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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580341 審決 特許
無効200580033 審決 特許
無効200680198 審決 特許
無効200680168 審決 特許
無効2007800031 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01J
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01J
審判 一部無効 2項進歩性  H01J
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01J
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01J
管理番号 1162734
審判番号 無効2006-80084  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-09 
確定日 2007-07-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3292016号発明「放電ランプおよび真空紫外光源装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3292016号の請求項1ないし2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯・請求の趣旨
本件特許第3292016号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成 7年12月20日 特許出願(特願平7-331282号)
平成14年 3月29日 特許権の設定登録(請求項の数;12)
平成18年 5月 9日 本件無効審判請求
平成18年 7月27日 被請求人より訂正請求・答弁書提出
平成18年 9月 4日 請求人より弁駁書提出
平成19年 2月15日 口頭審理
同 日 請求人より口頭審理陳述要領書及び
口頭審理陳述補足書提出
同 日 被請求人より口頭審理陳述要領書及び
口頭審理陳述要領書の訂正の書面提出
平成19年 3月30日 請求人及び被請求人の双方より上申書提出

そして、本件無効審判の請求の趣旨は、
(1)特許第3292016号の請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許を無効とする。
(2)審判費用は、被請求人の負担とする。
との審決を求めるものである。

第2 訂正の可否について
被請求人は、平成18年7月27日付けの訂正請求により本件特許明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求しているので、まずこの訂正の可否について検討する。

1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正の内容の概略は以下のとおりである。

(1)訂正事項a
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?12において、請求項1は削除し、請求項1を引用する請求項2は独立形式で記載し、請求項1又は請求項2を引用する請求項3は請求項2を引用するもののみとしたうえで、請求項2?12に付された番号をそれぞれ1つ繰り上げて、訂正後の請求項1?11とする。

(2)訂正事項b
本件特許明細書の段落番号0016の、
「放電容器を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする。」

「放電容器を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下であって、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする。」
と訂正する。

(3)訂正事項c
本件特許明細書の段落番号0019の、
「また、本発明の放電ランプにおいては、」

「この低圧水銀ランプである放電ランプにおいては、」
と訂正する。

2 訂正の可否についての判断
(1)訂正事項aは、訂正前の請求項1を削除するとともに、訂正前の請求項2?12について、請求項1の削除により必要となった事項についてのみを訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項bは、上記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に応じて、訂正前の請求項1に係る発明に対応する段落番号0016の記載を、訂正後の請求項1(訂正前の請求項2)に係る発明に対応させるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明りようでない記載の釈明に該当する。
また、上記訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

(3)訂正事項cは、「放電ランプ」を「低圧水銀ランプである」と限定するものであるが、これは、訂正前の請求項2に係る発明(引用する請求項1において「放電ランプは、・・・誘電体バリア放電ランプであり」と限定されている。)及び訂正前の請求項5に係る発明(引用する請求項4において「放電ランプは低圧水銀ランプであり」と限定されている。)の両者に対応する段落番号0019の記載を、上記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正及び上記訂正事項bによる段落番号0016の訂正に応じて、訂正後の請求項4(訂正前の請求項5)に係る発明のみに対応させるものであるということができるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明りようでない記載の釈明に該当する。
また、上記訂正事項cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

3 訂正の可否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書に規定される事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定にも適合するものである。
よって、上記結論のとおり、訂正を認める。

第3 本件特許発明
上述のとおり、本件訂正を認めたことから、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明(以下それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び図面(以下「本件特許図面」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプにおいて、
当該放電ランプは、放電容器内に、キセノンガスよりなる放電用ガスまたはアルゴンガスと塩素ガスとの混合ガスよりなる放電用ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプであり、
放電容器を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下であって、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】 放電容器を構成する石英ガラスは、・Si-Si・結合の含
有割合が5×1016個/cm3 以下であり、当該非蛍光性石英ガラス中に溶存す
る分子状水素の含有割合が1015個/cm3 以上であって溶解度以下であり、シ
リコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3 以
下のものであることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。」

第4 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において無効理由1?5を主張しているところ、口頭審理において「訂正が認められた場合、無効理由1及び無効理由2、並びに無効理由5の訂正前請求項3に関する主張のうち訂正前請求項1を引用する部分について、主張を取り下げる。」(平成19年2月15日付け口頭審理調書を参照。)と陳述している。
そして、上記のとおり本件訂正を認めたので、上記陳述のとおり主張の一部が取り下げられたことになるから、その他の無効理由について、訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明(本件特許発明1及び本件特許発明2)に対応させるとともに、2つの理由を主張する無効理由3については、無効理由3aと無効理由3bとに分節して整理すると、概略次のとおりとなる。

1 無効理由3a(本件特許発明1の進歩性)
本件特許発明1は、甲第3号証の発明と甲第5号証の発明とを組み合わせ、さらに、理論的に欠陥が少ないと考えられる石英ガラスを単に「酸素欠乏度」なる新規なパラメータの数値範囲-0.01?0.02を用いて表現したに過ぎない。(審判請求書第16頁第22行?第25行を参照。)
したがって、本件特許発明1は、甲第3号証及び甲5号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、本件特許発明1の特許は、同法第123条第1項第2号に該当して無効とすべきである。

証拠方法(無効理由3aに係るもののみ)
甲第3号証 光技術コンタクト、社団法人日本オプトメカトロニクス協会、平成6年2月20日、第32巻第2号、p.96-103
甲第5号証 特開平6-234545号公報
甲第6号証 “Intrinsic- and extrinsic-defect formation in silica glasses by radiation”、JOURNAL OF NON-CRYSTALLINE SOLIDS、1994年、179巻、p.202-213
甲第7号証 “INTRINSIC DEFECTS GENERATION MECHANISMS IN FUSED SILICA”、JOURNAL OF NON-CRYSTALLINE SOLIDS、1980年、38&39巻、p.195-200
甲第8号証 「光ファイバの放射線による劣化とそのメカニズム」、NEW GLASS、社団法人ニューガラスフォーラム、1989年7月20日、第4巻第1号、p.51-56

2 無効理由3b(本件特許発明1の明確性)
本件特許発明1における「酸素欠乏度」の値が、一義的に決定されるものとして定義されているのでなければ、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。しかるに、本件特許明細書には、「酸素欠乏度」を決定するために「石英ガラスにエキシマレーザ等によって光を照射することにより、・・・波長220nmおよび波長260nmにおける吸光度を経時的に測定する」(段落0056)とあるが、どの程度の長さの時間だけどの程度の強度のエキシマレーザを照射すればよいかが記載されていないから、上記「酸素欠乏度」を決定しようとしても、必ずしも一義的に決定することができない。(審判請求書第17頁第4行?第12行を参照。)
したがって、本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、本件特許発明1の特許は、同法第123条第1項第4号に該当して無効とすべきである。

3 無効理由4(本件特許発明1についての実施可能要件)
本件特許明細書には、「酸素欠乏度が-0.01?0.02」の範囲に制御された合成石英ガラスを製造するためには、どのようにすれば良いかについて全く記載がない。(審判請求書第19頁第5行?第7行を参照。)
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項(当審注、平成14年改正前の特許法第36条第4項〔同改正後は特許法第36条第4項第1号〕の趣旨であると解される。以下「平成14年改正前特許法第36条第4項」という。)に違反し、本件特許発明1の特許は、同法第123条第1項第4号に該当して無効とすべきである。

4 無効理由5(本件特許発明2についての実施可能要件)
本件特許明細書には、どのようにすれば「・Si-Si・結合の含有割合」、「分子状水素の含有割合」及び「シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合」の3つのパラメータを制御できるか記載されていない。これでは、いかに当業者といえども、上記各含有割合が請求項2の数値範囲内になるようにした放電ランプを製造することができない。(審判請求書第21頁第2行?第8行を参照。)
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者が本件特許発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、平成14年改正前特許法第36条第4項に違反し、本件特許発明2の特許は、同法第123条第1項第4号に該当して無効とすべきである。

第5 本件審判請求についての当審の判断
審判請求書における特許無効の理由の要点の記載(特に、第2頁下から3行?第3頁第3行を参照。)からみて、無効理由3bは、無効理由3aに理由がない場合の予備的主張というべきものであるものの、無効理由3a及び3bは、上記の概要でも挙げたとおり、いずれも「酸素欠乏度」に関する点が問題となっているのであって、進歩性に関する主張である無効理由3aについて判断するには、「酸素欠乏度」の定義についての判断をしたうえで本件特許発明1を認定することが必要となるから、まず、無効理由3bについて検討し、次いで無効理由3a、無効理由4及び無効理由5の順に検討する。

1 無効理由3bについて
(1)本件特許明細書及び本件特許図面の記載
本件特許明細書の段落0056には、
「【0056】本発明において、酸素欠乏度とは、下記のようにして測定されるものをいう。石英ガラスにエキシマレーザ等によって光をを照射することにより、当該石英ガラスにE´センタ(中心波長210nm?220nm)およびNBOHC(中心波長260nm付近)を生成させると共に、E´センタおよびNBOHCの生成による波長220nmおよび波長260nmにおける吸光度を経時的に測定する。この測定された吸光度の値を、横軸が波長220nmにおける吸光度、縦軸が波長260nmにおける吸光度であるグラフ上にプロットする。そして、図5に示すように、波長220nmにおける吸光度と波長260nmにおける吸光度とは比例するため、グラフ上には直線が描かれ、当該直線と横軸との交点における横軸の値を酸素欠乏度と定義する。」
と記載されている。
また、本件特許図面の図5からは、上記段落0056の記載のとおり、横軸が波長220nmにおける吸光度、縦軸が波長260nmにおける吸光度であるグラフ上に直線が描かれていることが読みとれる。

(2)無効理由3bについての判断
上記段落0056及び図5の記載を含め、本件特許明細書及び図面には、請求人の主張する事項、すなわち、どの程度の長さの時間だけエキシマレーザを照射するか、また、どの程度の強度のエキシマレーザを照射するかについて、直接的には記載されていない。
そこで、請求人の主張する事項である、エキシマレーザの照射強度及び照射時間についてそれぞれ以下に検討する。

ア エキシマレーザの照射強度について
請求人は、上申書において、請求人が市販の石英ガラスにKrFエキシマレーザの照射を行った際に、暫定的にエネルギー密度を50mJ/cm2とした第1回実験では波長260nmの吸光度の測定が明確に観測されず、その原因としてエネルギー密度が小さかったためと考え、第2回実験でエネルギー密度を450mJ/cm2に変更し、その結果波長260nmの吸光度が測定可能となった旨述べている。
請求人自身がエキシマレーザのエネルギー密度の設定をすることができたのであるから、このことからだけでも、当業者であればエキシマレーザの照射強度(エネルギー密度)の値の設定は可能であるというべきであるが、念のため上記第2回実験で設定されたエネルギー密度の値について検討すると、合成石英ガラスの特性を調べるために試料となる合成石英ガラスにKrエキシマレーザを照射する際のエネルギー密度について、甲第5号証に「1パルスあたりのエネルギー密度を400mJ/cm2とし」(段落0035を参照。)と記載され、また、被請求人が上申書とともに提出した乙第1号証にも「パルス当りエネルギー密度200,400,600(mJ/cm2・pulse)」(第4頁右上欄第19行?左下欄第1行を参照。)と記載されていることからみて、請求人が行った上記第2回実験におけるエネルギー密度の値(450mJ/cm2)が通常設定される値の範囲を逸脱したものとはいえない。
そうすると、本件特許明細書の段落0056に記載されているエキシマレーザの照射に際し、エキシマレーザの強度(エネルギー密度)の値を設定することは当業者であれば可能であるというべきであって、請求人の主張は採用できない。

イ エキシマレーザの照射時間について
本件特許明細書の段落0056の記載からは、石英ガラスに対するエキシマレーザの照射及び吸光度の測定を開始し、照射を続けながら吸光度の測定を経時的に行い、得られた吸光度の値を順次グラフ上にプロットし、プロットした結果グラフ上には直線が描かれ、その描かれた直線と横軸との交点における横軸の値、すなわちx切片を「酸素欠乏度」と定義することが理解される。
ここで、吸光度の測定は経時的に行うのであるから、上記得られた吸光度の値を順次グラフ上にプロットしていく方向が照射時間の大きくなる方向であって、プロットした結果描かれる線は、その線方向の位置が照射時間を示すことは自明である。
そして、本件特許図面の図5のグラフには、横軸及び縦軸に示される各波長の吸光度の範囲において直線が描かれることが示されているから、エキシマレーザの照射時間は、各波長の吸光度の値が、本件特許図面の図5のグラフで示される範囲となる時間であると解することができると認められる。
この点について、請求人は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書において、エキシマレーザーの照射パルス数を300万ショット、600万ショット、1000万ショット及び1500万ショットとした4個のサンプルについての吸光度の値をプロットしたグラフを示し、いずれのサンプルを選択するかによって最小二乗法により作成される直線が異なるから、「酸素欠乏度」が様々に異なる値として導かれてしまう旨主張しているが、請求人の実験によるグラフは、本件特許図面の図5に記載されているグラフと比較すると、横軸のスケール及び縦軸のスケールのいずれも1桁又は2桁程度大きいものとなっているため、「酸素欠乏度」が様々に異なる値として導かれてしまうという請求人の主張が、本件特許図面の図5に示されている吸光度の範囲(照射時間の範囲)においてもいうことができるのか否か不明であるから、請求人の主張は採用できない。

(3)無効理由3bについてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3bによっては本件特許発明1の特許を無効とすることはできない。

2 無効理由3aについて
(1)本件特許発明1
本件特許発明1は、上記「第3」で示したとおりのものである。

(2)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証の記載のうち、請求人が審判請求書において「(3-A)」?「(3-D)」として摘記した事項は、それぞれ、以下のア?エのとおりである。

ア 「実際に使用した試料ランプの概略図を図2に示す。管径の異なる2本の石英ガラス管を同軸に配置し,中空円筒の放電空間を形成した。内側管内面には,光反射板を兼ねたアルミニウム蒸着電極を設けた。また,外側管の外部表面には金属網電極を設けた。光は,網電極を通して取り出した。点灯電源は,電圧は4kVから9kV,周波数は10kHzから20kHzである。また,実験したランプ電力の範囲は,10Wから30Wの範囲である。」(第98頁左欄第13行?第23行)

イ 「放電用ガスとしてキセノン,・・・・・・を使用した中空円筒形誘電体バリア放電エキシマランプの発光スペクトルを,図3に示す。それぞれ,波長172nm,・・・・・・に最大値を有し,半値幅がそれぞれ約14nm・・・・・・ある単色光的な発光スペクトルが得られた。」(第98頁右欄第13行?第19行)

ウ 「上記のエキシマ光の強度は,210nmにおいて172nmにおける強度の千分の一の桁にまで低下した。210nmから800nmの波長領域においては,キセノン原子のスペクトル線などが発生しているが,それらの強度は,全て,172nmにおける強度の千分の一以下であった。」(第99頁左欄第3行?第8行)

エ 「上記した光出力特性は,キセノンの圧力約10kPa以上においては,放電条件によってほとんど影響されなかった。一例として,入力電力を変えて測定した,キセノンエキシマ光のスペクトルの形と管壁負荷(ランプへの入力電力をランプの表面積で除した値)の関係を,図4に示す。スペクトルの形は,管壁負荷によってほとんど変わらなかった。」(第99頁左欄第9行?第16行)

また、甲第3号証には次の事項も記載されている。

オ 「以下,キセノンガスを使用したランプの特性について,詳しく説明する。放電容器は合成石英ガラスで,その透過率は160nmでは約26%,165nmでは約68%,170nm以上においては83%であった。従って,図3のスペクトルの170nm以下の形は,合成石英ガラスの透過率に影響されており,ランプ内の放電プラズマにおいて160nm以下の波長領域(例えば,キセノン原子の共鳴線147nmなど)に発光が有ったとしても,ランプの外には放出されない。」(第98頁右欄第20行?第99頁左欄第2行)

(3)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証の記載のうち、請求人が審判請求書において「(5-A)」?「(5-D)」として摘記した事項は、それぞれ、以下のア?エのとおりである。

ア 「石英ガラスの遠紫外領域(波長 200nm以下)での光吸収に関しては、OH基の存在に起因する光吸収帯が 150nm近傍の波長域に存在し、しかもOH基が多量に含まれる石英ガラスではその吸収ピークの裾が広がるので、 180nm以下の波長の光に対する透過率が悪くなる。
【0013】上記のようなOH基の濃度が高いことに起因する合成石英ガラスの光学特性の劣化を避けるためにOH基の濃度を100ppm以下に低下させると、今度は石英ガラス中に酸素欠乏欠陥が生成し、紫外領域に光吸収帯が生じたり、紫外領域の波長を有する光の照射により蛍光を発したりする。また、エキシマレーザー等の高エネルギー密度の光の照射により光損傷をうけ、その部分が構造欠陥となり、光吸収帯を生成することも知られている。」(段落0012?0013)

イ 「後述するように、酸素欠乏欠陥の生成は石英ガラス(SiO2)中に残存している塩素に起因するので、石英ガラスの塩素濃度を出来るだけ低下させて酸素欠陥の生成を防止すれば、石英ガラスが有している優れた光学特性を利用するうえで必ずしも必要ではなく、光学的均質性、すなわち屈折率分布の均一化を困難にするOH基の濃度を低下させることができ、光吸収がなく、蛍光も検出されず、光損傷をうけにくい合成石英ガラスを得ることが可能であると考えられる。」(段落0017)

ウ 「本発明は上記の考え方のもとになされたもので、その要旨は、『気相合成法により得られる合成石英ガラスであって、この合成石英ガラスの塩素濃度が5ppm 以下、OH基濃度が100ppm以下でかつOH基濃度の位置による変動幅が30ppm 以下であり、しかも紫外領域において光吸収帯が検出されないことを特徴とする光透過用合成石英ガラス』にある。」(段落0018)

エ 「【発明の効果】本発明の合成石英ガラスは光学的に均質で、蛍光を発しにくく、透過率も良好であるなど、光照射時の光学特性の安定性が高い。特に紫外領域の光を扱う光学部品用の合成石英ガラスとして好適で、リソグラフィー装置をはじめ、その他の高集積回路製造装置や、紫外領域のレーザーを利用した各種装置にも適用することができる。」(段落0043)

(4)対比・判断
上記摘記事項ア?オによると、甲第3号証には、

「放電空間を形成する放電容器を有し、最大値が172nm、半値幅が約14nmの光を放出するランプにおいて、
当該ランプは、前記放電容器内に、キセノンよりなる放電用ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて前記光が放出される誘電体バリア放電エキシマランプであり、
前記放電容器を構成する石英ガラスは、その透過率が170nm以上においては83%であって、
前記ランプの発光スペクトルは、210nmから800nmの波長領域においては、全て172nmにおける強度の千分の一以下であるランプ。」

の発明(以下「甲第3号証発明」という。)が記載されていると認められる。
本件特許発明1と甲第3号証発明とを対比すると、甲第3号証発明の「放電空間を形成する放電容器」、「最大値が172nm、半値幅が約14nmの光」、「ランプ」、「キセノンよりなる放電用ガス」、「誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて前記光が放出される誘電体バリア放電エキシマランプ」及び「放電容器を構成する石英ガラス」は、それぞれ、本件特許発明1の「放電空間を形成する放電容器」、「真空紫外光」、「放電ランプ」、「キセノンガスよりなる放電用ガス」及び「誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプ」及び「放電容器を構成する石英ガラス」に相当する。
また、甲第3号証発明の「ランプの発光スペクトル」は、ランプの動作状態における発光に係るものであって、当該発光には、「エキシマ」から放出され、「透過率が170nm以上においては83%」である「放電容器を構成する石英ガラス」を透過する透過光だけでなく、当該「石英ガラス」自体から発せられる蛍光又は黒体輻射等の他の光も含まれることは自明であるところ、それら全ての光について「210nmから800nmの波長領域においては、全て172nmにおける強度の千分の一以下である」のであるから、甲第3号証発明の「放電容器を構成する石英ガラス」は、ランプの動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光を含む光の放射強度が、波長172nmの光(真空紫外光)の放射強度の千分の一以下であるということができ、本件特許発明1と甲第3号証発明とは、「放電容器を構成する石英ガラス」が「放電ランプの動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものである」点で共通する。
そうすると、本件特許発明1と甲第3号証発明とは、

「放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプにおいて、
当該放電ランプは、放電容器内に、キセノンガスよりなる放電用ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプであり、
放電容器を構成する石英ガラスは、放電ランプの動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする放電ランプ。」

である点で一致し、以下の相違点ア及びイで相違する。

相違点ア 「放電容器を構成する石英ガラス」について、本件特許発明1のものが「酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下」であるのに対し、甲第3号証発明ではこれが明確ではない点。

相違点イ 「放電ランプの動作状態」について、本件特許発明1が「定格動作状態」であるのに対し、甲第3号証発明ではこれが明確ではない点。

上記相違点アについて検討すると、甲第5号証(特に、上記摘記事項エを参照。)には、塩素濃度が5ppm以下で、OH基濃度が100ppm以下である光透過用合成石英ガラスが記載されている。
ここで、甲第5号証の記載からは、ppmで表された塩素濃度及びOH基濃度について、本件特許発明1のように重量比での含有割合であるか否か明確ではないものの、その点について被請求人は争っていないし、また、固体中のある成分の濃度をppmで表す場合には、重量比であることが一般的であるから、甲第5号証には、水酸基の含有割合が重量比で100ppm以下であり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下である石英ガラスが記載されているとすると、当該石英ガラスは、水酸基の含有割合及び塩素基の含有割合については本件特許発明1の範囲のものとなっているということができる。
しかしながら、甲第5号証には「酸素欠乏度」を「-0.01?0.02の範囲」にすることについて記載も示唆もされていないばかりか、「酸素欠乏度」についての記載すらなされていないし、また、他の証拠をみても全く記載されてない。
この「酸素欠乏度」を「-0.01?0.02の範囲」にする点について、請求人は審判請求書において、『「酸素欠乏度が-0.01?0.02」であることは、酸素欠損又は酸素過剰構造による欠陥が少ない石英ガラスを意味している』(第16頁第20行?第21行)としたうえで、『本件発明2(当審注、訂正を認めたので「本件特許発明1」に相当する。以下同様。)は、甲第3号証の発明と甲第5号証の発明とを組み合わせ、さらに、理論的に欠陥が少ないと考えられる石英ガラスを単に「酸素欠乏度」なる新規なパラメータの数値範囲-0.01?0.02を用いて表現したに過ぎない。』(同頁第22行?第25行)と主張している。
ここで、「酸素欠乏度」は、既に検討したように本件特許明細書の段落0056の記載のとおり定義されるものであるが、本件特許図面の図5のグラフにおいて、「酸素欠乏度」の値を示すx切片を求めるために、当該グラフ上にプロットされた点の集合から直線を求める必要があるところ、例えば「酸素欠乏度」の値が0であるということは、当該直線がグラフの原点を通るというだけであって、たとえ「酸素欠乏度」の測定のためのエキシマレーザの照射の前の石英ガラスの欠陥が多くても、原点を通る直線が描かれる場合には、「酸素欠乏度」の値が0となることは自明である。
してみると、「酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲」にあるということは、必ずしも石英ガラスの欠陥が少ないことを意味するのではなく、2つの異なる種類の欠陥の存在比率(バランス)が特定の範囲であることを意味するということができるのであって、この点については、被請求人も、答弁書において『本件発明2における石英ガラスについての「酸素欠乏度」の範囲は、単に「理論的に欠陥が少ない範囲」を規定するものではない。』(第6頁第6行?第7行)及び『「酸素欠乏度」というパラメータを採用することにより、当該2つの現象のバランスを適切に表現することができる』(同頁第15行?第16行)と主張しているところである。
そうすると、請求人の上記主張は、『「酸素欠乏度が-0.01?0.02」であることは、酸素欠損又は酸素過剰構造による欠陥が少ない石英ガラスを意味している』という前提の部分において既に失当であって、本件特許発明1の認定を誤ったものであるということができるから、採用することはできない。
また、請求人は、弁駁書の『(1-2)酸素欠乏度の限定意義について』の項において『「酸素欠乏度」を限定する技術的意義は全く裏付けられておらず、単なる限定に過ぎない。よって、・・・甲第3号証に記載の発明に、・・・甲第5号証の発明を組み合わせ、さらに「酸素欠乏度」なる特殊なパラメータを作り出してこれを適宜な数値に限定することは、当業者が容易に採択し得る程度のことというべきである。』(第6頁第2行?第8行)と結論づけているが、「酸素欠乏度」を限定する技術的意義が全く裏付けられていないという主張について、本件特許明細書が実施可能要件(平成14年改正前特許法第36条第4項)又はサポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていないとする理由の根拠として主張するならともかく、本件特許発明1の進歩性を否定するための根拠とする理由が不明であるし、また、請求人が挙げたいずれの証拠にも「酸素欠乏度」について記載も示唆もされていないにもかかわらず、『「酸素欠乏度」なる特殊なパラメータを作り出してこれを適宜な数値に限定すること』が、何故『当業者が容易に採択し得る程度のこと』であるといえるのか理由が全く不明であるから、この主張も採用できない。
そして、上記相違点アが解消しない以上、上記相違点イについては検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第3号証発明及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)無効理由3aについてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3aによっては本件特許発明1の特許を無効とすることはできない。

3 無効理由4について
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書において、本件特許発明1の放電ランプが有する放電容器を構成する石英ガラスの製造方法が記載されているのは、実質的に段落0071のみであると認められ、その記載内容は以下のとおりである。

「【0071】
上記の特定の非蛍光性石英ガラスは、例えば次のような方法により製造することができる。
高純度珪素化合物である四塩化珪素を原料とし、酸水素火炎中で気相化学反応により石英ガラス微粒子を合成するとともにこれを堆積させ、例えばその直径が35cmで長さが100cmの多孔体(スート)を合成する。
次に、この合成された多孔体を、真空炉内において減圧下で例えば1550℃の条件で熱処理して焼結させることにより、例えば直径が120?135mm、長さが650mmの石英ガラスロッド(プリフォーム)を製造する。
この石英ガラスロッドを、所望の形状例えば管状または板状に加工した後、雰囲気炉に入れ、水素雰囲気下で熱処理を行って分子状水素を十分拡散させることにより、水酸基の含有割合が重量比で30ppmから500ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下の範囲である非蛍光性石英ガラスが得られる。
また、石英ガラスロッドの製造工程において、多孔体を、例えば1250℃の条件で仮焼き処理した後、1550℃の条件で熱処理して焼結させることにより、水酸基の含有割合が重量比で10ppmから70ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下の範囲である非蛍光性石英ガラスが得られる。」

上記記載から、「水酸基の含有割合」及び「塩素基の含有割合」を本件特許発明1の範囲とするための製造方法については、一応記載がなされていると認められる。

(2)無効理由4に対する被請求人の主張の概要
被請求人の無効理由4に対する主張は、答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書によると、概ね以下のとおりである。

ア 『本件特許明細書の段落番号0071には、本件発明2で規定されている石英ガラスを製造するための方法が具体的、かつ詳細に記載されており、当業者が本件発明2を実施するために必要な記載が十分になされている。』(答弁書第9頁第19行?第21行)

イ 『(1)「酸素欠乏度」の制御について
本件特許明細書の段落番号0071には、スート法によれば、次の工程によって非蛍光性石英ガラスが製造されることが記載されている。
〔1〕多孔体(スート)の形成工程
「高純度珪素化合物・・・多孔体を合成する。」(第18欄第1行?第5行)
〔2〕本焼結処理工程
「次に、この合成された多孔体を、真空炉内において減圧下で例えば1550℃の条件で熱処理して焼結させることにより、・・・石英ガラスロッド(プリフォーム)を製造する。」(同欄第5行?第9行)
〔3〕ガラス加工工程
「この石英ガラスロッドを、所望の形状例えば管状または板状に加工し」(同欄第9行?第11行)
〔4〕水素処理工程
「雰囲気炉に入れ、水素雰囲気下で熱処理を行って分子状水素を十分拡散させる」(同欄第11行?第12行)
そして、多孔体の形成工程の次に「仮焼結処理工程」が行われる場合があり、この場合には、仮焼結処理工程に続いて本焼結処理工程が行われる。
〔5〕仮焼結処理工程
「また、石英ガラスロッドの製造工程において、多孔体を、例えば1250℃の条件で仮焼き処理(する)」(同欄第16行?第17行)
以上の製造方法において、仮焼結処理が行われない場合には、〔2〕本焼結処理工程および〔4〕水素処理工程により、「酸素欠乏度」が制御される。すなわち、本焼結処理工程では、減圧下で温度条件を調整することにより、酸素欠乏度が制御され、また、水素処理工程により、「水酸基の含有割合が重量比で30ppmから500ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下の範囲である非蛍光性石英ガラスが得られる。」(同欄第12行?第16行)
一方、仮焼結が行われる場合には、〔5〕仮焼結処理工程、〔2〕本焼結処理工程および〔4〕水素処理工程により、「酸素欠乏度」が制御される。すなわち、仮焼結処理工程、本焼結処理工程および水素処理工程により、「水酸基の含有割合が重量比で10ppmから70ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下の範囲である非蛍光性石英ガラスが得られる。」(同欄第18行?第21行)。』(口頭審理陳述要領書第5頁第11行?第6頁第15行。なお、丸数字については亀甲括弧付きの数字に置き換えた。以下も同様である。)

ウ 『本件特許明細書の段落番号0071に記載されている方法によれば、熱処理の条件(雰囲気の種類、温度、時間など)を制御して適宜の具体的条件を採用することにより、水酸基の含有割合、塩素基の含有割合および酸素欠乏度が所望の範囲に制御された石英ガラスを製造することができる。勿論、どのような条件であってもよい、というものはないが、或る特定の条件による処理によれば、当該条件に応じた状態の石英ガラスが得られるのであって、その再現性は高いものである。従って、用いる石英ガラス材料に応じて、所望の結果が得られる熱処理の条件を経験的に選定し、採用して行くことにより、確実に、水酸基の含有割合、塩素基の含有割合および酸素欠乏度が所望の範囲の石英ガラスを得ることができる。そして、そのような条件の選定は、当業者にとっては容易なことである。』(口頭審理陳述要領書第7頁第21行?第8頁第3行)

エ 『酸素欠乏度を所望の範囲とするための制御方法について説明する。
(i)酸素欠乏度は、石英ガラスにおける酸素欠乏欠陥(E´センタ)と酸素過剰欠陥(NBOHC)の生成比率に直接的に関与する特性を示す指標であって、その値は、石英ガラスの製造においてE´センタおよびNBOHCの生成に関与する条件を調整することにより、制御することができる。
具体的には、石英ガラスの製造において、E´センタが生成され易い条件(この条件は、通常、NBOHCが生成されにくい条件である。)およびNBOHCが生成され易い条件(この条件は、通常、E´センタが生成されにくい条件である。)の各々について、或る特定の処理条件を選定すると、或る値の酸素欠乏度を有する石英ガラスが得られる。これを「石英ガラスA」とする。
この石英ガラスAが、もし酸素欠乏度の値が所望の範囲より小さいものであれば、・・・石英ガラスAの場合に比して、製造の条件を、E´センタが生成され易くてNBOHCが生成されにくいものとすることにより、石英ガラスAよりも酸素欠乏度が大きい石英ガラスBが得られる。そして、この石英ガラスBが所望の酸素欠乏度の範囲に達していないものであれば、更にE´センタが生成され易くてNBOHCが生成されにくい条件を選定することにより、更に酸素欠乏度が大きい石英ガラスCが製造される。
一方、石英ガラスAが、もし酸素欠乏度の値が所望の範囲より大きいものであれば、・・・石英ガラスAの場合に比して、製造の条件を、E´センタが生成されにくくてNBOHCが生成され易いものとすることにより、石英ガラスAよりも酸素欠乏度が大きい(当審注、「小さい」の誤記と考えられる。)石英ガラスDが得られ、この石英ガラスDがなお所望の酸素欠乏度の範囲に達していないものであれば、更にE´センタが生成されにくくてNBOHCが生成され易い条件に変更することにより、更に酸素欠乏度が小さい石英ガラスEが製造される。
以上のような方法により、酸素欠乏度が所望の範囲にある石英ガラスを製造することができるのであるから、上記の方法は、結局、石英ガラスについて、その酸素欠乏度を制御する方法である。』(上申書第7頁第3行?第8頁第4行)

オ 『(ii)石英ガラスの製造において、E´センタ及びNBOHCの生成され易さに関与する条件の代表的なものは下記のとおりである。
〔1〕スートの形成工程における合成火炎に供給する酸素量と水素量の量比
スート形成工程における合成火炎中の理論反応式は下記の式(1)で表される。
SiCl4+2H2+O2→SiO2+4HCl ・・・(1)
ここで、SiCl4は珪素原料、H2は燃焼ガス、O2は支燃ガス、
SiO2は合成されたシリカ粒子、HClは塩化水素である。
ただし、実際の反応では、珪素原料を有効にシリカ粒子に変換させるために、珪素原料に対して酸素および水素を共に理論反応式よりも多く供給する。そのために水蒸気が発生する。この水蒸気がスート中に含まれるOH基の源となる。
また、酸素量と水素量の量比「ガス混合比」を「2×酸素量/水素量」と定義すると・・・「ガス混合比」の適正範囲は1を超えるものとなる。・・・当該「ガス混合比」の適正範囲内でより1に近い状態では、酸素量に対して水素量が多いためにSiO2の中の酸素原子が取られ易くてE´センタが生成し易く、NBOHCが生成しにくくなる。
一方、当該「ガス混合比」の適正範囲内でより数値が大きい範囲では、酸素量に対して水素量が少ないためにSiO2の中の酸素原子が取られにくく、逆に酸素原子過剰になり易くてE´センタが生成しにくく、NBOHCが生成し易くなる。
〔2〕焼結工程(本焼結工程および仮焼結工程)における処理炉として、例えば真空焼結炉を使用する場合の真空度
焼結工程において、真空度は通常例えば10?50Pa程度とされるが、真空度が高い条件では、E´センタが生成し易くNBOHCが生成しにくい。逆に、真空度が低い条件では、E´センタが生成しにくくNBOHCが生成し易くなる。
真空度が高い場合には、石英ガラスの正常な原子配列状態(Si-O-Si)から酸素原子が抜け易いために、酸素欠乏欠陥であるE´センタが生成し易いものと考えられる。
〔3〕焼結工程(本焼結工程および仮焼結工程)における昇温速度
焼結工程においては、例えば1500℃にまで昇温されるが、その昇温速度が速い条件では、E´センタが生成し易くNBOHCは生成しにくい。逆に、昇温速度が遅い条件では、E´センタが生成しにくくNBOHCは生成し易くなる。
昇温速度が速い場合には、スートが急速に昇温されて真空下で高温度に曝されるため、石英ガラスの正常な原子配列状態(Si-O-Si)から酸素原子が抜け易く、その結果、E´センタが生成し易いものと考えられる。』(上申書第8頁第5行?第9頁第21行)

カ 『口頭審理陳述要領書第7頁記載の「適宜の具体的条件」とは、目的とする石英ガラスに対して、現在得られている石英ガラス材料の状態を分析し、その不足しているものを補うと共に、その過剰となっているものを減らせばよい条件であり、一概に規定し得るものではなく』(上申書第9頁第23行?第26行)

キ 『例えば甲第5号証の段落番号0009、0010および0012などに記載されているように、石英ガラスの酸素欠陥を制御する具体的な方法は、それ自体として公知であるのであるから、本件特許明細書の記載に基づいて、当業者は本件発明2を実施することができることは明白である。』(答弁書第9頁第22行?第25行)

ク 『(当審注、甲第5号証の)段落番号0009には、合成石英ガラスの製造方法の主流である気相合成法のうちの「プラズマ法」について説明されており、・・・このプラズマ法において、「プラズマガス中の酸素分圧が変動すると、得られる石英ガラスに酸素過剰欠陥あるいは酸素欠乏欠陥が生ずる」のであるから、この記載は、プラズマガス中の酸素分圧を調整することにより、酸素欠陥を制御することができることを意味するものである。』(口頭審理陳述要領書第2頁第9行?第18行)

ケ 『(当審注、甲第5号証の)段落番号0010には、合成石英ガラスの気相合成法である「スート法」について説明されており、・・・このスート法によれば、スートの形成に酸素-水素火炎が用いられるが、酸素-水素バーナの火炎の消失を防ぐ目的で酸素の供給が過剰に行われるために、スートは、-OH基や-O-O-基の形態で酸素を過剰に含有するもの、すなわち酸素過剰欠陥の割合が高い状態のものとなる。そして、スートの焼結処理において、雰囲気の制御、例えば真空下で熱処理されることにより、酸素およびOH基が除去され、これにより酸素欠陥が制御される。』(口頭審理陳述要領書第2頁末行?第3頁第9行)

コ 『(当審注、甲第5号証の)段落番号0012には『石英ガラスの酸素欠陥を制御する具体的な方法』は記載されておらず』(口頭審理陳述要領書第3頁第10行?第11行)

サ 『甲第5号証には、酸素欠陥を制御する具体的な方法について、更に下記の記載がある。
〔1〕段落番号0013の第2行?第4行に、
「OH基の濃度を100ppm以下に低下させると、今度は石英ガラス中に酸素欠乏欠陥が生成し」と記載されており、OH基の濃度制御によって酸素欠陥を制御することができることが示されている。
〔2〕段落番号0031の第5行?第11行には、スート法における加熱炉中での焼結処理について、
「この加熱炉内での処理は、例えば、酸化性雰囲気中および真空下で行い、これによって塩素濃度、およびOH基濃度とその変動幅が規定の範囲内に入るように調整する。紫外領域において光吸収帯が検出されないようにするためには酸素過剰欠陥ならびに酸素欠乏欠陥を極力減少させることが必要で、加熱炉内での処理条件を適宜コントロールする。」
と記載されており、焼結時の雰囲気を制御することにより、酸素欠陥を制御することができることが示されている。』(口頭審理陳述要領書第3頁13行?末行)

(3)無効理由4についての判断
ア 平成14年改正前特許法第36条第4項は「発明の詳細な説明は、・・・その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない」と規定している。
そして、「特許庁編 特許・実用新案審査基準」の「第I部第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件」の「3.発明の詳細な説明の記載要件」には、

「(1)この条文は、その発明の属する技術分野において研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(当業者)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味する(「実施可能要件」という)。(2)したがって、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)には、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる。・・・(4)条文中の「その(発明の)実施をすることができる」とは、請求項に記載の発明が物の発明にあってはその物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり」(「3.2 実施可能要件」を参照。)、

「(2)物の発明についての「発明の実施の形態」 物の発明について実施をすることができるとは、上記のように、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであるから、「発明の実施の形態」も、これらが可能となるように記載する必要がある。・・・〔2〕「作ることができること」 物の発明については、当業者がその物を製造することができるように記載しなければならない。このためには、どのように作るかについての具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き、製造方法を具体的に記載しなければならない。機能・特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能・特性等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法を示す必要がある。なお、物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野(例:化学物質)において、機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が、技術常識を考慮してもどのように作るか理解できない場合(例えば、そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)は、実施可能要件違反となる。」(「3.2.1 実施可能要件の具体的運用」を参照。)

と記載されている。

イ これを本件特許発明1にあてはめると、物の発明である本件特許発明1を特定するための事項である「石英ガラス」についての限定である「酸素欠乏度」は、明らかに標準的なものでも当業者に慣用されているものでもなく、本件特許明細書の段落0056の記載からみて石英ガラスにエキシマレーザを照射した際の所定の2つの波長における吸光度の測定により定量的に決定されるものであって、『石英ガラスのいわば初期状態の特性』(被請求人提出の上申書第3頁第24行を参照。)であるということができ、そのような特性である「酸素欠乏度」から石英ガラスの構造を予測することは困難であると認められるから、本件特許発明1は「物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野」に係るものであるということができる。
そして、上述のとおり本件特許明細書において実質的に石英ガラスの製造方法が記載された唯一の箇所であると認められる段落0071には、「酸素欠乏度」を本件特許発明1の範囲である「-0.01?0.02」に制御するための製造条件について何ら記載されていないばかりか、「酸素欠乏度」という語すら記載されていないのであるから、本件特許発明1は、「機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物・・・以外の物」に係るものであるということができる。
そこで、本件特許発明1の物が、「当業者が、技術常識を考慮してもどのように作るか理解できない」ものであるか、又は、「そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤・・・を行う必要がある」ものであるかを以下に検討する。

ウ 上記無効理由4に対する被請求人の主張ア?カを総合すると、要するに、「酸素欠乏度」が所望の範囲にある石英ガラスを得るために、その製造条件を上記主張エで示されているような試行錯誤により選定する、というものである。
しかしながら、当該製造条件の選定は、『酸素欠乏度は、石英ガラスにおける酸素欠乏欠陥(E´センタ)と酸素過剰欠陥(NBOHC)の生成比率に直接的に関与する特性を示す指標であって、その値は、石英ガラスの製造においてE´センタおよびNBOHCの生成に関与する条件を調整することにより、制御することができる。』(上記主張エを参照。)という前提に基づいて行うものであるといえるところ、そのような前提について、本件特許明細書には何ら記載されていないばかりか、本件特許明細書の段落0014の「真空紫外光が照射されることによって、石英ガラスの当該波長域における透過率が低下する現象は、・・・本発明者等が新たに発見したものであり、真空紫外光を放出する放電ランプおよび真空紫外光源装置固有の問題である。・・・このような波長域における透過率の低下は、E´センタやNBOHCの生成などの従来から提唱されている種々の欠陥では説明することができない現象である。従って、従来の理論による対策を行っても、このような現象を防止または抑制することはできない。」という記載をみた当業者が、「従来の理論による対策」であるといえる『E´センタおよびNBOHCの生成に関与する条件』の『調整』により、「酸素欠乏度」の制御を行うことに想到するのは困難であるといえるから、被請求人の上記主張は、その前提において失当であるというべきであって、採用できないものである。
仮に、本件特許明細書の記載又は本件特許の出願当時の技術常識に基づけば上記の前提に立つことができるのであるとしても、被請求人が上記主張オで代表的なものとして挙げた3つの製造条件の制御により、『E´センタ及びNBOHCの生成され易さ』を変化させ得ることは本件特許明細書に記載されておらず、また、そのことが本件特許の出願時の技術常識であるのか否かについても何ら裏付けがなされていないから、当業者が本件特許発明1の物を製造することができるとはいいがたい。
さらに仮に、上記3つの製造条件の制御により『E´センタ及びNBOHCの生成され易さ』を変化させることが本件特許の出願時の技術常識であり、上記主張エで示されているような試行錯誤により「酸素欠乏度」のみについては本件特許発明1の範囲とすることができたとしても、本件特許発明1における石英ガラスは、本件特許明細書の段落番号0071に記載されている製造工程により「水酸基の含有割合」及び「塩素基の含有割合」をそれぞれ重量比で「10?500ppmの範囲」及び「5ppm以下」とするとともに、「放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のもの」(「酸素欠乏度」の値(本件特許明細書の段落0066を参照。)のみならず、分子状水素の含有割合にも依存する(同段落0069を参照。)と解される。)としたうえで、「酸素欠乏度」の範囲を「-0.01?0.02」としなければならないところ、上記主張オで代表的なものとして挙げられた3つの製造条件の制御が、「水酸基の含有割合」、「塩素基の含有割合」及び「波長650nm付近における蛍光の放射強度」に対してどのような影響を及ぼすのか不明である以上、当業者は、何らの指針もないまま不相当に多くの試行錯誤をしなければならないことになるから、本件特許発明1の物を製造するには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要があるといわざるをえない。

エ 上記無効理由4に対する被請求人の主張キ?サを総合すると、要するに、甲第5号証の段落0009、0010、0013及び0031に記載されているように、石英ガラスの酸素欠陥を制御する具体的な方法は、本件特許の出願時に公知であるから、本件特許明細書の記載に基づいて、当業者が本件特許発明1を実施できることは明白である、というものである。
しかしながら、上記被請求人が挙げた甲第5号証の段落0009、0010、0013及び0031をみても、本件特許発明1の「酸素欠乏度」について何ら記載されておらず、請求人の『「酸素欠乏度」と「酸素欠陥」とは全く異なる概念』(弁駁書第8頁第4行?第5行を参照。)であるという主張に対して、被請求人も『本件発明にいう「酸素欠乏度」は、本件特許明細書の段落番号0056の記載に従って得られるものであり、それが単なる酸素欠陥と異なる概念であることは請求人のいうとおりである。』(口頭審理陳述要領書第10頁下から2行?第11頁第1行を参照。)と認めており、甲第5号証により石英ガラスの「酸素欠陥」を制御する具体的な方法が本件特許の出願時に技術常識であったとしても、何故、当業者が「酸素欠乏度」を制御できることの理由となるのか不明であるから、この点に関する被請求人の主張も採用できない。

(4)無効理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1の物は、当業者が、技術常識を考慮してもどのように作るか理解できず、そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要があるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
したがって、本件特許発明1の特許は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当するから、無効とされなければならない。

4 無効理由5について
(1)本件特許明細書の記載
上記「3 無効理由4について」の「(1)本件特許明細書の記載」で示したのと同様に、本件特許明細書において、本件特許発明2の放電ランプが有する放電容器を構成する石英ガラスの製造方法が記載されているのは、実質的に段落0071のみであると認められ、その記載内容は上記のとおりであるところ、そのうちの「水素雰囲気下で熱処理を行って分子状水素を十分拡散させる」という記載から、「分子状水素」の制御については一応記載されているということができる。

(2)無効理由5に対する被請求人の主張の概要
被請求人の無効理由5に対する主張は、口頭審理陳述要領書及び上申書によると、概ね以下のとおりである。

ア 『石英ガラス中の(・Si-Si・)結合の含有割合は、焼結工程(仮焼結が行われない場合には本焼結、または仮焼結が行われる場合には仮焼結および本焼結)において、その加熱温度、雰囲気を調整することによって制御することができる。具体的には、酸素雰囲気または酸化性雰囲気下において熱処理することにより、(・Si-Si・)結合を酸素欠陥のない正常な結合に変換できるので、(・Si-Si・)結合の含有割合を減少させることができる。』(口頭審理陳述要領書第8頁第13行?第18行)

イ 『口頭審理陳述要領書第8頁記載の「(・Si-Si・)結合の含有割合」の制御について、「酸素雰囲気又は酸化性雰囲気下において熱処理する」ことは下記の文献〔1〕?〔3〕に記載されている。
〔1〕文献 PHYSICAL REVIEW B VOLUME 38, NUMBER 17 (1988)の第12772頁右欄末行?第12773頁左欄第11行
(訳文)
「試料を、H2中において800℃で、またはO2中において900℃で加熱処理すると、これらの吸収帯は加熱時間の増加に伴って減少した。・・・O2との反応は、式(2)と考えられる。
ODC+1/2O2 → ≡Si-O-Si≡, (2)
・・・」
ここに、「ODC」は「酸素欠乏欠陥」(oxygen-deficient centers)であって(第12772頁左欄第4行?第5行参照)、・Si-Si・結合は酸素欠乏欠陥の代表的なものであり、これが酸素処理によって制御されることが示されている。・・・
〔2〕特開平6-234545号公報(請求人提出の甲第5号証を援用する。)
段落0031の第5行?第11行
「この加熱炉内での処理は、例えば、酸化性雰囲気中および真空下で行い、これによって塩素濃度、およびOH基濃度とその変動幅が規定の範囲内に入るよう調整する。紫外領域において光吸収帯が検出されないようにするためには酸素過剰欠陥ならびに酸素欠乏欠陥を極力減少させることが必要で、加熱炉内での処理条件を適宜コントロールする。」
この記載においては、・Si-Si・結合そのものについては直接に言及されていないが、塩素濃度およびOH基濃度が調整されることは、当然のことながら、同時に・Si-Si・結合も必然的に酸化性雰囲気による作用を受けるはずであるから、・Si-Si・結合が正常な・Si-O-Si・に変換されるものと解される。このように、加熱炉内での処理条件をコントロールすることにより、酸素欠乏欠陥である・Si-Si・結合が減少することが示されている。
〔3〕特開平1-197335号公報(乙第1号証)
(i)第3頁右上欄第6行?左下欄第8行
「前記好ましい結果が得られた母材は加熱処理前の母材に比していずれも石英ガラス組織(SiO2)中に存在する酸素欠陥、具体的には下記〔1〕の式で示される酸素欠損型欠陥・・・が実質的に除去されていることが確認された。
〔1〕O O
\ /
O-Si-Si-O
/ \
O O
・・・
従って本発明は上述した知見と実験結果に基づいてなされたものであり、その特徴とするところは、レーザ光学系の母材となるべき高純度石英ガラス塊を形成した後、酸化性又は還元性のいずれか一又は複数の選択された雰囲気中で、前記石英ガラス塊を加熱処理する事により、該石英ガラス塊組織中に存在する酸素欠陥の実質的除去を図った点にある。
(ii)第4頁左下欄第19行?右下欄第5行
「次に、スート再溶融法で合成された石英ガラス塊には、酸素欠損型欠陥が存在し、耐エキシマレーザ性は好ましい結果が得られなかったが、その後この石英ガラス塊を酸化性雰囲気にて熱処理し、酸素欠陥濃度を実質的に除去させる事により耐エキシマレーザ性を大幅に向上させる事が出来た。」』(上申書第4頁第2行?第6頁第1行)

ウ 『分子状水素および(・Si-H)結合の含有割合については、主として、水素処理工程において、熱処理の雰囲気における水素分圧を大きくすることにより、それらの含有割合を大きくすることができ、一方、酸素雰囲気下で加熱することにより、Hが除去されて分子状水素および(・Si-H)結合の含有割合を小さくすることができる。』(口頭審理陳述要領書第8頁第19行?第23行)

エ 『この記載は、
(i)分子状水素の含有割合について、「主として、水素処理工程において、熱処理の雰囲気における水素分圧を大きくすることにより、その含有割合を大きくすることができ、一方、酸素雰囲気下で加熱することにより、Hが除去されてその含有割合を小さくすることができる。」ことを表明すると共に、
(ii)(・Si-H)結合の含有割合について、「主として、水素処理工程において、熱処理の雰囲気における水素分圧を大きくすることにより、その含有割合を大きくすることができ、一方、酸素雰囲気下で加熱することにより、Hが除去されてその含有割合を小さくすることができる。」ことを表明するものであると解されるべき記載である。
決して、分子状水素の含有割合と(・Si-H)結合の含有割合の両方が一括的に制御されることを意味するものではない。
分子状水素は、石英ガラスの組織中に「溶解」することによって含有されるものであり、一方、(・Si-H)結合は、石英ガラスの組織それ自体における状態として含有されるものである。従って、熱処理における雰囲気の種類および条件によって両者の含有割合が共に変化することがあることは勿論である。しかし、分子状水素の含有割合が変化する度合いと(・Si-H)結合の含有割合が変化する度合いは、同じ工程の制御であっても同一ではなく、また、水素処理工程における制御と酸素雰囲気下の加熱における制御においても、それらの変化の度合いは同じではない。このことを利用すれば、分子状水素と(・Si-H)結合とを、それぞれ所望の値に制御することができる。』(上申書第6頁第9行?第7頁第1行)

(3)無効理由5についての判断
ア 上記無効理由5に対する被請求人の主張ア及びイは、要するに、石英ガラス中の・Si-Si・結合の含有割合は、石英ガラスを酸素雰囲気又は酸化性雰囲気下において熱処理することにより減少させることができるものであって、そのことは主張イで挙げた文献に記載されているというものである。
ここで、石英ガラス中の・Si-Si・結合の含有割合を減少させるために、石英ガラスを酸素雰囲気または酸化性雰囲気下において熱処理することが、本件特許の出願時に技術常識であったか否かについて検討すると、上記主張イで挙げられた文献のうち、〔2〕の文献には被請求人も認めるとおり直接言及されていないものの、少なくとも〔1〕及び〔3〕の文献には記載されていると認められ、〔1〕及び〔3〕の文献の頒布時期からみて、本件特許の出願時の技術常識であったものと一応認めることができる。
しかしながら、石英ガラス中の・Si-Si・結合の含有割合を制御するために、石英ガラスを酸素雰囲気又は酸化性雰囲気下において熱処理することについて、本件特許明細書には何ら記載されていないし、「酸素欠乏度」の制御に関してではあるが、『段落番号0071に記載されている製造工程のいずれが、石英ガラスに酸素を供給するものとなっているのか。』という審判合議体からの質問(口頭審理陳述要領書第5頁第8行?第9行を参照。)に対しても、被請求人は明確に回答していない。
そればかりか、被請求人は口頭審理陳述要領書において、上記質問に関して、『段落番号0071には、スート法によれば、次の工程によって非蛍光性石英ガラスが製造されることが記載されている。』(第5頁第12行?第13行)、『必ずしも「酸素を供給する必要がある」わけではない。』(第6頁第18行?第19行)及び『含有酸素量が不足している石英ガラス材料では、酸素を供給することが必要である。この酸素の供給は、通常、酸素雰囲気(酸化性雰囲気)による熱処理(酸素処理)によって行われる。一方、・・・含有される酸素量が過剰の石英ガラス材料では、酸素を除去することが必要である。例えばスート法による石英ガラス材料(スート)は、この含有酸素量が過剰な状態のもの』(第7頁第1行?第6行)と主張しており、これらの主張に基づくと、本件特許明細書記載のスート法により製造される石英ガラスは、含有酸素量が過剰であるため「酸素欠乏度」の値は小さいにもかかわらず、当該石英ガラスを酸素雰囲気又は酸化性雰囲気下において熱処理すると、更に含有酸素量を増大させることになるといえるから、「酸素欠乏度」の値が本件特許発明2で規定する範囲よりも小さくなることがありうることになる。
さらに、分子状水素の含有割合について、本件特許発明2で「1015個/cm3以上溶解度以下」と規定されているのは「大きいほど好ましい」(本件特許明細書の段落0069を参照。)からであるところ、上記無効理由5に対する被請求人の主張ウ及びエによると、分子状水素の含有割合は、酸素雰囲気下での熱処理により小さくなるのであるから、当該熱処理の処理条件等によっては、本件特許発明2で規定する下限値(1015個/cm3)よりも小さくなることがありうることになる。
そうすると、石英ガラス中の・Si-Si・結合の含有割合を、本件特許発明2で規定されている5×1016個/cm3以下に減少させることのみを目的として、当業者が技術常識に基づいて酸素雰囲気又は酸化性雰囲気下における熱処理を行うことができたとしても、当該酸素雰囲気又は酸化性雰囲気下における熱処理により影響を受ける「酸素欠乏度」の値及び分子状水素の含有割合について、本件特許発明2で規定する範囲を逸脱しないようにするには、上記熱処理の処理条件(雰囲気中の酸素又は酸化性ガスの分圧(酸化性雰囲気では酸化性ガスの種類も)、昇温速度、処理温度、処理時間等)、及び、本件特許明細書の段落0071に記載されている製造工程中のどの時点で行うのか(特に、真空炉内の熱処理及び水素雰囲気下での熱処理との先後関係)が明らかにされなければならないと認められるところ、それらの点について、本件特許明細書に記載されていないし、また、本件特許の出願時における技術常識であるともいえないから、本件特許明細書の記載に基づいて当業者が本件特許発明2の物を製造することができるとはいいがたい。

イ 上記無効理由5に対する被請求人の主張ウ及びエは、分子状水素の含有割合及びシリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合の制御に関するものである。
ここで、『分子状水素は、石英ガラスの組織中に「溶解」することによって含有されるもの』及び『(・Si-H)結合は、石英ガラスの組織それ自体における状態として含有されるもの』であることは上記主張エのとおりであるとしても、どちらも石英ガラス中に含有される水素である点で共通するから、上記主張ウのとおり『主として、水素処理工程において、熱処理の雰囲気における水素分圧を大きくすることにより、それらの含有割合を大きくすることができ』るものと認められ、上記主張エのうちの『決して、分子状水素の含有割合と(・Si-H)結合の含有割合の両方が一括的に制御されることを意味するものではない』という主張は根拠がないものといわざるをえない。
この点を踏まえてさらに検討すると、シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合が本件特許発明2において「6×1016個/cm3以下」と規定されているのは、「シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有量の検出限界は6×1016個/cm3」であって「いかなる方法によっても検出されないことが好ましい」(本件特許明細書の段落0060を参照。)からであって、小さいほど好ましいということができる一方で、分子状水素の含有割合は上述のとおり「大きいほど好ましい」とされているから、両者の含有割合の制御目標は、それぞれ相反するものとなっており、本件特許明細書の段落0071に記載されている「水素雰囲気下で熱処理を行って分子状水素を十分拡散させる」という水素処理工程により、シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合は、本件特許発明2に規定する上限値(6×1016個/cm3)を超えることがありうるということができる。
この点に関し、上記主張エでは『分子状水素の含有割合が変化する度合いと(・Si-H)結合の含有割合が変化する度合いは、同じ工程の制御であっても同一ではなく、また、水素処理工程における制御と酸素雰囲気下の加熱における制御においても、それらの変化の度合いは同じではない。このことを利用すれば、分子状水素と(・Si-H)結合とを、それぞれ所望の値に制御することができる。』と主張しているが、「含有割合が変化する度合い」がどの程度であって、その「度合い」が「同じではない」ことをどのように利用するのか、何ら示されておらず不明である。
また、仮に、上記主張のとおりに分子状水素の含有割合及びシリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合を制御することが、本件特許の出願時の技術常識であったとしても、上記『水素処理工程における制御と酸素雰囲気下の加熱における制御』は、少なくとも「酸素欠乏度」の値及び・Si-Si・結合の含有割合にも影響を及ぼすものであるから、分子状水素の含有割合及びシリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合については本件特許発明2の範囲とすることができても、「酸素欠乏度」の値及び・Si-Si・結合の含有割合を含めて本件特許発明2の範囲とするためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要があるといわざるをえない。

(4)無効理由5についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
したがって、本件特許発明2の特許は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当するから、無効とされなければならない。

第6 むすび
以上のとおり、無効理由4及び5には理由があり、本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた特許であるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とされなければならない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
放電ランプおよび真空紫外光源装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプにおいて、
当該放電ランプは、放電容器内に、キセノンガスよりなる放電用ガスまたはアルゴンガスと塩素ガスとの混合ガスよりなる放電用ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプであり、
放電容器を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下であって、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】放電容器を構成する石英ガラスは、・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3以下であり、当該非蛍光性石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプにおいて、
当該放電ランプは低圧水銀ランプであり、
放電容器を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の10%以下のものであることを特徴とする放電ランプ。
【請求項4】放電容器を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下のものであることを特徴とする請求項3に記載の放電ランプ。
【請求項5】放電容器を構成する石英ガラスは、・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3以下であり、当該非蛍光性石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の放電ランプ。
【請求項6】放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプと、
この放電ランプを収納し、当該放電ランプからの真空紫外光を取り出す窓部材を有するランプハウスとを具えてなり、
前記ランプハウス内が不活性ガスで充満された状態で作動される真空紫外光源装置において、
前記放電ランプは、放電容器内に、放電用ガスとしてキセノンガスまたはアルゴンガスと塩素ガスとの混合ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプであり、
前記放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする真空紫外光源装置。
【請求項7】放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下のものであることを特徴とする請求項6に記載の真空紫外光源装置。
【請求項8】放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3以下であり、当該石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の真空紫外光源装置。
【請求項9】放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプと、
この放電ランプを収納し、当該放電ランプからの真空紫外光を取り出す窓部材を有するランプハウスとを具えてなり、
前記ランプハウス内が不活性ガスで充満された状態で作動される真空紫外光源装置において、
前記放電ランプは低圧水銀ランプであり、
前記放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の10%以下のものであることを特徴とする真空紫外光源装置。
【請求項10】放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下のものであることを特徴とする請求項9に記載の真空紫外光源装置。
【請求項11】放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3以下であり、当該石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものであることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の真空紫外光源装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、真空紫外光を放出する放電ランプおよび真空紫外光源装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、光洗浄、光エッチング等においては、波長200nm以下の真空紫外光を放出する放電ランプを具えた真空紫外光源装置が使用されている。
真空紫外光を放出する放電ランプとしては、真空紫外光に対して透過性を有する材料例えば合成石英ガラスよりなる放電容器内に水銀および希ガスが封入された、水銀の共鳴線である波長185nmの真空紫外光を放出する低圧水銀ランプが知られている。
【0003】
また、最近においては、真空紫外光を放出する放電ランプとして、少なくとも一部が誘電体により構成された放電容器内に、適宜の放電用ガスが充填され、当該放電容器内において誘電体バリア放電(別名「オゾナイザ放電」あるいは「無声放電」。電気学会発行改定新版「放電ハンドブック」平成1年6月再版7刷発行第263頁参照)を発生させることにより、エキシマが生成されてエキシマ光が放出される誘電体バリア放電ランプが知られている。
例えば、特開平1-144560号公報には、少なくとも一部が誘電体である石英ガラスにより構成された中空円筒状の放電容器内に放電用ガスが充填されてなる誘電体バリア放電ランプが記載されている。
このような誘電体バリア放電ランプにおいては、放電用ガスとして、キセノンガスを用いることにより、キセノンエキシマによるエキシマ光である波長172nmにピークを有する真空紫外光が放出され、放電用ガスとして、アルゴンと塩素との混合ガス(以下、「アルゴン-塩素混合ガス」ともいう。)を用いることにより、アルゴン-塩素エキシマによるエキシマ光である波長175nmにピークを有する真空紫外光が放出されることが知られている。
【0004】
また、誘電体バリア放電ランプを具えた真空紫外光源装置としては、特開平5-174793号公報に、エキシマ光を取り出すための窓部材を有するランプハウス内に円筒型の誘電体バリア放電ランプが収納されてなる真空紫外光源装置が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の真空紫外光を放出する放電ランプおよび真空紫外光源装置においては、以下のような問題点があった。
【0006】
(1)第一の問題点は、放電ランプを点灯させると、放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材を構成する石英ガラスが赤色に発光することである。この赤色光は、真空紫外光によって励起された石英ガラス中の物質による蛍光であり、その中心波長は650nm付近である。
【0007】
一般に、放電ランプが正常に動作しているかどうかの判断は、先ず、放電ランプから放出される可視光、特に、この可視光の色の変化状態を肉眼で観察することにより行われる。この方法は、簡便であり、信頼性があるので、定性的ではあるが広く利用されている。
然るに、低圧水銀ランプや、放電用ガスとしてキセノンガスまたはアルゴン-塩素混合ガスを使用した誘電体バリア放電ランプにおいては、放電空間から直接放出される可視光の強度が非常に小さいため、肉眼で観察される可視光の大部分は、放電容器および窓部材の蛍光による赤色光である。
【0008】
本発明者等は、放電ランプを、その真空紫外光の出力がほぼ一定となるようランプ電力を制御した状態で点灯させた場合においても、放電容器および窓部材の蛍光による赤色光の強度は、点灯時間によって大きく変化することを発見した。具体的には、放電ランプの点灯を開始してから数時間程度までは、この赤色光の強度が上昇し、約100時間点灯した後においては、徐々に低下することが判明した。
【0009】
従って、従来の放電ランプおよび真空紫外光源装置においては、真空紫外線の出力が一定であるにもかかわらず、放電容器および窓部材の蛍光による赤色光の強度が著しく変化するため、可視光を肉眼で観察する方法では、ランプの動作状態を診断することができない。
【0010】
更に、放電用ガスとしてキセノンガスまたはアルゴン-塩素混合ガスを使用した誘電体バリア放電ランプにおいては、放電容器および窓部材から生ずる赤色光によって、次のような問題が生ずる。
真空紫外光およびこれによって発生させたオゾンを、シリコンウエハやホトマスク等の被処理物に作用させて精密洗浄、灰化等を行う場合には、シリコンホトダイオードを具えた光検出器により放電ランプからの可視光を検出することにより、真空紫外光の出力を疑似的に測定し、真空紫外光の出力が一定の値に保持されるよう、放電ランプへの電気入力を自動的にまたは手動により調整することが行われている。
【0011】
シリコンホトダイオードは、小型で、信頼性が高く、電気信号の処理が簡便な光センサであり、可視領域における感度が、真空紫外領域における感度よりも一桁以上大きいものである。従って、可視光の強度が小さい放電ランプの光検出器として、シリコンホトダイオードは好適である。
しかし、従来の放電ランプおよび真空紫外光源装置においては、上述したように、真空紫外光が照射されることにより放電容器および窓部材が赤色に発光し、しかも、この赤色光の強度は、真空紫外線の出力が一定であっても変化するため、光検出器により可視光を検出することによっては、真空紫外線の出力を測定することは困難である。
また、放電ランプから放射される真空紫外光を蛍光体により可視光に変換し、当該可視光の強度を光検出器により測定する手段も考えられるが、放電容器および窓部材から生ずる赤色光の強度が大きいため、真空紫外線の出力を高い精度で測定することはできない。
【0012】
(2)第二の問題点は、放電ランプの点灯時間の経過に伴って、真空紫外光の強度が低下し、長い使用寿命が得られないことである。これは、放電空間から放出される真空紫外光によって、放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材を構成する石英ガラスが劣化し、当該石英ガラスの真空紫外光の透過率が低下するためである。
【0013】
例えば、1995年4月発行の学術雑誌「光技術コンタクト」第33巻4号の226頁に記載されているように、クリプトン-フッ素(KrF)エキシマレーザによる波長248nmの光あるいはアルゴン-フッ素(ArF)エキシマレーザによる波長193nmの光を合成石英ガラスに照射すると、当該石英ガラスの波長248nmおよび波長193nmにおける透過率が低下すること、また、このような石英ガラスの透過率の低下は、210nm?220nmに中心波長を有する光吸収欠陥、および260nm付近に中心波長を有する光吸収欠陥の生成が原因であることが知られている。
前者の光吸収欠陥は、R.A.WeeksらによってJ.Appl.Phys.Vol35(1964)の1932頁で報告されているように、Si常磁性欠陥(E´センタと記される)に帰属され、後者の光吸収欠陥は、L.N.SkujaらによってPhys.Stat.Sol.VolA56(1979)のKllで報告されているように、非架橋酸素正孔中心(NBOHCと記される)に帰属される。両者はいずれも石英ガラス中の化学結合が切断されて生成することが知られている。
【0014】
一方、172nm、175nmおよび185nm、特に172nm、175nmの波長域の真空紫外光が照射されることによって、石英ガラスの当該波長域における透過率が低下する現象は、上述のKrFエキシマレーザあるいはArFエキシマレーザによる場合とは全く異なり、本発明者等が新たに発見したものであり、真空紫外光を放出する放電ランプおよび真空紫外光源装置固有の問題である。すなわち、波長172nm、175nmおよび185nmは、上述のE´センタおよびNBOHCの生成による光吸収ピークの中心波長である210nm?220nmおよび260nm付近から離れており、このような波長域における透過率の低下は、E´センタやNBOHCの生成などの従来から提唱されている種々の欠陥では説明することができない現象である。従って、従来の理論による対策を行っても、このような現象を防止または抑制することはできない。
【0015】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、放出される可視光を肉眼で観察することによって、ランプの動作状態を診断することができる放電ランプおよび真空紫外光源装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、放電ランプの放電容器またはランプハウスの窓部材の真空紫外光の透過率が低下することがなくて、使用寿命の長い放電ランプおよび真空紫外光源装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の放電ランプは、放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプにおいて、
当該放電ランプは、放電容器内に、キセノンガスよりなる放電用ガスまたはアルゴンガスと塩素ガスとの混合ガスよりなる放電用ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプであり、
放電容器を構成する石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下であって、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする。
【0017】
【0018】
また、本発明の放電ランプは、放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプにおいて、
当該放電ランプは低圧水銀ランプであり、
放電容器を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の10%以下のものであることを特徴とする。
【0019】
この低圧水銀ランプである放電ランプにおいては、放電容器を構成する特定の石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下のものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の放電ランプにおいては、放電容器を構成する特定の石英ガラスは、・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3以下であり、当該非蛍光性石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものであることが好ましい。
【0021】
本発明の真空紫外光源装置は、放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプと、
この放電ランプを収納し、当該放電ランプからの真空紫外光を取り出す窓部材を有するランプハウスとを具えてなり、
前記ランプハウス内が不活性ガスで充満された状態で作動される真空紫外光源装置において、
前記放電ランプは、放電容器内に、放電用ガスとしてキセノンガスまたはアルゴンガスと塩素ガスとの混合ガスが充填され、誘電体バリア放電によりエキシマが生成されて真空紫外光が放出される誘電体バリア放電ランプであり、
前記放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものであることを特徴とする。
【0022】
【0023】
また、本発明の真空紫外光源装置は、放電空間を形成する放電容器を有し、真空紫外光を放出する放電ランプと、
この放電ランプを収納し、当該放電ランプからの真空紫外光を取り出す窓部材を有するランプハウスとを具えてなり、
前記ランプハウス内が不活性ガスで充満された状態で作動される真空紫外光源装置において、
前記放電ランプは低圧水銀ランプであり、
前記放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する石英ガラスは、当該放電ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該放電ランプからの真空紫外光の放射強度の10%以下のものであることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の真空紫外光源装置においては、放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する特定の石英ガラスは、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下のものであることが好ましい。
【0025】
また、本発明の真空紫外光源装置においては、放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の少なくとも一方を構成する特定の石英ガラスは、・Si-Si・結合の含有割合が、5×1016個/cm3以下であり、当該石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものであることが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の放電ランプを誘電体バリア放電ランプとして構成した場合の一例を示す説明用断面図である。この誘電体バリア放電ランプにおいては、誘電体よりなる円筒状の一方の壁材11と、この一方の壁材11内にその筒軸に沿って配置された、当該一方の壁材11の内径より小さい外径を有する誘電体よりなる円筒状の他方の壁材12とを有する密閉型の放電容器10が設けられている。この放電容器10においては、一方の壁材11および他方の壁材12の各々の両端部が封止壁部13,14によって接合され、一方の壁材11と他方の壁材12との間に円筒状の放電空間Sが形成されている。
【0027】
放電容器10における一方の壁材11には、その外周面15に密接して、例えば金網などの導電性材料よりなる網状の一方の電極16が設けられ、放電容器10における他方の壁材12には、その外面17を覆うようアルミニウムよりなる膜状の他方の電極18が設けられており、一方の電極16および他方の電極18は、それぞれ高周波電源Eに接続されている。
【0028】
また、図示の例では、放電容器10を構成する一方の壁材11の一端側には、周方向に沿って内方に突出する変形部19が形成されており、これにより、この変形部19と封止壁部13との間に、放電空間Sに連通するゲッタ収容室Kが形成され、このゲッタ収容室K内にバリウム合金よりなるよりなるゲッタGが収納されている。このゲッタGは例えば高周波加熱され、これにより、ゲッタ収納室K内の壁面にバリウムよりなる薄膜が形成される。
【0029】
放電容器10内には、放電用ガスとしてキセノンガスまたはアルゴン-塩素混合ガスが充填されている。
放電用ガスは、放電容器10における放電ギャップの距離d(mm)と放電用ガスの圧力p(kPa)との積pdが80?500となるよう充填されていることが好ましい。
このような条件で放電用ガスが充填されることにより、真空紫外領域のエキシマ光が高い効率で得られ、これは実験的に確認されている。また、この積pdの値が上記の範囲にある場合には、誘電体バリア放電ランプの放電プラズマから直接放出される可視光は、青緑色であって、赤色成分はほとんどなく、この青緑色光の放射強度は、真空紫外領域のエキシマ光の放射強度にほぼ比例する。
【0030】
本発明においては、一方の壁材11および他方の壁材12を構成する誘電体として、放電ランプの定格動作状態において、波長650nm付近における蛍光が目視で観測されない特定の石英ガラス(以下、「非蛍光性石英ガラス」という。)、具体的には、波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該誘電体バリア放電ランプからの真空紫外光の放射強度の5%以下のものが用いられる。
【0031】
本発明において、光の放射強度とは、通常のバンドパスフィルターと光検知器とを組み合わせて構成された放射照度測定装置により、石英ガラスの外表面において測定される放射照度の値である。
バンドパスフィルターとしては、波長172nmおよび175nmのエキシマ光の放射強度を測定する場合には、分光透過率が最大になる波長が172±2.5nmであって、分光透過率の全半値幅が約27.5nmであるバンドパスフィルタが用いられ、波長185nmの真空紫外光の放射強度を測定する場合は、分光透過率が最大になる波長が185±2.5nmであって、分光透過率の全半値幅が約27.5nmであるバンドパスフィルターが用いられ、波長650nm付近における石英ガラスの蛍光の放射強度を測定する場合には、分光透過率が最大になる波長が650±5nmであって、分光透過率の全半値幅が約48nmであるバンドパスフィルターが用いられる。
【0032】
上記の誘電体バリア放電ランプによれば、一方の電極16と他方の電極18との間に高周波電圧が印加されると、放電容器10内の放電空間Sにおいて誘電体バリア放電が発生し、これにより、キセノン元素によるエキシマまたはアルゴン元素と塩素元素とによるエキシマが生成され、このエキシマによる真空紫外領域のエキシマ光と、青緑色の可視光とが、一方の壁材11を介して一方の電極16の網目から外部に放出される。
【0033】
そして、放電容器10が非蛍光性石英ガラスによって構成されているため、当該放電容器10のガラスそれ自体における発光の強度が極めて小さく、これにより、肉眼では、放電空間Sから直接放出される青緑色の可視光のみが観測され、しかも、当該可視光の強度は、真空紫外光の強度に比例的であるので、ランプの動作状態を目視により定性的に診断することができる。
【0034】
また、放電容器10を構成する非蛍光性石英ガラスとして、定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が真空紫外光の放射強度の5%以下のものを用いることにより、例えばシリコンホトダイオードを具えた光検出器によって可視光を検出することにより、真空紫外光の出力を擬似的に測定することができる。従って、検出された可視光の強度の値に基づいて真空紫外光の出力を高い精度で調整することができる。
【0035】
放電容器10を構成する石英ガラスが、蛍光の放射強度がエキシマ光の放射強度の5%を超えるものである場合には、光検出器により可視光を検出することによっては、真空紫外光の出力を測定することができないため、誘電体バリア放電ランプからの真空紫外光の出力を高い精度で調整することが困難となる。
【0036】
図2は、本発明の放電ランプを低圧水銀ランプとして構成した場合の一例を示す説明用断面図である。この低圧水銀ランプにおいては、放電空間を形成する放電容器として非蛍光性石英ガラスよりなる管型の封体20が設けられている。この封体20の両端部には、それぞれ封止部21,22が形成され、各封止部21,22には、タングステンよりなるリード線23,24が、2本ずつ封止部21,22を貫通して封体20の軸方向に沿って伸びるよう設けられている。リード線23およびリード線24の各々の内端部には、表面に電子放射材が塗布されたタングステンコイルよりなる熱陰極型の電極25,26が、封体20の封止部21,22の各々における2本のリード線23,24の間に接続された状態で設けられており、封体20内における電極25,26の間に放電空間Sが形成されている。
【0037】
封体20を構成する非蛍光性石英ガラスとしては、当該低圧水銀ランプの定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光が目視で観測されない、波長650nm付近における蛍光の放射強度が、当該低圧水銀ランプからの真空紫外光の放射強度の10%以下のものが用いられる。
【0038】
上記の低圧水銀ランプによれば、放電空間Sから水銀の共鳴線である波長185nmの真空紫外光と、青緑色の可視光とが、封体20を介して外部に放出される。
そして、封体20が非蛍光性石英ガラスによって構成されているため、封体20自体による発光の強度が極めて小さく、これにより、肉眼では、放電空間Sから直接放出される青緑色の可視光のみが観測されるので、ランプの動作状態を目視により定性的に診断することができる。
【0039】
また、封体20を構成する非蛍光性石英ガラスとして、定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が真空紫外光の放射強度の10%以下のものを用いることにより、例えばシリコンホトダイオードを具えた光検出器によって可視光を検出することにより、真空紫外光の出力を擬似的に測定することができる。従って、検出された可視光の強度に基づいて真空紫外光の出力を高い精度で調整することができる。
【0040】
図3は、本発明の真空紫外光源装置の一例における構成を示す説明用断面図である。真空紫外光源装置においては、矩形の箱型のランプハウス30内に、図1に示す構成の3つの誘電体バリア放電ランプ1が収納されている。
【0041】
ランプハウス30は、4つの側面を形成する枠材31と、この枠材31の一側を気密に塞ぐよう設けられたアルミニウムよりなる冷却ブロック32と、枠材32の他側を気密に塞ぐよう設けられた、非蛍光性石英ガラスよりなる矩形の窓部材33とにより構成されている。
冷却ブロック32の内面には、それぞれ誘電体バリア放電ランプ1より大きい外径を有する断面が半円形の3つの溝34が、互いに離間して並ぶよう形成されており、これらの溝34の各々に沿って誘電体バリア放電ランプ1が配置されている。35は、冷却ブロック32を貫通するよう形成された、冷却用流体を流通するための冷却用流体流通路である。
枠材31の一側面には、ランプハウス30内に不活性ガスを導入するためのガス導入孔36が形成されており、枠材31の他側面には、ガス排出孔37が形成されている。
【0042】
また、図示の例では、冷却ブロック32における互いに隣接する溝34の間の位置に、アルミニウムよりなる断面がV字形の光反射板38が設けられ、更に、枠材31には、窓部材33の周囲を囲むよう、内方に突出する枠形の光反射板39が設けられており、これにより、高い光の利用率が得られる。
【0043】
また、窓部材33の外面には、真空紫外光を可視光に変換する蛍光体とシリコンホトダイオードとを具えてなる光検出器40が設けられている。蛍光体としては、真空紫外光を544nm付近の可視光に変換するLaPO4:Ce,Tbを用いることができる。
【0044】
ランプハウス30の窓部材33を構成する非蛍光性石英ガラスとしては、誘電体バリア放電ランプ1の定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、誘電体バリア放電ランプ1からの真空紫外光の放射強度の5%以下のものが用いられる。
【0045】
上記の真空紫外光源装置によれば、ガス導入孔37から不活性ガスが導入されることにより、ランプハウス30内が不活性ガスで充満され、この状態で誘電体バリア放電ランプ1が点灯されると、当該誘電体バリア放電ランプ1からの真空紫外光が、窓部材33により矩形状に整形された状態で外部に放出され、その一部が光検出器40により検出される。ここで、ランプハウス30内は不活性ガスで充満されているため、誘電体バリア放電ランプ1からの真空紫外光は当該ランプハウス30内において吸収されることがない。ランプハウス30内の雰囲気が空気である場合には、誘電体バリア放電ランプ1からの真空紫外光の大部分は当該空気に吸収されて、大きい出力の真空紫外光が得られない。
【0046】
そして、窓部材33が非蛍光性石英ガラスによって構成されているため、当該窓部材33自体による発光の強度が極めて小さく、これにより、肉眼では、誘電体バリア放電ランプ1から直接放出される可視光のみが観測され、しかも、可視光の強度は真空紫外光の強度に比例的であるので、窓部材33を介してランプの動作状態を目視により定性的に診断することができる。
【0047】
また、窓部材33を構成する非蛍光性石英ガラスとして、誘電体バリア放電ランプ1の定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が真空紫外光の放射強度の5%以下のものを用いることにより、光検出器40によって真空紫外光の出力が高い精度で測定されるので、真空紫外光の出力を高い精度で調整することができる。
【0048】
図4は、本発明の真空紫外光源装置の他の例における構成を示す説明用断面図である。この真空紫外光源装置においては、一面に開口が形成された枠材51と、この枠材51の開口に気密に設けられた非蛍光性石英ガラスよりなる窓部材52とよりなる矩形の箱型のランプハウス50が設けられ、このランプハウス50内に、図2に示す構成の4つの低圧水銀ランプ2が互いに離間して並ぶよう配置されている。
ランプハウス50の枠材51の一側面には、ランプハウス50内に不活性ガスを導入するためのガス導入孔53が形成されており、枠材51の他側面には、ガス排出孔54が形成されている。
また、ランプハウス50内には、低圧水銀ランプ2の各々の後背部を取り囲むよう、樋状の光反射板55が設けられている。
【0049】
ランプハウス50の窓部材52を構成する非蛍光性石英ガラスとしては、低圧水銀ランプ2の定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が、低圧水銀ランプ2からの真空紫外光の放射強度の10%以下のものが用いられる。
【0050】
上記の真空紫外光源装置によれば、ガス導入孔53から不活性ガスが導入されることにより、ランプハウス50内が不活性ガスで充満され、この状態で低圧水銀ランプ2が点灯されると、当該低圧水銀ランプ2からの真空紫外光が、窓部材52により矩形状に整形された状態で外部に放出される。ここで、ランプハウス50内は不活性ガスで充満されているため、低圧水銀ランプ2からの真空紫外光は当該ランプハウス50内において吸収されることがない。
【0051】
そして、窓部材52が非蛍光性石英ガラスによって構成されているため、当該窓部材52自体による発光の強度が極めて小さく、これにより、肉眼では、低圧水銀ランプ2から直接放出される可視光のみが観測されるので、窓部材52を介してランプの動作状態を目視により定性的に診断することができる。
【0052】
また、窓部材52を構成する非蛍光性石英ガラスとして、低圧水銀ランプ2の定格動作状態において生ずる波長650nm付近における蛍光の放射強度が真空紫外光の放射強度の10%以下のものを用いることにより、例えばシリコンホトダイオードを具えた光検出器によって可視光を検出することにより、真空紫外光の出力を疑似的に測定することができる。従って、検出された可視光の強度に基づいて真空紫外光の出力を高い精度で調整することができる。
【0053】
本発明の真空紫外光源装置においては、放電ランプの放電容器およびランプハウスの窓部材の両方を非蛍光性石英ガラスにより構成することが好ましいが、いずれか一方が非蛍光性石英ガラスにより構成されていればよい。すなわち、ランプハウスの窓部材を非蛍光性石英ガラスにより構成する場合には、放電ランプとしては、真空紫外光を放出するものであれば種々のものを用いることができ、一方、放電ランプの放電容器を非蛍光性石英ガラスにより構成する場合には、ランプハウスの窓部材を構成する材料としては、真空紫外光に対して透過性を有する種々のものを用いることができる。このような構成によれば、真空紫外光源装置全体の低コスト化を図ることができる。
【0054】
以上、本発明に係る放電ランプおよび真空紫外光源装置の実施の形態を説明したが、本発明においては、放電ランプの放電容器またはランプハウスの窓部材を構成する非蛍光性石英ガラスとして、酸素欠乏度が-0.01?0.02の範囲にあり、水酸基の含有割合が重量比で10?500ppmの範囲にあり、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下、特に1ppm以下のものを用いることが好ましい。
また、石英ガラス中の・Si-Cl結合の含有割合は、5ppm以下、特に、1ppm以下であることが好ましい。
【0055】
以上において、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下、特に1ppm以下の非蛍光性石英ガラスを用いることが好ましい理由は、以下のとおりである。
合成石英ガラス中に含有された塩素基の代表的な形態である・Si-Cl結合は、約7.8eV(波長約160nm)に吸収帯を有するため、遠紫外線または真空紫外線を放出するランプまたは光源装置の部材の材料として、合成石英ガラスを使用する場合には、合成石英ガラスにおける塩素基による光吸収の影響を考慮する必要がある。特に、キセノンガス若しくはアルゴン-塩素混合ガスを使用した誘電体バリア放電ランプまたは当該ランプを具えた光源装置の部材として、合成石英ガラスを使用する場合には、その発光波長が・Si-Cl結合の吸収帯に近いため、塩素基による光吸収の影響が大きい。
しかしながら、従来の合成石英ガラスには、塩素基が20?100ppm程度含有されており、塩素基による光吸収が大きいため、キセノンガス若しくはアルゴン-塩素混合ガスなどを使用した誘電体バリア放電用ランプまたは低圧水銀ランプ或いはこれらのランプを具えた光源装置の部材の材料として、従来の合成石英ガラスを用いると、当該部材の光劣化が著しく、急激な光透過率の低下を招くという問題が発生する。
そこで、本発明者らは、後述するように、合成石英ガラスの製造プロセス中における多孔体(スート)の焼結条件を種々改善することにより、合成石英ガラスに含有される塩素基の濃度を極めて小さい量に抑制する方法を確立し、検討を行ったところ、塩素基による光吸収の影響が低減され、遠紫外線または真空紫外線を放出するランプまたは光源装置の部材の材料として実用上問題の生じない塩素基の含有割合は、重量比で5ppm以下であり、この割合が小さいほど当該石英ガラスにおける前述の光吸収は減少するが、1pp以下では、その減少の程度がゆるやかになることを見いだし、本発明を完成するに到った。
【0056】
本発明において、酸素欠乏度とは、下記のようにして測定されるものをいう。
石英ガラスにエキシマレーザ等によって光をを照射することにより、当該石英ガラスにE´センタ(中心波長210nm?220nm)およびNBOHC(中心波長260nm付近)を生成させると共に、E´センタおよびNBOHCの生成による波長220nmおよび波長260nmにおける吸光度を経時的に測定する。この測定された吸光度の値を、横軸が波長220nmにおける吸光度、縦軸が波長260nmにおける吸光度であるグラフ上にプロットする。そして、図5に示すように、波長220nmにおける吸光度と波長260nmにおける吸光度とは比例するため、グラフ上には直線が描かれ、当該直線と横軸との交点における横軸の値を酸素欠乏度と定義する。
【0057】
更に、放電ランプの放電容器またはランプハウスの窓部材を構成する非蛍光性石英ガラスとしては、・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3以下であり、当該石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有割合が1015個/cm3以上であって溶解度以下であり、シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3以下のものを用いることが好ましい。ここに、「・Si」は、Siラジカルを意味する。
【0058】
石英ガラス中の・Si-Si・結合は、波長163nm付近の真空紫外光を吸収する特性を有し、今井らがPhys.Rev.B Vol.38(1988)の12772頁で報告しているように、6×10-17cm2/個の吸収断面積を有するため、真空紫外吸収スペクトルを測定すれば、・Si-Si・結合の含有割合を求めることができる。
【0059】
石英ガラス中に溶存する分子状水素の含有量は、レーザラマンスペクトルの4135cm-1のピークより検出することができ、V.S.Khotimchenko等によってZhurnal Prikladnoi Spekroskopii Vol.46(1987)の987頁に記されている係数を用いて定量化することができる。
【0060】
シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有量は、レーザラマンスペクトルの2250cm-1のピークより検出することができる。また、この定量化係数を求めたところ、シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有量の検出限界は6×1016個/cm3であることが確認された。従って、シリコン原子に結合した水素(・Si-H)は、いかなる方法によっても検出されないことが好ましい。
【0061】
以上の条件を満足する非蛍光性石英ガラスは、波長650nm付近の蛍光が極めて小さく、しかも、波長172nm、175nmまたは185nmの真空紫外光が長時間照射されても、当該波長域における真空紫外光の透過率の低下が極めて小さいものであることが実験的に確認された。以下に、その実験例を示す。
【0062】
下記の(イ)、(ロ)および(ハ)の石英ガラスを製造し、これらの石英ガラスに、照射照度が12mW/cm2の条件で、波長172nmの真空紫外光を照射し、当該石英ガラスの波長172nmにおける吸収係数の変化を測定した。結果を図6に示す。
【0063】
石英ガラス(イ):酸素欠乏度;0.01,水酸基の含有割合;90ppm、塩素基の含有割合;0.5ppm,・Si-Si・結合の含有割合;5×1015個/cm3,分子状水素の含有割合;1×1017個/cm3、シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合;6×1016個/cm3未満,
石英ガラス(ロ):酸素欠乏度;0.005,水酸基の含有割合;50ppm、塩素基の含有割合;0.5ppm,・Si-Si・結合の含有割合;5×1015個/cm3,分子状水素の含有割合;3×1017個/cm3,シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合;6×1016個/cm3未満,
石英ガラス(ハ):酸素欠乏度;-0.03,水酸基の含有割合;900ppm,塩素基の含有割合;30ppm,・Si-Si・結合の含有割合;7×1016個/cm3,分子状水素の含有割合;1×1015個/cm3、シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合;7×1016個/cm3
【0064】
図6に示すように、石英ガラス(イ)においては、真空紫外光が照射された直後では、吸収係数が急激に増加するが、短時間で飽和してしまい一定になった。すなわち、真空紫外光の透過率は、当該真空紫外光が照射された直後では急激に低下するが、短時間で飽和してしまい一定となる。このような特性は、水酸基の含有割合が30ppmから500ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が5ppm以下の範囲である石英ガラスにおいて同様であった。
また、石英ガラス(ロ)においては、真空紫外光の照射時間が経過するに伴って、吸収係数はゆっくり増加し、その後、飽和して一定となった。このような特性は、水酸基の含有割合が10ppmから70ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が5ppm以下の範囲である石英ガラスにおいて同様であった。但し、水酸基の含有割合が高いほど、吸収係数が飽和状態に達するまでの時間が短くなった。
また、石英ガラス(ハ)においては、真空紫外光の照射時間が経過するにつれて、吸収係数は増加し続けた。
【0065】
そして、放電容器または窓部材を構成する材料として、上記の条件を満足する特定の非蛍光性石英ガラスを用いることにより、当該放電容器または窓部材は、真空紫外光の照射による透過率が低下することがないため、長い使用寿命が得られる。
【0066】
以上において、酸素欠乏度が-0.01未満の場合には、当該石英ガラスは、真空紫外光の照射によって生ずる波長650nm付近の発光の強度が大きいものとなり、酸素欠乏度が0.02を超える場合には、当該石英ガラスは、E´センタの生成が顕著になり、E´センタによる真空紫外光の透過率の低下が大きいものとなるため、実用に適さない。
【0067】
水酸基の含有割合が10ppm未満の場合には、塩素等のハロゲン不純物を含有しない石英ガラスを製造するには、極めて高いコストが必要となり、不経済である。一方、水酸基の含有割合が500ppmを超える場合には、水酸基の存在に起因する石英ガラスの真空紫外吸収端が長波長側に移動するので、放電用ガスとしてキセノンガスを使用した誘電体バリア放電ランプまたはこれを具えた真空紫外光源装置においては、波長172nmに中心を有し、半値全幅が14nmであるキセノンエキシマ光の短波長側の出力が低下するという欠点が生じる。
【0068】
・Si-Si・結合の含有割合が5×1016個/cm3を超える場合には、当該石英ガラスの波長163nm付近における吸収が大きくなり、波長172nmに中心を有し、半値全幅が14nmであるキセノンエキシマ光の短波長側の初期出力が低下するという欠点が生じる。
【0069】
分子状水素の含有割合が1015個/cm3未満の場合には、当該石英ガラスは、波長650nm付近に中心波長を有する蛍光の発生が顕著なものとなり、劣化の進行が速いものとなる。従って、真空紫外光の照射による石英ガラスの劣化の進行を防止する観点から、分子状水素の含有割合は1015個/cm3以上溶解度以下であれば大きいほど好ましい。
【0070】
シリコン原子に結合した水素(・Si-H)の含有割合が6×1016個/cm3を超える場合には、石英ガラスの真空紫外光の照射による劣化が生じやすくなり、石英ガラスの真空紫外光の透過率の低下が非常に促進されるという欠点が生じる。
【0071】
上記の特定の非蛍光性石英ガラスは、例えば次のような方法により製造することができる。
高純度珪素化合物である四塩化珪素を原料とし、酸水素火炎中で気相化学反応により石英ガラス微粒子を合成するとともにこれを堆積させ、例えばその直径が35cmで長さが100cmの多孔体(スート)を合成する。
次に、この合成された多孔体を、真空炉内において減圧下で例えば1550℃の条件で熱処理して焼結させることにより、例えば直径が120?135mm、長さが650mmの石英ガラスロッド(プリフォーム)を製造する。
この石英ガラスロッドを、所望の形状例えば管状または板状に加工した後、雰囲気炉に入れ、水素雰囲気下で熱処理を行って分子状水素を十分拡散させることにより、水酸基の含有割合が重量比で30ppmから500ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下の範囲である非蛍光性石英ガラスが得られる。
また、石英ガラスロッドの製造工程において、多孔体を、例えば1250℃の条件で仮焼き処理した後、1550℃の条件で熱処理して焼結させることにより、水酸基の含有割合が重量比で10ppmから70ppmの範囲であって、かつ、塩素基の含有割合が重量比で5ppm以下の範囲である非蛍光性石英ガラスが得られる。
【0072】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、以下の実施例において、放電ランプの放電容器またはランプハウスの窓部材を構成する非蛍光性石英ガラスとして、以下のものを用いた。
〔非蛍光性石英ガラスA〕
酸素欠乏度;-0.005,
水酸基の含有割合;160ppm,
塩素基の含有割合;3ppm,
・Si-Si・結合の含有割合:1×1015個/cm3,
分子状水素の含有割合:8×1016個/cm3,
シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合:6×1016個/cm3未満
〔非蛍光性石英ガラスB〕
酸素欠乏度;0.004,
水酸基の含有割合;80ppm,
塩素基の含有割合;1ppm,
・Si-Si・結合の含有割合:2×1015個/cm3,
分子状水素の含有割合:4×1016個/cm3,
シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合:6×1016個/cm3未満
〔非蛍光性石英ガラスC〕
酸素欠乏度;0.007,
水酸基の含有割合;40ppm,
塩素基の含有割合;0.5ppm,
・Si-Si・結合の含有割合:9×1015個/cm3,
分子状水素の含有割合:9×1015個/cm3,
シリコン原子と結合した水素(・Si-H)の含有割合:6×1016個/cm3未満
【0073】
〈実施例1〉
下記の条件により、図1に示す構成の誘電体バリア放電ランプを作製した。
一方の壁材(11):材質;非蛍光性合成石英ガラスA,全長約300mm,外径約26mm,内径約24mm(肉厚1mm),
他方の壁材(12):材質;非蛍光性合成石英ガラスA,全長約200mm,外径14mm,内径12mm(肉厚1mm),
一方の電極(16):ステンレス金網製,
他方の電極(18):アルミニウム製,
放電用ガス:キセノン(圧力30kPa)
【0074】
上記の誘電体バリア放電ランプを3本使用して、下記の条件により、図3に示す構成の真空紫外光源装置を作製した。
窓部材(33):材質;非蛍光性合成石英ガラスA,寸法170mm×170mm×3mm,
V字形反射板(38):材質;アルミニウム,全長170mm,
枠形光反射板(39):材質;アルミニウム,寸法170mm×170mm×20mm,
ランプハウス(30)内への導入ガス:窒素ガス
【0075】
上記の真空紫外光源装置において、電源(E)により、印加電圧が約10kV、周波数が20kHzの条件で、誘電体バリア放電ランプを点灯させたところ、消費電力は約110Wであり、波長172nm(キセノンエキシマから放出されるエキシマ光の波長)に最大値を有する波長160?180nmの範囲の真空紫外光が放出された。
【0076】
また、ランプハウス(30)の窓部材(33)の外表面において、石英ガラスによる波長650nm付近における蛍光の放射強度を測定したところ、誘電体バリア放電ランプから放出されるエキシマ光の放射強度の1%であり、石英ガラスによる蛍光である赤色光は、目視で観測されなかった。
また、真空紫外光源装置を作動させ、誘電体バリア放電ランプの放電容器(10)およびランプハウス(30)の窓部材(33)の透過率の変化を測定したところ、100時間経過後に初期の約80%となったが、それ以降は低下せず、1000時間経過後においても透過率が初期の77%であった。
【0077】
〈実施例2〉
誘電体バリア放電ランプの一方の壁材(11)および他方の壁材(12)を通常の蛍光性を有する合成石英ガラスにより構成したこと以外は、実施例1と同様の条件により真空紫外光源装置を作製した。
この真空紫外光源装置の誘電体バリア放電ランプを、実施例1と同様の条件で点灯させたところ、波長172nmに最大値を有する波長160?180nmの範囲の真空紫外光が放出された。
【0078】
また、ランプハウス(30)の窓部材(33)の外表面において、石英ガラスによる波長650nm付近における蛍光の放射強度を測定したところ、誘電体バリア放電ランプから放出されるエキシマ光の放射強度の3%であり、石英ガラスによる蛍光である赤色光は、目視で観測されないものであった。
また、真空紫外光源装置を作動させ、ランプハウス(30)の窓部材(33)の透過率の変化を測定したところ、100時間経過後に初期の約75%となったが、それ以降は低下せず、1000時間経過後においても透過率が初期の72%であった。
【0079】
〈実施例3〉
誘電体バリア放電ランプの一方の壁材(11)および他方の壁材(12)並びにランプハウス(30)の窓部材(33)を非蛍光性石英ガラスBにより構成したこと以外は、実施例1と同様の条件により誘電体バリア放電ランプを作製し、真空紫外光源装置を作製した。
この真空紫外光源装置の誘電体バリア放電ランプを、実施例1と同様の条件で点灯させたところ、波長172nmに最大値を有する波長160?180nmの範囲の真空紫外光が放出された。
【0080】
また、ランプハウス(30)の窓部材(33)の外表面において、石英ガラスによる波長650nm付近における蛍光の放射強度を測定したところ、誘電体バリア放電ランプから放出されるエキシマ光の放射強度の0.6%であり、石英ガラスによる蛍光である赤色光は、目視で観測されなかった。
また、真空紫外光源装置を作動させ、誘電体バリア放電ランプの放電容器(10)およびランプハウス(30)の窓部材(33)の透過率の変化を測定したところ、500時間経過後においても透過率が初期の75%であった。
【0081】
〈実施例4〉
放電用ガスとして、キセノンガスの代わりにアルゴンガス(圧力30kPa)と塩素ガスとの混合ガスを用い、ゲッタ収容室およびゲッタを設けなかったこと以外は、実施例2と同様の条件により誘電体バリア放電ランプを作製し、真空紫外光源装置を作製した。
【0082】
上記の真空紫外光源装置において、電源(E)により、印加電圧が約12kV、周波数が20kHzの条件で、誘電体バリア放電ランプを点灯させたところ、消費電力は約100Wであり、波長175nm(アルゴン元素と塩素元素とによるエキシマから放出されるエキシマ光の波長)に最大値を有し、半値全幅が約2nmの真空紫外光が放出された。
【0083】
また、ランプハウス(30)の窓部材(33)の外表面において、石英ガラスによる波長650nm付近における蛍光の放射強度を測定したところ、誘電体バリア放電ランプから放出されるエキシマ光の放射強度の0.5%であり、石英ガラスによる蛍光である赤色光は、目視で観測されないものであった。
また、真空紫外光源装置を作動させ、ランプハウス(30)の窓部材(33)の透過率の変化を測定したところ、100時間経過後に初期の約90%となったが、それ以降は低下せず、500時間経過後においても透過率が初期の85%であった。
【0084】
〈実施例5〉
下記の条件により、図1に示す構成の低圧水銀ランプを作製した。
封体(20):材質;非蛍光性合成石英ガラスC,全長60mm,外径16mm,内径14mm(肉厚1mm),
リード線(23,24):ニッケル製,
電極(25,26):表面に(Ba,Sr,Ca)Oを主成分とする電子放射材が塗布されたタングステンコイル
【0085】
上記の低圧水銀ランプを4本使用して、下記の条件により、図4に示す構成の真空紫外光源装置を作製した。
窓部材(52):材質;非蛍光性合成石英ガラスC,寸法170mm×170mm×3mm,
光反射板(55):材質;アルミニウム,
導入ガス:窒素ガス
【0086】
上記の真空紫外光源装置において、全ランプ電力200Wでの条件で、低圧水銀ランプを点灯させたところ、消費電力は約40Wであり、水銀の共鳴線である波長185nmの真空紫外光と波長254nmの紫外線とが放出された。
【0087】
また、ランプハウス(50)の窓部材(52)の外表面において、石英ガラスによる波長650nm付近における蛍光の放射強度を測定したところ、低圧水銀ランプから放出される真空紫外光の放射強度の2%であり、石英ガラスによる蛍光である赤色光は、目視で観測されないものであった。
また、真空紫外光源装置を作動させ、低圧水銀ランプの封体(20)およびランプハウス(50)の窓部材(52)の透過率の変化を測定したところ、1000時間経過後においても透過率が初期の78%であり、使用寿命の長いものであった。
【0088】
【発明の効果】
本発明の放電ランプおよび真空紫外光源装置によれば、放電容器または窓部材が非蛍光性石英ガラスにより構成されているため、肉眼では、放電空間において発生する放電プラズマから直接放出される可視光線のみが観測されるので、ランプの動作状態を目視により定性的に診断することができる。
【0089】
また、放電容器または窓部材を構成する材料として、特定の非蛍光性石英ガラスを用いることにより、当該放電容器または窓部材は、真空紫外光の照射による透過率が低下することがないため、長い使用寿命が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の放電ランプを誘電体バリア放電ランプとして構成した場合の一例を示す説明用断面図である。
【図2】
本発明の放電ランプを低圧水銀ランプとして構成した場合の一例を示す説明用断面図である。
【図3】
本発明の真空紫外光源装置の一例における構成を示す説明用断面図である。
【図4】
本発明の真空紫外光源装置の他の例における構成を示す説明用断面図である。
【図5】
酸素欠乏度を求めるために用いられる波長220nmおよび260nmの吸光度の関係を示す図である。
【図6】
真空紫外光の照射による石英ガラスの透過率の変化を示す図である。
【符号の説明】
1 誘電体バリア放電ランプ
2 低圧水銀ランプ
10 放電容器
11 一方の壁材
12 他方の壁材
13,14 封止壁部
15 外周面
16 一方の電極
17 外面
18 他方の電極
19 変形部
20 封体
21,22 封止部
23,24 リード線
25,26 電極
30 ランプハウス
31 枠材
32 冷却ブロック
33 窓部材
34 溝
35 流通路
36 ガス導入孔
37 ガス排出孔
38 V字形光反射板
39 枠形光反射板
40 光検出器
50 ランプハウス
51 枠材
52 窓部材
53 ガス導入孔
54 ガス排出孔
55 樋状光反射板
E 電源
G ゲッタ
K ゲッタ収容室
S 放電空間
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-05-30 
結審通知日 2007-06-01 
審決日 2007-06-12 
出願番号 特願平7-331282
審決分類 P 1 123・ 537- ZA (H01J)
P 1 123・ 853- ZA (H01J)
P 1 123・ 851- ZA (H01J)
P 1 123・ 536- ZA (H01J)
P 1 123・ 121- ZA (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 小川 浩史
山川 雅也
登録日 2002-03-29 
登録番号 特許第3292016号(P3292016)
発明の名称 放電ランプおよび真空紫外光源装置  
代理人 内田 敏彦  
代理人 後呂 和男  
代理人 村上 二郎  
代理人 水澤 圭子  
代理人 大井 正彦  
代理人 大井 正彦  

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