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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1161549
審判番号 不服2004-22109  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-27 
確定日 2007-07-26 
事件の表示 平成10年特許願第114781号「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月 2日出願公開、特開平11- 58817〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年4月24日(優先権主張平成9年5月26日、平成9年6月13日)の出願であって、平成16年9月17日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月27日付けで本件審判請求がされるとともに、同年11月18日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年11月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正後の【請求項1】の記載は次のとおりである(下線部が補正により追加された箇所である。)。

「【請求項1】レーザ書き込み手段と書き込み制御手段とを備え、この書き込み制御手段によってレーザの走査速度を変更して画素密度を切り替えて画像を形成させる画像形成装置において、
前記書き込み制御手段は、画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、低密度の画素密度で印字する場合よりも高密度の画素密度で印字する場合の方がレーザの発光パワーが大きくなるようにレーザ発光手段を制御することを特徴とする画像形成装置。」

2.補正目的の検討
請求人は、本願の出願当初明細書の段落【0011】に「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えることなく単独ドットでも良好な画像形成を行なえる」との記載があることを根拠として、当該補正が印字時の画素密度を変更するときの条件をさらに限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると主張している。

なるほど、根拠とされる前記段落【0011】には、本願発明の第1の目的が、「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えることなく単独ドットでも良好な画像形成を行なえる画像形成装置を提供する」ことと記載され、これに続く段落【0012】には、本願発明の第2の目的が、「1ドット多値画像形成時と2値画像形成時のいずれにおいても高品位な画像を得ることができる画像形成装置を提供する」ことと記載されている。
そして、続く段落【0013】?【0016】においては、前記の「本願発明の第1の目的」を実現するために、「第1の手段」?「第4の手段」を備えることが記載されており、これら手段のうち「第4の手段」については、続く段落【0016】に、「第4の手段は、第1の手段において、書き込み制御手段が、高密度の画素密度で印字するときの1ドットのレーザの発光幅が、画素密度から算出された正規幅よりも短くなるように書き込むことを特徴としている。」と記載されている。
これらの記載からみると、本願発明の第1の目的を実現する上で、前記「第1の手段」?「第4の手段」が備えられ、このうちの「第4の手段」は、1ドットのレーザの発光幅を短くすることをも含んでおり、ビーム径を変えることも含んだものと解される。
ここで、1ドットに係るレーザ径を制御する場合、光学系自体の機能に担保させる場合、アパーチャ等によりレーザ径を絞る場合、レーザの発光時間を調整する場合等、各種の手法が知られている(引用文献1の記載参照)。
しかし、段落【0008】?【0009】において、通常400dpiの画素密度で画像を形成している画像形成装置において、LD走査速度と画周波数を1.5倍にして(当該記載については、別途請求人にその意図を確認したところ、「LD走査速度を1.5倍にして」の誤記であるとの回答を得ているので、そのように解する。)600dpiの画素密度で画像形成する場合には、1ドット独立画像や1ドットラインなどは薄い、貧弱な画像となることを防止するためには、400dpiと600dpiでビーム径を変え、しかも、露光エネルギが一定となるように露光量を変えればよいが、ビーム径を変更することができるようにするとコストが高くなり、実機に使用することはできなかった、と記載されていることから、本願発明では課題を解決する上で、解像度を切り換える際にビーム径を変更することを要しない構成を得ることを予定していたと推察される。
してみると、本願発明の構成においては、潜在的にビーム径を変更する手段を用いないことを前提としていると解するのが自然な解釈ともいえる。
すると、前記「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、」の補正事項は、本願発明における前提事項を記載したとも解され、この場合には、当該補正事項は、何ら新たな限定を加えるものといえないともいい得るものである。

他方、本願当初明細書の段落【0026】以降では、図3?図6を参照するに、(b)、(c)及び(d)はビーム径を特段に変更するものではないが、(a)では、(b)における「全幅」に対して「幅2/3」とするものが記載されており、この(a)の場合には、ビーム径を変更しているものと解される。
すると、前記補正事項は、これら図3?図6における(a)の場合を除くことをいうものとの解釈も成立する。

このように、前記補正事項は、それの意味するところが、いかなる技術的内容であるかが、明らかとはいえないものの、前記補正事項は、表現上、補正前の請求項には記載されていなかった印字時の画素密度を変更するときの条件をさらに追加するものであることからして、ひとまず、請求人が主張するように、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものと解し、当初明細書の記載事項の範囲内のものであるとして、以下、本願の補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討することにする。

なお、以下、前記補正された請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。

3.引用文献1記載の発明
原審の拒絶理由において提示された引用文献1:特開平3-287180号公報には、以下の記載がある。

a.【特許請求の範囲】
「レーザビームを変調、走査して感光体上に画像を形成する画像形成装置において、前記感光体上に形成される画素密度を指定する指定手段と、前記感光体に走査されるレーザビームの光量を検出する光量検知手段と、前記レーザビームの副走査方向のビーム径が指定された画素密度に適合するように前記光量検知手段からの検出値に基いてレーザビームの副走査方向のビーム径を調整する第1の調整手段と、前記レーザビームの主走査方向のビーム径が指定された画素密度に適合するようにレーザビームの照射時間を調整すると共に、前記光量検知手段からの検出値に基いてレーザビームの強度が一定となるように制御する第2の調整手段とを備えていることを特徴とする画像形成装置。」

b.1頁2欄3?7行
「〔産業上の利用分野〕本発明はプリンタ、ファクシミリ、複写機などのように、半導体レーザからのレーザビームによって感光体に潜像を形成する画像形成装置に関する。」

c.1頁2欄8行?2頁3欄12行
「〔従来の技術〕レーザプリンタなどにおいては、形成される画像の画素密度や倍率を変更することかできる機能が要求されている。これらの画素密度や倍率の変更に際してはレーザビームのビーム径の変更が必要となっており、特開昭60-120658号公報および特開昭54-114126号公報に記載された方法が従来より提案されている。
前者の方法は、半導体レーザから射出されるレーザビームの強度と走査速度とを変更調整してレーザビームのビーム径を変更するものである。すなわち、感光体への走査速度を変えて変倍に応じた副走査方向の調整を行うと共に、この走査速度の変更に伴うビーム径の変動を、レーザビームの強度を調整する主走査方向への調整で補うようにしている。後者の方法は、複数のレーザビームを使用することによりビーム径を変更するものである。
また、これらの従来方法に加えて、アパーチャ(絞り)を使用することにより、ビーム径を変更することも提案されている。すなわち、レーザビーAが透過する開口部の径を変更可能にしたアパーチャを感光体への光路内に挿入することによりビーム径を変更するものである。」

d.2頁3欄13?20行
「〔発明が解決しようとする課題〕しかしながら特開昭60-120658号公報の方法では、画素密度によっては異なった画像濃度となる問題がある。すなわちレーザビームの強度とビーム径とは第12図に示すようなガウス分布の関係にあり、レーザビームの強度を変更すると、単位面積当りの露光エネルギーが異なるため濃度の不均一を生じるためである。
また、特開昭54-114126号公報の方法では、複数のレーザビームの相互の位置関係の精度が必要となり、このため高精度な光書込み制御を行う必要があり、制御が難しく、構成も複雑となる。これに加えて、レーザビームの本数には限界があるため、ビーム径の段階的調整だけが可能となり、連続的な調整がてきず、高解像度の場合には不適当となっている。
一方、アパーチャを光路内に設ける方法では、アパーチャ径の変更に伴ってレーザビームの強度が変動するため、画像濃度か変動して画質が低下する。
このように従来の方法は、いずれも実用上の問題を有したものとなっている。そこで本発明は、このような問題点を解決することを課題としている。」

これらb、c、dの記載から、当該引用文献記載の画像形成装置においては、画素密度を変更可能な機能を有し、この画素密度変更に際して、半導体レーザから射出されるレーザビームの強度と走査速度とを変更調整してレーザビームのビーム径を変更するもの、すなわち、特開昭60-120658号公報記載のものを従来技術の一つと位置付け、これにおいて、画素密度によっては異なった画像濃度となることが問題として挙げられる。
そして、この問題を解決すべく、請求項に記載される構成が採用されたものと把握できる。

e.3頁8欄1行?9欄13行
「第4図は以上のプリンタの制御系を示すブロック図である。プリンタ10は画像形成作動全体を制御するCPU11を備えており、このCPU11が外部のホスト機20内のCPU21とインタフェース接続されている。ホスト機20は画像の画素密度をプリンタ10に指定するものであり、CPU11には、この指定画素密度が入力される。CPU11はこの画素密度をスキャナ駆動部12と、光書込み制御回路14とに出力する。スキャナ駆動部12はポリゴンミラー5を回転駆動するスキャナモータ13を制御するものであり、入力された画素密度に適合した回転数で回転するようにスキャナモータ13を制御する。これにより副走査方向の画素密度の変更が行われる。
一方、光書込み制御回路14は半導体レーザ1を駆動させるレーザ駆動部15を制御するものであり、CPU11から入力された画素密度に適合するように画像周波数を変更する。この画像周波数の変更は画素密度に応じた基本クロックを選択するか、この基本クロックを分周するなどの手段で行って、画像形成のための周波数とする。レーザ駆動部15はこの光書込み制御回路14からの信号が入力され、この信号に基いて半導体レーザ1のレーザビームの照射時間が制御される。これによりレーザビームの主走査方向のビーム径がホスト機20から指定された画素密度に適合する。
なお、光書込み制御14にはフォトダイオードで検出されたレーザビームの光量データが入力され、後述するようにこの光量データに基いて、レーザビームの強度の調整を行うようになっている。さらに、プリンタ10のCPU11はレーザビームのビーム径を絞るアパーチャ17のアパーチャ駆動部16を制御する。」

前記aの記載及び当該eの記載からみて、当該刊行物記載の画像形成装置は、ホスト機20から指定された画素密度に応じて、CPU11がスキャナ駆動部12或いは前記光書込み制御回路14を制御し、スキャナ駆動部12は、入力された画素密度に適合した回転数でスキャナモータを制御する一方、光書込み制御回路14は、半導体レーザ1を駆動させるレーザ駆動部15を制御して入力された画素密度に適合するように画像周波数を変更するように構成されている。
してみるに、当該引用文献には、以下の発明が記載されている。
「レーザ駆動部とこれを制御する光書込み制御回路とを備え、この光書込み制御回路によって、画素密度に適合した回転数で回転するようにスキャナモータを制御し、また、入力された画素密度に適合した画像周波数及びレーザビーム照射時間を制御して、レーザビームの強度を一定とする制御を行う画像形成装置。」
以下、これを「引用発明」という。

4.本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「レーザ駆動部」及び「光書き込み制御回路」は、その機能に照らして、本願補正発明の「レーザ書き込み手段」及び「書き込み制御手段」に相当することは明らかである。
また、引用発明の画像形成装置は、ホスト機から入力された指定画素密度に応じて、スキャナモータの回転を指定画素に適合したものとして画素密度変更を行うものであって、スキャナモータの回転を制御することは、すなわちレーザの走査速度を制御することにあたるから、本願補正発明の画像形成装置が、レーザの走査速度を変更して画素密度を切り替えて画像を形成することに相当するものである。
さらに、引用発明における「光書込み制御回路」は、「レーザ駆動部」に信号を入力してレーザビームの強度を制御していることからして、本願補正発明の「光書き込み制御回路」が、「レーザ発光手段」のパワー(強度)を制御していることに相当している。

以上から、本願補正発明と、引用発明とは以下の一致点を有する一方、以下の点で相違している。

<一致点>
レーザ書き込み手段と書き込み制御手段とを備え、この書き込み制御手段によってレーザの走査速度を変更して画素密度を切り替えて画像を形成させる画像形成装置において、
前記書き込み制御手段は、画素密度に応じてレーザ発光手段によりレーザの発光パワーを制御する画像形成装置。

<相違点>
画像形成装置が画素密度を切り替えて画像を形成するに際して、
本願補正発明においては、「前記書き込み制御手段は、画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、低密度の画素密度で印字する場合よりも高密度の画素密度で印字する場合の方がレーザの発光パワーが大きくなるようにレーザ発光手段を制御する」と特定されているのに対して、
引用発明においては、書き込み制御手段が、入力された画素密度に適合した画像周波数及びレーザビーム照射時間を制御して、レーザビームの強度を一定とする制御を行うものの、少なくとも、ホスト機から指定された画素密度に適合すべくレーザビームの主走査方向のビーム径を変更しており、前記特定を有するとはいえない点。

5.相違点についての判断
前記引用文献1においては、レーザプリンタなどが備えている、形成される画像の画素密度や倍率を変更可能な機能において、画素密度や倍率の変更に際しては、レーザビームのビーム径の変更が必要であり、このビーム径を変更するにあたっては、レーザビームの強度と走査速度とを変更調整すること、或いは複数のビームを使用すること等が従来技術において検討されてきたことが記載されている(前記cの記載)。
そして、レーザビームの強度とビーム径とはガウス分布の関係にあり、単にレーザビームの強度を変更するだけであると、単位面積当たりの露光エネルギーが異なるために濃度の不均一を生じることが指摘されている(前記dの記載)。
また、アパーチャを光路内に設ける手法では、アパーチャ径の変更に伴ってレーザビームの強度が変動するために、画像濃度が変動してしまうことも指摘されている。
それ故に、引用文献1の請求項に係る発明では、感光体に走査されるレーザビームの光量自体を検出する光量検知手段を備えて、その検出値に基づいて、前記レーザビームの副走査方向のビーム径が指定された画素密度に適合するように前記光量検知手段からの検出値に基いてレーザビームの副走査方向のビーム径を調整する第1の調整手段と、前記レーザビームの主走査方向のビーム径が指定された画素密度に適合するようにレーザビームの照射時間を調整すると共に、前記光量検知手段からの検出値に基いてレーザビームの強度が一定となるように制御する第2の調整手段とを備えることが特定されている。

このように、当該引用文献1においては、画素密度や倍率の変更に際して、記録のために形成されるドットにより良好な画像形成を行う上で、レーザビームのビーム径を変更することが従来から必要であると認識されており、このビーム径を変更する手法として、レーザビームの強度と走査速度とを変更調整するか、複数のビームを用いることが採用されてきたことが指摘されている。
そして、レーザビームの強度とビーム径とはガウス分布の関係があるので、単にレーザビームの強度を変更したのみでは、形成されたドットの濃度に不均一が生じることから、これに対応するために、当該引用文献1記載の発明は、単位面積当たりの露光量を必要なものにすべく、光量検知手段による検出とこれに基づいたレーザビームの強度調整を行うものとされている。
すると、当該引用文献1においては、解像度を切り換えることを前提としてレーザービーム強度をどのように調整すべきかの開示がされているものの、所望の画像濃度を確保する上でレーザビーム強度の調整が重要であることは、当業者であれば容易に認識できることである。
換言するに、良好な画像濃度を得る観点からみれば、レーザビームの強度或いはビーム径が予め設定された条件下において、いずれをどのように設定すべきかが検討すべきものであることは、当業者にとり技術常識に属する事項ともいえる。

ここで、原審の拒絶理由通知で提示された引用文献2:特開平3-173656号公報には、以下の記載がある。

【特許請求の範囲】
「(1)イメージスキャナとプリンタを具備してなり、中間調再現に重点を置いた写真モードとコントラスト再現に重点を置いた文書モードの二つの階調再現モードを有するディジタル複写機において、
前記文書モードにおける前記プリンタのレーザ出力が前記写真モードにおける前記プリンタのレーザ出力よりも大きな所定の値となるように制御する手段を設けたことを特徴とするディジタル複写機。」

f.1頁1欄16?20行
「産業上の利用分野 本発明は、中間調再現に重点を置いた写真モードとコントラスト再現に重点を置いた文書モードの二つの階調再現モードを有するディジタル複写機に関する。」

g.2頁3欄1?15行
「発明が解決しようとする課題
通常、複写機で使用される現像剤及び感光体には寿命があり、繰り返し使用することによって、これらが劣化すると画像濃度の低下が問題となる。
特に、文書モードにおいてはプリンタから出力される文字等が薄くなったりかすれたりして実用上大きな問題となる。他方、写真モードの場合には、中間調の良好な再現性が重要であり、階調のレベルをシフトさせるに過ぎない画像濃度の低下は致命的な欠陥とはならない。
そこで本発明では、写真モードにおける中間調の良好な再現性を保持しつつ文書モードにおいて現像剤又は感光体の劣化による画像濃度の低下を抑え、耐久安定性を向上させたディジタル複写機を提供することを目的とする。」

h.2頁3欄16行?4欄5行
「課題を解決するための手段
上記目的を達成するため本発明では、イメージスキャナとプリンタを具備してなり、中間調再現に重点を置いた写真モードとコントラスト再現に重点を置いた文書モートの二つの階調再現モードを有するディジタル複写機において、前記文書モードにおける前記プリンタのレーザ出力が前記写真モードにおける前記プリンタのレーザ出力よりも大きな所定の値となるように制御する手段を設けている。

i.2頁4欄6?11行
「作用
本発明を実施したディジタル複写機では、階調再現モードとして文書モードが選択されているとき、プリンタは写真モードのときのレーザ出力よりも大きな所定のレーザ出力で感光体上に静電潜像を形成する。」

当該引用文献2には、中間調再現に重点を置いた写真モードとコントラスト再現に重点を置いた文書モードの二つの階調再現モードを有するディジタル複写機に関して、出力する画像種類に応じて、出力された画像に求められる品質特性は異なっており、文書モードにおいては画像濃度の低下はコントラスト再現上問題となるものの、写真モードにおいては中間調再現に重点があり、画像濃度の低下は致命的な欠陥とならないことが記載されている。
そして、コントラスト再現に重点を置いた文書モードにおいては、プリンタのレーザ出力を写真モードにおける同プリンタのレーザ出力よりも大きな所定の値となるように制御することで、良好な画像濃度を与えることができると記載されている。

当該引用文献2においては、出力する画像の解像度に関連してレーザ出力を制御すること自体を直接に示唆する記載はないものの、当該引用文献2の記載から、画像濃度が不足する場合に、レーザ出力を大きくすることでこれを解消し得ることは、当業者であれば容易に推察可能なことといえる。
また、レーザ出力を変更するにあたって、レーザビーム径を如何にするかの説明はないことからして、ビーム径を変更する手段を用いることが意識されているものとはいえない。
してみるに、当該引用文献2における前記示唆に基づいて、引用発明において解像度を切り換えたことにより生じる画像濃度不足を解消すべく、コントラストを高めるべく、「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、」レーザ強度を高める手法を採用することは、当業者であれば容易になし得た程度のことといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、相違点に係る構成を引用発明に適用することは、当業者であれば容易に想到し得る程度のことであって、それによる作用効果も当業者ならば、容易に推察可能なものであって、格別なものとはいえない。

なお、請求人は、平成16年11月18日付け手続補正書において、以下のように主張している。
「本願発明と引用文献1記載の発明とは、本願発明がビーム径が変化しないのに対し、引用文献1記載の発明ではビーム径が変化する点で構成が異なり、また、本願発明が画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えることなく単独ドットでも良好な画像形成を行なえるのに対し、引用文献1記載の発明では、アパーチャ径dが変化しても、レーザビームの強度を常に一定に保つことができ、画素密度が変化しても画像の濃度が変動することのないようにするという点で目的、効果が異なる。
したがって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、目的、効果が全く異なり、引用文献1に本願発明における前記Bの構成が開示も示唆もされておらず、また、ビーム径の変化に対応させるか、ビーム径を一定にするかという点は技術的に全く異なるものである以上、本願発明が引用文献1記載の発明から容易に推考できたものでないことは明らかである。」

なるほど、引用文献1記載の発明ではビーム径を変化させていることは、前記相違点に上げたごとく事実である。しかしながら、前記で指摘したように、引用文献1においても、選択された画素密度によっては画像濃度が異なることを問題として挙げ、これを解消すべくレーザビームの強度を一定とする手法、実態としては、単位面積当たりのレーザビームの光量を一定となす手法が採用されているのであって、画像濃度を適当なものにする観点から、レーザビーム強度を調整している点で両者は異なるところがないのである。

他方、本願補正発明においては、「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、」なる特定を有し、これに対応する本願明細書の実施例として、400dpiから600dpiに変更するに際して、設定されたビーム径を特段に変更することのない場合として、図3(a)?図6(a)が提示されているものの、形成される画像のシャープ性をさらに改善する観点からは、図3(b)?図6(b)のように、用いられるビームの幅を設定された全幅でなく、これの2/3とすることが好ましいとされる。
すると、画像濃度を確保することと、シャープ性を確保することは、いずれも良好な画像品質を確保することを目的とする点では一致するものの、画像品質に求める観点に応じて適宜の条件をさらに加えて設定することは、当業者であれば適宜行うことであることがこれからも把握できるのである。

さらには、「第2」の「2.補正目的の検討」で指摘したように、本件補正に係る補正事項「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、」に係る技術的意味は、請求人の主張する記載根拠からすれば、ビーム径を変更する概念も含まれているともいい得るのであり、そうであれば、ビーム径を変更しないと特定したことをもって、引用文献1における手法とは全く異なるものとする請求人の主張は採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成16年11月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年4月30日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】レーザ書き込み手段と書き込み制御手段とを備え、この書き込み制御手段によってレーザの走査速度を変更して画素密度を切り替えて画像を形成させる画像形成装置において、
前記書き込み制御手段は、低密度の画素密度で印字する場合よりも高密度の画素密度で印字する場合の方がレーザの発光パワーが大きくなるようにレーザ発光手段を制御することを特徴とする画像形成装置。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、2及びその記載内容は、前記「第2」の3.及び5.に摘示したとおりである。

3.対比及び判断
本願発明は、前記「第2」の5.で検討した本願補正発明における「画素密度を高密度に変更したときにビーム径を変えずに、」なる限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに当該限定を付したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の4.及び5.に記載したとおり、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、これら引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-22 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-12 
出願番号 特願平10-114781
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 名取 乾治
島▲崎▼ 純一
発明の名称 画像形成装置  
代理人 武 顕次郎  

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