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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1162140
審判番号 不服2005-8747  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-11 
確定日 2007-08-09 
事件の表示 平成 8年特許願第200430号「液晶表示セル及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月20日出願公開、特開平10- 48634〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年7月30日に出願された特許出願であって、平成16年11月19日付で拒絶理由が通知され、平成17年1月19日に手続補正がなされ、同年4月6日付で拒絶査定がなされたところ、同年5月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同年5月23日に手続補正がなされ、これに対し、当審において、平成19年3月15日付で平成17年5月23日の手続補正を却下するとともに同日付で最後の拒絶理由を通知したところ、平成19年5月18日に手続補正がなされたものである。

2.平成19年5月18日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年5月18日の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、平成17年1月19日に手続補正がなされた明細書の、特許請求の範囲の請求項1,2、および明細書の段落【0009】,【0025】を次のように補正することを含むものである。

【補正事項a】
「【請求項1】 基板上に電極層を介して配向膜を有した液晶表示セルにおいて、前記配向膜を膜厚200nm以上6000nm未満のポリイミド・ベースの垂直配向膜としたことを特徴とする液晶表示セル。」

「【請求項1】 基板上に配向制御のためのスリットを備えた電極層を介して配向膜を有した液晶表示セルにおいて、前記配向膜を膜厚0.2nm以上60nm未満であって、前記膜厚が60nmより大きい状態と比べて表面エネルギーが高く、かつ前記膜厚が60nmより大きい状態と比べてアンカリングエネルギーが小さいものとされたポリイミド・ベースの垂直配向膜としたことを特徴とする液晶表示セル。」
と補正する。(下線は、当審で引いた。以下同じ。)

【補正事項b】
「【請求項2】 垂直配向膜を有する液晶表示セルの製造方法において、希釈濃度を下げて膜厚200nm以上6000nm未満のポリイミド・ベースの垂直配向膜を塗布法により形成するようにしたことを特徴とする液晶表示セルの製造方法。」

「【請求項2】 配向制御のためのスリットを備えた電極層と垂直配向膜を有する液晶表示セルの製造方法において、希釈濃度を下げて膜厚0.2nm以上60nm未満のポリイミド・ベースの垂直配向膜を塗布法により形成するようにしたことを特徴とする液晶表示セルの製造方法。」
と補正する。

【補正事項c】
「【0009】【課題を解決するための手段】
本発明に係る液晶表示セルは、基板上に電極層を介して配向膜を有した液晶表示セルにおいて、前記配向膜を膜厚200nm以上6000nm未満のポリイミド・ベースの垂直配向膜としたものである。」

「【0009】【課題を解決するための手段】
本発明は、上述の目的を達成するため、以下の(1)?(3)の構成を備えるものである。
(1)基板上に配向制御のためのスリットを備えた電極層を介して配向膜を有した液晶表示セルにおいて、前記配向膜を膜厚0.2nm以上60nm未満であって、前記膜厚が60nmより大きい状態と比べて表面エネルギーが高く、かつ前記膜厚が60nmより大きい状態と比べてアンカリングエネルギーが小さいものとされたポリイミド・ベースの垂直配向膜としたことを特徴とする液晶表示セル。
(2)配向制御のためのスリットを備えた電極層と垂直配向膜を有する液晶表示セルの製造方法において、希釈濃度を下げて膜厚0.2nm以上60nm未満のポリイミド・ベースの垂直配向膜を塗布法により形成するようにしたことを特徴とする液晶表示セルの製造方法。
(3)液晶にカイラル剤を添加することを特徴とする前記(2)記載の液晶表示セルの製造方法。」
と補正する。

【補正事項d】
「【0025】
配向膜を薄く成膜するほど効果が見られるが、垂直配向の限界値が存在する。これは、材料によって異なるもので、RN-784の場合は希釈濃度0.5wt%の膜厚約200?500nmが限界となる。」

「【0025】
配向膜を薄く成膜するほど効果が見られるが、垂直配向の限界値が存在する。これは、材料によって異なるもので、RN-784の場合は希釈濃度0.5wt%の膜厚約0.2?0.5nmが限界となる。」
と補正する。

(2)当審の判断
【補正事項a?c】について
上記補正事項a?cにおいて、「膜厚200nm以上6000nm未満」を「膜厚0.2nm以上60nm未満」と補正するについて、請求人はその根拠を以下のように主張している。
「2.出願人による対応
(1)手続補正書による補正
本出願人は、手続補正書により以下の通りの補正を行いました。
(イ)特許請求の範囲の補正
請求項1において、電極層に「配向制御のためのスリットを備えた」という限定を付加しました。また、「200nm」を「0.2nm」に、「6000nm」を「60nm」に変更いたしました。
・・・・(中略)・・・・
(ハ)上記「6000nm」を「60nm」に変更したのと同様、段落[0003]、[0007]の膜厚を変更しました。
(ニ)段落[0013]の「オングストローム=10nm」を「オングストローム=0.1nm」に変更しました。
(ヘ)段落[0025]において、「200?500nm」を「0.2?0.5nm」に変更しました。
(2)補正の根拠
・・・・(中略)・・・・
(ロ)「6000nm」等を「60nm」等に変更した根拠
本補正の根拠は、段落[0013]の換算式の訂正によるものであります。
(ハ)「200?500nm」を「0.2?0.5nm」に変更した根拠
200?500nmを0.2?0.5nmとする補正は、誤った換算を行ったために生じた誤りを訂正するものです。本項に記載の範囲は、図2に記載の希釈濃度0.5wt%における膜厚を記載したものです。現明細書[0025]項に記載の値と図2の値は大きく乖離し、現記載が誤りであることは明確です。図2から読み取りますと、例えば1wt%における膜厚は、図から読み取ることのできる範囲で20Å(=2nm)程度であり、0.5wt%での値は1wt%での値に対してさらに小さい値であることがわかります。数値として明確に0.2?0.5nm(2?5Å)を読み取ることが容易ではありませんが、少なくとも20Å(=2nm)程度よりは小さい値であることは明確であり、本項補正の傍証となると考えます。
なお、上記補正は誤記の訂正であり、特許法第17条の2第4項第3号の要件を満たすものであります。」(平成19年5月18日提出の意見書)

そこで検討するに、「膜厚0.2nm以上60nm未満」との事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「出願当初明細書等」という。)には明示の記載がない。
請求人の上記主張によれば、「膜厚200nm以上6000nm未満」を「膜厚0.2nm以上60nm未満」と補正した根拠は、段落[0013]の換算式の訂正(上記(ニ))、すなわち、「オングストローム=10nm」を「オングストローム=0.1nm」に訂正したことに伴う変更であって、誤った換算を行ったために生じた誤りを訂正するものであるとのことである。
しかしながら、単なる換算の誤りであれば、「膜厚200nm以上6000nm未満」は「膜厚2nm以上60nm未満」と補正されて然るべきであり、「膜厚0.2nm以上60nm未満」にはなり得ない。これについて請求人は、「図2から読み取りますと、例えば1wt%における膜厚は、図から読み取ることのできる範囲で20Å(=2nm)程度であり、0.5wt%での値は1wt%での値に対してさらに小さい値であることがわかります。数値として明確に0.2?0.5nm(2?5Å)を読み取ることが容易ではありませんが、少なくとも20Å(=2nm)程度よりは小さい値であることは明確であり、本項補正の傍証となると考えます。」(上記意見書)と、0.2nmであることの根拠を述べているが、図2からは、希釈濃度1wt%における膜厚の値も正確に読み取ることが困難であり、ましてや0.5wt%での値など到底読み取ることができない。
したがって、「膜厚200nm以上6000nm未満」を「膜厚0.2nm以上60nm未満」と変更する補正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。

【補正事項d】について
「膜厚約0.2?0.5nm」との事項は、出願当初明細書等には明示の記載がない。
出願当初明細書等において「膜厚約200?500nm」であったものを「膜厚約0.2?0.5nm」と補正するにあたって、請求人の主張する補正の根拠は上記「平成19年5月18日提出の意見書」のとおりである。
これについても上記「【補正事項a?c】について」の検討で述べたように、単なる換算の誤りであれば、「膜厚約200?500nm」は「膜厚約2?5nm」と補正されて然るべきであり、「膜厚約0.2?0.5nm」にはなり得ない。また、図2についての判断も上記「【補正事項a?c】について」の検討で述べたとおりである。
したがって、「膜厚約200?500nm」を「膜厚約0.2?0.5nm」と変更する補正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年5月18日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成17年1月19日の手続補正の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、次のものである。

「【請求項1】 基板上に電極層を介して配向膜を有した液晶表示セルにおいて、前記配向膜を膜厚2nm以上60nm未満のポリイミド・ベースの垂直配向膜としたことを特徴とする液晶表示セル。」

上記請求項1において、配向膜の膜厚は「200nm以上6000nm未満」と規定されているが、以下に詳述するように、上記膜厚の規定は明らかな誤記であって、正しくは「2nm以上60nm未満」である。したがって、本願発明の配向膜の膜厚を「2nm以上60nm未満」と認定する。
すなわち、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載を参酌すると、配向膜の膜厚と希釈濃度との関係をプロットしたグラフである図2の膜厚(縦軸)目盛りは0?1000Å(=0?100nm)の範囲であるところ、「200nm以上6000nm未満」との数値範囲は上記グラフの目盛りを大きく逸脱するものであり整合しない。一方で図2のグラフを説明する段落【0013】には、「図2はポリイミド・ベースの垂直配向膜材料にRN-784(日産化学製)を用いたときの上記希釈濃度(wt%)に対する膜厚(オングストローム=10nm)の変化の様子を示したものである。」との記載があり、上記請求項1における膜厚の数値範囲を誤記した理由が、オングストローム(1Å=10-10m)とナノメートル(1nm=10-9m)との換算を上記のように「オングストローム=10nm」と錯誤した(正しくは1Å=0.1nm)ことによることが明らかである。

(2)引用例の記載事項
当審が拒絶の理由に引用した特開平8-122750号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0006】【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、電極及び配向膜がこの順で形成された一対の絶縁性基板間に液晶層が挟持されてなり、配向膜が液晶層に含まれる液晶分子を絶縁性基板に対して垂直に配向させうる膜であり、液晶層の厚さが液晶の捩じれピッチの45?70%であることを特徴とする液晶電気光学装置が提供される。」

b.「【0010】本発明に使用できる絶縁性基板は、当該分野で公知の基板をいずれも使用することができる。例えば、ガラス、石英、セラミック、樹脂等が挙げられる。また、基板は少なくとも一方が透明であることが必要とされる。基板上には液晶を駆動させるための電極が形成されている。基板が透明の場合は、インジウム酸化錫、酸化錫、酸化インジウム等からなる透明な電極が形成される。不透明な基板の場合は、特に限定されず、インジウム酸化錫、酸化錫、酸化インジウムの他、アルミニウム、タンタル、モリブデン、ニッケル、金、銅、クロム等からなる不透明な電極が形成される。電極の形成方法は、例えば、MOCVD法、蒸着法、スパッタ法等で形成された金属層を、レジスト等をマスクとして所望の形状にエッチングする方法が挙げられる。
【0011】次に、上記電極が形成された絶縁性基板上には、配向膜が形成されるが、配向膜の形成前に、絶縁膜を形成しておいてもよい。・・・」

c.「【0012】本発明に使用できる配向膜は、液晶層に含まれる液晶分子を絶縁性基板に対して垂直に配向させうる膜、即ち垂直配向膜である。垂直配向膜は上記性質を有するものであれば公知のものをいずれも使用することができる。例えば、長鎖アルキル基がポリイミド骨格に結合した構造を有する材料が挙げられ、具体的にはJALS-203(日本合成ゴム社製)、SE-7511L(日産化学社製)等のポリイミド系樹脂が挙げられる。配向膜の厚さは、0.05?0.1μm程度である。配向膜の原料は、配向膜の形成方法としては、例えば、ポリマーを溶かした溶液をスピンナー塗布法、浸漬塗布法、スクリーン印刷法、ロール印刷法等で塗布し、乾燥させて形成する方法が挙げられる。・・・
・・・・(中略)・・・・
【0014】次に、本発明の液晶層に使用することができる液晶としては、特に限定されないが、ネマティック液晶を用いることが好ましい。負の誘電異方性(n型)を有するネマティック液晶が特に好ましい。・・・
【0015】更に、本発明では、低電圧で駆動でき、コントラストが良好であり、上下左右で等しい視覚特性を有する液晶電気光学装置を得ようとする場合、液晶層の厚さを液晶の捩じれピッチの45?70%とすることにより実現することができる。・・・使用する液晶そのままで上記関係を満たすことができない場合は、カイラルドーパントを液晶に添加することにより、所望の値に調整することができる。」

上記a?cによれば、引用例には以下の事項が開示されていると認められる。
「絶縁性基板上に電極を介して配向膜を有した液晶電気光学装置において、前記配向膜を膜厚0.05?0.1μm程度の長鎖アルキル基がポリイミド骨格に結合した構造を有する材料からなる垂直配向膜とした液晶電気光学装置。」(以下、「引用例発明」という。)

(3)対比・判断
本願発明と上記引用例発明を対比すると、引用例発明の「絶縁性基板」、「電極」、「配向膜」、「長鎖アルキル基がポリイミド骨格に結合した構造を有する材料」及び「液晶電気光学装置」は、それぞれ、本願発明1の「基板」、「電極層」、「配向膜」、「ポリイミド・ベース」及び「液晶表示セル」に相当する。
また、引用例発明の配向膜の膜厚「0.05?0.1μm」は、「50?100nm」であるから、引用例発明と本願発明の「配向膜の膜厚」は、「50nm以上60nm未満」の範囲において一致する。

そうすると、引用例発明は本願発明の発明特定事項をすべて具備するから、本願発明は、引用例に記載された発明である。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-06 
結審通知日 2007-06-12 
審決日 2007-06-25 
出願番号 特願平8-200430
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G02F)
P 1 8・ 561- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 吉田 禎治
山村 浩
発明の名称 液晶表示セル及びその製造方法  
代理人 野口 忠夫  
代理人 丹羽 宏之  
代理人 野口 忠夫  
代理人 丹羽 宏之  

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