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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1168764
審判番号 不服2006-5932  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-30 
確定日 2007-11-29 
事件の表示 平成 7年特許願第143349号「オイルシール」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月24日出願公開、特開平 8-338536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯の概要

本願は、平成7年6月9日の出願であって、平成16年10月12日(起案日)付けで拒絶理由通知がなされ、同年12月20日付けで意見書が提出されるとともに明細書を補正する手続補正がなされ、平成17年6月6日(起案日)付けで最後の拒絶理由通知がなされたところ、同年8月4日付けで意見書が提出されるとともに明細書を補正する手続補正がなされたが、平成18年2月21日(起案日)付けで、上記の平成17年8月4日付け手続補正を却下する決定がなされるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年3月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

2.平成18年3月30日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成18年3月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

平成18年3月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、その請求項1を、補正前の
「【請求項1】 環状芯金の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形のシールリップが設けられ、前記シールリップの一側の斜面を回転軸の外周面に対して摺接するオイルシールであって、
前記シールリップにおいて回転部材の外周面に対して圧接させられる一側の斜面が金型成形により得られる成形面とされていて、この斜面に低摩擦材の溶液を塗布した後乾燥させることで形成された低摩擦材からなる潤滑膜が被覆されており、
前記シールリップにおいて他側の斜面およびそれに面一となる前記潤滑膜の内周側端面が切断加工により得られる切断面とされている、ことを特徴とするオイルシール。」(平成16年12月20日付けの手続補正書により補正されたもの)から、
「【請求項1】 環状芯金の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形の弾性材からなるシールリップが設けられ、前記シールリップの一側の斜面を回転軸の外周面に対して摺接するオイルシールであって、
前記シールリップにおいて回転部材の外周面に対して圧接させられる一側の斜面が金型成形により得られる成形面とされていて、この斜面に低摩擦材の溶液を塗布した後乾燥させることで形成された低摩擦材からなる潤滑膜が被覆されており、
前記潤滑膜はエポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したものであり、
前記シールリップにおいて他側の斜面およびそれに面一となる前記潤滑膜の内周側端面が切断加工により得られる切断面とされている、ことを特徴とするオイルシール。」
に補正するものである。(なお、下線部は、補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)

上記の本件補正は、願書に最初に添付した明細書における、「弾性体4において ・・・(中略)・・・ 断面ほぼ三角形の主シールリップ5と、 ・・・(中略)・・・ 補助シールリップ6とがそれぞれ一体的に形成されており」(【0017】段落を参照)との記載、及び、「斜面5Aには、その表面形状に沿って低摩擦材からなる潤滑膜9が被覆されている。 ・・・(中略)・・・ この低摩擦材としては、 ・・・(中略)・・・ 樹脂バインダーにPTFEを分散混合したものなどのふっ素系合成樹脂が用いられる。具体的に、例えば(株)川邑研究所の商品名デフリックコート〔・・・(中略)・・・ または、品番ABプライマ(エポキシ樹脂)に品番KH-100(PAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したもの)を加えたもの〕を用いることができる。」(【0018】段落を参照)との記載等に基づくものであり、新規事項を追加するものではないから、平成6年改正前特許法第17条の2第2項で準用する第17条第2項の規定に適合するものである。そして、当該補正は、発明を特定するために必要な事項である「シールリップ」について、「弾性材からなる」との限定を付すとともに、同じく発明を特定するために必要な事項である「潤滑膜」について、「エポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したもの」であるとの限定を付すものであるから、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、以下、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合するか)について、検討することとする。

(2)刊行物に記載の事項及び発明

(2-1)刊行物1

本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭53-56456号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「オイルシール及びその製造方法」に関し、図面とともに、次の(a)ないし(c)の事項が記載されている。

(a)「主リツプの摺動面を弗素樹脂シート材を用いて被覆し、かつ該弗素樹脂シートによる摺動面上に円周状に配列してねじ状小突起を一体的に設けたことを特徴とするオイルシール。」(第1頁左下欄第5行-同欄第8行;特許請求の範囲の第1項)
(b)「第3図において、加硫成形されたゴム様弾性材、例えばニトリルゴム、アクリルゴム等よりなるパツキング部材10は、断面略L字形状を呈し全面に通常の対ゴム接着剤を塗布された金属材料製補強環11が加硫時に一体化されており、はめ合いのための円筒部12、円筒部一端から内方へ延びる径方向部13、径方向部13に連続する腰部14及び腰部14に連なり軸周面に密封摺動接触し外周にガータースプリング15を収容する溝16を有するリツプ部20から成り、このリツプ部20の軸周面と摺動する外側傾斜面には弗素樹脂材、例えば四弗化エチレン樹脂等を用いたシート状でかつ環状の摺動部材21が加硫成形時に一体化されており、更にこの摺動部材21の表面には円周方向に配列してねじ状小突起22が設けられている。」(第2頁左上欄第1行-同欄第16行)
(c)「下型30及び中型40の成形空間部41に通常の対ゴム接着剤を塗布された補強環11を位置させ、前記環状段部32上に予め表面処理を行い、上面に接着剤が塗布されかつ環状に打抜かれた弗素樹脂シート材23を載置し、更に前記弗素樹脂シート材23の上にパツキング部材(第3図,10)を形成する未加硫ゴム様材料24を載せる。ついで下型30及び中型40上に上型50を押下げれば、上中下各型30,40,50が加熱されていることにより前記未加硫ゴム様材料24が流動状態となり、前記弗素樹脂シート材23の環状段部32の外方にある部分を下方へ押曲げながら成形空間部41内に流れ込み、その後の架橋反応によつて第5図に示す様に型内にオイルシール成形品が得られる。この時、流動状態にある未加硫ゴム材料24によつて押曲げられた弗素樹脂シート材23は截頭円錐面31に強く圧せられ、オイルシールの摺動部を形成すると共にその面上にねじ状小突起(第3図,23(審決注:「22」の誤記であると認められる。))が一体的に形成される。
ついで、前記成形工程によつて得られた成形品のリツプ端部の余材を切り落して内側傾斜面及びリツプ先端を形成して第3図に示す様なオイルシール完成品が得られる。」(第2頁右上欄第8行-同頁左下欄第11行)

さらに、上記摘記事項(c)及び図面の記載によれば、次の(d)の事項も該刊行物1の記載事項として認めることができる。

(d)上記摘記事項(c)における、「前記成形工程によつて得られた成形品のリツプ端部の余材を切り落して内側傾斜面及びリツプ先端を形成して第3図に示す様なオイルシール完成品が得られる。」との記載を、成形用金型内にオイルシール成形品が得られた状態を示す第5図の記載、及び、該オイルシール成形品に対し上記の余材切り落としを行って得られるオイルシール完成品を示す第3図の記載とともに参照すると、切り落とされる「余材」には、リツプ部(20)を構成するゴム様材料(24)とともに、摺動部材(21)を構成する弗素樹脂シート材(23)も含まれており、よって、上記の余材切り落としに伴い、リツプ部(20)の内側傾斜面(ゴム様材料(24)に対する上記の余材切り落としによって形成される傾斜面ないし切断面)と摺動部材(21)の内周側端面(弗素樹脂シート材(23)に対する上記の余材切り落としによって形成される傾斜面ないし切断面)とが面一となることが、少なくとも、記載されていると同然に示唆されているというべきである。

そうすると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「金属材料製補強環(11)の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形の弾性材からなるリツプ部(20)が設けられ、前記リツプ部(20)の外側傾斜面を軸周面に対して摺接するオイルシールであって、
前記リツプ部(20)において軸周面に対して圧接させられる外側傾斜面が金型成形により得られる成形面とされていて、この斜面に低摩擦材からなる摺動部材(21)が被覆されており、
前記摺動部材(21)は四弗化エチレン樹脂からなるものであり、
前記リツプ部(20)において内側傾斜面およびそれに面一となる前記摺動部材(21)の内周側端面が切断加工により得られる切断面とされている、オイルシール。」

(2-2)刊行物2

また、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭63-66600号(実開平1-169668号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「パッキン」に関し、図面とともに、下記の事項(e)ないし(h)が記載されている。

(e)「パッキン本体表面の全面又は一部に低摩擦材より成る乾いた薄膜コーティングを施して成ることを特徴とするパッキン。」(第1頁第5行-同頁第7行;実用新案登録請求の範囲の第1項)
(f)「本考案は、たとえばオイルシール等のパッキンに関する。」(第1頁第12行-同頁第13行)
(g)「1はパッキン本体であり、概略金属環2と、金属環2の内径端部から密封流体側に延びる主シールリップ3と、大気側に延びるダストリップ4とから構成されている。金属環2は円筒部21と、円筒部21の一端から半径方向内方に向かって延びるフランジ部22とから構成され、主シールリップ3はフランジ部22内端から円筒部21内周面と向き合うように延びている。一方、主シールリップ3のリップ先端31には、その外周側に主シールリップ3に緊迫力を付与するばね部材5が装着されている。さらに、ハウジング6とのはめあい部7となる金属環2の外周側にはゴム部8が被覆されている。
そして、このパッキン本体1の全体(範囲A)、または一部(範囲B,C)に低摩擦材より成る乾いた薄膜コーティング10が施されている。
ここで、範囲Bはパッキン本体1のはめあい部7外周と、金属環2のフランジ部22の大気側側面と、主シールリップ3の大気側側面にかけた範囲である。一方、範囲Cは、パッキン本体1の大気側端面9の外径端から内径端部までの範囲である。」(第4頁第6行-第5頁第7行)
(h)「コーティング層10の形成は、本実施例では、パラフィン系炭火水素(審決注:「炭火水素」は「炭化水素」の誤記であると認められる。)をトリクロールエタン等の溶剤に溶かして液化し、スプレーによるパッキン本体1に吹付ける方法をとってもよく、また直接、パッキン本体1を溶液内に浸漬する方法をとってもよい。このようにしてパラフィン系炭火水素をパッキン本体に塗布した後で、乾燥させることにより、パッキン本体1表面に極く薄いコーティング層10を形成することができる。」(第5頁第15行-第6頁第3行)

そうすると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「金属環(2)の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形の弾性材からなる主シールリップ(3)が設けられ、前記主シールリップ(3)の大気側側面を軸(11)の外周面に対して摺接する、オイルシール等のパッキン本体(1)であって、
前記主シールリップ(3)において軸(11)の外周面に対して圧接させられる大気側側面に、パラフィン系炭化水素の溶液を塗布した後乾燥させることで形成された低摩擦材からなるコーティング層(10)が被覆されており、
前記コーティング層(10)はトリクロールエタン等の溶剤にパラフィン系炭化水素を配合したものである、パッキン本体(1)。」

(3)対比・判断

本願補正発明と刊行物1の発明とを対比すると、刊行物1の発明における「金属材料製補強環(11)」は本願補正発明における「環状芯金」に相当し、同様に、「リツプ部(20)」は「シールリップ」に、「外側傾斜面」は「一側の斜面」に、「軸周面」は「回転軸の外周面」または「回転部材の外周面」に、「四弗化エチレン樹脂」は「PTFE」に、「内側傾斜面」は「他側の斜面」に、それぞれ相当する。そうすると、本願補正発明と刊行物1の発明とは、本願補正発明の用語に従えば、
「環状芯金の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形の弾性材からなるシールリップが設けられ、前記シールリップの一側の斜面を回転軸の外周面に対して摺接するオイルシールであって、
前記シールリップにおいて回転部材の外周面に対して圧接させられる一側の斜面が金型成形により得られる成形面とされていて、この斜面に低摩擦材からなる被覆がなされており、
前記被覆はPTFEからなるものであり、
前記シールリップにおいて他側の斜面およびそれに面一となる前記被覆の内周側端面が切断加工により得られる切断面とされている、オイルシール。」
である点で一致し、以下の相違点1及び2で相違している。

相違点1: 本願補正発明では、シールリップにおける一側の斜面の被覆が、低摩擦材の溶液を塗布した後乾燥させることで形成された低摩擦材からなる潤滑膜であるのに対して、刊行物1の発明では、リツプ部(20)における外側傾斜面の被覆が、低摩擦材からなる摺動部材(21)ではあるものの、該摺動部材(21)は、低摩擦材の溶液を塗布した後乾燥させることで形成された潤滑膜ではない(弗素樹脂シート材(23)の成形によるものである)点。

相違点2: 本願補正発明では、上記被覆を構成する潤滑膜が、エポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したものであるのに対して、刊行物1の発明では、上記被覆を構成する摺動部材(21)が、四弗化エチレン樹脂、すなわちPTFEからなるものの、エポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したものではない点。

そこで、以下、上記各相違点について検討する。

〈相違点1について〉
最初に、上記相違点1について検討する。
刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、オイルシールという共通の技術分野に属し、ともに、環状芯金(刊行物2の発明では金属環(2))の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形の弾性材からなるシールリップが設けられ、そのシールリップの一側の斜面を回転軸の外周面に対して摺接するオイルシールであって、前記シールリップにおいて回転部材ないし回転軸の外周面に対して圧接させられる一側の斜面に低摩擦材からなる被覆がなされているオイルシールである点で、両発明は共通の構成を有している。してみれば、刊行物1の発明における、一側の斜面に低摩擦材からなる被覆を形成するための具体的手段として、該刊行物1に記載された弗素樹脂シート材(23)の成形による方法に代えて、刊行物2の発明におけるもののごとく、一側の斜面に、低摩擦材を配合してなる溶液を塗布した後、乾燥させる方法を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことであると認められる。そして、刊行物1の発明において低摩擦材をなしている四弗化エチレン樹脂について、これを溶液とすることを妨げる事由も認められない。(なお、もしもこの点について必要であるならば、たとえば、後述の相違点2についての検討において挙げる周知例のうち、特開平5-312209号公報(刊行物3)、特開平6-280881号公報(刊行物4)、及び特開昭58-81220号公報(刊行物5)の記載事項を参照。) よって、刊行物1の発明における、一側の斜面に低摩擦材からなる被覆を形成するための具体的手段として、四弗化エチレン樹脂を配合してなる溶液を塗布した後、乾燥させる方法を採用して、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たものと認められる。

〈相違点2について〉
進んで、上記相違点2について検討する。
摺動部等において潤滑ないし摩擦低減を行う被覆の材料を、PTFEをエポキシ樹脂、PAI樹脂、またはエポキシ樹脂とPAI樹脂とを組み合わせたものに配合することによって構成することは、本願出願前、既に周知の技術的事項であったものと認められる。このことは、たとえば、次の(ア)ないし(オ)に示す文献により例証される。

(ア)本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-312209号公報(以下、「刊行物3」という。)には、コントロールケーブルにおける「乾性潤滑被膜(5)」の形成方法に関し、次の記載がなされている。
「固体潤滑剤とバインダーとを溶媒に溶解させたり、分散剤に分散させることにより潤滑剤原液をうる。インナーケーブル4に、浸漬(ディッピング)、タンブリングまたはスプレーなどによって前記潤滑剤原液を付着させる。
つぎにインナーケーブル4に対し、室温下での1次乾燥を施し、ついで200℃の雰囲気下で2次乾燥を施すことにより潤滑被膜を定着せしめる。
固体潤滑剤としては、 ・・・(中略)・・・ ポリテトラフルオロエチレンなどのふっ素樹脂などの高分子材料、 ・・・(中略)・・・ などが好ましく用いられる。・・・(中略)・・・
一方、バインダーとしては、有機系バインダーとして各種の天然樹脂、エポキシ樹脂、 ・・・(中略)・・・ ポリアミドイミドなどの合成樹脂、または無機系バインダーとして、 ・・・(中略)・・・ などが好ましく用いられる。これらのバインダーも単独または組合せで用いられる。」(第3頁第4欄第8行-同欄第31行;【0025】段落-【0028】段落参照)
(イ)同じく本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平6-280881号公報(以下、「刊行物4」という。)には、転がり軸受における「潤滑膜(5)」の形成方法に関し、次の記載がなされている。
「【請求項1】 金属またはセラミックス材料からなる軌道輪および転動体を有し、それらの転動部位のうちの少なくともいずれか一つに、イミド結合またはアミドイミド結合を有する樹脂バインダー中にふっ素系合成樹脂を分散混合しかつ炭化水素ガスの脱ガス処理を施した潤滑膜が被覆されている、ことを特徴とする転がり軸受。」(第2頁第1欄第2行-同欄第7行;【特許請求の範囲】を参照)
「保持器4においてマスクで被覆されていないポケット内面に、PTFE粉末とポリアミドイミド粉末とをN-メチル-2-ピロリドンで溶かした流動体を複数回繰り返してスプレーする。 ・・・(中略)・・・ 保持器4からマスクを除去して後、前記スプレーした被膜を315℃?360℃もの高温で所定時間(約30分?120分)加熱焼成することにより保持器4のポケット内面に対して定着させる。」(第3頁第4欄第35行-同欄第47行;【0022】段落及び【0023】段落を参照)
(ウ)同じく本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭58-81220号公報(以下、「刊行物5」という。)には、スラスト荷重下で摺動されるスラスト軸受における「潤滑皮膜(3)」の形成方法に関し、次の記載がなされている。
「本発明に係るスラスト軸受は、 ・・・(中略)・・・ 金属素材で形成された基材(1)と、この基材(1)の摺動面にコーティングされた固体潤滑剤(2)を含有する潤滑皮膜(3)から構成される。」(第2頁左上欄第13行-同欄第18行)
「上記固体潤滑剤としては ・・・(中略)・・・ ポリテトラフルオロエチレン樹脂などが適用可能でこれらの1つあるいは2つ以上を組合せたものに、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとして加え適用する。」(第2頁右上欄第9行-同欄第14行)
「被処理物の目的とする摺接面に、適当な稀釈剤で希釈した前記固体潤滑剤とバインダーの混合物をスプレーで塗布する。そしてこれを180℃で30分間あるいは150℃で1時間焼成すれば、目的とする潤滑皮膜を形成し得る。」(第2頁右下欄第8行-同欄第13行)
(エ)同じく本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平4-25669号公報(以下、「刊行物6」という。)には、パッキングやベアリング等の摺動部材として用いられる「高分子複合材料」に関し、次の記載がなされている。
「(産業上の利用分野)
この発明は、例えば、パッキングやベアリング等の摺動部材として用いられるような高分子複合材料に関する。」(第1頁左下欄第10行-同欄第13行)
「(発明の構成)
この発明は、繊維表面が活性化処理されたPTFE短繊維を、熱硬化性ポリウレタン、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂に対して0.5?5vol%の割合で充填した高分子複合材料であることを特徴とする。」(第1頁右下欄第15行-第2頁左上欄第1行)
(オ)同じく本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-262377号公報(以下、「刊行物7」という。)には、「プレス成形容器」に設けられる被覆層に関し、次の記載がなされている。
「【請求項19】 表面処理鋼箔と該鋼箔の少なくとも一方の表面に設けられたポリアミドイミド及びエポキシ樹脂の組成物からなるプライマー層と、該プライマー層上に設けられた、ポリアミドイミド及びエポキシ樹脂の組成物と該組成物100重量部当り60乃至300重量部のフッ素系樹脂を含有する樹脂組成物のオーバーコート層とから成るラミネート材をプレス成形して成ることを特徴とするプレス成形容器。
【請求項20】 フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、或いはそれらの組み合わせからなる請求項19記載のプレス成形容器。」(第2頁第2欄第37行-同欄第48行;【特許請求の範囲】を参照)
「フッ素系樹脂はプレス成形時に優れた潤滑性能を与えると共に、ポリアミドイミド中に分散相として存在するフッ素系樹脂はプレスによる絞り成形に耐える塑性流動性を付与する。」(第5頁第7欄第2行-同欄第5行;【0023】段落を参照)
「被覆中のフッ素系樹脂の化学的不活性、低摩擦係数という特性が優れた耐焦げ付き性を与える。」(第5頁第7欄第10行-同欄第11行;【0024】段落を参照)
「表面処理鋼箔への被覆用塗料の塗布は、それ自体公知の塗装法、例えばロールコート、スプレーコート、静電塗装、ドクターブレードコート等の任意の方法で行うことができ、塗装はコイルコートで連続的に行ってもよいし、シートに対して間欠的に行ってもよい。プライマー塗装及びオーバーコート塗装の二段塗装の場合は、ウェット・オン・ウェット或いはウェット・オン・ドライで行うことができる。
被覆用塗料の焼き付けは、ポリアミドイミドの環化縮合が完全に行われるようなものであり、一般に220乃至400℃、特に250乃至350℃の温度で0.1乃至120分間程度行うのがよい。」(第8頁第13欄第16行-同欄第27行;【0058】段落及び【0059】段落を参照)

してみれば、刊行物1の発明において、リツプ部(20)の摺動部材(21)の部位における上記被覆を、エポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したもので構成することは、刊行物3ないし7により例示される上記周知技術にかんがみて、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。よって、刊行物1の発明及び上記周知技術に基づき、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば、容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果について検討しても、刊行物1の発明、刊行物2の発明、刊行物1及び2に記載された事項、並びに、刊行物3ないし7により例示される上記周知技術から、本願出願前に、当業者であれば予測することができた範囲のものであって、格別のものということはできない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成18年6月8日付けの手続補正により補正された審判請求書において、本願補正発明は原査定で引用された各刊行物に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない旨、主張している。かかる審判請求人の主張は、すべて精査したが、上記(3)に記した判断の結論を覆すものではない。

審判請求人は、なかんずく、上記相違点2に関連して、本願補正発明は、エポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したものとしたため、本願明細書に記載の効果に加え、PTFEがバインダーに強固に固定され、剥離し難いとともに、これらのバインダーが弾性材に対して強固に固定され、シールリップの摩耗低減・耐久性向上に資する、等の効果も奏するところ、原審で引用された刊行物1及び2には、そのような、本願補正発明の構成や効果に関する開示がない旨を述べ、本願補正発明の進歩性(非容易想到性)を主張している。
しかしながら、摺動部等において潤滑ないし摩擦低減を行う被覆の材料を、PTFEをエポキシ樹脂、PAI樹脂、またはエポキシ樹脂とPAI樹脂とを組み合わせたものに配合することによって構成することが、本願出願前、既に周知の技術的事項であったことは、上記(3)において、相違点2に関連して説示したとおりである。しかも、そこにおいて、エポキシ樹脂あるいはPAI樹脂は、PTFEのバインダー(結合剤)として用いられるのであるから(刊行物3ないし5の摘記事項(ア)ないし(ウ)を参照)、上記した出願人主張の効果も、本願出願時において当業者が予測することができた範囲の事項であって、格別なものということはできない。

以上の次第で、審判請求人の主張は、採用の限りではない。

(5)むすび

叙上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、よって、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反するものであって、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年12月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 環状芯金の内周に内径側へ向けて先鋭となる断面ほぼ三角形のシールリップが設けられ、前記シールリップの一側の斜面を回転軸の外周面に対して摺接するオイルシールであって、
前記シールリップにおいて回転部材の外周面に対して圧接させられる一側の斜面が金型成形により得られる成形面とされていて、この斜面に低摩擦材の溶液を塗布した後乾燥させることで形成された低摩擦材からなる潤滑膜が被覆されており、
前記シールリップにおいて他側の斜面およびそれに面一となる前記潤滑膜の内周側端面が切断加工により得られる切断面とされている、ことを特徴とするオイルシール。」

(1)刊行物に記載の事項及び発明

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2に記載された事項並びに刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明は、上記2.の(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断

本願発明は、上記2.で検討した本願補正発明を特定する事項から、「シールリップ」及び「潤滑膜」についての限定事項である、それぞれ「弾性材からなる」点及び「エポキシ樹脂のプライマにさらにPAI樹脂のバインダーにPTFEを配合したもの」である点を削除し、発明の範囲を拡張したものに該当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび

叙上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-26 
結審通知日 2007-10-02 
審決日 2007-10-15 
出願番号 特願平7-143349
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16J)
P 1 8・ 121- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 昇  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 礒部 賢
大町 真義
発明の名称 オイルシール  
代理人 岡田 和秀  
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