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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800236 審決 特許
不服2006724 審決 特許
不服20045852 審決 特許
不服200418313 審決 特許
不服20056940 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1173498
審判番号 不服2004-18401  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-06 
確定日 2008-02-22 
事件の表示 平成 7年特許願第502363号「HIVの細胞感染抑制剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 1月 5日国際公開、WO95/00168、平成 8年12月10日国内公表、特表平 8-511784〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯

本願は、平成6年4月2日(パリ条約による優先権主張1993年6月18日、ドイツ)の出願であって、平成16年6月2日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で願書に添付した明細書について手続補正がなされたものである。

II.平成16年9月6日付の手続補正の適否について

1.補正後の請求項に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?4は、次のとおりに補正された。

【請求項1】 式II:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Nle^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有する、HIVの細胞感染抑制剤。
【請求項2】 式III:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Nva^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有する、HIVの細胞感染抑制剤。
【請求項3】 式VII:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、t-Leu^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有する、HIVの細胞感染抑制剤。
【請求項4】 式VIII:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Ala^(9)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有する、HIVの細胞感染抑制剤。

上記補正は、補正前の請求項1?4において、「ウイルス感染を抑制するための薬剤」を「HIVの細胞感染抑制剤」と補正するものであり、補正前の請求項1?4に記載した発明の構成に欠くことのできない事項を限定するものであり、また、当該補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえるから、特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲を減縮するものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1?4に記載された発明(以下、本願補正発明1?4」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に適合するか)、どうかについて以下に検討する。

2.原査定の理由

原査定の拒絶の理由は、「本願の発明の詳細な説明においては、一般的な医薬組成物の製造方法及び投与方法が記載されているのみであって、INVIVOの実験等によって、本願各請求項に記載の化合物について、どのように投与し、どの程度の治療効果を発揮して医薬として使用できるのかという定量的なデータについて具体的な記載がされていないことは明らかであること」、また、「意見書において出願人が提示したデータが発明の詳細な説明に記載されていたものとすることはできないこと」から、「発明の詳細な説明には、依然として本願請求項1-4に係る発明を当業者が容易に実施することができる程度に、その目的、構成及び効果が記載されているとすることはできない。」として、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断

(1)医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分として記載されている物質の構造から、それが医薬用途に利用できるかどうかを予測することは困難であるから、当業者が実施をすることができる程度に用途発明が記載されているというためには、発明の詳細な説明において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付ける必要があり、出願時の技術常識を考慮しても、その裏付けがされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。

(2)そこで、本願発明の医薬用途である「HIVの細胞感染抑制剤」についての発明の詳細な説明の記載を検討する。

本願明細書の発明の詳細な説明には、上記式II,III,VII,およびVIIIを含む、式Iの化合物、又はそれらの製薬学的に受容可能なペプチド塩の性質やその用途に関連する以下の記載がある。

(A)「さて、驚くべきことにCEM-IW-細胞でのエイズ・スクリーニング試験で、式II?VIIIによるLHRH-類似デカペプチドは、抗HIV作用、ならびに細胞培養に対する成長刺激作用を有することが見い出された。」(第2頁第12?16行)
(B)「一般式Iは本発明によるペプチドを表わす:
Ac-D-Nal(2)-D-Phe(4Cl)-xxx-A-B5-yyy-zzz-Arg-Pro-D-Ala-NH_(2) 式I
この場合、次のものがあてはまる:
xxx=D-Pal(3)、D-Phe(4Cl)
yyy=D-Cit、D-Lys(R)、D-Hci
Rは(C1?C4)-アシルまたは(C1?C10)-アルキルを 表わしてよい。
zzz=L-Leu、NLe、Nva、t-Leu
A =Ser、Ser(糖)
糖はグルコース、ガラクトース、アロース、アルトロース、マンノ ース、グロース、イドースまたはタロースを意味してよい
B =Tyr、Lys(Nic)、Mop
ならびに薬学的に受容可能なペプチドの塩、例えば塩化水素酸塩、トリフルオルアセテート、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩、メシラートまたはトシラートを使用することができる。」(第2頁第25行?第3頁第19行)
(C)「一般式Iによる特に有利な化合物は、次のアミノ酸配列を表す:
式II =[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Nle^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
式III =[Ac-DNa1(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、DPal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Nva^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
式IV =[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Trp^(3)、D-Cit^(6)、D-Ala^(10)]-LHRH
式V =[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、D-Ala^(10)]-LHRH
式VI =[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-HCi^(6)、D-Ala^(10)]-LHRH
式VII =[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal^(3)、D-Cit^(6)、t-Leu^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
式VIII=[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Ala^(9)、D-Ala^(10)]-LHRH」(第4頁第10行?第5頁第11行)
(D)「本発明は、ウイルス感染の治療、有利にエイズの処置のための薬剤を製造する方法に関する。さらに、非ウイルス治療に使用される新規のペプチドおよびこのペプチドの合成が記載される。
このペプチドは最大に使用される配量の場合でさえ毒性が僅かである。一緒に試験した基準化合物アジドチミジンと比較して、NCI試験の場合のEC50値は試験したペプチドの場合、5.9×10^(-7)モル/リットルから2.0×10^(-5)モル/リットルの間である。
一緒に処理した基準化合物 AZT(アジドチミジン)は、例えば3.10×10^(-9)モル/lのEC50値を有した。
全化合物は10^(-4)?10^(-8)モル/lの範囲内で処方した。したがって、常法により挙げられたIC50値(非感染培養液中で細胞50%が死滅するような、阻害的濃度)は、最大の処方量よりも大きい。
処理した感染培養液は、4.5×10^(-5)モル/lのEC50値を有する。処理した非感染培養液の数値はIC50値にまで減少しないので、IC50値には最大の処方量に対する数値だけが記載されてよく、即ちIC50=>3.3×10^(-5)モル/lである。この場合、治療係数(TI50=IC50/EC50)は7.30を上回る。」(第10頁第9行?第11頁第6行)
(E)「抗HIV活性に対するスクリーニング法の記述
この方法は、ウイルス増殖周期の全相中で有効な作用物質を見つけ出すために適当である。試験原理は、HIVウイルスによるT4-リンパ球の破壊である。
少量のHIVウイルスを細胞培養液に添加する。T4-リンパ球を死滅させ、かつその結果を利用することができるようにするため、少なくとも2つの完全なウイルス再生産周期が必要である。
作用物質がビリオン(Virion)(ウイルス粒子)、細胞またはウイルス遺伝子の生成物と反応し、その結果、ウイルス活性と相互作用し、従ってウイルスの増殖を遮断し、細胞を死滅前および細胞溶解前に保持することになる。
ウイルスで感染した多数の細胞を試験できるようにするため、試験体系を自動化した。しかし、縮退し、変性しまたは急速に変形される化合物は、試験構成を用いて確実には発見されることができない。
試験のプラス制御としては、AZT(アジドチミジン)およびDDCが使用される。
試験法
1.T4-リンパ球(CEM-細胞系列)を微量滴定板中にウイルス:細胞 約1:0.05の割合でウイルスを添加する。
2.試験すべき物質は、他に記載がない場合には、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解され、かつ1:200(重量部)の割合で希釈される。他の希釈を半対数工程の場合にDMSOを用いて行ない、次に感染細胞培養液ならびに非感染細胞培養液上に添加する。
3.培養液を37℃で6?7日間5%のCO_(2)雰囲気中で培養する。
4.テトラゾリウム塩XTTを細胞培養液に添加し、細胞培養液をさらに培養し、その結果、フェナジンメトスルホネート(PMS)と結合させることによって、残生細胞を通してホルマザン呈色反応を進行させることができる。
5.個々の細胞培養液を分光測光により分析し、顕微鏡により残生細胞を試験し、その結果、保護効果を確認する。
6.処理されたウイルス感染細胞を、処理された非感染細胞と比較する。その他の比較(未処理の感染細胞および未処理非感染細胞、作用物質含有で細胞不含の凹所)を同一の板上で行なった。
7.試験された化合物の活性を測定する。」(第11頁第7行?第12頁第25行)
(F)「投薬指示:
本発明による薬剤の投薬は、毎日の投与の場合0.01mg?10mgである。」(第13頁第7?9行)

上記記載の(B)及び(C)には、本願において用いる化合物として、それぞれ、式Iの化合物、および、式Iのうち、特に有利な化合物として、式II?VIIIが挙げられている。
また、(F)には、本願において式Iの化合物をHIVの細胞感染抑制のために投与する際の投与量が記載されている。しかしながら、投与量に関する記載のみによっては、式Iの化合物のHIVの感染抑制効果が裏付けられるものではない。
さらに、(E)には、抗HIV活性に関するスクリーニング法が記載され、(A)には、本願の式II?VIIIの化合物が、抗HIV作用を有することが定性的に示され、また、(D)には、「NCI試験の場合のEC50値は試験したペプチドの場合、5.9×10^(-7)モル/リットルから2.0×10^(-5)モル/リットルの間である」こと、「全化合物は10^(-4)?10^(-8)モル/lの範囲内で処方した」こと、「処理した感染培養液は、4.5×10^(-5)モル/lのEC50値を有する」こと、「IC50=>3.3×10^(-5)モル/lである」こと、及び、「この場合、治療係数(TI50=IC50/EC50)は7.30を上回る」ことが記載されているが、「試験したペプチド」が、本願発明の式I?VIIIで表される化合物群のうちの何れの化合物であって、これらが、それぞれ、どのようなEC50値、およびIC50値を有するのかが不明である。
また、(E)の記載を検討すると、(i)(E)には、スクリーニング法について当業者が追試し得る程度に記載されていない。すなわち、(i)ウイルス:細胞の混合割合については示されているものの、その絶対量が不明であること、(ii)ウイルスとしてどのようなウイルスを用いるかについての記載がなく、仮に明細書の他の記載からみてHIVを用いるものであるとしても、HIVにはI型とII型が存在し、それらの変異株もさまざまであって、変異株によっては試験物質の感受性も相違し得ると考えられること、及び、(iii)感染細胞の培養液の組成についての明示の記載がないこと、から、(E)に記載の事項をもっては、当業者といえども追試できないといえる。また、(ii)(E)のスクリーニング法によって、試験物質の細胞感染抑制作用を測定し得るとは直ちには認められない。すなわち、(E)のスクリーニング法は、「顕微鏡により残生細胞を試験し、その結果、保護効果を確認する。」ものであるが、試験物質自体が、リンパ球増殖作用を有する可能性があり、この場合には、当然、残生細胞数は増加することから、その結果から、試験物質が、HIVの細胞感染抑制作用を有するとは直ちには認められない。したがって、ウイルスの細胞感染抑制活性を確認するためには、ウイルスを添加しない等のコントロール実験が必要不可欠であるが、本願明細書には、そのような実験の結果や、それをどのように考慮して活性を評価したのかが不明である。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、式II?VIIIの化合物を含み、式Iで包括的に記載されるさまざまな化合物が全て、HIVの細胞感染抑制に効果を示すことを裏付けるに足りる具体的な実験結果についての記載もない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、単に式II?VIIIの化合物を含み、式Iで包括的に記載される化合物について、HIVの細胞感染抑制作用を(E)の方法でアッセイすることと、その医薬用途が形式的に述べられているのみであって、上記化合物が示す具体的な活性の程度や疾病の治療に対する効果について何ら裏付けを伴った開示がなく、その形式的な記載が正確なものであるのか否かについて当業者が確認しようとしてもその実験や評価の手法も不明であって、同1条件での追試が困難なものであるから、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に医薬の用途発明が記載されているとはいえない。

審判請求人は、
ア)本願明細書第10頁第21行?第11頁第6行に、「全化合物は10^(-4)?10^(-8)モル/lの範囲内で処方した。したがって、常法により挙げられたIC50値(非感染培養液中で細胞50%が死滅するような、阻害的濃度)は、最大の処方量よりも大きい。
処理した感染培養液は、4.5×10^(-5)モル/lのEC50値を有する。処理した非感染培養液の数値はIC50値にまで減少しないので、IC50値には最大の処方量に対する数値だけが記載されてよく、即ちIC50=>3.3×10^(-5)モル/lである。この場合、治療係数(TI50=IC50/EC50)は7.30を上回る。」と記載されており、本願明細書は、化合物について薬理データの記載を含んでいる。
イ)以下の参考資料1に示される、USナショナル・キャンサー・インスティテュート(National Cancer Institute)による報告書には、本願発明1?4に係る化合物が、HIV-1による細胞感染に対する保護作用があり、かつこれらのペプチドが僅かな毒性を有するかまたは多くの場合に毒性を有しないことをが確認されている。
[参考資料1:USナショナル・キャンサーインスティテュート(National Cancer Institute:NCI)によってインビトロ抗エイズ作用物質プログラムとして纏められた、前記のペプチドの有利な実験データの結果(写) ]
上記2点から、本願明細書の記載に不備はない旨主張している。

しかしながら、前記のように、どのようなスクリーニング方法で試験した結果であるかが当業者が追試し得るように記載されておらず、かつ、請求人がア)で示す本願明細書第10頁第21行?第11頁第6行には、「全化合物」との文言があり、本願明細書には、式Iの化合物について、LHRHの置換されるアミノ酸残基のうちxxxやyyyやzzzを特定する記載がされているものの、これらを特定しても、その組合せを考慮すればおびただしい数の化合物がそこに包含されることになる。また、本願明細書第4頁第10行?第5頁第11行には、式Iで包括的に記載された化合物のうち、特に有利な化合物として、個々の具体的な化学構造が挙げられているものの、これらを含む、式Iで包括的に記載された化合物全部が実際に化学合成され、そのすべてについて(E)のスクリーニングが行われ、その全てが、7.30を上回る治療係数を有したとすることは現実に想定できることではなく、また、本願明細書には、7.30を上回る治療係数を有することが確認された化合物と、(C)に記載の、特に有利な化合物、即ち、本願補正発明1?4に係る化合物とが対応すると解釈すべき根拠はみいだせない。
そして、本願発明の式Iの化合物がHIVの細胞感染抑制作用を有することについて本出願当時に当業界においてよく知られていたものではなく、上記のとおり、本願明細書には上記化合物がそれらの活性を有することについて客観的に確認できる具体的なデータが示されていない以上、本願補正発明1?4に係る式II、III、VII、VIIIの化合物のHIVの細胞感染抑制剤としての用途が説明されるものではない。

次に、上記イ)について検討する。
上記参考資料1に示された事項は、本願の出願当初の明細書に記載されていない。
一方、特許法第36条第4項に規定の、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果」が、発明の詳細な説明に記載されているとは、出願時の技術常識を前提にしていると考えられる。したがって、出願時の技術常識を考慮しても、本願補正発明1?4に係る式II、III、VII、VIIIの化合物がHIVの細胞感染抑制剤として機能すると推認できる程度に発明の詳細な説明が記載されていない場合には、その後にその点が明らかにされたとしても、HIVの細胞感染抑制剤に係る発明を容易に実施できる程度に、その目的、構成、効果が、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
してみれば、参考資料1を提出し、これに記載の薬理データをもって、本願補正発明1?4に係る式II、III、VII、VIIIの化合物がHIVの細胞感染抑制剤として機能することを主張しても、上記特許法第36条第4項の規定を満たしているとはいえない(要すれば、「特許・実用新案 審査基準」の第I部 第1章 例3-5を参照のこと。)。

3.むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、式Iの化合物、および、このうち特に有利な化合物として挙げられた式II,III,VII,VIII、又はそれらの薬学的に許容できる塩が、HIVの細胞感染抑制効果をもたらすことが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載によって裏付けられておらず、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を容易に実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正は、平成6年改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により当該補正を却下する。

III.本願発明について
1.平成16年9月6日付の手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1?4」という。)は、当該補正前の平成16年2月12日付の手続補正書により補正された請求項1?4に記載されたとおりのものであるところ、当該請求項1?4の記載は以下のとおりである。

「 【請求項1】 式II:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Nle^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有するウイルス感染を抑制するための薬剤。
【請求項2】 式III:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Nva^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有するウイルス感染を抑制するための薬剤。
【請求項3】 式VII:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、t-Leu^(7)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有するウイルス感染を抑制するための薬剤。
【請求項4】 式VIII:
[Ac-DNal(2)^(1)、D-Phe(pCl)^(2)、D-Pal(3)^(3)、D-Cit^(6)、Ala^(9)、D-Ala^(10)]-LHRH
で示されるアミノ酸配列を有するペプチドまたは製薬学的に使用可能な塩を含有するウイルス感染を抑制するための薬剤。」

そして、本願発明1?4は、前記II.で検討した本願補正発明1?4の「HIVの細胞感染抑制剤」を、「ウイルス感染を抑制するための薬剤」とするものであり、ウイルスにはHIVが包含されることは技術常識より明らかであるから、その上位概念の発明にあたるものである。
そうすると、本願発明1?は本願補正発明1?4をその態様として包含するものであるところ、上記II.に記載したとおり、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1?4について、当業者が容易にその発明を実施できる程度に、その目的、構成、効果が記載されているとはいえないから、当該本願補正発明1?4を包含する本願発明1?4についても、同様に、発明の詳細な説明に、当業者が容易にその発明を実施できる程度に、その目的、構成、効果が記載されているとはいえない。

2.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-26 
結審通知日 2007-09-28 
審決日 2007-10-10 
出願番号 特願平7-502363
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07K)
P 1 8・ 531- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二田中 耕一郎  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 小暮 道明
八原 由美子
発明の名称 HIVの細胞感染抑制剤  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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