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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1167975
審判番号 不服2004-14197  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-08 
確定日 2007-11-15 
事件の表示 平成 8年特許願第338605号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月30日出願公開、特開平10-174740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成8年12月18日の出願であって、平成16年6月3日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年7月8日付けで本件審判請求がされるとともに、同年8月6日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年8月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の請求項1及び請求項4には、「前記複数の可変表示停止指示手段のうち、所定番目に操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示の可変速度を変更し、前記可変速度を変更しない場合において前記可変表示停止指示手段が操作されてから可変表示を停止するまでの最長時間を超えないように、前記図柄列による可変表示を停止させ」との記載があり、請求人はこの補正根拠を、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)の段落【0017】の記載に求めている(平成16年1月23日付け意見書)。
当初明細書の段落【0017】には、なるほど「図柄の変化速度の変更または再停止は、遊技者が停止操作を行ってから実際に図柄が停止するまでの時間、現時点では上記の規制時間190msec内で行われる。そして、図柄の変化速度を2倍にした場合には、図柄合わせを例えば4コマ制御で行っていたものを、8コマ制御で実現できるので、入賞判定のための入賞確率も増大するという利点もある。」と記載されているが、「規制時間190msec」とは「遊技者の停止操作から可変表示装置の停止までの時間は、法令の規制により、一定時間(現行では、190msec)内に定められている。」(段落【0003】)とあるとおり、法令で定められた時間であって、必ずしも「前記可変速度を変更しない場合において前記可変表示停止指示手段が操作されてから可変表示を停止するまでの最長時間」とは一致しない。なぜなら、本願明細書には出願当初から一貫して、段落【0003】に、代表的又は標準的な回転速度及び1リール当たりの図柄数を例として、「1図柄分移動する時間は750msec÷21=35.7msecである。従って、規制された時間内に移動できる図柄の数(最大駒数)は、190msec÷35.7msec≒5.3(個)となり、0?5個の図柄の移動が可能である。」と記載されているから、4コマ制御であれば「最長時間」は142.9msecであり、5コマ制御としても178.6msecであり、これらは法令で定められた190msecよりも短いから、142.9msec?190msec又は178.6msec?190msecの間に、可変速度を変更して停止すれば、「前記可変速度を変更しない場合において可変表示停止指示手段が操作されてから可変表示を停止するまでの最長時間を超え」ることとなり、上記段落【0017】の記載はそのような場合を含んでいるからである。具体的にいうと、可変速度を1.7倍に変更すれば、1図柄分移動する時間は21msecに短縮され、190msec÷21msec≒9.04(個)となるから、9個の図柄移動が可能であり、9個移動する場合の要停止時間は189msecとなるから、142.9msec及び178.6msecの何れよりも大きくなる。そして、当初明細書の記載によれば、法令で定められた規制時間内であれば許容されることになっているから、可変速度を1.7倍に変更し要停止時間を189msecとすることは排除されておらず、これを排除すべき記載は一切見あたらない。
すなわち、上記請求項1,4の記載事項は当初明細書に記載した事項ではなく、自明な事項と認めることもできない。したがって、本件補正は当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものと認めることができない。

(2)本件補正後の請求項4は、「・・・操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる制御手段とを具備する遊技機において、
前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記複数の可変表示停止指示手段のうち、所定番目に操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示の可変速度を変更し、前記可変速度を変更しない場合において前記可変表示停止指示手段が操作されてから可変表示を停止するまでの最長時間を超えないように、前記図柄列による可変表示を停止させ、
前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止するように構成されていることを特徴とする遊技機。」との構文になっており、「前記制御手段は、予め設定された条件に従って、」との文言はあるものの、同条件に従うのは「前記複数の可変表示停止指示手段のうち、所定番目に操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示の可変速度を変更し、前記可変速度を変更しない場合において前記可変表示停止指示手段が操作されてから可変表示を停止するまでの最長時間を超えないように、前記図柄列による可変表示を停止」することだけであり、「前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止する」ことが同条件に従うことは特定されていない。
これに対し、本件補正前の請求項6は「・・・操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる制御手段とを具備する遊技機において、
前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止するように構成されていることを特徴とする遊技機。」との構文であるから、「前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止する」ことが上記条件に従って行われる。
以上のとおりであるから、本件補正後の請求項4は補正前請求項6の発明特定事項を限定したものではなく、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明に該当しないことも明らかである。
すなわち、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反している。

(3)本件補正後の請求項4についてさらに検討する。仮に、「前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止する」ことが「予め設定された条件に従って」と解釈すべきだとしても(この解釈は次項においても前提とする。)、(1)とは別の理由により新規事項追加に該当する。
当初明細書において、特許請求の範囲はそれぞれ独立形式で記載された【請求項1】及び【請求項2】からなっており、【請求項1】のみに「前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記停止指令の発生から前記図柄の変化を停止するまでの間、前記図柄の変化する速度を変更するように構成されている」との限定が、【請求項2】のみに「前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記停止指令の発生から前記図柄の変化を停止するまでの間に、前記図柄の変化を少なくとも1回停止するように構成されている」との限定がそれぞれある。
そして、当初明細書の【発明の詳細な説明】においては、「第1の発明」及び「第2の発明」との文言が随所に記載されており、これらが【請求項1】及び【請求項2】に個別に該当することは明らかであり、本件補正前の請求項6は「第2の発明」に該当するものである。「第2の発明」については、段落【0051】?【0053】に「停止モードE」として説明されているところ、ここには予め設定された条件に従って、図柄の変化する速度を変更するとの制御を併せ採用することは記載されていないし、併用することが自明であると認めることもできない。そもそも、可変表示を停止するまでの間に少なくとも1回停止する場合、「図柄の変化する速度」をどのように定義するのかすら判然としない。
したがって、本件補正後の請求項4は当初明細書に記載されていないし、自明の事項でもないから、本件補正を当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものと認めることができない

(4)本件補正後の請求項4についてさらに検討する。(3)で述べたとおり、本件補正後の請求項4は、当初明細書記載の「第1の発明」と「第2の発明」を併用したものである。
本願明細書には出願当初から一貫して、「本発明の目的は、遊技者の停止操作後、図柄の移動に変化をつけることにより、遊技者に入賞の期待あるいは入賞が間近に迫っているという期待を持たせるような演出を行う遊技機を提供することにある。」(段落【0005】)、「第1の発明によれば、・・・遊技者は、停止操作後に図柄の移動が速くなったり遅くなったりする変化に気づき、何か特別の入賞図柄が現れる前兆ではないか或いは大当たりになるのではないか等の期待を持ち、従来の遊技機では得られない興趣を感じることができる。」(段落【0008】)及び「第2の発明によれば、・・・遊技者は、1回目に停止した図柄の組合せが入賞に該当しないと失望するが、再び図柄の変化が開始されて最終的に入賞の組合せになった場合には、一度失望しただけに入賞の喜びも倍加することになり、これも従来の遊技機では得られない興趣を感じるものである。」(段落【0009】)との各記載がある。
これら記載によれば、段落【0005】記載の課題は第1の発明の課題であるが、第2の発明の課題はそれとは別であるといわなければならない。
そうすると、第2の発明に該当する本件補正前請求項6には、第1の発明の課題がないのだから、第1の発明を併用することは、新たな課題の追加に該当し、この点からみても、請求項4に関する補正は、特許請求の範囲の減縮に該当しない。
すなわち、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第3項及び平成18年改正前の同法17条の2第4項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1及び請求項6に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明6」という。)は、平成16年1月23日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項6】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
本願発明1:複数の図柄が配置された図柄列を複数有し、各図柄列の図柄を表示窓に対して可変表示する可変表示装置と、
前記可変表示装置の各図柄列に対応して設けられ、遊技者の操作により対応する図柄列の可変表示の停止を指示する複数の可変表示停止指示手段と、
所定の開始指令に応じて前記各図柄列の可変表示を開始し、操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる制御手段とを具備する遊技機において、
前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を停止するまでの間、該図柄列の可変表示の可変速度を変更するように構成されていることを特徴とする遊技機。
本願発明6:複数の図柄が配置された図柄列を複数有し、各図柄列の図柄を表示窓に対して可変表示する可変表示装置と、
前記可変表示装置の各図柄列に対応して設けられ、遊技者の操作により対応する図柄列の可変表示の停止を指示する複数の可変表示停止指示手段と、
所定の開始指令に応じて前記各図柄列の可変表示を開始し、操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる制御手段とを具備する遊技機において、
前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止するように構成されていることを特徴とする遊技機。

2.引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-77569号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?クの記載が図示とともにある。
ア.「複数のシンボル列を観察窓に定常速度で移動表示した後、これらのシンボル列の移動表示を停止させ、入賞ライン上に停止しているシンボルの組み合わせにより入賞の有無を表示するようにしたスロットマシンにおいて、
前記シンボル列の移動表示が停止されるまでに入賞を発生させるか否かを予め決定する入賞決定手段と、この入賞決定手段によって決定された入賞の有無に対応し、シンボル列の移動表示を前記定常速度とは異なる表示速度に切り換える表示速度切り換え手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(1頁左下欄5?16行)
イ.「本発明は、以上のような従来技術の欠点を解決するためになされたもので、大入賞等の入賞が得やすい状態になったときにはシンボル列の移動表示を変化させ、シンボル列の移動表示中にも遊技者に興趣を与えることができるようにしたスロットマシンを提供することを目的とする。」(2頁左上欄末行?右上欄5行)
ウ.「移動表示速度の変化に遊技者が気づけば、シンボル列の移動表示の過程で遊技者はゲーム結果を予測することができるようになるため、シンボル列の移動表示についても遊技者は興味を向けるようになる。」(2頁右上欄16?20行)
エ.「本発明のスロットマシンの外観を示す第3図において、スロットマシン2の正面中央部には左側から順にストップボタン3?5が設けられており、ストップボタン3の周辺部にはスタートレバー6,コイン投入口7がそれぞれ設けられている。ストップボタン3?5の上方には前面パネル8が嵌め込まれており、この前面パネル8の裏側には径を同じくする第1,第2,第3リール9?11が図中左側から順に配置されている。
これら各リール9?11の外周面には例えば「レモン」,「7」,「スイカ」等の種々のシンボルが描かれており、前面パネル8に形成された3個の窓12?14を通して観察される。」(2頁左下欄4?16行)
オ.「前記コイン投入口7よりコインを投入した後、スタートレバー6を操作すると、各リール9?11が回転を開始し、定常回転速度に達すると、ストップボタン3?5の操作が可能となる。
ストップボタン3?5が任意のタイミングで操作されると、ストップ信号が出力され、回転中の各リール9?11は停止される。そして、有効化された入賞ライン16上に表示される3個のシンボルの組み合わせが入賞役に該当すると、入賞役に対応する枚数のコインが受け皿17に払い出される。」(2頁左下欄18行?右下欄9行)
カ.「停止位置決定回路44はストップスイッチ3a?5aからのストップ信号を受けて各パルスモータ20?22の停止制御を行う。この停止制御に際しては、後述するサーチ回路47から供給されてくる各リール9?11の回転位置信号を参照しながら、絵柄決定回路42で決定されたシンボルが有効化された入賞ライン16上で停止するような停止位置信号が停止位置決定回路44からモータ制御回路45に出力される。
ただし、ストップボタン3?5の操作タイミングと各リール9?11が実際に停止するタイミングとが極端にずれていると不自然になるから、これが不自然にならない範囲、例えばストップ信号が入力された時点から各リール9?11のシンボルが数個分移動されるまでに各パルスモータ20?22の駆動は停止されるようになっている。この場合、必ずしも絵柄決定回路42で決定されたシンボルの組み合わせが得られないことも生じるが、特にシンボルの組み合わせが「7」-「7」-「7」となる大当たりのときには、このシンボル信号は次回のゲームに持ち越される。」(3頁右上欄13行?左下欄13行)
キ.「停止位置決定回路44からモータ制御回路45にシンボル信号「7」,「7」,「7」が出力されたときには、モータ制御回路45は定常回転速度に達したパルスモータ20?22を一定時間後に減速して、等速回転に移行させる例えば第4図に示すようにT3の時点でN1rpmの定常回転速度を減速し、T5の時点でN2rpmの等速回転をさせるような駆動パルスを各パルスモータ20?22に出力する。またモータ制御回路45にシンボル信号「7」,「7」,「7」が持ち越された場合には、第5図に示すようにN1rpmの定常回転速度まで加速させずに、N2rpmの等速回転を行わせるような駆動パルスを各パルスモータ20?22に出力する。更に停止位置決定回路44からモータ制御回路45に上記以外のシンボル信号が出力されたときには、第6図に示すようにN1rpmの定常速度まで加速して、等速回転を行わせるような駆動パルスを各パルスモータ20?22に出力する。」(3頁左下欄末行?右下欄18行)
ク.「サンプリング回路41では乱数のサンプリングを行い、乱数値を絵柄決定回路42に出力する。サンプリングされた乱数値が1?10までのときには、絵柄決定回路42は絵柄テーブル43を参照して、シンボルの組み合わせ「7」-「7」-「7」に対応する3個のシンボル信号「7」,「7」,「7」を決定し、これをモータ制御回路45に出力する。モータ制御回路45では駆動パルスタイミングテーブル46のデータに従い、各パルスモータ20?22の始動を行い、定常回転速度であるN1rpmまで加速を行う。
各パルスモータ20?22が定常回転速度に達したT3時に前記ストップボタン3?5の操作が可能となる。この後、最初のストップボタン3が操作され、停止位置決定回路44からモータ制御回路45に停止位置信号が出力されると、このモータ制御回路45は前記サーチ回路47からの回転位置信号を参照して、第1リールのシンボル「7」が有効化された入賞ライン16上に止まるようにパルスモータ20を停止する。
ところで、T4時にモータ制御回路45は図示のようにパルスモータ21,22の減速を行い、T5時にN2rpm(N1>N2)の等速回転に移行させる。そして、T5時の前後に2番目のストップボタン4が操作されると、停止位置決定回路44,モータ制御回路45が上述した制御を行い、有効化された入賞ライン16上に第2リールのシンボル「7」を止める。そして、T6時に最後のストップボタン5が操作されると、モータ制御回路45がN2rpmの等速回転中のパルスモータ22の減速を行い、T7時に停止する。このパルスモータ22の停止により、各リール9?11が全て停止される。」(4頁左上欄末行?左下欄12行)

3.引用例1記載の発明の認定
記載ア?クを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「スタートレバー及び複数のストップボタンを有し、
前記スタートレバーの操作により、複数のシンボル列を観察窓に定常速度で移動表示した後、前記複数のストップボタンの操作により、操作されたボタンに対応するシンボル列の移動表示を停止させ、入賞ライン上に停止しているシンボルの組み合わせにより入賞の有無を表示するようにしたスロットマシンにおいて、
前記シンボル列は、外周面には種々のシンボルが描かれたリールとして構成されており、
前記シンボル列の移動表示が停止されるまでに入賞を発生させるか否かを予め決定する入賞決定手段を有し、
入賞決定手段によって入賞と決定されなかった場合には、
リール回転速度がN1rpmまで加速し、その後N1rpmでの定常回転速度とし、入賞決定手段によって入賞と決定されなかった場合には、前記ストップボタンの操作を受け付けその後停止し、入賞決定手段によって入賞と決定された場合には、N1rpmからN2rpmまで減速した後等速回転とし、ストップボタンの操作はN1rpmでの定常回転に移行した後受け付け可能なスロットマシン。」(以下「引用発明1」という。)

4.本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定
引用発明1の「シンボル」、「シンボル列」及び「観察窓」は、本願発明1の「図柄」、「図柄列」及び「表示窓」にそれぞれ相当し、シンボル列を移動表示することは「可変表示」といえるから、引用発明1は本願発明1の「可変表示装置」を具備する。
引用発明1の「複数のストップボタン」は本願発明1の「複数の可変表示停止指示手段」に相当し、「前記可変表示装置の各図柄列に対応して設けられ、遊技者の操作により対応する図柄列の可変表示の停止を指示する」点においても相違はない。
引用発明1の「スタートレバーの操作」は本願発明1の「所定の開始指令」に相当し、引用発明1が「操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる制御手段」を具備することは明らかである。
引用発明1の「入賞と決定された場合」は、本願発明1における「予め設定された条件」の充足に相当する。
引用発明1では、入賞と決定された場合に、N1rpmからN2rpmに減速しているから、「前記制御手段は、予め設定された条件に従って、図柄列の可変表示の可変速度を変更する」ことが可能であるとの限度では、制御手段の機能において本願発明1と共通する。
そして「スロットマシン」(引用発明1)は「遊技機」(本願発明1)の一種である。
したがって、本願発明1と引用発明1は、
「複数の図柄が配置された図柄列を複数有し、各図柄列の図柄を表示窓に対して可変表示する可変表示装置と、
前記可変表示装置の各図柄列に対応して設けられ、遊技者の操作により対応する図柄列の可変表示の停止を指示する複数の可変表示停止指示手段と、
所定の開始指令に応じて前記各図柄列の可変表示を開始し、操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる制御手段とを具備する遊技機において、
前記制御手段は、予め設定された条件に従って、図柄列の可変表示の可変速度を変更することが可能なように構成されている遊技機。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点1〉図柄列の可変表示の可変速度を変更するに当たり、本願発明1では「操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を停止するまでの間、該図柄列の可変表示の可変速度を変更する」としているのに対し、引用発明1にはかかる限定がない点(N1rpmの定速期間に最初のストップボタンが操作されると、最初のストップボタンに対応しないリールはその後N2rpmに減速されるが、対応するリールはそうではない。)。

5.相違点1の判断及び本願発明1の進歩性の判断
引用発明1は「シンボル列の移動表示を変化させ、シンボル列の移動表示中にも遊技者に興趣を与える」(記載イ)こと及び「移動表示速度の変化に遊技者が気づけば、シンボル列の移動表示の過程で遊技者はゲーム結果を予測することができるようになる」(記載ウ)ことを課題として発明されたものであるが、この課題は本願明細書段落【0005】及び【0008】に記載されたこと(「第2[理由](4)参照)と格別異ならない。
そして、ストップボタン操作後、遊技者が注目するであろうシンボル列は当該ボタンに対応するそれであるから、遊技者が注目するシンボル列の可変表示の可変速度を変更すれば、なお一層引用発明1の課題解決に資することは明らかというべきであり、相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。また、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明1は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

6.引用例2記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-173594号公報(以下「引用例2」という。)には、
「複数のステッピングモータを駆動し、ステッピングモータごとに設けられたリールを各々回転させ、ストップ信号に応答してステッピングモータをそれぞれ停止させたときに、入賞ライン上で停止している各リールのシンボルの組み合わせにより入賞の有無が決まるスロットマシンにおいて、
ストップ信号に応答して各ステッピングモータを停止させたときに入賞が得られたか否かを判定する入賞判定手段と、この入賞判定手段により入賞が発生したことが判定されたときには、その入賞を構成するシンボルを入賞ライン上で停止させているリールをさらに所定のパターンで回転させるようにステッピングモータを駆動する追加駆動手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(【請求項1】)との発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

7.本願発明6と引用発明2の一致点及び相違点の認定
引用発明2の「シンボル」は本願発明6の「図柄」に相当し、各リールには複数のシンボルが配置されており、1つのリール上のシンボル全体が本願発明6の「図柄列」に相当する。そして各リールのシンボルは、その一部が遊技者に視認されるのであるから、視認可能な部分は「表示窓」ということができる。引用発明2において、リールが回転すれば、そのリールのシンボル全体、すなわち図柄列が可変表示され、リールが停止すれば図柄列も停止し、図柄列の可変表示及び停止を制御する制御手段が引用発明2に備わっていることも明らかであり、当然「所定の開始指令に応じて前記各図柄列の可変表示を開始」するように制御するものである。
引用発明2の「入賞判定手段により入賞が発生したことが判定されたとき」と本願発明6の「予め設定された条件」が満たされることに相違はない。また、引用発明2では、同条件が満たされた際に、「その入賞を構成するシンボルを入賞ライン上で停止させているリールをさらに所定のパターンで回転させ」ており、ここでいう「停止」は本願発明6の「少なくとも1回停止」に相当し、引用発明2においても所定のパターンで回転させた後に再度停止(それが本願発明6の「図柄列の可変表示を停止」に対応する。)するから、「前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、図柄列の可変表示を少なくとも1回停止するように構成されている」ことは、本願発明6と引用発明2の一致点である。
そして「スロットマシン」(引用発明2)は「遊技機」(本願発明6)の一種である。
したがって、本願発明6と引用発明2は、
「複数の図柄が配置された図柄列を複数有し、各図柄列の図柄を表示窓に対して可変表示する可変表示装置と、
所定の開始指令に応じて前記各図柄列の可変表示を開始し、図柄列を停止させる制御手段とを具備する遊技機において、
前記制御手段は、予め設定された条件に従って、前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、図柄列の可変表示を少なくとも1回停止するように構成されている遊技機。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点2〉本願発明6が「前記可変表示装置の各図柄列に対応して設けられ、遊技者の操作により対応する図柄列の可変表示の停止を指示する複数の可変表示停止指示手段」を有し、制御手段は「操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる」ものであり、さらに「前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止」と限定しているの対し、引用発明2にはかかる限定がない点。

7.相違点2の判断及び本願発明6の進歩性の判断
引用例2には、「【従来の技術】例えば3リール式のスロットマシンは、複数種類のシンボルをそれぞれ異なった配列パターンで配列した3個のリールを備えている。これらのリールはステッピングモータの駆動軸に連結されており、1?3枚程度のメダルを投入した後にスタートレバーを操作すると、ステッピングモータの駆動により一斉に回転される。そして、オートストップタイプのものではランダムに発生されるストップ信号に、またマニュアルストップタイプのものではストップボタンの操作によって発生されるストップ信号に応答してステッピングモータが停止し、リールごとに設けられた表示窓に1リールあたり3個、合計9個のシンボルが現れる。」(段落【0002】)及び「本発明は9リール式のスロットマシンに限らず、3リール式はもとより、ステッピングモータでリールを回転させる方式の全てのスロットマシンに用いることができ、例えばパチンコ機に入賞装置として組み込まれたスロットマシンにも適用可能である。」(段落【0031】)との各記載があり、段落【0002】記載の「マニュアルストップタイプ」のスロットマシンが段落【0031】記載の「ステッピングモータでリールを回転させる方式の全てのスロットマシン」に含まれることは明らかである。この点請求人は、「引用例2(審決注;審決の引用例2に同じ。)は、リールを自動的に停止させるオートストップタイプのスロットマシンですから、本願発明の構成要件(C)、(D)、(E)、(F)(審決注;(C),(F)は相違点2に関係した本願発明6の構成要件であるが、(D),(E)は本願発明6の構成要件ではない。)を備えていません。」(平成16年8月6日付け手続補正書(方式)3頁41?42行)と主張しており、なるほど引用例2記載の実施例はオートストップタイプのスロットマシンであるが、前示のとおり「ステッピングモータでリールを回転させる方式の全てのスロットマシンに用いることができ」る旨記載されているのだから、マニュアルストップタイプが排除されていると解すべき理由はない。百歩譲って、マニュアルストップタイプが排除されているとしても、引用発明2は「入賞発生時には効果的なアピール表示を行うことができるようにしたスロットマシンを提供すること」(段落【0008】)を課題として発明されたものであるところ、マニュアルストップタイプにおいて同課題が「入賞を構成するシンボルを入賞ライン上で停止させているリールをさらに所定のパターンで回転させるようにステッピングモータを駆動する」ことにより達成できないと解することはできないから、マニュアルストップタイプの採用が設計事項であることには変わりがない。
そして、「マニュアルストップタイプ」のスロットマシンとしては、各リールの停止を指示するストップボタン(本願発明6の「可変表示停止指示手段」に相当)が設けられ、1つのストップボタンを操作すればそれに対応したリールを停止するように停止制御を行う(本願発明6の「操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止」に等しい。)ことが極めて一般的である。
そうである以上、「前記可変表示装置の各図柄列に対応して設けられ、遊技者の操作により対応する図柄列の可変表示の停止を指示する複数の可変表示停止指示手段」を有し、制御手段は「操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列を停止させる」ものとすることは、引用発明2のスロットマシンとして、極めて一般的なマニュアルストップタイプを採用した程度のことであり、設計事項といわなければならない。
引用発明2の課題は前示のとおり、入賞発生時の効果的なアピール表示にあり、同課題に着目すると、極めて一般的なマニュアルストップタイプのスロットマシンにあっては、最後のリールが停止(最後の図柄列が停止)した際に入賞が発生するから、最後に停止するリールに対して(当然、最後に操作するストップボタンに対応する図柄列に対して)、「入賞を構成するシンボルを入賞ライン上で停止させているリールをさらに所定のパターンで回転させるようにステッピングモータを駆動する」ことは当然である。
他方、本願明細書には「三番目(最後)に操作されたストップボタン12,13又は14に対応するリール2,3又は4の回転を最終的に停止させる図柄の1つ手前の図柄が表示窓5,6又は7に表示されたとき、一旦停止して再びリールを回転させ、1図柄分移動して最終的に停止する態様(これを「停止モードE」とする)と、前述の停止モードAが設定される。CPU21は、図4のフローチャートに準ずる動作手順に従い、前述の入賞判定の結果により、入賞の場合には「停止モードE」を選択し、非入賞の場合には「停止モードA」を選択して実行する。」(段落【0052】)とあるように、「前記可変表示停止指示手段が操作されてから前記図柄列の可変表示を停止するまでの間に、前記操作された可変表示停止指示手段に対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止する」対象となるのは、すべての図柄列である必要はなく、最後に停止する図柄列でもよいのだから、引用発明2のスロットマシンとして、極めて一般的なマニュアルストップタイプを採用した上で、最後に操作するストップボタンが操作されてから、そのストップボタンに対応する図柄列の可変表示を停止するまでの間に、最後に操作するストップボタンに対応する図柄列の可変表示を少なくとも1回停止すること、すなわち相違点2に係る本願発明6の構成を採用することは設計事項というべきである。また、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明6は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明1及び本願発明6が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-12 
結審通知日 2007-09-18 
審決日 2007-10-01 
出願番号 特願平8-338605
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A63F)
P 1 8・ 561- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 尚  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 太田 恒明
中槙 利明
発明の名称 遊技機  
代理人 藤田 和子  

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