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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1161793
審判番号 不服2005-12412  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-30 
確定日 2007-08-02 
事件の表示 平成10年特許願第 80997号「エンジン補機用プーリユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月15日出願公開、特開平11-280874〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】手続の経緯
本願は、平成10年3月27日の出願であって、平成17年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月28日付けで平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第1項第3号に該当する明細書についての手続補正がなされたものである。

【二】平成17年7月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年7月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「 【請求項1】 同心状に配設される内外2つの環体と、両環体の間の環状空間に介装される一方向クラッチと、前記環状空間において一方向クラッチの両側に設けられる転がり軸受とを含むエンジン補機用プーリユニットであって、
前記内側環体は径方向外方へ膨出する膨出部を備え、
前記内側環体の前記膨出部は、一方向クラッチの内輪として用いられるとともにその外周面に平坦なキー状のカム面が形成され、
前記転がり軸受の内輪は前記一方向クラッチの内輪とは別体であり、
前記内側環体の前記膨出部は前記転がり軸受の配置部より径が大であり、 前記カム面が前記膨出部の軸方向全長にわたって形成されている、ことを特徴とするエンジン補機用プーリユニット。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が附したものであって、補正箇所を示すものである。)

上記補正は、
(1)請求項1に係る発明を特定するための事項である「内側環体」について、「前記内側環体は径方向外方へ膨出する膨出部を備え、前記内側環体の前記膨出部は、一方向クラッチの内輪として用いられる」、「前記内側環体の前記膨出部は前記転がり軸受の配置部より径が大であり」と限定し、
(2)請求項1に係る発明を特定するための事項である「転がり軸受」について、「前記転がり軸受の内輪は前記一方向クラッチの内輪とは別体であり」と限定し、
(3)請求項1に係る発明を特定するための事項である「カム面」について、「前記カム面が前記膨出部の軸方向全長にわたって形成されている」と限定する、
ものであるから、平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認める。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「特開平9-229097号公報」(以下「刊行物1」という。)、「特開平9-100846号公報」(以下「刊行物2」という。)には、それぞれ、次の事項が記載されていると認める。

(1)刊行物1
〔あ〕「【0016】図中、1は自動車エンジン、2はクランクプーリ、3は自動車エンジンの補機(例えばクーラーコンプレッサー、オルタネータ、冷却水ポンプ、過給機、操舵用油圧ポンプなど)、4はJIS規格SPCC材などの板金製の補機プーリ、5はベルト、6はテンションプーリである。クランクプーリ2が回転すると、ベルト5を介して補機プーリ4が回転駆動される。」(3欄17?23行参照)
〔い〕「【0017】また、7は補機3の回転軸3aと補機プーリ4との間に介装される軸受装置である。
【0018】軸受装置7は、内・外輪8,9、複数の転動体としての玉10および波形保持器11からなる転がり軸受要素と、ローラ式の一方向クラッチ12と、二つのシール部材13,13とを含む。」(3欄24?29行参照)
〔う〕「【0019】内・外輪8,9は、一般的な軸受のものよりも軸方向一側に長く設定されており、軸受鋼などから構成されている。この内・外輪8,9の軸方向半分の領域には転がり軸受要素が、残り軸方向半分の領域には、一方向クラッチ12がそれぞれ配設されている。なお、内輪8の外周面において一方向クラッチ12の配設領域の円周数箇所には、一方向クラッチ12のカム面となる凹部8aが形成されている。」(3欄30?37行参照)
〔え〕「【0021】一方向クラッチ12は、軸方向両端に径方向内向きの鍔部を有する円筒部材からなるシェル状外輪14と、シェル状外輪14の内周部に固定的に嵌合されるとともに円周数箇所に径方向内外に貫通するローラポケット15aを有する保持器15と、保持器15のローラポケット15aに変位可能に収納される複数のローラ16とを備えており、シェル状外輪14の内周面と、保持器15のローラポケット15aの壁面と、軸受装置7の内輪8の外周面に形成してある凹部8aとによりくさび状空間を形成している。」(3欄45行?4欄4行参照)
〔お〕「【0022】保持器15は、……、そのローラポケット15aの一方壁面には、ローラ16を、くさび状空間における狭い側へ弾発付勢する、平面視ほぼ「ハ」の字形のばね片15bが一体に設けられている。」(4欄5?12行参照)
〔か〕「【0025】ところで、補機プーリ4にかかるベルト張力などの荷重は、軸受装置7の転がり軸受要素によって受けられ、一方向クラッチ12に対してほとんど作用しないようになっている。そして、一方向クラッチ12は、そのくさび状空間のカム面となる凹部8aがローラ16の配置位置よりも内径側に配置されていて、ローラ16がシェル状外輪14の円筒形の内周面により受けられているので、補機プーリ4と補機3の回転軸3aとが同期して高速回転している状態において、ローラ16が過大な回転遠心力を受けても、従来の一般的なローラ式の一方向クラッチのように、ロック状態からフリー状態にずれることがなくなる。そのため、補機プーリ4から補機3の回転軸3aへの動力伝達が確実に効率よく行われるとともに、ロック状態のローラ16が回転軸3aに対してすべらずに済むなど、一方向クラッチ12の異常発熱を回避できるようになる。」(4欄37行?5欄2行参照)
〔き〕「【0028】図5は実施例2のプーリ装置である。この実施例2は、上記実施例1と基本的にほぼ同じであるが、補機プーリ4を、板金製とせずに、JIS規格S45C材などの鋼材で形成しているとともに、この補機プーリ4を軸受装置7,7や一方向クラッチ12の外輪となるように構成している点が異なる。」(5欄9?14行参照)
〔く〕「【0030】図7は実施例4のプーリ装置である。この実施例4は、上記実施例2と類似するものであるが、軸方向中央に一方向クラッチ12を、その軸方向両側に軸受装置7,7を配設している点が異なる。」(5欄26?29行参照)
等の記載があり、併せて、特に、上記実施例4を示す【図7】を参照すると、刊行物1には、
“同心状に配設される内輪8及び補機プーリ4からなる外輪と、この内輪・外輪の間の環状空間に介装される一方向クラッチ12と、前記環状空間において一方向クラッチ12の両側に配置された転がり軸受装置7,7とを含むエンジン補機用プーリユニットであって、
前記内輪8は、一方向クラッチ12の内輪として用いられるとともにその外周面に凹部8aからなるカム面が形成され、
前記転がり軸受装置7,7のうちの一方は、転がり軸受装置7の内輪が前記一方向クラッチ12の内輪8とは別体である、
エンジン補機用プーリユニット”
の発明が記載されていると認められる。

(2)刊行物2
〔け〕「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般には、クラッチに係わり、特に、一方向のみの相対回転を許容するクラッチに関する。」(1欄37?40行参照)
〔こ〕「【0007】外側部品Aは、円筒状の内面4を有する管状のハウジング2を備えている(図1)。……内側部品Bは、その端部に中空のシャフト10を備えている。シャフト10はハウジング2の中空内部へ突出している。シャフト10は、外側に設けられた2つの軸受シート12と、2つのシート12の間に設けられた隆起摩擦面14を備えている。実際には、各シート12はショルダー部16で端部となり、摩擦面14は2つのショルダー部16の間に配置されている。」(3欄22?31行参照)
〔さ〕「【0008】ハウジング2の内部に位置する2つの減摩軸受20(図1)により、ハウジング2がシャフト10に対して回転し、あるいは、シャフト10がハウジング2に対して回転する。各減摩軸受20は、インナレース22、アウタレース24、及び、インナレース22とアウタレース24との間に設けられ、これらレース22及び24のレース面に沿って転がる転がり部材26を備えている。……軸受20のインナレース22は、シャフト10のシート12の周りに、シート12の端部のショルダー部16に向けて嵌着されている。」(3欄35?49行参照)
〔し〕「【0009】……一方向の回転を禁止しつつ、他方向の回転を許容する能力は、ハウジング2内のシャフト10の隆起面14の周りに設けられたクラッチ組立体34(図1?図3)によるものである。実際には、隆起面14はクラッチ組立体34の一部を構成している。クラッチ組立体34は、ハウジング2に嵌入された環状リテーナ36、リテーナ36と軸受20との間に嵌入された端部リング38、及び、リテーナ36の内部に遊嵌され、端部リング38により軸方向に拘束されたローラ40をも備えている。クラッチ組立体34は、リテーナ36に嵌入された小さなピストン42、及び、ピストン42をローラ40に向けて付勢するバネ44を更に備えている。」(4欄15?29行参照)
〔す〕「【0010】……リテーナ36はハウジング2にきっちりと嵌入されている。外面46には、ハウジング2のキー溝8と位置合わせされたキー溝50が設けられている。位置合わせされたキー溝8及び50は、リテーナ36がハウジング2に対して相対回転するのを防止するキー52を受容している。リテーナ36は、シャフト10の隆起摩擦面14を囲んでいる。リテーナ36は、シャフト10の隆起面14よりも僅かに大きい、面14と同心の略円筒状の内面54を有している。内面54は連続的ではなく、リテーナ36の一端から他端に軸方向に延びるローラポケット56(図2)により中断されている。その名前が示唆する如く、ローラポケット56はローラ40を受容している。」(4欄30?45行参照)
〔せ〕「【0011】各ポケット56は、湾曲面58により部分的に画成されている(図3)。湾曲面58は、シャフト10の円筒状摩擦面14に向けて設けられており、摩擦面14に関して僅かに収束している。従って、湾曲面58は摩擦面14に対して斜めに配置され、ポケット56は大領域と小領域とを有している。ポケット56のローラ40はポケット56の大領域に緩く嵌まっているが、小領域に嵌まることはない。このため、ローラ40は、傾斜湾曲面58とシャフト10の円筒摩擦面14との間の、ポケット56の小領域と大領域との間の何処かに支えることになる。」(4欄50行?5欄10行参照)
〔そ〕「【0014】動作中には、外側部品Aが内側部品Bの周りを、あるいは、内側部品Bが外側部品Aの内部で、ローラ40をローラポケット56の大領域に向けて引張ろうとする方向に回転する。この場合にも、ローラ40は、ポケット56の湾曲面58及び円筒摩擦面14と、これらの間に支えてはいないものの、スプリング44の付勢力により係合し続ける。この付勢力はローラ40の両端部近傍に付与されるので、ローラ40をポケット56の大領域内へ引き込もうとするにもかかわらず、ローラ40が傾くことはない。しかし、相対回転の方向が反転されると、ローラ40は、対応するポケット56の傾斜湾曲面58と、シャフト10の円筒摩擦面14との間に堅く支えるようになる。これにより、部品Aと部品Bとが互いにロックされ、トルクが一方から他方へ伝達される。」(6欄2?16行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物2には、
“同心状に配設されるシャフト10からなる内側部品Bとハウジング2からなる外側部品Aの内外2つの環状部品と、両環状部品の間の環状空間に介装される一方向の回転を禁止しつつ、他方向の回転を許容するクラッチ組立体34と、前記環状空間においてクラッチ組立体34の両側に設けられる転がり部材26を備えた軸受20とを含むクラッチであって、
前記内側部品Bのシャフト10は径方向外方へ隆起する隆起部を備え、
前記シャフト10の前記隆起部は、クラッチ組立体34の内輪として用いられる円筒摩擦面14が形成され、
前記軸受20のインナレース22は前記クラッチ組立体34の内輪とは別体であり、
前記シャフト10の前記隆起部は前記軸受20が配置されるシート12より径が大であり、
前記ハウジング2の内周面に嵌入されたリテーナ36に、前記円筒摩擦面14に対して斜めに配置された湾曲面58を有するポケット56が形成されると共に、該ポケット56内にローラ40が収容されたクラッチ」
が記載されていると認められる。

3.対比・判断
(1)本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、機能上、後者の「内輪8及び補機プーリ4からなる外輪」が前者の「内外2つの環体」に対応し、以下同様に、後者の「内輪8」が前者の「内側環体」に、後者の「一方向クラッチ12」が前者の「一方向クラッチ」に、後者の「転がり軸受装置7,7」が前者の「転がり軸受」に、後者の「凹部8a」は前者の「カム面」に、それぞれ、対応すると認められる。
したがって、両者は、
「同心状に配設される内外2つの環体と、両環体の間の環状空間に介装される一方向クラッチと、前記環状空間において一方向クラッチの両側に設けられる転がり軸受とを含むエンジン補機用プーリユニットであって、
前記内側環体は、一方向クラッチの内輪として用いられるとともにその外周面にカム面が形成された、
エンジン補機用プーリユニット」
で一致し、次の点で相違すると認められる。
[相違点A]
本願補正発明では、前記「内側環体」が「径方向外方へ膨出する膨出部を備え」、「前記膨出部は、一方向クラッチの内輪として用いられ」、また、「前記膨出部は前記転がり軸受の配置部より径が大であり」、前記「転がり軸受」が「内輪は前記一方向クラッチの内輪とは別体」であるのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「内側環体」が膨出部を備えておらず、一側の「転がり軸受」の内輪は、前記一方向クラッチの内輪とは別体に構成されていない点。
[相違点B]
本願補正発明では、一方向クラッチの内輪の外周面の前記「カム面」が「平坦なキー状のカム面」であるのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「カム面」が凹部8aである点。
[相違点C]
本願補正発明では、前記「カム面」が「膨出部の軸方向全長にわたって形成されている」のに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「カム面」がこのようなものでない点。

(2)次に、上記相違点について検討する。
(2-1)相違点Aについて
上記刊行物2には、前述のとおり「同心状に配設される内側部品Bと外側部品Aの内外2つの環状部品と、両環状部品の間の環状空間に介装される一方向の回転を禁止しつつ、他方向の回転を許容するクラッチ組立体34と、前記環状空間においてクラッチ組立体34の両側に設けられる転がり部材26を備えた軸受20とを含むクラッチ」が記載されており、上記刊行物2に記載された「クラッチ」と上記刊行物1に記載された発明における「エンジン補機用プーリユニット」とは、転がり軸受を介して内外2つの環体が相対回転可能に支持されて、両環体の間で一方向の回転運動が伝達され他方向の回転運動が遮断される一方向クラッチの作用機能をもつ点で共通するから、上記刊行物2に記載された「クラッチ」の構成を上記刊行物1に記載された発明の「エンジン補機用プーリユニット」に適用することの着想は、当業者にとって容易である。
そして、作用機能上、上記刊行物2に記載された「クラッチ」の「内側部品B」が上記刊行物1に記載された発明の「内輪8」に対応し、上記刊行物2に記載された「クラッチ」の「外側部品A」が上記刊行物1に記載された発明の「外輪」に対応し、また、上記刊行物2に記載された「クラッチ」の「軸受20」が上記刊行物1に記載された発明の「軸受装置7,7」に対応するものと認められる。
上記刊行物2に記載された「クラッチ」は、「内側部品Bのシャフト10が径方向外方へ隆起する隆起部を備え」、前記シャフト10の「前記隆起部は、一方向の回転を禁止しつつ他方向の回転を許容するクラッチ組立体34の内輪として用いられ」、また、「前記隆起部は前記軸受20が配置されるシート12より径が大であり」、「前記軸受20のインナレース22は前記クラッチ組立体34の内輪とは別体である」構成をもつから、上記刊行物1に記載された発明において、前記「内側環体」が「径方向外方へ膨出する膨出部を備え」、「前記膨出部は、一方向クラッチの内輪として用いられ」、また、「前記膨出部は前記転がり軸受の配置部より径が大であり」、前記「転がり軸受」が「内輪は前記一方向クラッチの内輪とは別体」である構成とすることは、上記刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得る事項というべきである。

(2-2)相違点Bについて
一方向クラッチの内輪の外周面のカム面を「平坦なキー状のカム面」とすることは、本願出願前周知慣用のことと認められる(例えば、実公昭46-21287号公報、特開平3-249435号公報の第1図、特開平5-149353号公報の図3、特開平9-202153号公報、等参照)から、上記刊行物1に記載された発明において、一方向クラッチの内輪の外周面のカム面を「平坦なキー状のカム面」とすることは、本願出願前周知慣用の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(2-3)相違点Cについて
一方向クラッチの内輪の「カム面」を「膨出部の軸方向全長にわたって形成する」ことも、本願出願前周知のことと認められる(例えば、前記実公昭46-21287号公報、実願昭59-146258号(実開昭61-59875号)のマイクロフィルム、特開平9-202153号公報、等参照)から、上記刊行物1に記載された発明において、一方向クラッチの内輪の「カム面」を「膨出部の軸方向全長にわたって形成する」ことは、本願出願前周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)請求人の主張について
(3-1)請求人は、審判請求書の手続補正書において、本願発明について、
i)「一方向クラッチのカム面を形成する領域に相当する箇所を拡径された内側環体の膨出部とし、その膨出部によって、転がり軸受(内輪)が軸方向で位置決めされる」.
ii)「内側環体膨出部の軸方向全長にわたってカム面が形成されるため、引き抜き加工等によるカム面加工が容易にできる」.
iii)「刊行物2に記載のものでは、その一方向クラッチの内輪軌道部位がカム面でないとともに、軸方向両側箇所で面取りされており、カム面がその膨出部の軸方向全長にわたって形成されるものでない」.
等を主張する。
(3-2)しかしながら、
i)本願補正発明は、一方向クラッチの両側に転がり軸受が設けられることが特定されているのみで、内側環体膨出部によって転がり軸受が位置決めされることは、本願補正発明を特定する事項とされていないし、このような内側環体膨出部によって転がり軸受が位置決めされる構成は、例えば、上記刊行物2の【図1】、上記例示の実願昭59-146258号(実開昭61-59875号)のマイクロフィルム(第1図)、実公昭46-21287号公報(第1図)、等にも示されるように、本願出願前周知の事項に過ぎない。
ii)上記例示の実公昭46-21287号公報、実願昭59-146258号(実開昭61-59875号)のマイクロフィルム、特開平9-202153号公報等に記載されたものも、外周面に膨出部の軸方向全長にわたってカム面が形成されるものであるから、引き抜き加工等によるカム面加工が容易にできることが予測できる。
iii)刊行物2を引用した趣旨は、上記相違点Aに対する検討で示したとおり、内側環体に軸受けの配置部より大径の膨出部を設けるとともに、軸受けの内輪を一方向クラッチの内輪とは別体にする点に対してであるところ、一方向クラッチのカム面を内側環体側に設けることは刊行物1に示されているし、刊行物2がカム面を外側環体側に設けているからといって、両者の適用が阻害されるというものでもない。また、膨出部の全長にカム面を設けることは、上述のとおり周知である。

(4)このように、本願補正発明は、その発明を特定する事項が、上記刊行物1、2に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、作用効果も、上記刊行物1、2に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。
したがって、本願補正発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【三】本願発明について
1.本願発明
平成17年7月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年4月28日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 同心状に配設される内外2つの環体と、両環体の間の環状空間に介装される一方向クラッチと、前記環状空間において一方向クラッチの両側に設けられる転がり軸受とを含むエンジン補機用プーリユニットであって、
前記内側環体が、一方向クラッチの内輪として用いられるとともにその外周面に平坦なキー状のカム面が形成されている、ことを特徴とするエンジン補機用プーリユニット。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である前記「特開平9-229097号公報」(以下同様に「刊行物1」という。)には、前記「【二】平成17年7月28日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.引用例」に記載したとおりの事項が記載されているものと認める。

3.対比・判断
本願発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、機能上、後者の「内輪8及び補機プーリ4からなる外輪」が前者の「内外2つの環体」に相当し、以下同様に、後者の「内輪8」が前者の「内側環体」に、後者の「一方向クラッチ12」が前者の「一方向クラッチ」に、後者の「転がり軸受装置7,7」が前者の「転がり軸受」に、後者の「凹部8a」は前者の「カム面」に、それぞれ、相当すると認められる。
したがって、両者は、
「同心状に配設される内外2つの環体と、両環体の間の環状空間に介装される一方向クラッチと、前記環状空間において一方向クラッチの両側に設けられる転がり軸受とを含むエンジン補機用プーリユニットであって、
前記内側環体が、一方向クラッチの内輪として用いられるとともにその外周面にカム面が形成されているエンジン補機用プーリユニット」
で一致し、次の点で相違すると認められる。
[相違点]
本願発明は、一方向クラッチの内輪の外周面の前記「カム面」が「平坦なキー状のカム面」であるのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「カム面」が凹部8aである点
しかしながら、「【二】平成17年7月28日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」の「(2-2)相違点Bについて」で論じた理由と同様の理由により、一方向クラッチの内輪の外周面のカム面を「平坦なキー状のカム面」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
本願発明は、その発明を特定する事項が、上記刊行物1に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、作用効果も、上記刊行物1に記載された事項及び本願出願前周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-30 
結審通知日 2007-06-05 
審決日 2007-06-18 
出願番号 特願平10-80997
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
P 1 8・ 575- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谿花 正由輝高山 芳之  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 岩谷 一臣
町田 隆志
発明の名称 エンジン補機用プーリユニット  
代理人 岡田 和秀  

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