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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1158639
審判番号 不服2005-57  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-04 
確定日 2007-06-07 
事件の表示 平成11年特許願第156462号「発光素子アレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月15日出願公開、特開2000-349343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年6月3日の出願であって、平成16年11月22日付で拒絶査定がなされ、これに対し平成17年1月4日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年2月2日付で特許法第17条の2第1項第4号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成17年2月2日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年2月2日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1を、下記のように補正することを含むものである。

「【請求項1】 半導体基板と、
当該半導体基板上に所定のピッチで直線状に配列された1200DPI以上の高密度化された多数の発光素子部と、
各発光素子部に駆動信号を入力するために発光素子部毎に設けられた個別電極とを備え、
前記各個別電極は、
発光素子部にオーミック接続するための接続部と、
外部駆動回路とワイヤボンディングするためのボンディングパッドと、
前記ボンディングパッドよりも幅狭に構成され、前記接続部からボンディングパッドへ引き回すために部分的に斜めに形成された配線部とからなり、
前記ボンディングパッドは複数段に配列されており、
他の個別電極のボンディングパッドに隣接する部分の配線幅が、同一の個別電極内における、ボンディングパッド隣接部以外の配線幅よりも、細く形成されている、ことを特徴とする発光素子アレイ装置。」

また、本件補正は、請求項1?3に記載した発明を特定するために必要な事項である、配線部について、「部分的に斜めに形成された」との限定を行うものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(2)引用刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開平1-141068号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「イ)産業上の利用分野
本発明はラインプリンタ等に好適な光プリンタ用発光ダイオードアレイに関する。」(1頁右欄3行?5行)

(イ)「へ)実施例
第1図は本発明実施例の光プリンタ用発光ダイオードアレイの要部斜視図で、(1)は化合物半導体からなる基板で、例えばGaAsベース(11)上にGaAsP変成層(12)n-GaAsP層(13)がエピタキシャル成長されており、その表面には亜鉛等の選択拡散により発光領域(2)(2‘)が1列に整列して設けられている。そして(3)(3’)は発光領域(2)(2‘)にオーミック接触がとられた個別電極で、基板(1)上に絶縁膜(4)を介して設けられたアルミニウム蒸着層などからなる。発光領域(2)(2’)は印写ドットに対応した例えば四角形の光放出部(21)(21‘)を基板(1)の表面に有しており、必要に応じて遮光性マスクで縁取りされていてもよい。(5)は基板(1)の裏面に設けられた共通電極である。
・・・ (中略) ・・・
さらに第2図に示すように、発光領域(20)の光放出部(210)における各々の輝度分布が均一化するように全ての光放出部(210)において個別電極(30)の舌片部(310)を設け、この舌片部(310)の下方、もしくは下方の一部でのみオーミック接触をとることもあるが、この場合、列の端部に位置する発光領域(20‘)の光放出部(210’)においてそのオーミック接触面積を大きくし、より好ましくは舌片部(310‘)から発光領域に最も近い基板(10)の端縁(140)に向うヒゲ状電極(320’)を設けこのヒゲ状電極(320‘)においてもオーミック接触を行えばよい。
第3図(a)(b)はさらに他の実施例を示しており、基板(100)の略中央部に位置する発光領域(200)と個別電極(300)は第2図に示したものと同じである。特徴は列の端部に位置する発光領域(600)が基板(100)の側面(1500)にも露出し、個別電極(700)は、その発光領域(600)の光放出部(610)と略等しい長さを有し基板(100)の端縁(1400)近傍に前記側面(1500)に沿って設けられた細帯状部(730)を有していることである。そしてオーミック接触は個別電極(700)の舌片部(710)の1部と細帯状部(730)全面でとられている。」(2頁右上欄6行?右下欄20行)

(ウ)第3図(a)からは、個別電極(300)は長い個別電極と短い個別電極が交互に形成されてなり、それぞれの一端が発光領域(200)に接触しており、それぞれの他端が幅広になっており、長い個別電極は、短い個別電極の幅広の他端部と隣接する部分が、一端部及び他端部と比較して幅が狭くなっていることが見て取れる。

上記(ア)?(ウ)から、引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「GaAsベース上にGaAsP変成層、n-GaAsP層がエピタキシャル成長されており、その表面には亜鉛等の選択拡散により発光領域が1列に整列して設けられている、化合物半導体からなる基板を有し、
基板上に絶縁膜を介して設けられたアルミニウム蒸着層などからなる、上記発光領域にオーミック接触がとられた個別電極が設けられており、
該発光領域は印写ドットに対応した四角形の光放出部を基板の表面に有しており、
個別電極は長い個別電極と短い個別電極が交互に形成されてなり、それぞれの一端が発光領域に接触しており、それぞれの他端が幅広になっており、長い個別電極は、短い個別電極の幅広の他端部と隣接する部分が、一端部及び他端部と比較して幅が狭くなっている、
光プリンタ用発光ダイオードアレイ」

(3)対比
本願補正発明と引用刊行物1発明を対比する。

(a)引用刊行物1発明の「基板」、「発光領域」、「個別電極」及び「光プリンタ用発光ダイオードアレイ」が、それぞれ、本願補正発明の「半導体基板」、「発光素子部」、「個別電極」及び「発光素子アレイ装置」に相当することは明らかである。

(b)引用刊行物1発明の「個別電極」は「該発光領域にオーミック接触がとられた」ものであり、「発光領域」に駆動信号を入力するものであることは明らかである。

(c)引用刊行物1発明の「個別電極」の幅広の他端部は、パッド状の部分という点で、本願補正発明の「ボンディングパッド」と一致する。

(d)引用刊行物1発明の「個別電極」は、「長い個別電極と短い個別電極が交互に形成されてなり、それぞれの一端が発光領域に接触しており、それぞれの他端が幅広になっており、長い個別電極は、短い個別電極の幅広の他端部と隣接する部分が、一端部及び他端部と比較して幅が狭くなって」いることから、本願補正発明の「発光素子部にオーミック接続するための接続部」、「パッドよりも幅狭に構成され、前記接続部からパッドへ引き回すために形成された配線部」、「パッドは複数段に配列されており」及び「他の個別電極のパッドに隣接する部分の配線幅が、同一の個別電極内における、パッド隣接部以外の配線幅よりも、細く形成されている」との技術事項を有しているということができる。

したがって、両者は、
「半導体基板と、
当該半導体基板上に所定のピッチで直線状に配列された多数の発光素子部と、
各発光素子部に駆動信号を入力するために発光素子部毎に設けられた個別電極とを備え、
前記各個別電極は、
発光素子部にオーミック接続するための接続部と、
パッドと、
前記パッドよりも幅狭に構成され、前記接続部からパッドへ引き回すために形成された配線部とからなり、
前記パッドは複数段に配列されており、
他の個別電極のパッドに隣接する部分の配線幅が、同一の個別電極内における、パッド隣接部以外の配線幅よりも、細く形成されている、ことを特徴とする発光素子アレイ装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明は「1200DPI以上の高密度化された」発光素子部を有しているのに対し、引用刊行物1発明は、発光素子部をどの程度の密度で形成しているのか明らかでない点。

相違点2:
本願補正発明は「外部駆動回路とワイヤボンディングするためのボンディングパッド」を有するのに対し、引用刊行物1発明の「パッド」は何に用いられるのか明らかでない点。

相違点3:
本願補正発明の「配線部」は「部分的に斜めに」形成されているのに対し、引用刊行物1発明の配線部は直線のみで形成されている点。

(4)判断
上記相違点1につき検討すると、発光素子部をどの程度の密度で形成するかは、光プリンタの解像度等に応じて決定されるものであり、1200DPIという値自体、本件出願当時、格別の値であるとは認められず、また、本願補正発明と引用刊行物1発明との間に、高密度化するための構成上の格別の違いはないことから、当該数値限定は、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計事項にすぎない。

上記相違点2につき検討すると、発光ダイオードアレイの技術分野において、個別電極の幅広の他端部が外部駆動回路に接続されるためのボンディングパッドとして活用されるものであること、及び外部駆動回路との接続のためにワイヤボンディングを用いることは技術常識である(例えば、特開平9-270535号公報、特開平6-314826号公報参照)。そして、引用刊行物1に明記されていないが、上記に照らせば、引用刊行物1発明のパッドが「外部駆動回路とワイヤボンディングするためのボンディングパッド」であることは明らかであり、実質的な相違点とはいえない。

上記相違点3につき検討すると、配線部をどのように引き回すかということは、ボンディングパッドと発光素子部との位置関係で決められるものであり、また、配線部を部分的に斜めに形成することは周知であるから(例えば、特開平9-270535号公報、特開平6-314826号公報参照)、配線部を部分的に斜めに形成することは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計事項にすぎない。

しかも、本願補正発明によってもたされる効果は、引用刊行物1発明、引用刊行物1の記載事項、及び技術常識に基づいて、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

なお、審判請求人は、【請求の理由】を補充した平成17年2月2日付手続補正において、「しかしながら、引用文献1の第3図において、以下の点に注目して頂きたい。 ・・・ (中略) ・・・ 従って、比較的長い配線部を有する配線層は、いずれのパターンも配線層の発光素子近傍のみを太くした構成であり、本願発明のボンディングパッドに隣接する部分のみを細くした構成とは全く思想が異なります(本請求項における、「他の個別電極のボンディングパッドに隣接する部分の配線幅が、同一の個別電極内における、ボンディングパッド隣接部以外の配線幅よりも、細く形成されている」とは、言い換えればボンディングパッドに隣接する部分のみを細くした構成を意味しています)。」と主張しているが、「発光素子近傍」と「ボンディングパッドに隣接する部分」それぞれの厳密な範囲及びそれらの境界は、そもそも明確に定義されておらず、「配線層の発光素子近傍のみを太くした構成」と「ボンディングパッドに隣接する部分のみを細くした構成」は、同じ構成を他の観点から表現した程度のものにすぎず、両者に構成上の差異があるとはいえない。また、「ボンディングパッドに隣接する部分のみを細くした構成」は、ボンディングパッドを複数段に配列する際に用いられる周知慣用技術ということができ(例えば、特開昭60-198873号公報の第1図、特開平3-222375号公報の第1図、実願昭62-154195号(実開平1-59637号)のマイクロフィルムの第1図等参照)、引用刊行物1の第3図(a)に記載されている構成は「ボンディングパッドに隣接する部分のみを細くした構成」と見ることが相当である。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明、引用刊行物1の記載事項、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年2月2日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成16年10月8日付手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。

「【請求項1】 半導体基板と、
当該半導体基板上に所定のピッチで直線状に配列された1200DPI以上の高密度化された多数の発光素子部と、
各発光素子部に駆動信号を入力するために発光素子部毎に設けられた個別電極とを備え、
前記各個別電極は、
発光素子部にオーミック接続するための接続部と、
外部駆動回路とワイヤボンディングするためのボンディングパッドと、
前記ボンディングパッドよりも幅狭に構成され、前記接続部からボンディングパッドへ引き回すための配線部とからなり、
前記ボンディングパッドは複数段に配列されている、発光素子アレイ装置において、
他の個別電極のボンディングパッドに隣接する部分の配線幅が、同一の個別電極内における、ボンディングパッド隣接部以外の配線幅よりも、細く形成されている、ことを特徴とする発光素子アレイ装置。」(以下、「本願発明」という。)

(2)引用刊行物記載の事項
原査定の拒絶理由に引用された刊行物の記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、配線部について、「部分的に斜めに形成された」との限定を省くとともに、形式的に「発光素子アレイ装置において」の語句を追加したものである。
そうすると、本願発明の構成要件の全てが含まれる本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、上記引用刊行物1記載の発明、引用刊行物1に記載の事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記引用刊行物1記載の発明、引用刊行物1に記載の事項、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1記載の発明、引用刊行物1に記載の事項、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-04 
結審通知日 2007-04-10 
審決日 2007-04-23 
出願番号 特願平11-156462
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹野 秀生  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 吉田 禎治
井上 博之
発明の名称 発光素子アレイ装置  
代理人 鈴木 弘一  

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