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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G02B
管理番号 1161117
審判番号 無効2005-80347  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-12-01 
確定日 2007-06-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3649407号発明「反射防止用多孔質光学材料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3649407号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
出願(特願2004-31037号) 平成16年2月6日
(遡及出願日;平成4年6月23日)
設定登録 平成17年2月25日
(特許第3649407号)
審判請求 請求人:凸版印刷株式会社 平成17年12月2日
(無効2005-80347号)
答弁書、訂正請求書 平成18年3月13日
訂正請求書の手続補正書 平成18年4月14日
請求人口頭審理陳述要領書 平成18年5月1日
被請求人上申書 平成18年5月16日
口頭審理 平成18年5月16日
請求人上申書 平成18年5月26日

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成18年3月13日付けの訂正請求書による訂正請求は、本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(1)【請求項1】について、訂正前の「透明材料中にガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とする反射防止用多孔質光学材料。」を、「透明材料が高分子材料である樹脂に、ガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とする反射防止用多孔質光学材料。」と訂正する。

(2)【請求項3】について、「光学薄膜材料として用いたことを特徴とする請求項1又は2記載の反射防止用多孔質光学材料。」と訂正する。

(3)請求項4及び5を削除する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記(1)の訂正は、請求項1における「透明材料」に関して、「透明材料が高分子材料である樹脂」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

上記(2)、(3)の訂正は、請求項4及び5を削除し、請求項5の内容を実質的に変えずに請求項3としたもので、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

そして、上記(1)?(3)の訂正は、明らかに願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲内の訂正である。

さらに、(1)ないし(3)の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.訂正請求の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号に列挙された事項を目的としており、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、訂正を認める。

第3 本件発明
特許第3649407号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】透明材料が高分子材料である樹脂にガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とする反射防止用多孔質光学材料。
【請求項2】前記マイクロカプセル(マイクロバルーン)中の微小空孔の大きさが10Åから使用波長程度であることを特徴とする請求項1記載の反射防止用多孔質光学材料。
【請求項3】光学薄膜材料として用いたことを特徴とする請求項1又は2記載の反射防止用多孔質光学材料。」

第4 審判請求人の主張
審判請求人は、本件特許の請求項1?3に係る発明を無効にする、との審決を求め、その理由として、本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定により(新規性欠如による無効理由)、本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲第2号証に甲第1号証、甲第4号証を組み合わせれば容易に想到できる発明であり、特許法第29条第2項の規定により(進歩性要件の欠如による無効理由)、これらの特許は無効にされるべきであると主張し、証拠方法として以下の証拠を提出している。
甲第1号証:特開平3-238740号公報(平成3年10月24日公開)、
甲第2号証:特開平4-121701号公報(平成4年4月22日公開)、
甲第3号証:不服2002-907の審決、
甲第4号証:特開平4-63875号公報(平成4年2月28日公開)、

また、本件特許の請求項1係る発明は、特許請求の範囲に記載された「マイクロカプセル(マイクロバルーン)」の意味が不明りょうであり、請求項2に係る発明は、同じく「使用波長程度」の「程度」がどの程度か不明であり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、本件明細書には、請求項1係る発明に関し、「マイクロカプセル(マイクロバルーン)」の材質や配合量の記載がなく、従来にない低屈折率を可能にする実施例や具体的条件の記載がなく、当業者が容易に実施することができず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、これらの特許は無効にされるべきであると主張する。

第5 被請求人の主張
一方、被請求人は、本件発明1?3は、いずれも甲第1号証?甲第4号証に記載された発明でなく、また、それら各号証の組み合わせに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、記載不備もなく、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める旨主張している。

第6 記載不備について
発明の詳細な記載において、マイクロカプセルとマイクロバルーンとを別々の意味を有するものと解すべき特段の記載はなく、また、使用波長についても特定の波長に限定すべき理由もなく、使用する波長に近い波長の大きさという程度の表現で、特許請求の範囲の記載不備とまですることはできない。
発明の詳細な記載からは、透明材料中にガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させることが、本件特許の反射防止用多孔質光学材料を形成するための必要十分な条件であることが読み取れ、また、マイクロカプセル自体の作り方や、これにガスを含ませたものに関する技術は、従来から広く知られているので、発明の詳細な説明の記載不備とまですることはできない。

第7 甲号各証の記載内容
上記無効理由の根拠として挙げられた甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、概略以下の技術的事項が開示されている。
1.甲第1号証
ア.2.特許請求の範囲
表示面のガラス基体の外表面に2層以上の光学膜を形成して反射防止膜とする表示装置の反射防止膜において、
上記反射防止膜を構成する最外層の光学膜が平均直径45μm未満の微細気泡を含有してなることを特徴とする表示装置の反射防止膜。(公報第1頁特許請求の範囲)

イ.(作用)上記のように、最外層の光学膜に微細気泡を含有させると、この最外層の光学膜の屈折率を通常の光学媒質では実現できない値にまで低下させることができ、広帯域かつ低反射率の反射スペクトルを示す反射防止膜とすることができる。(公報第2頁右下欄下から3行?第3頁左上欄3行)

ウ.この反射防止膜(18)は、第1図に示すように2層構造からなり、フェースプレート(10)外表面に密着して形成されたSnO2:Sb微粒子(20)およびこの微粒子(20)を固着しているSiO2(21)からなる下層(22)と、上記下層(22)上に形成された微細気泡(23)を含むSiO2(24)からなる上層(25)とからなる。(公報第3頁左下欄3?8行)

エ.平均直径φ1約30nmの微細気泡(23)を含む平均直径φ2約40nmのSiO2(24)をSi(OC2H5)4またはその多量体を主成分とするアルコール溶液に均一に分散した分散液をスピン法により塗布し乾燥する。(公報第3頁右下欄4?8行)

上記記載事項エ.の「Si(OC2H5)4またはその多量体を主成分とするアルコール溶液を塗布乾燥したもの」が透明材料であることは、自明である。

上記記載事項ア.から、甲第1号証には、反射防止膜の光学膜が記載され、それが、微細気泡を含有しているのであるから、「反射防止用多孔質光学材料」が記載されていることは、明らかである。

したがって、上記記載事項、及び第1図?第3図の記載からみて、甲第1号証には、「透明材料であるSi(OC2H5)4またはその多量体を主成分とするアルコール溶液を塗布乾燥したものに微細気泡(23)を含む平均直径φ2約40nmのSiO2(24)を分散させて屈折率を通常の光学媒質では実現できない値にまで低下させた反射防止用多孔質光学材料。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

2.甲第2号証
オ.(1)ポリマーを主成分とする単層膜からなり、且つ膜の表面から裏面にかけて連続的に屈折力が変化することを特徴とするポリマー主体の反射防止膜。
(2)ポリマー内部に光波長以下の気泡を形成し、内部屈折力を変化させた請求項1に記載の反射防止膜。(公報第1頁左下欄特許請求の範囲)

カ.上記の架橋剤や増感剤の溶出によって生成した気泡は光の波長以下の大きさであるので、光透過性は何ら低下せず・・・(公報第2頁左下欄13?15行)

キ.PVCzの分子量分布、増感剤の量及び溶剤による処理条件を適度に設定すると、第1図に示す様に光波長以下の気泡3が形成され、この時の気泡密度は表面から内部に行くに従って減少する。この結果、PVCz膜は表面からPVCzと物質(B)との界面4の間での屈折率が、n=1.35?1.65まで連続的に変化し、反射防止作用を有する膜とすることが出来る。(公報第3頁左上欄3?11行)

ク.本発明の反射防止膜は以下の様にして製造される。先ず、重合開始剤として四ヨウ化炭素を40重量%混入した、分子量5万?12万のPVCzを暗所にて、2インチガラス基板上に膜厚約5μmとなる様スピンコートした。この時、溶媒としては塩化ベンゾイルを用いた。次にこれを乾燥後、100Wの蛍光灯にて5分間全面露光し重合反応させた。その後40°Cのキシレン中に5分間浸し膜を膨潤させ、PVCz膜内に未反応で残存している四ヨウ化炭素を溶出させた。次に20°Cのn-ヘキサン中に2分間浸すと、膨潤していた膜は収縮し、この過程でPVCz膜内部に数100Å以下の気泡3が形成された。(公報第3頁左上欄下から5行?右上欄10行)

ケ.本発明の反射防止膜2をガラスに付着し、そのガラスの可視域(λ=400nm?700nm)における分光透過率を測定したところ、反射防止膜の付着していないガラスのみの場合と比べ、各波長で5%?15%の透過率の向上が見られた。(公報第4頁左上欄10?15行)

上記記載事項カ、及びケ.から、反射防止膜2を形成するPVCz(ポリビニルカルバゾール)が透明材料であることは、明らかである。

また、上記記載事項キ.から、気泡を形成することによって、屈折率を低下したことが読み取れる。

上記記載事項オ.から、甲第2号証には、ポリマー内部に光波長以下の気泡を形成した反射防止膜が記載されており、「反射防止用多孔質光学材料」が記載されていることは、明らかである。

したがって、上記記載事項、及び第1図の記載からみて、甲第2号証には、「透明材料が分子量5万?12万のPVCzに光の波長以下の大きさで数100Å以下の気泡3を分散させて屈折率を低下した反射防止用多孔質光学材料。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

3.甲第4号証
コ.(作用)本発明に係る修正液に含まれる中空粒子は、使用している隠蔽材一次粒子の共凝集を抑制するスペーサーの効果を持っているので本来の隠蔽材の隠蔽力が得られると共に、粒子中に含まれる空気が結合材の平均屈折率を下げるので塗膜の隠蔽力が高くなると推察される。(公報第3頁右上欄5?11行)

第8 当審の判断
1.本件発明1に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
1-1 本件発明1と引用発明1とを対比した場合
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「微細気泡(23)」、「平均直径φ2約40nmのSiO2(24)」は、本件発明1における「ガス」、「マイクロカプセル(マイクロバルーン)」に相当する。

また、引用発明1の「透明材料であるSi(OC2H5)4またはその多量体を主成分とするアルコール溶液を塗布乾燥したもの」と、本件発明1の「透明材料が高分子材料である樹脂」は、共に「透明材料であるマトリクス」である点で一致する。

また、引用発明1の「微細気泡(23)を含む平均直径φ2約40nmのSiO2(24)を分散させて屈折率を通常の光学媒質では実現できない値にまで低下させた」は、本件発明1の「ガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にした」に相当する。

したがって、両者は
「透明材料であるマトリクスにガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とする反射防止用多孔質光学材料。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:透明材料であるマトリクスが、本件発明1では、「高分子材料である樹脂」であるのに対して、引用発明1では、「Si(OC2H5)4またはその多量体を主成分とするアルコール溶液を塗布乾燥したもの」である点。

(2)相違点についての判断
相違点1について
甲第2号証には、分子量5万?12万のPVCz(本件発明1の「高分子材料である樹脂」に相当。)に気泡3を分散させた点が記載されており、引用発明1と同様の反射防止膜に関するものなので、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって困難性はない。

そして、本件発明1の作用・効果も引用発明1、及び甲第2号証に記載された発明から予測される範囲内のものである。

よって、本件発明1は、甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

1-2 本件発明1と引用発明2とを対比した場合
(1)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「分子量5万?12万のPVCz」は、本件発明1における「高分子材料である樹脂」に相当する。

また、引用発明2の「気泡3を分散させて屈折率を低下した」と、本件発明1の「ガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にした」は、共に「気体粒を分散させて屈折率を低下した」点で一致する。

したがって、両者は
「透明材料が高分子材料である樹脂に気体粒を分散させて屈折率を低下したことを特徴とする反射防止用多孔質光学材料。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:気体粒が、本件発明1では、ガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)であるのに対して、引用発明2では、「気泡3」である点。

相違点2:屈折率を低下した点に関し、本件発明1では、透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたのに対して、引用発明2では、そのような明示的記載がない点。

(2)相違点についての判断
相違点1について
甲第1号証には、本件発明1のガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)に相当する、微細気泡(23)を含む平均直径φ2約40nmのSiO2(24)が記載されており、引用発明2と同様の反射防止膜に関するものなので、引用発明2において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって困難性はない。

相違点2について
甲第1号証には、微細気泡(23)を含む平均直径φ2約40nmのSiO2(24)を分散させて屈折率を通常の光学媒質では実現できない値にまで低下させた点が記載されており、甲第4号証にも、粒子中に含まれる空気が結合材の平均屈折率を下げる点が記載されている。したがって、引用発明2において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって困難性はない。

そして、本件発明1の作用・効果も引用発明2及び甲第1号証、甲第4号証に記載された発明から予測される範囲内のものである。

よって、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2.本件発明2に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
(1)本件発明2
本件発明1は、上記、1-1,1-2で検討したように、甲第1号証、及び甲第2号証、あるいは、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。本件発明2は、本件発明1に「マイクロカプセル(マイクロバルーン)中の微小空孔の大きさが10Åから使用波長程度である」ことをさらに限定したものである。

(2)判断
引用発明1では、本件発明2のマイクロカプセル(マイクロバルーン)に相当する微細気泡を含むSiO2(24)の平均直径φ2が約40nmであるとされ、引用発明2では、気泡3の大きさが光の波長以下の大きさで数100Å以下であるとされ、いずれも本件発明2の範囲と大部分で重複する。
また、甲第2号証の上記記載事項カ.から、微小空孔の上限を使用波長程度とすることが示唆されており、下限については、本件訂正明細書からはその臨界的意義が明らかでない。
してみれば、本件発明2でされた限定は、当業者にとって困難性のないものである。

よって、本件発明2は、甲第1号証、及び甲第2号証、あるいは、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

3.本件発明3に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
(1)本件発明3
本件発明1は、上記、1-1,1-2で検討したように、本件発明2は、上記2.で検討したように、甲第1号証、及び甲第2号証、あるいは、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。本件発明3は、本件発明1、又は、本件発明2の反射防止用多孔質光学材料を「光学薄膜材料として用いた」ことをさらに限定したものである。

(2)判断
引用発明1、引用発明2はいずれも、反射防止膜に用いられるものであり、本件発明3の限定は、何ら格別のものではなく、当業者にとって困難性のないものである。

よって、本件発明3は、甲第1号証、及び甲第2号証、あるいは、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

なお、請求人が、口頭審理陳述要領書の中で主張した訂正請求書の補正が認められないとする予備的主張は、格別判断を要しないものであるが、念のため付言すれば、該補正は、単に訂正請求書の記載を明確にするもので、訂正範囲を実質的に変更するものではないので採用しない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
反射防止用多孔質光学材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料が高分子材料である樹脂に、ガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とする反射防止用多孔質光学材料。
【請求項2】
前記マイクロカプセル(マイクロバルーン)中の微小空孔の大きさが10Åから使用波長程度であることを特徴とする請求項1記載の反射防止用多孔質光学材料。
【請求項3】
光学薄膜材料として用いたことを特徴とする請求項1又は2記載の反射防止用多孔質光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止用多孔質光学材料に関し、特に、透明材料の屈折率を低下させてなる反射防止用多孔質光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率の低い光学材料の適用分野には、反射防止膜、光導波路、レンズ、プリズム等があり、ディスプレイ表面からの反射を抑える防眩処理、光導波路のクラッド等に用いられる。
【0003】
ところで、従来、屈折率の低い材料としては、サイトップ(旭化成(株)製)等のフッ素化合物(屈折率:1.34)やフッ化マグネシウム(屈折率:1.38)等の化合物、及び、それらの超微粒子を樹脂等に分散させて形成したもの等がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フッ素化合物、フッ化マグネシウム等の屈折率は高々1.3程度であり、これより低いものを得ることはできなかった。
【0005】
また、超微粒子分散系材料では、その屈折率は、マトリクス材料の屈折率と超微粒子の屈折率との中間の値しかとることができず、フッ化マグネシウムの超微粒子を用いても、1.38以下の値をとることはできない。
【0006】
ところで、反射防止処理については、屈折率の高い材料と低い材料を交互に積層する多層膜による方法と、屈折率の高いガラスあるいはプラスチック等の表面に屈折率の低い材料の単層を設ける方法等がある。後者の場合、屈折率をガラスあるいはプラスチック表面から徐々に低くし、空気の屈折率(=1)に近づけるほどその効果は大きい。そのためには、従来にない低い屈折率を持つ材料が必要である。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来にない低屈折率を可能にする反射防止用光学材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の反射防止用多孔質光学材料は、透明材料中にガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
以上の説明から明らかなように、本発明の反射防止用多孔質光学材料によると、透明材料中にガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にすることができるので、反射防止処理において、処理表面層の屈折率を従来に比べてより空気の屈折率に近づけることができるため、大きな反射防止効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の上記目的を達成すべく研究の結果、マトリクス材料中に上記超微粒子の代わりに、真空、空気あるいは窒素等のガスからなる微小な空孔を分散させることにより、マトリクス材料より低い屈折率の光学材料が得られることを見出して本発明を完成したものである。この場合、この多孔質体の空孔は、それぞれが独立した泡状の空孔である。
【0011】
このような多孔質光学材料を作製する方法としては、以下に例を示す。
【0012】
空気等のガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)をマトリクスとなる樹脂のワニスに分散させ、乾燥して多孔質体を作る。マトリクス樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂等、及び、それらの混合物、共重合体等がある。
【0013】
このようにして得られる多孔質体は、反射防止膜等の光学薄膜材料として用いることもできる。その場合に、グラジエントな屈折率分布を持たせることもできる。屈折率分布を持たせるには、微小空孔の密度を変化させればよい。
【0014】
すなわち、本発明の反射防止用多孔質光学材料は、透明材料中にガスを含むマイクロカプセル(マイクロバルーン)を分散させてその透明材料自身の屈折率より低い屈折率にしたことを特徴とするものである。
【0015】
この場合、微小空孔の大きさは10Åから使用波長程度であることが望ましい。透明材料としては、高分子材料を用いることができる。そして、本発明の反射防止用多孔質光学材料には屈折率に分布を持たせることもできる。なお、本発明の多孔質光学材料は、光学薄膜材料として用いることもできる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-06-02 
結審通知日 2006-06-07 
審決日 2006-06-20 
出願番号 特願2004-31037(P2004-31037)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (G02B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 江塚 政弘
井口 猶二
登録日 2005-02-25 
登録番号 特許第3649407号(P3649407)
発明の名称 反射防止用多孔質光学材料  
代理人 竹林 則幸  
代理人 高木 千嘉  
代理人 堀内 美保子  
代理人 結田 純次  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 竹林 則幸  
代理人 中村 誠  
代理人 三輪 昭次  
代理人 三輪 昭次  
代理人 結田 純次  
代理人 高木 千嘉  

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