• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680096 審決 特許
無効200680068 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04B
管理番号 1161511
審判番号 無効2006-80165  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-29 
確定日 2007-07-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第3819156号発明「建築物の蓄熱・蓄冷構造および建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3819156号の請求項1?10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3819156号の請求項1?10に係る発明は、平成10年8月11日に特許出願され、平成18年6月23日にその発明について特許の設定登録がされたものであって、これに対して、請求人より平成18年8月29日に無効審判の請求がなされ、被請求人より平成18年12月8日に答弁書が提出されたものである。

2.本件発明
本件請求項1?10に係る発明(以下順に、「本件発明1」等という。)は、本件特許の願書に添付された明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
外周布基礎を構成する布部の内側に、布部内側断熱板が面方向に張り巡らされているとともに、ベタ基礎部分の上面に、前記布部内側断熱板に当接し該ベタ基礎部分の一部を覆うベタ基礎上面断熱板が張り巡らされている基礎断熱構造を有し、
外壁材および屋根材の室内側に、断熱材により区分された外側通気層と内側通気層とを備え、
前記2つの通気層を流通する空気は、壁体部分を含む建築物内では実質的に流通せず、
前記内側通気層を流通する空気は、断熱材によって建築物の屋根材と断熱区画された小屋裏空間で常時連通するとともに、
内側で断熱された外周布基礎に囲まれた基礎部分に打設されたベタ基礎と、外周布基礎の内部に外周布基礎とは不連続にベタ基礎上に立設された基礎体とを有する床下空間で、ベタ基礎と接触しながら常時流通し、
前記内側通気層と外気とを直接連結する連結路が、外側通気層を貫通して設けられているとともに、前記連結路に開閉ダンパーを備えたことを特徴とする建築物の蓄熱・蓄冷構造。
【請求項2】
前記外周基礎の布部に開閉可能な断熱性及び気密性を具備する開閉ダンパーが取り付けてあるとともに、前記小屋裏部の内側通気層と外気とを通じさせる連通路が具備されていることを特徴とする請求項1に記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造。
【請求項3】
前記開閉ダンパーが、断熱性として熱貫流率(k)がk=2.5kcal/m2h℃以下、気密性能がJIS A 1516建具の気密性試験方法の気密性等級に記載される2等級もしくはこれ以上の気密性を有していることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造。
【請求項4】
前記外側通気層と内側通気層を区画する断熱材が、構造躯体の外側に張設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造。
【請求項5】
前記外周布基礎の布部の内側の布部内側断熱板と、前記内壁材の室外側に張り巡らされた断熱材とが、土台を介して連続するように配設されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造。
【請求項6】
外周布基礎を構成する布部の内側に、布部内側断熱板が面方向に張り巡すとともに、
ベタ基礎部分の上面に、前記布部内側断熱板に当接し該ベタ基礎部分の一部を覆うベタ基礎上面断熱板が張り巡らすことによって基礎断熱構造を構築するとともに、
外壁材および屋根材の室内側に、断熱材により区分された外側通気層と内側通気層と形成し、
前記2つの通気層を流通する空気は、壁体部分を含む建築物内では実質的に流通せず、
前記内側通気層を流通する空気は、断熱材によって建築物の屋根材と断熱区画された小屋裏空間で常時連通するようにするとともに、
内側で断熱された外周布基礎に囲まれた基礎部分に打設されたベタ基礎と、外周布基礎の内部に外周布基礎とは不連続にベタ基礎上に立設された基礎体とを有する床下空間で、ベタ基礎と接触しながら常時流通するようにし、
前記内側通気層と外気とを直接連結する連結路を、外側通気層を貫通して設けるとともに、前記連結路に開閉ダンパーを配設することを特徴とする建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法。
【請求項7】
前記外周基礎の布部に開閉可能な断熱性及び気密性を具備する開閉ダンパーを取り付けるとともに、
前記小屋裏部の内側通気層と外気とを通じさせる連通路を形成することを特徴とする請求項6に記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法。
【請求項8】
前記開閉ダンパーが、断熱性として熱貫流率(k)がk=2.5kcal/m2h℃以下、気密性能がJIS A 1516建具の気密性試験方法の気密性等級に記載される2等級もしくはこれ以上の気密性を有していることを特徴とする請求項6から7のいずれかに記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法。
【請求項9】
前記外側通気層と内側通気層を区画する断熱材を、構造躯体の外側に張設することを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法。
【請求項10】
前記外周布基礎の布部の内側の布部内側断熱板と、前記内壁材の室外側に張り巡らされた断熱材とを、土台を介して連続するように配設することを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法。」

3.請求人の主張
審判請求書によれば、審判請求人は、本件特許の請求項1?10に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1?10に係る発明の特許は特許法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである旨主張し、次の証拠を提出している。

(証拠)
甲第1号証:実公平7-1367号公報
甲第2号証:特開平7-97829号公報
甲第3号証:特開平8-93069号公報
甲第4号証:特開平6-294165号公報
甲第5号証:特許第2658334号公報
甲第6号証:特開平10-8584号公報

4.被請求人の主張
一方、答弁書によれば、被請求人は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」旨の審決を求め、本件特許の請求項1?10に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張し、次の証拠を提出している。

(証拠)
乙第1号証:平成17年6月2日付け本件拒絶理由通知書
乙第2号証:平成17年6月2日付け本件拒絶理由通知書で引用された引用文献1(特開平8-218509号公報)
乙第3号証:平成17年8月5日付け本件意見書

5.甲各号証の記載内容
(5-1)甲第1号証(実公平7-1367号公報)
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「外壁材および屋根材の室内側に、断熱材により区分された外側通気層と内側通気層とを有する建築物の気密蓄断熱構造であって、
該2つの通気層を流通する空気は壁体部分を含む建築物内では実質的に流通せず、かつこの内側通気層を流通する空気は、該断熱材により建築物の屋根材と断熱区画された屋根裏空間で常時連通すると共に、外側で断熱された外周り基礎に囲まれた基礎部分に打設されたべた基礎と、外回り基礎の内部に該外回り基礎とは不連続に該べた基礎上に立設された基礎体とを有する床下空間で該べた基礎と接触しながら常時流通し、
そして、該内側通気層と外気とを直接連結する連結路が、前記外側通気層を貫通して設けられていることを特徴とする建築物の気密蓄断熱構造。」(請求項1)
(ロ)「考案の技術分野
本考案は、建築物の気密蓄断熱構造に関する。」(3欄15?16行)
(ハ)「考案の具体的説明
以下、本考案を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
第1図は本考案の一実施例に係る建築物の断熱構造の概略断面図、第2図は同実施例に係る棟下換気口(「床下換気口」の誤記:合議体注)付近を示す要部断面図、第3図は同実施例に係る基礎構造の平面図、第4図は第3図に示すV-V線(「IV-IV線」の誤記:合議体注)に沿う断面図である。
第1図に示すように、本実施例に係る建築物2では、建築物の外壁材4aおよび屋根材4bに室内側に、外側通気層6と内側通気層7とが相互に連通しないように、しかも当該内側通気層7が屋根裏空間20および床下空間16と常時連通するように、断熱材8が面方向に張り巡らされて気密構造を形成している。」(6欄35?48行)
(ニ)「断熱材8としては、合成樹脂発泡断熱板が好ましく、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂を発泡させて得られた独立微細構造の発泡板が好ましい。なかでも高度の剛性と断熱性および透湿抵抗の高いポリスチレンの押出し発泡板を用いるのが効果的である。しかしながら、断熱材8としては、上記した合成樹脂発泡板に限らず、グラスウール、ロックウール等を板状に形成させた繊維系のものも使用できる。…
このような断熱材8は、建築物2における各部屋10を包括的に囲繞するように、しかも外側通気層6と内側通気層7とが相互に連通しないように張設される。」(7欄4?17行)
(ホ)「…外側通気層6は、壁および屋根内側を隈なく行き渡っており、その下端部もしくは上端部の少なくともいずれか一方が外気に開放している。第1図に示す実施例では、外側通気層6の下端部に形成された通孔6aおよび上端部に形成された棟換気口6bを通して、外側通気層6は外気に常時開放されている。」(7欄20?26行)
(ヘ)「…内側通気層7は、各部屋10の周囲を隈なく行き渡っており、断熱材で外側通気層とは区画された床下空間16および屋根裏空間20とも連通して実質的な気密空間を形成している。各部屋10間の内側通気層7aは間仕切り間に形成される。」(7欄27?31行)
(ト)「本実施例では、建築物2の土台下部に、床下換気口12が形成してある。床下換気口12は、室外側空間と床下空間16とを適宜連通するためのものである。
床下換気口12には、第2図に示すように、床下開閉ダンパ24が回動自在に装着してある。床下開閉ダンパ24は、板状の断熱材で構成されるのが好ましい。この床下開閉ダンパ24は断熱性として貫通流率(k)がk=2.5kcal/m2h℃以下、気密性能がJIS A 1516建具の気密性試験方法の気密性等級に記載される2等級以下が好ましい。」(7欄39?47行)
(チ)「このような本実施例に係る建築物2における床下空間16を構成するための基礎構造は、次に示す構造を有していることが好ましい。
第3,4図に示すように、本実施例に係る基礎構造は、地盤上に面方向に伸延するようにコンクリートが打設されて形成されたべた基礎体30と、
このべた基礎体30の周囲にコンクリート打設によって、一体に形成された断面L字形状の外周り基礎体31と、
この外周り基礎体31の内側に、外周り基礎とは不連続に所定間隔でべた基礎上に立設され、前記べた基礎体30とコンクリート打設によって一体に形成された柱状体32とから成っている。」(8欄15?26行)
(リ)「本考案では、上述したような建築物2において、第1図に示すように、外側通気層6を貫通して、内側通気層7と外気とを連通する連通路40が建築物2の上方に形成してある。この連通路40内には、送風ファン42や開閉ダンパ等を必要に応じて装着してあり、内側通気層7内の空気を適宜外気へ排出することができるようになっている。」(9欄13?19行)
(ヌ)「…夏季において太陽熱や外気によって外壁材4aもしくは屋根材4bが加熱されると外側通気層6の空気が熱せられて上昇する。しかし、断熱材8によって内側通気層7と外側通気層6とは隔絶されているので、高温空気が内側通気層7内に侵入することがなく、また断熱材8によって熱伝達も抑制される。このため、外側通気層6で熱せられた高温空気は内側通気層7にほとんど影響を及ぼすことなく、換気口6bから外部へ排出される。したがって各部屋10の冷房費が節約できる。
なお、通孔6aからは比較的低い温度の外気が外側通気層6内に導入されるので、外側通気層6内の空気温度は外壁材4aの温度よりも低くなり、したがって、断熱材8を外壁材4aの裏側に直接配設する場合に比べると、内側通気層7に伝達する熱量も低減できる。
しかも、本考案は、床下開閉ダンパ24を開くと共に、連通路40によって内側通気層7を外気と連通させることにより、内側通気層7の通風性を向上させ、床下空間16内の比較的冷たい空気を各部屋周囲に循環させ、この点でも室内の冷房効率を高めることが可能になる。」(9欄20?39行)
(ル)「…冬季においては、床下開閉ダンパ24を閉じると共に、連通路40を閉じておくことにより、十分な保温性を維持できる。すなわち、床下換気口24および連通路40を閉じることにより、各部屋10は、外側通気層6、断熱材8および内側通気層7等により、2重、3重に囲繞され、断熱性が十分に保持されるからである。」(9欄40?46行)
(ヲ)「考案の効果
以上説明してきたように、本考案によれば、内部通気層内にある居住空間で発生した内部熱エネルギーを有効に利用することができる。即ち、建築物の壁および屋根内に相互に連通しない内外二重の通気層を形成しているので、両通気層の空気の対流を防止できるとともにこれら通気層が断熱作用をなし、加えて両通気層が断熱材で隔絶されているので外壁材と内壁材との間の熱伝達を大幅に低減でき、これにより厳しい外部環境を緩和した、いわゆる二次環境を各部屋の周囲に形成できて、断熱、保温性および通気性に優れた建築物を実現できる。また外側通気層と内側通気層はそれぞれ建築物の壁および屋根の裏側にくまなく行渡り、特に内側通気層は屋根裏空間および床下空間にも連通している構成であるから、上記断熱作用と相埃って壁材、屋根材、もしくは土台等に結露が生ずるのを有効に防止でき、建築物の耐久性を向上させることができる。
さらに、床下空間にある基礎構造を例えば柱状にしているため、床下空間を流通する空気の流れが均一になり、べた基礎全体を蓄熱体として有効に利用することができる。また、べた基礎の温度格差がなくなるのでべた基礎上での結露を有効に防止できる。」(11欄1?22行)
(ワ)また、第1図?第4図を見ると、外側通気層6と内側通気層7を区画する断熱材8が、建築物の構造躯体の外側及び外周り基礎体31の外側に配設されている態様が示されている。

上記記載事項及び図面に示された内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「外壁材4aおよび屋根材4bの室内側に、断熱材8により区分された外側通気層6と内側通気層7とを有する建築物3の気密蓄断熱構造であって、
断熱材8が、外周り基礎体31の外側に配設されており、
該2つの通気層6,7を流通する空気は、壁体部分を含む建築物内では実質的に流通せず、
かつこの内側通気層7を流通する空気は、
該断熱材8により建築物の屋根材4bと断熱区画された屋根裏空間20で常時連通すると共に、
外側で断熱された外周り基礎体31に囲まれた基礎部分に打設されたべた基礎体30と、外回り基礎体31の内部に該外回り基礎体31とは不連続に該べた基礎体30上に立設された柱状体32とを有する床下空間16で該べた基礎体30と接触しながら常時流通し、
そして、該内側通気層7と外気とを直接連結する連通路40が、前記外側通気層6を貫通して設けられ、
この連通路40内には、開閉ダンパを装着した建築物の気密蓄断熱構造。」

(5-2)甲第2号証(特開平7-97829号公報)
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特に冷暖房時における結露量を低減し、かつ壁内の湿気保有を防止できる密閉式壁構造に関する。」
(ロ)「【0016】
【実施例】以下、本発明の密閉式壁構造を図面を参照しつつ説明する。図1は、床下を含めて表す本発明の壁構造の一実施例を示す図であり、中壁材1は透湿性中板材2の内側面(室内側)に発泡体3が吹き付けられて構成されており、また板材2の外側面に透湿防水層(同図では透湿防水紙4)が貼着されている。…
【0018】また、中壁材1の外側には第1の空隙S1(ただし、図では間柱7も併せて図示している)を介して外壁材6が設けられており、中壁材1の内側には第2の空隙S2を介して内壁材8(同図では石膏ボード)が設けられている。…
【0019】図1においては、コンクリート基礎9の上部にスペーサ10を介して土台11が設置され、該土台11に連続して上記壁構造が、また大引12の上に渡された根太13上に床板14がそれぞれ設けられ、上記大引12と床板との間には床下断熱材15が設けられている。また、床下には、砕石16上に均し砂17aが盛られ、この上に防湿ポリエチレンフィルム17bが敷きつめられ、さらにこの上を押さえモルタル17cで押さえている。なお、床下断熱材15は、板状のものを用いてもよいし、吹き付けで形成してもよい。」
(ハ)「【0020】さらに、図1では、コンクリート基礎9に床下換気口20を設けた構造としてあるが、この換気口20を設けずに、かつコンクリート基礎9の内側面にも発泡体3′(図1では二点鎖線で示す)を吹き付けて形成し、床下を外気から遮断する構造とすることもできる。…」
(ニ)また、【図1】又は【図2】には、基礎の断熱材と壁材の断熱材とが土台を介して連続するように配置した態様が記載されている。

(5-3)甲第3号証(特開平8-93069号公報)
甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「【請求項2】 コンクリート基礎は碎石の上に防湿フィルムを貼設し、基礎周囲に断熱材を設け、その上にコンクリート層を設けたものである請求項1記載の高気密高断熱性家屋。」
(ロ)「【請求項3】 コンクリート基礎外周立上がり部の外面に断熱材を貼設し、その外面にモルタル層を設けたものである請求項1記載の高気密高断熱性家屋。」
(ハ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は断熱性が高くかつ気密性が高いとともに、自然熱や生活排熱を有効利用し、省エネルギー化するとともに、遮音性が高く、かつ耐久性の高い家屋と、その家屋を建築する工法に関する。」
(ニ)「【0007】
【実施例】本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1は本発明による家屋の全体構造を示し、この家屋の建築にあたっては図2に細部を示すような基礎工事を行う。即ち、地面1を所定深さ及び形状に掘削して割栗石2を敷設する。その際の掘削地面は、コンクリート基礎外周囲予定部から床下に至る部分に法面3を形成する。割栗石2の上には砕石4を転圧して固め、その上面には防湿性のポリエチレンフィルム5を適宜重ね代をとりつつ、また、テーピングにより接着しつつ全面に貼設する。ポリエチレンフィルム5の上には、前記法面3部分及びこの法面3の上端から床下に延びる略1mの範囲に、外周囲をポリエチレンフィルム防湿紙で被覆された25mm厚程度の硬質ウレタンフォーム製断熱ボード6を貼着配置する。その上に型枠形成と共に鉄筋7を配置し、型枠内にコンクリートを流し込み、また、床下基礎部8の上面を適宜整えてコンクリートを硬化させる。基礎立上がり部9の外周には30mm厚程度のコンクリート打込用硬質ウレタンフォーム製断熱ボード10を貼り、その上面にラス張りを施こしてモルタル11の金ゴテ押えを行う。断熱ボード10の下端外周で転圧した砕石4上のポリエチレンフィルム5上面には押えコンクリート12を配置し、基礎立上がり部9の外周囲に掘削した土を埋め戻して基礎形成を終了する。」
(ホ)「【0015】また、基礎コンクリート全体を蓄熱槽として外気の影響が少ない安定的な季節毎の主たる熱源としている。夏は約16℃の地熱を冷房の一部とし、冬は約13℃の地熱を暖房の一部として取り出す。通常の利用方法は、前記した第6ダクト66により常時床下へ空調された空気は送り続けられると、不特定の内壁内部を木部の乾燥状態を伴いながら通過して小屋裏空間へと到達する。そこで第7ダクト67に再び引き込まれ、熱交換器付き空調機51へ戻された後、熱回収されてから屋外へ汚染空気(…)として排気され知らないうちにその作用は行われているのである。そして、この定常的な継続により気温が高い夏には相対的に低い地熱によって冷房効果を得、気温が低い冬には外部開口部から侵入する日射や照明、人体発熱等の生活排熱などを暖房の熱源として昼間のうちに床下の蓄熱槽へ供給し続ける。そして夜間になり、室温のゆるやかな低下と共にこの逆作用が働き、蓄熱槽がゆっくり放熱を始めるようになる。こうして、たとえ外気温が急激に変動しても熱容量の非常に大きなコンクリートの性質を利用した蓄熱と放熱のサイクルを都合よく利用することにより、極めて変動の少ない室内空間に仕上げられるのである。」
(ヘ)「【0017】こうして、夏は室温に対して相対的に低い地熱をほぼ直接取り出し、また冬は外気温に対して相対的に高い地熱を夏とは逆の現象で取り出す。そして冬の蓄熱作用もこの方法によって飛躍的に高めることになるのである。この原理で取り出しした熱はそのまま生活空間へ導入しても全く問題のない空気の中に含まれているため、ロスもなく一段上の低ランニングコストで冷暖房を実現する。」
(ト)「【0020】…また、1階の床下は断熱材を埋設したコンクリートにより外気に対して閉鎖的空間を形成しているので、従来のもののような床下への放熱が防止されるばかりでなく、年間を通してほぼ一定の地熱を取り出すことができ、基礎の立ち上がり部外周に断熱ボードを設けることにより、より断熱効果を高めることができ、これらの相乗によって小型の空調機によって屋内全室の空調を行うことができるとともに、空調機の運転経費を減少することができる。」

(5-4)甲第4号証(特開平6-294165号公報)
甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「【0002】
【従来の技術】ポリウレタンフォームはその優れた断熱性、自己接着性、製造の簡便性等の特長から、家屋等の断熱材として使用するのに適している。しかし、一方でポリウレタンは白蟻により食害され易いという問題があり、有機塩素系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、硼素化合物、有機スズ化合物等を用いて白蟻による食害を防除しようという提案がなされている」

(5-5)甲第5号証(特許第2658334号公報)
甲第5号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「断熱壁の気密化工法としては、木造建築物の軸組の外側に、二層の板状断熱材を、各層の断熱材が互いに直交し断熱材間の目地が遮蔽するように貼る方法などがよく利用されている。」(公報第3欄7?10行)
(ロ)「第1図に示す本実施例の断熱壁構造は、木造建築物の外壁構成であって、複数の板状断熱材1・・を柱2および間柱3等の軸組の外側に並べて一層貼りをし、その内側に中空層8を形成し、そして室外側に縦胴縁7・・を設け、さらにその外側に金属サイディング板4を覆い貼ってなる。一方5は、室内側に貼られた内装仕上材を示し、これと板状断熱材1の間に中空層8を形成してなる。」(公報第5欄28?35行)

(5-6)甲第6号証(特開平10-8584号公報)
甲第6号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「【0005】
【実施例】以下に、図面を用いて本発明に係る家屋について詳細に説明する。図1は本発明に係る家屋Aの代表的一実施例を示す説明図であり、1は小屋裏空間、2は室内空間、3は床下空間で、それぞれ内壁10、天井11、床12によって区切られた家屋Aの内部空間である。
【0006】室内空間2は内壁10、天井11、床12によって囲まれた空間で、例えば開口部9の下部に通気口13を、天井11に設けた排気口14を有するものであり、通気口13からは給気を、排気口14からは排気を行うものである。
【0007】4は断熱層で少なくとも家屋Aの内部と外部の熱の出入を遮断するものであり、副次的に防音性、気密性、防火性を有するものである。さらに説明すると、断熱層4は屋根断熱層4aと外壁断熱層4b、および床断熱層4cとからなり、それぞれボード状、マット状、シート状のもの、あるいは屋根材、外壁材と一体になっているもの等がある。
【0008】断熱層4を構成する部材の例としては、ポリスチレンボード、ポリウレタンボード、ポリイソシアヌレートフォームボード、フェノールフォームボード、シージングボード、シージングインシュレーションボード、ALC、セメント、木片セメント板、木毛セメント板、グラスウールマット等、もしくはこれらの複合板等であり、これらの表面に金属製屋根材、瓦等を配することによって屋根を、また金属系パネル、タイル、窯業系パネル、ALC板等を配することにより外壁を形成するものである。また、表面材と断熱芯材および必要に応じて裏面材とを一体に形成したパネル、ALC外装パネル、木片セメントパネル、木毛セメントパネル等を用いることもでき、これらを主柱、間柱等の躯体上に配することによって屋根断熱層4a、外壁断熱層4b、床断熱層4cを形成するものである。
【0009】5は壁内空間で、外壁断熱層4bと内壁10間に設けたもので、小屋裏空間1と床下空間3とを連通化し、空気が流れる空間であり、冬期においては空気吹出部8から吹き出した空気が上昇し、また夏期においては必要に応じて設けられた床下換気口15から吸入された空気が上昇する経路となる。」
(ロ)「【0013】空気吹出部8は、例えは図3に示すような構成を有するものである。すなわち、布基礎23によって分割された床下空間3の各空間毎に少なくとも1つずつ吹出口26を設け、…(中略)…
【0014】床下空間3を分断する布基礎23の表面には、床下断熱層4cと連続した基礎断熱層25を設けることにより、各床下空間3同士の間で熱の移動が生じず、温度の調節をより正確に行うことができるようになるものである。また、図3においては給気パイプ17が土台24、布基礎23内を通過してから吹出口26に至っているが、床12と、土台24および基礎断熱層25との間等から吹出口26に導くこともできる。」

6.対比・判断
(6-1)本件発明1について
(イ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、甲1発明の「外周り基礎体31」が「外周(布)基礎」に相当し、以下同様に、「断熱材8」が「断熱材」に、「べた基礎体30」が「ベタ基礎(部分)」に、「外壁材4a」が「外壁材」に、「屋根材4b」が「屋根材」に、「外側通気層6」が「外側通気層」に、「内側通気層7」が「内側通気層」に、「屋根裏空間20」が「小屋裏空間」に、「外回り基礎体31の内部に該外回り基礎体31とは不連続に該べた基礎体30上に立設された柱状体32」が「外周(布)基礎の内部に外周(布)基礎とは不連続にベタ基礎上に立設された基礎体」に、「床下空間16」が「床下空間」に、「連通路40」が「連結路」に、「開閉ダンパ」が「開閉ダンパー」に、「建築物の気密蓄断熱構造」が「建築物の蓄熱・蓄冷構造」に、それぞれ相当するといえる。
また、甲1発明の「外周り基礎体31」の外側に「断熱材8」を配設した構造は、建築物の外周り基礎構造に設けられた断熱構造であるといえるから、本件発明の「基礎断熱構造」に相当するということができる。
さらに、甲第1号証には、その断熱体として板状のものを用いることが記載されている(上記「(5-1)」の(ニ)参照)から、甲1発明の「外周り基礎体31」の外側の「断熱材8」と本件発明1の「外周布基礎を構成する布部の内側」に設けられた「布部内側断熱板」とは、共に建築物の外周基礎の面方向に張り巡らされた「断熱板」である点で共通するといえる。

そうすると、両者は、次の一致点で一致し、相違点1?2で相違する。

(一致点)
「外周基礎に、断熱板が面方向に張り巡らされている基礎断熱構造を有し、
外壁材および屋根材の室内側に、断熱材により区分された外側通気層と内側通気層とを備え、
前記2つの通気層を流通する空気は、壁体部分を含む建築物内では実質的に流通せず、
前記内側通気層を流通する空気は、断熱材によって建築物の屋根材と断熱区画された小屋裏空間で常時連通するとともに、
断熱された外周基礎に囲まれた基礎部分に打設されたベタ基礎と、外周基礎の内部に外周基礎とは不連続にベタ基礎上に立設された基礎体とを有する床下空間で、ベタ基礎と接触しながら常時流通し、
前記内側通気層と外気とを直接連結する連結路が、外側通気層を貫通して設けられているとともに、前記連結路に開閉ダンパーを備えた建築物の蓄熱・蓄冷構造。」
(ちなみに、本件特許明細書の段落【0053】に記載の効果が、甲第1号証の11欄2?11行に、本件特許明細書【0054】に記載の効果が、甲第1号証の11欄11?17行に、本件特許明細書【0055】に記載の効果が、甲第1号証の11欄18?22行に、それぞれ全く同じものとして記載されている。)

(相違点1)
外周基礎の基礎断熱構造に関して、本件発明1が「外周布基礎を構成する布部の内側に、布部内側断熱板が面方向に張り巡らされている」基礎断熱構造を有するのに対し、甲1発明は、外周基礎の外側に、外側断熱板が面方向に張り巡らされている基礎断熱構造を有する点。
(相違点2)
ベタ基礎部分の上面の基礎断熱構造に関して、本件発明1が「ベタ基礎部分の上面に、前記布部内側断熱板に当接し該ベタ基礎部分の一部を覆うベタ基礎上面断熱板が張り巡らされている」基礎断熱構造を有しているのに対し、甲1発明は、ベタ基礎部分には断熱構造を有していない点。
(なお、以下の記載中の[ ]内には、対応する各甲号証の用語を表記した)。

(ロ)相違点の検討
そこで、上記相違点1、2につき、以下検討する。

(相違点1について)
ところで、建築施工用語として、「布」とは、水平を意味し、布基礎を意味する用語として知られているものであり、また、「布基礎」とは長く連続している基礎で、木造住宅の基礎などに一般的に使用されている基礎であることも、当業者により普通に知られている事項であるといえるから、甲1発明における外周基礎が「布基礎」に実質的に相当するものであることは自明な事項であり、仮に、自明な事項であるといえないとしても、甲1発明における外周基礎に「布基礎」を用いることも、当業者が普通に採用し得たことといえる。
(ちなみに、本件の特許明細書の段落【0015】に、「…一方、従来より外周布基礎の屋外側に外側基礎断熱材を配置した断熱建築物が実施されているが、…」との記載がある。)
また、甲第2号証には、床下を外気から遮断する構造とするために、外周基礎[コンクリート基礎9]を構成する部分の内側面に、言い換えれば、布部の内側に、断熱材[発泡体3’]を張り巡すように構成した基礎断熱構造が記載されているとともに、このような床下に設けられる断熱材を、板状のものを用いてもよいし、吹き付けで形成してもよいことが、併せて記載されている(上記「(5-2)」の(ロ)参照))。
そうすると、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明の外周基礎に甲第2号証記載の(外周基礎の)基礎断熱構造を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものということができる。

なお、被請求人は、答弁書において、甲第1号証のように、外周り布基礎31の屋外側に断熱材5を設けている場合には、地中に棲息する白蟻が、発泡樹脂断熱材5の露出部分から発泡樹脂断熱材中に蟻道を形成して、基礎を上方に移動して、基礎上に設けられた建屋の建築部材を食い荒らしてしまうが、本件発明1では、外周布基礎1の内側に布部内側断熱板5が張り巡らされているので、白蟻が建築物を食い荒らすことがない旨(答弁書15頁下1行?17頁15行)主張している。
しかしながら、上記のとおり、甲第2号証には、外周布基礎[コンクリート基礎]を構成する布部の内側に、布部内側断熱体[発泡体3’]が張り巡らされている基礎断熱構造が記載されており、また、建築物の床下の空間と外気とを断熱する場合には、その断熱材の配置箇所を外周り布基礎の外側又は内側(或いは布基礎の内部空間)かのいずれかに設ける以外に選択の余地は無いのであるから、甲1発明の断熱材を外周り布基礎の外側ではなく内側に設けるように変更することは、当業者が容易に想起し得たことといわざるを得ない。そして、このように内側に設けるように変更した場合に、白蟻が建築物を食い荒らすことがないという効果が得られることも、甲第4号証(上記「(5-4)」の(イ)参照)に示されるように、白蟻の害を防止すべきことが従来より周知の課題であったことを考慮すれば、当業者が普通に予測し得たものといえる。
また、被請求人は、甲第2号証記載の発泡体3’は、ポリウレタンフォームからなるいわゆる現場吹き付け発泡によるものであって、施工に手間と時間がかかる上、均一な厚さを有する発泡体3’を形成することが困難で、熱ロスが大きくなるのに対し、本件発明1は、予め工場などで製造した所定の厚さ、寸法を有する板状の断熱板であるので手間と時間を要することなく建築物の蓄熱・蓄冷構造を構築することができる旨(答弁書20頁下5行?21頁下2行)主張しているが、断熱材を板状のもので形成する点は、甲第1号証に記載されていることも、上記説示したとおりである。

(相違点2について)
ところで、本件発明1が「ベタ基礎部分の上面に、前記布部内側断熱板に当接し該ベタ基礎部分の一部を覆うベタ基礎上面断熱板が張り巡らされている」基礎断熱構造を有するものとした点の技術的意義につき特許明細書を参酌すると、その段落【0023】に「このように構成することにより、外周布基礎を構成する布部の内側に布部内側断熱板を張り巡らし、さらに、ベタ基礎部分の上面に、布部内側断熱板に当接し少なくとも該ベタ基礎部分の一部を覆うように、ベタ基礎上面断熱板が張り巡らされているので、床下空間の断熱性(蓄熱性)も保持され、床下空間での結露を有効に防止することが可能になる。」との記載があり、また、段落【0052】に「【発明の効果】以上説明してきたように、本発明によれば、外周布基礎を構成する布部の内側に布部内側断熱板を張り巡らし、さらに、ベタ基礎部分の上面に、布部内側断熱板に当接し少なくとも該ベタ基礎部分の一部を覆うように、ベタ基礎上面断熱板が張り巡らされているので、ベタ基礎部分からの熱放散が少なくなり、床下空間の断熱性(蓄熱性)も保持され、床下空間での結露を有効に防止することが可能になる。」との記載があるとともに、段落【0030】には、「一方、ベタ基礎上面断熱板60は、外周布基礎1を構成する布部の内面から屋内側に、200?1000mm、好ましくは、300?900mmの位置まで設けるのが、施工効率が良く、ベタ基礎部分30に蓄熱した冷熱が放散せず、熱ロスを少なくし、蓄熱効果を十分得られる。」との記載がある。
他方、甲第3号証には、その段落【0015】に「基礎コンクリート全体を蓄熱槽として外気の影響が少ない安定的な季節毎の主たる熱源としている。」(上記「(5-3)」の(ホ)参照)と記載されているとともに、段落【0020】に「…また、1階の床下は断熱材を埋設したコンクリートにより外気に対して閉鎖的空間を形成しているので、従来のもののような床下への放熱が防止されるばかりでなく、年間を通してほぼ一定の地熱を取り出すことができ、…」(上記「(5-3)」の(ト)参照)と記載されているから、甲第3号証には、床下の基礎部分に断熱材を設けて(外気に対して閉鎖的空間を形成するとともに)蓄熱体として利用することが開示されているといえる。
そして、甲第3号証記載の構成を本件発明1の構成と対比すると、ベタ基礎部分の断熱板の配置箇所がベタ基礎の下面であるか上面であるかの相違があるといえるものの、該ベタ基礎部分の断熱板をベタ基礎の下面に設けるか上面に設けるかの相違により、上記したところの両者の(床下空間の断熱性(蓄熱性)ないし放熱を防止し、一定の地熱を取り出せるという)断熱性・蓄熱効果において格別の相違があるということもできない。
そうすると、上記「相違点1について」で説示したところの甲1発明に甲第2号証記載の外周基礎の基礎断熱構造を適用するに際して、甲第2号証記載の基礎断熱構造を、甲第3号証記載の床下の基礎部分の断熱材が奏するのと同様の断熱性・蓄熱効果を期待できるものとすることは、当業者が容易に想到し得た得ことといえる。

なお、被請求人は、答弁書において、甲第3号証では、ベタ基礎の地面側(下側)に硬質ウレタンフォーム製断熱ボード6を貼着配置した構成であるので、床下側コンクリート基礎表面に結露が生じる旨(答弁書24頁14?21行)、また、地中に棲息する白蟻が、断熱ボード6中に蟻道を形成し、断熱性が低下する旨(答弁書24頁22?26行)主張している。
しかしながら、ベタ基礎に断熱材を設けることとした場合には、通常、ベタ基礎の上面か下面の何れかの側に設けることとなり、相違点1において既に説示したように、従来より周知の課題であった白蟻の害を防止することを考慮すれば、断熱材をベタ基礎の上面側に設けるものと選択することも、当業者が当然配慮する事項であって、その作用効果も当業者が普通に予測し得たものといえる。
また、被請求人は、甲第3号証では、図2からも明らかなように、基礎立ち上がり部の外周に配置した断熱ボード10と、ベタ基礎の地面側に断熱ボード6との間には、間隙が存在し、その間隙からの熱放散が多くなり、土台15等における結露を防止することができないが、本件発明1は、布部内側断熱板5とベタ基礎上面断熱板60とが当接しているので、外周布基礎1側のベタ基礎部分30、外周布基礎1の内面からの熱放散が少なくなり、床下空間での結露を有効に防止する旨(25頁1行?26頁3行)主張しているが、断熱を意図する以上、断熱材を含めて各部材ができる限り連続するようにした方が(断熱効果から見て)望ましいことは自明な事項であり、甲第3号証に上記間隙が存在していることをもって、本件発明1の布部内側断熱板とベタ基礎上面断熱板とを当接させた構成とすることが、当業者にとって格別困難な事項であるということもできない。

(ハ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用する発明であって、更に「前記外周基礎の布部に開閉可能な断熱性及び気密性を具備する開閉ダンパーが取り付けてあるとともに、前記小屋裏部の内側通気層と外気とを通じさせる連通路が具備されていること」を限定したものであるから、本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記「(6-1)」に記載した一致点で一致し、相違点1、2に加えて次の相違点3で相違する。
(相違点3)
本件発明2は、「前記外周基礎の布部に開閉可能な断熱性及び気密性を具備する開閉ダンパーが取り付けてあるとともに、連通路が前記小屋裏部の内側通気層と外気とを通じさせる」通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造であるのに対し、甲1発明は、連通路が「内側通気層7と外気とを直接連結する」とのみ限定されている点。

(相違点3について)
しかしながら、上記甲第1号証には、「建築物2の土台下部に、床下換気口12が形成してある。床下換気口12は、室外側空間と床下空間16とを適宜連通するためのものである。床下換気口12には、第2図に示すように、床下開閉ダンパ24が回動自在に装着してある。」(上記「(5-1)」の(ト)参照)との記載があるとともに、「この連通路40内には、送風ファン42や開閉ダンパ等を必要に応じて装着してあり、内側通気層7内の空気を適宜外気へ排出することができるようになっている。」(上記「(5-1)」の(リ)参照)との記載がある。
してみると、相違点3に係る本件発明2の構成は、甲1発明に甲第1号証に記載された開閉ダンパの構成を適用することにより当業者が容易に想到し得たものといえる。

したがって、本件発明2は、甲第1号証?甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-3)本件発明3について
本件発明3は本件発明1又は2を引用する発明であって、更に「前記開閉ダンパーが、断熱性として熱貫流率(k)がk=2.5kcal/m2h℃以下、気密性能がJIS A 1516建具の気密性試験方法の気密性等級に記載される2等級もしくはこれ以上の気密性を有していること」を限定したものであるから、本件発明3と甲1発明とを対比すると、上記「(6-1)」に記載した一致点で一致し、上記「(6-1)」又は「(6-2)」に記載した相違点1?2又は相違点1?3に加えて次の相違点4で相違する。
(相違点4)
本件発明3が「前記(外周基礎の布部に取り付けられた)開閉ダンパーが、断熱性として熱貫流率(k)がk=2.5kcal/m2h℃以下、気密性能がJIS A 1516建具の気密性試験方法の気密性等級に記載される2等級もしくはこれ以上の気密性を有している」通気性を有する建築物の蓄熱・蓄冷構造であるのに対し、甲1発明は、このような限定がされていない点。

(相違点4について)
しかしながら、上記甲第1号証には、「この床下開閉ダンパ24は断熱性として貫通流率(k)がk=2.5kcal/m2h℃以下、気密性能がJIS A 1516建具の気密性試験方法の気密性等級に記載される2等級以下が好ましい。」(上記「(5-1)」の(ト)参照)との記載がある。
してみると、相違点4に係る本件発明3の構成は、甲1発明に甲第1号証に記載された開閉ダンパの構成を適用することにより当業者が容易に採用し得たものといえる。

したがって、本件発明3は、甲第1号証?甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-4)本件発明4について
本件発明4は本件発明1?3のいずれかを引用する発明であって、更に「前記外側通気層と内側通気層を区画する断熱材が、構造躯体の外側に張設されていること」を限定したものであるから、本件発明4と甲1発明とを対比すると、上記「(6-1)」に記載した一致点で一致し、上記「(6-1)」?「(6-3)」に記載した相違点に加えて次の相違点5で相違する。
(相違点5)
本件発明4が「前記外側通気層と内側通気層を区画する断熱材が、構造躯体の外側に張設されている」のに対し、甲1発明は、このような限定がされていない点。

(相違点5について)
しかしながら、甲第1号証の第1図?第4図を見ると、外側通気層6と内側通気層7を区画する断熱材8が、建築物の構造躯体の外側に配設されている態様が示されている(上記「(5-1)」の(ワ)参照)。
してみると、相違点5に係る本件発明4の構成は、甲1発明に同甲第1号証に併せて記載された断熱材の配置構成を適用することにより当業者が容易に採用し得たものといえる。

したがって、本件発明4は、甲第1号証?甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-5)本件発明5について
本件発明5は本件発明1?4のいずれかを引用する発明であって、更に「前記外周布基礎の布部の内側の布部内側断熱板と、前記内壁材の室外側に張り巡らされた断熱材とが、土台を介して連続するように配設されていること」を限定したものであるから、本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記「(6-1)」に記載した一致点で一致し、上記「(6-1)」?「(6-4)」に記載した相違点に加えて次の相違点6で相違する。
(相違点6)
本件発明5が「前記外周布基礎の布部の内側の布部内側断熱板と、前記内壁材の室外側に張り巡らされた断熱材とが、土台を介して連続するように配設されている」のに対し、甲1発明は、このような限定がされていない点。

(相違点6について)
しかしながら、上記「相違点2について」で説示したように、断熱を意図する以上、断熱材を含めて各部材ができる限り連続するようにした方が(断熱効果から見て)望ましいことは自明な事項であり、また、上記甲第2号証の【図1】や【図2】にも、基礎部分の断熱材と壁材部分の断熱材とが建物の土台部分を介して連続するようにした構成が記載されていることから、相違点6に係る本件発明5の構成は、当業者が適宜採用し得たものといえる。

したがって、本件発明5は、甲第1号証?甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-6)本件発明6?10について
本件発明1と6、本件発明2と7、本件発明3と8、本件発明4と9、及び、本件発明5と10とは、それぞれ、前者を「構造」という物の発明として表現し、後者を「構築方法」いう方法の発明として表現したという発明のカテゴリーによる表現上の相違があるに止まるものといえるから、本件発明6?10は、上記「(6-1)」?「(6-5)」において検討したと同様の理由により、甲第1号証?甲第3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、他の証拠について検討するまでもなく、本件発明1?10は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-29 
結審通知日 2007-05-31 
審決日 2007-06-12 
出願番号 特願平10-227428
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 岡田 孝博
峰 祐治
登録日 2006-06-23 
登録番号 特許第3819156号(P3819156)
発明の名称 建築物の蓄熱・蓄冷構造および建築物の蓄熱・蓄冷構造の構築方法  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 俊一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ