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審決分類 審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E05F
審判 一部無効 2項進歩性  E05F
管理番号 1169182
審判番号 無効2005-80250  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-08-18 
確定日 2007-11-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3245490号発明「吊戸のガイド装置」の特許無効審判事件についてされた平成18年9月19日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において,審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10484号・平成19年4月26日決定言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3245490号に係る発明は,平成5年12月15日に特許出願したものであって,平成13年10月26日に設定登録された。
これに対し,請求人は,その請求項1?3のうち,請求項1及び2に係る発明の特許につき,平成17年8月18日に特許無効の審判を請求し,被請求人は,平成17年11月2日付けで答弁書を提出し,当庁は,平成17年12月13日付けで「本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする」旨の第1審決をした。
そこで,被請求人は,平成18年1月24日付けで第1審決取消の訴え(平成18年(行ケ)第10032号)を提起するとともに,平成18年2月13日付けで訂正審判(訂正2006-39022号)を請求したところ,知的財産高等裁判所は,特許法第181条第2項の規定に基づき,平成18年3月13日付けで「平成17年12月13日にした審決(第1審決)を取り消す」旨の決定をした。
その後の審判手続の中で被請求人は,平成18年4月7日付けで訂正請求をし,上記訂正審判は,特許法第134条の3第4項の規定により取り下げられたものとみなされた。
上記訂正請求に対し,請求人は平成18年5月26日に弁駁書を提出し,当庁は,平成18年9月19日付けで「訂正を認める。本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする」旨の第2審決をし,その謄本は平成18年9月29日に被請求人に送達された。
そこで,被請求人は,平成18年10月25日付けで第2審決取消の訴え(平成18年(行ケ)10484号)を提起したところ,知的財産高等裁判所は,「平成18年9月19日にした審決(第2審決)を取り消す」旨の判決(平成19年4月26日判決言渡。)をした。

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
本件無効審判の平成18年4月7日付の訂正請求による訂正内容は,つぎのとおりのものである。
(訂正事項a)
特許請求の範囲の請求項1に「吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって、ガイドピンの上端部外周面に係止溝が形成され、走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け、係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく、係止溝の上下の大径部分よりも小にして成ることを特徴とする吊戸のガイド装置。」とあるのを,
「吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって、ガイドピンの上端部外周面に係止溝が形成され、走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け、係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく、係止溝の上下の大径部分よりも小にして成り、ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体がガイドされ走行されることを特徴とする吊戸のガイド装置。」と訂正する。
(訂正事項b)
明細書の段落【0005】「…係止ガイド13、13片間の間隔を係止溝4aを形成する首部分よりも大きく、係止溝4aの上下の大径部分よりも小にして成ることを特徴とするものである。」とあるのを,「…係止ガイド13、13片間の間隔を係止溝4aを形成する首部分よりも大きく、係止溝4aの上下の大径部分よりも小にして成り、ガイドピンの係止溝4aが一対の係止ガイド片13、13間に係入されてガイドピン4が機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体3がガイドされ走行されることを特徴とするものである。」と訂正する。
(訂正事項c)
明細書の段落【0011】「ガイドピン4の上端部外周面に係止溝4aが形成され、吊戸本体3側の係止溝4aに一対の係止ガイド片13、13が…」とあるのを、「ガイドピン4の上端部外周面に係止溝4aが形成され、係止溝4aに吊戸本体3側の一対の係止ガイド片13、13が…」と訂正する。
(訂正事項d)
明細書の段落【0014】「…図6は分解斜視図を示していて、傾斜ガイド8の途中部分に相当する箇所から係止ガイド片13、13と略同レベルに鍔18、18を対向して形成し、傾斜ガイド8に磁着されたガイドピン4の係止溝4aを一対の鍔18、18間にて保持し、係止ガイド片13、13へと円滑に移行させるようにしたものである。かかる場合、鍔18、18の始端部には始端側程間隔が広がる導入ガイドが形成され、ガイドピン4の保持を一層容易におこなえるようにしてある。かかる場合、一対の鍔18、18を傾斜ガイド8と略平行に傾斜させるようにしてもよいものである。」とあるのを,「図6は分解斜視図を示していて、傾斜ガイド8の途中部分に相当する箇所から係止ガイド片13、13と略同レベルに鍔31、31を対向して形成し、傾斜ガイド8に磁着されたガイドピン4の係止溝4aを一対の鍔31、31間にて保持し、係止ガイド片13、13へと円滑に移行させるようにしたものである。かかる場合、鍔31、31の始端部には始端側程間隔が広がる導入ガイドが形成され、ガイドピン4の保持を一層容易におこなえるようにしてある。かかる場合、一対の鍔31、31を傾斜ガイド8と略平行に傾斜させるようにしてもよいものである。」と訂正する。
(訂正事項e)
【図6】の符号「18」を「31」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(訂正事項aについて)
上記訂正事項aは,訂正前の本件特許明細書の段落【0007】,【0009】,【0011】,【0017】及び【図1】(b)の記載内容に基づいて,訂正前の請求項1に「ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体がガイドされ走行される」という事項を付加するものであるから,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
(訂正事項bについて)
上記訂正事項bは,訂正事項aによる特許請求の範囲の記載の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正である。
(訂正事項cについて)
上記訂正事項cは,「吊戸本体3側の」との修飾語を,本来付されるべきであった「一対のガイド片13,13」の前に置き替えたものであり,誤記の訂正ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(訂正事項d及びeについて)
上記訂正事項d及びeは,訂正前の段落【0014】及び【図6】の「鍔18」の記載と,同上段落【0012】及び【図3】の「係止突起18」の記載とにおける符号の重複を訂正するものであり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そして,上記訂正事項aないしeは,いずれも,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3)むすび
したがって,上記訂正事項aないしeは,平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し,特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するから,当該訂正を認める。

3 当事者の主張
(1)請求人の主張
審判請求人は,審判請求書及び平成18年5月26日付け弁駁書において,特許第3245490号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求め,次の理由及び証拠に基づいてその特許は無効とされるべきであると主張する。
(理由)
本件特許の請求項1,2に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
(証拠)
甲第1号証:特開平4-297687号公報
甲第2号証:実願昭51-166718号(実開昭53-83841号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平3-126407号公報
甲第4号証:実願平2-5530号(実開平3-96778号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願平2-19645号(実開平3-112078号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願平4-25555号(実開平5-72285号)のCD-ROM
なお,甲第1号証?甲第2号証は審判請求書により提出されたものであり,甲第3号証?甲第6号証は弁駁書により提出されたものである。

(2)被請求人の主張
一方,被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨),甲第1号証に記載された発明に,甲第2号証に記載された発明を適用する動機付けが無いから,本件特許の請求項1,2に係る発明は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない旨主張する。
また,被請求人は,平成18年4月7日付け訂正請求書において,本件特許の特許明細書及び【図6】を訂正請求書添付の全文訂正明細書及び【図6】のとおり訂正することを求め,訂正後の本件特許に係る発明には審判請求人の主張する無効理由が存在しない旨主張する。

4 本件発明
本件特許の請求項1,2に係る発明は,上記訂正の請求が認められることから,平成18年4月7日付け訂正審判請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって、ガイドピンの上端部外周面に係止溝が形成され、走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け、係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく、係止溝の上下の大径部分よりも小にして成り、ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体がガイドされ走行されることを特徴とする吊戸のガイド装置。」(以下,「本件発明1」という。)
「【請求項2】吊戸本体に吸引用磁石が設けられ、ガイドピンの上端部に磁石が設けられ、吸引用磁石と係止ガイド片との間において、ガイドピンを磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイドが設けられて成ることを特徴とする請求項1記載の吊戸のガイド装置。」(以下,「本件発明2」という。)

5 甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証に記載の発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(以下,「刊行物1」という。)には,「吊戸のガイド装置」の発明に関して,図面の図1?図11とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数枚の吊戸本体が略平行に並置された各々の上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなって複数枚の吊戸本体をその厚さ方向において一部を重ねるようにして開口部を閉塞する吊戸のガイド装置であって、開口部における戸当たりに当接する先頭の吊戸本体以外の吊戸本体に対してその各々の閉塞走行位置においてランナーに当接して走行を停止させるストッパーを各々の上レールの内部に設けて成る吊戸のガイド装置。」,
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数枚の吊戸本体が略平行に並置された各々の上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなって複数枚の吊戸本体をその厚さ方向において一部を重ねるようにして開口部を閉塞する吊戸のガイド装置に関し、詳しくは磁力を利用して床面上に突出させるガイドピンの数を軽減させようとする技術に係るものである。」,
「【0007】
【実施例】吊戸本体3の上端の前後部にはランナー2,2が取付けられ、これらランナー2が走行受片10,10を備えた断面コ字型の上レール1に走行自在に挿入され、吊戸本体3を上レール1に走行自在に保持してある。床面11には適宜間隔を隔ててガイドピン4が磁力にて突出引退自在に設けられている。そして吊戸本体3の下端には走行溝5が全長に形成されている。走行溝5は例えば鉄板のような磁性体にて形成されていてもよい。吊戸本体3の走行溝5の前後部には吸引用磁石7を設けてある。しかして吊戸本体3の閉塞方向への走行に際して、床面下に沈んでいるガイドピン4を吸引用磁石7にて磁着して引き上げ、ガイドピン4が吊戸本体3の下端面の走行溝5に突入し、かかる突入状態が維持されて走行ガイドをおこなうことができるようにしてある。
【0008】ガイドピン4は床面下に埋入された外筒12に対して昇降自在に挿入され、ガイドピン4の先端に磁石6を取付けてある。ガイドピン4の先端に設けられた磁石6とはその磁極を異ならせた吸引用磁石7の他極をガイドピン4側の磁石6とは同極になしてガイドピン4を床面下に引退させる反発用の磁石部分9になしてある。この吸引用磁石7の両側には鉄板のような磁性体にて形成された傾斜ガイド8が形成されている。
【0009】しかして吊戸本体3の閉塞方向への走行にて、傾斜ガイド部8にて床面から不測に突出しているガイドピン4を床面下に押さえ込み、さらに床面から突出しているガイドピン4を反発用磁石7にてガイドピン4をその上端の磁石6を介して磁着して引き上げ、磁性体にて形成された傾斜ガイド部8に磁石6が磁着してさらにガイドピン4は上昇され、吊戸本体3の走行溝5へと案内され、かかるガイドピン4にて吊戸本体3がガイドされて走行されるのである。そしてガイドピン4が走行溝5の終端に達すると、傾斜ガイド部8にてガイドピン4は押し下げられ、そして最終的には反発用磁石9にてガイドピン4を完全に外筒12の内部に押し下げておくものである。」,
「【0012】ガイドピン4の下端には磁石26が取付けられ、そして中間スペーサー16の周部側壁にも保持用磁石27が埋設され、しかして、ガイドピン4が吊戸本体3側に磁着されて最も引き上げられた状態で、ガイドピン4の下端の磁石が保持用磁石27に磁着されて、ガイドピン4の引き上げられた状態を保持することができるようにしてある。かかる引き上げられた状態を保持することで、ガイドピン4は吊戸本体3の走行溝3に深く挿通され、ガイド機能を安定させるものである。」。

上記の記載事項並びに図面に示された内容を総合すると,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明1)
「複数枚の吊戸本体が略平行に並置された各々の上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され,床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって,吊戸本体3の走行溝5の前後部には吸引用磁石7を設けるとともにガイドピン4の先端に磁石6を取付け,上記吸引用磁石7の両側には鉄板のような磁性体にて形成された傾斜ガイド8が形成され,当該傾斜ガイド部8に上記磁石6が磁着することによりガイドピン4が上昇され,吊戸本体3の走行溝5へと案内され,ガイドピン4の下端の磁石26が,中間スペーサー16の周部側壁に埋設された保持用磁石27に磁着されてガイドピン4の引き上げられた状態を保持する吊戸のガイド装置。」(下線部は,判決書22頁10?12行の判示のとおりである。)

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(以下,「刊行物2」という。)には,「無レール引戸構造」に関して,図面の第1図?第7図とともに,次の事項が記載されている。
「2.実用新案登録請求の範囲
引戸の上部が桟ガイド溝に摺動可能に係合し、下部がローラーを有して敷居に移動可能にセットされる引戸構造において、該敷居が略平面上でレールを有してをらず、引戸の開閉域内に規制ピンを植設されてをり、一方、前記引戸の下部には少なくとも2個のローラーが枢支されると共に開閉方向に沿って前記規制ピンに対する案内溝が設けられていることを特徴とする無レール引戸構造。」(明細書1頁3?11行),
「この考案の目的は上記従来技術に基づく引戸構造の問題点に鑑み、敷居にレールを設けず、しかも、引戸が正確に開閉されることが出来、実質フラットな敷居により上記欠点を除去し、…上記目的に沿うこの考案の構成は開閉される引戸の上部は桟のガイド溝に係合して外れることの無い様に摺動し、一方、該引戸の下部は複数のローラーにより実質平坦な敷居上を開閉移動し、側方変位しない様にする規制は該引戸の開閉域内で該敷居に植設した規制ピンを介して引戸下部に設けた案内溝が拘束されることにより行なわれ、開放状態では敷居は実質的に無レールフラットである様にしたことを要旨とするものである。」(同2頁11行?3頁5行),
「又、引戸13のフレーム下部の内部内側にはその底部に於て開閉方向に沿って下部に対向するフランジ18を有したコの字型案内溝19が固設されてをり、適宜位置では下からみて第6図に示す様に該フランジ18が無い切欠部20が形成されてをり、その部分はフレームの内側に印20が付されている。
そして、前記敷居10には第2図で左右の引戸が完閉された中央位置に遊転ローラー21を遊嵌した1本の規制ピンとしてのビス22がねじ込まれて植設されている。」(同4頁10?20行),
「尚、該遊転ローラー21の径は前記フランジ18の間隙よりは大きく、その切欠20よりは小さい様に形成されている。…
上記構成に於て、各引戸13をその上部を桟9のガイド溝8に下から挿入係合させ、左右摺動させ、引戸13の印20と敷居10の印を合致させてビス22上に案内溝19が在る様に下ろすと、第6図に示す如く、該ビス22の遊転ローラー21は切欠20内に入り、該案内溝19に納まることになり、ローラー16は敷居10上、隆条11がある場合はその上に当接する。
その状態で引戸13を開閉すると該引戸13はその上部は桟9のガイド溝8により離脱を規制され、又、下部はビス22の遊転ローラー21により案内溝19を介して離脱を規制され、レールが無いにもかゝわらず正しくスムースに開閉動が行なわれ、しかも、ビス22及び遊転ローラー21は絶対に引戸13からは現われないのみならず、案内溝19の切欠20からは上方重量に規制されて外れることはない。」(同5頁1行?6頁3行),
「そして、ガラス拭き等のために引戸13を外ずす場合は前記の様に引戸13の印20と敷居10の印24を合致させて該引戸13を一たん持ち上げれば遊転ローラー21は案内溝19のフランジ18の切欠20から下方に相対的に離脱し、そのまゝ内外方に移動させれば引戸13は容易に外ずれる。」(同6頁16行?7頁2行)。

上記の記載事項並びに図面に示された内容を総合すると,刊行物2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明2)
「引戸の下部が実質平坦な敷居状を開閉移動するようにした無レール引戸構造において、引戸の下部が複数のローラーにより実質平坦な敷居状を開閉移動する際に該引戸の下部が側方変位しない様にする規制を,該引戸の開閉域内で該敷居に植設固定した規制ピンを介して引戸下部に設けた案内溝が拘束されることにより行うようにした案内規制手段であって,引戸13のフレーム下部の内部内側にその底部に於て開閉方向に沿って下部に対向するフランジ18を有したコの字型案内溝19を固設し,その適宜位置で下からみてフランジ18が無い切欠部20を形成するとともに,規制ピンを,その径を前記フランジ18の間隙よりは大きく,上記切欠部20よりは小さい様に形成した遊転ローラー21を備えたビス22で構成し,規制ピンは敷居に植設固定されており,ビス22を遊挿された遊転ローラー21の案内溝19への挿入,離脱は,引戸13の建てこみ,取り外しによって行われていること,また,規制ピンの突出状態を保持する機能は,敷居に植設される構成によって実現されている案内規制手段。」(下線部は,判決書24頁下から7?3行の判示のとおりである。)。

(3)甲第3号証ないし甲第6号証の記載事項
甲第3号証ないし甲第6号証には,対向する係止ガイド片を有し下方が開口したコの字型案内溝(カーテンレール)と,この案内溝に沿って摺動するガイドピン(ランナー)とを備えたガイド構造が示されており,また,甲第4号証ないし甲第6号証には,そのようなガイド構造において,係止ガイド片間の間隔を、ガイドピンの係止溝を形成する首部分よりも大きく,ガイドピンの係止溝の上下の大径部分よりも小にした点が記載されている。

6 当審の判断
6-1 本件発明1について
(1)対比
そこで,本件発明1と引用発明1とを対比すると,その機能ないし構造から見て,引用発明1の「吊戸本体3」,「走行溝5」,および「ガイドピン4」は,それぞれ,本件発明1の「吊戸本体」,「走行溝」,および「ガイドピン」に相当するといえる。
してみると,両者は,
「吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され,床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置」である点で一致し,次の点で相違するということができる。
(相違点1)
ガイドピンの走行溝への挿入・保持構造に関して,本件発明1が「ガイドピンの上端部外周面に係止溝が形成され,走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け,係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく,係止溝の上下の大径部分よりも小にして成り,ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状態で,吊戸本体がガイドされ走行される」という構成を採用しているのに対して,引用発明1が「ガイドピン4の下端の磁石26が,中間スペーサー16の周部側壁に埋設された保持用磁石27に磁着されてガイドピン4の引き上げられた状態を保持する」という構成を採用している点。

(2)本件発明1の相違点1に係る構成の技術的意義について
そこで,まず,本件発明1の上記相違点1に係る構成の技術的意義について検討する。本件訂正明細書には,次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】従来、図8に示す実開平4-56883号公報のように、吊戸本体3が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピン4が吊戸本体3の下端面に形成された走行溝5にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置においては、床面から突出されたガイドピン4が吊戸本体3側に沿設された鉄板のような磁着体Xに磁着され、吊戸本体3の走行中にはガイドピン4が板状の磁着体Xにスライド自在に磁着保持されて、ガイドピン4の突出状態が保持されるのである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところがこのような構成のものにおいては、ガイドピン4は板状の磁着体Xにスライド自在に保持されているから、走行中や停止中において、吊戸本体3の揺れや振動などにてガイドピン4が磁着体Xから外れ、ガイドピン4がその自重で容易に床面下に下降するのであり、このため、従来では、ガイドピン4の内部においてその突出状態を保持するための磁着手段Yを設けるものであり、このように、ガイドピン4の内部に磁着手段Yを構成するのに、構成が複雑になり、それでいて、ガイドピン4を突出状態で保持する作用力が弱いという問題があった。ところで、磁着手段Yは、ガイドピン4側に設けた永久磁石と固定側となる外筒12に設けた永久磁石とから構成される。
【0004】本発明はこのような問題を解消しようとするものであり、その目的とするところは、ガイドピンを機械的に保持して、ガイドピンを突出状態で確実にかつ強力に保持できながら、ガイドピンの構成を簡素化することができる吊戸のガイド装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の吊戸のガイド装置は、吊戸本体3が上レール1にランナー2を介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピン4が吊戸本体3の下端面に形成された走行溝5にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって、ガイドピン4の上端部外周面に係止溝4aが形成され、走行溝5の長さ方向の中間部分における吊戸本体3側に係止溝4aにスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片13、13を対向させて設け、係止ガイド13、13片間の間隔を係止溝4aを形成する首部分よりも大きく、係止溝4aの上下の大径部分よりも小にして成り、前記係止溝4aが一対の係止ガイド片13、13間に係入されてガイドピン4が機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体3がガイドされ走行されることを特徴とするものである。
【0006】また、吊戸本体3に吸引用磁石7が設けられ、ガイドピン4の上端部に磁石6が設けられ、吸引用磁石7と係止ガイド片13、13との間において、ガイドピン4を磁着保持するとともに吸引用磁石7から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイド8が設けられて成ることを特徴とするものである。また、吊戸本体3に吸引用磁石7が設けられ、ガイドピン4の上端部に磁石6が設けられ、吸引用磁石7の底面が吊戸本体3の側端から離れる程上方になるように斜めになされる傾斜ガイド8が形成されて成ることを特徴とするものである。
【0007】
【作用】床面から突出したガイドピン4は、その係止溝4aにおいて吊戸本体3側に設けた一対の係止ガイド片13、13間に導入されて保持される。突出されたガイドピン4が機械的に保持されるのであり、その保持を確実にかつ強力におこない、不測に下降するようなことがない。しかも、ガイドピン4側において永久磁石を一対設けるようなガイドピン4の突出保持のための磁着手段を不要にして、ガイドピン4の構成を簡素化する。」

上記記載によれば、本件発明1は、ガイドピンが床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって、ランナーに吊り下げ状態で走行自在な吊戸のガイド装置におけるガイドピンを、吊戸本体下部の走行溝に挿入させる構造に関し、従来は、磁力によってガイドピンの挿入状態を維持していたものを、ガイドピンの上端部外周面に係止溝を形成し、走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に、係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け、係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく係止溝の上下の大径部分よりも小にして、ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入することにより、ガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持され、走行溝から下降しないようにした点に、相違点1に係る構成の主たる技術的意義があるものと認められる。(以上の認定は,判決書17頁9行?19頁下から3行の判示のとおりである。)

一方,上記「5 (1)」において認定したとおり,引用発明1は,本件発明1と同様に,ガイドピンが床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,「ガイドピン4の下端の磁石が,中間スペーサー16の周部側壁に埋設された保持用磁石27に磁着されてガイドピン4の引き上げられた状態を保持する」構成が,本件発明1の上記技術的意義を有する構成に対応するものであると認められる。(以上の認定は,判決書22頁8?14行の判示のとおりである。)

(3)相違点1の検討
上記(2)の本件発明1の引用発明1との相違点1に係る構成の技術的意義を踏まえ,引用発明2(甲2)をみると,
引用発明2においては,規制ピンは敷居に植設固定されており,ビス22を遊挿された遊転ローラー21の案内溝19への挿入,離脱は,引戸13の建てこみ,取り外しによって行われていること,また,規制ピンの突出状態を保持する機能は,敷居に植設される構成によって実現されていることが認められる。
そうすると,引用発明2において,引戸が持ち上げられる際,コの字型の案内溝のフランジ18に遊転ローラー21が当たることにより案内溝から規制ピンが抜け出ることが規制されることがあるとしても,突出引退自在なガイドピンの保持構造を開示するものということはできない。
また,引用発明2の規制ピンは,高さ方向(上下方向)においても動くことのない植設固定状態にある。そして,引用発明2においては,遊転ローラは案内溝の側面に接して回転するものと認められるところ,遊転ローラーを案内溝のフランジに当接させると,遊転するローラーは,軸の左右のいずれか一方においては引戸を前進させる方向,他方においては引戸を後退させる方向という,全く逆方向に同時に回転しようとすることとなり,円滑な回転ができないこととなる(平成18年4月7日付け訂正請求書12頁の図参照)。したがって,引用発明2は,遊転ローラーがローラーとしての機能を発揮するには、ローラーがフランジと当接する構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であってはならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向において,一定の間隔を設けることを前提とする技術であると認められる。
以上検討したところによれば,本件発明1は,ガイドピンが床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,ガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持され,走行溝から下降しないようにした点に主たる技術的意義があるものであるのに対し,引用発明2においては,規制ピンは敷居に植設固定されており,突出引退自在に設けられたものではないから,「走行中や停止中において、吊戸本体3の揺れや振動などにてガイドピン4が磁着体Xから外れ、ガイドピン4がその自重で容易に床面下に下降する」(訂正明細書段落【0003】)という本件発明1の従来技術にいう課題を解決する手段として突出引退自在に設けられたガイドピンを係止ガイド片によって機械的に保持する技術を開示するものではない。しかも,引用発明2の遊転ローラは,フランジと当接する構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であってはならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向において,一定の間隔を設けることを前提とする技術であるから,本件発明1のガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持する構造とは,その技術的意義が異なるものである。
したがって,引用発明1における,ガイドピンが突出引退自在である構成を前提としたまま,引用発明2の「フランジ18を有したコの字型案内溝19にビス22の遊転ローラー21を案内させる構成」を適用することはできない。そうであれば,引用発明1におけるガイドピンの走行溝への挿入構造に代えて,引用発明2に示されたところの規制ピンのコの字型案内溝への挿入構造を用いるように変更することについて,当業者が容易想到と解することはできないから,首部分よりも上下の部分が大径である形態を有したピンが周知である(甲4号証?甲6号証参照)としても,相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到できたということはできないというべきである。
(以上の認定・判断は,判決書24頁下から7行?同26頁下から2行の判示のとおりである。)

結局,本件発明1は,引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

6-2 本件発明2について
本件発明1を引用するところの本件発明2と引用発明1とを対比すると,その機能ないし構造から見て,引用発明1における「吊戸本体3」,「走行溝5」,「ガイドピン4」,「吸引用磁石7」,「ガイドピン4の先端に」取付けた「磁石6」,および「傾斜ガイド8」は,それぞれ,本件発明2における「吊戸本体」,「走行溝」,「ガイドピン」,「吸引用磁石」,「ガイドピンの上端部に」設けられた「磁石」,および「傾斜ガイド」に相当するといえる。

してみると,両者は,
「吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され,床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって,吊戸本体に吸引用磁石が設けられ,ガイドピンの上端部に磁石が設けられ,ガイドピンを磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイドが設けられて成る吊戸のガイド装置」である点で一致し,上記「6-1」の相違点1に加えて,次の相違点2で相違する。

(相違点2)
傾斜ガイドの配置に関して,本件発明2が「吸引用磁石と係止ガイド片との間において,ガイドピンを磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイドが設けられて成る」という配置態様であるのに対して,引用発明1はこのような配置態様でない点。

そして,本件発明1を引用する本件発明2は,本件発明1と同様,上記相違点1の構成を有するものであるから,上記「6-1 本件発明について」にて検討したとおり,これを容易想到ということはできない。(以上の認定・判断は,判決書27頁4?5行の判示のとおりである。)

したがって,本件発明2も,引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

7 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び証拠によっては,本件発明1及び本件発明2に係る特許は,無効とすることができない。
また,本件発明1及び本件発明2に係る特許を無効とすべき他の理由を発見しない。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
吊戸のガイド装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって、ガイドピンの上端部外周面に係止溝が形成され、走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け、係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく、係止溝の上下の大径部分よりも小にして成り、ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体がガイドされ走行されることを特徴とする吊戸のガイド装置。
【請求項2】吊戸本体に吸引用磁石が設けられ、ガイドピンの上端部に磁石が設けられ、吸引用磁石と係止ガイド片との間において、ガイドピンを磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイドが設けられて成ることを特徴とする請求項1記載の吊戸のガイド装置。
【請求項3】吊戸本体に吸引用磁石が設けられ、ガイドピンの上端部に磁石が設けられ、吸引用磁石の底面が吊戸本体の側端から離れる程上方になるように斜めになされて傾斜ガイドが形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の吊戸のガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置に関し、詳しくはガイドピンが床面から突出する状態を確実に保持しようとする技術に係るものである。
【0002】
【従来の技術】従来、図8に示す実開平4ー56883号公報のように、吊戸本体3が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピン4が吊戸本体3の下端面に形成された走行溝5にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置においては、床面から突出されたガイドピン4が吊戸本体3側に沿設された鉄板のような磁着体Xに磁着され、吊戸本体3の走行中にはガイドピン4が板状の磁着体Xにスライド自在に磁着保持されて、ガイドピン4の突出状態が保持されるのである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところがこのような構成のものにおいては、ガイドピン4は板状の磁着体Xにスライド自在に保持されているから、走行中や停止中において、吊戸本体3の揺れや振動などにてガイドピン4が磁着体Xから外れ、ガイドピン4がその自重で容易に床面下に下降するのであり、このため、従来では、ガイドピン4の内部においてその突出状態を保持するための磁着手段Yを設けるものであり、このように、ガイドピン4の内部に磁着手段Yを構成するのに、構成が複雑になり、それでいて、ガイドピン4を突出状態で保持する作用力が弱いという問題があった。ところで、磁着手段Yは、ガイドピン4側に設けた永久磁石と固定側となる外筒12に設けた永久磁石とから構成される。
【0004】本発明はこのような問題を解消しようとするものであり、その目的とするところは、ガイドピンを機械的に保持して、ガイドピンを突出状態で確実にかつ強力に保持できながら、ガイドピンの構成を簡素化することができる吊戸のガイド装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の吊戸のガイド装置は、吊戸本体3が上レール1にランナー2を介して走行自在に吊下げ保持され、床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピン4が吊戸本体3の下端面に形成された走行溝5にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって、ガイドピン4の上端部外周面に係止溝4aが形成され、走行溝5の長さ方向の中間部分における吊戸本体3側に係止溝4aにスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片13,13を対向させて設け、係止ガイド13,13片間の間隔を係止溝4aを形成する首部分よりも大きく、係止溝4aの上下の大径部分よりも小にして成り、前記係止溝4aが一対の係止ガイド片13、13間に係入されてガイドピン4が機械的に保持され下降することがない状態で、吊戸本体3がガイドされ走行されることを特徴とするものである。
【0006】また、吊戸本体3に吸引用磁石7が設けられ、ガイドピン4の上端部に磁石6が設けられ、吸引用磁石7と係止ガイド片13,13との間において、ガイドピン4を磁着保持するとともに吸引用磁石7から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイド8が設けられて成ることを特徴とするものである。また、吊戸本体3に吸引用磁石7が設けられ、ガイドピン4の上端部に磁石6が設けられ、吸引用磁石7の底面が吊戸本体3の側端から離れる程上方になるように斜めになされる傾斜ガイド8が形成されて成ることを特徴とするものである。
【0007】
【作用】床面から突出したガイドピン4は、その係止溝4aにおいて吊戸本体3側に設けた一対の係止ガイド片13,13間に導入されて保持される。突出されたガイドピン4が機械的に保持されるのであり、その保持を確実にかつ強力におこない、不測に下降するようなことがない。しかも、ガイドピン4側において永久磁石を一対設けるようなガイドピン4の突出保持のための磁着手段を不要にして、ガイドピン4の構成を簡素化する。
【0008】また、床面下に沈んでいるガイドピン4が磁着されて浮上され、かかるガイドピン4を斜めになった傾斜ガイド8にて徐々に引上げて係止ガイド片13,13へと導入する。ガイドピン4を係止ガイド片13,13に良好に導入させる。また、底面が斜めになっている吸引用磁石7にてガイドピン4を徐々に磁力にて引上げ、このように、ガイドピン4を係止ガイド片13,13に導入するための傾斜ガイド8の構成を吸引用磁石7を利用して簡素化する。
【0009】
【実施例】吊戸本体3の上端の前後部にはランナー2,2が取付けられ、これらランナー2が走行受片10,10を備えた断面コ字型の上レール1に走行自在に挿入され、吊戸本体3を上レール1に走行自在に保持してある。床面11には適宜間隔を隔ててガイドピン4が磁力にて突出引退自在に設けられている。そして吊戸本体3の下端の凹部にはチャンネル材を使用したレール体14が挿合され、このレール体14の内部が走行溝5になされている。吊戸本体3の走行溝5の前後部には吸引用磁石7を設けてある。しかして吊戸本体3の閉塞方向への走行に際して、床面下に沈んでいるガイドピン4を吸引用磁石7にて磁着して引き上げ、ガイドピン4が吊戸本体3の下端面の走行溝5に突入し、かかる突入状態がレール体14の両側に形成された一対の係止ガイド片13,13にて機械的に維持されて走行ガイドをおこなうことができるようにしてある。
【0010】ガイドピン4は床面下に埋入された外筒12に対して昇降自在に挿入され、ガイドピン4の先端に磁石6を取付けてある。ガイドピン4の先端に設けられた磁石6とはその磁極を異ならせた吸引用磁石7の他極をガイドピン4側の磁石6とは同極になしてガイドピン4を床面下に引退させる反発用の磁石部分9になしてある。この吸引用磁石7の両側には鉄板のような磁性体にて形成された傾斜ガイド8が形成されている。
【0011】ガイドピン4の上端部外周面に係止溝4aが形成され、係止溝4aに吊戸本体3側の一対の係止ガイド片13,13がスライド自在に係入し、その係入状態においてガイドピン4の突出状態を保持することができるようにしてある。しかして、吊戸本体3の閉塞方向への走行にて、反発用の磁石部分9にて床面から不測に突出しているガイドピン4を床面下に押さえ込み、そして、床面下に押さえ込まれたガイドピン4をその上端の磁石6を介して吸引用磁石7にて磁着して徐々に高くなるように引き上げ、そしてガイドピン4の係止溝4aを一対の係止ガイド片13,13間に係入してガイドピン4を機械的に保持し、かかるガイドピン4にて吊戸本体3がガイドされて走行されるのである。そしてガイドピン4が走行溝5の終端に達すると、係止ガイド片13,13からガイドピン4が脱出し、そして、ガイドピン4の上端の磁石6が傾斜ガイド8に磁着され、徐々に下降する傾斜ガイド8にてガイドピン4は押し下げられ、そして最終的には反発用磁石9にてガイドピン4を完全に外筒12の内部に押し下げておくものである。
【0012】かかる場合、ガイドピン4と外筒12間にごみが侵入してガイドピン4の動きが阻害されるような虞れが生じる状態のときには、ガイドピン4を容易に抜いて侵入したごみを容易に除去してその保守をおこなえるようにしてある。以下その構成を詳述する。床面下に外筒12が外周の係止突起18を介して抜け止めされて埋設されている。外筒12の上端周部にはフランジ19が形成され、フランジ19を床面11に当接させることで、外筒12の挿入深さを決めてある。外筒12の内部にはその上方の内径が大きくなった大径箇所23に、外筒12よりは充分に短い筒状の中間スペーサー16が挿抜自在に挿入され、中間スペーサー16と外筒12の内径が略等しくなっている。中間スペーサー16及び外筒12内にガイドピン4が昇降自在に挿入されている。そして中間スペーサー16の上端に引き外し用のフランジ17が周部に延出され、このフランジ17が外筒12のフランジ19に重ねられている。さらにガイドピン4にはピン20が固定され、このピン20が中間スペーサー16に形成された長孔21に挿通されている。しかして、外筒12とガイドピン4間にごみが詰まった場合には、板状の治具22を中間スペーサー16のフランジ17と外筒12のフランジ19間に挿入して持ち上げ、中間スペーサー16を上方に引き抜く。かかる場合、長孔21の下端がピン20に当接して、ガイドピン4を外筒12から引抜くことができるようにしてある。
【0013】このように、床面下に外筒12が埋設されるとともに外筒12内に外筒12よりは充分に短い筒状の中間スペーサー16が挿抜自在に挿入され、中間スペーサー16及び外筒12内にガイドピン4が昇降自在に挿入され、中間スペーサー16の上端に引き外し用のフランジ17が周部に延出されることで、ガイドピン4と外筒12との間にごみが侵入してガイドピン4の動きが阻害されるような場合には、中間スペーサー16のフランジ17の下面に例えば板状の外し用の治具22を挿入するなどして中間スペーサー16を容易に外し、中間スペーサー16を外すことで、ガイドピン4と外筒12間に融通をもたせ、ガイドピン4を外筒12から抜いて内部のごみの除去を容易におこなえるのである。このように中間スペーサー16を引抜くのは治具22を利用しておこなわれる。
【0014】中間スペーサー16の下端には係止爪29が弾性変位自在に設けられ、この係止爪29が外筒12の凹所30に係脱自在に係合することで、中間スペーサー16が不測に上昇することがないようにしてある。この係止爪29はなくてもよい。図6は分解斜視図を示していて、傾斜ガイド8の途中部分に相当する箇所から係止ガイド片13,13と略同レベルに鍔31,31を対向して形成し、傾斜ガイド8に磁着されたガイドピン4の係止溝4aを一対の鍔31,31間にて保持し、係止ガイド片13,13へと円滑に移行させるようにしたものである。かかる場合、鍔31,31の始端部には始端側程間隔が広がる導入ガイドが形成され、ガイドピン4の保持を一層容易におこなえるようにしてある。かかる場合、一対の鍔31,31を傾斜ガイド8と略平行に傾斜させるようにしてもよいものである。
【0015】図7は他の実施例を示していて、吊戸本体3に設けられた吸引用磁石7の底面が吊戸本体3の側端から離れる程上方になるように斜めになされて傾斜ガイド8が形成され、この傾斜ガイド8の終端部に一対の係止ガイド片13,13を形成するようにしたものである。このようにして、傾斜ガイド8の構成を吸引用磁石7を利用して簡素化してある。
【0016】尚、係止ガイド片13,13の形状形態、傾斜ガイド8の形状形態は種々設計変更可能である。
【0017】
【発明の効果】本発明は上述のように、ガイドピンの上端部外周面に係止溝が形成され、走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け、係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく、係止溝の上下の大径部分よりも小にしているから、床面から突出したガイドピンは、その係止溝において吊戸本体側に設けた一対の係止ガイド片間に導入されて保持され、突出されたガイドピンが機械的に保持され、その保持を確実にかつ強力におこない、不測に下降するようなことがなく、しかも、ガイドピン側において永久磁石を一対設けるようなガイドピンの突出保持のための磁着手段を不要にでき、ガイドピンの構成を簡素化できるという利点がある。
【0018】また、吊戸本体に吸引用磁石が設けられ、ガイドピンの上端部に磁石が設けられ、吸引用磁石と係止ガイド片との間において、ガイドピンを磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイドが設けられているから、床面下に沈んでいるガイドピンが磁着されて浮上され、かかるガイドピンを斜めになった傾斜ガイドにて徐々に引上げて係止ガイド片へと導入することができ、ガイドピンを係止ガイド片に良好に導入させることができるという利点がある。
【0019】また、吊戸本体に吸引用磁石が設けられ、ガイドピンの上端部に磁石が設けられ、吸引用磁石の底面が吊戸本体の側端から離れる程上方になるように斜めになされて、傾斜ガイドが形成されているから、底面が斜めになっている吸引用磁石にてガイドピンを徐々に磁力にて引上げ、ガイドピンを係止ガイド片に導入するための構成を吸引用磁石を利用して簡素化できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の概略説明図を示し、(a)はガイドピンが係止ガイド片の始端に至る状態の概略断面図、(b)はガイドピンが係止ガイド片に係止されている状態の断面図、(c)はガイドピンが床面下に下降された状態の断面図、(d)は全体を示す概略断面図である。
【図2】同上の傾斜ガイドを示し、(a)は断面図、(b)は底面図、(c)は右側面図、(d)は左側面図である。
【図3】同上のガイドピンを示し、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図4】同上のガイドピンが中間スペーサーとともに引き上げられている状態を示す断面図である。
【図5】(a)はガイドピンの分解斜視図、(b)は概略断面図、(c)は係止ガイド片を示す斜視図である。
【図6】同上の分解斜視図である。
【図7】同上の他の実施例の概略説明図である。
【図8】従来例を示し、(a)はガイドピンが係止ガイド片の始端に至る状態の概略断面図、(b)はガイドピンが係止ガイド片に係止されている状態の断面図、(c)はガイドピンが床面下に下降された状態の断面図である。
【符号の説明】
1 上レール
2 ランナー
3 吊戸本体
4 ガイドピン
4a 係止溝
6 磁石
7 吸引用磁石
13 係止ガイド片
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-09-01 
結審通知日 2007-09-05 
審決日 2005-12-13 
出願番号 特願平5-314859
審決分類 P 1 123・ 832- YA (E05F)
P 1 123・ 121- YA (E05F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 砂川 充
峰 祐治
登録日 2001-10-26 
登録番号 特許第3245490号(P3245490)
発明の名称 吊戸のガイド装置  
代理人 岩坪 哲  
代理人 速見 禎祥  
代理人 速見 禎祥  
代理人 岩坪 哲  
代理人 森 治  

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