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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1173424
審判番号 不服2006-7524  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-20 
確定日 2008-02-21 
事件の表示 平成11年特許願第132381号「動圧軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月24日出願公開、特開2000-320539〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】手続の経緯
本願は、平成11年5月13日の出願であって、平成18年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成18年4月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月1日付けで平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第1項第3号に該当する明細書についての手続補正がなされたものである。

【二】平成18年5月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年5月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「 【請求項1】
相対回転可能に装着された軸部材と軸受部材とのうちの上記軸受部材に、当該軸受部材から上記軸部材に向かって半径方向に突出する動圧発生面を備えた突形状軸受部が設けられ、
上記軸部材と軸受部材との隙間内に注入された潤滑流体を前記突形状軸受部の動圧発生面により加圧して、前記軸部材と軸受部材とを相対的に浮上させた状態に支持する動圧軸受装置において、
上記軸受部材には、上記突形状軸受部と軸方向に隣接して、前記軸部材と軸受部材との隙間を全周にわたって略同一とした一つの円形状軸受部が配置され、
該円形状軸受部における前記軸部材と軸受部材との間の隙間は、前記突形状軸受部の動圧発生面における隙間に対して同一又は小さく設定され、
これら突形状軸受部及び円形状軸受部の各隙間内に注入された潤滑流体に対して、該突形状軸受部と円形状軸受部とが共に作用することによって前記軸部材と軸受部材とを相対回転可能に支持する構成を備えたものであって、
前記円形状軸受部の軸方向長さが、突形状軸受部の軸方向長さに対して1/2から1/4までの範囲内に設定され、かつ
上記軸部材に対して一対の上記軸受部材が軸方向に離して設けられ、それらの各軸受部材には上記円形状軸受部がそれぞれ一つずつのみ設けられているとともに、
それらの各円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における上記潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置されていることを特徴とする動圧軸受装置。」
と補正された。(なお、下線は請求人が附したものであり、補正箇所を示すものである。)

上記補正は、
(1)請求項1に係る発明を特定するための事項である「突形状軸受部」が設けられる部材について、「軸部材と軸受部材とのうちの上記軸受部材」と限定すると共に、「動圧発生面」が半径方向に突出する構成について、「当該軸受部材から上記軸部材に向かって半径方向に突出する」と限定し、
(2)請求項1に係る発明を特定するための事項である「円形状軸受部」が配置される部材について、「上記軸受部材には」と限定すると共に、「円形状軸受部」が配置される数について、「一つの」と限定し、
(3)請求項1に係る発明を特定するための事項である「軸受部材」の「軸部材」との関係について、「上記軸部材に対して一対の上記軸受部材が軸方向に離して設けられ」と限定し、
(4)請求項1に係る発明を特定するための事項である「軸受部材」について、「それらの各軸受部材には上記円形状軸受部がそれぞれ一つずつのみ設けられているとともに、それらの各円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における上記潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置され」と限定するものと認められる。
したがって、本件補正は、平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「特開平9-210067号公報」(以下「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されていると認める。

〔あ〕「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1及び図2に示されるように、本発明の第一実施形態にかかる真円焼結含油軸受2(以下、単に軸受と称する)は、例えばモーター(図示せず)のシャフト4が遊挿される軸孔2aを有するとともに、上端部6と、下端部8と、上端部6及び下端部8に挟まれた中央部10とを有している。
【0013】上端部6と下端部8は、その内径が全周にわたって真円となるよう形成される一方、中央部10には、少なくとも二つ(図2においては六つ)の軸方向に延びる凹部12が円周方向に等間隔に形成されている。この凹部12は、5μm?100μm程度の深さを有し、凹部12の容積の和が軸受2にしみ込んでいる油の体積の10%以下となるよう設定されている。尚、中央部10の凹部12以外の部分14の内径は、真円となるよう形成されている。
【0014】上記構成において、シャフト4が回転すると、軸受2の自己給油作用によりシャフト4と軸受2のクリアランス部16に油18が給油される。凹部12には、多くの気孔が形成されているので、給油が促進され凹部12に油18が溜まるが、凹部12は中央部10のみに形成されており、上下端部6,8は全周真円部となっているので、凹部12に溜まった油18は凹部12内に確実に保持され円滑な潤滑が可能となる。」(3欄32行?4欄6行参照)
〔い〕「【0015】図3は上記真円焼結含油軸受2の変形例である真円動圧焼結含油軸受を示しており、中央真円部14に複数(少なくとも二つ)の楔状凹部12aを等間隔に形成したものである。
【0016】図1及び図2に示される凹部12は円周方向において大略同一の深さであったが、図3の楔状凹部12aは、シャフト4の回転方向に沿ってその深さが徐々に減少しており、真円部14から最も深い部分の深さが5μm?50μm程度に設定されるとともに、凹部12aの容積の和が軸受2にしみ込んでいる油の体積の10%以下となるよう設定されている。」(4欄7?17行参照)
〔う〕「【0017】上記構成において、シャフト4の回転に伴い、油18は凹部12a内に保持されるとともに、凹部12aが回転方向に対して楔状に形成されていることから、凹部12aに油圧が発生し、シャフト4の回転力により動圧となり、シャフト4とのクリアランスが4μm程度と小さい真円部14に油が供給され円滑な潤滑が可能となる。」(4欄18?24行参照)
〔え〕「【0018】図4、図5及び図6は、上記真円動圧焼結含油軸受の更に別の変形例を示している。図4に示される凹部12bは、図3に示される凹部12aと同様楔状に形成されているが、図3の凹部12aが平坦な底面を有しているのに対し、図4の凹部12bの底面は、シャフト4の回転方向に沿って円弧状に形成されている。また、図5に示される凹部12cは、台形状断面を有し、シャフト4の回転方向に沿って凹部12cの一部が楔状に形成されている。更に、図6に示される凹部12dは、二等辺三角形の断面形状を有しており、凹部12dの両側が楔状に形成されているので、シャフト4はいずれの方向にも回転可能である。」(4欄25?36行参照)
〔お〕「【0028】図16及び図17は、上記工程で得られた再加圧体46を示しており、上部真円部46aと下部真円部46bは高密度で気孔が少なくなる一方、中央凸部46cは上下真円部46a,46bと同一径となるが、粉末圧縮成形時に5μm?20μm大きく形成されていることから上下真円部46a,46bより気孔が多いものとなる。また、凹部46dは再加圧時、再加圧コアロッド40に圧接されていないので焼結体の表面がそのまま維持され、気孔が多い。」(5欄43行?6欄1行参照)
〔か〕「【0029】その後、再加圧体46は油に浸漬され気孔内に油をしみ込ませて製品(図1の軸受2)とする。」(6欄2?3行参照)
〔き〕「【0031】上記したように、本発明にかかる真円焼結含油軸受は、上下真円部を標準密度あるいはそれ以上の高密度で成形することで、従来に比べ気孔が少なくなり油が体積率20%?15%となり、気孔が小さく油が出にくくなっても、軸受中央部に設けた二つ以上の凹部に自己給油作用によりしみ出た油を保持することで円滑な潤滑が維持され、低密度に起因する軸受摩耗が改善できる。
【0032】更に、軸受とシャフトのクリアランスが4μm程度に小さくなり、真円焼結含油軸受の自己給油作用だけでは円滑な潤滑が出来ないという課題に対しては、真円焼結含油軸受の中央部に設けた二つ以上の凹部を楔状あるいは軸心に対し所定角度傾斜させることに動圧を発生させ、真円動圧焼結含油軸受として潤滑効果を高めた。」(6欄7?21行参照)
等の記載が認められる。
そして、図3の上記「楔状凹部12a」は、〔い〕のとおり「真円部14から最も深い部分の深さが5μm?50μm程度に設定される」ものであるから、最も深い部分を基準にしたとき、シャフト4の回転方向に沿ってシャフト4に向かって半径方向に突出する面を形成し、〔う〕のとおり「動圧」を発生するものと認められ、「真円部14」と共に「突形状軸受部」を構成していると認められる。
また、上記「軸受2」の「上下端部6,8」は、「全周真円部」であるから、「円形状軸受部」であり、上記〔お〕の記載から、「全周真円部」のシャフト4と軸受2との間の隙間は、前記突形状軸受部の動圧発生面における隙間に対して同一又は小さく設定されていると認められる。
したがって、引用刊行物には、併せて図面を参照すると、
“相対回転可能に装着されたシャフト4と軸受2とのうちの上記軸受2に、当該軸受2から上記シャフト4に向かって半径方向に突出する動圧発生面を備えた突形状軸受部が設けられ、
上記シャフト4と軸受2との隙間内に軸受2の自己給油作用により給油された油18を前記突形状軸受部の動圧発生面により加圧して、前記シャフト4と軸受2とを相対的に浮上させた状態に支持する動圧軸受装置において、
上記軸受2には、上記突形状軸受部と軸方向に隣接して、前記シャフト4と軸受2との隙間を全周にわたって略同一とした全周真円部からなる円形状軸受部が配置され、
該円形状軸受部における前記シャフト4と軸受2との間の隙間は、前記突形状軸受部の動圧発生面における隙間に対して同一又は小さく設定され、
これら突形状軸受部及び円形状軸受部の各隙間内の油18に対して、該突形状軸受部と円形状軸受部とが共に作用することによって前記シャフト4と軸受2とを相対回転可能に支持する構成を備え、
円形状軸受部が、上記シャフト4と軸受2との相対回転中における上記油18の移動方向端部位置の上下端部6,8にそれぞれ配置されている動圧軸受装置”
の発明が記載されていると認められる。

3.対比・判断
(1)本願補正発明と上記引用刊行物に記載された発明とを対比すると、後者の「シャフト4」は前者の「軸部材」に、後者の「軸受2」は前者の「軸受部材」に、後者の「油18」は前者の「潤滑流体」に、それぞれ相当し、両者は、
「相対回転可能に装着された軸部材と軸受部材とのうちの上記軸受部材に、当該軸受部材から上記軸部材に向かって半径方向に突出する動圧発生面を備えた突形状軸受部が設けられ、
上記軸部材と軸受部材との隙間内の潤滑流体を前記突形状軸受部の動圧発生面により加圧して、前記軸部材と軸受部材とを相対的に浮上させた状態に支持する動圧軸受装置において、
上記軸受部材には、上記突形状軸受部と軸方向に隣接して、前記軸部材と軸受部材との隙間を全周にわたって略同一とした円形状軸受部が配置され、
該円形状軸受部における前記軸部材と軸受部材との間の隙間は、前記突形状軸受部の動圧発生面における隙間に対して同一又は小さく設定され、
これら突形状軸受部及び円形状軸受部の各隙間内の潤滑流体に対して、該突形状軸受部と円形状軸受部とが共に作用することによって前記軸部材と軸受部材とを相対回転可能に支持する構成を備えたものであって、
円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における上記潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置されている動圧軸受装置」
で一致し、次の点で相違すると認められる。
[相違点A]
上記「軸部材と軸受部材との隙間内の潤滑流体」、「突形状軸受部及び円形状軸受部の各隙間内の潤滑流体」が、本願補正発明では「隙間内に注入された」ものであるのに対して、上記引用刊行物に記載された発明では「隙間内に軸受2の自己給油作用により給油される」ものである点
[相違点B]
本願補正発明は、「前記円形状軸受部の軸方向長さが、突形状軸受部の軸方向長さに対して1/2から1/4までの範囲内に設定され」ているのに対して、上記引用刊行物に記載された発明では「円形状軸受部の軸方向長さ」と「突形状軸受部の軸方向長さ」との比が、明確でない点
[相違点C]
本願補正発明は、軸受部材に配置される円形状軸受部が「一つの円形状軸受部」であって、「上記軸部材に対して一対の上記軸受部材が軸方向に離して設けられ、それらの各軸受部材には上記円形状軸受部がそれぞれ一つずつのみ設けられているとともに、それらの各円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における上記潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置されている」のに対して、上記引用刊行物に記載された発明では、円形状軸受部が軸受部材の上下端部に配置され、軸部材に対して軸受部材が幾つ設けられるか不明である点

(2)次に、上記各相違点について検討する。
(2-1)相違点Aについて
上記引用刊行物に記載された発明の「隙間内に軸受2の自己給油作用により給油される」潤滑流体も、「焼結含油軸受」がもつポンプ作用によって「隙間内に注入された」潤滑流体と認められ、本願補正発明の「隙間内に注入された」潤滑流体と実質上相違しない。
また、本願の明細書の発明の詳細な説明を参照すると、段落【0032】には、「すなわち、上述したような形状の焼結金属体からなるテーパ軸受12を製造するに当たっては、まず、テーパ軸受12の全体のブランク形状に相当するキャビティーを備えた型内に素材金属粉末を充填し、圧縮成形した後に焼成する。このようにして形成されたブランク素材の内周壁面には、上記突形状軸受部12aに相当する形状が型成形されているのみであって、前述した円形状軸受部12bの表面形状は、次のサイジング工程によって変形して形成される。そして、洗浄の後に含油処理されてテーパ軸受12が完成する。」の記載があり、本願補正発明の実施例の「軸受部材」は、上記引用刊行物に記載された発明と同様に「焼結含油軸受」と認められ、この点からも、本願補正発明の「隙間内に注入された」潤滑流体は、上記引用刊行物に記載された発明の「隙間内に軸受2の自己給油作用により給油される」潤滑流体と実質上相違しないものと認められる。
更に、隙間内に潤滑流体を外部から注入する構成を採用する軸受も、例示するまでもなく、本願出願前周知の事項と認められる。
したがって、本願補正発明の「軸部材と軸受部材との隙間内の潤滑流体」、「突形状軸受部及び円形状軸受部の各隙間内の潤滑流体」が「隙間内に注入された」ものである点は、上記引用刊行物に記載された発明の「隙間内に軸受2の自己給油作用により給油される」ものと、実質上相違しないものであり、或いは、本願出願前周知の軸受の構成に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(2-2)相違点Bについて
「突形状軸受部の軸方向長さ」に対する「円形状軸受部の軸方向長さ」は、動圧軸受装置の用途に応じて要求される軸受特性を考慮して、当業者が最適或いは好適範囲を適宜決定すべき事項であって、「前記円形状軸受部の軸方向長さが、突形状軸受部の軸方向長さに対して1/2から1/4までの範囲内」に設定したことは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
また、本願の明細書及び図面を参照しても、「1/2から1/4まで」の範囲内と範囲外とで、機能或いは作用効果上の顕著な差を生じるとは認められない。

(2-3)相違点Cについて
軸部材に対して一対の軸受部材が軸方向に離して設けられ、それらの各軸受部材に円形状の軸受部がそれぞれ一つずつ設けられるとともに、軸部材と軸受部材との相対回転中に軸受部材の動圧発生部から潤滑流体が供給される端部位置に、前記各円形状の軸受部がそれぞれ配置されている軸受装置は、本願出願前周知のものと認められる(例えば、特開平5-111210号公報、実願昭59-93315号(実開昭61-9627号)のマイクロフィルム、等参照)。
そして、上記周知の軸受装置の構成を、上記引用刊行物に記載された発明の軸受装置に適用することは、上記周知の軸受装置と上記引用刊行物に記載された発明の軸受装置がいずれも、円形状の軸受部と動圧発生部をもつものであるから、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、上記引用刊行物に記載された発明の軸受装置の「突形状軸受部と軸方向に隣接して」、「円形状軸受部が配置され」、「それらの各円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における潤滑流体の移動方向端部位置の上下端部にそれぞれ配置されている」構成を、「軸部材に対して一対の軸受部材が軸方向に離して設けられ、それらの各軸受部材には、突形状軸受部と軸方向に隣接して円形状軸受部がそれぞれ一つずつのみ設けられているとともに、それらの各円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置されている」構成とすることは、上記周知の軸受装置の構成に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(3)請求人の主張について
(3-1)請求人は、審判請求書の手続補正書において、
i)本願補正発明の特徴点を、「ア)軸部材に対して一対の軸受部材(12,12)を備えた点、イ)一対の軸受部材(12,12)のそれぞれが、一つの突形状軸受部(12a)に対して一つのみの円形状軸受部(12b)を備えている点、ウ)各軸受部材(12)における円形状軸受部(12b)が、潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置されている点、にある。」とし、
ii)本願補正発明の作用効果について、「各特徴点のうちのイ)、すなわち「各軸受部材(12)には、一つの突形状軸受部(12a)に対して一つのみの円形状軸受部(12b)が設けられていること」によって、円形状軸受部(12b)の製造が易化される。」、「特徴的構成ア)およびウ)を採用すれば、一対の軸受部材(12,12)のそれぞれにおける円形状軸受部(12b,12b)によって潤滑流体が挟まれた状態となり、それら一対の円形状軸受部(12b,12b)によって潤滑流体を両端側から挟み込むことにより、潤滑流体の外部漏出を良好に防止することができることとなる。」旨主張し、
iii)引用刊行物に記載された発明について、「「含油軸受」は、一つの軸受部材2の両端部分に一対の円形状軸受部6,8を配置した構成を有するものであって、……非常に複雑な製造行程を実行せざるを得ない状態となっている。」旨主張する。

(3-2)しかしながら、
i)上記相違点Cに関連して検討したとおり、請求人が主張する「特徴的構成ア)およびウ)」は、本願出願前周知の軸受装置の構成に過ぎず、また、前記周知の軸受装置は、一対の軸受部材のそれぞれが、動圧発生部に対して一つのみの円形状軸受部を備えているので、動圧発生部が突形状軸受部である上記引用刊行物に記載された発明に前記周知の軸受装置の構成を適用することによって、請求人が主張する「イ)一対の軸受部材(12,12)のそれぞれが、一つの突形状軸受部(12a)に対して一つのみの円形状軸受部(12b)を備えている」構成も得られるものである。
ii)そして、上記引用刊行物に記載された発明に本願出願前周知の軸受装置の構成を適用することによって得られる「一対の軸受部材(12,12)のそれぞれが、一つの突形状軸受部(12a)に対して一つのみの円形状軸受部(12b)を備えている」構成によつて、円形状軸受部(12b)の製造が容易化されることは、当業者が十分予測し得ることである。
また、一対の円形状軸受部(12b,12b)によって潤滑流体を両端側から挟み込むことにより、潤滑流体の外部漏出を良好に防止することができる作用効果は、上記引用刊行物に記載された発明も前記周知の軸受装置も奏し得る作用効果と認められる。

(4)このように、本願補正発明は、その発明を特定する事項が上記引用刊行物に記載された事項及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、作用効果も上記引用刊行物に記載された事項及び本願出願前周知の事項から予測し得る程度のもので格別顕著なものではないので、本願補正発明は、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成15年法律第47号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【三】本願発明について
1.本願発明
平成18年5月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年7月27日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
相対回転可能に装着された軸部材と軸受部材との少なくとも一方側の部材に、当該一方側の部材から他方側の部材に向かって半径方向に突出する動圧発生面を備えた突形状軸受部が設けられ、
上記軸部材と軸受部材との隙間内に注入された潤滑流体を前記突形状軸受部の動圧発生面により加圧して、前記軸部材と軸受部材とを相対的に浮上させた状態に支持する動圧軸受装置において、
上記突形状軸受部と軸方向に隣接して、前記軸部材と軸受部材との隙間を全周にわたって略同一とした円形状軸受部が配置され、
該円形状軸受部における前記軸部材と軸受部材との間の隙間は、前記突形状軸受部の動圧発生面における隙間に対して同一又は小さく設定され、
これら突形状軸受部及び円形状軸受部の各隙間内に注入された潤滑流体に対して、該突形状軸受部と円形状軸受部とが共に作用することによって前記軸部材と軸受部材とを相対回転可能に支持する構成を備えたものであって、
前記円形状軸受部の軸方向長さが、突形状軸受部の軸方向長さに対して1/2から1/4までの範囲内に設定されていることを特徴とする動圧軸受装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「特開平9-210067号公報」(以下同様に「引用刊行物」という。)には、前記「【二】平成18年5月1日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.引用例」に記載したとおりの事項が記載されているものと認める。

3.対比・判断
本願発明は、前記「【二】平成18年5月1日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」で検討した本願補正発明から、
(1)「突形状軸受部」が設けられる部材についての「軸部材と軸受部材とのうちの上記軸受部材」との特定事項を「軸部材と軸受部材との少なくとも一方側の部材」と拡張すると共に、「動圧発生面」が半径方向に突出する構成についての「当該軸受部材から上記軸部材に向かって半径方向に突出する」との特定事項を「当該一方側の部材から他方側の部材に向かって半径方向に突出する」と拡張し、
(2)「円形状軸受部」が配置される部材についての「上記軸受部材には」との特定事項を削除すると共に、「円形状軸受部」が配置される数について、「一つの」との特定事項を削除し、
(3)「軸受部材」の「軸部材」との関係についての「上記軸部材に対して一対の上記軸受部材が軸方向に離して設けられ」との特定事項を削除し、
(4)「軸受部材」についての「それらの各軸受部材には上記円形状軸受部がそれぞれ一つずつのみ設けられているとともに、それらの各円形状軸受部が、上記軸部材と軸受部材との相対回転中における上記潤滑流体の移動方向端部位置にそれぞれ配置され」との特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明を特定する事項のすべてを含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「【二】平成18年5月1日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」に記載したとおり、上記引用刊行物に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記引用刊行物に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-13 
結審通知日 2007-12-18 
審決日 2008-01-07 
出願番号 特願平11-132381
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 常盤 務
戸田 耕太郎
発明の名称 動圧軸受装置  
代理人 後藤 隆英  

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