知見に基づいて、「内部領域の体積」と「総体積と内部領域との体積の比」の数値を限定しているのであるから、本件発明1の相違点5の構成である「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20とした」という構成を、「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 」と「内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」とに分けて検討することは妥当ではない。
また、「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 」と「内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」から、「内部領域とフィルターとの総体積4×10-3mm3?320×10-3mm3」や、ガスセンサを球体と仮定した場合には、「フィルターの厚さ36.5?268μm」を導き出すことは可能である。しかしながら、例えば、「内部領域とフィルターとの総体積」を下限値の4×10-3mm3とし、「内部領域の体積」を上限値の16×10-3mm3 とすると、その体積比は0.25となり、逆に、「内部領域とフィルターとの総体積」を上限値の320×10-3mm3とし、「内部領域の体積」を下限値の1×10-3mm3とすると、その体積比は320となるように、「総体積と内部領域との体積比は0.25?320」となり、本件発明1の体積比4?20とはならない。このように、「内部領域の体積」と「総体積と内部領域との体積比」とをそれぞれ数値範囲として規定している場合には、「総体積と内部領域との体積比」の数値と「内部領域とフィルターとの総体積」の数値とが一対一に対応するものでないから、「総体積と内部領域との体積比」に代えて、「内部領域とフィルターとの総体積」や、内部体積と総体積との関係から算出される「フィルターの厚さ」を用いて検討することは妥当ではない。

上記の観点を踏まえ、甲第2?11号証の記載から上記相違点5の構成が容易であるか検討する。
甲第2?4号証には、フィルターの厚さが記載されているものの、内部領域の体積が記載されていないため、甲第2?4号証記載の発明の何れも、相違点5の構成を当業者が容易に想到したとする根拠になり得るものではない。
甲第5号証には、内部領域の寸法が記載されているものの、フィルターの厚さが記載されていないため、甲第5号証記載の発明は、相違点5の構成を当業者が容易に想到したとする根拠になり得るものではない。
甲第6号証記載の発明は、フィルターを備えていないため、相違点5の構成を当業者が容易に想到したとする根拠になり得るものではない。
甲第7号証には、内部領域の体積も、内部領域とフィルターの総体積と内部領域との体積比も記載されていないため、甲第7号証記載の発明は、相違点5の構成を当業者が容易に想到したとする根拠になり得るものではない。
甲第8号証記載の発明は、内部領域を直径0.3mm、長さ0.5mmのビーズ型に形成し、さらにフィルターを0.1mm未満の厚みに形成したものであり、楕円体として計算にすると、「内部領域の体積」は24×10-3mm3、「総体積と内部領域との体積比」は3.9未満となるから、甲第8号証記載の発明は、相違点5の構成を当業者が容易に想到したとする根拠になり得るものではない。
甲第9?11号証には、内部領域の体積も、総体積と内部領域との体積比も記載されていないため、甲第9?11号証記載の発明の何れも、相違点5の構成を当業者が容易に想到したとする根拠になり得るものではない。

このように、甲第2?11号証の何れにも、本件発明1の相違点5の構成である「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」とした点について記載も示唆もされていない。
そして、そもそも甲第1号証記載の発明は、高温側でガスを検知するものであるから、低温側のセンサ特性向上という課題はなく、また、甲第2?11号証の何れにも、低温側のセンサ特性向上のために、「内部領域の体積」を小さくし「総体積と内部領域との体積比」を大きくするという記載も示唆もない。
したがって、甲第1号証記載の発明に甲第2?11号証記載の発明を適用することにより、本件発明1の相違点5の構成を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

(4.4)甲第5号証記載の発明との対比
次に、甲第5号証には、本件発明1の前提となる「コイル状のヒータ兼用電極を覆うように、SnO2からなる略球状の感ガス体を設け、該感ガス体の表面に雑ガスを除去するためのフィルタ層を形成すると共に、前記ヒータ兼用電極のコイル部を貫通する白金電極を設け、前記感ガス体の温度を高低2段階に間欠的に加熱し、高温時に水素以外の可燃性ガスを検出するとともに、低温時に一酸化炭素を検出する半導体ガスセンサ」が記載されているから、本件発明1と甲第5号証記載の発明とを対比する。
甲第5号証記載の発明の「ヒータ兼用電極」、「感ガス体」、「フィルタ層」、「白金電極」、「半導体ガスセンサ」は、それぞれ機能的に本件発明1の「ヒータ兼用電極(10)」、「内部領域(6)」、「フィルター(8)」、「中心電極(12)」、「ガスセンサ」と対応するから、甲第5号証記載の発明の「コイル状のヒータ兼用電極を覆うように、SnO2からなる略球状の感ガス体を設け」、「該感ガス体の表面に雑ガスを除去するためのフィルタ層を形成すると共に」、「前記ヒータ兼用電極のコイル部を貫通する白金電極を設け」、「前記感ガス体の温度を高低2段階に間欠的に加熱し、高温時に水素以外の可燃性ガスを検出するとともに、低温時に一酸化炭素を検出する半導体ガスセンサ」は、それぞれ本件発明1の「コイル状のヒータ兼用電極(10)を覆うように、SnO2の内部領域(6)を設け」、「該内部領域をフィルター(8)で被覆すると共に」、「前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極(12)を設け」、「ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサ」に相当することは明らかである。
また、甲第5号証記載の発明のガスセンサは、感ガス体を「SnO2」で形成し、フィルタ層を「Pt,Pdのいずれかを添加したAl2 O3又はSiO2 の焼結体」で形成しており、フィルタ層が感ガス体以上の割合でAl2 O3又はSiO2の骨材を含有しているから、甲第5号証記載のフィルタ層が、本件発明1の「フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し」ていることは明らかである。

したがって、両者は、
「 コイル状のヒータ兼用電極を覆うように、SnO2の内部領域を設け、該内部領域をフィルターで被覆すると共に、前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサにおいて、
フィルターが内部領域以上の割合で骨材を含有している、ガスセンサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1;甲第1号証記載の発明との対比における相違点3に相当)
本件発明1では、フィルターが貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であるのに対し、甲第5号証記載の発明では、フィルターがPt、Pdのいずれかを添加したAl2 O3又はSiO2 の焼結体である点。
(相違点2;甲第1号証記載の発明との対比における相違点4に相当)
本件発明1では、フィルターでの貴金属触媒濃度を内部領域での貴金属触媒濃度よりも低くしているのに対し、甲第5号証記載の発明では、このような構成であるか明らかでない点。
(相違点3;甲第1号証記載の発明との対比における相違点5に相当)
本件発明1では、「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20とした」のに対し、甲第5号証記載の発明では、「前記感ガス体の外径寸法を略0.4mm?0.8mm以下に形成した」点。

(4.5)判断
<相違点1について>
甲第1号証記載の発明との対比における相違点3の判断と同様である。
<相違点2について>
甲第1号証記載の発明との対比における相違点4の判断と同様である。
<相違点3について>
甲第1号証記載の発明との対比における相違点5の判断と同様である。

甲第1?4及び甲第6?11号証の何れにも、本件発明1の相違点3の構成である「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」とした点について記載も示唆もされていない。
そして、甲第1?4及び甲第6?11号証の何れにも、低温側のセンサ特性向上のために、「内部領域の体積」を小さくし「総体積と内部領域との体積比」を大きくするという記載も示唆もない。
したがって、甲第5号証記載の発明に甲第1?4及び甲第6?11号証記載の発明を適用することにより、本件発明1の相違点3の構成を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

(4.6)その外の各甲号証記載の発明との対比・判断
さらに、甲第2?4号証及び甲6?11号証記載の発明と本件発明1とを対比しても、甲第1?11号証の何れにも、本件発明1の構成である「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」とした点については、記載も示唆もされていないから、甲第1?11号証記載の発明から本件発明1を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
そして、本件発明1は、CO中でのセンサ抵抗を小さくでき、H2選択性を改善でき、低濃度のCO中の濃度依存性を低めることができるという、甲第1?11号証に記載の発明から当業者が予測できない作用効果を奏するものである。

(4.7)請求人の主張
請求人は、審判請求書(第31頁第4行?第32頁第45行)において、本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比した際の相違点「内部領域とフィルターの総体積と内部領域との体積の比を4?20」は、次の理由1?3により本件発明1の進歩性を肯定し得るものではないとしている。
[理由1]
請求人は、甲第2?4号証及び甲第8号証には、甲第2?4号証の図面から、又は甲第8号証の記載からみて、「内部領域とフィルターの総体積と内部領域との体積の比を4?20」とする構成が開示されていると主張する。
しかしながら、図面は、発明を模式的に示すものであって正確な寸法が示されているとはいえないから、甲第2?4号証の図面から「内部領域とフィルターの総体積と内部領域との体積の比を4?20」という数値を導き出すことはできず、また、上記[(4.3)判断]の項において述べたように、甲第8号証の「総体積と内部領域との体積比」は3.9未満であるから、請求人の上記主張は採用できない。

[理由2]
請求人は、内部領域に対する総体積と内部領域との体積比を規定することは、内部領域に対するフィルターの寸法を規定しているようなものであり、フィルターの寸法を適宜調整する程度のことは、当業者が適宜為し得る設計事項にすぎないと主張する。(なお、平成19年1月12日付け弁駁書の第7頁第14行?第8頁第11行でもフィルターの寸法範囲を根拠とする意味において同様の主張。)
しかしながら、上記[(4.3)判断]の項において述べたように、本件発明は、「総体積と内部領域との体積比」の数値と「内部領域とフィルターとの総体積」の数値とが一対一に対応するものでなく、内部領域に対するフィルター寸法の数値範囲では、総体積と内部領域との体積比の数値範囲を規定できないから、フィルターの寸法を適宜調整することが、当業者が適宜為し得る設計事項であったとしても、本件発明1の「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」とした構成の容易性判断に何ら影響を及ぼすものではない。
また、請求人は、甲第2?4号証には、本件発明1のフィルターの厚みを36.5?268μmの範囲と算出して、本件発明1のフィルターの厚み相当が開示されているとも主張する。
しかしながら、上記[(4.3)判断]の項において述べたように、本件発明1は、フィルターの厚みを規定したものでなく、総体積と内部領域との体積比を規定したものであり、内部領域の体積が記載されていない甲第2?4号証は、総体積と内部領域との体積比を規定できないから、本件発明1の「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20」とした構成の容易性判断に何ら影響を及ぼすものではない。

[理由3]
請求人は、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確であるから、本件発明1は、総体積と内部領域との体積比を4?20という構成を具備することによる顕著な効果はなく、仮に何らかの効果を奏するとしても、単なる数値範囲の最適化又は好適化の域を出るものではないと主張する。
しかしながら、上記[(3)無効理由1について]の項において述べたように、本件発明が、本件特許明細書に記載された所期の作用効果を奏するか不明確とはいえないから、本件発明1における総体積と内部領域との体積比を4?20とする構成を、単なる数値範囲の最適化又は好適化とする理由はない。

(4.8)まとめ
したがって、本件発明1は、上記甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づき、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでなく、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

<本件発明2について>
本件発明2は、本件発明1を引用して、本件発明1の「内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3 とし、かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20としたこと」を、「内部領域(6)の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3 としたこと」と限定するものであるから、本件発明1が、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上、本件発明2も同様に甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、本件発明2は、上記甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づき、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでなく、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

<本件発明3について>
本件発明3は、本件発明2を引用して、本件発明2の「内部領域(6)の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3 としたこと」を、「内部領域(6)の体積を4×10-3mm3?10×10-3mm3 とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を5?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を30×10-3mm3?60×10-3mm3 としたこと」と限定するものであるから、本件発明2が、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上、本件発明3も同様に甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、本件発明3は、上記甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基づき、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでなく、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

IV.むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
また、審判費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガスセンサ及びガス検出装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】コイル状のヒータ兼用電極(10)を覆うように、SnO2の内部領域(6)を設け、該内部領域をフィルター(8)で被覆すると共に、前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極(12)を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサにおいて、
フィルター(8)が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター(8)が内部領域(6)以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター(8)での貴金属触媒濃度を内部領域(6)での貴金属触媒濃度よりも低くし、
内部領域(6)の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3とし、
かつ内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?20としたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】内部領域(6)の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を4?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3としたことを特徴とする、請求項1のガスセンサ。
【請求項3】内部領域(6)の体積を4×10-3mm3?10×10-3mm3とし、内部領域(6)とフィルター(8)の総体積と内部領域(6)との体積の比を5?15とし、さらに内部領域(6)とフィルター(8)の総体積を30×10-3mm3?60×10-3mm3としたことを特徴とする、請求項2のガスセンサ。
【請求項4】削除
【請求項5】削除
【請求項6】削除
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の利用分野】
この発明は、コイル状のヒータ兼用電極を用いたガスセンサの改良に関する。
【0002】
【従来技術】
コイル状のヒータ兼用電極を設けた金属酸化物半導体の表面を、フィルタで被覆したガスセンサが知られている(例えば特開平11-142356号)。このようなガスセンサは、例えば周期的に温度変化させて、低温域でCOを、高温域でメタン等の可燃性ガスを、検出するために用いる。そしてアルコール等の妨害ガスは活性炭フィルター等で簡単に除けるので、主な妨害ガスは、CO検出時にも可燃性ガスの検出時にも、水素となる。さらにCO中の抵抗値は可燃性ガス中の抵抗値よりも一般に高く、検出回路の設計上の問題となる。
【0003】
【発明の課題】
この発明の課題は、
1)CO中と可燃性ガス中とで、センサの抵抗値を近づけ、
2)可燃性ガス中でもCO中でも、水素からのこれらのガスへの選択性を改善し、
3)可燃性ガス中での濃度依存性を高め、
4)低濃度のCO中での濃度依存性を低めることにある。
【0004】
【発明の構成】
この発明は、コイル状のヒータ兼用電極10を覆うように、SnO2の内部領域6を設け、該内部領域をフィルター8で被覆すると共に、前記ヒータ兼用電極の中心部に中心電極12を設け、ガスセンサを高温側と低温側とに周期的に温度変化させて、高温側で水素以外の可燃性ガスを低温側でCOを検出するガスセンサにおいて、
フィルター8が貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体であり、フィルター8が内部領域6以上の割合で骨材を含有し、さらにフィルター8での貴金属触媒濃度を内部領域6での貴金属触媒濃度よりも低くし、
内部領域6の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3とし、
かつ内部領域6とフィルター8の総体積と内部領域6との体積の比を4?20としたことを特徴とする。
好ましくは、内部領域6の体積を3×10-3mm3?10×10-3mm3とし、内部領域6とフィルター8の総体積と内部領域6との体積の比を4?15とし、さらに内部領域6とフィルター8の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3とする。
さらに好ましくは、内部領域6の体積を4×10-3mm3?10×10-3mm3とし、内部領域6とフィルター8の総体積と内部領域6との体積の比を5?15とし、さらに内部領域6とフィルター8の総体積を30×10-3mm3?60×10-3mm3とする。
【0005】
この発明では、前記ヒータ兼用電極の中心部に、中心電極12を設ける。
この発明では、フィルター8は貴金属触媒を添加したSnO2と骨材との混合物の焼結体で、内部領域6はSnO2を含有し、フィルター8に内部領域6以上の割合で、アルミナやシリカ、ゼオライト等の骨材を含有させる。なお内部領域6での骨材含有量は0でも良い。
またこの発明では、フィルター8でのPdやPt等の貴金属触媒濃度を、内部領域6での貴金属触媒濃度よりも低くする。
【0006】
【発明の作用と効果】
発明者は、内部領域の体積、内部領域とフィルターの総体積、総体積と内部領域の体積の比の3つの要素が、ガスセンサの特性にどのように影響するかを検討した。目標としたのは、CO中と可燃性ガス中との抵抗値を近づけ、COや可燃性ガスに対する水素からの選択性を増し、可燃性ガス中での濃度依存性を増し、低濃度のCO中(例えば100?300ppm)での濃度依存性を低めることである。なお低濃度のCO中での濃度依存性は一般に高すぎ、例えばCO300ppm中の抵抗値がCO100ppm中の抵抗値の1/20以下となリ、濃度依存性が高すぎるため、回路的に扱いにくいのである。
【0007】
検討の結果、内部領域の体積と、総体積/内部領域の体積の比が、低温側の特性(CO検出時の特性)に影響し、総体積が可燃性ガス検出時の特性に影響することが判明した。内部領域の体積や体積比では、内部領域の体積が小さく、かつ体積比が大きいほど、CO中での抵抗値が低下して可燃性ガス中での抵抗値に近づき、水素からの選択性が増し、低濃度域でのCOへの濃度依存性が小さくなった。そこで試作したガスセンサでのこれらの値を基に、内部領域の体積を1×10-3mm3?16×10-3mm3で、好ましくは3×10-3mm3?10×10-3mm3、特に好ましくは4×10-3mm3?10×10-3mm3と定めた。また同様にして、総体積/内部領域の体積比を4?20,好ましくは4?15、特に好ましくは5?15と定めた。
【0008】
可燃性ガス中の特性は前記のように総体積に依存し、総体積を小さくすると、可燃性ガス中でのセンサ抵抗が減少するものの、水素選択性が増し、濃度依存性も増し、同時に可燃性ガス感度も増すとの結果が得られた。これらのことから、総体積は15×10-3mm3?70×10-3mm3で、好ましくは30×10-3mm3?60×10-3mm3と定めた。
【0009】
【実施例】
図1?図9に実施例を示す。図1にガスセンサ2の構造を示すと、4は金属酸化物半導体ビーズで、内部領域6とフィルター8との2層構造を有する。内部領域6を、後述のヒータ兼用電極10のコイルを完全に覆うように設け、例えばPd等の貴金属触媒を添加したSnO2を主成分とし、所望によりα-アルミナ等の骨材を混合した酸化物の焼結体とする。α-アルミナ含有量をSnO2の100重量部に対し例えば0?50重量部とし、ここでは10重量部とした。フィルター8を内部領域6を完全に覆うように設け、内部領域6と同様に、フィルター8を、貴金属触媒を添加したSnO2と、α-アルミナ等の骨材との混合物の焼結体とした。
【0010】
フィルター8は内部領域6とは異なる材質を用い、一般にフィルター8の骨材含有量(重量%基準)は内部領域6以上とし、内部領域6は骨材を含有しなくても良い。内部領域6やフィルター8の骨材は、α-アルミナに限らずシリカやゼオライト等でも良く、また内部領域6とフィルター8とで骨材の種類が異なっても良い。触媒はここではPdを用いたが、Pt等の貴金属でも良く、内部領域6とフィルター8で異なっても良く、例えば金属換算での貴金属触媒の重量濃度(骨材+SnO2の合計量への濃度)は、フィルター8で内部領域6よりも低くする。
【0011】
10はヒータ兼用電極で、線径(直径)10?25μmで、コイル状をなし、ここでは線径20μmのPt線とした。ヒータ兼用電極10の線材はPtに限らず、Pt-W、Pt-Mo、Pt-Ti、Pt-Ni、Pt-Cr、Pt-Fe、Pt-Al、Pt-ZGS等の高抵抗なPtベースの合金が好ましい。またヒータ兼用電極10のコイルのターン数は例えば3?13、ここでは10とし、コイルの内径を例えば150μm、コイル長を例えば300μmとした。ヒータ兼用電極10の両端をステム14に固定した。
【0012】
12は中心電極で、ヒータ10と同様にPt線からなり、線径は10?25μmが好ましく、ここでは20μmとした。中心電極12の線材は、ヒータ兼用電極10と同様にPtに限らず、Pt-W、Pt-Mo、Pt-Ti、Pt-Ni、Pt-Cr、Pt-Fe、Pt-Al、Pt-ZGS等の高抵抗なPtベースの合金が好ましい。中心電極12を、ヒータ兼用電極10のコイルの中心線に沿って配置し、その両端をステム14に固定した。
【0013】
ビーズ4は楕円球状ないし球状とし、球状の場合、直径は300μm?510μmで、好ましくは380μm?490μmとし、総体積は15×10-3mm3?70×10-3mm3で、好ましくは30×10-3mm3?60×10-3mm3とする。内部領域6も楕円球状ないし球状とし、球状の場合、直径は120μm?320μmで、好ましくは180μm?270μm、特に好ましくは200μm?250μmとする。内部領域6の体積は1×10-3mm3?16×10-3mm3で、好ましくは3×10-3mm3?10×10-3mm3とし、特に好ましくは4×10-3mm3?10×10-3mm3とする。そしてビーズ4の総体積/内部領域6の体積の比を4?20,好ましくは4?15、特に好ましくは5?15とする。
【0014】
メタン中でのセンサ抵抗RsとCO中でのセンサ抵抗Rsとを、近づけることが好ましい。メタン感度は高いほど好ましく、H2へのCOやメタンの選択性は高い程好ましい。βは検知ガスの濃度依存性を表し、βはメタンやCOの濃度を所定の範囲で増した際の抵抗値の比を表す。メタン中でのβを減少させることが好ましく、CO中では低濃度(100?300ppm)でのβを増すことが好ましい。
【0015】
ガスセンサ2の高温側の特性は、主としてビーズ4の総体積で定まる。そしてビーズ4の総体積を小さくすると、メタン感度、H2選択性、メタンへの濃度依存性を高くできる。
【0016】
ガスセンサ2の低温側の特性は、内部領域6の体積と、総体積と内部領域6の体積の比とに依存する。内部領域6の体積を小さくすると、CO中でのセンサ抵抗Rsを小さくでき、H2選択性を向上し、低濃度のCO中の濃度依存性を小さくできる。またビーズ4の総体積と内部領域6の体積との比を大きくすると、CO中でのセンサ抵抗Rsを低くでき、H2選択性を向上し、低濃度のCO中の濃度依存性を小さくできる。
【0017】
図2にガスセンサ2の駆動パターンの例を、図3にガスセンサ2の駆動回路の例を示す。電源を例えば電池電源16とし、18は信号処理用のマイクロコンピュータ、20はトランジスタ、22は負荷抵抗である。マイクロコンピュータ18のA/D入力からセンサ信号を読み込み、COとメタン等の可燃性ガスとを検出する。トランジスタ20はマイクロコンピュータ18で駆動され、PWM制御でパルス的にヒータをオンし、高温側ではオンのデューティ比を大きくし、低温側ではオンのデューティ比を小さくする。10秒周期の最初の3秒間は、ヒータ兼用電極10の最高温度は例えば400?600℃で、ここではメタン検出に適した500℃とする。低温側ではヒータのオンのデューティ比を小さくして、7秒間放冷し、例えば約70℃でCOを検出する。
【0018】
【試験例】
9種類のサイズのガスセンサを、以下のようにして製造した。線径20μmのPt線からなるヒータ兼用電極10をコイル状とし、コイル内径を150μm、コイル長を300μm、ターン数を10とした。ヒータ兼用電極10のコイルの中心に、線径20μmのPt線の中心電極12を設けた。SnO2が100重量部に対し1重量部のPdを添加したSnO2と、SnO2が100重量部に対し10重量部のα-アルミナとの混合物を、適当な粘度のペーストに調製して、ヒータ兼用電極10のコイルに滴下し、乾燥させて内部領域6を形成した。これにPdをSnO2が100重量部に対して0.5重量部加えたSnO2と、α-アルミナとを重量比で1:1に混合して適当な粘度のペーストとし、内部領域6に滴下乾燥してフィルター8を形成後、650?700℃で焼成した。このようにして、内部領域6の体積が8,8,9,14,15,24,29(各10-3mm3単位)のセンサを試作した。
【0019】
これ以外に、ヒータ兼用電極10と中心電極12とに線径15μmのPt線を用い、ヒータ兼用電極10をコイル状とし、コイル内径を100μm、コイル長を100μm、ターン数を5とし、他は上記と同様にしてガスセンサ2を製造した。このようにして内部領域6の体積が、4×10-3mm3のセンサを試作した。
【0020】
内部領域6は長径200?400μmで、短径が200?400μmの球状または楕円球状とし、内部領域6の体積は4,4,8,8,9,14,15,24,29(各10-3mm3単位)の9種類とした。ビーズ4は長径が380?650μm、短径が380?550μmの球状または楕円球状で、前記の9種類のセンサで、総体積は30,50,40,93,79,100,58,78,69(各10-3mm3単位)の順となった。また、ビーズ4の総体積と内部領域6の体積との比は、前記の9種類のセンサで、8,13,5,12,9,7,4,3,2の順となった。
【0021】
ガスセンサ2を図2の様に駆動し、高温側での500℃における、メタン、空気、水素中でのセンサ抵抗Rsを測定した。同様に低温側での室温付近で、CO、水素中でのセンサ抵抗Rsを測定した。メタン濃度は1000?3000ppm、COの濃度は100?1000ppmとした。これらの測定値から、メタン感度(空気中とメタン3000ppm中との抵抗値の比)、H2選択性(H21000ppmとメタン3000ppm、あるいはCO100ppmとの抵抗値の比)、メタン濃度依存性β(メタン3000ppm中とメタン1000ppm中の抵抗値の比)及びCO濃度依存性β(CO1000ppm中とCO300ppm中の抵抗値の比、及び300ppm中と100ppm中の抵抗値の比)を求めた。試験に用いたセンサは各20個である。
【0022】
図4?図9に、各20個のセンサの平均値で結果を示す。ここでメタン感度は、空気中でのセンサ抵抗Rsとメタン中でのセンサ抵抗Rsとの比で、高温側でのH2選択性は水素1000ppm中とメタン3000ppm中の抵抗値の比である。低温側でのH2選択性は、水素1000ppm中とCO100ppm中との抵抗値の比である。濃度依存性β(1000-3000)は、メタン3000ppm中とメタン1000ppm中との抵抗値の比、濃度依存性β(300-1000)はCO1000ppm中とCO300ppm中との抵抗値の比で、β(100-300)はCO300ppm中とCO100ppm中との抵抗値の比とした。
【0023】
図4,図5に、内部領域6の体積とセンサ特性との関係を示す。高温側では図4に示すように、内部領域6の体積を変化させても、メタン中でのセンサ抵抗Rsや、CH4感度、H2選択性、濃度依存性βはあまり変化しなかった。低温側では図5に示すように、内部領域6の体積を小さくすると、CO中でのセンサ抵抗Rsを低くでき、H2選択性を向上させ、低濃度での濃度依存性βの値を大きくできた。
【0024】
図6、図7に、ビーズ4の総体積とセンサ特性との関係を示す。高温側では図6に示すように、総体積を小さくすると、CH4感度を増し、H2選択性を高め、濃度依存性βの値を小さくできた。低温側では図7に示すように、CO中でのセンサ抵抗RsやH2選択性、濃度依存性βと、ビーズ4の総体積との相関は小さかった。
【0025】
図8、図9に、ビーズ4の総体積と内部領域6の体積との比の、センサ特性への影響を示す。高温側では図8に示すように、比を変えても、メタン中でのセンサ抵抗Rs、CH4感度とH2選択性、濃度依存性βはあまり変わらなかった。低温側では図9に示すように、センサ抵抗Rsは大きな体積比依存性を示し、比を大きくするとCO中でのセンサ抵抗Rsを低くでき、H2選択性を増し、低濃度での濃度依存性βの値を大きくできた。
【0026】
ガスセンサ2では、耐落下性、衝撃強度の観点からも、ビーズ4の総体積は小さい方が良い。またビーズ4の体積を小さくすると、ガスセンサ2の消費電力を小さくできる。一方内部領域6の体積を極端に小さくすることは、製造上難しい。これらのことから、内部領域6の体積は1×10-3mm3?16×10-3mm3とし、好ましくは3×10-3mm3?10×10-3mm3とし、特に4×10-3mm3?10×10-3mm3が好ましい。そして内部領域6とフィルター8を含むビーズ4の総体積を15×10-3mm3?70×10-3mm3とし、好ましくは30×10-3mm3?60×10-3mm3とする。またビーズ4の総体積と内部領域6の体積との比は4?20とし、好ましくは4?15とし、特に5?15とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のガスセンサの断面図
【図2】実施例のガスセンサの動作パターンを示す特性図
【図3】実施例のガスセンサの駆動回路のブロック図
【図4】ガスセンサの、内部体積と高温域でのセンサ特性との関係を示す特性図
【図5】ガスセンサの、内部体積と低温域でのセンサ特性との関係を示す特性図
【図6】ガスセンサの、ビーズ総体積と高温域でのセンサ特性との関係を示す特性図
【図7】ガスセンサの、ビーズ総体積と低温域でのセンサ特性との関係を示す特性図
【図8】ガスセンサの、ビーズ総体積と内部体積との比と、高温域でのセンサ特性との関係を示す特性図
【図9】ガスセンサの、ビーズ総体積と内部体積との比と、低温域でのセンサ特性との関係を示す特性図
【符号の説明】
2 ガスセンサ
4 金属酸化物半導体ビーズ
6 内部領域
8 フィルター
10 ヒータ兼用電極
12 中心電極
14 ステム
16 電池電源
18 マイクロコンピュータ
20 トランジスタ
22 負荷抵抗
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-03-06 
結審通知日 2007-03-08 
審決日 2007-03-20 
出願番号 特願平11-356868
審決分類 P 1 113・ 537- YA (G01N)
P 1 113・ 121- YA (G01N)
P 1 113・ 832- YA (G01N)
P 1 113・ 536- YA (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 菊井 広行
▲高▼見 重雄
登録日 2004-02-06 
登録番号 特許第3518800号(P3518800)
発明の名称 ガスセンサ及びガス検出装置  
代理人 塩入 みか  
代理人 塩入 明  
代理人 西川 惠清  
代理人 塩入 明  
代理人 森 厚夫  
代理人 塩入 みか  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ