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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1169416
審判番号 不服2003-14316  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-24 
確定日 2007-12-14 
事件の表示 特願2000-201412「商法計算書類作成システム及び商法計算書類作成処理プログラムを記憶した記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月25日出願公開、特開2002- 24507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成12年7月3日の出願であって,平成15年6月12日付で拒絶査定がされ,これに対し,平成15年7月24日に拒絶査定に対する審判請求がされ,平成19年6月4日付で当審による拒絶理由が通知され,平成19年8月13日付で手続補正がされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年8月13日付で補正された明細書及び図面の記載からみて,請求項1に記載された,以下のとおりのものである。
「表示手段,出力手段およびCPUを有し,通信ネットワークに接続可能なコンピュータから構成され,商法及び商法計算書類規則に従い財務システムから出力した財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システムであって,
コンピュータは,記憶手段としてのデータベースと,
入力された商法計算書類科目名をデータベースに登録する商法計算書類科目入力部と,
入力された上記財務データの総勘定科目名をデータベースに登録し,さらに財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する総勘定科目入力部と,
取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する科目対応部と,
上記対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする商法計算書類科目算出部と,
前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部と,を備え,
前記科目対応部では,商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分とが格納されたテーブルをデータベースに登録し,
前記営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力するための営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを前記表示手段に表示させることを特徴とする商法計算書類作成システム。」

3.平成19年6月4日付の拒絶の理由について
本願に対しての平成19年6月4日付の拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。
「[理由A]
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[理由B]
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由C]
この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

[理由D]
この出願の下記の請求項に係る発明は,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない。

[理由E]
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

[引用文献等一覧]
1.DPS10 会計情報システム説明書(一般会計編),三菱電機株式会社 情報システム製作所,第2版第4刷,1992年4月20日
2.特開平10-214265号公報
3.特開平6-52145号公報

1.理由A(特許法第36条第6項第2号)に関して
(1)請求項1の以下の記載は,その行為主体(ユーザである人間が行うものであるのか,コンピュータが自動的に行うものであるのか)が不明である。このため,請求項1の記載は全体として不明確である。
(中略)
(1-3)「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に,該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルを作成しデータベースに登録する科目対応部」との記載において,「商法及び商法計算書類規則に基づいて,所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルを作成し」との点。
(中略)
(8)請求項1の「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に,該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルを作成しデータベースに登録する科目対応部」との記載において,「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に」との記載が,その後のどの記載に係るものであるのかが明確でない。
すなわち,「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に」,「転記する」のであるか,「関連付けて対応関係を示すテーブルを作成しデータベースに登録する」のであるか不明である。
(中略)
(12)請求項1の記載は全体として不明確である。特に「科目対応部」及び「営業報告書作成部」の記載は,情報処理を特定する記載として著しく抽象的であり,具体的な情報処理を特定することができない。
(中略)
よって,前記指摘した請求項を引用する請求項を含め,請求項1-30は明確でない。
(中略)
3.理由C(特許法第36条第4項)に関して
(1)請求項1の「前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値より営業報告書を作成する営業報告書作成部」,及び,「前記営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力する営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目の決算数値を営業報告書に転記するように前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを表示させる」との記載は,それぞれ,段落【0075】及び段落【0102】-【0111】に対応するものと認める。
ここで,貸借対照表などは,計算に必要な財務データが与えられることにより,コンピュータにより自動的に各種計算を行い,表として出力できるものであるが,営業報告書は,貸借対照表などと異なり,ある程度,表記や内容に自由度のある文書であり,単に,テンプレートとなる文書に営業報告書実績値を挿入することにより作成できるものではない。すなわち,営業報告書は,営業報告書実績値が与えられることのみならず,さらに,人的操作の介在や,特別な技術的な仕組みがあって,初めて,コンピュータシステムにより自動的に作成できるものであるといえる。
ここで,発明の詳細な説明の記載を検討すると,段落【0075】及び段落【0102】-【0111】,並びに,関連する【図18】-【図20】には,営業報告書実績値入力部により登録された営業報告書実績値と,商法計算書類科目の売上高との照合をとることが記載され,さらに,「図20に示すように売上高A1,部門売上高B1,C1と増減比A3,B3,C3が営業報告書に記載され作成される」(段落【0109】)旨の記載はあるものの,営業報告書がどのように作成されるものであるか,並びに,売上高,部門売上高,及び,増減比といった数値が,どのような情報処理により「営業報告書に記載され作成される」ものであるかは記載されていない。
次に,前記2.(1)で検討したように,明細書の発明の詳細な説明の記載(特に段落【0102】-【0111】)には,「前記商法計算書類科目の決算数値を営業報告書に転記する」旨の記載が認められない。
さらに,商法計算書類科目と決算数値と入力された営業報告書実績数値より営業報告書を作成する技術が,周知であったとの証拠も発見しない。よって,前記指摘した「営業報告書作成部」に係る事項が,発明の詳細な説明に記載がなくとも,当業者がその実施をすることができる程度,当業者にとって自明な事項であるとも認められない。
してみれば,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(中略)
4.理由D(特許法第29条第1項柱書き)に関して
請求項1,2-3,4-27,28,29,30に係る発明は,その請求項の記載から,対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うものではないことを明らかである。
そして,請求項1,2-3,4-27,28,29,30に係る発明は,その記載及び,明細書の記載からみて,その実施にソフトウェアを必要とするコンピュータシステムに係る発明であるから,コンピュータ・ソフトウェア関連発明である。
この,コンピュータ・ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものでなくてはならない。さらに,発明はそもそも一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。

以下に,前記検討を前提として,各請求項について検討する。

[請求項1]
請求項1に係る発明が,特許法第2条でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である特許法上の「発明」に該当するか否かについて,請求項1の発明特定事項を便宜上以下のとおりに分けて検討する。

(a) 表示手段,出力手段およびCPUを有し,通信ネットワークに接続可能なコンピュータから構成され,商法及び商法計算書類規則に従い財務システムから出力した財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システムであって,
(b) コンピュータは,記憶手段としてのデータベースと,
(c) 商法計算書類科目名を入力しデータベースに登録する商法計算書類科目入力部と,
(d) 上記財務データの総勘定科目名を入力しデータベースに登録し,財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する総勘定科目入力部と,
(e) 取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に,該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルを作成しデータベースに登録する科目対応部と,
(f) 上記対応関係に基づいて,上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする商法計算書類科目算出部と,
(g) 前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値より営業報告書を作成する営業報告書作成部と,を備え,
(h) 上記科目対応部には,商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分とを格納し,
(i) 前記営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力する営業報告書実績値入力部と,
(j)前記商法計算書類科目の決算数値を営業報告書に転記するように前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを表示させることを特徴とする商法計算書類作成システム。

前記(a)-(j)のうち,実質的な情報処理が記載されているのは(f),(g)及び(j)であると認める。
まず,(f)には,集計,転記等の情報処理に関する記載はあるが,その記載は機能の概要的な記載にとどまり具体的でなく,さらに,機能を実現するためのソフトウェアとハードウェア資源とが協働する手段について具体的に記載もないことから,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものとはいえない。
次に,営業報告書作成部についての記載である,(g)及び(j)について検討する。
(g)には,営業報告書を作成する旨の記載が,(j)には,不照合リストを表示させるための処理の概要が記載されているものの,(g)及び(j)に記載された情報処理は機能の概要的な記載にとどまり具体的でなく,さらに,機能を実現するためのソフトウェアとハードウェア資源とが協働する手段について具体的に記載もないことから,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものとはいえない。

さらに,請求項1全体としても,同様に,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとはいえない。
よって,請求項1に係る発明は,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェアを用いて具体的に実現されている」とはいえず,「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではない。
(以下略)」

4.請求人の意見
請求人は,平成19年8月13日付意見書において,概略以下の事項を主張している。

「3.特許すべき理由
理由Aについて,
本願発明の請求項1?22を別紙(手続補正書)のように補正しましたので,補正後の請求項1?22の記載は,行為主体を明確にしたと共に,システムのハードウェア資源を用いて具体的な情報処理を実行させる手法を明確にして,特許法第36条第6項第2号に規定する用件を満たしたものであり,この拒絶理由を解消したと思料致します。

理由Bについて,
本願発明の請求項1?22を別紙(手続補正書)のように(即ち,「前記商法計算書類科目の決算数値を営業報告書に転記する」内容を削除して)補正しましたので,補正後の請求項1?22に係る発明は,特許法第36条第6項第1号に規定する用件を満たしたものであり,この拒絶理由を解消したと思料致します。

理由Cについて,
本願発明の請求項1?22を別紙(手続補正書)のように補正しました。売上高,部門売上高,増減比等数値を営業報告書に記載する具体的な情報処理方法について,従来技術,例えば特開平7-334075号公報,特開平9-114886号公報に開示されており,これらの従来技術(文字,数値を文書中に挿入し,所定の書類(報告書)を作成すること),及び出願時の技術常識を基に,本願の発明の詳細な説明に記載がなくでも,当業者が実施をすることができます。
即ち,補正後の請求項1?22に係る発明は,特許法第36条第4項に規定する用件を満たしたものであり,この拒絶理由を解消したと思料致します。

理由Dについて,
本願発明の請求項1?22を別紙(手続補正書)のように補正しましたので,補正後の請求項1?22に係る発明は,システムにて実行されるソフトウェアによる情報処理が,システムの備えるハードウェア資源を用いて具体的に実現されたものであり,特許法第29条第1項柱書に規定する用件を満たしたものであり,この拒絶理由を解消したと思料致します。

理由Eについて,
(1)本願発明の特徴

本願発明によれば,商法及び商法計算書類規則に基づいて,所定の商法計算書類科目と総勘定科目との対応を関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録(記憶)し,取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に,前記対応関係に基づいて,総勘定科目の試算表修正後数値を商法計算書類科目ごとに集計して所定の商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とすることで,商法及び商法計算書類規則に従い財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を簡単に作成することができます。
また,営業報告書作成部は,データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書(予め用意されたテンプレート)に記載(挿入)して営業報告書を作成し,さらに営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力する営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値と差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,営業報告書を作成する際に,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを表示させることで,従来の手作業で作成する場合の転記ミスなどを防ぐことができると共に,入力ミス,転記ミス等による不整合を自動的に発見することができ,商法監査をクリアーできる商法計算書類を簡単かつ効率よく作成することができます(添付資料25参照)。
(2)引用文献との対比説明
引用文献1には,「会計データを用いて外部向決算書を作成できる会計システム」が開示されております。
しかしながら,引用文献1には,「決算業務で生成したデータから外部提出用の財務諸表(貸借対照表,損益計算書,勘定内訳書)が出力できる」(第2頁)こと,「様式は原則として商法計算書類規則に従う」(第7頁)こと,「プリントマスタは,貸借対照表,損益計算書などの出力形式,集計方法などをコントロールする」(第50頁)こと,および「勘定科目,名称及びコードの設定は自由である」(第13頁)ことが記載されているのみであり,
本願の発明のように「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する」こと,
「対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする」こと,
「データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部を備える」こと,
「商法計算書類科目の決算数値を営業報告書に転記するように前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値とを照合し,差額があるか否かを判断し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを表示手段に表示させる」こと,
および「総勘定科目の試算表数値に修正値が入力された場合,この修正値に基づいて総勘定科目の試算表修正後数値を算出して記憶する」ことについては何等開示されておらず,示唆すらされておりません。
したがって,引用文献1に開示されている技術においては,第12頁に記載されているように,“外部向決算書” (貸借対照表,損益計算書,勘定内訳書)は,「金融機関,取引先への決算説明,納税申告等の場合に外部に提出する」ための書類であり,即ち,法人税法第74条に基づくものであり,商法第281条に基づく商法監査用書類ではありません。さらに,引用文献1に開示されているシステムでは,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等を作成することができません。これに対して,本願の発明は,商法監査用書類を作成する目的で,「商法及び商法計算書類規則に従い財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する」ものであり,引用文献1に開示されているシステムとは応用領域が異なるものであります(添付資料26参照)。
また,引用文献1において,勘定科目の組み替えが行うことについて記載されているが,これは,会計帳簿の総勘定科目を税務用の科目に要約するものであり,本願発明のように,会計帳簿の総勘定科目を株主総会用等の商法計算書類間の表示上のリーガルチェックを可能にする商法計算書類科目に組み替えるものではありません。
また,本願発明は,総勘定科目の試算表数値に修正値が入力された場合,この修正値に基づいて総勘定科目の試算表修正後数値を算出する修正値入力部を有し,総勘定科目毎に入力された修正値を総勘定科目の貸借区分に応じて集計した伝票数値を試算表数値に加えた値を修正後数値としてデータベースに格納することにより,修正前の数値と,修正後数値とが一緒にデータベースに記憶され,同時に表示する(図15)ことができ,また,一箇所を修正すれば,他の関連する箇所も自動的に修正され,書類間の整合性が容易に取れます。これに対して,引用文献1において,修正値入力部で「誤った伝票の逆仕訳」,「誤った伝票の金額の符号逆転」,「修正前のデータ(金額は符号を逆転させ)」により修正するものであります。
また,引用文献2,3には,「整合性チェック処理を有する文書処理装置,及び保修支援装置」が開示されております。
しかしながら,引用文献2には,「合計チェックと検印チェックを行う」こと,「一方の入力文書に記載されている内容と,もう一方の入力文書に記載されている内容とに矛盾がないかどうかをチェックしたり,複数の入力文書を合成して一つの出力文書を作成する」ことが記載されているのみであり,また,引用文献3には,「要領書・手順書・図面の一部が変更されたときに,この一部の変更に関連する他の要領書・手順書・図面を作業情報データベースから検索し,整合性をチェックして自動的に,あるいは変更管理端末で整合性を有するように修正できる」ことが記載されているのみであり,本願の発明のように「営業報告書照合部は,商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを表示手段に表示させる」ことについては何等開示されておらず,示唆すらされておりません。
(中略)
上記「引用文献との比較表」に示すように,本願発明は引用文献1とは番号1?15の点が相違しており,また,引用文献1に開示されている技術においては,「様式は原則として商法計算書類規則に従う」と記載されているが,作成された貸借対照表,損益計算書は,科目が任意なものであり,本願の発明のように商法計算書類規則に基づいた商法計算書類科目ではありません。したがって,引用文献1に開示されているシステムで作成された貸借対照表,損益計算書は,監査用開示書類として利用できません。引用文献1に開示されている会計システムは,本願発明の構成,目的とは異なり,本願発明と領域および処理方法を全く異にするものであり,そのため,本願発明のような効果が得られません。即ち,構成,目的および効果の違いにより,作成した書類「成果物」も異なります。
上述したように,本願の請求項1?22に係る発明は,引用文献1?3に開示されている構成とは構成を異にするのみならず,構成の相違によって奏する効果も異にするものであり,これら,引用文献1?3に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到し得た発明ではありません。」

5.当審の判断
本願発明は,「商法計算書類作成システム」であって,その請求項1の記載より,対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの,とはいえない。
そして,本願発明は,その請求項1の記載,明細書及び図面の記載からみて,その実施にソフトウェアを必要とするコンピュータシステムに係る発明であるから,コンピュータ・ソフトウェア関連発明である。したがって,本願発明はコンピュータ・ソフトウェア関連発明であることを前提に,以下に検討を行う。

5.1.特許法第36条第4項(拒絶の理由C)について
(1)請求項1の「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部」との記載は,【発明の詳細な説明】の段落【0075】及び段落【0102】-【0111】に対応するものと認める。
ここで,「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め」との点については,段落【0102】-【0111】に対応する記載が認められ,その記載は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
次に,「照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する」との点に関し検討する。まず,貸借対照表などについては,計算に必要な財務データが与えられることにより,コンピュータにより自動的に各種計算を行い,表として出力できることが技術的に周知のものであるが,営業報告書は,貸借対照表などと異なり,ある程度,表記や内容に自由度のある文書であり,例えば,単に,周知技術であるテンプレートとなる文書に営業報告書実績値を挿入する技術を用いることにより,ユーザの介在なしに,自動作成できるものではない。
このことは,請求人の提出した資料である,平成19年8月13日付手続補足書資料25第15ページに,本願発明に対応するプログラムの「注記・文章入力-営業報告書」なる画面において,テンプレートとなる文書に営業報告書実績数値及び増減比率が記載されていることに加え,「全般的状況」及び「部門別状況」において,文書の入力枠が設けられていることが見てとれることからも,明らかである。
しかしながら,【発明の詳細な説明】には,営業報告書の作成に関する情報処理として,段落【0109】に「以上より,図20に示すように売上高A1,部門売上高B1,C1と増減比A3,B3,C3が営業報告書に記載される(S30)。」との記載があり,また,図面には,【図18】及び【図20】に関連する記載があるのみであり,具体的な情報処理については,記載も示唆もない。また,営業報告書の作成に関する情報処理が,当業者にとって,特に記載をするまでもない程度に自明であるとの証拠も発見しない。
よって,発明の詳細な説明の記載は,コンピュータ・ソフトウェア関連発明である,本願発明に対応する技術的手順又は機能がハードウェアあるいはソフトウェアでどのように実行又は実現されるのか記載されていないものであり,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは言えない。

なお,この点に関し,請求人は,平成19年8月13日付意見書において,
「売上高,部門売上高,増減比等数値を営業報告書に記載する具体的な情報処理方法について,従来技術,例えば特開平7-334075号公報,特開平9-114886号公報に開示されており,これらの従来技術(文字,数値を文書中に挿入し,所定の書類(報告書)を作成すること),及び出願時の技術常識を基に,本願の発明の詳細な説明に記載がなくでも,当業者が実施をすることができます。」
と主張している。
確かに,文字,数値を文書中に挿入し,所定の書類(報告書)を作成することは,従来技術であるとは認めるものの,【発明の詳細な説明】には「売上高A1,部門売上高B1,C1と増減比A3,B3,C3が営業報告書に記載」されるために,どのような情報処理を行うものであるか,記載も示唆もなく,特に,前記従来技術を適用することができる旨の示唆は全く認められない。
さらに,前記指摘したとおり,営業報告書は単に,文字,数字を文書中に挿入し,作成できるものではないから,仮に本願発明の実施にあたり,前記従来技術を適用できることが当業者にとって明らかであったとしても,前記営業報告書作成部の機能をハードウェアあるいはソフトウェアでどのように実現できるものであるかまでは,当業者にとって明らかとはいえない。
したがって,前記従来技術が周知であったとしても,請求人の主張するように,本願発明が「本願の発明の詳細な説明に記載がなくでも,当業者が実施をすることができ」たものとは認められない。

以上の理由から,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである。

5.2.特許法第36条第6項第2号(拒絶の理由A)について
(1)請求項1の「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する科目対応部」との記載は,情報処理を特定する記載として明確でない。
特に,「商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する」との記載において,「商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブル」を,コンピュータが自動的に作成し,登録するものであるのか,前記テーブルは所与のものであって,その所与のテーブルを単にデータベースに登録するだけであるのか不明である。
さらに,「商法科目番号を用いて」所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを「関連付け」るとは,技術的にどのような事項を特定するものであるのか,明確でない。

(2)請求項1の「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部」との記載は,情報処理を特定する記載として明確でない。
特に「営業報告書に記載」するために,どのような情報処理を行うものであるのか,さらに,「営業報告書を作成する」ために,どのような情報処理を行うものであるのか,前記営業報告書作成部に係る記載からは,特定することができない。
また,「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し」とあるが,請求項1には,「商法計算書類科目名」はデータベースに登録される旨の記載があるものの,「決算数値」をデータベースに格納する旨の記載はないため,前記記載は明確でない。

(3)請求項1の「前記営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力するための営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを前記表示手段に表示させる」との記載は,情報処理を特定する記載として明確でない。
特に「前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け」るために,どのような情報処理を行うものであるのか,「不照合リスト」を表示させるために,どのような情報処理により不照合リストを作成するものであるのか明確でない。

以上の理由から,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである。

5.3.特許法第29条第1項柱書き(拒絶の理由D)について
コンピュータ・ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものでなくてはならない。さらに,発明はそもそも一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。
そこで,本願発明が,特許法第2条でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である特許法上の「発明」に該当するか否かについて,請求項1の記載を便宜上以下のとおりに分けて検討する。

(a)表示手段,出力手段およびCPUを有し,通信ネットワークに接続可能なコンピュータから構成され,商法及び商法計算書類規則に従い財務システムから出力した財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システムであって,
(b)コンピュータは,記憶手段としてのデータベースと,
(c)入力された商法計算書類科目名をデータベースに登録する商法計算書類科目入力部と,
(d)入力された上記財務データの総勘定科目名をデータベースに登録し,さらに財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する総勘定科目入力部と,
(e)取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する科目対応部と,
(f)上記対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする商法計算書類科目算出部と,
(g)前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部と,を備え,
(h)前記科目対応部では,商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分とが格納されたテーブルをデータベースに登録し,
(i)前記営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力するための営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを前記表示手段に表示させることを特徴とする商法計算書類作成システム。

ここで,(a)は,商法計算書類作成システムの概要を述べたものであり,実質的なソフトウェアによる情報処理が記載されているのは,(b)-(i)であると認める。
そして,(b),(c),(d),(f),(h)については,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理が一応認められる。
(e)については,5.1.(1)で検討したとおり,その記載が不明確であることから,その情報処理も明確でない。したがって,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものとはいえない。
(g)については,5.1.(2)で検討したとおり,その記載が不明確であって,特に「照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する」ための具体的な情報処理が,技術常識を参酌しても不明であるため,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものとはいえない。
(i)については,5.1.(3)で検討したとおり,その記載が不明確であって,特に「不照合リストを前記表示手段に表示させる」ための具体的な情報処理が,技術常識を参酌しても不明であるため,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものとはいえない。

してみれば,(b)-(i)には,部分的には,ソフトウェアとハードウェア資源との協働が認められるものの,本願発明の技術的課題を解決するための一連のソフトウェアによる情報処理が記載された(b)-(i)全体としては,ソフトウェアとハードウェア資源との協働が具体的ではない。したがって,本願発明は,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとはいえない。
よって,本願発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではない。

以上の理由から,本願発明は,特許法第2条第1項でいうところの「発明」に該当しないから,本願は,特許法第29条柱書に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである。

5.4.特許法第29条第2項(拒絶の理由E)について
5.3.で,検討したとおり,本願発明は特許法第29条第1項柱書にいう「発明」には該当しないものであるが,仮に本願発明を,特許法第29条第1項柱書にいう「発明」として認めた場合,本願発明が特許法第29条第2項の規定を満たしているかどうかを,以下に検討する。
また,5.2.で検討したとおり,本願発明は必ずしも明確でないが,適宜,実施例の記載に即して解釈した上,検討を行った。

5.4.1.引用例
[引用例1]
平成19年6月4日付拒絶理由において引用した,「DPS10 会計情報システム説明書(一般会計編),三菱電機株式会社 情報システム製作所,第2版第4刷,1992年4月20日」,には図面とともに以下の事項が記載されている。なお,図面及び表は,特に注記することなく省略した。

(A)
「1. システムの概要

1.1 システムの目的
一般会計システムは財務会計の基本となるもので,仕訳伝票(入金伝票,出金伝票,振替伝票の3種類)を入力するだけで,総勘定元帳,補助元帳,仕訳日計表,試算表への分類,転記,集計作業をすべて行い,月次財務諸表(貸借対照表,損益計算書)及び決算書を作成することを目的としている。
又,株主,銀行,取引先等外部提出用として必要な財務諸表,並びに税務申告に必要な勘定内訳書の資料を作成することもできる。

1.2 システムの特長
(1) 日々の取引データに基づく仕訳伝票を入力すると,分類,転記,集計作業が自動的に行われ,各種帳簿,財務諸表等が作成できる。
(2) 外部向財務諸表(株主総会,銀行等宛提出用)及び税務申告に必要な勘定内訳書の資料が作成できる。
(3) 勘定科目体系はJISコードに準拠した標準科目が用意されているが,独自の設定,変更も自由に行える。
(4) 複合仕訳の入力が可能で,一つの仕訳で99行までできる。
(5) 伝票の先入処理が可能。
(6) 誤って入力した伝票の訂正が簡単にできる。
(7) 月次ごとの仮締,本締処理ができる。
(8) 本支店会計処理が可能。
(9) ワンタッチスクリーンキーボード(勘定科目入力)をサポートする。
(10) 製造原価に関する帳票を出力することができる。

1.3 システムの機能
一般会計システムは「決算業務システム」と「外部向決算書作成システム」の2つのサブシステムから成る。
(1) 決算業務システム
(a) 会計業務の流れ
複式簿記の原理に基づく会計業務の一般的フローは,下記のとおりであるが,当システムで取り扱う範囲は,点線で囲まれた部分である。
(b) システムの内容
業務面より日次処理,月次処理,随時処理,メンテナンス処理,システム面より入力処理,更新処理,作表処理にそれぞれ分類できる。
日々発生する取引の仕訳伝票,月次計算のための仕訳伝票(月末棚卸高等),期末決算のための仕訳伝票(各種引当金等)を入力することにより,必要帳票の出力を行う。
仕訳伝票は,入金伝票,出金伝票,振替伝票,振替伝票(単一仕訳用)の4種類である。伝票日付により更新処理を行うため,伝票の先入処理が簡単にできる。
(c) 処理概要
(1) 日次処理
● 入金伝票,出金伝票,振替伝票により仕訳データを入力する。
● 仕訳データから仕訳モニタ及び集計を通して仕訳日計表を出力する。
● 仕訳データにより関連マスタを更新する。
● 仕訳データの修正は,伝票修正入力プログラムにより変更することができる。
(2) 月次処理
● 月次仕訳伝票(月末棚卸高等)を入力する。
● 総勘定ファイルより仕訳日記帳を出力する。
● 勘定科目マスタより月次財務諸表を出力する。
● マスタ更新を行う。
(3) 期末処理
● 決算仕訳を入力する。
● マスタより期末決算書を出力する。
● マスタ更新を行う。
(4) 問合せ処理
● 勘定科目の残高を画面に表示する。
● 取引明細を画面に表示する。
● 取引明細をプリントアウトする。
(5) メンテナンス
● システム導入時に必要なファイルの登録変更を行う。
● 各マスタの内容はマスタリストで確認する。
(2) 外部向決算書作成
決算業務で生成したデータから外部提出用の財務諸表(貸借対照表,損益計算書,勘定内訳書)が出力できる。」(第1ページ-第2ページ)

(B)
「1.5 出力帳票様式

(中略)

(10) 月次財務諸表
● 月次の貸借対照表と損益計算書を単月と累計の2通り作成できる。
● 全社レベルの金額で作成する。
● 区分は商法計算書類規則に従う。
● 累計を出力したときは,前月欄は前年同月と出力され,当該数値が出力される。
(1) 貸借対照表
● ストック勘定を対象とする。
● 本支店勘定の残高は出力しない。

(2) 損益計算書
● 損益のフロー勘定を対象とする。従って利益処分勘定を含む。
● 貸借対照表には累計欄の(当月)未処分利益金又は(当月)未処理損失金で連絡する。
● 本支店売上高と本支店仕入高は出力しない。
● 累計を出力したときは,右端の累計欄は出力しない。

(3) 製造原価報告書
● 製造勘定を対象とする。
● 累計を出力したときは,累計欄は出力しない。

(11) 外部向決算書
● 貸借対照表,損益計算書,製造原価報告書,利益金処分計算書,損失金処理計算書がある。
● 様式は原則として商法計算書類規則に従う。
● 外部向け用に勘定科目の組替え,統廃合ができる。
● 出力サイズはB5版。
● 対象期間は単年度と二期比較の2種類が選択できる。
● 報告式で打ち出す。
● 金額単位:計算は円単位で行い,データは円単位で持つ。貸借対照表,損益計算書及び製造原価報告書は千円単位で出力し,利益金処分計算書(損失金処理計算書)は円単位で出力する。」(第4ページ-第7ページ)

(C)
「2. システムの仕様
2.1 システムの範囲
本システムでは,決算業務と外部向決算書の作成を行う。
決算業務は,毎日発生する伝票の入力(仕訳伝票入力)から,入力されたデータを集計し財務諸表の作成までを行う。また,外部向決算書の作成は,決算業務で生成されたデータを使用し,すべてB5版サイズで出力する。
つぎに, 2つのサブシステムの範囲を述べる。
(1) 勘定科目コードの入力は,標準キーボードの他に,ワンタッチスクリーンキーボードからの入力が可能である。(仕訳伝票入力,各種問合せ等の業務)
(2) 仕訳伝票の入力は,複数の端末から行うことができる。
(3) 仕訳伝票入力では,パスワード(PASS WORD=仕訳モニタ出力時のデータセレクト識別子)を指定することで,入力した仕訳データを端末ごとに出力できる。
(4) 入力伝票は,入金伝票,出金伝票,振替伝票,振替伝票(単一仕訳用)の4種類である。
(5) 仕訳の形式は,単一仕訳,複合仕訳いずれも可能である。両形式とも同一画面から入力でき,借方,貸方それぞれ99科目まで入力できる。さらに,単一仕訳専用の入力画面も用意されている。
(6) 仕訳行数は,標準システムでは1日あたり2,000行まで,1か月あたり10,000行までである。(ここでいう仕訳行数とは,仕訳での科目数である)
(7) 月次締処理以前でも次月以降の仕訳伝票の入力ができる。ただし,締処理後でなければ,貸借対照表,損益計算書の出力はできない。
(8) 日次更新前,更新後の伝票修正が可能である。
(9) 本システムで扱える本支店の数は制限を設けていない。(ディスク容量の許す限り設定可能である)本支店間の取引は,本店勘定,支店勘定,本支店売上勘定,本支店仕入勘定を設定し行う。未達事項は,取引を行った両者間の残高をチェックし行う。
(10) 部門管理を行う場合,1つの本支店に対しての部門数は制限を設けない。(ディスク容量の許す限り設定可能である)
(11) 勘定科目数は,標準システムでは300科目である。(ただし,拡大は可能)科目,名称及びコードの設定は自由である。
(12) 貸借対照表,損益計算書,製造原価報告書,利益金処分計算書(損失金処理計算書)は,勘定科目の出力順序を,プリントマスタを変更することによって任意に変えることができる。
(13) 総勘定元帳,及び補助元帳は,管理マスタの元帳形式の情報を変更することにより出力形式を変えることができる。両者とも専用帳票への出力が可能である。
(14) 勘定科目マスタ内で貸借のバランスチェックを行う。また,勘定科目マスタと補助科目マスタとの合計金額を照合し,両マスタの不整合を防止する。
(15) 期末から決算が確定するまで1?3か月を要する場合,期末仮締処理を行うことによって翌期分の月次財務諸表が出力できる。
(16) 外部向決算書として貸借対照表,損益計算書,製造原価報告書,利益金処分計算書(損失金処理計算書),勘定科目別の勘定内訳書の資料を出力する。」(第13ページ)

(D)
「2.3 システムの処理内容
2.3.1 伝票入力
同一の画面から入金,出金,振替の各伝票入力ができる。仕訳形式は,単一,複合いずれも可能であり,複合伝票の場合,借方,貸方それぞれ1伝票で99科目までの入力ができる。また,単一仕訳専用の入力画面も用意されている。入力された伝票は,科目数分のレコードに分割されて,仕訳ファイルに格納される。
簡単な仕訳の例で,仕訳データの生成方法を示す。

2.3.2 伝票修正
(1) 日次更新前の伝票修正
日次更新前の伝票とは,入力ずみの伝票で,仕訳ファイルに累積されたままで,各マスタ(管理マスタ,勘定科目マスタ,補助科目マスタ,損益マスタ,総勘定ファイル)に対して日次更新処理を行っていない状態のものである。
この場合は,通常の伝票入力プログラムで,「修正,削除」の処理区分を選択し,修正を行う。次に修正の方法を説明する。

(2) 日次更新後の伝票修正
日次更新処理では,累積された仕訳データで各マスタが更新されるが,同時にこのデータは,仕訳ファイルから総勘定ファイルに移されて(「2.2.3更新処理(1)日次更新処理」参照),月次処理用の累積データとなる。
更新後の伝票修正として,次の3つの方法が可能である。
(1) 逆仕訳による方法・・・・・・・・・・誤った伝票の逆仕訳を起こし,入力する。
(2) 赤黒伝票による方法・・・・・・・・・誤った伝票の金額の符号を逆転させた伝票を入力する。
(3) 伝票修正プログラムによる方法・・・・総勘定ファイルの明細内容を修正する。
(1)及び(2)の方法で修正すると,(1)では貸借の金額が水増しされ,(2)では総勘定ファイルに負(マイナス)のデータが出力される。
(3)の場合は,こうした現象は発生しない。以下,伝票修正入力プログラムによる方法を説明する。
総勘定ファイルの修正と同時に,修正ファイルに修正前のデータ(金額は符号を逆転させる)と,修正後のデータを出力し,修正ファイルから再度日次更新を行う。
(3) 管理マスタの「モニタ出力状態」,「修正入力状態」の機能
仕訳モニタは,日次更新前のチェックリストとして出力するものである。伝票修正入力を行うと総勘定ファイルの相対番号が変わり,仕訳モニタに出力している相対番号(総勘定ファイル)とに,くい違いがおこる。これを防ぐために,管理マスタに「モニタ出力状態」と「修正入力状態」の2つのフラグを設けコントロールしている。

2.3.3 更新処理
(1) 日次更新処理
日次更新処理の流れを図示し,説明する。
(1) 5月16日の仕訳伝票を入力する(ただし,「伝票C」は,6月2日付の先入れデータ)。
(2) 1日分の仕訳データをソートする(本支店コード/勘定科目コード/伝票日付)。
(3),(3)' マスタファイル(勘定科目マスタ,補助科目マスタ,損益マスタ)を更新する。
(4) 総勘定ファイルに5月16日分の仕訳データを累積する。
(5) 当日分(5月16日)の仕訳ファイルの内容をクリアする。
(6) 処理日が5月17日の仕訳伝票を入力する(ただし,「伝票Y」は削除データ,「伝票Z」は6月4日付の先入データ)。
(7) 1日分の仕訳データをソートする(削除マーク「*」のある仕訳データは出力しない)。
(8),(8)' 各マスタファイルを更新する。
(9) 総勘定ファイルに,5月17日分の仕訳データを累積する。
(10) 当日分(5月17日)の仕訳ファイルの内容をクリアする。

(2) 大分類更新
大分類更新は,勘定科目が持つ集計区分に従って集計処理を行う。集計方法は集計区分が「2」←「1」←「0」(←:集計加算する方向)となる。ただし,製造原価科目,利益勘定科目に関しては,集計区分が「0」←「-1」←「-2」となる。

(中略)

(4) 期末更新
期末更新処理は,2つのプログラムに分かれている。便宜的にこれらを期末更新(I),期末更新(II)とすると,それぞれ次のような処理を行っている。
(a) 期末更新(I)
更新の対象となるファイルは,勘定科目マスタ,補助科目マスタ,損益マスタの3つである。(「部門管理なし」の場合は,損益マスタは不要)
(1) 勘定科目マスタ
● 次の各項目を上から順番に移送する。
「3期前期末残高」→「4期前期末残高」
「2期前末残高」 →「3期前期末残高」
「前期末残高」 →「2期前末残高」
「当期月別実績」 →「前期月別実績」
「当期末残高」 →「前期末残高」
● 「当期月別実績」のクリア
● 期首残の算出(算出後,当期実績の「期計」をクリア)
貸借区分「1」の期首残:「期首残」+「期計借方」-「期計貸方」
貸借区分「2」の期首残:「期首残」-「期計借方」+「期計貸方」
● 「先入実績」のクリア
(注1)「当期実績」は各々貸借別にもっているが,「前期別実績」は貸借別でないため,次の計算結果を「前期月別実績」に移送する。
13か月目の内容は,12か月目の内容に加えて移送する。
貸借区分「1」:「借方」-「貸方」
貸借区分「2」:「貸方」-「借方」
(注2)「前期末残高」は,(注1)で求めた残高累計を移送する。
(注3)区切コード以降の勘定科目は,期首残を無条件にクリアする。
(2) 補助科目マスタ
● 「期首残」の算出(勘定科目マスタと同じ方法)
● 当期実績の「期計」(借方・貸方)のクリア
● 「先入実績」(借方・貸方)のクリア
(注)区切りコード以降の勘定科目に設定された補助科目は,金額項目を無条件にクリ
アする。
(3) 損益マスタ
● 次の各項目を上から順番に移送する。
「3期前期末残高」 →「4期前期末残高」
「2期前期末残高」 →「3期前期末残高」
「前期末残高」 →「2期前期末残高」
「当期月別実績」 →「前期月別実績」
「当期月別実績」の累計→「前期末残高」
● 「当期月別実績」をクリア
(b) 期末更新(II)
当期未処分利益を自動的に振替先コードに振替える。(「2.3.10勘定科目の設定(5)振替先コード」参照)
勘定科目マスタ,及び補助科目マスタを対象とするが,振替先コードに補助科目が設定されていない時は,補助科目マスタは更新の対象とならない。」(第18ページ-第25ページ)

(E)
「2.3.8 残高チェック
勘定科目マスタ,及び補助科目マスタに登録した金額について,次のチェックを行う。
(1) 貸借の金額合計が一致しているかどうか。
(2) 補助科目の金額合計が,対応する勘定科目の金額と一致しているかどうか。」(第38ページ第1行-同ページ第4行)

(F)
「2.3.10 勘定科目の設定
勘定科目は,「貸借勘定」,「損益勘定」,「製造原価勘定」,「利益処分勘定」に分類される。本システムでは,科目コードとこの分類の関連づけをあらかじめ設定しておく。
設定は管理マスタに各分類の開始コードと終了コードを指定する。

また,財務諸表を作成するため内部的に集計用の科目を設定する。勘定科目コードを大分類,中分類,小分類とする。大分類,中分類は小分類を集計したものである。仕訳入力できるのは,小分類の勘定科目である。この分類は,集計区分を用いて行う。
集計区分は,「製造原価勘定」,「利益処分勘定」とそれ以外では区分が異なる。集計区分の設定は次の通りである。」(第42ページ)

(G)
「2.3.11 プリントマスタの機能
プリントマスタは,現金預金日計表,貸借対照表,損益計算書などの出力形式,集計方法などをコントロールする。
プリントマスタの機能は,次の通りである。
(1) プリントマスタの構成
プリントマスタは,帳票の見出し部を定義するレコードと,明細部を定義するレコードから成っている。
1つの帳票につき,1つの見出しレコードと,複数の明細レコードを持っており,明細レコードの数は帳票により,様々である。
本システムでは,プリントマスタを標準出荷しており,勘定科目を設定し直すなど,内容の変更もできる。

(2) プリントマスタの解析
プリントマスタの各パラメータがどのようなはたらきを持っているか例を掲げて説明する。

(例1) プリントマスタに下記のようなパラメータがセットされた場合の,プログラムの解析例を示す。
(プリントマスタの帳票区分はすべて「11」であるため省略してある)

プリントマスタの解析は次の手順で行う。
(1) SEQ.NO.が「0000」であるため,このレコードからはタイトルを出力すると同時に日付形式を参照し,××年××月××日現在と出力する。
(2) ページ区分が「0」かつSEQ.NO.が「0010」であるため,構成比算出に必要な資産合計を算出する。
(注)勘定科目コード「3000」は繰延資産である。
(3) ページ区分が「1」となり,明細をプリントする。
コメントマスタのキー(以下,単にキーと呼ぶ)が「01」であるため科目はコメントマスタより出力。勘定科目コードがスペースであるため金額は出力しない。
(4) キーが「02」のコメント名とともに,「1111(現金)+1112(預金)」の残高も出力する。このとき(2)で求めた金額により構成比も出力する。
(5) キーが「スペース」であるが,勘定科目コードに「1113」がセットされているため売掛金の残高を出力する。このとき対応する勘定科目名も出力する。
(6) (5)と同様,勘定科目コードには集計区分が「0」,「1」,「2」のいずれでもセットできる。ただし,「0」以外をセットした場合,大分類更新プログラム起動後でなければ「1」,「2」の勘定科目の残高は正しく出力されない。
(7) (5)と同様。
(8) 1行改行する。キー「03」にはスペースが登録してある。
(9) (5)と同様。」(第50ページ第1行-第52ページ第19行)

前記摘記事項(A)より,引用例1には,「一般会計システムは「決算業務システム」と「外部向決算書作成システム」の2つのサブシステムから成る。」との点,及び,日次処理,月次処理で更新された各種マスタに基づき,前記外部向決算書作成システムが商法計算書類規則に従い貸借対照表,損益計算書,利益金処分計算書,損失金処理計算書の外部向決算書を作成することが記載されている。また,各種マスタに登録されたデータは,財務データということができる。
また,引用例1に記載されたシステムは,表示手段,出力手段およびCPUを有するコンピュータにより実現されるシステムであることが明らかであるから,
してみれば,摘記事項(A),(B)より,引用例1には「表示手段,出力手段およびCPUを有するコンピュータから構成され,商法計算書類規則に従い,財務データから,貸借対照表,損益計算書,利益金処分計算書,損失金処理計算書の外部向決算書を作成する一般会計システムの外部向決算書作成サブシステム」が記載されているといえる。
さらに,引用例1に記載された一般会計システムは,各種マスタファイルを有することから,前記マスタファイルを記憶する「記憶手段としての,データベース」を有することは明らかである。
前記摘記事項(F)及び引用例1の第43ページの図面の記載より,引用例1には,「勘定科目コード,勘定科目名を記録した勘定科目マスタ」及び前記勘定科目マスタを設定することが記載されている。すなわち,「勘定科目コード,勘定科目名を記録した勘定科目マスタ設定手段」が記載されているといえる。
前記摘記事項(G)及び引用例1の第51ページ及び第54ページの図より,プリントマスタは商法計算書類規則に従った書類である外部向決算書を作成するために,勘定科目を外部向決算書の科目と関連付けて対応関係を示すテーブルであって,前記プリントマスタはデータベースに格納されるものであり,かつ,変更可能であることから,「外部向決算書の科目と勘定科目を関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する手段」及び「前記データベースに登録する手段では,外部向決算書に関連付けるための勘定科目番号と,外部向決算書のプリントする項目の順番をしめすSEQ.NOとを対応付けるテーブルをデータベースに登録」すること,及び,「前記テーブルの対応関係に基づいて,外部向決算書の科目の数値を集計する手段」が記載されている。
上記摘記事項(A),(B)及び(C)より,引用例1には,勘定科目マスタ及びプリントマスタから外部向決算書を作成することが記載されているから,「外部向決算書を作成する手段」が記載されているといえる。

さらに,引用例1の一般会計システムは,商法計算書類規則に従った書類である貸借対照表・損益計算書を作成するものであることに加え,前記摘記事項(3),及び,図面又は表の記載である,第59ページ-第61ページのジョブ一覧,及び,第62ページ-第100ページのランチャートの記載,特に第77ページのAM8及び第95ページのBM2から,引用例1の一般会計システムは,勘定科目から商法計算書類規則に従った書類である貸借対照表・損益計算書の数値を集計する手段を備えることが,明らかである。

以上より,引用例1には,
「表示手段,出力手段およびCPUを有するコンピュータから構成され,商法計算書類規則に従い,財務データから,貸借対照表,損益計算書,利益金処分計算書,損失金処理計算書の外部向決算書を作成する一般会計システムの外部向決算書作成サブシステムであって,
コンピュータは,記憶手段としての,データベースと,
勘定科目コード,勘定科目名を記録した勘定科目マスタ設定手段と,
外部向決算書の科目と勘定科目を関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する手段と,
前記テーブルの対応関係に基づいて,外部向決算書の科目の数値を集計する手段と,を備え,
前記データベースに登録する手段では,外部向決算書に関連付けるための勘定科目番号と,外部向決算書のプリントする項目の順番をしめすSEQ.NOとを対応付けるテーブルをデータベースに登録し,
外部向決算書を作成する手段と,を備える,
一般会計システムの外部向決算書作成サブシステム」
の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されている。

[引用例2]
平成19年6月4日付拒絶理由において引用した特開平10-214265号公報(以下「引用例2」という。)には図面とともに,以下の事項が記載されている。

(H)
「【0059】実施の形態2.上記実施の形態1では,1つの入力文書について出力文書を生成するものについて説明したが,複数の入力文書に対して出力文書を生成することも可能である。この実施の形態2はそのような複数の入力文書に対して出力文書を生成する構造化文書処理装置に関するものであり,これにより,一方の入力文書に記載されている内容と,もう一方の入力文書に記載されている内容とに矛盾がないかどうかをチェックしたり,複数の入力文書を合成して一つの出力文書を作成することができるようになる。
【0060】以下,そのようなこの発明の実施の形態2を図について説明する。図14はこの実施の形態2による構造化文書処理装置の構成を示すブロック図であり,実施の形態1と同一または相当する部分については,図1と同一符号を付しその説明を省略する。図において,25は複数入力文書構造木管理手段であり,文書構造解析手段13から複数の入力文書構造木を順番に受理し,文書構造操作命令書15から読み出した入力文書識別子と入力文書構造木とを対応付けて入力文書構造木バッファ14に格納するものである。また,構造要素抽出手段17から入力文書識別子と構造要素抽出命令を受理した場合には,その入力文書識別子に対応する入力文書構造木から構造要素識別子が指定する文書の内容を抽出する。」(段落【0059】-【0060】)

(I)
「【0068】以上のように,この実施の形態2によれば,図2に示した購入伺い書と図15に示した従業員名簿とを入力文書11として受理し,購入伺い書における氏名と社員番号の対応関係が,従業員名簿に記載される氏名と社員番号の対応関係と同じであるかどうかをチェックすることができ,このように,入力文書識別子・入力文書構造木対応表により構造要素を抽出すべき入力文書構造木を選択することが可能になるので,一方の文書に記載されている内容ともう一方の文書に記載されている内容とに矛盾があるか否かをチェックしたり,複数の文書を合成して一つの文書を作成するといったより高度な構造化文書処理を実現することが可能になるので,構造化文書に対する文書変換や文書の正しさの検証等の能力を向上させることができる効果がある。」(段落【0068】)

[引用例3]
平成19年6月4日付拒絶理由において引用した特開平6-52145号公報(以下「引用例3」という。)には図面とともに,以下の事項が記載されている。

(J)
「【0027】変更管理システム13は,要領書・手順書・図面の一部が変更されたときに,この一部の変更に関連する他の要領書・手順書・図面を作業情報データベース3から検索し,整合性をチェックして自動的に,あるいは変更管理端末16で整合性を有するように修正できるようにする。図7は変更管理システム13の処理の流れを示している。図7に示すように,ステップ400で要領書・手順書・図面の変更の入力が処理され,次のステップ410で変更箇所が特定される。次にステップ420において,変更管理システム13は作業情報データベース3から関連する要領書・手順書・図面を検索し,共通データエリア7上で関連書類間の整合性のチェックを行う。この結果,次のステップ430において,変更結果を変更管理端末16に出力する。必要があれば,コンピュータにより自動的に修正を行うようにし,あるいは変更管理端末16で人手によって書類の修正を行うようにすることができる。このことにより,従来関連書類が多く,一部書類が変更されたときに,修正されるべき他の書類が修正されずにプラントのトラブルの原因となっていたことを防止することができる。」

引用例1の摘記事項(E)及び引用例2,3より,複数の文書等のデータの内容間で関連付けを行い,内容に矛盾がないかチェックする技術は,適用分野を問わず,情報処理技術一般において周知であると認める。

5.4.2.対比
本願発明と引用例1発明を比較する。
引用例1発明においても,商法計算書類規則に従っている以上,商法にも従っていることは明らかである。
また,引用例1発明の「利益金処分計算書」及び「損失金処理計算書」は,商法計算書類に該当するものであるか明確でない点を除き,それぞれ,本願発明の「利益処分案」及び「損益計算書」に対応する。
よって,
引用例1発明の「表示手段,出力手段およびCPUを有するコンピュータから構成され,商法計算書類規則に従い,財務データから,貸借対照表,損益計算書,利益金処分計算書,損失金処理計算書の外部向決算書を作成する一般会計システムの外部向決算書作成サブシステム」と,本願発明の「表示手段,出力手段およびCPUを有し,通信ネットワークに接続可能なコンピュータから構成され,商法及び商法計算書類規則に従い財務システムから出力した財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システム」とでは,「表示手段,出力手段およびCPUを有するコンピュータから構成され,商法及び商法計算書類規則に従い財務データから貸借対照表,損益計算書及び利益処分案を作成する書類作成システム」との点で共通する。

本願発明と引用例1発明とでは,「コンピュータは,記憶手段としての,データベース」を有する点で一致する。

引用例1発明の「勘定科目」は,本願発明の「総勘定科目」に相当するから,引用例1発明の「勘定科目コード,勘定科目名を記録した勘定科目マスタ設定手段」と,本願発明の「入力された上記財務データの総勘定科目名をデータベースに登録し,さらに財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する総勘定科目入力部」とでは,「入力された上記財務データの総勘定科目名をデータベースに登録する入力部」との点で共通する。

引用例1発明の「外部向決算書の科目と勘定科目を関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する手段」と,本願発明の「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する科目対応部」とでは,「商法及び商法計算書類規則に基づいた書類の科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する科目対応部」との点で共通する。

引用例1発明の「前記データベースに登録する手段では,外部向決算書に関連付けるための勘定科目番号と,外部向決算書のプリントする項目の順番をしめすSEQ.NOとを対応付けるテーブルをデータベースに登録し」と,本願発明の「前記科目対応部では,商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分とが格納されたテーブルをデータベースに登録し」とでは,「前記科目対応部では,商法及び商法計算書類規則に基づいた書類に関連付けるための総勘定科目番号と,前記書類の科目に対応する番号とが格納されたテーブルをデータベースに登録し」との点で共通する。

引用例1発明の「前記テーブルの対応関係に基づいて,外部向決算書の科目の数値を集計する手段」と,本願発明の「上記対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする商法計算書類科目算出部」とでは,「上記対応関係に基づいて,商法計算書類規則に基づいた書類の科目ごとに集計する科目算出部」との点で共通する。

引用例1発明の「外部向決算書を作成する手段」と,本願発明の「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部」とでは,「商法及び商法計算書類規則に基づいた書類を作成する作成部」との点で共通する。

よって,本願発明と,引用例1発明とでは,
「表示手段,出力手段およびCPUを有するコンピュータから構成され,商法及び商法計算書類規則に従い財務データから貸借対照表,損益計算書及び利益処分案を作成する書類作成システムであって,
コンピュータは,記憶手段としての,データベースと,
入力された上記財務データの総勘定科目名をデータベースに登録する入力部と,
商法及び商法計算書類規則に基づいた書類の科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する科目対応部と,
上記対応関係に基づいて,商法計算書類規則に基づいた書類の科目ごとに集計する科目算出部と,
商法及び商法計算書類規則に基づいた書類を作成する作成部と,を備え,
前記科目対応部では,商法及び商法計算書類規則に基づいた書類に関連付けるための総勘定科目番号と,前記書類の科目に対応する番号とが格納されたテーブルをデータベースに登録することを特徴とする書類作成システム。」
との点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明が「貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システム」であるのに対し,引用例1発明は,商法計算書類規則に基づき,「貸借対照表,損益計算書,利益処分案」を作成するシステムであるが,「貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書」を含む「商法計算書類を作成する」ものであるかは特定されていない点。

[相違点2]
本願発明のコンピュータは「通信ネットワークに接続可能」であるのに対し,引用例1発明のコンピュータは,「通信ネットワークに接続可能」であるかは特定されていない点。

[相違点3]
本願発明が「財務システムから出力した財務データから」商法計算書類を作成するものであり,総勘定科目入力部が「財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する」ものであるのに対し,引用例1発明は「一般会計システムの外部向決算書作成サブシステム」であり,財務データは,一般会計システム全体で共有するものである点。

[相違点4]
本願発明が「入力された商法計算書類科目名をデータベースに登録する商法計算書類科目入力部」を備えるのに対し,引用例1発明は,そのような入力部を備えない点。

[相違点5]
本願発明の「科目対応部」は,「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する」ものであるのに対し,引用例1発明は,「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記する」ものではなく,さらに,「商法科目番号」を用いて「商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付け」るものではない点。

[相違点6]
本願発明の「科目対応部」は,「商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分とが格納されたテーブルをデータベースに登録」するものであるのに対し,引用例1発明のテーブルでは,「貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分」を格納するものではない点。

[相違点7]
本願発明は「上記対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする商法計算書類科目算出部」を備えるのに対し,引用例1発明では,「総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計」する点は,明示されておらず,「商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする」点は,特定されていない点。

[相違点8]
本願発明は,「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部」を備え「前記営業報告書作成部は,営業報告書実績数値を入力するための営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを前記表示手段に表示させる」ものであるのに対し,引用例1発明には,そのような事項は,備えていない点。

5.4.3.判断
前記相違点について検討する。

[相違点1について]
財務システムから得られたデータに基づき,「貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する」ことは,従来,人手により,又は,コンピュータを部分的に用いて行われてきたものである。さらに,一般に,このような既知の人手等により行われていた業務上の処理は,コンピュータを用いてシステム化し自動化する要請があるものである。
してみれば,引用例1発明を商法計算書類規則に基づき,「貸借対照表,損益計算書,利益処分案」を作成することに加え,「貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システム」とすることは,当業者が容易に想到することができた事項である。
なお,この点に関し,請求人は,
「したがって,引用文献1に開示されている技術においては,第12頁に記載されているように,“外部向決算書” (貸借対照表,損益計算書,勘定内訳書)は,「金融機関,取引先への決算説明,納税申告等の場合に外部に提出する」ための書類であり,即ち,法人税法第74条に基づくものであり,商法第281条に基づく商法監査用書類ではありません。さらに,引用文献1に開示されているシステムでは,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等を作成することができません。これに対して,本願の発明は,商法監査用書類を作成する目的で,「商法及び商法計算書類規則に従い財務データから貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する」ものであり,引用文献1に開示されているシステムとは応用領域が異なるものであります(添付資料26参照)。
また,引用文献1において,勘定科目の組み替えが行うことについて記載されているが,これは,会計帳簿の総勘定科目を税務用の科目に要約するものであり,本願発明のように,会計帳簿の総勘定科目を株主総会用等の商法計算書類間の表示上のリーガルチェックを可能にする商法計算書類科目に組み替えるものではありません。」
と主張している。
しかしながら,引用例1発明における「外部向決算書」は引用例1に「● 様式は原則として商法計算書類規則に従う。」(第7ページ第3行)との記載があることから,引用例1発明は商法計算書類のうち,すくなくとも,「貸借対照表」,「損益計算書」及び「利益処分計算書」を作成するものであり,前記各書類は「商法第281条に基づく商法監査用書類」の意味を有さないもの,とまではいえない。従って,本願発明と引用例1発明とでは,「応用領域」が異なるとしても,お互いに極めて近い領域にあるものであり,引用例1発明を商法計算書類の作成システムに適用することは,当業者にとって,十分動機付けがあるものといえる。
また,仮に,本願発明の「商法計算書類」を「商法第281条に基づく商法監査用書類」と,引用例1発明の商法計算書類規則に基づく書類を,「法人税法第74条に基づくもの」と限定的に解釈し,本願発明と引用例1発明とでは,「応用領域が異なるもの」であるとしても,「商法第281条に基づく商法監査用書類」を作成すること自体は,当業者にとって周知であり,さらに,前者と後者との相違は,技術的なものではなく,単に,システムによる成果物である書類の,満たさなければならない法令上の要件にすぎない。
してみれば,引用例1発明に基づき「商法第281条に基づく商法監査用書類」を作成するシステムを想到することは,当業者にとって,技術的には格別の困難なく,容易に想到することができたものといえる。
よって,請求人の主張は採用することができない。

[相違点2について]
引用例1発明のコンピュータは,「通信ネットワークに接続可能」であるかは特定されていないとしても,通信ネットワークに接続可能なコンピュータは周知であるから,本願発明の相違点2に係る事項は,当業者が容易に想到することができた事項である。

[相違点3について]
一般に,ある機能を,システムにおけるサブシステムとして実装することも,あるシステムから,独立したシステムとして構築することも共に周知であり,後者の構成を採用する場合は,システム間でデータの授受の仕組みを設けることも周知である。
してみれば,引用例1発明の「一般会計システムの外部向決算書作成サブシステム」との構成に替え,「財務システムから出力した財務データから」商法計算書類を作成するものとし,さらに,総勘定科目入力部が「財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する」ことは,当業者が容易に想到することができた事項である。

[相違点4について]
引用例1発明は,商法計算書類科目名をデータベースに登録するものではないが,商法計算書類規則に基づいた書類を,データベースに登録されたテーブルに基づき作成するものであるから,相違点1で検討した,引用例1発明を「貸借対照表,損益計算書,利益処分案」を作成することに加え,「貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システム」に変更するにあたり,「商法計算書類科目名」を扱うものとし,前記「商法計算書類科目名」をデータベースに登録することは,単にデータベースのデータ項目をどのように構成し,登録するかの問題であり,当業者であれば,適宜なしえた事項である。
よって,「入力された商法計算書類科目名をデータベースに登録する商法計算書類科目入力部」を備えることは,引用例1発明に基づき,当業者が容易に想到することができた事項である。

[相違点5及び6について]
引用例1発明においても,「外部向決算書の科目と勘定科目を関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する手段」を備えるものであり,また,一般にデータベースのレコードをレコードの番号をIDとして用いることは周知である。
してみれば,相違点1で検討した,引用例1発明を「貸借対照表,損益計算書,利益処分案」を作成することに加え,「貸借対照表,損益計算書,利益処分案,貸借対照表関係注記・損益計算書関係注記,営業報告書及び附属明細書等の商法計算書類を作成する商法計算書類作成システム」に変更するにあたり,「科目対応部」を,「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する」ものとすることは,当業者が容易に想到することができた事項である。
さらに,テーブルをどのような構成とするかは,技術的に格別の困難がない限り,当業者が適宜設計的に決定できるものであるところ,「商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分」とをテーブルに格納することは,単に,周知の,総勘定科目,商法科目及び貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応をテーブル化しただけにすぎず,当業者であれば,引用例1発明に基づき,容易に想到することができた事項である。
よって,「前記科目対応部では,商法計算書類に関連付けるための総勘定科目番号と,総勘定科目に対応する商法科目番号と,貸借対照表や損益計算書の区分と商法計算書類科目とを対応を付ける区分とが格納されたテーブルをデータベースに登録」するとの点は,引用例1発明に基づき,当業者が容易に想到することができた事項である。

[相違点7について]
引用例1発明においても,「前記テーブルの対応関係に基づいて,外部向決算書の科目の数値を集計する手段」は記載されているのであるから,これを商法計算書類科目の集計に適用することは,当業者が容易に想到することができた事項である。
また,相違点3について検討したとおり,「財務システムから出力した財務データから」商法計算書類を作成するものとし,さらに,総勘定科目入力部が「財務データを取得し総勘定科目に試算表数値を入力する」ものとすることは,当業者が容易に想到することができた事項であるから,これに合わせて,さらに,「上記対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を」商法計算書類科目ごとに集計すること,及び,「商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする」ことも,当業者が容易に想到することができた事項である。

[相違点8について]
決算数値と営業報告書実績数値とを照合すること,及び,営業報告書には,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを記載すべきことは周知である。
また,引用例1の摘記事項(E)及び引用例2,3より明らかなように,複数の文書等のデータの内容間で関連付けを行い,内容に矛盾がないかチェックする技術は,適用分野を問わず,情報処理技術一般において周知技術である。また,リスト表示が技術的に常とう手段であるから,チェックの際に,不照合のものをリスト表示することも当業者が適宜なしえた事項である。
してみれば,引用例1発明に,前記周知技術を適用し,「営業報告書作成部」が「前記データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合」すること,及び,「前記営業報告書作成部」が,「営業報告書実績数値を入力するための営業報告書実績値入力部と,前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値との差額を算出し,差額があるか否かを判断する営業報告書照合部とを有し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを前記表示手段に表示させる」ことは,当業者が容易に想到することができた事項である。
さらに,周知の営業報告書の作成処理をコンピュータにより自動作成するようにし,このために,「照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する」ようにすることも,引用例1発明に基づき,当業者が容易に想到することができた事項である。

なお,請求人は,相違点5,相違点7,相違点8に関し,
「本願の発明のように「取得した財務データの数値が所定の総勘定科目に入力された際に該数値を所定の商法計算書類科目に転記するように,商法及び商法計算書類規則に基づいて,商法科目番号を用いて所定の商法計算書類科目と総勘定科目とを関連付けて対応関係を示すテーブルをデータベースに登録する」こと,
「対応関係に基づいて,総勘定科目入力部より入力された上記総勘定科目の試算表数値を商法計算書類科目ごとに集計して商法計算書類科目に転記し商法計算書類科目の決算数値とする」こと,
「データベースから営業報告書と関連付けた商法計算書類科目の決算数値を取り出し,前記商法計算書類科目名と前記決算数値と入力された営業報告書実績数値に基づいて,前記決算数値と営業報告書実績数値とを照合し,さらに営業報告書と関連付けた商法計算科目の決算数値と前期決算数値との増減比率と,営業報告書実績数値と前期営業報告書実績数値との増減比率とを求め,照合後の前記決算値と得られた前記増減比率とを営業報告書に記載して営業報告書を作成する営業報告書作成部を備える」こと,
「商法計算書類科目の決算数値を営業報告書に転記するように前記商法計算書類科目を営業報告書に関連付け,入力された営業報告書実績数値と営業報告書とを関連付けた商法計算書類科目の決算数値とを照合し,差額があるか否かを判断し,差額があって不照合と判断された場合は不照合リストを表示手段に表示させる」こと,
および「総勘定科目の試算表数値に修正値が入力された場合,この修正値に基づいて総勘定科目の試算表修正後数値を算出して記憶する」ことについては何等開示されておらず,示唆すらされておりません。」
と主張している。
確かに請求人の主張とおり,引用例1発明には,前記請求人の指摘する点は直接的には開示されていないものの,その点については,相違点5,相違点7,相違点8についての検討において,検討したとおりであるから,請求人の意見は採用することができない。

以上の検討によれば,相違点1-8は,いずれも引用例1発明,引用例2,3記載技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できた事項である。また,相違点1-8を全体としてみた場合でも,引用例1発明,引用例2,3記載技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できたと判断せざるを得ない。
そして,本願発明の作用効果も,引用例1発明,引用例2,3記載技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
よって,本願発明は,引用例1発明,引用例2,3記載技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり,本願は,特許法第36条第6項第2号,同条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである。
さらに,本願請求項1に係る発明は、同法第2条第1項でいうところの「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとはいえないから,特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。

また,仮に,本願請求項1に係る発明が,同法第2条第1項でいうところの「発明」に該当するとしても,本願請求項1に係る発明は引用例1に記載された発明,引用例2,3に記載された技術,及び,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-28 
結審通知日 2007-10-09 
審決日 2007-10-24 
出願番号 特願2000-201412(P2000-201412)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G06Q)
P 1 8・ 1- WZ (G06Q)
P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
P 1 8・ 537- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 岩間 直純
山本 穂積
発明の名称 商法計算書類作成システム及び商法計算書類作成処理プログラムを記憶した記録媒体  
代理人 吉田 芳春  

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