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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G02B
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G02B
管理番号 1171952
審判番号 無効2006-80212  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-20 
確定日 2008-02-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2895435号発明「耐久性の優れた偏光フィルムの製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2895435号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 8年 2月 9日 特許出願(特願平8-48143号)
(平成 1年 3月27日 原出願(特願平1-76295号)出願日)
平成11年 2月18日 特許査定
平成11年 3月 5日 設定登録(特許第2895435号)
平成11年11月22日 特許異議申立
平成12年10月12日 訂正請求
平成12年12月 8日 異議決定(訂正を認める。特許を維持する。)
平成18年10月20日 特許無効審判請求(無効2006-80212号)
平成19年 1月 5日 答弁書提出
平成19年 4月27日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成19年 4月27日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成19年 4月27日 口頭審理
平成19年 3月30日 上申書提出(被請求人)

第2.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、平成12年10月12日付の訂正請求に係る訂正によって訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「平均重合度2600以上のポリビニルアルコ-ル系樹脂フイルムを該樹脂の水溶液を流延することにより製膜した後、得られたフィルムに対してヨウ素染色、一軸延伸及びホウ素化合物溶液中での浸漬処理を行って偏光フイルムを製造するに当たり、ホウ素化合物溶液中での浸漬処理中に一軸延伸し、延伸後のフイルム巾が延伸前のフイルム巾の60%以下(ただし40%を下限とする)になるように、一軸延伸することを特徴とする耐久性の優れた偏光フイルムの製造法。」 (以下、「本件発明」という。)

第3.請求人の主張の概要及び提出した証拠
1.請求人の主張の概要
(1)無効理由1
本件発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項(または第29条第1項第3号)の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきである。

(2)無効理由2
発明の詳細な説明において、フィルム巾減少率を所定の範囲に制御する方法が開示されておらず、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されておらず、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしておらず、無効とされるべきである。

(3)無効理由3
特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、無効とされるべきである。

(4)無効理由4
特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでなく、特許法第36条第4項第2号に規定する要件を満たしておらず、無効とされるべきである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証: 特開平1-105204号公報(平成1年4月21日公開、甲第2号証の優先権主張の元となった出願の公開公報)
(2)甲第2号証: 欧州特許出願公開第297927号明細書(平成1年1月4日公開)
(3)甲第3号証: 永田 良監修「偏光フィルムの応用」株式会社 シーエムシー、(1986年2月10日)p.82-83
(4)甲第4号証: 特開昭54-40874号公報
(5)甲第10号証: 特開昭61-24425号公報
(6)甲第11号証: 特開昭60-218603号公報

第4.被請求人の主張の概要
(1)無効理由1について
甲第2号証には、延伸前後のフィルム巾の収縮率を特定の範囲に制御するという本件発明の技術思想は何ら開示されていない。
甲3、4、10及び11号証について、請求人は、本件発明の収縮について動機付けを与えていると主張するが、甲3号証はフィルム巾のことを具体的に明示している記載とは読み取れず、甲4、10及び11号証はいずれも具体例として示されたフィルムはポリ塩化ビニル、ポリエステル及びナイロンなどのPVAフィルム以外のものであり、本件発明の前提技術とは共通性がなく動機付けにはなり得ないものである。

(2)無効理由2について
PVAフィルムの状態、ヨウ素染色条件及び延伸条件等は、本件明細書の記載及び当業者の技術常識に照らせば、これらの条件は、本件発明の目的を達成する範囲内で適宜設定できるものであり、いずれも当業者にとって自明な事項というべきである。

(3)無効理由3について
本件実施例に関する具体的記載を含め、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件請求項1に係る発明が当業者の出願時の技術常識に照らし裏付けられているといえる。よって、本件請求項1には請求人が主張するような記載不備は存在しない。

(4)無効理由4について
本件発明は、PVAフィルムを樹脂の水溶液を流延することにより製膜すると共に、延伸前後のフィルム巾の収縮率を特定の範囲に制御して一軸延伸するという技術思想を有するものであり、かかる技術的事項を必須の構成要件として明確に規定しているから、請求人の主張するような明細書の瑕疵はない。

第5.当審の判断
まず、明細書の記載不備について検討し、その後、甲第2号証に記載された発明に基づく容易性について検討する。

I.無効理由2(明細書の記載不備)について
請求項1に係る発明は、上記「第2.本件発明」に記載したとおりであり、発明の詳細な説明に記載された実施例には、材料に関して、発明に含まれる2種類の平均重合度のPVAフィルムを用いた実施例が2つ(実施例1、2)と、発明に含まれない1種類の平均重合度のPVAフィルムを用いた対象例が1つ(対象例1)記載され、また、巾の減少率に関して、実施例が3つ(実施例1、3、4)と、対象例が1つ(対象例2)記載されている。
また、効果についても、実施例が対象例に比較して偏光度が低下しない点が、一応記載されている。
特定の平均重合度のPVAフィルムを選択すること、及び延伸により特定の巾減少率を得ることは、当業者が過度の試行錯誤を必要とせずに実施可能な技術事項と認められ、実施例、対象例も記載されていることから、当業者が容易に発明の実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないということはできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たさないものとはいえない。

II.無効理由3(特許請求の範囲の記載不備)について
請求項1に係る発明は、上記「第2.本件発明」に記載したとおりであり、発明の詳細な説明には、段落【0005】?【0012】には、【発明の実施の形態】が記載され、段落【0013】以下には、本件発明に含まれる4種類の実施例が記載されている。
また、効果についても、実施例が対象例に比較して偏光度が低下しない点が、一応記載されている。
したがって、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されているといえ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。

III.無効理由4(特許請求の範囲の記載不備)について
請求項1に係る発明は、上記「第2.本件発明」に記載したとおりであり、一軸延伸が、ホウ素化合物溶液中での浸漬処理中の一軸延伸に限られるか否か、一部必ずしも明確とはいえない部分もあるが、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないとまではいえず、特許法第36条第4項第2号に規定する要件を満たさないものとはいえない。

IV.無効理由1(容易性)について
1.甲号各証の記載内容
無効理由1の証拠方法として挙げられた甲第2号証?甲第4号証、甲第10号証及び甲第11号証には以下の事項が記載されている。
(1)甲第2号証
ア.この発明の一つの目的は、改良された、耐熱性と耐湿熱性を有する偏光フィルムを提供することである。発明のさらなる目的は、高偏光度及び透過性のような優れた光学特性を有する偏光フィルムを提供することである。(明細書第2頁第2欄9?15行)

イ.以下のステップからなる偏光フィルムの製造法(a)少なくとも2500の重合度を有するポリビニルアルコールを濃度が2?35重量%になるよう溶剤に溶解する;
(b)得られたポリビニルアルコール溶液からフィルムを形成する;
(c)延伸フィルムを得るために得られたフィルムを一軸延伸する;
において、沃素又は二色性色素から選択される少なくとも一つの偏光材料を、ステップ(a)の溶液中に存在させるか、ステップ(b)又はステップ(c)のフィルム、あるいは延伸したフィルムに適用するかする偏光フィルムの製造法。(明細書第7頁第12欄クレーム4)

ウ.上記のようにして形成されたフィルム、すなわち未延伸フィルムを一方向に破断に至らない範囲で通常5倍以上、好ましくは7倍以上延伸する。延伸倍率が5倍未満の場合は、優れた透過度及び偏光度を有する偏光フィルムが得られ難いことがある。延伸倍率は、高い程よいが、その上限は実用的には約20倍程度である。(明細書第4頁第5欄29?37行)

エ.上記の膨潤又は延伸がその中で行われる液の例としては、偏光材料及び無機塩のような染色助剤を含む染色液、及び例えば0.5?3重量%のホウ酸のような架橋剤を含んだ水溶液等が用いられる。(明細書第4頁第5欄62行?第6欄2行)

オ.上述の偏光材料を適用するのは、湿式延伸プロセスにおいては、膨潤あるいは延伸工程が好ましく、乾式延伸プロセスにおいては、延伸後の工程が好ましい。いずれの場合も、0.5?15重量%のホウ酸溶液で架橋処理することが好ましい。(明細書第5頁第7欄48?54行)

カ.実施例3
重合度4980、ケン化度99.8%のPVAをPVA濃度が7重量%になるようDMSO/水=95/5(重量比)の混合溶剤に80℃で加温溶解し、PVA溶液を作成した。この溶液を20℃でバーコータを用いて厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)フィルムの上に塗布し、メタノール浴中に10分間浸漬してフィルム化し、室温で自然乾燥し、PVAフィルムを得た。
次いで、PETフィルムからPVAフィルムを剥離し、このPVAフィルムを20℃の沃素/沃化カリウム溶液(0.05重量%10.25重量%)中に5分間浸漬し、同溶液中で9倍に一軸延伸した後、3重量%のホウ酸浴に室温で15分間浸漬し、自然乾燥後、65℃で熱処理した。得られた偏光フィルム(厚み7μm)の透過度は44.1%、偏光度は100%であった。
実施例4.比較例3
フィルムを沃素/沃化カリウム溶液中に浸漬する代わりに二色性分散染料であるミケトン・ファースト・ピンクRL(三井東圧株式会社製)を0.5重量%含んだメタノールをPVAフィルムの凝固液兼染色液として使用する以外は実施例3と同様にして偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムは赤色透明であり、波長525nmにおける透過度は33.0%、偏光度は98.7%であった。
また、市販のPVAフィルム(重合度1700、ケン化度99.9%)を同様にして、ミケトン・ファースト・ピンクRLを0.5重量%含んだメタノール中で染色したが、染色不可能であった。
実施例5
沃素を1重量%添加する以外は、実施例4におけるのと同じ製法で作成したPVA製膜溶液を20℃でバーコータによりPETフィルム上に製膜し、メタノール浴中に浸漬して、フィルムを得た。得られたフィルムを室温で自然乾燥した。次いで、室温の3重量%ホウ酸溶液中で延伸倍率6倍まで延伸し、水洗後室温で自然乾燥した。得られた偏光フィルム(厚み11μm)の透過度は46.2%、偏光度は99.4%であった。(明細書第6頁第10欄17行?第7頁第11欄14行)

上記記載事項イ.の「沃素又は二色性色素から選択される少なくとも一つの偏光材料を、ステップ(a)の溶液中に存在させるか、ステップ(b)又はステップ(c)のフィルム、あるいは延伸したフィルムに適用する」は、ヨウ素染色に相当することは明らかである。
また、上記記載事項ウ.の「未延伸フィルムを一方向に破断に至らない範囲で通常5倍以上、好ましくは7倍以上延伸する。」、上記記載事項エ.の「延伸がその中で行われる液の例としては、偏光材料及び無機塩のような染色助剤を含む染色液、及び例えば0.5?3重量%のホウ酸のような架橋剤を含んだ水溶液等が用いられる。」及び上記記載事項カ.の「室温の3重量%ホウ酸溶液中で延伸倍率6倍まで延伸し」等から、ホウ酸溶液中で一軸延伸することが開示されている。

したがって、甲第2号証には、
「少なくとも2500の重合度を有するポリビニルアルコールを溶剤に溶解し、得られたポリビニルアルコール溶液からフィルムを形成した後、ヨウ素染色、一軸延伸及びホウ酸溶液中で架橋処理して、偏光フィルムを製造するに当たり、ホウ酸溶液中で一軸延伸する改良された、耐熱性と耐湿熱性を有する偏光フィルムの製造法。」(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

(2)甲第3号証
キ.染料系偏光フィルムはPVA-ヨウ素系に比較して偏光性が劣るのは染料自身の異方性(二色性)がヨウ素錯体に比較して低いためと考えられている。しかし、最近はPVA延伸による配向性を高めることによっても、偏光性能を改良するようになっている。染料系偏光フィルムの製造プロセスは、ヨウ素系と同じように、薄いPVAフィルムに二色性の高い直接染料を拡散吸着させ、これをホウ酸水溶液中で4倍程度に延伸する(湿式法)。浸漬染色PVAフィルムを一方向に延伸するとPVAポリマーに微結晶化が起こり、非結晶領域に強い配向性がみられ、これと同時にPVAフィルムの表面から拡散吸収した染料が運動性の高い非結晶領域に優先的に吸着するので、PVA高分子鎖にそって、二色性染料の長いセグメントが配列する。この結果、染料による偏光効果が得られると考えられる。偏光度の改良は延伸工程はもとより、延伸後の処理工程においても横幅の収縮が大きいほど、その効果は大きい。(第83頁11?21行)

(3)甲第4号証
ク.一方、分子配向という点では積極的に幅方向の収縮を行なわせるピュア・ストレッチの方が優れているとされている。しかし、ピュア・ストレッチによれば、装置スペース的に不利、即ち、送り出しローラと巻き取りローラ間の距離はフィルム幅の通常1?5?∞倍程度要するとされワイド・ストレッチに比し大きなものになる。ところが、長さ方向の一軸配向性は極めて良好なものが得られることになり、均一な配向を必要とする用途としては好適な延伸方法と言える。前述の米国特許においても述べるように、フイルムの一軸配向性を簡単に評価する手段として、未延伸フイルムに円形のマークを印し、延伸後に楕円形に変形した際の情円の長軸/短軸の値を測定、評価することにより一軸の分子配向性の比較が可能である。例えば、第1 図の様なフイルム幅、位置関係で、ポリビニル・アルコールを用いて長軸/短軸の値として24を得ている。この値が大きい程一軸配向性が良いことを意味するが、ワイド・ストレッチにおいては可塑剤の添加のない、理想的な延伸条件で最大10と言うことであるから第1図程度のピュアー・ストレッチの位置関係においてもワイド・ストレッチの最大値以上の一軸配向性を得ることが出来る。第2図に本発明の具体的な実施態様として延伸工程としてピュアー・ストレッチを採用した例を示す。(公報第2頁右下欄11行?第3頁左上欄下から5行)

(4)甲第10号証
ケ.本発明でいう樹脂フイルムとは、透明なフイルムに成形することが可能で、かつ延伸可能な樹脂を溶融あるいは溶液キャスト等の公知の方法で成形して、得られるフイルムであり、たとえばポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリハロゲン化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール等の単独重合体あるいは共重合体からなる樹脂フイルムである。(公報第2頁右上欄15行?左下欄3行)

コ.本発明においては、上記未延伸フイルムを用いて公知の延伸機および延伸条件で延伸することにより厚み10?500μm程度の偏光フイルムを製造する。延伸倍率は通常2?15、好ましくは3?10であり、できるだけ高くするのが望ましい。更に、延伸後、熱寸法安定性向上のため熱固定処理を行うのが通常であり、必要により保護フイルムおよび粘着剤を片面あるいは両面に設けた偏光板とすることができる。(公報第3頁左上欄10?18行)

サ.実施例1
ポリエチレンテレフタレート樹脂(IV0.63)1Kgに二色性分散染料Miketon Polyester Blue TGSF(三井東圧化学(株)製)2gを均一にブレンドし・・・未延伸フィルム(300mm巾)を作成した。
このフイルムのほぼ中央部において縦(長手)方向に長さ100mmマークを刻印した後、二本の歯車からなる噛い合いロールの間に通し、平板尺で測定して該マーク長が約60mmなるよう波型に短縮処理を施した。この処理フイルムをクリップ式テンター延伸機に導き、75℃で横方向に5倍延伸し、190℃の熱処理部を1分間通過させ熱固定を行い、偏光フイルムを作成した。
その物性評価結果を表-1に示す。(公報第3頁右上欄下から2?左下欄15行)

シ.
表-1

※ テンター横延伸の場合はフイルムに刻印したマーク長さより求めた値、ロール縦延伸の場合は送り湾曲ロールの湾曲率から値を示す。(公報第4頁右上欄)

(5)甲第11号証
ス.要は延伸可能な温度下においてできるだけ局部延伸を避けて横(巾)方向の自由な収縮が起きるよう工夫して延伸すれば良好な偏光フィルムが得られる。(公報第3頁左上欄15?18行)

セ.実施例 1?6
ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(IV0.71)にアントラキノン系分散染料MiketonPolyester”BlueM-34”(三井東圧化学(株)製)を最終偏光フイルムとして単体透過率(To)がほぼ40%となるよう添加量を調節して均一に混合し、Tダイ(800mm巾)を備えた単軸押出機(65mmφ)で溶融製膜(290℃)し、フイルム中央部の平均厚みが75μm、 150μm、300μmとなるよう引取速度を調節し、スリットして500mm巾の未延伸フイルムを作成した。
このフィルムのほぼ中央部において横(巾)方向に100mm長のマークを刻印した後、一対のゴムロールと金属ロールよりなる線出しニップロールに導入し、順に65℃、69℃、74℃ にそれぞれ加熱された三本の予熱ロールを経た後、一組の引張延伸ニップロールで表-1に示す倍率で縦方向に延伸した。この時、三本の予熱ロール表面(クロムメッキ)においてフイルムが滑りながら延伸されており、横(巾)方向に収縮していることを確認した。更に、延伸ロールを経たフィルムを180℃に加熱されたアニールロールに接触(数秒)させ熱固定を行い偏光フィルムとした。
各々の延伸フイルムの厚みおよびマーク長さならびに光学的特性(λmax;640nm)および熱寸法安定性について測定した。結果を表-1に示す。
比較例1?2
実施例1 において得られた平均厚150μmの未延伸フイルムを用いて、線出しニップロールと同速度で回転する第3番目の予熱ロールにゴム製ピンチロールを取付け、同ロールに未延伸フイルムを密着させた状態で延伸した以外同様にして偏光フイルムを得た。この延伸フイルムの厚みおよびマーク長さならびに物性について測定した。その結果を表-1に示す。

表-1

(注-1)フイルム厚みはほぼ中央部において縦方向に10点測定した平均値を示す。
(注-2)マーク長の測定は縦方向5ヶ所で行った。(第3頁右下欄3行?第4頁右上欄)

3.対比
ア.引用発明の「少なくとも2500の重合度を有するポリビニルアルコールを溶剤に溶解し、得られたポリビニルアルコール溶液からフィルムを形成した」と、本件発明の「平均重合度2600以上のポリビニルアルコ-ル系樹脂フイルムを該樹脂の水溶液を流延することにより製膜した」とは、「所定の平均重合度以上のポリビニルアルコ-ル系樹脂を溶解してフイルムを製膜した」点で一致する。

イ.引用発明の「ホウ酸溶液中で架橋処理して」は、本件発明の「ホウ素化合物溶液中での浸漬処理を行って」に相当する。

ウ.引用発明の「ホウ酸溶液中で一軸延伸する」は、本件発明の「ホウ素化合物溶液中での浸漬処理中に一軸延伸し」に相当する。

エ.引用発明の「改良された、耐熱性と耐湿熱性を有する」は、本件発明の「耐久性の優れた」に相当する。

したがって、本件発明と引用発明とは、「所定の平均重合度以上のポリビニルアルコ-ル系樹脂を溶解してフイルムを製膜した後、得られたフィルムに対してヨウ素染色、一軸延伸及びホウ素化合物溶液中での浸漬処理を行って偏光フイルムを製造するに当たり、ホウ素化合物溶液中での浸漬処理中に一軸延伸することを特徴とする耐久性の優れた偏光フイルムの製造法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1
所定の平均重合度が、本件発明は、2600以上であるのに対して、引用発明は、少なくとも2500である点、

相違点2
製膜に当たり、本件発明は、樹脂の水溶液を流延することにより製膜したのに対し、引用発明は、溶剤に溶解したものであり、流延については記載がない点。

相違点3
本件発明は、延伸後のフイルム巾が延伸前のフイルム巾の60%以下(ただし40%を下限とする)になるように、一軸延伸するのに対して、引用発明は、巾についての限定がない点。

4.判断
相違点1について
甲第2号証の実施例3?5には、重合度4980のものが記載されており(上記記載事項カ.)、他の実施例も実施例7が重合度3250、実施例8が重合度6740といずれも2600以上であるので、引用発明において、上記相違点1に係る本件発明の構成を限定することは当業者にとって容易である。

相違点2について
本件特許明細書段落【0006】において、被請求人自身が「本発明の効果を得るためには・・・。該ポリビニルアルコ-ルは公知の方法に従って製膜される。かかる方法としてはポリビニルアルコ-ルを水、有機溶剤、水/有機溶剤混合溶剤等に溶解し流延する方法が一般的である。」と記載しているように、ポリビニルアルコ-ルから製膜するのに、樹脂の水溶液を流延することにより製膜することは、従来周知(必要なら、他に特開昭62-239107号公報第2頁右下欄実施例1、特開昭63-189803号公報第3頁右下欄?第4頁左上欄等参照。)の技術事項であり、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明の構成を限定することは当業者にとって容易である。
なお、被請求人は、答弁書第9頁で、「そもそも、PVA水溶液から製造されたPVAフィルムとPVA溶剤溶液から製造されたPVAフィルムとでは、得られるフィルムの結晶化状態が大きく異なり、この異なる方法で得られたフィルムの延伸条件を同様に対比することはできない。」と主張しているが、特許明細書には、PVA水溶液から製造されたPVAフィルムとPVA溶剤溶液から製造されたPVAフィルムとの差により、延伸条件が異なる旨の記載は一切なく、このような主張は、上記判断を左右するものではない。

相違点3について
甲第3号証には、PVAフィルムにおいて、「偏光度の改良は延伸工程はもとより、延伸後の処理工程においても横幅の収縮が大きいほど、その効果は大きい。」と記載され、甲第4号証には、「積極的に幅方向の収縮を行なわせることにより長さ方向の一軸配向性は極めて良好なものが得られる」旨記載されている。したがって、巾方向が収縮するように一軸延伸することは当業者にとって何ら格別のことではない。
また、引用発明も、改良された、耐熱性と耐湿熱性とを有するという、本件発明と同様の目的の偏光フィルムの製造法であること、引用発明を認定した甲第2号証においても、延伸倍率に関し、「通常5倍以上、好ましくは7倍以上延伸する。延伸倍率が5倍未満の場合は、優れた透過度及び偏光度を有する偏光フィルムが得られ難いことがある。」と本件発明の実施例の延伸倍率数値と重複する数値が記載されていること、相違点3に係る本件発明のフイルム巾の収縮率に格別臨界的意義がないこと、等から、引用発明において、上記相違点3に係る本件発明の構成を限定することは当業者にとって容易である。
また、甲第10号証(表-1)には、延伸倍率3倍で短縮比(l/L)(本件発明の延伸前後のフイルム巾の減少率に相当。)が、0.69、5倍で0.59のものが記載され、甲第11号証(表-1)には、延伸倍率3倍で0.68、4倍で0.57、5倍で0.48のものが記載されている。甲第10、11号証のものは、ポリエチレンテレフタレート樹脂で、本件発明のポリビニルアルコ-ル系樹脂とは異なるが、いずれも偏光フィルムであり、これらの証拠からも、上記相違点3に係る本件発明の構成は格別のものであるということはできない。

そして、本件発明の効果も、引用発明、甲第3、4、10、11号証に記載された周知技術、及び他の周知技術から、当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明は、甲第2号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たさないから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第162条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-18 
結審通知日 2007-05-23 
審決日 2007-06-06 
出願番号 特願平8-48143
審決分類 P 1 113・ 531- Z (G02B)
P 1 113・ 121- Z (G02B)
P 1 113・ 534- Z (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 浩福田 聡里村 利光  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 森口 良子
江塚 政弘
登録日 1999-03-05 
登録番号 特許第2895435号(P2895435)
発明の名称 耐久性の優れた偏光フィルムの製造法  
代理人 花田 吉秋  

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