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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680029 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04B
管理番号 1161218
審判番号 無効2006-80180  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-09-07 
確定日 2007-07-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第1997937号発明「木材を利用した耐火被覆構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1997937号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第1997937号に係る発明は,昭和63年8月24日に出願され,平成7年3月15日に公告され,平成7年12月8日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
これに対して,請求人は,平成18年9月7日に無効審判の請求をしたが,答弁指令に対して被請求人からは応答がなかった。

2.本件発明
本件請求項1に係る発明は,本件特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「建築部材の表面に、燃焼して炭化層を形成しうる断面を有する木材から構成された耐火被覆材を被覆してなることを特徴とする木材を利用した耐火被覆構造。」(以下,「本件発明」という。)

3.請求人の主張
これに対して,請求人は,「本件請求項1に係る特許発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件請求項1に係る特許は特許法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである」旨主張し,証拠方法として甲第1号証を提出している。

4.甲第1号証及びその記載内容
甲第1号証:「大断面木造建築物 設計施工マニュアル」1988年版 昭和63年6月30日発行, 監修 建設省住宅局建築指導課, 編集・発行 日本建築センター

甲第1号証には,図面と共に次の事項が記載されている。
(1)「本書のタイトルにある大断面木造建築物とは,今回の法令の改正により建築基準法施行令第46条に位置付けられた構造用大断面集成材等の大断面の木材による架構からなる木構造のことで,」(監修のことば19?21行)
(2)「第4章 防火設計(115頁1行)
4.1 大規模木造建築に対する防火設計の考え方(115頁2行)…
4.1.2 大規模木造建築の防火上の要件(117頁13行)…
(2)周辺に対する危害拡大の可能性の低減(118頁3行)…
…このためには,架構部材に大断面の木材を用いて炭化層の形成による耐火効果を期待するとともに,弱点となり易い接合部についても容易に耐力低下を招かないような工夫が必要となる。(118頁13?15行)…
4.2 大規模木造建築物に係る防火規定(119頁25行)…
4.2.2 法令改正の内容(120頁24行)…
(2)防火壁の設置(122頁15行)…
ii)政令で定める技術的基準(124頁1行)…
ロ 防火措置(124頁7行)…
b.火災時の倒壊防止措置(124頁31行)…
ロ 柱とはりとの接合部についても,イと同様の性能を確保する必要があるため,接合金物を被覆すること等通常の火災時の加熱により容易に耐力が低下しない構造とする。
柱及びはり相互の継手・仕口には,通常,金物が用いられる。金物は,火災等により加熱を受けると急激に耐力が低下する性質をもつ。そこで,通常の火災時の加熱に対して耐力が低下しないように,金物に熱が伝達しない構造とし,原則として適切に被覆,埋込み等を行うこととする。(125頁1?6行)…
4.3 大断面構造建築物の防火設計(130頁2行)…
4.3.1 構造骨組の防火設計(130頁3行)…
(1)部材の防火設計(130頁4行)…
その基準の一つである昭62建告第1902号『通常の火災により建築物全体が容易に倒壊するおそれのない構造であることを確かめるための構造計算の基準』では,大規模木造建築物が通常の火災に遭遇し,主要構造部である柱やはりに着火した場合においても,30分程度は火災による倒壊を防止する措置として,木材の炭化速度の実験結果である0.6?0.7mm/分と,柱のような4面加熱を受ける部材の炭化速度の割増し等,安全性を考慮し,部材の表面より2.5cmを燃えしろとして有効断面を減じて,部材の断面を設計することが要求されている。(132頁5?10行)…
(2)接合部の防火設計(133頁11行)…
昭62建告第1901号では,原則として,接合部の金物は被覆するか,あるいは挟み込む等の防火措置を行うように定められている。(133頁21?22行)…
(3)接合部防火設計の実例(136頁1行)…
iv)その他のピン接合部(140頁1行)…
(マル2)連続ばりのピン接合の例(140頁5行)」。

そして,上記140頁5行記載の「(マル2)連続ばりのピン接合の例」には,正面図(左上),平面図(左下)及び断面図(右)が記載され,木材からなり金物により接合される連続ばりの接合部の上下表面に,厚さ2.5cm以上の木材を被覆してなる連続ばりのピン接合が記載されている。

したがって,上記記載及び図面の記載から,甲第1号証には,
「木材からなり金物により接合される連続ばりの接合部の上下表面に,厚さ2.5cm以上の木材を被覆してなる接合部防火構造」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比・判断
本件発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「木材からなり金物により接続される連続ばり」は,甲第1号証が「大断面木造建築物設計施工マニュアル」であることから,構造用大断面集成材等の大断面のものであり,引用発明の「厚さ2.5cm以上の木材」及び「木材を被覆してなる接合部防火構造」は,それぞれ,本件発明の「燃焼して炭化層を形成しうる断面を有する木材から構成された耐火被覆材」及び「木材を利用した耐火被覆構造」に相当することは明らかである。
そして,本件発明の「建築部材」には,その材料を特に限定する規定がされていないが,「耐火被覆」とは,「一般に鋼構造において火災時に構造部材の鋼材温度が上昇して,その機械的性質が劣化することを防止するため,耐火性の良い材料で部材表面を被覆することである.」(第2版 建築学便覧 II 構造,昭和52年12月15日発行,編者:社団法人 日本建築学会,発行所:丸善株式会社,995頁)ことからみて,本件発明の「建築部材」は,構造部材としての鋼材を意味していると解することができる。
そこで,念のために,本件特許明細書(特公平7-23632号公報)をみると,「(課題を解決するための手段)本発明に係る耐火被覆構造は、木材はある程度の断面を有していれば燃焼して炭化層を形成することによって燃焼速度を遅延させる効果があるということが、最近の研究の結果で明らかにされたという事実に基いて提案されたもので、前記の目的を達成するために、建築部材の表面に、燃焼して炭化層を形成しうるに足る断面を有する木材から構成された耐火被覆材を被覆して構成されている。」(本件公告公報2欄11行?3欄4行)との記載から,木材からなる建築部材自体が燃焼して炭化層を形成することは公知であって,その知見に基づけば,木材以外の材料からなる「建築部材」に,木材からなる耐火被覆材を被覆したものが,本件発明であると認められる。また,本件特許明細書の(実施例)をみると,「建築部材1」としてH形鋼材(本件特許公報3欄12?13行,4欄2?3行)又は鉄骨のアーチ(本件特許公報4欄14?15行)が記載されており,このことからも,本件発明の「建築部材」は,構造部材としてのH形鋼材等を指すものであると認められる。
そうすると,引用発明の「木材からなり金物により接合される連続ばり」と本件発明の「建築部材」,すなわち,「H形鋼材等」とは,「架構」(建築物を構成する骨組み)である点で共通する。
また,本件発明の「表面」の意味するところを考えると,本件発明は耐火被覆構造であること及び実施例(第1図?第4図参照)を参酌すれば,全表面のみならず一部表面をも意味すると解されるところ,引用発明は「木材からなり金物により接合される連続ばりの接合部」の上下表面を「厚さ2.5cm以上の木材」が被覆するのであるから,両者は,少なくとも架構の一部表面に耐火被覆材を被覆してなる点で共通する。
してみると,両者は,
「架構の少なくとも一部表面に,燃焼して炭化層を形成しうる断面を有する木材から構成された耐火被覆材を被覆してなる木材を利用した耐火被覆構造」である点で一致し,次の各点で相違する。
(相違点1)
架構は、本件発明がH形鋼材等の「建築部材」であるのに対し,引用発明が「木材からなり金物により接合される連続ばり」である点。
(相違点2)
耐火被覆材を被覆する架構の表面は,本件発明が全表面を含む「表面」であるのに対し,引用発明が「接合部」の上下表面のみである点。

先ず,上記相違点1を検討すると,そもそも,架構としてH形鋼材等を採用することは,本願出願前周知・慣用の技術である(例えば,前記「第2版 建築学便覧 II 構造」の995頁,(3)張付け工法および996頁,表18.21成形板張りの欄参照。)。そして,架構として,木材からなり金物により接合される連続ばりを採用するか,あるいはH形鋼材等を採用するかは,施工主や設計者の要望等に応じて,施工者が適宜選択できる技術事項であることから,引用発明の「木材からなり金物により接合される連続ばり」を本願出願前周知・慣用であるH形鋼材等に置き換えて,相違点1の本件発明に係る構成を採用すること,すなわち,H形鋼材等の耐火被覆材として,「厚さ2.5cm以上の木材」を採用することは,当業者であれば容易になし得ることであるといえる。

次に,上記相違点2を検討すると,耐火構造である以上,架構の「接合部」の上下表面のみに耐火被覆を施すよりも,全表面に耐火被覆を施す方が,より効果的であることは,当業者にとって自明のことであるから,引用発明において,相違点2の本件発明に係る構成を採用することは,当業者であれば適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

そして,本件明細書に記載された本件発明の作用効果も,甲第1号証の前記記載事項に基づいて,当業者であれば当然予測できる範囲内のことである。

6.むすび
以上のとおり,本件発明は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-17 
結審通知日 2007-05-23 
審決日 2007-06-05 
出願番号 特願昭63-208234
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中田 誠  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 岡田 孝博
小山 清二
登録日 1995-12-08 
登録番号 特許第1997937号(P1997937)
発明の名称 木材を利用した耐火被覆構造  
代理人 豊田 武久  

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