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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1157952 |
審判番号 | 不服2005-12142 |
総通号数 | 91 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-06-28 |
確定日 | 2007-05-14 |
事件の表示 | 特願2004-178477「欝病、不安神経症およびパ-キンソン病を治療するための1-アリールシクロアルキルスルフィド、スルホキシドおよびスルホン」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-331669〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成6年(1994年)5月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年5月12日、英国)を国際出願日とする出願である特願平6-524946号の一部を平成16年6月16日に新たな特許出願としたものであって、平成16年8月23日付けで拒絶の理由が通知され、平成17年2月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成17年3月24日付けで拒絶査定され、これに対し、平成17年6月28日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年7月28日付けで手続補正がされたものである。 2 平成17年7月28付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年7月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?14(化合物に係る請求項)、16?19(治療方法に係る請求項)及び20(化合物の製造方法に係る請求項)を削除し、請求項15(医薬組成物に係る請求項)を新たな請求項1?3(特定の疾病を治療するための医薬組成物に係る請求項)と補正するものである。 (補正前の請求項15) 【請求項15】請求項1記載の式Iの化合物の治療有効量を薬学的に受容しうる希釈剤または担体と一緒に含有する医薬組成物。 (補正後の請求項1?3) 【請求項1】式I 〔式Iの化学構造式及び記号の説明省略。後記3(1)参照。〕 の化合物の治療有効量を薬学的に受容しうる希釈剤または担体と一緒に含有する、ADHD及び認識障害を治療するための医薬組成物。 【請求項2】請求項1記載の式Iの化合物の治療有効量を薬学的に受容しうる希釈剤または担体と一緒に含有する、認識障害を治療するための医薬組成物。 【請求項3】請求項1記載の式Iの化合物の治療有効量を薬学的に受容しうる希釈剤または担体と一緒に含有する、ADHDを治療するための医薬組成物。 (2)補正の適否 (i)新規事項について 補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項15に係る発明の医薬組成物について、「ADHD及び認識障害を治療するための」との限定を付すものである。 しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、本願化合物を含有する医薬組成物について、「欝病、不安神経症、パーキンソン病、肥満症、認識障害、てんかんのような急発作、神経症の治療における使用、および搏動のような状態を保護するための神経保護剤としての使用」(段落【0001】、また【0002】、【0031】参照。)と記載され、これらの疾病以外の治療における使用及び神経保護剤としての使用以外については当初明細書に記載も示唆もされていない。また、ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意力欠損運動過剰障害)を、当初明細書に記載されるこれら疾病に包含されることが自明であるとすることもできない。 そうしてみると、本願化合物を含有する医薬組成物をADHDの治療に使用することは、当初明細書に記載されている事項ではなく、また、当初明細書に記載されているに等しい事項でもない。 なお、請求人は、審判請求書において、「当業者の技術常識を考慮すると、式Iの化合物がADHD、認識障害の治療用途に有効であることは容易に推認できます。」と主張し、その裏付けとして説明資料1(Sience, Vol.191, pp.305-308(1976))、同2(Nature, Vol.261, pp.153-155(1976))を提出して、「2つの説明資料は、ドーパミンの再取込みを低減させる効果を有する化合物が、ADHDの治療において有効であることの証拠を提供しています。従って、本願発明の式Iの化合物がドーパミンの再取込みを低減させる効果を有する化合物であることから、式Iの化合物がADHD、認識障害の治療用途に有効であることは明らかです。」と述べている。 しかし、上記説明資料には、「子供に見出されたMBDの臨床症状に酷似する幼弱ラットにおける実験的モデル」(説明資料2、153頁右欄)を作成したこと、「(+)-アンフェタミンの投与が6-OHDA処理された仔ラットにおける多動を減少させ、その場合には作用はMBDを伴う子供におけるこの薬剤への逆説的な応答に並行すること」(同)が記載されおり、これらの資料からドーパミンの再取込みを低減させる効果を有する化合物であるアンフェタミンが、MBD(微細脳機能障害)と同義のADHDに対し有効である可能性が示唆されるといえるとしても、上記説明資料における、アンフェタミンを用いる6-OHDA(6-ヒドロキシドーパミン)処理により得られたモデルの仔ラットとヒトの子供の応答が並行するとの事例のみをもって、本願化合物がヒトの子供のADHDを治療するための医薬として使用し得ることが、上記説明資料から自明であるとの根拠が明確であるとすることはできない。 また、そもそも明細書における本願化合物の「ドーパミン再捕捉部位(reuptake site)との相互作用能力」(段落【0058】)についての試験は、当初明細書に記載の疾病の治療における使用の裏付けとするための試験であるから、この試験の結果をもとに本願化合物を「ドーパミンの再取込を低減させる効果を有する化合物」と上位概念で一般化し、当初明細書記載の疾病以外の新たな疾病の治療に対する使用を導き出すことは、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたといえるものではない。 よって、請求人の主張は採用できない。 したがって、本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものではないので、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第2項で準用する同法17条第2項の規定に違反する。 (ii)補正の目的について 本件補正は、補正前の請求項15を新たな請求項1?3とするものであるが、この補正は、請求項の数を増加する補正であって、複数の請求項を引用する請求項を個々の請求項を引用する請求項への変更(n項引用形式請求項をn-1以下の請求項への変更)に該当するものではないので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに当たらない。また、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもない。 したがって、本件補正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反する。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第2項で準用する同法17条第2項の規定及び同法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3 本願発明について (1)本願発明 平成17年7月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?20に係る発明は、平成17年2月25日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載されるとおりのものであり、その請求項1、11、15及び16は以下のとおりである。 「【請求項1】 式I 〔式中 mは0,1または2であり; nは2,3,4または5であり; Xはカルボニルまたは式II (ここでR5はHまたは1?4個の炭素原子を有するアルキル基である)であり; Yは場合により1?3個の炭素原子を有する1個または数個のアルキル基により置換された1個または2個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり; Zは場合により1?3個の炭素原子を有する1個または数個のアルキル基により置換された2?5個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり; Rは場合により1個または数個のハロ置換基により置換されたフェニルであるかまたはRはナフチルであり;かつ R1およびR2は同じかまたは異なり、H、1?4個の炭素原子を有する直鎖または枝分れ鎖アルキル基、アルキル基が1?3個の炭素原子を有するアリールアルキル基である、ただしR1がベンジルである場合には、R2はHまたはメチルであるものとする〕の化合物およびその薬学的に受容しうる塩。」、 「【請求項11】 式III 〔式中 mは0,1または2であり; nは2,3,4または5であり; Xはカルボニルまたは式II (ここでR5はHまたは1?4個の炭素原子を有するアルキル基である)の基であり; Yは場合により1?3個の炭素原子を有する1個または数個のアルキル基により置換された1個または2個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり; Zは場合により1?3個の炭素原子を有する1個または数個のアルキル基により置換された2?5個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり; R1およびR2は同じかまたは異なり、H、1?4個の炭素原子を有する直鎖または枝分れ鎖アルキル基、アルキル基が1?3個の炭素原子を有するアリールアルキル基である、ただしR1がベンジルである場合には、R2はHまたはメチルであり;R3はハロであり、R4はHまたはハロであるか、またはR3とR4はそれの結合している炭素原子と一緒に縮合ベンゼン環を形成する〕の化合物およびその薬学的に受容しうる塩。」、 「【請求項15】 請求項1記載の式Iの化合物の治療有効量を薬学的に受容しうる希釈剤または担体と一緒に含有する医薬組成物。」、 「【請求項16】 請求項1から10までのいずれか1項記載の式Iの化合物の治療有効量をそれを必要とする、ヒトを除く患者に投与することからなる、神経保護または欝病、不安神経症、パーキンソン病、肥満症、認識障害、急発作および神経障害の治療方法。」 なお、請求項2?10、14は、請求項1を引用して、式Iの化合物を限定するものであり、請求項12、13は、請求項11を引用して式IIIの化合物を限定するものであり、請求項17?19は、請求項16を引用して治療方法の対象となる疾病を特定するものである。また、請求項20は、式Iの化合物の製造方法に係るものである。 (2)拒絶の理由 原査定は、この出願については、平成16年8月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由2-4によって、拒絶をすべきものであるとし、備考として請求項と拒絶の理由との対応を次のように記載している。 「・請求項15、16、18、理由2 拒絶理由通知書に記載のとおり。当業者の技術常識を考慮しても、式Iの化合物が鬱病、パーキンソン病以外の治療用途に有効であるとは推認できない。 ・請求項15、理由3 拒絶理由通知書に記載のとおり。用途の特定が十分でない。 ・請求項1-17、19、20、理由4 拒絶理由通知書に記載のとおり。この出願の原出願である特願平6-524946号(特許第3606326号として登録されている)の発明と同一である。」 (3)当審の判断 上記の拒絶の理由について検討する。 (i)理由2について 理由2は、この出願は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものであり、拒絶理由通知書にはその内容として、「発明の詳細な説明の薬理試験結果の記載及び当業者の技術常識(特開昭59-84847号公報、特開昭57-181043号公報、特表昭64-500356号公報、特開昭61-197548号公報等の従来の知見)からすると、鬱病、パーキンソン病に有効であることは推認できるが、それ以外の治療用途(肥満症等)に有効であるとは推認できない。」と記載されている。 なお、請求項15、16は上記3(1)に記載のとおりであり、請求項18は請求項16の治療方法における治療対象を不安神経症とした方法に係るものである。 化合物は、その名称・化学構造だけから特定の医薬用途に使用し得るかどうかを予測することは困難であることから、当該化合物が実際にその医薬用途に使用し得るかどうかについて薬理試験結果の記載が必要であるが、本願明細書ではこれに該当するものとして、「レセルピンにより誘発される下垂症(eye closure)を予防する化合物の能力」及び「ドーパミン再捕捉部位(reuptake site)との相互作用能力」の評価について試験が行われ、その結果が記載されている(段落【0056】?【0064】)。 しかし、本願明細書には、本願化合物の2つの試験と明細書記載の治療対象となる疾病との関係については記載されていない。そこで、拒絶理由に技術常識を示すものとして挙げられた文献をみると、抗うつ剤として有用な治療活性を有するアリールシクロブチルアルキルアミン誘導体において、レゼルピンの体温低下効果を逆転する能力をもって化合物の能力を評価していること(特開昭59-84847号公報、特開昭57-181043号公報、特開昭61-197548号公報)、類似の構造を有するパーキンソン病の治療に用いられる化合物において、ドーパミン再摂取阻害能をもって評価していること(特表昭64-500356号公報)が記載されており、これらを参酌すると、本願明細書の試験結果から、鬱病、パーキンソン病に有効であることは認められるものの、それ以外の治療用途に有効であるとは推認できない。 そうしてみると、本願明細書の記載からでは鬱病、パーキンソン病以外の疾病の治療に対する有効性が明らかでない。 したがって、上記請求項15、16、18に記載された医薬組成物、治療方法の発明の関して、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、発明の目的、構成及び効果が記載されているとすることができないから、本願は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 (ii)理由3について 理由3は、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない、というものである。そして、請求項15に関して拒絶理由通知書には、「用途の特定が十分でない。(発明の構成に欠くことができない事項とは、発明の目的を達成するために必要不可欠な技術的手段のことである。あらゆる疾患の治療という目的を達成することができる医薬(万能薬)が存在しない以上、具体的な治療用途は発明の構成に欠くことができない事項である。具体的な治療用途で特定することを検討されたい。)」と記載されている。 なお、請求項15は上記3(1)に記載のとおりである。 上記(i)に記載したように、請求項15に係る医薬組成物は、鬱病、パーキンソン病に有効であることは認められるものの、それ以外の治療用途に有効であるとは推認できないのであるから、治療用途を特定することが発明の必須要件であると認められる。しかし、その用途が特定されていないので、請求項15には、特許を受けようとする発明に欠くことができない事項のみが記載されているとすることができない。 したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない、 (iii)理由4について 理由4は、この出願の請求項1-17、19、20に係る発明は、同一出願人が同日出願した特願平6-524946号の発明と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用された特願平6-524946号の特許明細書(特許第3606326号特許公報参照。以下、「引用例」という。)をみると、引用例の請求項1-10、14、請求項11-13には、本願の請求項1-10、14、請求項11-13と同一の化合物の発明が記載されている。また、引用例の請求項17には、本願の請求項20と同一の化合物の製造方法の発明が記載されている。 さらに、引用例の請求項15、16には、本願化合物を含有するパーキンソン病、鬱病を治療する医薬組成物の発明が記載されており、これは本願の請求項15記載の医薬組成物の発明と実質的に同一であり、また、本願の請求項16記載の治療方法の発明及び請求項16を引用し治療対象を鬱病、パーキンソン病と限定する請求項17、19記載の発明と、カテゴリーが相違するのみで、実質的に同一の発明である。 したがって、本願の請求項1-17、19、20に係る発明は、同日出願である特願平6-524946号の発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4)むすび 以上のとおり、本願は、請求項1-17、19、20に係る発明が、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができず、また、特許法第36条第4項、第5号第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないのであるから、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-12-07 |
結審通知日 | 2006-12-08 |
審決日 | 2006-12-21 |
出願番号 | 特願2004-178477(P2004-178477) |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(C07C)
P 1 8・ 561- Z (C07C) P 1 8・ 531- Z (C07C) P 1 8・ 534- Z (C07C) P 1 8・ 4- Z (C07C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉住 和之 |
特許庁審判長 |
脇村 善一 |
特許庁審判官 |
岩瀬 眞紀子 井上 彌一 |
発明の名称 | 欝病、不安神経症およびパ-キンソン病を治療するための1-アリールシクロアルキルスルフィド、スルホキシドおよびスルホン |
代理人 | 矢野 敏雄 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 山崎 利臣 |