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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない C08G
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない C08G
管理番号 1163812
審判番号 訂正2006-39056  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-04-17 
確定日 2007-09-27 
事件の表示 特許第3322909号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]請求の要旨

本件審判請求は、特許第3322909号(出願日:平成4年7月29日、 優先日:平成3年8月15日、 優先権主張国:日本、 特許権の設定登録日:平成14年6月28日)の明細書を、審判請求書に添付した明細書(以下「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものである。

[2]訂正発明

本件審判請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲の減縮を目的としており、訂正後の請求項1、2に係る発明(以下「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は、訂正明細書の請求項1、2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 (A)イソシアネート化合物とグリシジル化合物を当量比1:1.1?1:10の範囲でオキサゾリドン環形成触媒の存在下で反応させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂と(B)臭素含有量が30?52重量%である臭素含有エポキシ樹脂、及び(C)芳香族アミン、ジシアンジアミド、第3級アミン類、イミダゾール類、フェノール樹脂から選択された硬化剤を成分とし、(A)成分樹脂及び(B)成分樹脂の重量比が20?80:80?20であり、(A)成分樹脂と(B)成分樹脂を混合した時のエポキシ樹脂の合計の加水分解性塩素量が500ppm以下、該合計のα-グリコール基の含有量が100meq/kg以下であることを特徴とする、銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 (C)成分がジシアンジアミドまたは芳香族アミンである、請求項1記載の銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物。」

[3]訂正拒絶理由の概要

訂正拒絶理由の概要は、訂正発明1、2は、優先日前に頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないというものである。

刊行物1:国際公開第90/15089号パンフレット(訳文として特表平4-506678号公報(以下「参考資料1」という。)を参照)
刊行物2:特開昭50-5481号公報
刊行物3:「住友化学 1988-I」昭和63年5月25日 住友化学工業株式会社発行 p.43?53
刊行物4:「コーティング時報 NO.173 Jan.’87」昭和62年2月10日 旭化成工業株式会社化学品第二事業部発行 p.9?23
刊行物5:特開昭60-187537号公報

[4]判断

1.訂正発明1について
刊行物1の請求項1、14、16、20、24、及び第9頁第10行?第13頁第14行(刊行物1における行数は、各頁の左に記載されたものではなく、実際の行数で示す。以下同様。)(参考資料1の第5頁左上欄第3行?第5頁右下欄下から第2行)の記載からみて、刊行物1には「イソシアネート化合物とグリシジル化合物をオキサゾリドン環形成触媒の存在下で反応させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂」とエポキシ樹脂の硬化剤、有機溶媒並びに随意の促進剤及び他の常用の添加剤を含む導電材料積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂ワニスが記載されている。そして、第20頁第20?22行(参考資料1の第7頁左下欄第9?10行)には、該樹脂ワニスを硬化した場合の高いガラス転移温度等の効果が記載され、第22頁第1?7行(参考資料1の第7頁右下欄下から第3行?第8頁左上欄第3行)には、上記硬化剤として、ジシアンジアミド、多官能性ノボラック等が記載され、第22頁第23行?末行(参考資料1の第8頁左上欄第17行?末行)には、促進剤としてイミダゾール化合物、ベンジルジメチルアミン等が記載され、第43頁下から第3行(参考資料1の第12頁右下欄下から第3行)に上記導電材料として銅が記載されている。ここで、多官能性ノボラックはフェノール樹脂の下位概念物質であり、ベンジルジメチルアミンは第3級アミン類の下位概念物質であるとともに、芳香族アミンの下位概念物質でもある。
以上の点からみて、刊行物1には「イソシアネート化合物とグリシジル化合物をオキサゾリドン環形成触媒の存在下で反応させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂と芳香族アミン、ジシアンジアミド、第3級アミン類、イミダゾール化合物、フェノール樹脂から選択された硬化剤もしくは促進剤を成分とする、銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物」の発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで、訂正発明1と刊行物1の発明を対比するに、訂正発明1における「硬化剤」は、刊行物1でいう硬化剤のみならず、刊行物1でいう促進剤も含んだ概念のものと認められ、また、刊行物1の発明におけるイミダゾール化合物は、訂正発明1におけるイミダゾール類に相当すると認められるから、両者は「イソシアネート化合物とグリシジル化合物をオキサゾリドン環形成触媒の存在下で反応させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂(以下「(A)成分」という。)、及び、芳香族アミン、ジシアンジアミド、第3級アミン類、イミダゾール類、フェノール樹脂から選択された硬化剤を成分とする、銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物」の発明である点で一致し、以下の相違点1で一応相違し、相違点2、3で相違すると認められる。
相違点1:(A)成分が、前者ではイソシアネート化合物とグリシジル化合物を当量比1:1.1?1:10の範囲で反応させてなるものであるのに対し、後者では該当量比が特定されていない点。
相違点2:前者では「臭素含有量が30?52重量%である臭素含有エポキシ樹脂」(以下(B)成分という。)を(A)成分と(B)成分の重量比が20?80:80?20であるように配合しているのに対し、後者ではそのような特定がなされていない点。
相違点3:前者では、(A)成分と(B)成分を混合した時のエポキシ樹脂の合計の加水分解性塩素量が500ppm以下、該合計のα-グリコール基の含有量が100meq/kg以下であるのに対して、後者では、そのような特定がなされていない点。
そこで、これらの相違点について検討する。
a.相違点1について
刊行物1の第28?42頁(参考資料1の第9?12頁)には、(A)成分の製造例が記載されている。これらの製造例におけるイソシアネート化合物とグリシジル化合物の当量比を例えば例1?4で計算してみると、例1が約5.95(説明:EEWすなわちエポキシ当量が180のエポキシ樹脂Aが450g使用されており、これは、2.50当量(計算式:450/180=2.50)に相当する。一方、イソシアネートAは、第25頁下から第2行にMDIを示すことが記載され、MDIの分子量は238で、イソシアネート基が1分子に2個存在するから、イソシアネート当量は119である。このイソシアネートAが50g使用されており、これは、約0.42当量(計算式:50/119≒0.42)に相当する。したがって、イソシアネート化合物とグリシジル化合物の当量比は、約1:5.95(計算式:0.42:2.5≒1:5.95)となる。)、例2が約2.64、例3が約6.43、例4が約1.54であり、いずれも、訂正発明1の当量比と一致している。しかも、これら例1?4の(A)成分は、第42頁第7行?第43頁末行(参考資料1の第12頁左下欄第12行?第13頁左上欄第1行)の記載からみて、銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂として使用されている。したがって、他の製造例におけるイソシアネート化合物とグリシジル化合物の当量比を検討するまでもなく、相違点1は実質的なものではない。
b.相違点2について
刊行物2の第1頁右下欄第6?8行の「従来、エポキシプリプレグに難燃性を付与する方法としては、ハロゲンを含むエポキシ樹脂または硬化剤が用いられる。」との記載、同第2頁左上欄第12?14行の「難燃性を付与するものとしては臭素・・・臭素の方が効果が大きい。」との記載、及び、同第2頁左上欄第16行?第2頁右上欄第10行の「本発明で云うエポキシ樹脂としては一般に公知の・・・等である。」との記載からみて、刊行物2には、臭素含有エポキシ樹脂を配合することにより、各種エポキシ樹脂に難燃性を付与することが記載されている。
してみれば、刊行物1の発明において、臭素含有エポキシ樹脂を配合してエポキシ樹脂組成物を難燃化することは容易である。
また、刊行物2の第1頁右下欄第6?19行には、ハロゲン含有エポキシ樹脂のハロゲンは難燃性に寄与するもののハンダ耐熱性は低下せしめる旨の記載があるから、臭素含有エポキシ樹脂の臭素は難燃性に寄与するもののハンダ耐熱性は低下せしめることが認識できる。してみれば、好適な難燃性とハンダ耐熱性のバランスを考慮して、臭素含有エポキシ樹脂の臭素量を定めることは容易である(訂正発明1における臭素量が、難燃性とハンダ耐熱性に基づいて決定されたことは訂正明細書の段落【0053】に記載されている。)。したがって、臭素含有量を30?52重量%とすることも容易である。
さらに、(A)成分と(B)成分の配合割合は、難燃化の程度や、(A)成分の特性の発現の程度を考慮して、適宜決定できるものと認められるから、(A)成分と(B)成分の重量比を20?80:80?20とすることは容易である。
なお、相違点2に係る構成を採用したことに基づく、格別顕著な効果は認められない。その理由は以下のとおりである。
(1)(A)成分と(B)成分の併用について、訂正明細書の段落【0017】には「適量のオキソザリドン環とハロゲン基を含むことにより、驚くべき難燃性の相乗効果を発揮し」と記載され、また、段落【0052】には「本発明樹脂組成物は、(B)成分樹脂にハロゲンを有するため難燃性の効果が高く、さらに(A)成分樹脂に含まれるオキサゾリドン環により難燃性に相乗効果が発揮される。」と記載されているが、訂正明細書には難燃性の相乗効果を確認するに足る記載は存在しない。
(2)請求人は実験証明書I、II、IIIを提出して相乗効果を主張している。そこで、実験証明書I、II、IIIから、難燃性の相乗効果が確認できるかを検討する。
まず、「化学大辞典編集委員会編「化学大辞典5」縮刷版 1963年11月15日 共立出版株式会社発行 p.498の「相乗作用」の項」からわかるように、「相乗効果」とは、ある物質を単独で用いた場合に比べて、2種以上の物質を併用した場合の効果が著しく向上した場合の効果をいう(該項における「作用」の文字を「効果」に置き換えたものが「相乗効果」である)。したがって、(A)成分と(B)成分を併用した場合に難燃性の相乗効果が発揮されている、と言えるためには、(A)成分の単独使用の難燃効果、(B)成分の単独使用の難燃効果、(A)成分と(B)成分を併用した場合の難燃効果を対比して、(A)成分と(B)成分を併用した場合の難燃効果が、(A)成分の単独使用の難燃効果と(B)成分の単独使用の難燃効果のいずれよりも著しく向上していることが立証されなければならない。 そこで、実験証明書I、II、IIIに、そのような立証がなされているかを検討する。
まず、実験証明書Iを検討する。
実施例5[訂正明細書の段落【0111】に記載された製造例5の記載に従って製造された特定の(A)成分(以下「(A)-5」という。)に、高臭素型樹脂A((B)成分の1例)を配合し臭素含有量21.0%とした樹脂組成物I]の難燃性のデータは、難燃性V-0、t1+t2が2、t2+t3が4(t1、t2、t3の定義は実験証明書Iの第3頁に記載されており、単位は秒と認める。t1+t2の値は、請求人が1回の測定で得られたt1+t2ではなく、5回の測定の各t1+t2をすべて合計したものを記載しているのでそれに従って表記した。t2+t3の値も同様に、1回の測定で得られたt2+t3ではなく、5回の測定の各t2+t3をすべて合計したものを表記した。以下同様。)である。比較例1[ビスフェノールA型エポキシ樹脂の1例であるGY250と高臭素型樹脂Aを併用し臭素含有量21.0%とした樹脂組成物]の難燃性のデータは、難燃性V-0、t1+t2が35、t2+t3が24である。
実施例5と比較例1の難燃性を比較すると、両者は共にV-0のレベルを達成している。ただ、t1+t2とt2+t3からみて、実施例5の難燃性は、比較例1の難燃性よりもわずかに優れていると言える。そして、請求人は、これらのデータの比較から、(A)成分と(B)成分を併用した場合の相乗効果が確認できると主張している。
しかし、相乗効果確認の為に、如何なるデータが必要であるかは上記のとおりであるから、実験証明書Iには必要なデータが不足しており、したがって相乗効果は確認できない。
また、相違点2に係る構成の採用による効果を立証する為には、相違点2に係る構成の有無のみが相違する対比実験を行う必要があるが、実施例5と比較例1は、このような対比実験に相当しない。
したがって、実験証明書Iは、相乗効果を立証するものではなく、相違点2に係る構成の採用による格別顕著な効果を立証するものでもない。
次に、実験証明書IIを検討する。
比較実験例1には、樹脂組成物J((A)成分の1例)を単独使用した場合が示され、その難燃性はクランプである。
比較実験例2には、高臭素型樹脂A((B)成分の1例)を単独使用した場合が示され、その難燃性はV-0であり、t1+t2は0であり、t2+t3は0である。
(A)成分と(B)成分を併用した場合の難燃性は、実験例1と実験例2に示されている。
実験例1では、臭素含有量が31wt%となるように樹脂組成物Jと高臭素型樹脂Aを配合しており、その難燃性はV-0であり、t1+t2は0であり、t2+t3は0である。このデータは、比較実験例2の難燃性のデータと同じであるから、併用の場合の効果が単独の場合の効果に比べ、著しく向上しているとは言えない。したがって、実験例1の効果が相乗効果であるとは言えない。
実験例2では、臭素含有量が12wt%となるように樹脂組成物Jと高臭素型樹脂Aを配合しており、その難燃性はV-0であり、t1+t2は21であり、t2+t3は14であるから、比較実験例2の難燃性よりも劣っている。したがって、実験例2の効果は相乗効果を否定している。
なお、実験例1、2の難燃性は、比較実験例1の難燃性よりも優れているが、刊行物2に(B)成分が難燃性を付与する物質であることが記載されているのであるから、この効果は予測できるものにすぎない。
次に実験証明書IIIを検討する。
実験証明書IIIには、比較実験例1[樹脂組成物J((A)成分の1例)の単独使用]の燃焼時間t(tの定義は、実験証明書IIIの第2頁に記載されている。単位は秒と認められる。)の平均が14.0であること、比較実験例3[AER250(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の1例)の単独使用]のtの平均が同じく14.0であることが示されている。これらの対比からは、樹脂組成物JとAER250が、tの値において同様であることがわかるだけであり、(A)成分と(B)成分を併用した場合の相乗効果は確認できない。
以上のとおりであるから、実験証明書I?IIIをみても、難燃性の相乗効果は確認できないし、それどころか、実験証明書IIからは、実験例2の場合に難燃性の相乗効果がないことが立証される。
請求人は、
(A)成分単独とは、実験証明書IIの比較実験例1[樹脂組成物J((A)成分の1例)を単独使用したものであり、難燃性はクランプである。]であり、
(B)成分単独とは、臭素含有量12重量%の場合は、実験証明書IIの比較実験例4[高臭素化樹脂A((B)成分の1例)の25部とAER250(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の1例)の75部の配合物。配合物の臭素含有量は12w%。難燃性はクランプ]であり、臭素含有量21重量%の場合は、実験証明書Iの比較例1[GY250(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の1例)の57部と高臭素型樹脂Aの43部の配合物。配合物の臭素含有量は21.0重量%。難燃性はV-0であり、t1+t2は35、t2+t3は24である。]であり、
(A)成分と(B)成分の併用とは、実験証明書IIの実験例2[臭素含有量が12wt%となるように樹脂組成物Jと高臭素型樹脂Aを配合した配合物。難燃性はV-0であり、t1+t2は21であり、t2+t3は14である。]、又は、実験証明書Iの実施例5[(A)-5に、高臭素型樹脂Aを配合し臭素含有量21.0%とした樹脂組成物I。難燃性はV-0であり、t1+t2は2、t2+t3は4である。]であるから、これらの対比から相乗効果が立証できる旨の主張をしている。
しかし、実験証明書IIの実施例2の相乗効果を立証する為には、(A)成分単独として、樹脂組成物Jを使用し、(B)成分単独として、高臭素化樹脂Aが使用されなければならないのであり、また、実験証明書Iの実施例5の相乗効果を立証する為には、(A)成分単独として、(A)-5を使用し、(B)成分単独として、高臭素化樹脂Aが使用されなければならない。
ところが、請求人は、実験証明書IIの実施例2に関しては、(B)成分単独として高臭素化樹脂A(臭素含量48.3w%)ではなく、それよりも臭素含量が低い「高臭素化樹脂AとビスフェノールA型エポキシ樹脂を併用し、臭素含有量12重量%や、21重量%としたもの」を使用するとし、また、実験証明書Iの実施例5に関しては、(A)成分単独として(A)-5ではなく樹脂組成物Jを使用するとし、(B)成分単独として高臭素化樹脂Aではなく、それよりも臭素含量が低い「高臭素化樹脂AとビスフェノールA型エポキシ樹脂を併用し、臭素含有量12重量%や、21重量%としたもの」を使用するとするものであるから、科学的な合理性がない。また、「高臭素化樹脂AとビスフェノールA型エポキシ樹脂を併用し、臭素含有量12重量%や、21重量%としたもの」が(B)成分であることについては、訂正明細書に記載がないから、この主張は訂正明細書の記載に基づかない主張である。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。
(3)請求人は、相違点2に係る構成の採用により、(ろ)銅剥離強度、(は)ハンダ耐熱性、(に)ワニス貯蔵安定性、(ほ)ガラス転移温度において予期し得ない格別顕著な効果が奏せられる旨の主張をしているが、(ろ)?(ほ)の効果が、相違点2に係る構成に基づいて得られることは訂正明細書に記載がないから、この主張は採用できない。なお、相違点2に係る構成の採用により、(ろ)?(ほ)の効果が得られることは立証されてもいない(立証の為には、相違点2に係る構成の有無のみが相違する対比実験を行う必要があるが、このような対比実験は行われていない。「(A)成分以外のエポキシ樹脂と(B)成分を配合した場合」と、「(A)成分と、(B)成分を配合した場合」を対比しても、この点の立証はできない。)。
(4)請求人は、相違点2に係る構成の採用により、(ろ)?(ほ)の特性を維持しつつ、格段に高い難燃性を発揮するとも主張している。「(ろ)?(ほ)の特性を維持しつつ」との主張は、(A)成分の(ろ)?(ほ)の特性が、(B)成分の配合によって損なわれることがないとの主張と解せられる。しかし、この「損なわれることがない」という点は、訂正明細書に記載されていないから、この点を相違点2に係る構成に基づく効果として認めることはできない。しかも、この点は立証されてもいない。仮に、この点が訂正明細書に記載されており、訂正明細書で立証されていたとしても、そのことにより、相違点2に係る構成の採用が困難となるとは認められない。
(5)以上のとおりであるから、相違点2に係る構成の採用による格別顕著な効果は認められない。
c.相違点3について
刊行物3の第45?49頁の「エポキシ樹脂の純度と封止樹脂の耐湿性」の項には、加水分解性塩素量がエポキシ樹脂の耐湿性に悪影響を及ぼす因子となりうること(特に、刊行物3の第48頁左欄第7?10行を参照)や、水酸基量がエポキシ樹脂の耐湿性に悪影響を及ぼす因子となりうること(特に、刊行物3の第48頁右欄下から第6?4行を参照)が記載されており、該水酸基の一例がα-グリコール基であることは、刊行物3の第46頁の表3の(d)の欄の記載から明らかである。また、刊行物4の第9頁の「要旨」には、エポキシ樹脂硬化物(積層板)のハンダ耐熱性を良くするのに樹脂中のα-グリコール量を少なくする方法があること(特に要旨中の第6?7行を参照)が記載され、刊行物4の第17?19頁の「(2)エポキシ樹脂中のα-グリコール」の項にもα-グリコール基の量が少ないほうが好ましいこと(特に、第18頁左欄第7?10行を参照)が記載され、刊行物5の第2頁左上欄第10?14行には「αジオール基は、・・・で示され、・・・その量が耐熱性に悪影響を与えることを見い出した」と記載されている(αジオール基はα-グリコール基と同義である。)。
以上のとおりであるから、エポキシ樹脂において、加水分解性塩素量とα-グリコール基の含有量をできるだけ低くすることは容易であり、したがって、(A)成分に(B)成分を混合し、相違点2に係る構成を採用した時のエポキシ樹脂の合計の加水分解性塩素量とα-グリコール基の含有量を訂正発明1における値とすることは容易である。しかも、刊行物3の第49頁の第5表、同第51頁の第6表、同第52頁の第7表、刊行物4の第12頁の表2、同第13頁の表3には、訂正発明1の加水分解性塩素量やα-グリコール基含有量のエポキシ樹脂が記載されているから、これらの値の採用はなおのこと容易である。
請求人は、相違点3の構成に基づき、(に)ワニス貯蔵安定性、及び、ゲルタイム保存率が改善されると主張しているが、この点は訂正明細書に記載がないから、この点を、相違点3の構成に基づく効果として採用することはできない。しかも、この点は立証されてもいない(立証の為には、相違点3に係る構成の有無のみが相違する対比実験を行う必要があるが、このような対比実験は行われていない。「(A)成分以外のエポキシ樹脂と(B)成分を配合した場合」と、「(A)成分と、(B)成分を配合した場合」を対比しても、この点は立証できない。)。仮に、この点が、訂正明細書に記載されており、訂正明細書で立証されていたとしても、そのことにより、相違点3に係る構成の採用が困難となるとは認められない。
したがって、訂正発明1は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1において、硬化剤をジシアンジアミドまたは芳香族アミンに限定した発明であるが、これに対する判断は、上記「1.」に示したものと同様である。
すなわち、訂正発明2は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、訂正発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[5]むすび

したがって、本件訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-18 
結審通知日 2006-07-20 
審決日 2006-08-03 
出願番号 特願平4-220993
審決分類 P 1 41・ 121- Z (C08G)
P 1 41・ 856- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 均  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
登録日 2002-06-28 
登録番号 特許第3322909号(P3322909)
発明の名称 エポキシ樹脂組成物  
代理人 武井 英夫  
代理人 清水 猛  
代理人 伊藤 穣  
代理人 鳴井 義夫  

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