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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1163393
審判番号 不服2004-5329  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-17 
確定日 2007-08-30 
事件の表示 特願2002-325952「カラーインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 3日出願公開、特開2003-182114〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年7月10日に出願した特願2002-200745号の一部を平成14年11月8日に新たな特許出願(優先権主張 平成13年10月12日)としたものであって、平成16年2月13日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年3月17日付けで本件審判請求がされるとともに、同年4月14日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成19年3月30日付けで平成16年4月14日付け手続補正を補正却下するとともに、同日付で拒絶の理由を通知したところ、審判請求人は平成19年5月11日付けで意見書及び明細書についての手続補正書を提出した。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年5月11日付けの明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
本件補正は、上記の当審拒絶理由通知に対してなされたものであって、当該拒絶理由通知は、特許法第17条の2第1項第3号に規定のいわゆる「最後の拒絶理由通知」であるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項及び第5項に規定する要件を満たす必要がある。

1.補正内容
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであり、補正後の請求項1に対応する補正前の請求項は、平成15年8月22日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1であって、それぞれの記載は次のとおりである。

(補正前請求項1)「400?2400dpiの配列密度で複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列するとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送し、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、前記加熱乾燥手段は、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有する加熱乾燥手段であって、該加熱乾燥手段を前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置し、前記インク容器を、各色毎に離間、保持手段に載置したことを特徴とするカラーインクジェット記録装置。」

(補正後請求項1)「400?2400dpiの配列密度で複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列するとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送する搬送部と、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置された加熱乾燥手段と、前記記録媒体と、前記インク容器との位置関係において、前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、前記加熱乾燥手段は、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有する加熱乾燥手段であって、該加熱乾燥手段を前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置し、前記インク容器を、各色毎に離間保持手段によって独立載置構造とし、空隙を介して載置し、該インク容器を交換可能としたことを特徴とするカラーインクジェット記録装置。」

そして、本件補正には、以下の補正事項が含まれている。
a.補正前の「該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送し、」との記載を「該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送する搬送部と、」と補正する点。
b.補正前の「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、」との記載を「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置された加熱乾燥手段と、前記記録媒体と、前記インク容器との位置関係において、前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、」と補正する点。
c.補正前の「前記インク容器を、各色毎に離間、保持手段に載置した」との記載を、「前記インク容器を、各色毎に離間保持手段によって独立載置構造とし、空隙を介して載置し、」と補正する点。
d.補正後の請求項1に「該インク容器を交換可能とした」との記載を追加する点。

2.当審の判断
(1)補正目的
補正事項aにより補正後の請求項1は「・・・該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送する搬送部と、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、」と記載されることとなったが、当該記載は構文上著しい不備が生じており、「搬送部と」との記載と、前後の記載とが文章としてつながらず、意味不明となっている。このような構文を乱す補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定された補正目的の何れを目的としたものにも該当しない。
また、補正事項bにより補正後の請求項1には、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」と「加熱乾燥手段」とが「同じ上下位置関係で配置された」ものであるという記載と、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「加熱乾燥手段」、「記録媒体」、「インク容器」が「インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされる」ものであるという矛盾した記載がなされていることになる(補正事項bにより補正された補正後の請求項1の記載は「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと、」と、「前記記録媒体と、」の間に「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置された加熱乾燥手段と、」との記載があるので、「前記順序の上下位置関係とされる」対象として、「加熱乾燥手段」を含めないとは、構文上、読めない。)。
このような、矛盾した内容を含むような補正は、補正前請求項1に記載された発明特定事項を限定しているとは認められず、誤記を訂正するものとも、明りょうでない記載を釈明するものとも認められないことから、このような補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定された補正目的の何れを目的としたものにも該当しない。

以上のよう、本件補正は補正目的違反を含むものではあるが、補正事項c及びdは、補正前の請求項の発明特定事項を限定していると一応は認められることから、仮に、本件補正は全体として、特許請求の範囲の減縮(平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号)を目的としたものと認め、補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か(同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定を満たすか)を以下に検討することとする。
その場合、補正後の請求項1の記載の構文上の不備を正し、矛盾を是正する必要がある。
補正事項bにより補正された補正後請求項1の記載は、解釈によっては、矛盾する2つの記載事項が両立するのではなく、本来的には、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「加熱乾燥手段」、「記録媒体」及び「インク容器」は、インク容器を最下位にした記載順の上下位置関係を有するものの、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」と「加熱乾燥手段」については、それらが同じ上下位置関係になることを許容する趣旨であるとも解されるが、請求項1に記載された「インクジェット記録装置」は「複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送する」ものであって、「前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合」に、「加熱乾燥手段」が「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」と「記録媒体」の間に位置するように配置することは、技術常識を考慮すれば極めて困難であることから、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」と「加熱乾燥手段」とは「同じ上下位置関係」であり、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「記録媒体」及び「インク容器」の三者の位置関係は、「前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされる」ものと解し、補正後の請求項1の記載を以下のように読み替えることとする。
「400?2400dpiの配列密度で複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列するとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送部により搬送し、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記加熱乾燥手段を前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと、前記記録媒体と、前記インク容器との位置関係において、前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、前記加熱乾燥手段は、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有する加熱乾燥手段であって、該加熱乾燥手段を前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置し、前記インク容器を、各色毎に離間保持手段によって独立載置構造とし、空隙を介して載置し、該インク容器を交換可能としたことを特徴とするカラーインクジェット記録装置。」(以下、「本願補正発明」という。)

(2)独立特許要件違反1(記載不備)
本願補正発明は「前記加熱乾燥手段を前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置」と記載されている(読み替える前は「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置された加熱乾燥手段」と記載されている)が、「加熱乾燥手段」と「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」とが同じ上下位置関係で配置されているとは、どの部分を比較して「同じ上下位置関係」としているのかが不明である。
本願明細書段落【0034】には上記「加熱乾燥手段」に対応する「加熱式定着装置76」について「加熱式定着装置76は、例えば図5に示されるように、搬送路における記録ヘッド70Bに対して下流側とし、かつ、比較的近い位置に対応して設けられている。今、ここでは加熱式定着装置76として、ハロゲンヒータ84と、ハロゲンヒータ84からの熱線を反射させる反射板82とよりなる例を示す。」と記載されており、【図5】には側断面図として、加熱式定着装置76と記録ヘッド70B、70Y、70M、70Cが図示されている。【図5】をみると、加熱式定着装置76の加熱部遮蔽部材86(段落【0035】に記載)の最下端部と各記録ヘッド70B、70Y、70M、70Cの最下端部との位置は、ほぼ同じ高さ位置といえるものの、両者の最上端位置(反射板82と記録ヘッド70B、70Y、70M、70Cの最上端部)は異なっており(加熱式定着装置76の方が低い)、比較する部分によって「上下位置関係」が変わるものであるため本願補正発明の上記のような記載ではその技術上の意味内容を明確に特定できない。
また、本願補正発明では「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「記録媒体」及び「インク容器」の位置関係の特定が、「前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合」に限ってのものとなっており、当該「場合」以外の状態において、三者がどのような位置関係なのかは不明である。
記録媒体は、「カラーインクジェット記録装置」内でその位置が固定されるものではなく、給紙部から排紙部に向かう搬送経路上を移動するものであるから、上下位置関係を特定するためには記録媒体がどの搬送位置にあるかを特定する必要があるが、記録媒体が特定の搬送位置にある「場合」について三者の相対的な上下位置を特定したのでは、カラーインクジェット装置としての構成が不明確であるといえる(本願補正発明の記載は、他の「場合」において、記録媒体とマルチノズル型インクジェット記録ヘッド及びインク容器との上下位置関係は不明であるし、マルチノズル型インクジェット記録ヘッドとインク容器との上下位置関係が他の場合も含め、常にインク容器が下位に位置することを保証しておらず、結局のところ位置関係が不明となっている。)。
したがって、本願補正発明の記載は著しく不明確であって、特許法第36条第6項第2号の規定に違反しており、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)独立特許要件違反2(進歩性)

A.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-162838号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「図6は、従来のフルマルチインクジェット記録装置を示す概略図である。図示されるように、このインクジェット記録装置は、カラー記録ヘッド1と、記録媒体搬送手段5と、排紙機構7と、手差し給紙機構9と、給紙カセット10と、カラーインクタンク11とを有している。・・・記録媒体である記録紙は、カセット給紙または手差し給紙のいずれかにより供給される。カセット給紙の場合、給紙カセット10内の記録紙が給紙ローラー10aにより記録媒体搬送手段5に導かれる。また、手差し給紙の場合には、給紙トレイ9a上の記録紙が給紙ローラー8によって記録媒体搬送手段5に導かれる。」(【0003】?【0004】)

(イ)「カセット給紙や手差し給紙によって記録媒体搬送手段5に導かれた記録紙は、・・・搬送ベルト5dに静電吸着されながら搬送される。搬送ベルト5dは、駆動ローラー5bと従動ローラー5aと圧力ローラー5cとに掛け回されており、図示しないパルスモータ(駆動源)により駆動ローラー5bが駆動されることによって回転される。従って、搬送ベルト5d上に静電吸着された記録紙は、搬送ベルト5dの回転に伴って、記録ヘッド1の直下の印字開始位置まで搬送される。」(【0005】)

(ウ)「記録ヘッド1は、記録紙の記録領域の全幅にわたって多数の記録素子が配列されるフルラインタイプの記録ヘッドであり、記録紙搬送方向の上流側から1K(黒)、1Y(イエロー)、1M(マゼンダ)、1C(シアン)の4つの記録ヘッドが順に所定の間隔を置いて配置され、ヘッドホルダ2に取付けられている。・・・そして、レジストローラー4a、4bの回転開始をトリガーとしてタイミングを合わせて、記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cが図示しない駆動手段から適宜駆動信号を受けて、記録紙上の所定の位置にインクを吐出して所望の画像を形成する。・・・以上のように、記録紙は静電吸着力によって搬送ベルト5dの上面に吸着され、記録ヘッド1によって印字されながら搬送ベルト5dで搬送される。」(【0006】?【0008】)

(エ)「なお、記録ヘッド1およびインクタンク11に関する以上の説明は、記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cおよびインクタンク11K、11Y、11M、11Cの全てに関して当てはまるものである。」(【0018】)

(オ)「本発明の特徴とする部分は、インク供給、回復、回収機構にあり、インクジェット記録装置全体の概略構成は、上記の従来技術において説明したインクジェット記録装置全体の概略構成と実質的に同一であるので、同じ図6を参照して簡単に説明する。・・・図6は一般的なフルマルチインクジェット記録装置の概略図である。本発明が適用されるこのインクジェット記録装置は、カラー用の記録ヘッド1と、カラーインク用のインクタンク11と、給紙カセット10と、手差し給紙機構9と、記録媒体搬送手段5と、排紙機構7とを有している。」(【0056】?【0057】)

(カ)「記録媒体である記録紙は、給紙カセット10または手差し給紙機構9によって記録媒体搬送手段5に導かれる。記録媒体搬送機構5において、記録紙はレジストローラ4a、4b、搬送ベルト5dおよびピンチローラ12a、12bにより搬送される。そして、記録紙が記録ヘッド1の直下の印字開始位置まで搬送されると、記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cが記録紙上の所定位置に適宜インクを吐出して所望の画像を形成する。このようにして画像が形成された記録紙は、排紙機構7の排紙トレイ13に排紙される。」(【0058】)

(キ)「(実施例1)本発明のインクジェット記録装置において、本実施例では、記録ヘッド1は、インクに熱を与えるヒーターを有しており、このヒーターの加熱によりインクを膜沸騰させ、膜沸騰による気泡の成長または収縮に伴う圧力変化によって記録ヘッド1のノズルからインクを吐出させて記録紙上に画像が形成される構成である。」(【0059】)

(ク)「(インク供給動作)インクタンク34を記録装置本体の挿入口に装着し、加圧口34hは、ポンプ44に接続されているジョイント41と接続され、排出口34jは排出口109と接続され、インク供給口34fはインク供給用のジョイント47とそれぞれ接続される。」(【0076】)

(ケ)「バルブ46は遮断された状態にし、また、ストッパー42は開放された状態にしておき、ポンプ44を正回転(CW)駆動させると、キャップ3からインクとエアーをインクタンク34内に送り込む。インクタンク34にインクとエアーが送り込まれると、インクタンク34内の圧力が上昇し、可撓性のインク袋34aが押し潰されて、インク供給管45を通じて記録ヘッド1にインクが供給される。インクタンク34は、記録媒体搬送手段5の下方に位置し、通常では記録ヘッド1のノズル部分のメニスカスが保ち得ない高さ(記録ヘッドとの高さの差が100mm以上)に位置しているが、前述の通り、ポンプ44によってエアーをインクタンク34内に送り込んで、インクタンク34内の圧力を、記録ヘッド1のフェース面高さとインクタンク34との高さの差に相当する圧力に保つと、記録ヘッド1のノズル部分のメニスカスを保持することができる。」(【0077】)

(コ)図6から、インクタンク11が、記録媒体搬送手段5を挟んで、記録ヘッド1とは反対の位置に配置されていることが看取される。

(サ)図6から、記録ヘッド1は、1K、1Y、1M、1Cの4つの記録ヘッドで構成され、インクタンク11は、11K、11Y、11M、11Cの4つのインクタンクで構成されており、それぞれが所定の間隔をおいて配置されていることが看取される。

上記(オ)の記載から上記(オ)?(ケ)記載のインクジェット記録装置全体の概略構成は、図6に示すようなものであると解される。
上記(オ)の「本発明が適用されるこのインクジェット記録装置は、カラー用の記録ヘッド1と、カラーインク用のインクタンク11と・・・を有している。」の記載、上記(ウ)の「記録紙搬送方向の上流側から1K(黒)、1Y(イエロー)、1M(マゼンダ)、1C(シアン)の4つの記録ヘッドが順に所定の間隔を置いて配置され、」との記載及び上記(エ)、(コ)から、引用例記載のインクジェット記録装置はカラーインクジェット記録装置であって、各インクタンク11K、11Y、11M、11Cは各色に応じた複数の記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cに対応して独立して設けられたものであると解される。
また、上記(ウ)において「記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cが図示しない駆動手段から適宜駆動信号を受けて、記録紙上の所定の位置にインクを吐出して所望の画像を形成する」ものであることが記載されていることから、記載されている各記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cは、インクをオンデマンドで吐出するものであるといえる。
上記(キ)の記載から、記録ヘッド1はヒーターを記録素子として備えたものと解されることから、上記(ウ)記載の「多数の記録素子」は「多数のヒーター」と読み替えることができる。
上記(イ)の「記録紙は、搬送ベルト5dの回転に伴って、記録ヘッド1の直下の印字開始位置まで搬送される」との記載、上記(ケ)の「インクタンク34は、記録媒体搬送手段5の下方に位置し」との記載からして、上記(コ)で記載した、図6での配置は、記録ヘッド1、記録媒体搬送手段5及びインクタンク11の上下位置関係が、インクタンクを最下位とした記載の順序の上下位置関係であることを示すものと解される。
上記(ク)の「インクタンク34を記録装置本体の挿入口に装着し」の記載からして、当該インクタンク34は記録装置本体に装着されるものであって、「交換可能」なものであると解される。
したがって、上記(ア)?(サ)の記載を含む引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「記録紙の記録領域全幅にわたって多数のヒーターが配列され、インクをノズルからオンデマンドで吐出するフルラインタイプの記録ヘッド1K(黒)、1Y(イエロー)、1M(マゼンダ)、1C(シアン)を各色に応じて独立して設けられたインクタンクから供給される複数色のインクを吐出するように記録紙搬送方向の上流側から順に所定の間隔を置いて配置し、4つの記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cの直下の印字開始位置まで記録紙を記録媒体搬送手段5の搬送ベルトの回転に伴って搬送し、記録紙上の所定の位置にインクを吐出して所望の画像を形成するカラーインクジェット記録装置であって、該カラーインクジェット記録装置は、インクタンクのインクをインク供給管を通じて記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cに供給し、記録ヘッド1K、1Y、1M、1C、記録媒体搬送手段5及びインクタンクの上下位置関係が、インクタンクを最下位とした記載の順序の上下位置関係であり、インクタンクを交換可能としたカラーインクジェット記録装置。」

B.対比
引用発明の「記録紙」、「ヒーター」、「ノズル」、「フルラインタイプの記録ヘッド」、「記録媒体搬送手段5」、「インクタンク」及び「インク供給管」が、本願補正発明の「記録媒体」、「発熱体」、「ノズル」、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「搬送部」、「インク容器」及び「連通手段」にそれぞれ相当する。
引用発明の「フルラインタイプの記録ヘッド」は、「記録紙の記録領域全幅にわたって多数のヒーターが配列され、インクをノズルからオンデマンドで吐出する」ものであり、各ヒーターに対応してノズルを備えていることは自明であることから、本願補正発明の「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」と「複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列」したものである点で一致している。
引用発明では「記録ヘッド1K、1Y、1M、1C、記録媒体搬送手段5及びインクタンクの上下位置関係が、インクタンクを最下位とした記載の順序の上下位置関係」であるとともに、「4つの記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cの直下の印字開始位置まで記録紙を記録媒体搬送手段5の搬送ベルトの回転に伴って搬送」するものであることから、記録紙が記録媒体搬送手段5の搬送ベルト上で記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cと相対している場合には、記録ヘッド1K、1Y、1M、1Cと、記録紙と、インクタンクの上下位置関係は、インクタンクを最下位とした記載の順序の上下位置関係」となることは明らかであるから、引用発明は、本願補正発明と「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと、前記記録媒体と、前記インク容器との位置関係において、前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされる」点で一致している。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>「複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列し、インクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送部により搬送し、インク滴噴射記録を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと、前記記録媒体と、前記インク容器との位置関係において、前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされ、該インク容器を交換可能としたカラーインクジェット記録装置。」

<相違点1>本願補正発明のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドは、複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを400?2400dpiの配列密度で配列したものであるとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するのに対して、引用発明のフルラインタイプの記録ヘッドは、配列密度及び噴射頻度についての特定がなされていない点。

<相違点2>本願補正発明は、記録媒体を記録後の被記録面側から非接触加熱する加熱乾燥手段を備えるとともに、当該加熱乾燥手段はマルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置されたものであり、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有し、前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置されているのに対し、引用発明は加熱乾燥手段を備えていない点。

<相違点3>本願補正発明は、インク容器を、各色毎に離間保持手段によって独立載置構造とし、空隙を介して載置しているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

C.判断
<相違点1>についての判断
本願補正発明の「1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射する」とは記録ヘッドを、1ノズルあたり30kHz以下の駆動周波数で駆動することを意味すると解されるが、本願出願時において、インクジェット記録ヘッドとして、駆動周波数30kHz以下で駆動するものは普通に知られており、また、解像度が400?2400dpiのインクジェット記録ヘッドも普通に知られている。例えば、本願出願前(優先日前)公知の特開2001-232781号公報に、「ラインヘッドでは、1回の走査で記録が完了するため、記録時間を著しく短縮することができる。例えば600dpiの解像度で10kHzの画素(ライン)記録周波数とすると、A4サイズの用紙Pの縦をスキャンするのにかかる時間は、1色当たり0.7秒となる。・・・しかし、インクの乾燥時間を考慮すると、記録時間は例えば10秒程度が妥当と考えられて、この場合、画素(ライン)記録周波数は、例えば解像度300dpi、600dpi、1200dpiでそれぞれ350Hz、700Hz、1.4kHz程度となり、通常のシリアルヘッドに比べ画素(ライン)記録周波数を低くすることができる。」(【0040】?【0041】)と記載されているように、記録紙上のインクの乾燥時間等を考慮して、記録ヘッドの種類(ラインヘッドかシリアルヘッドかや、解像度など)に応じた駆動周波数を設定することは当業者にとってインクジェット記録装置を設計する上での通常の行為にすぎず、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、当業者にとって設計事項である。

<相違点2>についての判断
本願出願時、インクジェット記録装置の技術分野において、記録後の記録媒体上のインクの乾燥定着を促進するために、加熱乾燥手段を用いることは常套手段であり、加熱乾燥手段を、記録媒体の搬送経路においてインクジェット記録ヘッドの下流側に配置して、記録後の記録媒体を加熱乾燥することも、上流側において記録媒体をいわゆるプレヒートすることも、記録媒体の被記録面側から加熱することも、反対面側から加熱することも、記録媒体に非接触で加熱することも、接触加熱することも、何れも周知・慣用技術であり、加熱乾燥位置や接触か非接触かの加熱乾燥の仕方をどのようにするかは当業者にとって設計事項である。
なお、本願補正発明のように、記録媒体を記録後の被記録面側から非接触加熱し、前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置された加熱乾燥手段は、例えば、特開平4-338575号公報(図5及び段落【0025】を参照)、特開平4-358837号公報(図1及び段落【0014】、【0026】を参照)で例示することができる。
また、本願補正発明の「前記加熱乾燥手段を前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと同じ上下位置関係で配置し」との記載は、「2.(2)独立特許要件違反1(記載不備)」で指摘したように、その意味が不明確な記載であって、せいぜい加熱乾燥手段とマルチノズル型インクジェット記録ヘッドとが、少なくとも一部が同じ高さ位置に重なるように、ほぼ並列に配置されたものであるという限度でしか解し得ないが、加熱乾燥手段として記録媒体の上側の被記録面側に配置するものを採用した場合、そのような配置とすることは当業者にとって想到容易なことであって、上記した各周知文献にも同様の配置構造が図示されている(特開平4-338575号公報の図5、特開平4-358837号公報の図1を参照)。
さらに、本願補正発明の加熱乾燥手段が、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有している点は、記録媒体のサイズや記録する画像の幅は一定でないことから当該カラーインクジェット記録装置で記録できる最大サイズの記録媒体の最大幅の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有しているものと解するが、記録媒体は、特別な搬送方法を採用しない限り、ある程度の斜行を生じ得ることが従来から知られており、その点を考慮して、最大サイズ記録媒体の最大の被記録部幅よりもある程度幅の広い範囲を加熱乾燥できるように設計することは、当業者にとって容易想到な事項である。また、加熱乾燥手段としてファンにより温風を吹き付ける周知の加熱乾燥手段を採用した場合(特開平4-338575号公報の段落【0025】記載の「温風用ファン15および温風用ヒータ16から成る加熱乾燥手段」及び、特開平4-358837号公報の段落【0026】記載の「フラッシュランプとともに、1個または複数個のファンを配置し、風を利用して定着を行なうように構成」を参照)、温風を被記録部だけに当てることは困難であるから、自然にその加熱能力は最大サイズ記録媒体の最大の被記録部幅よりも幅の広い範囲を加熱乾燥できるものとなる。
以上のように、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、設計事項であるか、引用発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が想到容易な事項である。

<相違点3>についての判断
本願出願時、インクジェット記録装置の技術分野において、複数のインク容器を交換可能に装置本体に保持する構造として、各インク容器を壁などで仕切ることにより、独立させて載置する構造は、周知であり(例えば、特開2001-130020号公報、特開2000-238282号公報、特開2001-260373号公報を参照)、このような載置構造を採用した場合、上記した壁などの仕切が、本願補正発明の「離間保持手段」に相当するといえる。
また、インク容器を交換する際に、仕切となる壁の間隔がインク容器の大きさ(幅)にぴったりすぎると、インク容器の交換操作が難しくなることから、壁の間隔をインク容器の幅よりも若干大きくし、インク容器を載置した時にインク容器と壁との間に空隙が生じるようにすることは当業者にとって想到容易な設計事項である。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

以上のように、相違点1乃至3に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することはそれぞれ、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら発明特定事項を個別に採用したことによる格別の作用効果を認めることはできない。また、相違点1乃至3に係る本願補正発明の発明特定事項は、互いに密接な関係にはなく、これら3つの発明特定事項を採用することによる相乗的な格別の作用効果があるとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるし、そうでないとしても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、いずれにしても、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成15年8月22日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項によって特定されるものと認めることができ、当該請求項1乃至3の記載は、以下のとおりのものである。

【請求項1】「400?2400dpiの配列密度で複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列するとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送し、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、前記加熱乾燥手段は、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有する加熱乾燥手段であって、該加熱乾燥手段を前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置し、前記インク容器を、各色毎に離間、保持手段に載置したことを特徴とするカラーインクジェット記録装置。」

【請求項2】「400?2400dpiの配列密度で複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列するとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送し、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、イエロー,マゼンタ,シアンのそれぞれの色のインクを噴射する前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドをイエロー,マゼンタ,シアンの順に配列するとともに、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、前記加熱乾燥手段は、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有する加熱乾燥手段であって、該加熱乾燥手段を前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置し、前記インク容器を、前記複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドの配列順と同じイエロー,マゼンタ,シアンの順に配置し、前記インク容器を離間、保持手段に載置したことを特徴とするカラーインクジェット記録装置。」

【請求項3】「400?2400dpiの配列密度で複数個の発熱体およびそれに対応したノズルを、記録媒体の被印写幅をカバーするように長尺化配列するとともに、1ノズルあたり30kHzまでの頻度でインクをオンデマンドで噴射するマルチノズル型インクジェット記録ヘッドを、各色に応じて独立して設けられたインク容器から供給される複数色のインクを噴射するように複数個配列固定し、該複数個のマルチノズル型インクジェット記録ヘッドのノズル面に相対する位置でかつ隣接して前記記録媒体を搬送し、インク滴噴射記録を行い、記録後の被記録面側から加熱乾燥手段により、非接触加熱を行うカラーインクジェット記録装置において、該カラーインクジェット記録装置は、イエロー,マゼンタ,シアン,ブラックのそれぞれの色のインクを噴射する前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインク容器を、連通手段を介して前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドに接続し、前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、前記加熱乾燥手段は、前記記録媒体の被記録部の幅より大きい範囲をカバーする加熱能力を有する加熱乾燥手段であって、該加熱乾燥手段を前記記録媒体の搬送経路において前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドの下流側でかつ前記記録媒体の上側に配置し、前記インク容器を離間、保持手段に載置するとともに、前記各色のインク容器群の交換もしくはそれらへのインク補給は、前記カラーインクジェット記録装置の前記インク容器群が配置される部分の側壁を開閉して行うことを特徴とするカラーインクジェット記録装置。」

2.当審で通知した拒絶理由の内容
本願発明に対し、平成19年3月30日付で通知した当審の拒絶理由の内容は以下の通りである。

「 <<<< 最 後 >>>>

平成15年8月22日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


平成15年8月22日付けでした手続補正により、本願請求項1乃至3には「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、」と記載されている。
上記記載によると、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「加熱乾燥手段」、「記録媒体」、「インク容器」が、記載された順番で、上から下へ配置されていることになるが、「加熱乾燥手段」が「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」より下で、「記録媒体」より上に(つまり、マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと記録媒体との間に)配置されることは、本願当初明細書及び図面には記載も示唆もされていない。
本願明細書には、「加熱乾燥手段」について以下の記載がある。
「しかし、特に本発明の実施例のような高速記録及びカラー記録が行われてくると、上述したように、被記録材に打ち込まれたインクを所望の状態に被記録材上に定着させるために定着速度の短縮化と効率化を行うための以下に述べられるような加熱式定着装置76が必要となる。
加熱式定着装置76は、例えば図5に示されるように、搬送路における記録ヘッド70Bに対して下流側とし、かつ、比較的近い位置に対応して設けられている。今、ここでは加熱式定着装置76として、ハロゲンヒータ84と、ハロゲンヒータ84からの熱線を反射させる反射板82とよりなる例を示す。
この例のように、本発明では、記録媒体(用紙Pa)の被印写面側を非接触加熱している。つまり、印写部を表面から加熱するようにしているので、水等のインク中の揮発成分を効率的に乾燥させることができる。
ここでは加熱式定着装置76として、加熱部としてのハロゲンヒータ84と、ハロゲンヒータ84からの熱線を反射させる反射板82と、ハロゲンヒータ84と搬送路との間を仕切る加熱部遮蔽部材86と、ハロゲンヒータ84からの熱の記録ヘッド70Bへの熱伝達を断つ断熱部としての断熱装置78とを含んで構成されているものを例としてあげたが、他の例としてセラミックヒータを利用しても良好に定着を行うことができる。」(段落【0034】?【0035】)
上記には、加熱乾燥手段(加熱式定着装置76)が、記録媒体の被印写面側から非接触加熱することのみが記載されており、図5には、ヘッドブロック72内に複数の記録ヘッド70C、70M、70Y、70Bとともに、加熱式定着装置76が内蔵されていることが図示されている。また、通常のインクジェット記録装置において、記録動作時のインクジェット記録ヘッドと記録媒体とは、緊密に接近しており、両者の間に加熱乾燥手段を配置することは考えられない。
したがって、これら当初明細書及び図面の記載からは、加熱乾燥手段とマルチノズル型インクジェット記録ヘッドとの上下位置関係は、同じ位置か、加熱乾燥手段の方が上に位置(少なくとも、記録ヘッドのノズル位置よりは上に位置)しているとみるべきであって、上記各請求項に記載された上下位置関係は記載も示唆もされていない。
なお、上記「記録媒体」は、給紙部130から給紙搬送部132、搬送部134、排紙搬送部136を経て排紙トレー138まで移動することから、その位置は明確でなく、例えば、図6のインクジェット記録装置の場合、記録媒体が給紙部130にある時と搬送部134上で、記録ヘッドと相対している時とではその位置は異なる。また、本願出願時において、加熱乾燥手段を記録媒体の被印写面とは反対の裏側に配置することは、周知技術か、少なくとも公知の技術事項であると考えられる。しかしながら、本願各請求項に記載された「記録媒体」の位置を請求項に記載のない給紙部130の位置に特定して解釈しなければならない理由はない(どの搬送位置にあるか特定していないのだから、「記録媒体」がインクジェット記録装置内のどの搬送位置に移動したとしても、その上下位置関係が成立する必要がある)し、当初明細書及び図面には、加熱乾燥手段を記録媒体の被印写面とは反対側に配置することは一切記載されていないのだから、たとえ、加熱乾燥手段の上記配置構造が周知技術であるとしても、補正により各請求項に記載された上記の上下位置関係が、当初明細書及び図面の記載から自明な事項であるとは認められない。
よって、上記補正は新規事項を追加したものである。

なお、上記で新規事項と指摘した記載事項は、本願分割出願の原出願である特願2002-200745号の出願当初の明細書及び図面に記載されたものではないし、本願の国内優先権主張の基礎出願である特願2001-315893号の明細書及び図面に記載されたものでもないので、本願の出願日は現実の出願日となる。

この拒絶理由通知は、下記の理由により「最後の拒絶理由通知」とする。

最後の拒絶理由通知とする理由

1.最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。」

3.拒絶理由妥当性の判断
拒絶理由通知で指摘したように、本願請求項1乃至3における「前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと加熱乾燥手段と前記記録媒体と前記インク容器の位置関係において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされるとともに、」の記載は、平成15年8月22日付けでした手続補正により各請求項に記載された事項であって、これらの記載は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項ではなく、当該明細書の記載又は図面から自明な事項であるとも認められないのだから、平成15年8月22日付け手続補正は、新規事項を追加する補正を含むものであって、特許法第17条の2第3項の規定に違反しており、当審で通知した拒絶理由は妥当なものである。
なお、仮に、「第2 [理由]2.(1)補正目的」で本願補正発明について検討したように、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」と「加熱乾燥手段」とは「同じ上下位置関係」であり、「マルチノズル型インクジェット記録ヘッド」、「記録媒体」及び「インク容器」の三者の位置関係は、「前記搬送部上で、前記記録媒体が前記マルチノズル型インクジェット記録ヘッドと相対している場合において、前記インク容器を最下位とした前記順序の上下位置関係とされる」ものと解し、新規事項を含まないものとして本願請求項1の記載を読み替えたとしても、本願請求項1に記載された発明は、本願補正発明の「第2 [理由]1.補正内容」で記載した補正事項c、及びdの限定事項を省き、補正事項aの構文上の不備を除いて、「搬送部」との限定事項を省いたものであり、本願請求項1に記載された発明の発明特定事項を全てを含み、さらに上記限定事項を含む本願補正発明が、「第2[理由]2.(3)独立特許要件違反2(進歩性)」で判断したように、引用発明及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願請求項1に記載された発明も同様の理由により、引用発明及び周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。そして、上記引用発明は、原査定の拒絶の理由として引用された引用例(特開2001-162838号公報)に記載された発明であり、上記のような読み替えをしても、結局のところ、本願は拒絶を免れることはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、補正却下後の本願においては、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされているから、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-26 
結審通知日 2007-07-03 
審決日 2007-07-17 
出願番号 特願2002-325952(P2002-325952)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
P 1 8・ 575- WZ (B41J)
P 1 8・ 572- WZ (B41J)
P 1 8・ 55- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 長島 和子
尾崎 俊彦
発明の名称 カラーインクジェット記録装置  
代理人 高野 明近  

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