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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1161296
審判番号 不服2002-3405  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-28 
確定日 2007-07-09 
事件の表示 平成9年特許願第359101号「半導体ヒートシンク用複合材料及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年2月2日出願公開、特開平11-29379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年12月26日(優先権主張 平成9年2月14日、同年5月16日 日本)の特許出願であって、平成14年1月18日付けで拒絶査定がされ、その後平成14年2月28日付けで拒絶査定不服の審判請求がされるとともに、平成14年3月29日に手続補正がされ、当審の審尋がされ、回答書が提出されたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし24に係る発明は、平成13年11月5日付け及び平成14年3月29日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に銅又は銅合金が含浸されて構成され、少なくとも200℃における熱膨張率が、前記銅又は銅合金と前記多孔質焼結体との比率から化学量論的に得られる熱膨張率よりも低い特性を有し、前記多孔質焼結体と前記銅又は銅合金との界面に形成される前記銅又は銅合金との反応層の厚みが5μm以下であることを特徴とする半導体ヒートシンク用複合材料。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第96/41030号パンフレット(上記国際公開の対応特許である特表平11-506806号公報を以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
「1.大きな熱伝導率および良好な熱膨張係数の組合せを有する金属地複合材を製造する方法であって、(a)粉末で形成されたアグロメレーションを準備し、(b)前記形成アグロメレーションを部分燒結し、(c)前記部分燒結アグロメレーションを型キャビティ内部に配置し、(d)前記部分燒結アグロメレーションに液相金属を溶浸させ、(e)前記液相基材を凝固させて前記部分燒結アグロメレーションの周囲および内部に前記金属地材を形成する、諸段階を含む金属地複合材の製造方法。
2.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(a)で形成されたアグロメレーションが炭化けい素で構成されている金属地複合材の製造方法。
3.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(a)で形成されたアグロメレーションが炭化チタン、窒化アルミニウム、ほう化チタン、ほう化ジルコニア、モリブデン、タングステン、およびそれらの組合せを含む群から選択される金属地複合材の製造方法。
4.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(i)炭化けい素粒体でアグロメレーションを形成し、(ii)形成されたアグロメレーションを酸化雰囲気中で600℃?1000℃の温度範囲に加熱し、(iii)形成されたアグロメレーションを実質的に不活性雰囲気中で約1650℃?2000℃の温度範囲に加熱する諸段階をさらに含む金属地複合材の製造方法。
5.請求の範囲第1項に記載された方法であって、形成されたアグロメレーションが約50?80体積%の固体を含有する金属地複合材の製造方法。
6.請求の範囲第1項に記載された方法であって、形成されたアグロメレーションが約85体積%の固体を含有する金属地複合材の製造方法。
7.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(d)の液相金属がアルミニウムである金属地複合材の製造方法。
8.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(d)の液相金属がアルミニウム、銅、銀、金、およびそれらの組合せを含む群から選択される金属地複合材の製造方法。
9.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(a)で形成されたアグロメレーションがドライプレス、スリップ鋳込、射出モールド成形、圧縮成形、ホットプレス、および熱間等静圧圧縮成形を含む群から選択される金属地複合材の製造方法。
10.請求の範囲第1項に記載された方法であって、(c)が、約500℃?850℃の範囲の温度を有する部分燒結アグロメレーションを型キャビティ内部に配置する段階をさらに含む金属地複合材の製造方法。
11.請求の範囲第1項に記載された方法であって、部分燒結アグロメレーションが(b)の後に室温まで冷却され、(c)の前に約550℃?850℃の温度範囲に加熱される金属地複合材の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1?11)
「本発明は真空ダイキャスト法による金属地複合材(MMCs)の製造に関する。さらに詳しくは、この製造方法は、セラミック材料および半導体材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するとともに高い熱伝導率を有する金属地複合材の製作に関する。
金属地複合材は主として粉末冶金の技術によって1960年代以降に製作されてきた。しかしながら最近は、製造費用を著しく節約できるので鋳造法が一層頻繁に使用されている。鋳造法によって成形済みの金属地複合材製品を製造する最も一般的なやり方は、パックされた凝集地すなわちプリフォームの開放空間(孔)に溶融した地材(matrix)を溶浸させる方法である。」(第6頁3?11行)
「本発明の目的は、品質、再現性および従来法より優れた融通性の組合せを有し、特に凝集地の大きな体積率を有する金属地複合材を製作するための金属地複合材の製造方法を提供することである。」(第7頁15?17行)
「「金属地複合材」、「複合材」または頭文字「MMC」という用語は、本明細書では二次元的または三次元的に相互結合され、内部に強化材を埋込まれた合金または金属地材を含んで構成された材料を意味するように使用されている。金属地材は、強化材料を含有する溶融金属をプリフォームすなわち凝集地の質量体の内部に溶浸させて形成されることもできる。
「部分燒結」という用語は、本明細書では実質的に密閉気孔を生じることのない燒結工程を開始するのに十分な温度にまで粉末で形成されたアグロメレーションを加熱することを意味するように使用されている。形成されたアグロメレーションを部分燒結させるのに使用される温度は、凝集地材の組成によって決まる。
「プリフォーム」または「多孔質プリフォーム」という用語は、本明細書では溶浸される液相金属に対する境界を本質的に定める少なくとも一つの境界面を有して製造される、強化材で形成されたアグロメレーションすなわち凝集地を意味するように使用されている。プリフォームは十分な形状の一体性と強度とを有して、液相金属を溶浸される前に寸法的な完全性が与えられるようになされる。プリフォームは液相金属を溶浸されるために十分に多孔質でなければならない。プリフォームは単独で、または2以上の別個の部品の組合わせとして存在できる。
分離可能のプリフォームが使用されるばあい、それらは機械的または他の方法で相互結合されねばならないことはない。」(第9頁5?22行)
「加熱手段が充填室および型の内部に備えられて、強化凝集地が完全に溶浸し終わるまでは溶融金属が凝固しないことを補償するようになされる。溶浸の完了に続いて、地材の所望の金属学的特性を得るために、また溶融金属が凝集地と反応したり凝集地が溶解する傾向を示すばあいにこれを防止するために、急速凝固するのが有利である。凝固収縮を少なくとも可能なレベルで発生させるために、凝固が方向性を有し、先端部から溶融金属の供給源へ向かって進行されることも望ましい。これらの要求は、完全な溶浸を得た後に急速且つ望ましい方向性のある凝固を達成するために、温度状態のバランス取り、または時間制御を必要とする。境界結合を改善して、急速凝固でなければならないことに制限が与えられるようにするために、溶融地材と凝集地との間に何らかの相互作用を可能にすることが有利となる。しかしながら、本発明の真空圧補助による圧力ダイキャスト工程の特定の利点は、溶融金属と凝集地すなわち強化材との間の潜在的な有害反応を最少限にし、または排除する急速な溶浸および凝固の組合せを可能にさせることである。
本発明の特別な利点は、凝集地の体積率が大きく、特に50体積%以上で例えば80体積%までの、しかし85体積%以上になることすら可能な体積率で、実質的に気孔の存在しない金属地複合材を達成できることにあることが見出された。」(第12頁18行?第13頁7行)
「図4は、金属地複合材の一体構造の蓋/熱交換部片70と金属地複合材の箱体72とで構成された電子パッケージを示しており、それらはシールのために共に複数層のアルミナ基板74にはんだ付けされている。チップ76ははんだ77で蓋下面の台座にはんだ付けされており、またワイヤー78で代表されるワイヤーボンディングまたは他の適当手段によってエッジカード・コネクタ80に連結されている。
本発明を試験するために、可能な電子パッケージの応用例のための金属地複合材が作られた。これらの応用例の目標は半導体デバイスが発生する熱を除去するために大きな熱伝導率を有し、また電子パッケージに典型的に使用されているアルミナのチップ基板材料の熱膨張係数に近いまたは合致する熱膨張係数を有する材料を製造することである。」(第17頁20行?第18頁2行、【図4】参照)
「例4?例6
65体積%の炭化けい素粒体を含有するプリフォームが例1?例3のプリフォームと同様に処理された。例1?例3に基づいて65体積%の凝集地が選ばれ、熱伝導率と熱膨張係数の非常に良好な組合せを有する材料が得られた。プリフォームは溶融金属を溶浸される前に、1700℃、1750℃および1850℃まで部分燒結され、プリフォームの部分燒結温度が金属地複合材の熱伝導率および熱膨張係数の値に及ぼす影響を測定するようになされた。すべては非常に速い加熱速度で実験され、所望温度に約30分間ほど保持された。
再び述べるが、結果として得られた製品が試験され、その製品が応用実験に合致するかを査定した。製品は十分に大きな熱伝導率および適当な熱膨張係数を示した。
表2に示し、図7にプロットしたように、この結果は溶浸前のプリフォームの部分燒結が得られた複合体の熱伝導率に及ぼす劇的な影響を示している。驚くべきことに、溶浸前のプリフォームの部分燒結は、例4?例6に示されるように、例1?例3に示したようにタッキングしただけのプリフォームよりも格段に大きい熱伝導率を有する金属地複合材を形成した。例2のプリフォームは、SiCが65体積%で700℃まで燒結されたもので、163w/m・kの熱伝導率を有する複合材を形成しているのに対し、例4?例6の部分燒結プリフォームは185w/m・kを超えた熱伝導率を有する複合材を形成しており、これはタッキングしたプリフォームより18%以上の増大を見せている。
表2
例 プリフォームの 部分焼結温度 熱伝導率 熱膨張係数
中実体積 ℃ w/m・k ppm/k
4 65%体積%SiC 1700 196 8.45
5 65%体積%SiC 1750 195 8.7
6 65%体積%SiC 1850 188 8.4

1700℃から1750℃への燒結温度の上昇は、熱伝導率にほとんど影響を与えないように見える。しかしながら、このデータは燒結温度が1750℃から1850℃へ上昇することによる小さいが注目すべき降下を示している。これらの影響は燒結による境界面積の変化に関係して説明し得る。いずれかの理論にしたがって結合されることを望むのではないが、未燒結プリフォームからの1700℃での大きな最初の増大は、プリフォームにおける微細組織の大きな変化によるもののようである。微粒体が溶着して大きな粒体となるために特定の表面積が大きく減少することが予想される。結果的に生じる全表面積の減少は、熱伝導率の相当する増大をもたらした。より高温度での燒結では、表面積の付加的な減少は熱伝導率に重大な影響を全く及ぼさなかった。」(第20頁下から13行?第21頁末行)
「本発明の好ましい実施例はアルミニウム合金地材を有する金属地複合材を形成するのが特に有利であると上述で説明したが、当業者には本発明が他の金属で金属地複合材を形成するのも有利であることが明白となろう。
本発明にて使用されるのが適当な金属はアルミニウムおよびアルミニウム合金に限られない。銅、銀および金、およびそれらの合金のような他の金属で形成された金属地複合材も本発明による利益を得る。
本発明の好ましい実施例は強化相としてSiCを使用した金属地複合材を溶浸するのが特に有利である上述で説明したが、当業者には他の強化材も使用できることが明白となろう。密度を代えずに表面積を減少させる処理を行われる炭化チタン、窒化アルミニウム、ほう化チタン、ほう化ジルコニウム、モリブデン、タングステン、およびそれらの組合せのような大きな熱伝導率を有する他の材料も強化材として使用できることが予想される。」(第22頁12?23行)

3.対比
本願発明は、次のAないしEを発明を特定する事項(以下、「特定事項AないしE」という。)とするものである。
「A.銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に
B.銅又は銅合金が含浸されて構成され、
C.少なくとも200℃における熱膨張率が、前記銅又は銅合金と前記多孔質焼結体との比率から化学量論的に得られる熱膨張率よりも低い特性を有し、
D.前記多孔質焼結体と前記銅又は銅合金との界面に形成される前記銅又は銅合金との反応層の厚みが5μm以下であることを特徴とする
E.半導体ヒートシンク用複合材料。」
そこで、本願発明と引用文献1の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
ア.特定事項Aについて
特定事項Aには、引用発明の「部分燒結アグロメレーション」が対応するので対比する。
特定事項Aについて、本願の明細書には、次の記載がある。
「多孔質焼結体としては、SiC、AlN、Si3N4、B4C、BeOから選ばれた1種以上の化合物からなることが望ましく、前記銅又は銅合金の比率(含浸率)としては、20vol%?70vol%であることが望ましい。銅の含浸率が20vol%以下では、180W/mK(室温)の熱伝導率を得ることができず、70vol%を超えると多孔質焼結体(特にSiC)の強度が低下し、熱膨張率を9.0×10-6/℃以下に抑えることができない。
また、前記多孔質焼結体の平均開気孔径の値としては、0.5?50μmが望ましい。前記平均開気孔径の値が0.5μm未満であると、開気孔内に金属を含浸することが困難になり、熱伝導率が低下する。一方、前記平均開気孔径の値が50μmを超えると、多孔質焼結体の強度が低下し、熱膨張率を低く抑えることができない。
また、前記多孔質焼結体の平均開気孔に関する分布(気孔分布)としては、0.5?50μmに90%以上分布することが好ましい。0.5?50μmの気孔が90%以上分布していない場合は、銅が含浸していない開気孔が増え、熱伝導率が低下するか、又は強度が低下し、熱膨張率を低く抑えることができない。
なお、多孔質焼結体の曲げ強度としては10MPa以上が望ましい。この強度より低下すると、熱膨張率を低く抑えることができず、所定の熱膨張率の範囲のものを得ることができない。」(段落【0020】?【0023】参照)
これらの記載を参酌すると、特定事項Aは、「銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体であり、SiC、AlN、Si3N4、B4C、BeOから選ばれた1種以上の化合物からなり、空隙が20vol%?70vol%程度、平均開気孔径の値が0.5?50μm程度、気孔分布としては、0.5?50μmに90%以上程度、曲げ強度としては10MPa以上程度のもの」である。
引用発明の「部分燒結アグロメレーション」について引用文献1には、次の記載がある。
「「部分燒結」という用語は、本明細書では実質的に密閉気孔を生じることのない燒結工程を開始するのに十分な温度にまで粉末で形成されたアグロメレーションを加熱することを意味するように使用されている。形成されたアグロメレーションを部分燒結させるのに使用される温度は、凝集地材の組成によって決まる。
「プリフォーム」または「多孔質プリフォーム」という用語は、本明細書では溶浸される液相金属に対する境界を本質的に定める少なくとも一つの境界面を有して製造される、強化材で形成されたアグロメレーションすなわち凝集地を意味するように使用されている。プリフォームは十分な形状の一体性と強度とを有して、液相金属を溶浸される前に寸法的な完全性が与えられるようになされる。プリフォームは液相金属を溶浸されるために十分に多孔質でなければならない。」(第9頁10行?22行)
「本発明の特別な利点は、凝集地の体積率が大きく、特に50体積%以上で例えば80体積%までの、しかし85体積%以上になることすら可能な体積率で、実質的に気孔の存在しない金属地複合材を達成できることにあることが見出された。」(第13頁4行?7行)
「例4?例6
65体積%の炭化けい素粒体を含有するプリフォームが例1?例3のプリフォームと同様に処理された。例1?例3に基づいて65体積%の凝集地が選ばれ、熱伝導率と熱膨張係数の非常に良好な組合せを有する材料が得られた。プリフォームは溶融金属を溶浸される前に、1700℃、1750℃および1850℃まで部分燒結され、プリフォームの部分燒結温度が金属地複合材の熱伝導率および熱膨張係数の値に及ぼす影響を測定するようになされた。すべては非常に速い加熱速度で実験され、所望温度に約30分間ほど保持された。」(第20頁下から13行?同6行)
「本発明の好ましい実施例は強化相としてSiCを使用した金属地複合材を溶浸するのが特に有利である上述で説明したが、当業者には他の強化材も使用できることが明白となろう。密度を代えずに表面積を減少させる処理を行われる炭化チタン、窒化アルミニウム、ほう化チタン、ほう化ジルコニウム、モリブデン、タングステン、およびそれらの組合せのような大きな熱伝導率を有する他の材料も強化材として使用できることが予想される。」(第22頁18行?23行)
上記記載を特定事項Aの記載ぶりに則って整理すると、引用発明の「部分燒結アグロメレーション」には、材質、空隙には差異がなく、その他にも特段相違するところがみあたらないから、特定事項Aは、引用発明の「部分燒結アグロメレーション」に相当するものである。

イ.特定事項Bについて
特定事項Bには、引用発明の「液相金属を溶浸」が対応する。
特定事項Bに関して、本願明細書には、次の記載がある。
「銅として、市販の純銅を用いた場合、熱伝導率が高く良好であるが、多孔質焼結体(特にSiC)との濡れ性が悪く銅の含浸しない開気孔が残りやすいため、Be、Al、Si、Mg、Ti、Ni等の添加により含浸率を向上させることが望ましい。但し、前記添加物の量が1%以上になると、熱伝導率の低下が大きくなり、添加による効果を得ることができなくなる。」(段落【0024】参照)
上記記載を参酌すると、「銅又は銅合金」とは、殆ど銅からなるものといえる。
これに対して、引用発明の「液相金属」には、「液相金属がアルミニウム、銅、銀、金、およびそれらの組合せを含む群から選択される金属」(請求項8参照)と銅も包含する記載があるが、実施例には、具体的にアルミニウムについてのみ記載されている点で相違する(以下、「相違点1」という。)。

ウ.特定事項Cについて
特定事項Cには、引用発明の「良好な熱膨張係数」が対応する。
特定事項Cに関して本願明細書には次の記載がある。
「ヒートシンク材として最適な特性について説明すると、必要な熱膨張率としては、AlN等のセラミック基板やSi及びGaAs等の半導体基板の熱膨張率と合わせる必要から、室温から200℃までの平均熱膨張率として4.0×10-6/℃?9.0×10-6/℃の範囲が好適であり、・・・前記特性を得るために、本発明に係る半導体ヒートシンク用複合材料は、銅の熱膨張率よりも低い熱膨張率をもつ多孔質体を予備焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に銅又は銅合金を含浸させて構成し、少なくとも200℃における熱膨張率が、前記銅又は銅合金と前記多孔質焼結体との比率から化学量論的に得られる熱膨張率よりも低い特性を有するようにする。」(段落【0016】?【0017】)
上記記載は、要するに「ヒートシンク材としての特性の中で、必要な熱膨張率としては、AlN等のセラミック基板やSi及びGaAs等の半導体基板の熱膨張率と合わせる必要から、室温から200℃までの平均熱膨張率として4.0×10-6/℃?9.0×10-6/℃の範囲が好適である」との趣旨といえる。
引用文献1には、「良好な熱膨張係数」に関して次の記載がある。
「セラミック材料および半導体材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するとともに高い熱伝導率を有する金属地複合材」(第6頁4?5行)
「 表2
例 プリフォームの 部分焼結温度 熱伝導率 熱膨張係数
中実体積 ℃ w/m・k ppm/k
4 65%体積%SiC 1700 196 8.45
5 65%体積%SiC 1750 195 8.7
6 65%体積%SiC 1850 188 8.4」(第21頁表2)
上記の記載をみると、両者の目的とする熱膨張率(熱膨張係数)は一致するものであるから、この相違は格別なものではない。

エ.特定事項Dについて
引用発明には特定事項Dに対応する記載がない点で相違する(以下、「相違点2」という。)。

オ.特定事項Eについて
引用文献1には、「図4は、金属地複合材の一体構造の蓋/熱交換部片70と金属地複合材の箱体72とで構成された電子パッケージを示しており、それらはシールのために共に複数層のアルミナ基板74にはんだ付けされている。チップ76ははんだ77で蓋下面の台座にはんだ付けされており、またワイヤー78で代表されるワイヤーボンディングまたは他の適当手段によってエッジカード・コネクタ80に連結されている。」(第17頁20?25行、【図4】参照)と記載されているように、【図4】には、半導体ヒートシンク用複合材料としたものが図示されているから、その点で両者は一致する。

4.判断
上記相違点1及び2について検討する。
ア.相違点1について
前述のように、引用発明の「液相金属」には、「液相金属がアルミニウム、銅、銀、金、およびそれらの組合せを含む群から選択される金属」(請求項8参照)と銅も包含する記載があるが、実施例には、具体的にアルミニウムについてのみ記載されている。
ところが、引用文献1には、さらに「本発明の好ましい実施例はアルミニウム合金地材を有する金属地複合材を形成するのが特に有利であると上述で説明したが、当業者には本発明が他の金属で金属地複合材を形成するのも有利であることが明白となろう。本発明にて使用されるのが適当な金属はアルミニウムおよびアルミニウム合金に限られない。銅、銀および金、およびそれらの合金のような他の金属で形成された金属地複合材も本発明による利益を得る。」(第22頁12?17行)と記載されているように、銅又は銅合金を含浸することも示唆されているし、アルミニウムと銅が引用文献1の記載からみて、同等に扱えるということができる。

イ.相違点2について
特定事項Dについて、本願明細書には次の記載がある。
「また、前記多孔質焼結体と前記銅(銅のみ若しくは銅に1%までの範囲でBe、Be、Al、Si、Mg、Ti、Ni等が含まれたもの)との界面に形成される該銅との反応層の膜厚としては、5μm以下であることが望ましく、1μm以下が更に好ましい。反応層が5μmよりも厚くなると、多孔質焼結体と銅の間の熱伝達が悪化し、半導体ヒートシンク用複合材料の熱伝導が低下するからである。
次に、本発明に係る半導体ヒートシンク用複合材料の製造方法は、基材となる多孔質焼結体と、少なくとも銅を含む金属を、互いに接触させない状態で加熱し、所定温度に達した段階で両者を接触させて直ちに高圧力を付与して、前記金属を前記多孔質焼結体中に含浸させる含浸工程と、少なくとも前記金属が含浸された前記多孔質焼結体を冷却する冷却工程とを有する。
例えば基材となる多孔質焼結体と、これに含浸させようとする銅又は銅合金を互いに接触させないまま加熱する。両者が銅又は銅合金の融点以上に達した段階で、両者を接触させて直ちに高い圧力をかけて、前記銅又は銅合金を多孔質焼結体中に含浸させ、その後速やかに冷却させる」(段落【0025】?【0027】参照)
「また、多孔質焼結体と銅又は銅合金は溶融状態において反応が生じ、多孔質焼結体として例えばSiCを用いた場合においては、該SiCがSiとCに分解されて本来の機能が発揮されなくなる。
このため、SiCとCuとが溶融状態で直接接触する時間を短縮することが必要である。
本発明に係る製造方法(請求項14、請求項15又は請求項20に記載の製造方法)によれば、SiCとCuとの接触時間を短くすることができるため、前記のようなSiCの分解反応を事前に回避することができる。」(段落【0045】参照)
上記記載によれば、「反応層の厚みが5μm以下」とするためには、「例えば基材となる多孔質焼結体と、これに含浸させようとする銅又は銅合金を互いに接触させないまま加熱する。両者が銅又は銅合金の融点以上に達した段階で、両者を接触させて直ちに高い圧力をかけて、前記銅又は銅合金を多孔質焼結体中に含浸させ、その後速やかに冷却させる」ことにより達成できるものである。
その点引用文献1には、「加熱手段が充填室および型の内部に備えられて、強化凝集地が完全に溶浸し終わるまでは溶融金属が凝固しないことを補償するようになされる。溶浸の完了に続いて、地材の所望の金属学的特性を得るために、また溶融金属が凝集地と反応したり凝集地が溶解する傾向を示すばあいにこれを防止するために、急速凝固するのが有利である。凝固収縮を少なくとも可能なレベルで発生させるために、凝固が方向性を有し、先端部から溶融金属の供給源へ向かって進行されることも望ましい。これらの要求は、完全な溶浸を得た後に急速且つ望ましい方向性のある凝固を達成するために、温度状態のバランス取り、または時間制御を必要とする。境界結合を改善して、急速凝固でなければならないことに制限が与えられるようにするために、溶融地材と凝集地との間に何らかの相互作用を可能にすることが有利となる。しかしながら、本発明の真空圧補助による圧力ダイキャスト工程の特定の利点は、溶融金属と凝集地すなわち強化材との間の潜在的な有害反応を最少限にし、または排除する急速な溶浸および凝固の組合せを可能にさせることである。」(第12頁18行?第13頁3行)と記載されているように、多孔質焼結体中に速やかに含浸させ、その後速やかに冷却させることにより引用発明においても、同等の反応層の厚みが達成されているものといえる。
そして、本願発明で上記相違点1及び2を採用することによる効果をみても当業者が当然予期し得る程度のものが窺えるにすぎない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-01 
結審通知日 2006-02-07 
審決日 2006-02-21 
出願番号 特願平9-359101
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
鈴木 毅
発明の名称 半導体ヒートシンク用複合材料及びその製造方法  
代理人 佐藤 辰彦  
代理人 千葉 剛宏  
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