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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A47G
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47G
審判 全部無効 2項進歩性  A47G
管理番号 1171274
審判番号 無効2004-80149  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-09 
確定日 2007-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3153513号「被服用ハンガー」の特許無効審判事件についてされた平成17年 4月 6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10477号、平成17年 7月 8日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3153513号に係る発明は、平成10年7月28日に出願したものであって、平成13年1月26日に特許権の設定登録がなされ、その後の平成16年9月9日に日本コパック株式会社より特許無効の審判が請求され、平成17年4月6日に特許を無効とする旨の審決がなされたところ、当該審決の取消しを求める訴え(知的財産高等裁判所・平成17年(行ケ)第10477号事件)がなされた後の平成17年5月23日に訂正審判(訂正2005-39082号)が請求され、裁判所により特許法第181条第2項の規定に基づく審決の取消しの決定がされたものであり、その後、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の審判請求書に添付された訂正明細書を援用する訂正請求が平成17年8月8日にされ、これに対して平成17年10月12日に弁駁書(第3回)が提出されたものである。

2.平成17年8月8日の訂正請求について
(1)訂正事項
本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の平成17年8月8日の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の審判請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)を援用するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである。
(訂正事項1)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1(特許公報第1頁第1欄第3行)に「ばねを有するピンチ」とあるのを、「ばねを有するとともにばねの両脚片の外側に開口部を備えたピンチ」と訂正する。
(訂正事項2)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1(特許公報第1頁第1欄第4行?第5行)に「中央部の内側に外向きのばね係止爪」とあるのを、「中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪」と訂正する。
(訂正事項3)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1(特許公報第1頁第1欄第5?6行)に「中央部の外側にばね保持片」とあるのを、「中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片」と訂正する。
(訂正事項4)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1(特許公報第1頁第1欄第8行?第9行)の「被服用ハンガーであって、」の次に、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、」を加入する。
(訂正事項5)
特許明細書の第1頁第25?26行(特許公報第1頁第2欄第14行)に「被服用被服用ハンガー」とあるのを、「被服用ハンガー」と訂正する。
(訂正事項6)
特許明細書の第2頁第20行(特許公報第2頁第3欄第25?26行)に「ばねを有するピンチ」とあるのを、「ばねを有するとともにばねの両脚片の外側に開口部を備えたピンチ」と訂正する。
(訂正事項7)
特許明細書の第2頁第21?22行(特許公報第2頁第3欄第27行)に「中央部の内側に外向きのばね係止爪」とあるのを、「中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪」と訂正する。
(訂正事項8)
特許明細書の第2頁第22行(特許公報第2頁第3欄第28行)に「中央部の外側にばね保持片」とあるのを、「中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片」と訂正する。
(訂正事項9)
特許明細書の第2頁第24行(特許公報第2頁第3欄第31行)の「被服用ハンガーであって、」 の次に、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、」 を加入する。
(訂正事項10)
特許明細書の第3頁第1?2行(特許公報第2頁第3欄第39?40行)に「中央部の内側に外向きのばね係止爪」とあるのを、「中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪」と訂正する。
(訂正事項11)
特許明細書の第3頁第2行(特許公報第2頁第3欄第40行)に「中央部の外側にばね保持片」とあるのを、「中央部の外側に開口部の一部を塞ぐばね保持片」と訂正する。
(訂正事項12)
特許明細書の第3頁第2行(特許公報第2頁第3欄第40?41行)の「それぞれ形成し、」の次に、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、」 を加入する。
(訂正事項13)
特許明細書の第4頁第6行(特許公報第2頁第4欄第26?27行)に「図2?図4に示すように、ピンチ片1」とあるのを、「図2?図4に示すように、ばね2の両脚片21,21の外側に開口部を備えており、ピンチ片1」と訂正する。
(訂正事項14)
特許明細書の第4頁第9行(特許公報第2頁第4欄第31行)に「中央部の内側に外向きのばね係止爪14 」とあるのを、「中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪14 ,14」と訂正する。
(訂正事項15)
特許明細書の第4頁第10行(特許公報第2頁第4欄第32行)に「中央部の外側にばね保持片15」とあるのを、「中央部の外側に開口部の一部を塞ぐばね保持片15」と訂正する。
(訂正事項16)
特許明細書の第4頁第10行(特許公報第2頁第4欄第32?33行)の「それぞれ形成し、」の次に、「ばね保持片15を上下方向に細長い形状に形成して開口部の中央部に設けるとともに、このばね保持片15と一対のばね係止爪14,14とを、開口部から見てピンチ片1の左右方向で重ならない関係に配置し、」を加入する。
(訂正事項17?訂正事項25)
特許明細書の第4頁第15行、第4頁第17行、第4頁第18?19行、第4頁第21行、第4頁第22行、第5頁第14?15行、第5頁第17行、第5頁第21行及び第5頁第23行(特許公報第2頁第4欄第38行、第2頁第4欄第41行、第2頁第4欄第43?44行、第2頁第4欄第46行、第2頁第4欄第46?47行、第3頁第5欄第22行、第3頁第5欄第25行、第3頁第5欄第30行及び第3頁第5欄第33行)にそれぞれ「ばね係止爪14」とあるのを、「一対のばね係止爪14,14」とそれぞれ訂正する。
(訂正事項26)
特許明細書の第6頁第7行(特許公報第3頁第5欄第47行?第6欄第1行)に「中央部の内側に外向きのばね係止爪」とあるのを、「中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪」と訂正する。
(訂正事項27)
特許明細書の第6頁第7行(特許公報第3頁第6欄第1行)に「中央部の外側にばね保持片」とあるのを、「中央部の外側に開口部の一部を塞ぐばね保持片」と訂正する。
(訂正事項28)
特許明細書の第6頁第7?8行(特許公報第3頁第6欄第2行)の「それぞれ形成し、」 の次に、「ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して開口部の中央部に設けるとともに、このばね保持片と一対のばね係止爪とを、開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、」を加入する。

(2)訂正の適否について
(訂正事項1について)
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1における「ばねを有するピンチ」に、「ばねの両脚片の外側に開口部を備えた」という事項を付加するものであるから、特許請求に範囲の減縮を目的とするものといえる。
ところで、ピンチ片に関する「開口部」という用語が特許明細書中に見いだすことができないので、その発明の実施例を示した図面の記載を検討する。
図1の「ピンチP」の縦方向のA-A断面図である図2を詳細に見てみると、ピンチ片の中央内側に配置された「ばね係止爪14」(白抜き表示部分)と対向するように配置された「ばね保持片15」(斜線表示部分)の下端(先端部分)がピンチ片1の外側から内側へ向かう方向に曲がりながら延びている態様が示されている(ちなみに、図4の(B)にも同様の態様が示されており、図面中の斜線表示部分は上記A-A断面位置で断面であることを、また、白抜き表示部分は同位置で断面でないことを通常示すものといえるから、「ばね係止爪14」が「ばね保持片15」とは異なる位置に配置されていることも同時に示されているといえる)。
また、同上ピンチ片の正面図を示した図3の(A)を見ると、ピンチの外側から内側へ向かって見た図面であるところ、その中央部分に図面の手前側に配置された「ばね保持片15」が縦に細長いものとして示されているとともに、当該「ばね保持片15」の左右両側には、これより図面の奥側に配置された「ばね係止爪14」が外側から視認できる態様で示されている。
さらに、逆に、ピンチの内側から外側へ向かって見た図面であるところの同上ピンチ片の背面図を示した図4(A)を詳細に見てみると、その中央部分の図面の奥側に配置された「ばね保持片15」が上記と同様の縦に細長いものとして示されているとともに、当該「ばね保持片15」の両側には、これより図面の手前側に配置された「ばね係止爪14」が明らかに左右一対のものとして設けられている態様が示されている。
これらの図示内容からすると、特許明細書に記載された実施例におけるピンチ片の中央部分には、当該ピンチ片の内側に配置された一対の「ばね係止爪14」を(略U字形の合成樹脂製のばねが取付けられていない状態で)、その外側から視認できるような開口部分が設けられていることが理解できるし、また、当該開口部分の中央部分を塞ぐような態様で、縦に細長い「ばね保持片15」が設けられていることが理解できるといえる。
(ちなみに、審判請求人は、平成16年12月28日付け弁駁書において、上記図面の「図2から図4には、ばね保持片の両脇(両側)にスリット状の開き口部分が存在するだけであり」と主張しており、ピンチ片に「スリット状の開き口部分が存在する」ことを認めていると解される)
そして、特許明細書の記載中に上述の理解と矛盾するような他の記載も見当たらない。
してみると、訂正事項1は、特許明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

(訂正事項2について)
訂正事項2は、訂正前の請求項1における「外向きのばね係止爪」に、「一対の」という事項を付加するものであるから、特許請求に範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、上述したとおり、一対の「ばね係止爪14」が設けられていることが特許明細書に記載されているといえるから、訂正事項2は、特許明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

(訂正事項3について)
訂正事項3は、訂正前の請求項1における「ばね保持片」に、「前記開口部の一部を塞ぐ」という事項を付加するものであるから、特許請求に範囲の減縮を目的とするものといえる。
また同様に、上記「(訂正事項1について)」で説示したように、特許明細書の記載及び図示内容から見て、上記した開口部分の中央部分を塞ぐような態様で、縦に細長い「ばね保持片15」が設けられていることが理解できるといえるから、訂正事項3は、特許明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

(訂正事項4について)
訂正事項4は、訂正前の請求項1における「ばね保持片」と「ばね係止爪」につき、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置」するという限定事項を付加するものであるから、特許請求に範囲の減縮を目的とするものといえる。
ところで、上記「(訂正事項1について)」で説示したように、特許明細書の実施例を示した図面の図示内容からすると、本件発明の実施例におけるピンチ片の中央部分には、当該ピンチ片の内側に配置された一対の「ばね係止爪14」を(略U字形の合成樹脂製のばねが取付けられていない状態で)、その外側から視認できるような開口部分が設けられ、当該開口部分の中央部分を塞ぐような態様で、縦に細長い「ばね保持片15」が設けられているとともに、「ばね係止爪14」が当該「ばね保持片15」とは異なる位置に配置されていることが記載されているといえる。
そして、同じく上記「(訂正事項1について)」で説示したように、ピンチの外側から内側へ向かって見た図面とピンチの内側から外側へ向かって見た図面との両者において、「ばね保持片15」が同様の縦に細長いものとして示されており、また、「ばね係止爪14」が左右一対のものとして示されていることは、いずれの側から見ても、縦に細長い「ばね保持片15」と左右一対の「ばね係止爪14」とが同じ態様として図示されているということであるから、これらの「ばね保持片15」と左右一対の「ばね係止爪14」とは、上述のいずれの側から向かって見ても、(ピンチ片の幅方向)で重ならない関係に配置されていることが示されているということができる。
(なお、審判請求人は、平成17年10月12日付け弁駁書(第3回)において、特許明細書の図面にばね保持片と一対のばね係止爪との間に隙間等の記載がないから、ばね保持片と左右一対のばね係止爪とを左右方向で重ならない関係に配置されていることが理解できない旨を主張する。
しかしながら、例えば、鍵と鍵穴やボルトとナットの関係に見られるように、両者の間に設けられる隙間が微細なものである場合は、図面においてこのような微細な隙間の表記を省略することは、とりわけ、特許明細書の図面等において従来より普通に採用されている表現態様であるといえる。そうすると、単に「隙間」の明確な表記が図面中に無いことのみをもって、両者が重ならない関係に配置されていないということもできない。)
したがって、訂正事項4は、特許明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

(訂正事項5)
訂正事項5は、明らかな誤記を訂正するものであるから、明らかな誤記の訂正を目的とするものである。

(訂正事項6?28について)
訂正事項6?28は、上述したように、いずれも特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、上記訂正事項1?4の訂正によって特許請求の範囲の記載が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないといえる。

以上のとおり、上記訂正事項1?28は、いずれも、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項によって準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものといえるから、本件訂正を認める。

3.請求人の主張
審判請求人は、審判請求書、平成16年12月28日付け弁駁書、平成17年3月3日付け弁駁書(第2回)及び平成17年10月12日付け弁駁書(第3回)によれば、本件特許は、下記理由及び証拠から特許法123条第1項第2号又は同法123条第1項第4号により無効にすべきものであると主張する。

(1)理由1
請求項1、2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証或いは甲第3号証に記載された発明と同一、又は甲第1号証、甲第2号証或いは甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)理由2
本件特許の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明が明確に記載されておらず、発明の詳細な説明についても当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(証拠)
甲第1号証:特開平10-113273号公報
甲第2号証:意匠登録第782935号公報
甲第3号証:特開平8-205984号公報(なお、審判請求書に記載された「特許2956956号」は明らかな誤記であり、回答書によりその公開公報の番号に訂正された。)
甲第4号証:「新総合国語辞典」、旺文社、1986年発行、第798?799頁。
甲第5号証の1:特開2000-41825号公報
甲第5号証の2:特許第3153513号公報
甲第6号証:特許第3153513号の特許原簿
甲第7号証:実願昭60-56022号(実開昭60-180577号)のマイクロフィルム
甲第8号証:請求人による知的財産高等裁判所への意見書
甲第9号証:知的財産権判決速報に掲載された大阪地裁・平成16年(ワ)第5380号事件の判決

なお、審判請求人は、審判請求書において下記参考資料1?6を、平成16年12月28日付け弁駁書において下記参考資料7を、平成17年10月12日付け弁駁書において下記参考資料9、10を提出している。
参考資料1:本件特許発明と甲第1号証との対比図面
参考資料2:本件特許発明と甲第2号証との対比図面
参考資料3:甲第1号証の説明図面
参考資料4:甲第2号証の説明図面
参考資料5:甲第3号証の説明図面
参考資料6:大阪地裁訴訟事件の訴状(第1、4、7、9頁)
参考資料7:ピンチ片における開口部の態様例を図示した書面
参考資料8:「検証図面」と題したばねの破片態様を図示した書面
参考資料9:ばね保持片とばね係止爪との隙間を参考図で示した書面
参考資料10:折れた合成樹脂製バネの写真を掲載した書面

4.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)、答弁書において、下記理由及び証拠から、本件特許は無効とされるべきものではない旨を主張する。

(1)理由1(特許法第29条第1項第3号又は同条第2項違反)について
(甲第1号証及び甲第2号証について)
請求項1、2に記載の発明は、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明とは開口部の有無につき基本的な構成が相違し、その効果も相違するから、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明と同一ではなく、これらから容易に発明することができたものでもない。
(甲第3号証について)
甲第3号証は、本件特許につき、先の平成13年4月27日に請求された無効2001-35185号事件(以下、「先の無効審判事件」という。)における甲第1号証と同一の証拠であるから、甲第3号証に基づく無効審判の請求部分は、実質的に先の無効審判事件と同一の事実及び同一の証拠に基づく審判請求であるから、特許法第167条の規定に違反してなされた不適法な審判請求であるから、却下されるべきである。
また、被請求人は、予備的主張として、甲第3号証記載の発明は、「略U字形のばねの両脚片を、前記2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、該ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するようにした」点の構成を有していないから、請求項1、2に記載の発明は、甲第3号証記載の発明と同一ではなく、これから容易に発明することができたものでもないと主張する。

(2)理由2(特許法第36条第4項及び第6項違反)について
審判請求人は、請求項1に記載の「その下端」における「その」が何を指すのか不明であると主張するが、これが「ばね保持片」を指すことは明らかである。
また、審判請求人は、請求項1に記載の発明の効果として、本件特許明細書に「… 略U字形のばねの両脚片が露出することがなく…」(例えば、段落【0021】参照)と記載されているが、発明の詳細な説明及び図面には「ばね保持片がばねの両脚片を露出させることのない」構造が記載されていないから特許請求の範囲の記載が特許法第36条第1項第1号の規定に違反すると主張するが、上記「… 略U字形のばねの両脚片が露出することがなく…」は、本件特許明細書の段落【0003】に記載した従来技術のような略U字形のばねが露出した構造との対比から、当該ばねが外側に位置することがないことを示したことは明らかである。
審判請求人は、請求項2に記載の「ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設した」点の突設長さが不明あり、実施不可能であるから明細書の記載が不備であると主張するが、当業者であれば、請求項2に記載の発明の技術的思想に沿って、その突出長さを適宜設計できる。

(証拠)
乙第1号証:岩波国語辞典第五版、第678頁
乙第2号証:実開平5-20673号公報
乙第3号証:実開平2-19359号公報
乙第4号証:特開平3-71083号公報
乙第5号証:特開平7-139524号公報
乙第6号証:特開平8-205984号公報
乙第7号証:特開平10-147号公報
乙第8号証:無効2001-35185号事件の審決
乙第9号証:本件特許原簿

5.本件発明について
上記2.のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下順に、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

(本件発明1)
「フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形の合成樹脂製のばねを有するとともにばねの両脚片の外側に開口部を備えたピンチを配設し、前記ピンチを、端部に挟持部及び操作部を、中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪を、中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片を、それぞれ形成した2個の対向するピンチ片と、前記ピンチ片のばね係止爪と係合する内向きの係止爪を両脚片に形成した略U字形のばねとで構成した被服用ハンガーであって、前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、前記略U字形のばねの両脚片を、前記2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、該ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成したことを特徴とする被服用ハンガー。」
(本件発明2)
「ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設したことを特徴とする請求項1記載の被服用ハンガー。」

6.甲第1号証?甲第3号証の刊行物記載事項
(1)甲第1号証について
甲第1号証の刊行物である特開平10-113273号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「衣類用ハンガー」の発明に関して、図面の図1?図14とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「中央部に上方に向かってフックが突設され、かつ、中央部から左右に向けて先下がりに設けられた左右一対の衣類吊持杆を有するハンガー本体と、上記一対の衣類吊持杆の先端部間に差し渡された桟材と、この桟材に摺接状態で長手方向に移動可能に付設された衣類挟持用の少なくとも一対のクリップとを備えて形成された衣類用ハンガーにおいて、上記クリップは、上記桟材回りに回動することによって衣類を挟持して吊持する鉛直姿勢と、この鉛直姿勢から所定角度傾斜した傾斜姿勢との間で姿勢変更可能に桟材に取り付けられ、上記桟材は、上記クリップの桟材に沿った長手方向への移動を規制する複数のクリップ移動規制部を有し、上記クリップは、鉛直姿勢に設定された状態で上記クリップ規制部によって上記移動が規制され、傾斜姿勢に設定された状態で上記移動の規制が解除されるように構成されていることを特徴とする衣類用ハンガー。」(公報第2頁第1欄の【特許請求の範囲】の【請求項1】参照)
(ロ)「【0022】図3は、第1実施形態のクリップ4を示す斜視図であり、(イ)は分解斜視図、(ロ)は組立て斜視図をそれぞれ示している。図3の(イ)に示すように、クリップ4は、左右一対のクリップ板41と、これらクリップ板41の略中央部の対向面に互いに対向する方向に向かって突設された軸受板42と、各クリップ板41の下端部の対向面に互いに対向する方向に向かって膨設された膨設部43と、一対のクリップ板41を付勢状態で互いに結合する付勢部材44とを備えて形成されている。
【0023】上記クリップ板41は、クリップ板本体41aと、このクリップ板本体41aの外周部に裏面側に向かって環状に突設された環状壁部41bとを備えて形成され、この環状壁部41bに囲繞された空間に上下方向に延びるように左右一対の軸受板42が設けられ、これら軸受板42間に上記付勢部材44を装着する装着空間41cが形成されている。
【0024】上記軸受板42は、上下の裾部から中央部分に向けて盛り上がった軸受部(嵌合片)42aを有しており、この軸受部42aに上記桟材本体31の径より僅かに大きい径を有する半円状の円弧部42bが設けられている。これら左右一対の円弧部42bが桟材本体31に外嵌された状態で一対のクリップ板41からなるクリップ4が桟材本体31に装着されるようになっている。また、上記円弧部42bの下部の軸受板42間には架橋片42cが架橋されている。この架橋片42cとクリップ板本体41aとの間には上記付勢部材44の側部が挿通され得る隙間が形成されている。
【0025】上記膨設部43は、クリップ板41の装着空間41cの下部の仕切り片41dによって仕切られた部分に嵌め込まれたゴム製の緩衝材430によって形成されている。この緩衝材430は、上部が環状壁部41bの上縁部と面一状態の直方体状に形成され、下部が側面視で円弧状に膨出されて蒲鉾状に形成されている。そして、左右一対のクリップ板41の下縁部間に衣類を配置して各下縁部を互いに押圧接近させることにより左右の膨設部43が衣類を押圧挾持し、これによる膨設部43の弾性変形で膨設部43間に挾持された衣類が外れ難くなるようにしている。
【0026】上記付勢部材44は、弾性変形し得る硬質の合成樹脂がU字形状に成形され、かつ、両端部が互いに当接するように形成されている。従って、上記両端部を離間させると、両端部が当接する方向に付勢力が生じるようになっている。この付勢部材44は、幅寸法がクリップ板41の装着空間41cの軸受板42間の隙間寸法よりも小さく設定されているとともに、上下寸法が桟材本体31の直径の2倍強に設定されている。また、付勢部材44の上部の曲折部分は、内面の円弧の径寸法が桟材本体31の径寸法より若干大きく設定され、これによって桟材本体31が上記曲折部分に嵌まり込み得るようにしている。
【0027】このような付勢部材44は、両端部に互いに接近する方向に突設された一対の爪片44aを有しており、付勢部材44の両側部が一対のクリップ板41のクリップ板41に上方から差し込まれた状態で、爪片44aが架橋片42cを潜って架橋片42cに係合し、これによって付勢部材44が抜け止めされた状態で一対のクリップ板41を結合し、図3の(ロ)に示すようなクリップ4が得られるようになっている。
【0028】このようにして形成されたクリップ4は、付勢部材44が弾性変形した付勢力によって各クリップ板41の架橋片42cを互いに接近する方向に押圧することにより膨設部43同士が押圧当接されるようになっている。そして、桟材本体31に対して円弧部42bを外嵌させた状態で各クリップ板41を互いに対向させ、この状態で上記のように付勢部材44の両側部をそれぞれの装着空間41cに挿入することによって、図2に示すように、桟材本体31にクリップ4が装着された状態になる。」(公報第4頁第5欄?第6欄の段落【0022】?【0028】参照)

(2)甲第2号証について
甲第2号証の刊行物である意匠登録第782935号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「衣服ハンガー用挟持具」の意匠に関して、図面とともに、次の説明事項が記載されている。
(イ)「本物品は、使用状態を示す参考図に示すように衣服ハンガーの横桟に取り付けてスカート等を挟持する為のもので、洗濯ばさみや紙ばさみとしても使用できる。」
(ロ)図面を見ると、「使用状態を示す参考図」には本物品の挟持具をフック部を形成したハンガー本体のアーム部に取り付けた態様が示されているとともに、「A-A断面図」には略U字形のばねを挟持具の内側に配置した態様が示されている。

(3)甲第3号証について
甲第3号証の刊行物である特開平8-205984号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「合成樹脂製クリップ」の発明に関して、図面の図1?図4とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は主としてハンガーに装着して使用される合成樹脂製クリップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】衣服等を挟持するクリップを備えたハンガーは、水平に保持されるハンガー部材の両端寄り部に金属製の“U”字形をしたバネでクリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップを装着し、この合成樹脂製クリップに衣服等を吊持するようにしている。
【0003】ところで、衣服等を製造メーカーから商社あるいは小売店に納品する場合にも上述のハンガーに衣服等を吊持した状態で納品するのであるが、昨今製造物責任法、所謂“PL法”により衣服等の縫製にも金属探知器により針等が残留していないのを確認してから納品されるようになっており、金属製の“U”字形をしたバネでクリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップではこの金属製バネに金属探知器が反応してしまう。
【0004】そこでこうした金属探知器に対応するために高密度カーボネイト樹脂を主体とした複合材料により“U”字形に折り返した弾性を有する合成樹脂製バネを合成樹脂製クリップに装着し、当該クリップをハンガーに装着したものが用いられている。」(公報第2頁第1欄の段落【0001】?【0004】参照)
(ロ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記高密度カーボネイト樹脂を主体とする複合材料製の合成樹脂製バネを装着した合成樹脂製クリップでは、このクリップの繰り返し使用時に時として合成樹脂製バネの折り返し部分で折れてしまい、折れて飛散する合成樹脂製バネの破片で手や顔等を傷付けてしまうことから、安全上に問題があった。
【0006】そこで、クリップ片を成形する時に合成樹脂製バネを被うようにすることも考えられるが、こうした場合には成形用金型の型抜きができなくなったり、成形用金型を複雑な構造で且つ金型の数(点数)が増えたりしてしまうことから、イニシャルコスト並びにランニングコストが高くなってしまうと言う問題もあった。本発明は上記問題点に鑑み提案されたもので、安全で且つ安価な合成樹脂製クリップを提供できるようにすることを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明にかかる合成樹脂製クリップは、一端に挟着部を形成したクリップ片を向かい合わせに対峙させ、両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネを装着し、該合成樹脂製バネの弾性力により両クリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップにおいて、合成樹脂製バネの先端内面部分に掛合部を形成し、該掛合部が掛合する受け止め部と、受け止め部より折り返えし側の合成樹脂製バネ部分を被う飛散防止部とをクリップ片に設けるとともに、受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とするものである。」(公報第1頁第1?2欄の段落【0005】?【0007】参照)
(ハ)「【0014】操作部7と受け止め部6との中間部分には図4に示すようなハンガー9に装着するため、ハンガー9の断面に嵌合する形状の装着嵌合部10が形成されており、上記クリップ片2の一端に生成される挟着部5にはスポンジ等からなるクッション材11が貼着されている。
【0015】また、上記飛散防止部8は、クリップ片2の操作部から合成樹脂製バネ3の掛合部4の近傍位置まで延出されたもので、図3に示すように飛散防止部8の先端8aと受け止め部6の先端6aとはこのクリップ片2を成形する金型(図示せず)の摺動方向Xに直交する方向Yで重なり合わないように隙間をもたせてある。このように、飛散防止部8の先端8aと受け止め部6の先端6aとが方向Yで重なり合わないようにすると金型が互いに干渉しないことから、クリップ片2を形成する成形金型が一対で済ませられるのである。」(公報第3頁第3欄の段落【0014】?【0015】参照)
(ニ)図1及び図2には、クリップ片の飛散防止部8の下側部分に開口部を設けた態様が示され、また、図4には、上方にフック部を有するハンガーの左右アーム部分に、合成樹脂製バネを取り付けた使用態様が示されている。

上記記載事項(イ)?(ハ)、並びに図面に示された内容を総合すると、刊行物3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
(引用発明3)
「操作部を備えるとともに一端に挟着部を形成したクリップ片を向かい合わせに対峙させ、両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネを装着し、該合成樹脂製バネの弾性力により両クリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップであって、合成樹脂製バネの先端内面部分に掛合部を形成し、該掛合部が掛合する受け止め部と、受け止め部より折り返えし側の合成樹脂製バネ部分を被う飛散防止部と、当該飛散防止部の下側部分に開口部とをクリップ片に設けるとともに、受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成した合成樹脂製クリップを、フック部を有するハンガーのアーム部分に取り付けたハンガー。」

7.当審の判断
(7-1)無効理由1(29条2項)について
(7-1-1)甲第1号証に記載の発明(以下、「引用発明1」という。)から容易といえるか否かについて

(a)本件発明1について
(イ)本件発明1と引用発明1との対比
ところで、上記「6.」の(1)の記載及び刊行物1の図1、図3によれば、そのハンガー腕、付勢部材、付勢部材の両側部、爪片、クリップ、クリップ板及び架橋片が、それぞれ本件発明1におけるハンガー本体、ばね、ばねの両脚片、係止爪、ピンチ、ピンチ片及びばね係止爪に相当することは明らかである。
そうすると、引用発明1は、少なくとも、フック部を形成したハンガー本体に取り付けられた桟材本体に、ピンチを配設したものであり、当該ピンチは、中央部の内側に外向きのばね係止爪を形成した2個の対向するピンチ片と、前記ピンチ片のばね係止爪と係合する内向きの係止爪を両脚片に形成した略U字形の合成樹脂製のばねとで構成されたものであり、ばねの両脚片を、対向するピンチ片のピンチ片本体とばね係止爪との間に形成された空間にそれぞれ挿入することによって、ばねの係止爪とばね係止爪が係合するように構成されたものであるといえる。
そこで、本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、いずれも、略U字形の合成樹脂製のばねを有するピンチが配設され、前記ピンチが、中央部の内側に外向きのばね係止爪を形成した2個の対向するピンチ片と、前記ピンチ片のばね係止爪と係合する内向きの係止爪を両脚片に形成した略U字形のばねとで構成した被服用ハンガーであって、前記略U字形のばねの両脚片を、前記2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、ピンチ片の本体(引用発明1)ないしピンチ片に形成されたばね保持片(本件発明)との間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成した被服用ハンガーである点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の各点で相違するということができる。

(相違点)
相違点1:ピンチが、本件発明1においては「ハンガー本体のアーム部」に配設されるのに対し、引用発明1においてはハンガー本体に取り付けられた桟材本体に配設される点。
相違点2:ピンチ片の端部に、本件発明1においては「挟持部」及び「操作部」が形成されるのに対し、引用発明1においては特段の部位形成がされる旨の記載がない点。
相違点3:本件発明1においては、「ピンチ片の中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片」を形成し、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置」するとともに、その下端がばね係止爪の上端より下方に位置するように、ばね保持片が形成されるのに対し、引用発明1においては、ピンチ片本体がばねの両脚部分の外側全体を覆うように一体として形成され、特段の部位形成がされていない点。

(ロ)各相違点の検討
(相違点1について)
ところで、「ハンガー本体」や「アーム部」の形状について、本件発明1は何ら限定するところがないし、また、訂正明細書の記載を見ても、ピンチを「ハンガー本体のアーム部」に取り付けることにより格別の作用効果がある旨の記載はなく、本件発明1は、従来汎用されている「フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形のばねを有するピンチを配設した被服用ハンガー」を前提として、そのピンチ部を改良しようとするものといえる。
そして、被服用ハンガーを、「フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形のばねを有するピンチを配設」して構成することは、例えば刊行物2にも記載されているように、従来より周知の技術であったといえる。
そうすると、引用発明1において、桟材本体をハンガー本体に取り付ける別部材とせず、これに相当する部分を一体としてハンガー本体を形成し、これにピンチを配設するように構成することは、当業者が適宜採用し得た設計事項であるといえる。

(相違点2について)
本件発明1の「挟持部」及び「操作部」について、訂正明細書には、「発明の実施の形態」の項の段落【0012】において、「ピンチ片1の本体10の一端に被服を挟持する挟持部11を、他端に指を掛けて押圧する操作部12を形成」する旨が記載されているにすぎず、その形状等については何らの具体的な説明もなく、これを設けることによる格別の効果も示唆されていない。
そして、本件発明1の「挟持部」及び「操作部」につき、請求項1にその具体的な形状等について何らの限定がないことも明らかであるから、上記「挟持部」及び「操作部」とは、ピンチ片において、それぞれ端部に所在する、「被服を挟持する」部位及び「指をかけて押圧する」部位を示しているにすぎないものというべきである。
そうすると、引用発明1におけるクリップ板の下端部が被服を挟持する部位である本件発明1の「挟持部」に、同じく、その上端部が指をかけて押圧する部位である「操作部」に、それぞれ相当するというべきであるから、上記相違点2は、実質的には相違点ではないということができる。

(相違点3について)
訂正明細書には、「ばね保持片」の作用効果について、「略U字形のばねの両脚片が露出することがなく、ばねが破損しても、破損したばねの破片が飛散することがな」い旨が記載されているにとどまるといえるから、本件発明1における「ばね保持片」は、ばねの両脚片を露出させず、ばねの破損時にその破片が飛散することを防止する効果を奏するものというべきである。
ところで、刊行物3に、「飛散防止部8の先端8aと受け止め部6の先端6aとが方向Yで重なり合わないようにすると金型が互いに干渉しないことから、クリップ片2を形成する成形金型が一対で済ませられるのである。」との記載があるように、成形金型の抜き方向において互いに重なり合わないように成形部分を配置させた構成は、成形金型を一対で済ますことができるという効果を一義的に奏するということができる。
これを本件発明1の相違点3に係る構成について見ると、その「ピンチ片の中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片」を形成し、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置」するとともに、その下端がばね係止爪の上端より下方に位置するように、ばね保持片が形成されるものと構成した点は、その成形金型の抜き方向をピンチ片の正面に向かう方向(注:ピンチ片の外側又は内側の面に直交する方向であって、刊行物3に記載のX方向と同じ方向である。)と想定すると、上述したところの互いに重なり合わないように成形部分を配置させた構成に相当することが明らかである。
(ちなみに、訂正明細書の実施例に示されたピンチ片の各部形態から見ると、当該ピンチ片を製造する際に成型金型を用いることやその成形金型の抜き方向を、刊行物3と同様の、ピンチ片の正面方向(ピンチ片の外側又は内側の面に直交する方向)と想定していることも当業者が容易に理解できる。すなわち、本件発明1における「ピンチ片」が合成樹脂製により製造される、いいかえれば、樹脂成形により製造されることを想定したものであることは、訂正明細書の段落【0002】に「この被服用ハンガーは、被服を被服用ハンガーに保持した状態で、縫製の際に使用した針の残留を検知する検針装置にかけることができるように、略U字形のばねを有するピンチを含むすべての部材を、鉄分を有しない合成樹脂により製造するようにしている。」(注:下線は当審が付記した。)という本件発明が前提としている従来技術の記載から見ても明らかであり、また、その実施例に示されたピンチ片の各部形態には(刊行物3の図3のX方向と同様に)一定の方向性が考慮されていることも理解できる。)
そこで、相違点3につき、他の証拠を検討する。
本件発明1のピンチ片の中央部の外側に「開口部」を備える点については、被請求人が答弁書(答弁書第7頁)において主張するとおり、ピンチ片の中央部の外側に開口部を備えることは、例えば、特開平8-205984号公報(乙第6号証)にも示されるように、従来より周知の技術であったといえる。
また、フック部を有するハンガーのアーム部分に取り付けた合成樹脂製クリップにおいて、そのクリップ片に、合成樹脂製バネの先端内面部分の掛合部が掛合する受け止め部と合成樹脂製バネ部分を被う飛散防止部と、当該飛散防止部の下側部分に開口部とを設けるとともに、受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成したものは、引用発明3により本件特許出願前に公知の技術であったということができる。
しかしながら、本件発明1において、ピンチ片の中央部の外側に「開口部」を備えることを前提として、この開口部の一部を塞ぐばね保持片を形成するとともに、「ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置」するとともに、その下端がばね係止爪の上端より下方に位置するように、ばね保持片が形成されるものと構成した点については、このような構成を記載ないし示唆する他の証拠を見出すことができない。
そして、本件発明1は、上下方向に細長い「ばね保持片15」が開口部分の中央部分を塞ぐとともに、その「ばね係止爪14」と「ばね保持片15」とを、このような左右方向で重ならない配置関係のものとして構成することにより、引用発明3におけるのと同様の金型の効果を奏するに止まらず、その上下方向に細長い「ばね保持片15」が開口部分の中央部分を塞ぐことにより、開口部分の間隙を幅方向で実質的に半減させることができるという効果を併せて奏することができるといえるから、上述した本件発明1の効果であるところの破損したばねの破片がピンチ片の外側へ飛散するのを防止する効果において、引用発明3のものと比較してより優れた効果を奏することができるといえる。
してみると、相違点3に係る本件発明1の構成は、刊行物1ないし3、並びに他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

(なお、審判請求人は、平成17年10月12日に弁駁書(第3回)において、ばねの破片の飛散防止効果につき、参考資料10に示されるように、略U字形のばねはその折り曲げ部分(屈曲部)で2分されるように破損するから、本件発明1と引用発明3とにばねの破片の飛散防止効果についての差異はない旨を主張するので、この点について付言する。
ところで、略U字形のばねを、どのような幅や厚さを備える形態のものと設計するか、いずれの箇所で破損するものと設計するか等については多様な形態が選択的であるといえる。
仮に、参考資料10のように破損する態様で設計されたことを前提にして、これを甲第3号証の図2で見ると、図2の略U字形のばねがその屈曲部から左右の両側に2分された場合、その破片は左右の両側の下方に存在する開口部方向へ落下ないし飛散することが通常想定できる(2分という単純な破損の場合は、その掛合部4が受け止め部6に掛合している状態となるので、上方へ飛散することがない)。
そうすると、上記の開口部方向へ落下ないし飛散するところの左右両側の破片を、さらにピンチ片の外側へ落下ないし飛散することになるか否かは、その屈曲部から左右の両側に2分された場合であっても、その開口部の形態や広さ、いいかえれば、開口部の大きさによって左右されることになる。)

以上検討したことから、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に基いて当業者が容易に発明できたものということができない。

(b)本件発明2について
(イ)本件発明2と引用発明1との対比
本件発明2は本件発明1を引用する発明であるから、本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記一致点で一致し、上記相違点1?3に加えて、次の点で相違するといえる。

(相違点4)本件発明2は、「ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設した」のに対して、引用発明1がこのような構成を備えていない点。

(ロ)各相違点の検討
上記「(a)本件発明1について」で検討したとおり、相違点3に係る本件発明2の構成は、刊行物2ないし3、並びに他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に基いて当業者が容易に発明できたものということができない。

(7-1-2)甲第3号証から容易といえるか否かについて
ところで、被請求人は、甲第3号証が、本件特許につき、先の無効審判事件(無効2001-35185号事件)における証拠(甲第1号証)と同一の証拠であるから、甲第3号証に基づく無効審判の請求部分は、実質的に先の無効審判事件と同一の事実及び同一の証拠に基づく審判請求であるから、特許法第167条の規定に違反してなされた不適法な審判請求であるから、却下されるべきである旨を主張しているものの、甲第3号証に記載の発明(引用発明3)から容易といえるか否かについても付言すると、以下のとおりである。

(a)本件発明1について
(イ)本件発明1と引用発明3との対比
本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「両クリップ片」は本件発明1の「2個の対向するピンチ片」に、引用発明3における「“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネ」は本件発明の「略U字形の合成樹脂製のばね」に、引用発明3における「合成樹脂製クリップ」は本件発明1の「ピンチ」に、引用発明3における「合成樹脂製バネの先端内面部分」に形成した「掛合部」は本件発明1の「ばねの脚片に内向きに形成した係止爪」に、引用発明3における「掛合部が掛合する受け止め部」は本件発明1の「ばね係止爪」に、それぞれ相当し、また、引用発明3における「クリップ片」に「飛散防止部の下側部分に開口部」を設けた点は、当該飛散防止部の位置がばねの両脚片の外側位置であることが明らかであるから、本件発明1の「ピンチ」に「ばねの両脚片の外側に開口部」を備えた点と、共に「ピンチ」に「ばねの両脚片の外側に開口部」を備える点で一致する。

してみると、両者は、「フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形の合成樹脂製のばねを有するとともに、ばねの両脚片の外側に開口部を備えたピンチを配設し、前記ピンチを、端部に挟持部及び操作部を、中央部の内側に外向きのばね係止爪を、それぞれ形成した2個の対向するピンチ片と、前記ピンチ片のばね係止爪と係合する内向きの係止爪を両脚片に形成した略U字形のばねとで構成した被服用ハンガーであって、前記略U字形のばねの両脚片を、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成した被服用ハンガー。」である点(以下、「一致点の1」という。)で一致し、次の点で相違するということができる。

(相違点1の1)本件発明1においては、「ピンチ片の中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片」を形成し、「前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置」するとともに、その下端がばね係止爪の上端より下方に位置するように、ばね保持片が形成されるのに対し、引用発明3においては、「受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成」している点。

(ロ)相違点の検討
ところで、上記「相違点1の1」に係る本件発明1の構成は、上記「(7-1-1)」の「(a)本件発明1について」で検討したところの「相違点3」に係る本件発明1の構成と同じである。
してみると、上記「相違点1の1」に係る本件発明1の構成は、同上「(a)本件発明1について」で検討したとおり、刊行物1ないし2、並びに他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

(b)本件発明2について
(イ)本件発明2と引用発明3との対比
本件発明2は本件発明1を引用する発明であるから、本件発明2と引用発明3とを対比すると、上記「一致点の1」で一致し、上記「相違点1の1」に加えて、上記「(7-1-1)」の「(b)本件発明2について」で検討したところの「相違点4」で相違する。

(ロ)各相違点の検討
上記「(7-1-2)」の「(a)本件発明1について」で検討したとおり、「相違点1の1」に係る本件発明1の構成は、刊行物1ないし2、並びに他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。

以上のことから、本件発明1及び2は、相違点4について検討するまでもなく、甲第3号証に記載された発明からも当業者が容易に発明できたものということができない。

(7-2)無効理由2(特許法第36条第4項及び第6項第2号違反)について
(a)請求項1の記載について
(イ)請求項1に記載の「その下端」における「その」が何を意味するのか。
審判請求人は、請求項1及び発明の詳細な説明(段落【0014】)に記載の「その下端」における「その」が何を指すのか不明であると主張する。
ところで、請求項1には、「前記2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、該ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間」と記載されている。
そうすると、上記「空間」が「ばね係止爪」と「ばね保持片」との間に形成されたものであると理解できるのであるから、上記記載中の「その下端が下方に位置する」という事項が「ばね保持片」を修飾するものであることは明らかであって、上記「その」が「ばね保持片」を意味することも明らかである。
また、発明の詳細な説明(段落【0014】)に記載の事項も、上記と同様の理由から、上記「その」が「ばね保持片」を意味することが明らかである。

(b)請求項2について
審判請求人は、請求項2に記載の「ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設した」点の突設長さが不明あり、当業者が実施不可能であるから明細書の記載が不備であると主張する。
ところで、2個の対向するピンチ片間の適宜箇所に補強リブを設けることは、例を示すまでもなく、従来より周知の技術であったといえる。
そして、このような補強リブを設けるに際して、2個の対向するピンチ片間において、それらがピンチ片の操作時に相互に抵触しない程度に突設させて設けるようにすることも、当業者であれば当然配慮して採用できる設計的事項であるといえる。
そうすると、請求項2に記載の構成が発明の詳細な説明に具体的長さを明示して記載されていないことのみをもって、当業者が実施できる程度に記載されていないということができない。
(c)「… 略U字形のばねの両脚片が露出することがなく…」という発明の効果の記載について
審判請求人は、請求項1に記載の発明の効果として、本件特許明細書に「… 略U字形のばねの両脚片が露出することがなく…」(例えば、段落【0021】参照)と記載されているが、発明の詳細な説明及び図面には「ばね保持片がばねの両脚片を露出させることのない」構造が記載されていないと主張する。
しかしながら、上記「… 略U字形のばねの両脚片が露出することがなく…」は、上述の本件特許明細書(訂正明細書も同じ)の段落【0003】に記載した従来技術のような略U字形のばねがピンチ片の外側に露出した構造とは異なり、当該ばねが外側に位置することがないように構成したことを意味したものであることが明らかであり、また、発明の詳細な説明及び図面には、このような略U字形のばねがピンチ片の外側に位置することがないものと構成した実施例が開示されているといえる。

(d)まとめ
以上検討したことから、本件特許明細書、すなわち、訂正明細書の記載に、請求人が主張するような記載不備はないといえる。

8.むすび
以上のとおり、本件発明1?2の特許は、審判請求人が主張する理由及び証拠によっては、無効とすべきものということができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
被服用ハンガー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形の合成樹脂製のばねを有するとともにばねの両脚片の外側に開口部を備えたピンチを配設し、前記ピンチを、端部に挟持部及び操作部を、中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪を、中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片を、それぞれ形成した2個の対向するピンチ片と、前記ピンチ片のばね係止爪と係合する内向きの係止爪を両脚片に形成した略U字形のばねとで構成した被服用ハンガーであって、前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、前記略U字形のばねの両脚片を、前記2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、該ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成したことを特徴とする被服用ハンガー。
【請求項2】ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設したことを特徴とする請求項1記載の被服用ハンガー。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被服用ハンガーに関し、特に、スラックス、スカート等の被服(本明細書において、単に「被服」という。)を、縫製工場から販売店等へ出荷する際に使用される業務用の被服用ハンガーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
被服を、縫製工場から販売店等へ出荷する際に使用される業務用の被服用ハンガーとして、従来、フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形のばねを有するピンチを配設した被服用ハンガーが汎用されている(例えば、実開平5-20673号公報参照)。
この被服用ハンガーは、被服を被服用ハンガーに保持した状態で、縫製の際に使用した針の残留を検知する検針装置にかけることができるように、略U字形のばねを有するピンチを含むすべての部材を、鉄分を有しない合成樹脂により製造するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、合成樹脂製のばねは、金属製のばねに比べて破損し易いという問題があった。
しかしながら、従来の被服用ハンガーは、被服用ハンガーのピンチを組み立てる際の作業性等を考慮して、ピンチを開放的な構造としているため、略U字形のばねが露出し、このため、ばねが破損したとき、破損したばねの破片が飛散して、作業者等が負傷するおそれがあった。
【0004】
本発明は、上記従来の被服用ハンガーの有する問題点に鑑み、ピンチに用いる略U字形のばねが破損しても、破損したばねの破片が飛散することがなく、かつ、被服用ハンガーのピンチを簡単に組み立てることができる被服用ハンガーを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の被服用ハンガーは、フック部を形成したハンガー本体のアーム部に、略U字形の合成樹脂製のばねを有するとともにばねの両脚片の外側に開口部を備えたピンチを配設し、前記ピンチを、端部に挟持部及び操作部を、中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪を、中央部の外側に前記開口部の一部を塞ぐばね保持片を、それぞれ形成した2個の対向するピンチ片と、前記ピンチ片のばね係止爪と係合する内向きの係止爪を両脚片に形成した略U字形のばねとで構成した被服用ハンガーであって、前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、前記略U字形のばねの両脚片を、前記2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、該ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成したことを特徴とする。
【0006】
この被服用ハンガーは、ピンチを構成する2個の対向するピンチ片の中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪を、中央部の外側に開口部の一部を塞ぐばね保持片を、それぞれ形成し、前記ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して前記開口部の中央部に設けるとともに、該ばね保持片と前記一対のばね係止爪とを、前記開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、略U字形のばねの両脚片を、2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成するようにしているので、略U字形のばねの両脚片が露出することがなく、ばねが破損しても、破損したばねの破片が飛散することがない。
【0007】
この場合において、ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設することができる。
【0008】
これにより、ピンチ片の強度が向上するとともに、補強リブにより、ばねが破損しても、破損したばねの破片が飛散することをより確実に防止することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の被服用ハンガーの実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1?図6に、本発明の被服用ハンガーの一実施例を示す。
この被服用ハンガーは、合成樹脂にて一体成形されたハンガー本体Hと、このハンガー本体Hのアーム部H1,H2に摺動可能に支持した2個のピンチPとで構成される。
【0010】
ハンガー本体Hは、図1に示すように、中央部にフック部H3を形成し、両側に略水平に伸びるアーム部H1,H2を一体に形成するようにしているが、その形状は、図1のものに限定されず、任意の形状のものを採用することができる。
【0011】
各種サイズのスラックス、スカート等の被服を保持することができるように、アーム部H1,H2に摺動可能に支持されるピンチPは、図2以下に示すように、2個の合成樹脂製のピンチ片1,1と、1個の略U字形の合成樹脂製のばね2とからなり、同じ形状のピンチ片1,1を互いに対向させ、これを略U字形のばね2により一体に組み立てるようにする。
【0012】
ピンチ片1は、図2?図4に示すように、ばね2の両脚片21,21の外側に開口部を備えており、ピンチ片1の本体10の一端に被服を挟持する挟持部11を、他端に指を掛けて押圧する操作部12を形成し、この挟持部11と操作部12間の本体10の両側に補強リブを兼ねた側片13,13を一体に形成するとともに、本体10の中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪14,14を、中央部の外側に開口部の一部を塞ぐばね保持片15を、それぞれ形成し、ばね保持片15を上下方向に細長い形状に形成して開口部の中央部に設けるとともに、このばね保持片15と一対のばね係止爪14,14とを、開口部から見てピンチ片1の左右方向で重ならない関係に配置し、また、側片13の中央部に、ハンガー本体Hのアーム部H1,H2を摺動可能に挟持するためのハンガー保持溝16を形成し、さらに、操作部12の内側に略逆L字形をした補強リブ17を、ピンチ片1より突出するように突設して構成するようにする。
【0013】
この場合、一対のばね係止爪14,14は、ピンチ片1の中央部に所要の弾性を備えるようにして突出し、略U字形のばね2の両脚片21,21を、2個のピンチ片1,1の一対のばね係止爪14,14とばね保持片15の間に形成された空間18にそれぞれ挿入することにより、ばね2の脚片21に内向きに形成した係止爪22と一対のばね係止爪14,14とが係合するように構成するようにする。
【0014】
そして、略U字形のばね2は、その脚片21が、ピンチ片1の一対のばね係止爪14,14と、この一対のばね係止爪14,14の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片15の間に形成された空間18に挿入することにより、ばね2が破損した場合に、破損したばね2の破片が飛散することを防止することができるものとなる。
【0015】
また、ピンチ片1の操作部12の内側に、ピンチ片1より突出するように突設した略逆L字形をした補強リブ17により、ピンチ片1の強度を向上させるとともに、この補強リブ17の水平片17aにより、略U字形のばね2の上方を覆って、ばね2が破損した場合に、破損したばね2の破片が飛散することを防止することができるものとなる。
この補強リブ17の水平片17aは、2個の対向するピンチ片1,1間において抵触しないように、操作部12の幅の略1/2に形成するようにする。
【0016】
略U字形の合成樹脂製のばね2は、図2及び図5に示すように、その両脚片21,21の端部に内向きに係止爪22,22を、それぞれ一体に形成して構成するようにする。
【0017】
次に、上記の2個のピンチ片1,1と、1個の略U字形のばね2とを用いてピンチPを組み立てる方法について説明する。
【0018】
まず、図6(A)に示すように、2個のピンチ片1,1を、位置をずらして対向させ、このピンチ片1,1間に、略U字形のばね2を配設する。
このとき、一方のピンチ片1(図6において、左側のピンチ片1)の一対のばね係止爪14,14とばね保持片15の間に形成された空間18に、略U字形のばね2の一方の脚片21を挿入することにより、ばね2の脚片21に内向きに形成した係止爪22と一対のばね係止爪14,14とが係合するようにする。
【0019】
この状態で、2個のピンチ片1,1を対向するように相対的にスライドさせることにより、図6(B)に示すように、他方のピンチ片1(図6において、右側のピンチ片1)の一対のばね係止爪14,14とばね保持片15の間に形成された空間18に、略U字形のばね2の他方の脚片21を挿入することにより、ばね2の脚片21に内向きに形成した係止爪22と一対のばね係止爪14,14とが係合するようにして、対向するピンチ片1,1を略U字形のばね2により一体に組み立てることができ、組立時の作業性を向上することができる。
【0020】
その後、ピンチ片1の挟持部11側から、略U字形のばね2に付勢力に抗して対向するピンチ片1,1を拡開するようにしながら、ハンガー本体Hのアーム部H1,H2を押し込むことにより、ピンチ片1,1が、ピンチ片1の側片13の中央部に形成したハンガー保持溝16を介して、ハンガー本体Hのアーム部H1,H2を挟持するようにして、ピンチPをハンガー本体Hに装着するようにする。
【0021】
【発明の効果】
本発明の被服用ハンガーによれば、ピンチを構成する2個の対向するピンチ片の中央部の内側に一対の外向きのばね係止爪を、中央部の外側に開口部の一部を塞ぐばね保持片を、それぞれ形成し、ばね保持片を上下方向に細長い形状に形成して開口部の中央部に設けるとともに、このばね保持片と一対のばね係止爪とを、開口部から見てピンチ片の左右方向で重ならない関係に配置し、略U字形のばねの両脚片を、2個の対向するピンチ片のばね係止爪と、ばね係止爪の上端よりその下端が下方に位置するばね保持片の間に形成された空間にそれぞれ挿入することにより、ばねの脚片に内向きに形成した係止爪とばね係止爪とが係合するように構成するようにしているので、略U字形のばねの両脚片が露出することがなく、ばねが破損しても、破損したばねの破片が飛散することがなく、安全性の高い被服用ハンガーとすることができる。
【0022】
また、ピンチ片の操作部の内側に略逆L字形をした補強リブを、2個の対向するピンチ片間において抵触しないように、ピンチ片より突出するように突設することにより、ピンチ片の強度が向上するとともに、補強リブにより、ばねが破損しても、破損したばねの破片が飛散することをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の被服用ハンガーの一実施例を示す正面図である。
【図2】
図1のA-A断面図で、(A)はピンチを開いた状態、(B)はピンチが閉じている状態を示す。
【図3】
ピンチ片の説明図で、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図4】
ピンチ片の説明図で、(A)は背面図、(B)は(A)のB-B断面図、(C)は底面図である。
【図5】
ばねの説明図で、(A)は正面図、(B)は(A)のC-C断面図である。
【図6】
ピンチの組立説明図で、(A)は2個のピンチ片を位置をずらして対向させた状態を示す側面断面図、(B)は2個のピンチ片を対向するように相対的にスライドさせた状態を示す側面断面図である。
【符号の説明】
H ハンガー本体
P ピンチ
1 ピンチ片
11 挟持部
12 操作部
13 側片
14 ばね係止爪
15 ばね保持片
16 ハンガー保持溝
17 補強リブ
18 空間
2 ばね
21 脚片
22 係止爪
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-01-31 
結審通知日 2005-03-23 
審決日 2005-04-06 
出願番号 特願平10-212425
審決分類 P 1 113・ 537- YA (A47G)
P 1 113・ 832- YA (A47G)
P 1 113・ 121- YA (A47G)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 川本 真裕
北川 清伸
登録日 2001-01-26 
登録番号 特許第3153513号(P3153513)
発明の名称 被服用ハンガー  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 杉本 勝徳  
代理人 杉本 勝徳  

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