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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61B
管理番号 1162110
審判番号 不服2004-9859  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-09 
確定日 2007-08-09 
事件の表示 平成11年特許願第190827号「超音波により物体を検査する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 7日出願公開、特開2000- 70265〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本願は、平成11年6月2日の出願(パリ条約による優先権主張1998年6月4日;欧州特許庁)であって、平成14年12月2日付で拒絶理由が通知され、平成15年6月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年1月5日付で拒絶査定され、これに対し、同年4月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。また、同年5月7日付で手続補正が行われたが、平成18年7月25日付の補正却下の決定により該手続補正は却下された。
よって、その請求項1乃至6係る発明は、平成15年6月6日付手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
これに対して、平成18年7月25日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

ここで、上記平成18年7月25日付け拒絶理由の内容は以下のとおりである。


I.手続の経緯
本願は、平成11年6月2日の出願(パリ条約による優先権主張1998年6月4日;欧州特許庁)であって、平成14年12月2日付で拒絶理由が通知され、平成15年6月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年1月5日付で拒絶査定され、これに対し、同年4月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月7日付で手続補正が行われたものである。


II.平成16年5月7日付けの手続補正について
本拒絶理由通知書と同日付けの補正却下の決定により、平成16年5月7日付けの手続補正は却下されることとなった。
その理由は、以下のとおりである。

1.本件補正の内容
平成16年5月7日付け手続補正(以下、「審判請求時補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号の規定により、拒絶査定不服審判の請求の日から所定の期間内にするものである。そして、その内容として、特許請求の範囲について、以下の審判請求時補正前の請求項1?6を、以下の審判請求時補正後の請求項1?10に補正するものである。

[審判請求時補正前の請求項1?6]
「【請求項1】 物体の容積範囲が、3D超音波センサを用いて超音波により走査され、その際B画像表示のために用いられる送信機/受信機ユニットによって走査可能な走査平面が、3D超音波センサによる走査過程中に、この走査平面に対して横向きに容積範囲にわたって動かされ、送信機/受信機ユニットから送出されるパルスが物体の反射個所において反射されることによって生じるエコーパルスから変換される信号が、正しいアドレスで容積メモリに記憶され、かつ特定の基準にしたがって、少なくとも1つの表示ユニットに画像表示を構成するために利用される、超音波により物体を検査する方法において、載せられて動かされる3D超音波センサによって検出可能な物体の容積範囲から、B画像表示の走査平面内においてカバーされる面及びこの走査平面に対して横向きの移動行程の境界を調節することによって、容積走査のために興味ある容積範囲が選択され、この容積範囲が、連続的に、B画像平面に対して横向きの移動の間に送出されかつ処理される音響パルスによって走査され、かつ3Dプロセッサを用いて容積メモリ内に記憶された信号から、少なくとも3D表示のための信号が求められ、かつ画像表示部に供給されることを特徴とする、超音波により物体を検査する方法。
【請求項2】 容積範囲にわたって往復して前進及び後退移動可能な送信機/受信機ユニットを有する3D超音波センサにおいて、走査信号が、後退の際に、少なくともほぼ前進の際と同じ走査トラック上において発生されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 B画像走査の一方の縁から他方へ延びた走査パルスのトリガ順序の際に、容積走査の後退の際にトリガ順序が逆転されるので、B画像が、空間内において前進の際と同じ位置を占めることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】 容積メモリが、ベクトルオリエンテッドの3Dメモリであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 興味ある容積への整合が、B画像掃引角、容積走査のための3D掃引角、B画像を構成するパルス数、容積走査のための掃引速度、それによりエコーが処理される最大深さ、及び/又はそこから容積が仮想的に照明され又は観察される任意の面の選択の調節を介して選択的に行なわれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】 表示ユニットにおいて、2つ又はそれ以上の時間的に前後して撮影された画像の間で補間が行なわれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 」

[審判請求時補正後の請求項1?10]
「【請求項1】容積を走査する3D超音波センサにより発生される超音波により物体から画像を生成する装置であって、
3D超音波センサにある送信機/受信機ユニット、
送信機/受信機ユニットの走査平面を規定する手段、
容積の多重走査をあらわすエコー信号を生成するため、3D超音波センサから発生される超音波で物体の容積を連続的に走査する手段及び
容積に対して3D超音波センサを固定した状態にしながら多重走査中に容積を横切って走査平面が連続的に移動するように、送信機/受信機ユニットを移動させる手段
を含んでいる装置。
【請求項2】容積を連続的に走査する間に発生されるエコー信号に基づいて容積の少なくとも第1及び第2の走査に関連する少なくとも第1及び第2の画像を表示するための表示部を更に含んでいる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】送信機/受信機ユニットを移動させる手段が、容積を連続的に走査するため走査面に対して横向きの前進及び後退方向に走査平面を移動させる請求項1に記載の装置。
【請求項4】3D超音波センサにより発生される超音波に応じて生成されるエコー信号を記憶するメモリを更に含み、このメモリが、エコー信号が起こる容積の幾何学的位置に相当するメモリ位置にエコー信号を記憶する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】送信機/受信機ユニットを移動させる手段が、容積にわたって交互に前進及び後退方向に送信機/受信機ユニットを移動させ、物体の容積を連続的に走査する手段が、前進及び後退方向に送信機/受信機ユニットが交互に移動する間にエコー信号を連続的に受信する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】容積の任意の平面においてエコー信号を視覚化する手段を更に含み、この任意の平面が送信機/受信機ユニットの走査平面の位置及び方向とは無関係である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】走査角、容積走査の掃引角、走査線の数、容積走査の掃引速度、エコー信号のための最大貫通深さ、及び/又は物体が照明又は観察される任意の平面を選択することにより、物体の実際の大きさに走査される容積を整合させる手段を更に含んでいる、請求項1に記載の装置。
【請求項8】送信機/受信機ユニットがB画像を表わすエコー信号を生成する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】走査平面を規定する手段、物体の容積を走査する手段及び送信機/受信機ユニットを移動させる手段が、物体の容積内で送信機/受信機ユニットの移動を視覚化するのに充分な高さの容積割合で連続的に動作する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】走査平面が移動せしめられる容積の全体より小さい容積範囲の範囲限界を選択するために手段、及び走査平面をこの範囲限界内に限定する手段を更に含んでいる、請求項1に記載の装置。 」


2.補正の目的の適否の判断
(1)請求項の増加
上記審判請求時補正により、該補正前の請求項数が6項であったのに対し、該補正後には請求項数が10項に増加しており、該補正は請求項を追加する補正である。また、該請求項の増加は、前記補正前の特許請求の範囲における複数請求項引用形式請求項を引用請求項ごとに分割記載したことによるものとも認められない。
よって、該補正は、特許請求の範囲の減縮にはあたらない。また、該請求項の増加が明瞭でない記載の釈明や誤記の訂正に当たらないことは自明である。

(2)直列的に記載された発明特定事項の一部の削除
上記審判請求時補正を請求項1について文説して検討すると、該補正前の請求項1は

[1]物体の容積範囲が、3D超音波センサを用いて超音波により走査され、
[2]その際B画像表示のために用いられる送信機/受信機ユニットによって走査可能な走査平面が、
[3]3D超音波センサによる走査過程中に、この走査平面に対して横向きに容積範囲にわたって動かされ、
[4]送信機/受信機ユニットから送出されるパルスが物体の反射個所において反射されることによって生じるエコーパルスから変換される信号が、正しいアドレスで容積メモリに記憶され、
[5]かつ特定の基準にしたがって、少なくとも1つの表示ユニットに画像表示を構成する
ために利用される、超音波により物体を検査する方法において、
[6]載せられて動かされる3D超音波センサによって検出可能な物体の容積範囲から、B画像表示の走査平面内においてカバーされる面及びこの走査平面に対して横向きの移動行程の境界を調節することによって、容積走査のために興味ある容積範囲が選択され、
[7]この容積範囲が、連続的に、B画像平面に対して横向きの移動の間に送出されかつ処理される音響パルスによって走査され、
[8]かつ3Dプロセッサを用いて容積メモリ内に記憶された信号から、少なくとも3D表示のための信号が求められ、
[9]かつ画像表示部に供給されることを特徴とする、
超音波により物体を検査する方法。

であったのに対し、該補正後の請求項1は、

[1]容積を走査する3D超音波センサにより発生される超音波により物体から画像を生成する装置であって、
[2’][3’]3D超音波センサにある送信機/受信機ユニット、
[2’]送信機/受信機ユニットの走査平面を規定する手段、
[1’]容積の多重走査をあらわすエコー信号を生成するため、3D超音波センサから発生される超音波で物体の容積を連続的に走査する手段及び
[3’]容積に対して3D超音波センサを固定した状態にしながら多重走査中に容積を横切って走査平面が連続的に移動するように、送信機/受信機ユニットを移動させる手段
を含んでいる装置。

となっており、カテゴリーの変更に伴う表現の差違を考慮したとしても、前記補正前の請求項に於ける構成要素[4]?[9]に対応する構成が該補正により削除されており、これは、直列的に記載された発明特定事項の一部の削除に該当するから、該補正は特許請求の範囲の減縮にはあたらない。また、該構成の削除が明瞭でない記載の釈明や誤記の訂正に当たらないことは自明である。

(3)カテゴリーの変更
上記審判請求時補正により、特許請求の範囲に於ける全請求項のカテゴリーは、該補正前の「方法」から「装置」へと変更されているが、該変更は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、及び誤記の訂正の何れにも該当しない。


3.結論
上記2.記載のとおり、上記審判請求時補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



III.拒絶の理由について
平成16年5月7日付の手続補正は上記の通り却下されたので、本件出願の明細書は、平成15年6月6日付手続補正書で補正されたものである。そして、該補正された明細書に於ける請求項1-6に係る発明を、以下に於いて、それぞれ「本願発明1-6」という。

1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(1)本願発明1について
引用文献1の【0014】、【0016】?【0018】、【0022】及び図2,5の記載から、該引用文献1には、
「一次元或いは2次元アレイセンサによりアレイ方向に電子的に走査されている間にスライス方向に機械的な走査が行われるアレイプローブにより得た複数の2次元データを画像データメモリに書込み、該書き込んだデータを読み出して3次元グラフィック演算回路に加えることによりモニタに3次元画像を表示する手順、手段からなる、超音波診断方法、装置」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
引用発明1と本願発明1とを比較すると、引用発明1に於ける
(a)「アレイプローブ」,(b)「アレイセンサ」,(c)「スライス方向」,(d)「画像データメモリ」,(e)「3次元グラフィック演算回路」,(f)「モニタ」
は、それぞれ本願発明1に於ける
(a)「3D超音波センサ」,(b)「送信機/受信機ユニット」,(c)「走査平面に対して横向き」及び「B画像平面に対して横向き」,(d)「容積メモリ」,(e)「3Dプロセッサ」,(f)「画像表示部」
に相当することが明らかである。
また、本願発明1に於ける(g)「正しいアドレス」、(h)「載せられて動かされる」及び(i)「特定の基準にしたがって」なる特定事項は何れも下記3.で述べるとおり、その意味するところが不明であるが、(g)が文字通り、アドレスに誤りがないという意味であれば、特定するまでもなく当然かつ自明の事項であり、また、(h)は、「3D超音波センサ」が測定時に被検体に載置され、また測定部位を変更する際には適宜動かされる、ということを意味するのであれば、これもまた、超音波診断方法としては慣用の手順に過ぎない。また、(i)は結局、「特定の基準」が何であるのか特定されていないのであるから、従うべき「基準」は任意のものと解釈するほかない。そして、前記各特定事項が、前記各解釈以外の意味を有するとする格別の根拠もないから、前記各特定事項については、両発明の間で格別の相違点を構成するものではないとして、一致点に含めることとする。

(一致点)
よって、両者は、
「物体の容積範囲が、3D超音波センサを用いて超音波により走査され、
その際B画像表示のために用いられる送信機/受信機ユニットによって走査可能な走査平面が、3D超音波センサによる走査過程中に、この走査平面に対して横向きに容積範囲にわたって動かされ、
送信機/受信機ユニットから送出される超音波が物体の反射個所において反射されることによって生じるエコーから変換される信号が、正しいアドレスで容積メモリに記憶され、
かつ特定の基準にしたがって、少なくとも1つの表示ユニットに画像表示を構成するために利用される、超音波により物体を検査する方法において、
載せられて動かされる3D超音波センサによって容積範囲が、連続的に、B画像平面に対して横向きの移動の間に送出されかつ処理される音響パルスによって走査され、
かつ3Dプロセッサを用いて容積メモリ内に記憶された信号から、少なくとも3D表示のための信号が求められ、かつ画像表示部に供給されることを特徴とする、超音波により物体を検査する方法。」
の点で一致し、
(相違点)
(ア)本願発明1が、測定対象となる物体の容積範囲を、「検出可能な物体の容積範囲から、B画像表示の走査平面内においてカバーされる面及びこの走査平面に対して横向きの移動行程の境界を調節することによって、容積走査のために興味ある容積範囲が選択」する手順を有しているのに対し、引用発明1はそのような手順を有さない点、及び
(イ)送信機/受信機ユニットから送出される超音波が本願発明1ではパルス信号であるのに対し引用発明1では信号の種別について特定されていない点、
で相違する。
(相違点の検討)
相違点(ア)については、本願発明1と同じく、一次元アレイ素子をアレイ方向と直交する方向に移動させながら3D超音波画像を取得する方法に於いて、本願発明1の「検出可能な物体の容積範囲」に相当する「全体画像」上で、本願発明1の「興味ある容積範囲」に相当する3次元の「関心領域」を選択、設定し、該設定により、アレイ素子を移動させるべき範囲を決定し、探触子制御信号を発生させて、前記アレイ方向及び前記アレイ方向と直交する方向の双方に境界を有する前記関心領域の3次元画像を検出・表示する手順が、引用文献2(【0010】?【0022】の実施例に関する記載及び図1参照。特に【0022】参照。)に記載されているとおり公知であり、引用発明1に同分野に於ける該公知技術を適用することにより上記相違点(ア)の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
また、相違点(イ)については、超音波による撮像方法に於いて、パルス送信方式は周知慣用のものに過ぎず(必要なら引用文献3参照)、引用発明1において該周知のパルス送信方式を採用することは当業者が容易に想到し得るものである。

(2)本願発明2について
B画像などの2次元画像を、プローブをB画像平面に直交する方向に移動させながら複数枚取得して3次元超音波画像を取得する撮像方法に於いて、前記移動を往復動とし、往動・復動間で同一のB画像平面を順次撮像するように制御することは、引用文献4(特に【0006】、図4,5参照)にも記載されているとおり、周知の撮像制御方式に過ぎない。
よって、請求項2に記載された特定事項に係る構成は、引用発明1に前記周知技術を適用することにより当業者が容易に想到し得た事項である。

(3)本願発明3について
請求項3に於ける特定事項は、引用文献4の如く相互に平行な複数枚のB画像を取得する撮像方式に於いては、トリガ順序をB画像平面の前進・後退移動間で逆転させることと、B画像が前進・後退移動間で「同じ位置を占める」こととの因果関係が不明であるから、格別の効果を伴わない設計事項に過ぎない。
よって、該請求項に於ける特定事項とすることは、当業者が適宜選択し得た事項に過ぎない。

(4)本願発明4について
「容積メモリ」及び「ベクトルオリエンテッドの3Dメモリ」なる語句が具体的に如何なるメモリを指すのか不明であるが、文言上の解釈から、三次元画像データを書込可能なメモリであると解釈すると、引用発明1も、複数の画像データを書き込むことが可能な「画像データメモリ」を備えており、これは即ち、三次元画像データを書込可能なメモリに外ならないから、引用発明1に於ける「画像データメモリ」が本願発明4に於ける「3Dメモリ」に相当する。
なお、Bモード画像を3次元表示する超音波検査方法に於いて、取得した3次元画像を展開可能な3次元データメモリを用いることは、上記引用発明1の外にも、引用文献5にも記載されたとおり、周知技術に過ぎない。

(5)本願発明5について
該発明は下記3.で指摘するとおり発明の詳細な説明に於いて充分な説明が為されたものではないが、セクタ走査を行うB画像取得操作に於いて、関心領域を走査するために、B画像の掃引角やパルス密度、焦点深度幅等の各走査パラメータを調整することは周知である(引用文献3、6参照)。

(6)本願発明6について
該発明は下記3.で指摘するとおり発明の詳細な説明に於いて充分な説明が為されたものではないが、超音波検査に於いて、3D走査により得た3次元画像データを座標変換やメモリ空間内への展開時に適宜隣接データを用いて補間処理することは周知である(引用文献5(特に【0043】)参照)。

以上のとおりであるから、本願発明1-6は何れも、引用文献1-6に基づき当業者が容易に想到し得たものである。
なお、3次元超音波検査方法・装置に関しては、引用文献1-6の外にも、複合走査手法やROIの処理などに関し、末尾に記載した先行技術文献情報欄に示したとおりの種々の先行技術が存在するので、補正にあたっては参考にされたい。

引用文献等一覧
1.特開平5-344975号公報
2.特開平6-343632号公報
3.特開平3-112541号公報
4.特開平7-178090号公報
5.特開平6-254097号公報
6.特開昭59-144442号公報


2.この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。


請求項1-6/
該各請求項に係る方法に関する発明は、測定対象を「物体」と表記しているが、本願明細書段落【0003】【0004】【0021】に於ける「医学的な検査の際の器官又は胎児(Foten)の運動」「産科」「母親」「母親の腹組織」「血管」「のうしゅ」「子宮」「骨」「軟骨」なる各記載や、生体以外の「物体」を測定対象とする旨の明確な実施例や記述が明細書中に見出せないことから明らかなとおり、該測定対象たる「物体」には人体を含む生体が少なくとも含まれており、かつ、特許請求の範囲及び明細書中に測定対象として人間を除くことが明示されていない。また、前記明細書に於ける「医学的な検査」や「のうしゅ」「胎児の運動」「産科」などの語句から、測定が人体に対する医療目的を少なくとも含むものであることも明らかである。そして、請求項1に於ける、「物体の容積範囲が・・・走査され」、「・・・走査平面が・・・走査過程中に・・・動かされ」、「送信機/受信機ユニットから送出されるパルスが物体の反射個所において反射されることによって生じるエコーパルスから変換される信号が、正しいアドレスで容積メモリに記憶され」、「容積範囲が、連続的に・・・走査され」なる各手順、及び請求項2に記載された手順は、何れも上記人体を含む対象物に対し、その内部の状態・形状・大きさを計測する手順に外ならない。
よって、前記各請求項に係る方法に関する発明は、「病気の発見、健康状態の認識等の医療目的で、人間の内部若しくは外部の状態、又は、人間の各器官の形状若しくは大きさを計測する方法」に該当し、実質的に人間を診断する方法と認められる。したがって、前記各請求項に係る発明は、産業上利用できる発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書きの要件を満たしていない。(なお、この点については、平成12年12月28日公表の審査基準第II部第1章2を参照されたい。)

なお、本願明細書は方法発明の説明として記載されていることもあり、手順の記載に終始し、装置構成に関する記述が充分でない箇所がみられるが、本願発明を装置発明に変更するに当たっては、発明を構成する各手段が当初明細書に於ける充分な裏付け記載を伴ったものであるかについて十分留意されたい。


3.本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。


(1)特許請求の範囲における「正しいアドレス」「容積メモリ」「載せられて動かされる」「ベクトルオリエンテッドの3Dメモリ」「仮想的に照明され」「3D掃引角」なる各語句の意味及び定義が不明である。
(2)特許請求の範囲に於いて、「3D超音波センサ」と「送信機/受信機ユニット」との関係が不明確である。
(3)特許請求の範囲に於いて、「B画像平面」及び「B画像平面に対して横向き」の各平面・方向と、3D超音波センサ又は送信機/受信機ユニットの走査方式や動き(前進・後退)との関係が不明確である。
(4)特許請求の範囲に於いて、超音波センサが「載せられて動かされる」ことと、走査平面が「動かされ」ることや送信機/受信機ユニットが「前進及び後退移動」することとの関係が不明である。
(5)請求項5に於いて、「B画像掃引角」及びB画像平面も含むと思われる「3D掃引角」相互の関係が不明確である。
(6)請求項2に於ける「ほぼ」なる記載は、前進・後進時のトラックの間の関係を不明確にしており、例えば本願図5のようなトラックの関係が該「ほぼ」で示される程度の範囲に含まれるのか否か不明瞭となっている。
(7)請求項1に於ける「3D超音波センサによって検出可能な物体の容積範囲から・・・興味ある容積範囲が選択され」なる手順に対応する充分な説明の記載が明細書中になく、実現のための具体的手段や手順が不明である。【0021】には、「掃引範囲は、いつでも物体に合わせることができる」との記載があるが、これは単に可能性を述べたものに過ぎず、具体性を欠いている。
(8)請求項6に記載された手順に対応する充分な説明の記載が明細書中になく、実現のための具体的手段や手順が不明である。これに関連する可能性があるものとして、【0018】には「超音波走査ビームに当たらなかったピクセルは、隣接するピクセルの値から計算される」との記載があるが、該記載には時間的な前後関係に関する事項も、演算に用いられる画像の枚数に関する事項も含まれていない。
(9)請求項1の「特定の基準に従って」とは、如何なる事項を特定しようとした記載であるのか不明である。
(10)請求項3の「トリガ順序の際に」とは不明瞭な記載である。
(11)請求項3に於いて、「トリガ順序が逆転される」とは、如何なる場合の何に対して逆転されるのか不明である。
(12)請求項3に於いて、引用される請求項1,2に於ける限定事項に於ける走査手順の下での、トリガ順序を逆転させることと、後退の際に走査信号が前進の際と同じ位置を占めることとの因果関係が不明である。(請求項1では、「走査平面が、3D超音波センサによる走査過程中に、この走査平面に対して横向きに容積範囲にわたって動かされ」即ち、走査平面が横向き(平面に直交方向)に動かされると限定されているに過ぎない点に留意されたい)
(13)請求項5に「興味ある容積への整合」に関与するパラメータやその調整手法として列挙された、B画像掃引角、容積走査のための3D掃引角、B画像を構成するパルス数、容積走査のための掃引速度、それによりエコーが処理される最大深さ、及び/又はそこから容積が仮想的に照明され又は観察される任意の面の選択の調節、なる各事項や、それらを組み合わせての前記「興味ある容積への整合」の具体的手順について、発明の詳細な説明に対応する説明の記載がない。

なお、特許請求の範囲の記載は、方法の発明として記載されていることもあって全体として機能的であるが、これを装置発明としての構成に書き換える場合、このままの記載では該機能を実現するための装置としての構成が極めて不明確なものとなると考えられる点に十分留意されたい。


4.本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


(1)【0005】【0007】記載の、避けるべき「人工物」とは何かが不明である。
(2)【0006】の「載せられた」とは如何なる意味であるか不明である。
(3)図2,5,6及び明細書中の対応する説明の記載に於いて、相互に直交または傾斜角を成す「B画像4」及び「B画像5」の関係が不明である。
(4)【0007】には、「B画像走査と同時に容積走査の送りも行なわれる」及び「走査トラックは、ジグザグ線に追従する」なる本願発明の作用に関する記載があり、図4-6にもこれに対応する図が記載されているが、このような作用は特許請求の範囲に記載された何れの構成からも直接得られるものではなく、根拠が不明である。
なお、上記作用に関係すると思われる請求項1の「 3D超音波センサによる走査過程中に、この走査平面に対して横向きに容積範囲にわたって動かされ」及び請求項2の「容積範囲にわたって往復して前進及び後退移動可能な送信機/受信機ユニット」なる記載は何れも、アレイセンサによるB画像取得と、該B画像平面に直交する方向へのアレイセンサの移動とを間欠的に行って複数のB画像を取得することで3次元領域の超音波画像を取得する手法を含むものである。
(5)図4は、本願発明がB走査平面に直交する前後方向について、往復動共に走査位置が連続的・直線的に変化することを示すのに対し、図5,6では、何れも前後方向に移動せず左右方向にのみ移動する走査経路を有しており、両者は矛盾している。

先行技術文献情報
1.特開平11-33021号公報
2.特開平8-275947号公報
3.特開平8-229046号公報
4.特開平10-99326号公報
5.特開平6-38962号公報
6.登録実用新案公報第3040306号
7.特開平6-30939号公報
8.特開平7-327998号公報
9.特開平11-56851号公報
10.特開平2-203848号公報
11.特開平10-97609号公報


そして、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-27 
結審通知日 2007-03-06 
審決日 2007-03-22 
出願番号 特願平11-190827
審決分類 P 1 8・ 536- WZF (A61B)
P 1 8・ 14- WZF (A61B)
P 1 8・ 572- WZF (A61B)
P 1 8・ 121- WZF (A61B)
P 1 8・ 537- WZF (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神谷 直慈  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
樋口 宗彦
発明の名称 超音波により物体を検査する方法  
代理人 中平 治  

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