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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D |
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管理番号 | 1165318 |
審判番号 | 不服2005-18389 |
総通号数 | 95 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-09-22 |
確定日 | 2007-10-03 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 79962号「発進クラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 2日出願公開、特開平 9-229090〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【一】手続の経緯 本願は、平成8年4月2日(優先権主張平成7年12月18日)の出願であって、平成17年8月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月24日付けで平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第1項第3号に該当する明細書についての手続補正がなされたものである。 【二】平成17年10月24日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年10月24日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】 軸方向に延在するセンタ穴を有する入力軸と、該入力軸の半径方向外側に配置された軸部材と、該軸部材の半径方向外側に配置され、クラッチ部およびクラッチピストンを収容したクラッチケースと、該クラッチケースを収容したハウジングとから成る、変速機用の発進クラッチにおいて、前記入力軸のセンタ穴から前記クラッチ部の間に画成され、前記クラッチ部の摩擦面を冷却するための油を供給する冷却油路、前記入力軸と前記軸部材との間から前記クラッチケースと前記クラッチピストンとの間に画成され、前記クラッチ部を作動させるための油を供給する作動油路及び前記軸部材及び前記クラッチケースと前記ハウジングとの間に画成され、前記摩擦面を冷却した冷却油の排出をするドレン油路が設けられると共に、前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して設けられ、前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して制御されると共に前記冷却油路は、前記作動油路から独立して制御されることを特徴とする発進クラッチ。」 と補正された。(なお、下線は当審において附したものであって、補正箇所を示すものである。) 上記補正は、 (1)請求項1に係る発明を特定するための事項である「作動油路」、「冷却油路」、「ドレン油路」の関係について、補正前の「前記冷却油路と前記ドレン油路とが前記作動油路と独立して設けられ」を「前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して設けられ」と補正し、 (2)請求項1に係る発明を特定するための事項である「冷却油路」について、「前記冷却油路は、前記作動油路から独立して制御される」と補正するものであり、 上記(1)の補正は発明を特定する内容を変化させるものではなく、上記(2)の補正は、「冷却油路」を限定するものであるから、本件補正は、平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認める。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である「特開昭60-172729号公報」(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されていると認める。 〔あ〕「この発明は駆動機関と伝動装置と間に置くためのクラツチに関するものであつて、更に詳細に云うならば複数の摩擦板とデイスクとを持ちクラツチの冷却及び潤滑システムを備えた伝動装置に関するものである。」(3頁右上欄16?20行参照) 〔い〕「クラツチアセンブリ10には、半径方向外方に延びる環状肩部33を持つ環状の前部部材又は案内部材であるパイロツト部材32から成る多数構成成分のクラツチカバー30を持たせ、この肩部33は環状の取付ブラケツト36に密封状態で円周方向に隔てた複数のリベツト34によりリベツト付けする。このブラケツト36は皿形にし、右方から見た場合凹んだ形にすると共にこれと一体に形成した周辺環状フランジ38を持たせる。ブラケツト36には又穴37を持たせ、これでパイロツト部材32の前部環状端部を受けさせる。 クラツチカバー30には又環状のブラケツトシリンダ40を持たせる。このシリンダ40は、環状フランジ38の右側に置いた半径方向外側に延びる環状肩部41を備え同フランジ38の半径方向内側に終らせる。クラツチカバー30の最終の構成成分は掃気器リングブラケツト42であり、これは左側から見ると凹んでおり、肩部41の右側に接し同一の半径方向寸法を持たせた環状周辺フランジ44を備えている。フランジ44、肩部41、フランジ38は円周方向に隔てた複数のリベツト46を使つて密封状態で相互に固着する。 取付ブラケツト36の環状フランジ38は、円周方向に隔てた複数のボルト48を使つて、後方に突出した機関で駆動するはずみ車50の環状肩部52に打込み状態で固着する。はずみ車50はハウジング12の左端に置く。はずみ車50の左面の中心に位置させた端ぐり56は、機関のクランク軸(図示してない)の端部を受けるのに適するようにし、はずみ車50はこのクランク軸に複数のボルトを使い締付けるが、これらのボルトのうちの1本を参照数字58で示しておく。 クラツチカバー30のパイロツト部材32には、はずみ車50の穴62内に前方に向つて突出した中心に位置する環状肩部60を設けてクラツチカバー30を案内すると共に全クラツチアセンブリ10を案内し、クラツチアセンブリ及びはずみ車の同軸的整合を確実にする。」(4頁右上欄17行?右下欄14行参照) 〔う〕「ボア64の残りの部分即ち止め輪72の右方には内部スプラインを施し、動力取出駆動軸74の外部スプライン付前端部を受け、軸74がはずみ車50及びカバー30と一体に回転するようにする。軸74の左端は止め輪72と衝合接触させる。駆動軸74は伝動装置入力軸78の穴76と同心に配置し同ボア内の中心に位置を定める。」(5頁左上欄1?8行参照) 〔え〕「クラツチカバー30の前端をパイロツト部材32によつて中心膨張プラグ68を用いて密封し、他方カバー30の右端をオイルシールアセンブリ86によつて密封する。」(5頁左下欄18行?右上欄1行参照) 〔お〕「ブラケツトシリンダ40には中心の穴87を設け、同シリンダの半径方向に延びる部分41から半径方向に隔てられ軸線方向に延びる1対の環状ボス88、90を該部分41の前方に延ばし、又軸線方向に延びる環状ボス92を後方に延ばす。即ち更に詳細に述べるならば、環状ボス88により中心の穴87の前方部分を囲み、ボス88を軸78の周辺から僅かに隔てると共にこれと相対回転が可能なようにする。ボス88は、ブラケツトシリンダ40の半径方向に延びる部分41からパイロツト部分32の後面に向つてほぼ半分程延ばす。環状ボス90は、ボス88から半径方向外向きに隔て、パイロツト部材32の右側に形成した接触面143の半径方向外向きの縁部に隣接するように延ばす。 ボス90には右側に形成した第1の穴96を持たせ、この穴96でピストン98の周辺を受け入れ、又このピストン98には環状ボス88の周辺に滑動自在に受けた中心の穴100を設ける。」(5頁右上欄2?20行参照) 〔か〕「第1、第2図に示すように、クラツチの被駆動ボス110はほぼパイロツト部材32間のスペース内にその左側に配置し、同ボス110の右側にはブラケツトシリンダ40上にピストン98及び環状ボス88を置く。クラツチの被駆動ボス110は軸線方向に延びる中心のスプライン付きの穴112を持ち、この穴112により伝動装置の入力軸78のスプラインを施した前端部を受け、更に軸78の左方外端部114はパイロツト部材32の右側に中心の穴64の半径方向のすぐ外方に形成した接触面116に接触係合する。」(5頁左下欄7?17行参照) 〔き〕「クラツチの被駆動ボス110にはスプライン付きの周辺120を持たせ、この周辺をスプライン付きの穴112よりも更に右まで延ばす。環状のレリーフみぞ122をピストン98の左側に形成しボス110のスプライン付周辺を受ける。又、ボス110にはスプライン付きの穴112及びスプライン付周辺部分120間にその右側に形成した環状みぞ124を持たせ、潤滑剤がみぞ124内に流れ、みぞ124から延びる円周方向に隔てた穴125から成る軸線方向に隔てた2列の穴を半径方向外向きに流れ、ボス110のスプライン付周辺から半径方向に流れるように、環状の出入路を形成するようにする。」(5頁右下欄5?17行参照) 〔く〕「中心のスプライン付きの穴を囲む被駆動ボス110の右面には、中に形成した環状みぞ126を持たせ(みぞの詳細については第2図参照)、このみぞ126によりこのみぞ126の半径方向外方の接触肩部128を形成する。みぞ126内には、波形座金130の形状を持ち軸線方向に作用する環状成形の圧縮ばねを配置する。このばねには、みぞ126から右方に延び環状ボス88の左端と係合しこれに向つて圧縮された部分を持たせることによつて、クラツチの被駆動ボス110を左側に付勢する。みぞ126の接触肩部128は波形座金130を案内し、波形座金が半径方向に移動するのを防止する。」(5頁右下欄18行?6頁左上欄10行参照) 〔け〕「クラツチの被駆動ボス110の左面は、パイロツト部材32の右側に形成した環状の穴134内に受け、この穴134はパイロツト部材32内に形成した接触面116のすぐ半径方向外側に位置させる。」(6頁左上欄11?15行参照) 〔こ〕「波形座金130も又潤滑剤がボス110の右端と環状ボス88の左端との間に流れることを許し、波形座金130とこれらのボスとの間の係合部をボス88、110がクラツチの或る作動段階に於て相対的に回転する際に潤滑するようにすると共に、他のクラツチ構成部品を潤滑し冷却するようにする。」(6頁右上欄10?16行参照) 〔さ〕「環状ボス88と90との間に、又ピストン98とパイロツト部材32の環状接触面と間に、クラツチデイスクパツク142を配置する。更に詳述すると、6個の環状被駆動デイスク144、即ちそれらの軸線方向に対向している面に環状摩擦面を持ちスプライン付きの穴145を備えたデイスク144は、クラツチの被駆動ボス110のスプライン付周辺120上でスプラインを施してこの周辺120によつて支える。6個の環状中間板146を被駆動デイスク144に挿しはさむ。この中間板146はその直径がデイスク144よりも大きく、環状ボス90の穴148内に半径方向に案内される。ボス90には、軸線方向に延ばし且つ円周方向に隔てて中に形成したみぞ穴150を複数個持たせ、各中間板146には、そこから突出して従来と同じようにボス90内で隣り合うみぞ穴と打込み整合状態にした該中間板と同様な複数のタング(tang)151を持たせる。このようにして、中間板146はボス90と共に回転し、被駆動デイスク144を被駆動ボス110と共に回転するようにする。」(6頁左下欄19行?右下欄19行参照) 〔し〕「デイスクパツク142内には6個の波形座金153も存在している。……波形座金153はクラツチアセンブリ10が切り離されたとき中間板の分離を確実にし、又これらの座金は波形をしているので、ここを通る潤滑剤の通過を妨げるようなことはない。」(6頁右下欄19行?7頁左上欄9行参照) 〔す〕「軸線方向に延び円周方向に隔てられた複数の油通路156を、ブラケツトシリンダ40を通り、ボス90の半径方向外向きにしかも掃気器リングブラケツト42及び取付ブラケツト36の半径方向内向き形成して、クラツチデイスクパツク142を通つて放出した油が掃気器リングブラケツト42の境界内に到達し得るようにする。」(7頁右上欄4?10行参照) 〔せ〕「ブラケツトシリンダ40の右方に延びるボス92の上に環状の固定リング158の前端を回転自在に取付ける。……固定リング158には固定のピトーピツクアツプ管163を取付ける。クラツチカバー30の回転従つて掃気器リング42の回転が起ると、油はピトー管に逆つて運ばれ次いでピトー管を通して固定リング158の穴に形成した環状通路165に運ばれる。」(7頁右上欄11行?左下欄2行参照) 〔そ〕「通路165は頸状部80に形成した通路166に通じており、そこから後方に伝動装置まで通じ、ここで濾過されクラツチにポンプ戻しされてクラツチを冷却し潤滑する。」(7頁左下欄6?9行参照) 〔た〕「クラツチアセンブリ10を冷却し潤滑するための油は第1図に点線で示す半径方向に延びる通路168を通つて環状の頸状部80に入るが、この通路168は頸状部80の穴170に通じている。伝動装置の入力軸78は、頸状部80の穴170内で回転するように軸と穴との間にスペースを設けて取付ける。……入力軸78の壁には半径方向に延びる通路176を設け、この通路176を入力軸の中空の穴76まで導くが、この中空の穴76には動力取出駆動軸74を穴76から間隔を置いた関係に於て取付けるようにする。 軸74のみぞにはピストンリング180を密封状態に位置させ、伝動装置の入力軸78の穴76と通路176の右側に対して密封を行ないつつ回転自在に係合させる。」(7頁左下欄10行?右下欄8行参照) 〔ち〕「入力軸78には波形座金130の位置に於て半径方向に延びる複数の通路182を持たせる。冷却油は通路168に入つた後通路176を通つて流れ、次いで軸74及び入力軸78間を前方に、更に軸78の通路182を通り又入力軸78の端部にありみぞ118の形をした通路を通り半径方向外向きにそれぞれ流れる。次いで油は、波形座金130を通つて半径方向外向きに、被駆動ボス110の右端の回りのデイスクパツク142の方へ、ボス110のスプライン付周辺の穴125を通り、それぞれ流れるが、この油は更に軸78の端部のみぞ118を通り次いで被駆動ボス110の左端のみぞ140を通つて半径方向外向きにデイスクパツクまで流れる。」(7頁右下欄8行?8頁左上欄1行参照) 〔つ〕「制御弁(図示してない)から来るクラツチ係合流体は、非回転ハウジング26の通路184を通り、次いで頸状部80の通路186を通り、次いでブラケツト40の環状ボス92に形成した通路188を通り、クラツチに入り、更に室152内のピストン98の右側に入る。」(8頁左上欄8?13行参照) 等の記載が認められる、そして、 上記記載事項〔ち〕から、 〔て〕“前記「入力軸78」の「波形座金130の位置に於て半径方向に延びる複数の通路182」、「ボス110のスプライン付周辺の穴125」、「入力軸78」の端部にある「みぞ118」、「被駆動ボス110の左端のみぞ140」等が、「冷却油路」を構成している”こと、 上記記載事項〔つ〕から、 〔と〕“前記「非回転ハウジング26の通路184」、「頸状部80の通路186」、「ブラケツト40の環状ボス92に形成した通路188」等が、「作動油路」を構成している”こと、 上記記載事項〔す〕から、 〔な〕“前記「固定リング158」及び「ブラケツトシリンダ40」と「クラツチカバー30」の「掃気器リングブラケツト42」との間に画成される空間は、「ドレン油路」を構成している”こと が、記載されていると認められる。 したがって、併せて図面を参照すると、刊行物1には、 “軸方向に延在する穴76を有する伝動装置入力軸78と、該伝動装置入力軸78の半径方向外側に配置された非回転ハウジング26の頸状部80及び該頸状部80に固定された固定リング158と、デイスクパツク142およびピストン98を収容したブラケツトシリンダ40と、該ブラケツトシリンダ40を収容したクラツチカバー30とから成る、機関と伝動装置間に配置されるクラッチにおいて、前記伝動装置入力軸78の穴76から前記デイスクパツク142の間に画成され、前記デイスクパツク142の摩擦面を冷却するための油を供給する冷却油路、前記ブラケツトシリンダ40と前記ピストン98との間に至るように画成された前記デイスクパツク142を作動させるための油を供給する作動油路及び前記固定リング158及び前記ブラケツトシリンダ40と前記クラツチカバー30との間に画成され、前記摩擦面を冷却した冷却油の排出をするドレン油路が設けられると共に、前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して設けられる、機関と伝動装置間に配置されるクラッチ” の発明が記載されていると認められる。 3.対比・判断 (1)上記刊行物1には、上記記載事項〔う〕のとおり、機関からの動力は、刊行物1に記載された発明の「機関と伝動装置間に配置されるクラッチ」を経由するもののほかに、「動力取出駆動軸74」によって取り出されることが記載されているから、上記「機関と伝動装置間に配置されるクラッチ」は、「発進クラッチ」と認められ、また、機関からの動力により伝動装置入力軸を駆動するか、伝動装置入力軸の駆動を遮断するかを選択するものであるから、「伝動装置用」の「発進クラッチ」ということができる。 そして、本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「穴76」が前者の「センタ穴」に相当し、以下同様に、後者の「伝動装置入力軸78」が前者の「入力軸」に、後者の「非回転ハウジング26の頸状部80及び該頸状部80に固定された固定リング158」が前者の「軸部材」に、後者の「デイスクパツク142」が前者の「クラッチ部」に、後者の「ピストン98」が前者の「クラッチピストン」に、後者の「ブラケツトシリンダ40」が前者の「クラッチケース」に、後者の「クラツチカバー30」が前者の「ハウジング」に、それぞれ、相当すると認められる。また、「変速機」は「伝動装置」であるから、両者は、 「軸方向に延在するセンタ穴を有する入力軸と、該入力軸の半径方向外側に配置された軸部材と、クラッチ部およびクラッチピストンを収容したクラッチケースと、該クラッチケースを収容したハウジングとから成る、伝動装置用の発進クラッチにおいて、前記入力軸のセンタ穴から前記クラッチ部の間に画成され、前記クラッチ部の摩擦面を冷却するための油を供給する冷却油路、前記クラッチケースと前記クラッチピストンとの間に至るように画成され、前記クラッチ部を作動させるための油を供給する作動油路及び前記軸部材及び前記クラッチケースと前記ハウジングとの間に画成され、前記摩擦面を冷却した冷却油の排出をするドレン油路が設けられると共に、前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して設けられる発進クラッチ」 で一致し、次の点で相違すると認められる。 [相違点A] 本願補正発明では、前記「クラッチケース」が「軸部材の半径方向外側に配置され」、前記「作動油路」が「前記入力軸と前記軸部材との間から前記クラッチケースと前記クラッチピストンとの間に画成され」るのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「クラッチケース」が「軸部材の半径方向外側に配置され」るものではなく、前記「作動油路」が「前記入力軸と前記軸部材との間から」画成されるものでない点 [相違点B] 本願補正発明では、前記「伝動装置」が「変速機」であるのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「伝動装置」が「変速機」であると明示されたものでない点 [相違点C] 本願補正発明では、「前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して制御されると共に前記冷却油路は、前記作動油路から独立して制御される」のに対して、上記刊行物1に記載された発明は、前記「作動油路」及び「冷却油路」がどのように制御されるか不明である点 (2)次に、上記相違点について検討する。 (2-1)相違点Aについて 軸方向に延在するセンタ穴を有する軸と、該軸の半径方向外側に配置された軸部材と、該軸部材の半径方向外側に配置されたクラッチケースを備え、クラッチ部を作動させるための油を供給する作動油路が前記センタ穴を有する軸と前記軸部材との間から前記クラッチケースとクラッチピストンとの間に画成されるクラッチの構成は、本願優先日前に周知(例えば、特開平1-120436号公報(4頁右上欄1?5行、図面)、実願平1-83208号(実開平3-22160号)のマイクロフィルム(明細書8頁10?15行、同9頁10行?10頁1行、第1図)参照)のものと認められる。 そして、このような本願優先日前に周知のクラッチに係る技術を、上記刊行物1に記載されたクラッチに適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、上記刊行物1に記載されたものにおいて、「クラッチケース」と「軸部材」との位置関係を「クラッチケース」が「軸部材の半径方向外側に配置され」る関係とし、「作動油路」を「前記入力軸と前記軸部材との間から前記クラッチケースと前記クラッチピストンとの間に画成され」る構成に変更することは、本願優先日前に周知の上記事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。 (2-2)相違点Bについて 機関と変速機との間に発進クラッチを配置する構成は、例示するまでもなく極めて周知の事項であるから、前記「伝動装置」を「変速機」とすることは、本願優先日前に周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。 (2-3)相違点Cについて 上記刊行物1に記載されたものは、作動油路が冷却油路とドレン油路とから独立して設けられているから、前記作動油路を前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して制御し得るものであり、また、前記冷却油路を前記作動油路から独立して制御し得るものと認められる。他方で、作動油路及び冷却油路は、それぞれの要求を満たすように制御するのが望ましいことは当業者の技術常識と認められる。 したがって、上記刊行物1に記載されたものを、「前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して制御されると共に前記冷却油路は、前記作動油路から独立して制御される」構成とすることは、上記刊行物1に記載されたものの構成に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。 このことに加えて、クラッチにおける作動油路を冷却油路とドレン油路とから独立して制御すると共に、冷却油路を作動油路から独立して制御することは、本願優先日前に周知(例えば、実願昭51-92319号(実開昭53-11440号)のマイクロフィルムに記載されたものにおいては、作動油路と冷却油路の圧力が、それぞれに設けた「インチングバルブ11」、「リリーフ弁21」により制御されている)の事項と認められることからも、上記刊行物1に記載されたものを、「前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して制御されると共に前記冷却油路は、前記作動油路から独立して制御される」構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3)このように、本願補正発明を特定する事項は、上記刊行物1に記載された事項及び上記本願優先日前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 (4)請求人の主張について (4-1)請求人は、審判請求書の手続補正書において、刊行物1に記載されたものについて、 i)作動油路と冷却油路とがそれぞれ独立して制御される点については開示も示唆もない ii)本願補正発明に特有の、(a)必要なときに必要な油量をクラッチの摩擦面に供給することができ、無駄なく効率的な冷却が可能となり、発進クラッチの摩擦プレートの寿命を延ばすことができる、(b)冷却後の油の円滑な排出が可能になる、(c)クラッチ制御も単独で任意の動力伝達効率で操作可能になり、また、これにより、例えば、摩擦面に摩擦材内周側から外周側に貫通した溝を有した場合でも、クラッチ作動に影響なく効果的な摩擦面冷却が可能になる、(d)ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの3つの油路形態をそのまま使用して、基本的な構造変更なしに本発進クラッチと容易に置換可能となる、等の効果が得られない 旨主張する。 (4-2)しかしながら、 i)上記「(2-3)相違点Cについて」で論じたように、刊行物1に記載されたものも、作動油路が冷却油路とドレン油路とから独立して設けられているから、作動油路と冷却油路とをそれぞれ独立して制御し得るものであり、作動油路と冷却油路とがそれぞれ独立して制御される構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 ii)刊行物1に記載されたものも、作動油路と冷却油路とをそれぞれ独立して制御し得るものであり、請求人が主張する(a)乃至(c)の効果は、刊行物1に記載されたものから予測し得る程度のものである。 ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを本願補正発明の発進クラッチに容易に置換し得るか否かは、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成と密接に関連するものと認められるところ、本願補正発明は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成を、その発明を特定する事項とするものではないから、請求人が主張する上記(d)の効果は、本願補正発明に特有の効果とすることはできない。 したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを本願補正発明の発進クラッチに容易に置換し得る場合が存在しても、そのことが、本願補正発明を特定する事項を当業者が容易に想到し得るとした先の判断を覆す根拠とはならない。 (5)したがって、本願補正発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 【三】本願発明について 1.本願発明 平成17年10月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年7月8日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 軸方向に延在するセンタ穴を有する入力軸と、該入力軸の半径方向外側に配置された軸部材と、該軸部材の半径方向外側に配置され、クラッチ部およびクラッチピストンを収容したクラッチケースと、該クラッチケースを収容したハウジングとから成る、変速機用の発進クラッチにおいて、前記入力軸のセンタ穴から前記クラッチ部の間に画成され、前記クラッチ部の摩擦面を冷却するための油を供給する冷却油路、前記入力軸と前記軸部材との間から前記クラッチケースと前記クラッチピストンとの間に画成され、前記クラッチ部を作動させるための油を供給する作動油路及び前記軸部材及び前記クラッチケースと前記ハウジングとの間に画成され、前記摩擦面を冷却した冷却油の排出をするドレン油路が設けられると共に、前記冷却油路と前記ドレン油路とが前記作動油路と独立して設けられ、前記作動油路は前記冷却油路と前記ドレン油路とから独立して制御されることを特徴とする発進クラッチ。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である前記「特開昭60-172729号公報」(以下同様に「刊行物1」という。)には、前記「【二】平成17年10月24日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.引用例」に記載したとおりの事項が記載されているものと認める。 3.対比・判断 本願発明は、前記「【二】平成17年10月24日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」で検討した本願補正発明から、「冷却油路」についての限定事項である「前記冷却油路は、前記作動油路から独立して制御される」との事項を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明を特定する事項のすべてを含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「【二】平成17年10月24日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」に記載したとおり、上記刊行物1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記刊行物1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2?9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-08-06 |
結審通知日 | 2007-08-08 |
審決日 | 2007-08-22 |
出願番号 | 特願平8-79962 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保 竜一 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
町田 隆志 水野 治彦 |
発明の名称 | 発進クラッチ |
代理人 | 臼井 伸一 |
代理人 | 産形 和央 |
代理人 | 高橋 誠一郎 |
代理人 | 本宮 照久 |
代理人 | 岡部 正夫 |
代理人 | 加藤 伸晃 |
代理人 | 越智 隆夫 |
代理人 | 吉澤 弘司 |