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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F16B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1161983
審判番号 不服2003-13726  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-17 
確定日 2007-08-10 
事件の表示 特願2001-131499「ボルト」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月31日出願公開、特開2002-213425〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】 手続の経緯
本願は、平成13年4月27日の出願(優先権主張平成12年11月14日)であって、平成15年6月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで特許法(平成14年法律第24号による改正前の特許法。以下、同じ。)第17条の2第1項第3号に掲げる場合に該当する明細書についての手続補正がなされたものである。

【二】平成15年7月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月17日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正内容
本件補正は、特許請求の範囲については、
「 【請求項1】軸部に設けたねじ部の完全ねじ山の始端部に、該軸部の軸に対して軸部端末側に60°の角度で切り欠き形状を設けてねじ部入口巾を拡大したことを特徴とするボルト。
【請求項2】該拡大されたねじ部入口において、ねじ部は始端から50°回転位置までの範囲で完全ねじ山の高さまで立上っている請求項1に記載のボルト。
【請求項3】該拡大された入口の巾はねじ部ピッチよりも大きく、ねじ部ピッチの1.5倍よりも小さく設定されている請求項1または2に記載のボルト。
【請求項4】該軸部の先端からは案内ボス部が差出されている請求項1?3に記載のボルト。
【請求項5】該案内ボス部には該ねじ部の谷底に連続し、該ねじ部のねじ谷のピッチと同一のピッチを有する螺旋状の案内溝が形成されており、該案内溝は該案内溝の両端部以外該ねじ部の谷底よりも深く形成されている請求項4に記載のボルト。」
を、
「 【請求項1】軸部に設けたねじ部の完全ねじ山の始端部に、該軸部の軸に対して軸部端末側に60°?80°の角度で切り欠き形状を設けてねじ部入口巾を拡大したことを特徴とするボルト。
【請求項2】該拡大されたねじ部入口において、ねじ部は始端から50°回転位置までの範囲で完全ねじ山の高さまで立上っている請求項1に記載のボルト。
【請求項3】該拡大された入口の巾はねじ部ピッチよりも大きく、ねじ部ピッチの1.5倍よりも小さく設定されている請求項1または2に記載のボルト。
【請求項4】該軸部の先端からは案内ボス部が差出されている請求項1?3に記載のボルト。
【請求項5】該案内ボス部には該ねじ部の谷底に連続し、該ねじ部のねじ谷のピッチと同一のピッチを有する螺旋状の案内溝が形成されており、該案内溝は該案内溝の両端部以外該ねじ部の谷底よりも深く形成されている請求項4に記載のボルト。」
と補正するものと認める。(下線は、補正箇所を示すために当審で附したものである。)

2.補正の目的について
本件補正における上記特許請求の範囲についての補正が、特許法第17条の2第4項第1?4号に掲げる事項を目的とするものか(同法同条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)特許請求の範囲についての上記補正は、請求項1において、「切り欠き形状」の「角度」についての選択範囲を「60°」(補正前)から「60°?80°」(補正後)に補正しているから、前記「角度」の選択範囲を拡張しているものと認められるので、特許法17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとは認められない。

(2)また、上記「角度」についての選択範囲を「60°」から「60°?80°」にする補正は、請求項を削除するもの、又は誤記を訂正するもの、又は明りょうでない記載を釈明するものとも認められない。

(3)したがって、上記補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」、同第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、同第3号に掲げる「誤記の訂正」、同第4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【三】本願発明について
1.本願発明
平成15年7月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成15年1月9日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】軸部に設けたねじ部の完全ねじ山の始端部に、該軸部の軸に対して軸部端末側に60°の角度で切り欠き形状を設けてねじ部入口巾を拡大したことを特徴とするボルト。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物「特開平7-98009号公報」(以下、「刊行物1」という。)及び「特開平11-257324号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ、次の事項が記載されていると認める。

(1)刊行物1
〔あ〕「この発明は全般的に締結装置部品を遠隔から係合させること、更に具体的に云えば、改良された整合及び係合の特徴を持つ締結装置に関する。」(段落【0001】参照)
〔い〕「整合外れ又は交差螺合によってねじ山を損傷することなく、最初にボルトをナットに一層正確に結合する為に、この他の形のボルトの前側端部も従来知られている。然し、従来の形式は、水中でのかなりの距離の所で係合させる様に、BWRの環境内で要求される様な遠隔ロボット又は操作装置を用いて組立てる時、その有効性が変わるし、その能力も変化する。」(段落【0003】(2欄5?12行)参照)
〔う〕「図4は、この発明の1実施例による前側端部18aに隣接するボルト10及びねじ山14の形を更に詳しく示している。ねじ山自体は大径の所に山の頂14aを持ち、それが普通の歯形断面形状で1対の前側及び後側フランク14b,14cを一体に結合し、隣合ったフランクが小径の所で谷底14dを構成している。この形は図示の様に三角形であってもよいし、又は例えば四角又はアクメの様な他の普通の形であってもよい。山の頂14aは中心線22aの周りをボルト本体18に沿ってつる巻状に伸び、本体18の周りを円周方向に又はつる巻状に、且つ本体の中心線22aに対して斜めに、そして図4で見て本体に対して略垂直に伸びる山の頂の縦軸線又はつる巻軸線24aを定めている。図示の様に、前側フランク14bは前向きすなわち本体の前側端部18の方を向き、後側フランク14cは後向きすなわち前側端部から遠ざかる向きで、本体の後側端部18bの方を向いている(図1参照)。」(段落【0009】(3欄4?20行)参照)
〔え〕「例えば遠隔操作装置を用いて、ボルト10及びナット12を水中で係合させる能力を改善する為、図4に示す様に、この発明ではボルトのねじ山14は、相手のナットのねじ山16の相補形の始端26bと最初に係合する様に(図3参照)、本体の前側端部18aに隣接して配置された始端26aを持っている。ボルトの始端26aは、更に詳しく図4及び5に示されているように、前側フランク14bから後側フランク14cまで完全に平坦であると共に、山の頂のつる巻軸線24aに対して鋭角のバックアングルB1で面取りされ又は傾斜していて、ボルトの前側端部18aから遠ざかる向き、すなわちボルトの後側端部18bの方を向くようにすることが好ましい。例えば図4及び5に示す様に、ボルトの始端26aは、本体18及びその中心線22aから半径方向に遠ざかる向きで、本体に対して略垂直に突出する。更に、好ましい実施例では、バックアングルB1 は約45°であるが、別の実施例では、夫々相補的なナットの始端26bとの係合を確実にする為に、90°未満の適当な値を持っていてよい。」(段落【0010】参照)
〔お〕「図3に示す様な相補形の始端26a,26bは事実上フックとなり、係合した時、各部分を互いに回転させると、相手のねじ山14,16を係合させる様に引張り寄せる。協働する始端26a,26bの初期係合が図3に実線で示されていると共に、図5及び6にも、協働する始端を鎖線で示してある。夫々の始端26a,26bが完全に平坦な形であることが好ましいので、それらが大体ねじ山ピッチの完全な1個分の許容公差の範囲内程度で軸方向に位置ぎめされた時(図4に例として示した普通のねじ山のピッチP参照)、これらの始端は夫々のねじ山14,16を引張り寄せるのに有効である。これと対照的に、従来のねじ山では、ねじ山のピッチの僅か約5%の軸方向の許容公差以内で夫々のねじ山の初期係合を行なうことを必要とするのが典型的である。」(段落【0013】参照)
等の記載が認められる。
そして、図面を参照すると、前記「ボルトの始端26a」は、ねじ山14の頂のつる巻軸線24aより前側端部18a側に先端があって後側端部18bの方を向くように、ねじ山14を切り欠く形状に形成されており、ねじ部の入口巾を拡大しているものと認められる。
したがって、刊行物1には、併せて図面を参照すると、
“軸部に設けたねじ部のねじ山14の始端部に、ねじ山14の頂のつる巻軸線24aに対して鋭角のバックアングルB1 で面取りされていて、ボルトの前側端部18aから遠ざかる向き、すなわちボルトの後側端部18bの方を向くような切り欠き形状に形成され、ねじ部入口巾を拡大した始端26aを有するボルト”
の発明が記載されていると認められる。

(2)刊行物2
〔か〕「本発明は、ねじ穴に斜めに組み込まれることを防止する案内ボス部付ボルトに関するものである。」(段落【0001】参照)
〔き〕「従って、本発明の課題は、かじり、焼き付きを防止することのできる案内ボス部付ボルトを提供することである。」(段落【0006】参照)
〔く〕「上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、……、かじりはねじ部31Pの始端Sから100 °?180 °回転した位置で発生しやすく、該ねじ部31Pの先端部分33Pが、該ねじ部31Pの始端Sから360 °以上回転した位置B(θ2 ≧360 °)まであることも該かじりの原因となっていることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0007】参照)
〔け〕「該ねじ部31は、一定の高さの断面略二等辺三角形状のねじ山332 が形成された本体部分32と、該ねじ部31の始端Sから該本体部分32に至るまで徐々に高くなるようにねじ山331 が形成された先端部分33とを有し、」(段落【0011】(2欄48行?3欄2行)参照)
〔こ〕「本実施形態では、該ねじ部31は、図3に示すように該ねじ部31の始端Sから90°回転した位置B(θ1=90°)まで先端部分33となっており、該位置Bより本体部分32となっているが、本発明はこれに限定されることなく、θ1は50°?100 °であるのが好ましく、特に90°?100 °であるのが好ましい。θ1が50°未満では、めねじとの螺合が困難となり、また該ボルト1を製造する金型の寿命が短くなる。一方、θ1が100 °を超えるとかじりが発生するおそれがある。」(段落【0012】参照)
等の記載があり、
“ねじ部31の始端Sからねじ部31の本体部分32に至るまでの徐々に高くなるように形成されたねじ山331からなる先端部分33の形成範囲は、始端Sから50°?100 °特に90°?100 °であるのが好ましく、50°未満ではめねじとの螺合が困難となり、100 °を超えるとかじりが発生するおそれがある”
との技術的事項が記載されていると認められる。

3.対比・判断
(1)本願発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「始端26a」が前者の「切り欠き形状」に相当し、両者は、
「軸部に設けたねじ部の完全ねじ山の始端部に、該軸部の軸に対して所定の角度で切り欠き形状を設けてねじ部入口巾を拡大したボルト」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明は、前記「所定の角度」が「軸部端末側に60°の角度」であるのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、始端26aが、ねじ山14の頂のつる巻軸線24aに対して鋭角のバックアングルB1 で面取りされて、ボルトの後側端部18bの方を向くように形成されているから、軸部の軸に対する前記「所定の角度」は、前記つる巻軸線24aの傾斜角を無視した場合「軸部端末側に90°未満の角度」となって、「軸部端末側に60°の角度」に特定されていない点

(2)上記刊行物1に記載された発明は、前記〔あ〕のとおり「改良された整合及び係合の特徴を持つ締結装置」のボルトの発明であるから、上記刊行物1に記載された発明において、前記「所定の角度」の具体的角度として、「整合及び係合」を改良する目的に合致する実用上の最適角度を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。そして、上記刊行物1に記載された発明の「始端26a」による、整合及び係合を円滑にするという技術的意義が、本願発明の「切り欠き形状」による、ボルトの傾きを修正し斜め組込みによるかじり・焼付き又は空回りを防止するという技術的意義と共通することからみて、本願発明の前記「所定の角度」を「軸部端末側に60°の角度」とした点も、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないものである。

(3)また、上記刊行物2には、前述のとおり、ねじ部31の本体部分32に至るまでの徐々に高くなるように形成されたねじ山331からなる先端部分33の形成範囲は、螺合の容易さ、かじり防止の観点で、適正範囲が存在することが記載されているから、上記刊行物1に記載されたものにおける、「所定の角度で切り欠き形状を設けてねじ部入口巾を拡大した」構成による、ねじ部の本体部分に至るまでの徐々に高くなるねじ山からなる先端部分についても、螺合の容易さ及びかじり防止の観点で適正範囲が存在することは、上記刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に理解し得ることである。そうすると、上記刊行物1に記載されたものにおいて、徐々に高くなるねじ山からなる先端部分の範囲と密接に関連する切り欠き形状の角度について、螺合の容易さ及びかじり防止の観点で実用上の最適角度を選択することも、当業者が容易に想到し得ることであり、本願発明の前記「所定の角度」を「軸部端末側に60°の角度」とした点は、上記刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(4)審判請求書における請求人の主張について
(4-1)請求人は、審判請求書において
上記刊行物1に記載された発明について、「ボルトとナットの双方に切り欠き部を設けた場合であって、ボルトのみに切り欠き部を設け、ナットのねじ山にボルトのねじ谷を円滑に導入し、かつ斜め組み込みを円滑に修正するには、切り欠き角度を60°?80°の範囲にすることは記載されていない。」、「ボルトのみに切り欠き部を設ける本願発明とは主旨が異なり、……本願発明の参照とはならない。」
旨主張している。

(4-2)しかしながら、上記請求人の主張は、次のとおり、採用できない。
本願発明は「ボルトのみに切り欠き形状を設け」たものと特定されていないから、請求人の主張は根拠がないものである。
仮に本願発明が「ボルトのみに切り欠き形状を設け」たものであるとしても、上記刊行物1に記載されたボルトは、ねじ山の始端部に、軸部の軸に対して所定の角度で切り欠き形状を設けてねじ部入口巾を拡大した構成を備えているから、切り欠き形状を設けていないナットと組み合わせて使用しても、該ナットのねじ山がボルトのねじ部のねじ谷に円滑に導入され、該ボルトが該ナットのねじ穴に斜めに組込まれた場合でも、拡大したねじ部入口に該ナットのねじ山が円滑にガイドされ、上記切り欠き形状によって該ボルトの傾きが修正されることは、十分予測される。
そうすると、上記(2)で述べたと同様の理由により、切り欠き形状を設けていないナットと組み合わせて使用するボルトについて、前記「所定の角度」の最適範囲を決定することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。

(5)このように、本願発明は、その発明を特定するための事項が、上記刊行物1に記載された事項、或いは上記刊行物1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、作用効果も、上記刊行物に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2?5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-22 
結審通知日 2006-06-27 
審決日 2006-07-12 
出願番号 特願2001-131499(P2001-131499)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (F16B)
P 1 8・ 121- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 窪田 治彦  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 常盤 務
藤村 泰智
発明の名称 ボルト  
代理人 宇佐見 忠男  

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