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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A23K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1161899
審判番号 不服2005-13923  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-21 
確定日 2007-07-26 
事件の表示 平成10年特許願第545416号「魚介類の感染症予防・治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月 1日国際公開、WO98/42204〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年3月18日(優先権主張1997年3月21日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成17年6月10日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年7月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに平成17年8月22日に手続補正がなされたものである。

2.平成17年8月22日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年8月22日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正事項
本件手続補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定により、願書に添付した明細書を補正するものであって、その補正事項は、特許請求の範囲の請求項1を、以下のように補正することを含むものである。
「【請求項1】 硫酸化多糖類を有効成分とする魚介類のウィルス感染症治療剤。」
(2)補正の適否
上記補正事項における、「魚介類のウィルス感染症治療剤」という事項に関して、請求人は、審判請求書の「【本願発明が特許されるべき理由】 (2)補正の根拠の明示」において、
「平成17年8月22日付けの手続き補正書における請求項1の「ウィルス感染症予防・治療剤」を「ウィルス感染症治療剤」とする補正は、ご指摘の「ウィルス感染症を予防する」を削除したもので、出願当初の明細書「硫酸化多糖類が、ウィルス・・・・による魚介類の感染症の・・治療に有効である」(第2頁11?12行)との記載に基づきます。また、他の請求項及び明細書の発明の詳細な説明中の補正は、前記請求項1の補正と整合性を図ったものであります。」と主張している。
しかしながら、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)には、魚介類のウイルス等による「感染症予防・治療剤」について記載されているが、「感染症治療剤」については記載されていない。
すなわち、【発明の詳細な説明】には、
「本発明の目的は、ウィルス、病原性細菌、寄生虫の感染に対して予防・治療効果を有する安全な物質を提供し、養殖場における魚介類の生存率を改善することにある。」(【発明の詳細な説明】2頁13?15行)、
「硫酸化多糖類が、ウィルス、病原性細菌による魚介類の感染症の予防・治療に有効であることを見出し、本発明を完成した。」(【発明の詳細な説明】 2頁 17?19行)と記載され、、実施例はいづれも、フコイダンを含む飼料の給餌を開始した後に病原となるウィルスを接種するものであり、その結果、魚介類の生存率の(比較例に対する)向上が見られることが示されている。
これらの記載によれば、当初明細書においては、硫酸化多糖類を投与した後に、ウィルスを感染させた場合の生存率の向上を「予防・治療効果」とし、このような作用効果を有するものを「感染症予防・治療剤」としているものである。
一方、「治療」とは、通常、発症した病気を治癒させることを意味しているが、硫酸化多糖類(フコイダン)が発症した病気を治癒させる作用を有すること、すなわち「治療剤」としての作用を有することは記載されていなし、当初明細書の上記記載から、このような作用のあることが自明であるとすることもできない。
そうすると、「ウィルス感染症治療剤」は、当初明細書に記載されていない事項を含むものであるから、本件手続補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものではない。

(3)まとめ
したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

3.本願発明について
平成17年8月22日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成17年5月10日付の手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項3に係る発明は、以下のとおりのものである。
「硫酸化多糖類を含有することを特徴とする魚介類のウイルス感染予防・治療用の養殖用飼料。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特公平7-108858号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「魚類の感染症の予防用薬剤」に関して、以下の事項が記載されている。
(イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】 フクロノリ、ハバノリ、イワヒゲ、ワカメ、アラメ、ミツイシコンブ、カジメ、マコンブ、ジョロモク、ヒジキ、アキヨレモク、フシスジモク、アカモク、ヤナギモク、ヨレモク、ウミトラノオ、ベンデアマノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オニアマノリ、イソウメモドキ、ハナフノリ、フクロフノリ、マツノリ、ツノマタ、イバラノリ、アミクサ、ショウジョウケノリから選ばれた海藻から水抽出される成分を含有することを特徴とする魚類の感染症の予防用薬剤。
【請求項2】 水抽出が温度 0?20℃で行われたものである請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】 水抽出が温度70℃以上で行われたものである請求項1に記載の薬剤。」
(ロ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は魚類の感染症の予防用薬剤に関し、詳しくは、連鎖球菌(Streptococcus) 、類結節菌 (Pasteurella)、エドワジェラ菌 (Edwardsiella) 等の細菌に起因する魚類の感染症による斃死を軽減する薬剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】魚類の養殖場では、頻発する細菌感染症への対応策として抗生物質や合成抗菌剤が多用されている。しかしながら、これらの薬剤は耐性菌の出現や細菌の多剤耐性菌化によって効力を失うだけでなく、養殖魚類の肉中に抗菌剤が残存するため食品衛生上問題となっている。従って、これらの薬剤を使用せずに、細菌感染症による斃死を軽減する方法が強く求められている。
【0003】近年、予防的に感染を防御する方法として、ビタミンC 、ビタミンE 、パントテン酸、塩化コリン等の各種のビタミン類を大量投与する方法が提案されており〔日本水産学会誌、54 (1)、 141?144 (1988)等〕、ある程度の効果が認められるものの十分ではなく、また、積極的に感染を防御するものではない。
【0004】また、免疫増強活性に基づく魚病の予防・治療剤としてFK-565(特開昭63-233923 号公報)、特定の生薬やその抽出エキス(特開昭64-75426号公報等)、さらに、真菌類や酵母由来のβ- 1,3-グルカン構造を有する多糖類が魚類の感染症に有効であるとする例が報告されている(特開平2-218615号公報)。
【0005】一方、海藻多糖類については、哺乳動物の腫傷に効果を示す例が知られている(食品と開発、 Vol.25, No.3, 32?38, 1990)が、魚類の細菌感染症について有効かどうかの報告例はない。」
(ハ)「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の抗生物質や合成抗菌剤による問題点を解決し、抗性物質や合成抗菌剤の効力に劣らず、また、魚類を安全な食品として利用できる、魚類の感染症の予防用薬剤を提供せんとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、魚類が有している抗菌力、免疫力を強化することに着目し、鋭意研究した結果、海藻類のうち褐藻類及び紅藻類から選ばれた海藻の抽出物が魚類の感染症を予防する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち、本発明は、フクロノリ、ハバノリ、イワヒゲ、ワカメ、アラメ、カジメ、ミツイシコンブ、マコンブ、ジョロモク、ヒジキ、アキヨレモク、フシスジモク、アカモク、ヤナギモク、ヨレモク、ウミトラノオ、ベンデアマノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オニアマノリ、イソウモドキ、ハナフノリ、フクロフノリ、マツノリ、ツノマタ、イバラノリ、アミクサ、ショウジョウケノリから選ばれた海藻から水抽出される成分を含有する、魚類を安全な食品として利用できる、魚類の感染症の予防に有効な薬剤を提供するものである。
【0009】(海藻)本発明に用いられる海藻は褐藻類及び紅藻類から選ばれる。具体的には、褐藻類の中の、フクロノリ、ハバノリ、イワヒゲ、ワカメ、アラメ、カジメ、ミツイシコンブ、マコンブ、ジョロモク、ヒジキ、アキヨレモク、フシスジモク、アカモク、ヤナギモク、ヨレモク、ウミトラノオ、及び紅藻類の中の、ベンデアマノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オニアマノリ、イソウメモドキ、ハナフノリ、フクロフノリ、マツノリ、ツノマタ、イバラノリ、アミクサ、ショウジョウケノリである。
【0010】同じ海藻類でも、ウスバアオノリ、アナアオサ等の緑藻類からの水抽出成分は効果は殆どなく、また、褐藻類及び紅藻類であっても、例えば、イロロ、シワノカワ、チガイソ、スジメ、ガゴメ、タマハハキモク、ナラサモ、ヤツマタモク等の褐藻類や、ピリヒバ、ムカデノリ、オゴノリ、カバノリ、ユカリ、ミツデソゾ等の紅藻類からの水抽出成分は、殆ど効果がない。
【0011】上記の本発明に用いられる海藻の中で、特にイワヒゲ、ワカメ(成実葉)、マコンブ、アキヨレモク、フシスジモク、スサビノリ、フクロフノリ、マツノリ、ツノマタ、イバラノリ、ショウジョウケノリが、比較的入手が容易であり、また、効果の点でも優れており好ましい。」
(ニ)「【0012】(水抽出)本発明の薬剤は、上記の特定の褐藻類及び紅藻類から水抽出される成分を含有するものである。
【0013】水抽出は、一般に、乾燥した海藻 100重量部に対して 1?100 l、好ましくは5?10lの水を用い、これに海藻を浸漬し、そのままあるいは70℃以上に加熱して抽出する。
【0014】抽出温度には特に限定はないが、冷水抽出では、一般に 0?20℃の水で 1?48時間、好ましくは12?24時間浸漬するのがよい。この際攪拌等により抽出を助けることが好ましい。なお、温度が20℃を超える温水では、長時間の浸漬の間に海藻が腐敗することがあるので好ましくない。一方、熱水抽出の場合には、一般に70℃以上、好ましくは90℃?沸騰状態の水に乾燥海藻の粉末を加え、 1?12時間、好ましくは 3?5 時間抽出する。
【0015】水抽出の終了後、遠心分離によって残渣を除去し、水層を凍結乾燥することにより抽出物を粉状又は繊維状の固形物として得ることができる。固形物の収率は、用いた海藻の種類、抽出条件により異なるが、通常10?45%である。
【0016】抽出物の成分は明らかではないが、フコイダン等の海藻多糖類を含み、熱水抽出の場合は、硫酸基を有するもの等、一部分解・変性されている可能性がある。」
(ホ)「【0017】(使用方法)本発明の薬剤が適用される魚類及びその感染症としては、例えば、ブリ、マダイ、フグ、ヒラメ、ハタ、ギンザケ、ニジマス、ウナギ、コイ、アユ、ティラピア等のビブリオ症(Vibrio anguillarum)、エドワジェラ症(Edwardsiella tarda)、類結節症(Pasteurella piscicida)、連鎖球菌症(Streptococcus sp. )、ノカルジア症(Nocardia campachi )、滑走細菌症(Flexibacter sp. )、エロモナス症(Aeromonas hydrophila, Aeromonas salmonicida )等の細菌感染症が挙げられる。
【0018】本発明の薬剤は、魚類に経口投与、腹腔内投与する方法、筋肉内投与する方法の他、本発明の薬剤の水溶液中に魚類を浸漬する等の方法で用いられる。
【0019】経口投与の場合は、通常、本発明の海藻抽出物を、例えば、通常のペレット飼料中に 0.001?10%、好ましくは0.01?5 %程度含有させた飼料として投与する。
【0020】腹腔内投与あるいは筋肉内投与する場合には、通常、本発明の海藻抽出物を、滅菌生理食塩水に溶解した水溶液として用いる。この場合、完全に溶解せず一部懸濁状であってもそのまま使用できる。
【0021】腹腔内投与の場合は、例えば 0.1?10%、好ましくは 0.5?1.0 %の水溶液として腹腔内に注射することにより、また、筋肉内投与の場合は 1?10%、好ましくは 5?10%の水溶液として筋肉に注射することにより投与する。投与量は、腹腔内、筋肉内投与のいずれの場合も、一般に海藻抽出物 1?200 mg/kg 魚体重、好ましくは、10?50 mg/kg魚体重である。
【0022】薬剤水溶液中に魚類を浸漬する場合は、通常、海藻抽出物を 0.001?1 %、好ましくは0.01?0.5 %含有させた淡水または海水中に、 1分?2 時間、好ましくは10分?1 時間浸漬する短時間浸漬と、同淡水または海水中に 3?7 日間連続して浸漬する長時間浸漬とがある。」
(ヘ)「【0023】【実施例】以下実施例により本発明を詳細に説明する。
【0024】実施例1、比較例1
(海藻抽出物の調製)1991年 3月30日? 4月19日に福岡県津屋崎町の海岸において表1に示す海藻を採取し、それぞれ一晩風乾した後、凍結乾燥した。乾燥海藻各100 g に対し5 lの水を加え、95℃の水に 3時間静置浸漬した後、遠心分離して海藻抽出液を得た。得られた抽出液をフリーズドライヤーを用いて凍結乾燥し、海藻抽出物12?45gを得た。
【0025】(コイに対する感染防御効果)各海藻抽出物について、1991年 5月22日と 6月24日に、八代の杉島養魚場から購入したコイ(平均体重25.6±3.9 g )各 5尾を用い、0.8 %生理食塩水100 ml当りに上記の海藻抽出物1gを溶解した海藻抽出物水溶液を、魚体重1 kg当り50 mg (海藻抽出物乾燥重量)の割合で、 2日おきに 2回腹腔内投与した。なお、対照魚には、同量の生理食塩水を腹腔内投与した。
【0026】最終投与から 3日目にEdwardsiella tarda NG8104 (3 ×107 CFU/100g)を腹腔内に接種した。菌攻撃から 7日目の生残率を表1に示す。
【0027】
【表1】
海藻名 生残率 (%)
────────────────
実施例
(褐藻類)
フクロノリ 80
ハバノリ 60
イワヒゲ 80
ワカメ(成実葉) 100
アラメ 60
カジメ 80
ミツイシコンブ 80
マコンブ 80
ジョロモク 80
ヒジキ 60
アキヨレモク 100
フシスジモク 80
アカモク 80
ヤナギモク 60
ヨレモク 60
ウミトラノオ 60
【0028】
(紅藻類)
ベンデアマノリ 80
アサクサノリ 60
スサビノリ 80
オニアマノリ 60
イソウメモドキ 100
ハナフノリ 100
フクロフノリ 100
マツノリ 80
ツノマタ 100
イバラノリ 100
アミクサ 60
ショウジョウケノリ 60
【0029】比較例
(褐藻類)
イロロ 20
シワノカワ 20
チガイ 0
スジメ 0
カゴメ 20
タマハハキモク 20
ナラサモ 0
ヤツマタモク 20
【0030】
(紅藻類)
ピリヒバ 0
ムカデノリ 20
オゴノリ 0
カバノリ 20
ユカリ 0
ミツデソゾ 20
【0031】
(緑藻類)
ウスバアオノリ 20
アナアオサ 20
【0032】なお、生理食塩水のみを腹腔内投与した対照魚の生残率は20%であった。」
(ト)「【0033】実施例2
表2に示す各海藻抽出物について、1991年 7月30日三菱油化(株)養魚場のブリ(平均体重77.1±18.6g )各10尾を用い、実施例 1と同様にして、魚体重 1kg当り50mg(海藻抽出物乾燥重量)の割合で、海藻抽出物水溶液を 2日おきに 2回腹腔内投与した。なお、対照魚には同量の生理食塩水のみを投与した。
【0034】最終投与から 3日目にStreptococcus sp. (1 ×106 CFU/100g)を腹腔内に接種した。菌攻撃から 7日目の生残率を表2に示す。
【0035】
【表2】
海藻名 生残率 (%)
─────────────────
(褐藻類)
イワヒゲ 100
ワカメ(成実葉) 90
ミツイシコンブ 100
マコンブ 60
アキヨレモク 90
フシスジモク 100
【0036】
(紅藻類)
スサビノリ 100
フクロフノリ 100
マツノリ 70
ツノマタ 40
イバラノリ 80
ショウジョウケノリ 80
【0037】なお、生理食塩水のみを腹腔内投与した対照魚の生残率は20%であった。」
(チ)「【0038】実施例3
表3に示す各海藻抽出物について、1991年 7月10日三菱油化(株)養魚場のブリ稚魚(平均体重45±5 g )各10尾を用い、魚体重1 kg当り100 mg(海藻抽出物乾燥重量)の割合で、海藻抽出物 1重量%を含む三菱油化(株)製ブリ用ペレット飼料を用い、10日間経口投与した。
【0039】最終投与から 3日目にStreptococcus sp. ( 1×105 CFU/100g)を腹腔内に接種した。菌攻撃から 7日目の生残率を表3に示す。
【0040】
【表3】
海藻名 生残率 (%)
────────────────
(褐藻類)
ワカメ 80
ワカメ(成実葉) 100
アラメ 80
マコンブ 70
マコンブ(葉体下部) 90
アキヨレモク 100
【0041】
(紅藻類)
スサビノリ 100
フクロフノリ 100
【0042】なお、海藻抽出物を含まないブリ用ペレット飼料を用いた対照魚の場合の生残率は40%であった。
【0043】実施例4
表4に示す各海藻抽出物について、1991年 7月10日三菱油化(株)養魚場のブリ稚魚(平均体重45±5 g)各10尾を用い、各海藻抽出物を 0.1%含有する海水を満たした120 l の養魚水槽中に供試魚を 3日間収容した後、Streptococcus sp. ( 1×105 CFU/100g)を腹腔内に接種して再び水層に戻した。菌攻撃から 7日目の生残率を表4に示す。
【0044】
【表4】
海藻名 生残率 (%)
────────────────
(褐藻類)
ワカメ 70
ワカメ(成実葉) 80
アラメ 40
マコンブ 40
マコンブ(葉体下部) 60
アキヨレモク 80
【0045】
(紅藻類)
スサビノリ 70
フクロフノリ 90
【0045】なお、海藻抽出物を含まない海水で同様に処理した対照魚の生残率は30%であった。」
(リ)「【0046】【発明の効果】本発明の薬剤を用いることにより、魚類の抗病力、免疫力が強化され、魚類の細菌感染症の予防が可能であり、且つ魚類をより安全な食品として利用することができる。また、魚類の治療用薬剤と併用して治療効果を向上させることも期待できる。」
上記(イ)?(リ)の記載事項、特に(ニ)【0016】、(ホ)【0019】および(チ)【0038】の記載事項によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「フコイダン等の海藻から抽出された硫酸基を有する海藻多糖類を含有する魚類の細菌感染症予防用の飼料。」(以下、「引用発明」という。)

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その原料となる藻類(海藻)の種類ないし抽出方法等からみて、引用発明の「フコイダン等の海藻から抽出された硫酸基を有する海藻多糖類」は、本願発明の「硫酸化多糖類」に相当する。
そして、引用発明の「飼料」は、引用文献1に発明の課題として、「【0002】【従来の技術】魚類の養殖場では、頻発する細菌感染症への対応策として抗生物質や合成抗菌剤が多用されている。しかしながら、これらの薬剤は耐性菌の出現や細菌の多剤耐性菌化によって効力を失うだけでなく、養殖魚類の肉中に抗菌剤が残存するため食品衛生上問題となっている。従って、これらの薬剤を使用せずに、細菌感染症による斃死を軽減する方法が強く求められている。」(上記3.(1)の(ロ)参照、下線部は当審が付与)と記載されていることから、「養殖用」として用いることができるものであることは明らかであるから、両者は、
「硫酸化多糖類を含有する魚介類の養殖用飼料。」である点で一致し、次の点で相違している。
[相違点]本願発明がウィルス感染症予防・治療用であるのに対して、引用発明は細菌感染症予防用である点。

(3)判断
[相違点について]
引用文献1には、「本発明者らは、魚類が有している抗菌力、免疫力を強化することに着目し、鋭意研究した結果、海藻類のうち褐藻類及び紅藻類から選ばれた海藻の抽出物が魚類の感染症を予防する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。」(上記3.(1)の(ハ)参照、下線部は当審が付与)、および「本発明の薬剤を用いることにより、魚類の抗病力、免疫力が強化され、魚類の細菌感染症の予防が可能であり、且つ魚類をより安全な食品として利用することができる。」(上記3.(1)の(リ)参照、下線部は当審が付与)と記載されていることから、引用文献1に開示されている海藻の抽出物である硫酸化多糖類は、魚類の抗菌力、抗病力、免疫力を強化する効果を有するものと認められる。そして、このような作用効果を有する物質を、ウイルス感染症に対しても同様の作用効果を期待して用いるようにすることは、当業者にとって想到容易な事項であるということができる。
また、上記「2.平成17年8月22日付の手続補正についての補正却下の決定 (2)検討」で説示したとおり、本願の当初明細書に記載された実施例はいずれも、フコイダンを含む飼料の給餌を開始した後に病原となるウィルスを接種するものであり、そこでみられる魚介類の生存率の(比較例に対する)向上を「予防・治療」効果と称しているのであって、このような作用効果を有するフコイダンを含む硫酸化多糖類の用途について、本願発明のように「感染症予防・治療用」と称するか、引用発明のように「感染症予防用」と称するかは、単に表現上の違いに過ぎないということができる。
してみると、引用発明の「細菌感染症予防用」を、相違点における本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができる事項であるということができる。
そして、本願発明の効果も引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-23 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-12 
出願番号 特願平10-545416
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23K)
P 1 8・ 55- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 宮川 哲伸
山口 由木
発明の名称 魚介類の感染症治療剤  
代理人 有賀 三幸  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 高野 登志雄  
代理人 有賀 三幸  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中嶋 俊夫  

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