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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680053 審決 特許
無効2007800058 審決 特許
無効200680199 審決 特許
無効200680143 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09K
管理番号 1166237
審判番号 無効2004-80021  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-20 
確定日 2007-09-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3484774号「アルミン酸塩蛍光体」の特許無効審判事件についてされた、「訂正を認める。特許第3484774号の請求項1ないし6、8に係る発明についての特許を無効とする。特許第3484774号の請求項7に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」とした平成17年8月9日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、『審決中、「特許第3484774号の請求項7に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との部分を取り消す。』との判決(平成17年(行ケ)第10689号及び平成17年(行ケ)第10690号、平成18年11月9日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3484774号の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許の手続
本件特許第3484774号の手続の経緯は次のとおりである。
・特許出願 : 平成6年8月17日(平成6年特許願第193141号)
・特許権の設定の登録:平成15年10月24日
特許権者:三菱化学株式会社
化成オプトニクス株式会社
発明の名称:「アルミン酸塩蛍光体」
特許番号:特許第3484774号
(この明細書を「本件特許明細書」という。)
請求項数:8

2.本件審判の手続
本件審判事件の手続の経緯は次のとおりである。
・審判請求 :平成16年4月20日
請求人 :日亜化学工業株式会社
・訂正請求書提出:平成16年7月16日
・審決(起案日):平成17年8月9日
(以下、この審決を「1次審決」という。)
1次審決の主文:「訂正を認める。特許第3484774号の請求項1
ないし6、8に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3484774号の請求項7に係る発明について
の審判請求は、成り立たない。審判費用は、その8分の
1を請求人の負担とし、8分の7を被請求人の負担とす
る。」
・1次審決取消訴訟提起:日亜化学工業株式会社が原告(平成17年
(行ケ)10689号)
三菱化学株式会社・化成オプトニクス株式会社が
原告(判決中の「被告ら」)(平成17年
(行ケ)10690号)
・判決言渡 :平成18年11月9日
判決の主文 :「1 特許庁が無効2004-80021号事件につい
て平成17年8月9日にした審決中、「特許第3484
774号の請求項7に係る発明についての審判請求は、
成り立たない。」との部分を取り消す。
2 被告らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。」
・判決確定 :平成18年11月24日
・訂正請求申立書提出:平成18年11月30日
・訂正請求のための指定期間通知(起案日):平成18年12月21日
・訂正請求書提出:平成19年1月15日(以下、この訂正請求に係る訂正
を「本件訂正」という。)
・訂正拒絶理由通知(起案日):平成19年2月21日
・職権審理結果通知(起案日):平成19年2月21日
・意見書提出 :平成19年3月22日(日亜化学工業株式会社)
平成19年3月27日(三菱化学株式会社・
化成オプトニクス株式会社)
・訂正拒絶理由通知(起案日):平成19年5月25日
・職権審理結果通知(起案日):平成19年5月25日
・意見書提出 :平成19年6月27日(日亜化学工業株式会社)
・意見書・手続補正書提出:平成19年6月28日(三菱化学株式会社・
化成オプトニクス株式会社)

第2 本件訂正について
1.請求の要旨
(1) 平成19年1月15日付け訂正請求書及び同年6月28日付け手続補正書によれば、本件訂正の請求は、訂正請求書の「6.請求の趣旨」のとおりの「特許第3484774号の明細書を、本件請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求める。」というものであって、「7.請求の理由(3)訂正事項」によれば、訂正事項は、次のア.の訂正事項1?5のとおりであり、訂正請求書の「7.請求の理由(4)訂正の原因」によれば、訂正の目的は、次のイ.のとおりであり、本件請求書に添付した明細書の記載によれば、本件訂正後の特許請求の範囲は、ウ.のとおりである。
ア.訂正事項1?5
a 訂正事項1
訂正前の請求項1を、
「【請求項1】炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元する還元性雰囲気下で焼成され、Ba、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、Baを含み、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない空間群がP63/mmcの結晶質無機化合物の単相からなることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体。」と訂正する。
b 訂正事項2
訂正前の請求項7を削除する。
c 訂正事項3
段落【0007】の
「【課題を解決するための手段】本発明者らは、色ずれの問題を解決する方法として、2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体について詳細に検討を行った結果、特定のアルミン酸蛍光体は蛍光ランプ点灯時に発光強度の低下が少ないことを見出し、本発明に到達した。」を、
「【課題を解決するための手段】本発明者らは、色ずれの問題を解決する方法として、2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体について詳細に検討を行った結果、特定のアルミン酸塩蛍光体は蛍光ランプ点灯時に発光強度の低下が少ないことを見出し、本発明に到達した。」と訂正する。
e 訂正事項4
段落【0016】の
「蛍光灯点灯中の劣化が起こりにくい本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物に銅陰極X線管球から発生するCuKα1 特性X線を入射した際の粉末X線回折パターンにおいて、図1に示すように、ミラー指数008の回折ピークがミラー指数110の回折ピークと独立して極大値を持たないパターンを示すことである。」なる記載部分を、
「蛍光灯点灯中の劣化が起こりにくい本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物に銅対陰極X線管球から発生するCuKα1 特性X線を入射した際の粉末X線回折パターンにおいて、図1に示すように、ミラー指数008の回折ピークがミラー指数110の回折ピークと独立して極大値を持たないパターンを示すことである。」と訂正する。
e 訂正事項5
段落【0021】の
「X線照射試験は、銅陰極管をX線発生源とする粉末X線回折計において40kVの加速電圧で30mAの電流を流した時に発生する白色X線を銅陰極から18.5cm離れた試料に6時間照射した後に、波長253.7nmの紫外線励起による発光強度を測定し、照射前発光強度に対する維持率として計算することにより行われる。」なる記載部分を、
「X線照射試験は、銅対陰極管をX線発生源とする粉末X線回折計において40kVの加速電圧で30mAの電流を流した時に発生する白色X線を銅対陰極から18.5cm離れた試料に6時間照射した後に、波長253.7nmの紫外線励起による発光強度を測定し、照射前発光強度に対する維持率として計算することにより行われる。」と訂正する。
イ.訂正の目的
訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」及び「誤記の訂正」を目的とするものであり、訂正事項2は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、訂正事項3?5はいずれも「誤記の訂正」を目的とするものである。
ウ.本件訂正請求書に添付した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の記載
【請求項1】炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元する還元性雰囲気下で焼成され、Ba、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、Baを含み、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない空間群がP63/mmcの結晶質無機化合物の単相からなることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体。
【請求項2】 該結晶質無機化合物が、一般式
【数1】
(M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・
(5.5-0.5a)Al2O3
(式中、M1はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素を表し、M2はMg及び/又はZnを表し、aは0<a≦2の実数を表し、x及びyはそれぞれ0<x<1、0≦y<1の実数を表す)で表されるアルミン酸塩蛍光体であることを特徴とする請求項1に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項3】 x及びyが、それぞれ
【数2】
0.1≦x≦0.5
0≦y≦0.2
であることを特徴とする請求項2に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項4】 aが、
【数3】
1≦a≦2
の実数であることを特徴とする請求項2又は3に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項5】 xが、
【数4】
0.1≦x≦0.15
である場合、M1の元素の構成比が
【数5】
0.2≦Sr/(Ba+Sr+Ca+Eu)<1
を満足するものであることを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項6】 y=0であることを特徴とする請求項2乃至5に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(2) 上記第1の2.に示したとおり、本件審判事件の1次審決に対し、請求人、被請求人双方から審決取消訴訟が提起され、知的財産高等裁判所において判決がされ、その判決は確定したことから、平成16年7月16日付けの訂正を認めた上で、請求項1ないし6、8に係る発明についての特許を無効とする、とする部分は確定した。
本件訂正は、その判決の確定の日から指定期間(1週間)内に被請求人から申立てがあり、所定の指定期間(10日)内に請求されたものであるから、特許法第134条の3第1項の規定によるものと認められる。
そして、本件訂正の請求がされたので、この本件審判請求において先にした訂正請求である平成16年7月16日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることになるところ、上記したとおり、請求項1ないし6、8に係る特許は無効が確定しており、無効が確定した請求項に係る特許については、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第4項の規定により訂正をすることができないことから、本件訂正の請求は、特許の無効が確定した請求項に係る特許以外の残余の部分、すなわち、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7(以下「訂正前の請求項7」という。他の請求項についても同様とする。)に係る特許について許されることになり、先にした訂正請求が取り下げられたものとみなされるのは、訂正前の請求項7に限られると解される。
したがって、上記残余の部分についての訂正対象の明細書は、設定登録時の明細書(本件特許明細書)となる。
(3) 本件特許明細書の特許請求の範囲は、以下のとおりであり、本件訂正明細書の特許請求の範囲は、前記(1)ウ.のとおりである。
[本件特許明細書の特許請求の範囲]
【請求項1】 Ba、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない結晶質無機化合物を含有することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体。
【請求項2】 該結晶質無機化合物が、一般式
【数1】
(M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・(5.5-0.5a)Al2O3
(式中、M1はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素を表し、M2はMg及び/又はZnを表し、aは0<a≦2の実数を表し、x及びyはそれぞれ0<x<1、0≦y<1の実数を表す)で表されるアルミン酸塩蛍光体であることを特徴とする請求項1に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項3】 x及びyが、それぞれ
【数2】
0.1≦x≦0.5
0≦y≦0.2
であることを特徴とする請求項2に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項4】 aが、
【数3】
1≦a≦2
の実数であることを特徴とする請求項2又は3に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項5】 xが、
【数4】
0.1≦x≦0.15
である場合、M1の元素の構成比が
【数5】
0.2≦Sr/(Ba+Sr+Ca+Eu)<1
を満足するものであることを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項6】 y=0であることを特徴とする請求項2乃至5に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項7】 該結晶質無機化合物の単層からなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項8】 X線照射試験における発光強度の維持率が92%以上であることを特徴とする請求項1乃至7に記載のアルミン酸塩蛍光体。

上記のとおり、訂正前の請求項1?6、8については訂正することが許されないから、訂正後の請求項1?6は、訂正前の請求項1?6を訂正するものであってはならない。
すると、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項7を新たな請求項1?6に訂正する趣旨のものと解される(このことは、訂正請求書の「7.請求の理由(3)訂正事項」における「〔訂正後の請求項と訂正前の請求項との対応関係〕」の記載とも整合する。)。
また、訂正事項2として訂正前の請求項7を削除するとしたのも、上記趣旨のものと解される(なお、本件特許明細書が訂正の対象となることは上記のとおりであり、本件特許明細書の特許請求の範囲には請求項1?6、8の記載があるが、訂正前の請求項1?6、8に係る特許権は初めからなかったものとみなされることから、単に明細書の体裁を整えるに過ぎない訂正前の請求項1?6、8の削除に言及しなかったと解される。)。
よって、訂正事項1、2に係る訂正は、訂正前の請求項7を新たな請求項1?6に訂正する趣旨のものと解されるので、以下訂正事項1、2に係る訂正については上記の解釈のもとに訂正の適否を検討することとする。

2.訂正の適否について
(1) 訂正事項1、2について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項7を新たな請求項1?6に訂正するものである。
訂正前の請求項7は、上記1.(3)のとおり
「【請求項7】 該結晶質無機化合物の単層からなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアルミン酸塩蛍光体。」
であって、訂正前の請求項1乃至6を引用する形式で記載するものであるから、訂正前の請求項7は、訂正前の請求項1?6それぞれに対し「該結晶質無機化合物の単層からなること」という技術的限定事項(α)が加ったものであるということができる。
そして、訂正前の請求項7で引用する訂正前の請求項2乃至6と、訂正後の新たな請求項2?6とは、それぞれの技術的限定事項の記載及び引用する請求項の記載は同じである。
すると、訂正後の新たな請求項1は、訂正前の請求項7のうち訂正前の請求項1を引用するもの(訂正前の請求項1の構成(β)にαが加ったもの)に、さらに「炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元する還元性雰囲気下で焼成され、」、「Baを含み」、及び「空間群がP63/mmcの」の技術的限定事項(γ)を加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正した構成のもの(β+α+「γに加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正したもの」の構成のもの)であるといえるから、訂正後の新たな請求項1とすることは、訂正前の請求項7の訂正前の請求項1を引用するものに「γに加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正」という減縮及び訂正をするものということができる。
また、訂正前の請求項7で訂正前の請求項2乃至6を引用するものは、訂正前の請求項2乃至6が訂正前の請求項1を直接間接に引用するものであるから、それぞれ訂正前の請求項1の構成(β)及び訂正前の請求項2乃至6の技術的限定(引用する上位請求項の技術的限定を含む。)(δ)に、αを加えたものであるといえる。
すると、訂正後の新たな請求項2?6は、それぞれ訂正後の請求項1の上記構成(β+α+「γに加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正したもの」の構成)に訂正後の請求項2乃至6の技術的限定限定(引用する上位請求項の技術的限定を含む。)(訂正前のδに同じ。)がされた構成のもの(β+α+δ+「γに加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正したもの」の構成のもの)といえ、結局のところ、訂正後の新たな請求項2?6とすることは、訂正前の請求項7の訂正前の請求項2?6を引用するもの(β+α+δの構成)に、さらに、「γに加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正したもの」という減縮及び訂正をするものということができるから、訂正前の請求項7を、「γに加え、「単層」の誤記を「単相」に訂正」という減縮及び訂正をしたものを、複数の請求項に分割したものといえる。そして、請求項の数を増すものにも該当しない。
そうすると、訂正前の請求項7を新たな請求項1?6に訂正するという訂正事項1、2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、及び誤記の訂正を目的とするものに該当するといえる。
そして、訂正事項1、2に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2) 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0007】における「特定のアルミン酸蛍光体」の記載を「特定のアルミン酸塩蛍光体」とする、すなわち「塩」を加える訂正である。
訂正前の「特定のアルミン酸蛍光体」の記載は、その前後の文脈に照らせば、「特定のアルミン酸塩蛍光体」を「特定のアルミン酸蛍光体」と誤記したものであることは明らかである。
よって、この訂正は誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3) 訂正事項4、5について
訂正事項4、5に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0016】及び【0021】のそれぞれ「銅陰極」を「銅対陰極」とする訂正である。
そして、X線発生源の管球において、通常陽極は銅であり、陰極に対し対陰極と呼ばれるものであるから、この訂正は誤記の訂正ないし明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4、5に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4) 小括
上記のとおり、訂正事項1、2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明、又は、誤記の訂正を目的とし、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項3?5に係る訂正は、明りょうでない記載の釈明、又は、誤記の訂正を目的とし、いずれも、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書の規定に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
平成19年1月15日付けの訂正は上記のとおり認められたから、本件特許に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める(第2 1(1)ウ.参照。請求項1?6に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」……という。)。

第4 請求人の主張する特許を無効とすべき理由の要点
請求人が提出した審判請求書、口頭審理陳述要領書その他によれば、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に係る特許について、請求人の主張する特許を無効とすべき理由の一つは「実施可能要件違反」であって、「本件特許発明は発明の実施の形態の記載において、製造条件の数値が記載されておらず、しかもそれが出願時の技術常識に基づいても当業者に理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない」(審判請求書23頁下から5?3行)から本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項の規定に適合しないものである、という趣旨のものと認められる。

第5 被請求人の反論の要点
被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書、その他によれば、被請求人は、本件訂正明細書についての請求人の「実施可能要件違反」の主張について、「本件発明の実施例において、「……」(段落【0026】)と記載され、本件発明の蛍光体が明確に記載されており、かかる製造条件については、出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に設定、実施しうるものであるから、本件明細書(審決注・本件訂正明細書)には、審判請求人の主張するような瑕疵はない」(答弁書)16頁7?15行)という趣旨の反論をすると認められる。

第6 当審の判断
訂正後の発明について、請求人の主張する実施可能要件違反の無効理由の当否、すなわち、本件訂正発明1?6の「発明の実施の形態の記載において、製造条件の数値が記載されておらず、しかもそれが出願時の技術常識に基づいても当業者に理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない」から本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項の規定に適合しないものであるという理由の当否、について検討する。

1.「結晶質無機化合物の単相」について
本件訂正発明1は「結晶質無機化合物の単相からなる」との構成要件を有する蛍光体であり、本件訂正発明2?6は本件訂正発明1を直接又は間接に引用する発明であるから、本件訂正発明1?6は、いずれも、「結晶質無機化合物の単相からなる」という構成要件を有する蛍光体である。
そして、「結晶質無機化合物の単相からなる」蛍光体とは、「不純物相」を含まない、あるいは、「不純物相」が混在しない、請求項1?6記載の結晶質無機化合物の単一相からなる蛍光体を意味するものと解するのが相当であることは、以下のとおりである。すなわち、
(1) 本件訂正明細書において、特許請求の範囲の請求項1の記載以外には、「単相」の語は用いられておらず、特許請求の範囲を含め本件訂正明細書を検討しても、この語そのものを説明する記載は見当たらない。
(2) 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項には、次の記載がある。
a 「【0005】……還元焼成条件が適切でない場合にはEuAlO3等の不純物が析出してしまうために、高価なEuを多量に使用するにも関わらず、色ずれの改善効果は小さかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
蛍光ランプ点灯時に発光強度の低下の少ない2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体を提供する事にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、色ずれの問題を解決する方法として、2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体について詳細に検討を行った結果、特定のアルミン酸塩蛍光体は蛍光ランプ点灯時に発光強度の低下が少ないことを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない結晶質無機化合物を含有することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体に存する。
【0009】
……本発明のアルミン酸塩蛍光体は、Ba、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない結晶質無機化合物を含有することを特徴とし、特に該結晶質無機化合物が一般式
【0010】
【数7】
(M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・(5.5-0.5a)Al2O3
【0011】(式中、M1はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素を表し、M2はMg及び/又はZnを表し、aは0<a≦2の実数を表し、x及びyはそれぞれ0<x<1、0≦y<1の実数を表す)で表されるアルミン酸塩蛍光体であることが好ましい。
【0012】
上記一般式中の、a、x、yの好ましい値は、以下の理由で決められる。xは結晶構造的には、0から1迄可変であるが、十分な発光強度を得られ、しかも、蛍光灯点灯時の発光強度の低下を防止するのに有効なのは、0.1以上0.5以下である。xが0.1未満でも0.5を越えても発光強度が低くなってしまう。中でも更に、xが0.15未満では発光強度の低下防止効果が少ないが、0.1≦x≦0.15の場合には式中M1の元素の構成比が0.2≦Sr/(Ba+Sr+Ca+Eu)<1を満足する組成とすると、蛍光灯点灯時の発光強度の低下防止に有効である。xが大きいほど発光強度の低下防止に有効だが、0.5を越えるとEuAlO3の析出が顕著になり、低下防止効果が飽和する。yも結晶構造的には、0から1迄可変であるが、十分な発光強度を得られるのは、0.2以下であり、特にy=0であっても好ましい。又、M1はBa、Sr、Caの少なくとも1種であるが、Caの構成比が0.01≦Ca/(M1+Eu)≦0.17の範囲の化学組成とすると、不純物が生成せずに蛍光体合成温度の低減が可能となる。一方、Caの構成比が0.17<Ca/(M1+Eu)の範囲の化学組成とすると、非発光物質である不純物の混在が顕著となり、発光強度の低下に繋がる。」
b 「【0015】
この結晶構造を持つ結晶質無機化合物からの粉末X線回折パターンは、例えば(Ba0.8、Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の組成の場合には図1に示すようなものであるが、Al2O3やMgAl2O4などの発光に悪影響を殆ど及ぼさない透明な不純物が蛍光体中に混在している場合には、上記の回折ピーク以外に不純物の回折ピークが加わったパターンとなる。」
c 「【0023】
【発明の効果】
本発明の2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体を用いることにより、点灯時に発光強度の低下の少ない蛍光ランプを製造する事が可能となる。従って、長時間に亘って高輝度で高演色性を示す3波長域発光形蛍光ランプを製造する事が可能となる。従って、長時間に亘って高輝度で高演色性を示す3波長域発光形蛍光ランプが得られる。」
(3) 上記(2)aないしcの各記載、とりわけ「EuAlO3等の不純物が析出してしまう」(段落【0005】)、「EuAlO3の析出が顕著になり、低下防止効果が飽和する」、「不純物が生成せずに蛍光体合成温度の低減が可能となる」、「非発光物質である不純物の混在が顕著となり、発光強度の低下に繋がる」(段落【0012】)、「Al2O3やMgAl2O4などの発光に悪影響を殆ど及ぼさない透明な不純物が蛍光体中に混在している」(段落【0015】)との各記載によれば、本件訂正明細書には、蛍光体中にEuAlO3、Al2O3、MgAl2O4等の無機化合物が「不純物」として混在することが記載されているということができる。
一般に、「不純物」とは「ある物質に少量混じった余計な別の物質」(広辞苑第5版)を意味する語であり、「不純物元素」、「不純物相」等を指す用語として用いられるが、本件訂正明細書に記載された「不純物」は、上記のとおり、無機化合物を指すから、「不純物元素」ではない。また、蛍光体の合成という技術分野においては、特定の結晶相からなる「単一相」という用語が一般的に用いられていることが認められる(蛍光体同学会編「蛍光体ハンドブック」(株式会社オーム社昭和62年12月25日発行)268頁?269頁などを参照)。
そうすると、本件訂正明細書に記載された「不純物」とは「不純物相」のことであり、蛍光体における「単相」とは「不純物相」を含まない「単一相」のことであると理解することができる。
したがって、本件訂正発明1?6の「結晶質無機化合物の単相」からなる蛍光体とは、「不純物相」を含まない、あるいは、「不純物相」が混在しない、請求項1?6記載の結晶質無機化合物の単一相からなる蛍光体を意味するものと解するのが相当である。

2.本件訂正発明1?6の「結晶質無機化合物の単相」の蛍光体及びその製造方法が具体的に開示されていると認められないことは、以下のとおりである。すなわち、
(1) 本件訂正発明1?6の「結晶質無機化合物の単相」からなる蛍光体は、前記1.において認定したとおり、請求項1?6記載の結晶質無機化合物からなる、「不純物相」を含まない蛍光体を意味する。
(2) 「単相」という用語はX線回折パターン中に本来得ようとする特定の結晶質無機化合物からのピークのみが認められることを意味しており、蛍光体からのX線回折パターン中に不純物(相)からのピークが認められるか否かによって「単相」の蛍光体と「単相」でない蛍光体とを区別することができると仮にいえるとしても、以下のとおり、本件訂正明細書のX線回折パターンに関する記載からは、不純物相の混在の有無を判断することはできないから、「単相」からなる蛍光体が、本件訂正明細書に開示されているとはいえない。
ア. 蛍光体のX線回折パターンについて、本件訂正明細書には、図1及び2に、縦軸をX線強度、横軸を回折角度とするグラフが示されており、また、蛍光体の合成、実施例及び比較例、図1及び2等に関し、前記1.(2)bで認定した段落【0015】のほか、次の記載がある。
d 「【0016】
蛍光灯点灯中の劣化が起こりにくい本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物に銅対陰極X線管球から発生するCuKα1特性X線を入射した際の粉末X線回折パターンにおいて、図1に示すように、ミラー指数008の回折ピークがミラー指数110の回折ピークと独立して極大値を持たないパターンを示すことである。一方、極大値を持つ場合には、図2に示すような粉末X線回折パターンとなる。ここで、独立して極大値を持たないとは、X線回折強度をI、回折角度2θをt度とした場合に、一次微分値dI/dtがミラー指数008の回折ピークとミラー指数110の回折ピークの間において、負の値を持たないことを意味する。……」
e 「【0017】
本発明の蛍光体は、次のように合成する事ができる。蛍光体原料として、
(1)酸化バリウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム等のバリウム化合物
(2)酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物
(3)酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム化合物
(4)酸化ユーロピウム、フッ化ユーロピウム等のユーロピウム化合物
(5)酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物
(6)酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の亜鉛化合物
(7)酸化マンガン、水酸化マンガン、炭酸マンガン等のマンガン化合物
(8)酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物
を所定量秤量し、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム等のフラックスを配合し、原料混合物を十分に混合する。得られた混合物を坩堝に充填し、還元性雰囲気にて、1200?1700℃で2?40時間かけて1回以上焼成する。焼成温度が高いほど、発光強度の高い蛍光体を得ることが出来るが、1700℃を越えると焼成コストが発光強度の上昇効果に見合わない。還元性雰囲気を得る方法として、原料の充填された坩堝をカーボンの充填された坩堝内に埋め込む方法、黒鉛の塊や、ヤシガラ等の炭素物質を原料の充填された坩堝内に入れる方法がある。還元を確実にする為に、更にこれらの坩堝を窒素あるいは窒素水素の雰囲気中で焼成しても良い。又これらの雰囲気に水蒸気が含まれていても良い。還元焼成条件を適切にすることは、本発明の蛍光体を製造するために非常に重要である。即ち、焼成の開始から終了までの全ての段階において、炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元することによって初めて本発明の蛍光体を製造する事ができる。この焼成物に分散、水洗、乾燥、篩を行い、本発明の青色あるいは青緑色発光のアルミン酸塩蛍光体を得る事ができる。」
f 「【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1
【0025】
【表1】
BaCO3 :0.8mol
Eu2O3 :0.1mol
MgO :1.0mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
【0026】
上記原料をエタノールを使用して湿式で混合し、乾燥し、成形圧力1000kgf/cm2でペレット状に成形し、坩堝に入れて蓋を被せ、この坩堝をビーズ炭を入れた別の坩堝内に入れて蓋を被せ、大気中で最高温度1500℃で4時間焼成した。次いで、得られた焼成ペレットを粉砕し、(Ba0.8、Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。
【0027】
この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは94.8%であった。また、この蛍光体の空間群はP63/mmc、格子定数はa=5.636Å、c=22.643Åであり、構成元素が表1又は表2に示す原子座標位置を占有していた。CuKα1特性X線を入射した際に図1の粉末X線回折パターンを示し、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを持たないパターンを示した。
【0028】
実施例2?実施例9
表4に示す様に原料混合組成、焼成温度及びフラックスであるAlF3添加の有無を変更した以外は実施例1に従ってアルミン酸塩蛍光体を得た。これらの蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxを表5に示す。また、主な実施例については格子定数も併記した。尚、これらの蛍光体の空間群、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1とほぼ同一であり、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを持たないパターンを示した。
実施例1?実施例9の合成方法と特性について表4と表5にまとめて記載した。
実施例10
【0029】
【表2】
BaCO3 :0.8mol
Eu2O3 :0.1mol
3MgCO3・Mg(OH)2 :0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.012mol
【0030】
上記原料を乾式で混合し、乾燥、篩の後、坩堝に充填し、更にビーズ炭を入れた坩堝を原料の上に乗せ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素雰囲気中で最高温度1450℃で昇降温時間を含め11時間掛けて1次焼成した。次いで、焼成粉を粉砕、篩し再度坩堝に充填し、更にビーズ炭を入れた坩堝を乗せ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素水素混合雰囲気中で最高温度1450℃で昇降温時間を含め11時間掛けて2次焼成を行った。次いで、焼成粉を分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、(Ba0.8、Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。
【0031】
この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは94.8%であった。また、この蛍光体の空間群、格子定数、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1と同一であった。
実施例11
【0032】
【表3】
BaCO3 :0.85mol
Eu2O3 :0.075mol
3MgCO3・Mg(OH)2 :0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.012mol
【0033】
上記の原料混合組成に変更した以外は実施例10に従ってバリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは93.1%であった。また、この蛍光体の空間群、格子定数、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1とほぼ同一であった。
実施例12
【0034】
【表4】
BaCO3 :0.6mol
SrCO3 :0.2mol
Eu2O3 :0.1mol
3MgCO3・Mg(OH)2 :0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.03mol
【0035】
上記の原料混合組成に変更した以外は実施例10に従ってバリウムストロンチウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは95.1%であった。また、この蛍光体の空間群、格子定数、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1とほぼ同一であった。
比較例1
【0036】
【表5】
BaCO3 :0.99mol
Eu2O3 :0.005mol
MgO3 :1.0mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
【0037】
上記原料混合組成にした以外は実施例1と全く同一の合成方法により、(Ba0.99、Eu0.01)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは70.4%であった。また、この蛍光体の空間群はP63/mmc、格子定数はa=5.636Å、c=22.686Åであった。CuKα1特性X線を入射した際に図2に示すようにミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立した回折ピークを持つパターンを示した。
【0038】
比較例2?比較例6
表4に示す様に原料混合組成、焼成温度及びフラックスであるAlF3添加の有無を変更した以外は実施例1に従ってアルカリ土類マグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。これらの蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxを表5に示す。また、主な比較例については格子定数も併記した。尚、これらの蛍光体の粉末X線回折パターンは、比較例1とほぼ同一であり、ミラー指数008の位置に独立した回折ピークを有していた。
比較例1?比較例6の合成方法と特性について表4と表5にまとめて記載した。
比較例7
【0039】
【表6】
BaCO3 :0.90mol
Eu2O3 :0.05mol
3MgCO3・Mg(OH)2 :0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.012mol
【0040】
上記の原料混合組成に変更した以外は実施例10に従ってバリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは90.4%であった。この蛍光体の粉末X線回折パターンは、比較例1とほぼ同一であり、ミラー指数008の位置に独立した回折ピークを有していた。」
イ. 本件訂正明細書の上記(2)d?fの各記載及び前記1.(2)bで認定した段落【0015】の記載によれば、図1のX線回折パターンは、実施例1で得られた蛍光体のものであり(実施例2?12で得られた蛍光体のX線回折パターンもほぼ同一である。)、図2のX線回折パターンは比較例1で得られた蛍光体のものであること(比較例2?7で得られた蛍光体のX線回折パターンもほぼ同一である。)が認められる。
前記1.(2)bで認定した本件訂正明細書の段落【0015】の記載によれば、不純物相が存在する場合は、不純物の回折ピークが付加された回折パターンが得られることになるところ、図1には回折角度2θが31.4?32度という狭い範囲の回折パターンが記載されているにとどまり、それ以外の回折角度における回折ピークの有無は開示されていない。そうすると、図1の回折パターンに基づいて不純物相の混在の有無を判断することはできないというべきである。
よって、本件訂正明細書のX線回折パターンに関する記載からは、不純物相の混在の有無を判断することはできないから、「単相」からなる蛍光体が、本件訂正明細書に開示されているとはいえない。
(3) また、本件訂正明細書の上記(2)fの記載によれば、実施例1は、段落【0025】記載の原料を、段落【0026】記載のとおり、混合、成形したものを坩堝内で焼成することにより、段落【0027】記載の蛍光体を得たというものであるが、本件訂正明細書を検討しても、当該蛍光体が「単相」であることを示す記載は見当たらない。
実施例1で使用された原料は、上記(2)eで認定した本件訂正明細書の段落【0017】の「蛍光体原料として、(1)酸化バリウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム等のバリウム化合物……を所定量秤量し、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム等のフラックスを配合し」の範囲に含まれ、実施例1の製造工程は、同段落の「原料混合物を十分に混合する。得られた混合物を坩堝に充填し、還元性雰囲気にて、1200?1700℃で2?40時間かけて1回以上焼成する。……還元性雰囲気を得る方法として、原料の充填された坩堝をカーボンの充填された坩堝内に埋め込む方法、黒鉛の塊や、ヤシガラ等の炭素物質を原料の充填された坩堝内に入れる方法がある」の範囲に含まれるところ、段落【0017】には「単相」の蛍光体を得るための製造条件に言及した記載はなく、その他「単相」の蛍光体を得るための製造条件に言及する記載は、本件訂正明細書には見当たらない。
実施例1において得られた「(Ba0.8,Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体」の組成は、前記1(2)aで認定した本件訂正明細書の段落【0010】ないし【0011】において好ましいとされた範囲に含まれるところ(上記組成は、式「M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・(5.5-0.5a)Al2O3」において、M1がBa、M2がMgであり、a=1、x=0.2、y=0の場合である。)、これに引き続く本件訂正明細書の段落【0012】を含め、本件訂正明細書を検討しても、当該蛍光体が不純物相の混在を許容しないものということはできない。
実施例1で得られた蛍光体は、本件訂正明細書の段落【0017】記載の製造条件によって製造され、段落【0010】?【0012】記載の組成を有するものであるが、上記検討したところによれば、当該蛍光体が不純物相を含まない「単相」のものであるということはできない。
上記(2)fで認定した本件訂正明細書の段落【0028】?【0035】には、実施例2?12に関する記載があるが、これらの実施例により得られた各蛍光体のX線回折パターンは、実施例1とほぼ同一というものであり、本件訂正明細書を検討しても、当該各蛍光体が「単相」からなることを示す記載は見当たらない。また、実施例2?12の製造方法は、実施例1と同様に、本件訂正明細書の段落【0010】?【0012】、【0017】の各範囲に含まれるものであって、本件訂正明細書を検討しても、「単相」の蛍光体を得るための製造条件に言及する記載は見当たらない。
したがって、実施例2?12により得られた蛍光体も、不純物相を含まないとする根拠を欠くというべきである。
(4) 以上検討したところによれば、本件訂正明細書の図1及び実施例1?12についての記載により、「単相」の蛍光体が開示されているとは認められない。
(5) さらに、本件訂正明細書の「表3」において、得られたバリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体が「単相」であることを確認することができない。
すなわち、本件訂正明細書の「表3」(段落【0043】の【表9】?【0046】の【表12】に記載された表)に関する説明は、本件訂正明細書に何ら記載されていない。
また、「表3」には「ミラー指数」、「回折角度2θ」、「面間隔」に関する各数値が記載されているものの、図1の縦軸に示された「X線強度」に相当する数値は記載されておらず、実施例との関係が明らかでなく、また、「CuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない」という本件訂正発明1?6との関係も明らかでない。
したがって、「表3」によっては、本件訂正発明1?6に係る単相の蛍光体が本件訂正明細書に開示されているということはできない。
さらに、本件訂正明細書の段落【0014】には、「本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物を構成する元素の原子位置は、粉末X線回折パターンに基づくリートベルト解析法により求められる」との記載に続いて、「表1又は表2に示す原子座標位置を占有すると解析される」との記載があるにとどまり、「表3」に適用することは記載されていない。また、実測されたX線回折パターンをリートベルト解析によりピーク分離して解析したのであれば、その解析結果は「実測値」というよりも、「実測値」に基づいて作成された「計算値」というべきものであるところ、解析のもとになる実測値が本件訂正明細書に記載されていないのであるから、当業者が、「表3」の記載に基づいて「単相」の蛍光体が開示されていることを確認できないことは、明らかである。

3. 以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には「単相」の蛍光体及びその製造方法が具体的に開示されていると認められない。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本件訂正発明1?6の目的、構成及び効果を記載したものということはできないから、平成6年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではない。

4. 被請求人の主張について
被請求人は、平成19年1月15日付け訂正請求書の(4)-2.の「訂正後の請求項1乃至6記載の発明が何れも特許法第126条第5項の規定に適合するものであること」の項(7?18頁)において、「本件特許明細書には本件発明を容易に実施しうる程度に十分な記載がなされており、本件特許明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている」(平成19年6月28日付け手続補正の後の訂正請求書17頁18?20行)として、次のとおり、すなわち、
本件訂正によって、訂正後の発明は、「該結晶質無機化合物の単層」とのみ記載されていた訂正前の請求項7記載の発明を、「炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元する還元性雰囲気下で焼成され」たものであって、「Baを含」み、かつその「空間群がP63/mmc」であることを限定し、訂正前の請求項1?6に記載されていた蛍光体に含有される「結晶質無機化合物の単相」を明確にした。この蛍光体は、実施例1で得られた蛍光体であって、その製造方法は本件訂正明細書に記載されているから、本件訂正発明1?6を容易に実施することができる程度の記載が本件訂正明細書にされている、
旨主張する。
しかし、仮に本件訂正によって本件訂正発明1?6の「結晶質無機化合物」がどのようものであるかが明確になったとしても、そのような結晶質無機化合物であって、かつ「単相」であるもの、すなわち「不純物相」を含まない、あるいは、「不純物相」が混在しないところの本件訂正発明1?6の結晶質無機化合物は、上記のとおり、本件訂正明細書には記載されているとはいえず、その製造方法も記載されているとはいえないのであるから、本件訂正によっても依然として本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本件訂正発明1?6の目的、構成及び効果を記載したものということはできない。
上記被請求人の主張は、上記認定判断を左右するものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1?6に係る特許は、平成6年改正前特許法第36条第4項の規定を満たさない出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルミン酸塩蛍光体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元する還元性雰囲気下で焼成され、Ba、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、Baを含み、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない空間群がP63/mmcの結晶質無機化合物の単相からなることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体。
【請求項2】該結晶質無機化合物が、一般式
【数1】
(M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・(5.5-0.5a)Al2O3
(式中、M1はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素を表し、M2はMg及び/又はZnを表し、aは0<a≦2の実数を表し、x及びyはそれぞれ0<x<1、0≦y<1の実数を表す)で表されるアルミン酸塩蛍光体であることを特徴とする請求項1に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項3】x及びyが、それぞれ
【数2】
0.1≦x≦0.5
0≦y≦0.2
であることを特徴とする請求項2に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項4】aが、
【数3】
1≦a≦2
の実数であることを特徴とする請求項2又は3に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項5】xが、
【数4】
0.1≦x≦0.15
である場合、M1の元素の構成比が
【数5】
0.2≦Sr/(Ba+Sr+Ca+Eu)<1
を満足するものであることを特徴とする請求項3又は4に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項6】y=0であることを特徴とする請求項2乃至5に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、2価のユーロピウム付活あるいは、2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活したアルミン酸塩蛍光体に関し、特に、この蛍光体は、3波長域発光形蛍光ランプに適した物である。
【0002】
【従来の技術】
近年、一般照明用蛍光ランプの分野に於いて、3波長域発光形蛍光ランプが開発され、実用に供されている。このランプに使用される蛍光体は、比較的狭帯域の発光スペクトル分布を有する青色、緑色、赤色の3種の発光蛍光体を適当な割合で混合した物であり、高効率、高演色性を実現した物である。又、最近は、この3種の蛍光体に加え、青緑色蛍光体や、深赤色蛍光体を付加した3波長域発光形蛍光ランプも実用化している。
【0003】
この3波長域発光形蛍光ランプは、各々の蛍光体についてランプ点灯中の光出力の低下及び発光色の変化が大きいと、蛍光体間で、光出力及び発光色のバランスを崩して、色ずれ現象を起こす事が知られている。
2価のユーロピウム付活および2価のユーロピウムとマンガンで共付活されたアルミン酸塩蛍光体は、紫外線励起時の発光効率が高く(特公昭52-22836号公報参照)、3波長域発光形蛍光ランプの青色及び青緑色発光蛍光体として、しばしば用いられてきた(JOURNAL OF ELECTROCHEMICAL SOCIETY121(1974)1627-1631)。
【0004】
しかし、この蛍光体を3波長域発光形蛍光ランプの青色成分として用いた蛍光ランプは、上記色ずれが大きいという欠点があった。この問題を解決する方法としてアルミン酸塩蛍光体の組成をきわめて狭い範囲に限定する事(特開平3-106987号公報)や、マンガンを微量添加する事(特開平3-106988号公報)があるが、更なる改良が望まれている。
【0005】
また、Eu添加量を増量する事(蛍光体同学会講演予稿集180(1980)19-25、Z.Phys.Chem.271(1990)1181-1190)もこの欠点を改良するための一手段であるが、還元焼成条件が適切でない場合にはEuAlO3等の不純物が析出してしまうために、高価なEuを多量に使用するにも関わらず、色ずれの改善効果は小さかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
蛍光ランプ点灯時に発光強度の低下の少ない2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体を提供する事にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、色ずれの問題を解決する方法として、2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体について詳細に検討を行った結果、特定のアルミン酸塩蛍光体は蛍光ランプ点灯時に発光強度の低下が少ないことを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない結晶質無機化合物を含有することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体に存する。
【0009】
以下に本発明につき詳細に説明する。本発明のアルミン酸塩蛍光体は、Ba、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素、Eu、Mg及び/又はZn、必要に応じてMn、並びにAlを含有するアルミン酸塩蛍光体であって、且つCuKα1特性X線を入射した際に得られる粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを有さない結晶質無機化合物を含有することを特徴とし、特に該結晶質無機化合物が一般式
【0010】
【数7】
(M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・(5.5-0.5a)Al2O3
【0011】
(式中、M1はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素を表し、M2はMg及び/又はZnを表し、aは0<a≦2の実数を表し、x及びyはそれぞれ0<x<1、0≦y<1の実数を表す)で表されるアルミン酸塩蛍光体であることが好ましい。
【0012】
上記一般式中の、a、x、yの好ましい値は、以下の理由で決められる。xは結晶構造的には、0から1迄可変であるが、十分な発光強度を得られ、しかも、蛍光灯点灯時の発光強度の低下を防止するのに有効なのは、0.1以上0.5以下である。xが0.1未満でも0.5を越えても発光強度が低くなってしまう。中でも更に、xが0.15未満では発光強度の低下防止効果が少ないが、0.1≦x≦0.15の場合には式中M1の元素の構成比が0.2≦Sr/(Ba+Sr+Ca+Eu)<1を満足する組成とすると、蛍光灯点灯時の発光強度の低下防止に有効である。xが大きいほど発光強度の低下防止に有効だが、0.5を越えるとEuAlO3の析出が顕著になり、低下防止効果が飽和する。yも結晶構造的には、0から1迄可変であるが、十分な発光強度を得られるのは、0.2以下であり、特にy=0であっても好ましい。又、M1はBa、Sr、Caの少なくとも1種であるが、Caの構成比が0.01≦Ca/(M1+Eu)≦0.17の範囲の化学組成とすると、不純物が生成せずに蛍光体合成温度の低減が可能となる。一方、Caの構成比が0.17<Ca/(M1+Eu)の範囲の化学組成とすると、非発光物質である不純物の混在が顕著となり、発光強度の低下に繋がる。
【0013】
本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物の空間群は、通常P63/mmcである。空間群の決定は、電子回折法、X線回折法、中性子回折法などにより決定される。
色調の良好な蛍光体を得るためには、それに含有される結晶質無機化合物の格子定数aが5.62<a<5.65Å、格子定数cが22.50<c<22.65Åを満足する値である必要があるが、この範囲内で格子定数cが小さければ小さいほど蛍光灯点灯時の発光強度の低下が少ない。イオン半径の大きいBaの添加量を減らし、イオン半径の小さいEuとSrの添加量を増すと、格子定数cは小さくなる。
【0014】
本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物を構成する元素の原子位置は、粉末X線回折パターンに基づくリートベルト解析法により求められるが、この方法によれば表1又は表2に示す原子座標位置を占有すると解析される。Euはアルカリ土類金属M1と同一位置を占有する。一方、MnはM2と同一位置を占有する。イオン半径の小さいEuとSrをイオン半径の大きいBaの代わりにアルカリ土類金属M1の位置に置換すると、この席の空隙が小さくなり、劣化防止効果が大きくなる。M2とMnの占有する位置は2種類考えられるが、4f席を占有する場合にはaは1≦a≦2の範囲の値をとり、2a席を占有する場合にはa=1となる。尚、a<1の場合にはEuの緑色発光が顕著となり、色純度の良い青色や青緑色が得られ難い傾向にある。格子定数と原子位置の決定は前述の種々の回折法により決定される。
【0015】
この結晶構造を持つ結晶質無機化合物からの粉末X線回折パターンは、例えば(Ba0.8,Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の組成の場合には図1に示すようなものであるが、Al2O3やMgAl2O4などの発光に悪影響を殆ど及ぼさない透明な不純物が蛍光体中に混在している場合には、上記の回折ピーク以外に不純物の回折ピークが加わったパターンとなる。
【0016】
蛍光灯点灯中の劣化が起こりにくい本発明の蛍光体に含有される結晶質無機化合物に銅対陰極X線管球から発生するCuKα1特性X線を入射した際の粉末X線回折パターンにおいて、図1に示すように、ミラー指数008の回折ピークがミラー指数110の回折ピークと独立して極大値を持たないパターンを示すことである。一方、極大値を持つ場合には、図2に示すような粉末X線回折パターンとなる。ここで、独立して極大値を持たないとは、X線回折強度をI、回折角度2θをt度とした場合に、一次微分値dI/dtがミラー指数008の回折ピークとミラー指数110の回折ピークの間において、負の値を持たないことを意味する。結晶質無機化合物の蛍光灯点灯中の劣化を起こりにくくするためには、この結晶内においてc軸に垂直なBa-O層内の酸素の位置を安定させる必要がある。そのためには、格子定数cを短くし、22.50<c<22.65Åを満足する値にする必要がある。格子定数cが短いと言うことは、ミラー指数008の回折ピークが高角度側に存在すると言うことと同一の事象に基づいており、上記Ba-O層内の酸素の位置の安定化に繋がる。一方、ミラー指数110の回折ピーク位置は、格子定数cの短縮とは相関がない。従って、一次微分値dI/dtがミラー指数008の回折ピークとミラー指数110の回折ピークの間において、負の値を持たないと言うことは、格子定数cが短く、蛍光灯点灯時の発光強度の低下が少ないことを定性的に意味している。
【0017】
本発明の蛍光体は、次のように合成する事ができる。蛍光体原料として、
(1)酸化バリウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム等のバリウム化合物
(2)酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物
(3)酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム化合物
(4)酸化ユーロピウム、フッ化ユーロピウム等のユーロピウム化合物
(5)酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物
(6)酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の亜鉛化合物
(7)酸化マンガン、水酸化マンガン、炭酸マンガン等のマンガン化合物
(8)酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物
を所定量秤量し、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム等のフラックスを配合し、原料混合物を十分に混合する。得られた混合物を坩堝に充填し、還元性雰囲気にて、1200?1700℃で2?40時間かけて1回以上焼成する。焼成温度が高いほど、発光強度の高い蛍光体を得ることが出来るが、1700℃を越えると焼成コストが発光強度の上昇効果に見合わない。還元性雰囲気を得る方法として、原料の充填された坩堝をカーボンの充填された坩堝内に埋め込む方法、黒鉛の塊や、ヤシガラ等の炭素物質を原料の充填された坩堝内に入れる方法がある。還元を確実にする為に、更にこれらの坩堝を窒素あるいは窒素水素の雰囲気中で焼成しても良い。又これらの雰囲気に水蒸気が含まれていても良い。還元焼成条件を適切にすることは、本発明の蛍光体を製造するために非常に重要である。即ち、焼成の開始から終了までの全ての段階において、炭素もしくは一酸化炭素によって強く還元することによって初めて本発明の蛍光体を製造する事ができる。この焼成物に分散、水洗、乾燥、篩を行い、本発明の青色あるいは青緑色発光のアルミン酸塩蛍光体を得る事ができる。
【0018】
本発明においては、X線照射試験において発光強度の維持率が92%以上、好ましくは94%以上であるアルミン酸塩蛍光体を得ることが出来る。これまでのアルミン酸塩蛍光体では、該X線照射試験においても90%程度しか得られないが、本発明の蛍光体は、極めて高い発光強度維持率を有する。一般式
【0019】
【数8】
(M11-x,Eux)O・a(M21-y,Mny)O・(5.5-0.5a)Al2O3
(式中、M1はBa、Sr及びCaから成る群より選択される少なくとも一種の元素を表し、M2はMg及び/又はZnを表す)において、
【0020】
【数9】
1≦a≦2
0.1≦x≦0.5
0≦y≦0.2
を満足する値であって、かつ、0.1≦x≦0.15の場合には更に式中M1の元素の構成比が0.2≦Sr/(Ba+Sr+Ca+Eu)<1を満足する場合において、高い発光強度維持率が達成される。
【0021】
X線照射試験は、銅対陰極管をX線発生源とする粉末X線回折計において40kVの加速電圧で30mAの電流を流した時に発生する白色X線を銅対陰極から18.5cm離れた試料に6時間照射した後に、波長253.7nmの紫外線励起による発光強度を測定し、照射前発光強度に対する維持率として計算することにより行われる。つまり、X線照射前の紫外線励起による発光強度をIiとし、X線照射後のそれをIfとすると、X線照射後の発光強度維持率Mxは、Mx=100×If/Ii%となる。このX線照射試験は、蛍光ランプ点灯時の発光強度の維持率と良い相関が取れる。
【0022】
図3は、(Ba1-x,Eux)O・MgO・5Al2O3(但し、0<x≦0.5)の調合組成で作製した蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxを示したものである。
図4は、(Ba0.9-ZSrzEu0.1)O・MgO・5Al2O3(但し、0≦z≦0.4)の調合組成で作製した蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxを示したものである。
本発明の蛍光体の応用としては、紫外線励起により発光が得られる物について有効であり、蛍光ランプだけに限られない。例えば、プラズマデイスプレイや希ガス放電ランプに応用する事ができる。
【0023】
【発明の効果】
本発明の2価のユーロピウムあるいは2価のユーロピウム及び2価のマンガン共付活のアルミン酸塩蛍光体を用いることにより、点灯時に発光強度の低下の少ない蛍光ランプを製造する事が可能となる。従って、長時間に亘って高輝度で高演色性を示す3波長域発光形蛍光ランプを製造する事が可能となる。従って、長時間に亘って高輝度で高演色性を示す3波長域発光形蛍光ランプが得られる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1
【0025】
【表1】
BaCO3 :0.8mol
Eu2O3 :0.1mol
MgO :1.0mol
Al2O3(ガンマタイプ):5.0mol
【0026】
上記原料をエタノールを使用して湿式で混合し、乾燥し、成形圧力1000kgf/cm2でペレット状に成形し、坩堝に入れて蓋を被せ、この坩堝をビーズ炭を入れた別の坩堝内に入れて蓋を被せ、大気中で最高温度1500℃で4時間焼成した。次いで、得られた焼成ペレットを粉砕し、(Ba0.8,Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。
【0027】
この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは94.8%であった。また、この蛍光体の空間群はP63/mmc、格子定数はa=5.636Å、c=22.643Åであり、構成元素が表1又は表2に示す原子座標位置を占有していた。CuKα1特性X線を入射した際に図1の粉末X線回折パターンを示し、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを持たないパターンを示した。
【0028】
実施例2?実施例9
表4に示す様に原料混合組成、焼成温度及びフラックスであるAlF3添加の有無を変更した以外は実施例1に従ってアルミン酸塩蛍光体を得た。これらの蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxを表5に示す。また、主な実施例については格子定数も併記した。尚、これらの蛍光体の空間群、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1とほぼ同一であり、ミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立したピークを持たないパターンを示した。
実施例1?実施例9の合成方法と特性について表4と表5にまとめて記載した。
実施例10
【0029】
【表2】
BaCO3 :0.8mol
Eu2O3 :0.1mol
3MgCO3・Mg(OH)2:0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.012mol
【0030】
上記原料を乾式で混合し、乾燥、篩の後、坩堝に充填し、更にビーズ炭を入れた坩堝を原料の上に乗せ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素雰囲気中で最高温度1450℃で昇降温時間を含め11時間掛けて1次焼成した。次いで、焼成粉を粉砕、篩し再度坩堝に充填し、更にビーズ炭を入れた坩堝を乗せ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素水素混合雰囲気中で最高温度1450℃で昇降温時間を含め11時間掛けて2次焼成を行った。次いで、焼成粉を分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、(Ba0.8,Eu0.2)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。
【0031】
この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは94.8%であった。また、この蛍光体の空間群、格子定数、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1と同一であった。
実施例11
【0032】
【表3】
BaCO3 :0.85mol
Eu2O3 :0.075mol
3MgCO3・Mg(OH)2:0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.012mol
【0033】
上記の原料混合組成に変更した以外は実施例10に従ってバリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは93.1%であった。また、この蛍光体の空間群、格子定数、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1とほぼ同一であった。
実施例12
【0034】
【表4】
BaCO3 :0.6mol
SrCO3 :0.2mol
Eu2O3 :0.1mol
3MgCO3・Mg(OH)2:0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.03mol
【0035】
上記の原料混合組成に変更した以外は実施例10に従ってバリウムストロンチウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは95.1%であった。また、この蛍光体の空間群、格子定数、構成元素の原子座標位置、粉末X線回折パターンは、実施例1とほぼ同一であった。
比較例1
【0036】
【表5】
BaCO3 :0.99mol
Eu2O3 :0.005mol
MgO3 :1.0mol
Al2O3(ガンマタイプ):5.0mol
【0037】
上記原料混合組成にした以外は実施例1と全く同一の合成方法により、(Ba0.99,Eu0.01)O・MgO・5Al2O3の2価のユーロピウム付活青色発光バリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは70.4%であった。また、この蛍光体の空間群はP63/mmc、格子定数はa=5.636Å、c=22.686Åであった。CuKα1特性X線を入射した際に図2R>2に示すようにミラー指数008の位置にミラー指数110の回折ピークと独立した回折ピークを持つパターンを示した。
【0038】
比較例2?比較例6
表4に示す様に原料混合組成、焼成温度及びフラックスであるAlF3添加の有無を変更した以外は実施例1に従ってアルカリ土類マグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。これらの蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxを表5に示す。また、主な比較例については格子定数も併記した。尚、これらの蛍光体の粉末X線回折パターンは、比較例1とほぼ同一であり、ミラー指数008の位置に独立した回折ピークを有していた。
比較例1?比較例6の合成方法と特性について表4と表5にまとめて記載した。
比較例7
【0039】
【表6】
BaCO3 :0.90mol
Eu2O3 :0.05mol
3MgCO3・Mg(OH)2:0.25mol
Al2O3(ガンマタイプ) :5.0mol
AlF3 :0.012mol
【0040】
上記の原料混合組成に変更した以外は実施例10に従ってバリウムマグネシウムアルミン酸塩蛍光体を得た。この蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率Mxは90.4%であった。この蛍光体の粉末X線回折パターンは、比較例1とほぼ同一であり、ミラー指数008の位置に独立した回折ピークを有していた。
【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【0044】
【表10】

【0045】
【表11】

【0046】
【表12】

【0047】
【表13】

【0048】
【表14】

【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例1における粉末X線回折パターン
【図2】
比較例1における粉末X線回折パターン
【図3】
(Ba1-x,Eux)O・MgO・5Al2O3の調合組成で作製した蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率(0<x≦0.5)
【図4】
(Ba0.9-zSrzEu0.1)O・MgO・5Al2O3の調合組成で作製した蛍光体のX線照射試験後の発光強度維持率(0<z≦0.4)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-07-21 
結審通知日 2007-07-25 
審決日 2007-08-15 
出願番号 特願平6-193141
審決分類 P 1 113・ 531- ZA (C09K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 安藤 達也
鈴木 紀子
登録日 2003-10-24 
登録番号 特許第3484774号(P3484774)
発明の名称 アルミン酸塩蛍光体  
代理人 花田 吉秋  
代理人 花田 吉秋  
復代理人 片山 健一  
代理人 花田 吉秋  
代理人 豊栖 康弘  
復代理人 大野 聖二  
復代理人 片山 健一  
復代理人 大野 聖二  
復代理人 片山 健一  
代理人 豊栖 康司  
復代理人 大野 聖二  

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