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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A01B
審判 全部無効 2項進歩性  A01B
管理番号 1174643
審判番号 無効2006-80244  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-24 
確定日 2008-03-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3868672号発明「畦塗り機」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第3868672号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3868672号に係る発明は,平成11年7月21日に出願され,平成18年10月20日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
これに対して,請求人は平成18年11月24日に無効審判の請求をし,これに対して,被請求人は平成19年2月16日に答弁書を提出し,次いで,請求人は同年5月29日に弁駁書を提出した。
当審は,平成19年7月24日に口頭審理を行い,請求人および被請求人は,それぞれ,同日付け口頭審理陳述要領書のとおりに陳述した。
そして,請求人は平成19年8月23日に弁駁書(第2)を提出し,被請求人は同年8月21日に第2回答弁書を提出した。
その後,平成19年11月29日付けで当審の職権審理による無効理由が通知され,これに対し,請求人および被請求人は,それぞれ,その指定期間内の同年12月25日および同月26日に意見書を提出した。

第2 本件発明
本件請求項1?3に係る発明(以下,「本件発明1」等という。)は,本件特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
走行機体の後部に装着され、該走行機体から動力を受け、元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ(14)を備えた前処理体(15)、及びこの前処理体(15)により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形するドラム状の整畦体(16)を備え、前記前処理体(15)及び整畦体(16)を1つの伝動フレーム(8)により支持し、かつこの伝動フレーム(8)から前処理体(15)及び整畦体(16)に動力伝達するようにした畦塗り機(1)において、
上記伝動フレーム(8)の基端部を機体の出力部(7)に対し水平方向に回動自在に軸支し、該伝動フレーム(8)の先端部に前記前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持し、少なくとも伝動フレーム(8)の基端側軸支部を回動中心として前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能にしたことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】
上記伝動フレーム(8)の基端側軸支部に該伝動フレーム(8)を回動させるリンク体(20)を設け、該リンク(20)により伝動フレーム(8)を回動して前処理体(15)及び整畦体(16)を回動させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】
上記リンク体(20)にシリンダ機構(21)を連結し、該シリンダ機構(21)の伸縮によりリンク体(20)を作動させて前記伝動フレーム(8)を回動させ、前処理体(15)及び整畦体(16)を回動させることを特徴とする請求項2記載の畦塗り機。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
これに対して,請求人は,「本件発明1は,甲第1号証,又は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2,3は,甲第1号証及び甲第3号証,又は,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1?3は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって,本件請求項1?3に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである」旨主張し,証拠方法として次の甲第1号証?甲第3号証および参考資料1?2を提出している。

甲第1号証:特開平10-4706号公報
甲第2号証:特開平1-128701号公報
甲第3号証:特開平11-56006号公報
参考資料1:特開昭53-27504号公報(弁駁書(第2)添付)
参考資料2:実公昭53-6972号公報(弁駁書(第2)添付)

2 被請求人の主張
一方,被請求人は,答弁書において,「本件発明1は,甲第1号証,又は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができず,本件発明2,3は,甲第1号証及び甲第3号証,又は,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない」旨主張し,証拠方法として,次の参考資料3?4を提出している。

参考資料3:特開平9-238510号公報(平成19年7月24日付け口頭審理陳述要領書添付)
参考資料4:実願昭62-173956号(実開平1-77302号)のマイクロフィルム(第2回答弁書添付)

第4 職権審理による無効理由
当審において通知した平成19年11月29日付け無効理由の概要は,以下のとおりである。

「本件発明1は,甲第1号証記載の発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2および3は,甲第1号証記載の発明,甲第3号証記載の発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
また,本件特許は,特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。
さらに,本件明細書及び図面の記載は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。」

第5 甲号証等及びその記載内容
甲第1号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項1-イ)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 走行機体の後部に本体フレームが装着され、該本体フレームに、整畦体及び前処理体を左右オフセット状態に設けた畦塗り機において、
上記整畦体及び前処理体を、本体フレームに対して左右方向に回動可能に支持したことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】 上記整畦体及び前処理体を、機体の進行方向に対してオフセットされた通常作業位置から直角旋回位置及び180度旋回作業位置に固定、固定解除可能に支持したことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】 上記本体フレームに対して整畦体及び前処理体が回動する位置に、本体フレームから整畦体及び前処理体に動力を伝達する動力伝達経路に設けたクラッチを接,断操作するフックレバーを、整畦体及び前処理体がオフセットされた通常作業位置から、直角旋回位置及び180度旋回作業位置にそれぞれ係止する係止機構を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の畦塗り機。」

(記載事項1-ロ)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のように従来の畦塗り機においては、整畦体及び前処理体を走行機体の後部の左右一側にオフセットした状態で、機体を前進させながら整畦作業を行うのであり、走行機体の前端部が圃場の端部に達したときには、整畦体及び前処理体の位置から走行機体の前端位置まで、即ち、整畦体及び前処理体の位置から圃場の端部までの元畦に対して整畦作業が行われない状態で残ることになり、この残った部分を人力により整畦する必要があった。このため、多くの労力と時間を要する、という問題点があった。本発明は、上記の問題点を解決することを目的になされたものである。」

(記載事項1-ハ)
「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。図1ないし図3において、符号1は図示しないトラクタの後部に設けられたトップリンク及びロアリンクからなる三点リンク連結機構に連結されて、整畦作業を行う畦塗り機である。この畦塗り機1は、伝動ケースを兼ねる本体フレーム2の後端部に、整畦体3及び前処理体4を左右一方(図1及び図2で右側)にオフセットした通常作業状態に設けている。また、上記整畦体3及び前処理体4は、本体フレーム2に対して左右方向に回動可能に支持され、機体の進行方向に対してオフセットされた通常作業位置から、後述するように直角旋回位置及び180度旋回作業位置に固定、固定解除可能としている。」

(記載事項1-ニ)
「【0020】・・・・・本体フレーム2の前部から前方に入力軸8が突出しており、この入力軸8に、図示しないトラクタのPTO軸からユニバーサルジョイント及び伝動軸を介して回転動力が伝達される。入力軸8から入力された回転動力は本体フレーム2内で変速され、本体フレーム2の後端部において左右両側に出力され、それぞれの出力端に出力側クラッチ9,9を設けている。」

(記載事項1-ホ)
「【0021】本体フレーム2の後端部にコ字状の回動支持部材10が、本体フレーム2から上下に突設した軸11,11を介して左右方向に回動自在に支持され、この回動支持部材10の鉛直部分に、整畦体3及び前処理体4を支持し伝動軸12を内装した支持フレーム13の先端部が固着されている。・・・・・」

(記載事項1-ヘ)
「【0022】上記支持フレーム13の基端部には、整畦体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19が連結され、該整畦体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19を介して上記整畦体3及び前処理体4が装着されている。整畦体伝動ケース18の基端部は支持フレーム13に対して垂直方向に回動可能であり、この回動操作を整畦体回動調節機構20により行うようにしている。・・・・・」

(記載事項1-ト)
「【0023】整畦体3は、整畦体伝動ケース18の先端部から水平方向に突出した回転支持体21の先端部に、多角円錐状ドラム22を偏心して固着している。・・・・・」

(記載事項1-チ)
「【0024】前処理体4は、前処理体伝動ケース19の先端部から水平方向に突出し、側枠24に支持された水平回転軸25の外周に、多数の爪取付けボックス26を介して多数の掘削爪27を装着している。掘削爪27は、元畦及び田面を縦方向に掘削する縦刃部と、縦刃部から一側に屈曲する横刃部とからなり、元畦及び田面に対して元畦側が浅く、田面側が深くなるように横刃部で階段状に掘削するように、縦刃部の長さ(回転半径)を異ならせている。そして、掘削爪27によって、元畦側が浅く、田面側が深くなる、ほぼ水平の階段が形成される。
【0025】掘削爪27によって元畦及び田面が掘削され、元畦の田面側に形成された水平状の階段面に対して、掘削爪27によって掘削された土壌が、前処理体4の後ろ側に設けられた整畦体3の多角円錐状ドラム22及び水平筒状体23によって塗り付けられ、あるいは表面が叩き付けられて、元畦に新畦造成部分が上塗りされて新畦が整畦される。」

(記載事項1-リ)
「【0028】図4及び図5に示すように、本体フレーム2に対して整畦体3及び前処理体4が回動する位置に、即ち、本体フレーム2に対して回動支持部材10が回動する位置に、本体フレーム2から整畦体3及び前処理体4に動力を伝達する動力伝達経路に上記出力側クラッチ9,9と選択的に接,断操作する入力側クラッチ41を設け、この入力側クラッチ41の接,断操作を、フックレバー38を支点38aを中心に回動することにより操作するようにしている。また、フックレバー38は、係合板39により係止されるようになっている。
【0029】フックレバー38と同軸にフック部40が設けられ、本体フレーム2の上部及び下部に固着された支持板36に、それぞれ突設された係合ピン37a,37b,37cに対して、フックレバー38の回動により選択的に係合,離脱する。そして、整畦体3及び前処理体4がオフセットされた通常作業位置から、直角旋回位置及び180度旋回作業位置にそれぞれ係止し、また、離脱する係止機構を構成している。」

(記載事項1-ヌ)
「【0034】整畦体3及び前処理体4を、機体の進行方向に対してオフセットされた通常作業位置から直角旋回位置及び180度旋回作業位置に固定、固定解除可能に支持したので、整畦体3及び前処理体4がオフセットされた通常作業位置から、後方直角方向に旋回させて固定することで整畦体及び前処理体の左右幅が小さくなって走行機体の幅内に収まり、走行時の邪魔になることがない。また、通常作業位置にオフセットされた位置から180度旋回させた反対側にオフセットされた作業位置に固定して、走行機体を後進させながら整畦作業を行うことにより、全整畦作業が機械力により行われ、省力的である。」

したがって,甲第1号証の上記記載及び図面の記載及び技術常識から,甲第1号証には,
「走行機体の後部に装着され,該走行機体から回転動力を受け,元畦及び田面を掘削する掘削爪27を備えた前処理体4,及びこの前処理体4により掘削された土壌を回転しながら新畦に成形するドラム状の整畦体3を備え,
前記走行機体からの回転動力を本体フレーム2の後端部において左右両側の出力端に設けた出力側クラッチ9,9に出力するとともに,
前記本体フレーム2の後端部にコ字状の回動支持部材10が,前記本体フレーム2から上下に突設した軸11,11を介して左右方向に回動自在に支持され,前記回動支持部材10の鉛直部分に,前記整畦体3及び前処理体4を支持し伝動軸12を内装した支持フレーム13の先端部が固着され,前記本体フレーム2から前記整畦体3及び前処理体4に動力を伝達する前記回動支持部材10の動力伝達経路に,前記出力側クラッチ9,9と選択的に接,断操作する入力側クラッチ41を設け,前記支持フレーム13の基端部に,整畦体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19が連結され,該整畦体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19を介して上記整畦体3及び前処理体4が装着されている畦塗り機1」の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

また,甲第2号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項2-イ)
「2.特許請求の範囲
(1)トラクタ2に装着される固定機枠14と;固定機枠14に縦軸心31廻りに回動自在に備えられて、縦軸心31から左右各側方に延設された2つの延設姿勢に姿勢変更固定自在とされた可動機枠15と;可動機枠15の自由端側に備えられて、前後方向一方に進行し乍ら作業を行う対地作業部17と;を有するものにおいて、
上記縦軸心31が、トラクタ2の左右方向中心24から左右方向一側方にオフセツト配置され、可動機枠15が上記一側方側の延設姿勢にある際に、対地作業部17が左右方向に関してトラクタ2の走行部6よりも外側方に配置されたことを特徴とする対地作業機。」(1頁左下欄4?17行)

(記載事項2-ロ)
「溝堀部17は対地作業部として例示されるもので、可動機枠15の本体部33の自由端に縦設された筒状支持部35と、支持部35の下端部から下設されたオーガケース36と、オーガケース36から後方に突設された左右一対の溝成形板48と、支持部35内から上下に延設され且つ下部がオーガ軸37とされた従動軸38と、オーガ軸37の上部に周方向に等配された掻出羽根39と、オーガ軸37の下部に螺旋状に周設されたスクリユウ部40とから成る。
従動軸38の上端部には、従動スプロケツト41が固設され、この従動スプロケツト41と駆動スプロケツト30間にチエン42が巻装されて、チエン伝動機構43が構成され、該機構43はカバー44により覆被されている。」(3頁左下欄1?14行)

(記載事項2-ハ)
「上記のように構成した実施例によれば、圃場で、排水用の溝を掘削する際には、第1図に示すように、溝堀機1の可動機枠15を右側延設姿勢にすると共に、トラクタ2のPTO軸10からの動力伝達により、溝堀機1の溝堀部17を回転駆動する。
この状態で、トラクタ2を前進させて、溝堀機1を牽引し、排水用溝47を掘削する。
そして、圃場の隅部に到達したら、トラクタ2を180度反転させると共に、第2図に示すように、溝堀機1の可動機枠15を縦軸心31廻りに反転させて、左側延設姿勢に固定し、溝堀機1の溝堀部17を回転駆動し乍ら、トラクタ2を後進させて、溝堀機1を押進させ、既掘削した排水用溝47に続けて、圃場の隅部にも排水用溝47を掘削する。」(3頁右下欄15行?4頁左上欄8行)

(記載事項2-ニ)
「又、対地作業機として、畦塗り機や畦削り機を用いてもよい。」(4頁右上欄16?17行)

さらに,甲第3号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項3-イ)
「【発明の属する技術分野】本発明は、走行機体の後部に装着され、該走行機体から動力を受けて駆動する前処理体及び整畦体を備え、該前処理体及び整畦体を作業位置と非作業位置とに回動可能とした畦塗り機に関する。」

(記載事項3-ロ)
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。図1及び図2において、符号1は図示しないトラクタの後部に設けられたトップリンク及びロアリンクからなる三点リンク連結機構に連結されて、整畦作業を行う畦塗り機である。この畦塗り機1は、本体フレームを兼ねる伝動フレーム2を、機体の進行方向と直交するように左右方向に延設している。この伝動フレーム2から前方に向け突出し、トラクタのPTO軸からユニバーサルジョイント及び伝動軸を介して動力を受ける入力軸3を設け、また、上方に突出するトップリンク連結部4を設けると共に、トップリンク連結部4の左右両側にロアリンク連結部5,5を設け、トラクタの三点リンク連結機構に連結するようにしている。」

(記載事項3-ハ)
「【0010】伝動フレーム2は途中で分断され、そこに後述するドッククラッチにより側部伝動フレーム2aに動力伝達し、この側部伝動フレーム2aの終端部には、前側に元畦及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げるロータリ耕耘装置からなる前処理体6を支持し、後側に、前処理体6により耕耘された土壌を畦に成形する多角円錐状ドラムからなる整畦体7を支持している。そして、トラクタから上記入力軸3に受けた動力を、伝動フレーム2、側部伝動フレーム2aを介して上記前処理体6及び整畦体7に伝達し、それぞれ所定方向に回転させてそれぞれの作業を行うようにしている。」

(記載事項3-ニ)
「【0014】上記伝動フレーム2と側部伝動フレーム2aの分断位置には、それぞれ伝動フレームブラケット20、側部伝動フレームブラケット21が固設され、この両ブラケット20,21が支点ピン22を中心に水平方向に回動可能に支持されている。そして、上記前処理体6及び整畦体7を機体の左右一側方に配設した作業位置(機体の左右中心からAだけ張り出した位置)と、この作業位置からほぼ90度時計方向に回動し、機体後部に位置させる非作業位置(機体の左右中心からBだけ張り出した位置)とに回動可能としている。
【0015】上記伝動フレーム2側に支点23aにより基端部を回動自在に枢支された長三角形状の回動フレーム23の先端部を、摺動ピン24を介して側部伝動フレームブラケット21に形成したガイド溝25に嵌挿し、この回動フレーム23の中間部に、基端部をトップリンク連結部4に固着したシリンダブラケット26aに枢着した油圧シリンダ26のピストン先端部を枢着している。そして、油圧シリンダ26の伸縮作動により、前処理体6及び整畦体7を作業位置と、この作業位置からほぼ90度時計方向に回動した非作業位置とに回動するようにしている。…」

したがって,甲第3号証の上記記載及び図面の記載から,甲第3号証には,次の2発明が記載されていると認められる。
「側部伝動フレーム2aの支持ピン22側に該側部伝動フレーム2aを回動させる回動フレーム23を設け、該回動フレーム23により側部伝動フレーム2aを回動して前処理体6及び整畦体7を回動させるようにした畦塗り機。」(以下,「甲3-1発明」という。)
「回動フレーム23に油圧シリンダ26を連結し、該油圧シリンダ26の伸縮により回動フレーム23を作動させて側部伝動フレーム2aを回動させ、前処理体6及び整畦体7を回動させる畦塗り機。」(以下,「甲3-2発明」という。)

さらに,参考資料4(,以下,「周知例」という。)には,図面とともに,次のことが記載されている。

(記載事項4-イ)
「(産業上の利用分野)
本考案は畦成形機に関する。」(明細書1頁下3?2行)

(記載事項4-ロ)
「畦成形機1はトラクタ2の後方に、中央1本のトップリンク11と左右のロアリンク12とから成る3点リンク機構13を介して昇降自在に装着されている。
畦成形機1は、固定・可動機枠14,15と、入力ケース16と、畦成形部17等を有する。」(同4頁下6?1行)

(記載事項4-ハ)
「入力ケース16からは前方に入力軸27が突設され、この入力軸27とトラクタ2のPTO軸とが自在軸継手を介して連動連結されている。
入力ケース16の本体部25及び上側筒部26には駆動軸28が縦設されて、上側筒部26から上方に突出せしめられている。駆動軸28は入力軸27とベベルギヤ機構29を介して連動連結されていると共に、その上端部には駆動プーリ30が固設されている。
可動機枠15は、固定機枠14に入力ケース16を介して縦軸心31廻りに回動自在とされるもので、この縦軸心31は駆動軸28の軸心とされて、トラクタ2の左右方向中心24から左側にオフセット配置されている。」(同5頁下4行?6頁9行)

(記載事項4-ニ)
「畦成形部17は、可動機枠15の本体部33の自由端に縦設された筒状支持部36と、支持部36の下端部から下設されたオーガケース37と、案内部材38と、支持部36内から上下に延設された従動軸39と、従動軸39の下部等により構成されるオーガ40と成形板14と、連動機構42等を有する。
従動軸39は支持部36に上下一対の軸受43により支持され、そのオーガケース37よりも上部側が作動軸44とされ、下部がオーガ45とされている。
作動軸44の上端部には従動プーリ46が固設され、この従動プーリ46と駆動プーリ30間にベルト47が卷装されて、ベルト伝動機構48が構成され、該機構48はカバー49により覆被されている。」(同7頁1?13行)

第6 当審の判断
1 無効理由1(進歩性)
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「整畦体3」および「畦塗り機1」が,本件発明1の「整畦体(16)」および「畦塗り機(1)」に,それぞれ相当することは明らかである。また,甲1発明の「支持フレーム13」が「伝動軸12」を内装しているのであるから,甲1発明の「支持フレーム13とその先端部に固着したコ字状の回動支持部材10」が本件発明1の「伝動フレーム(8)」に相当するといえ,その結果,以下同様に,「回動支持部材10」が「伝動フレーム(8)の基端部」に,「支持フレーム13の基端部」が「伝動フレーム(8)の先端部」に,「軸11」が「伝動フレーム(8)の基端側軸支部」に,それぞれ相当するといえる。
次に,本件特許明細書の段落【0011】には「本体フレーム2の後部左右中央位置に、図3に示すように、入力軸3から入力された動力をベベルギヤ5,6により変速して後述する前処理体15及び整畦体16に動力伝達する変速ギヤボックス7を設けている。この変速ギヤボックス7の下側に伝動フレーム8の基端部がベアリング9を介して水平方向に回動自在に軸支されている。伝動フレーム8の基端部にはベアリング10,10を介して伝動軸11が軸支され、その上端部は変速ギヤボックス7内に突出していて、ここに上記ベベルギヤ6が固設されている。伝動フレーム8は1つのフレーム構造のもので、伝動軸11に固設されているスプロケットホイール12に巻装されたチェーン13を介して先端側に動力伝達するようにしている。」と記載されていることからみて,本件発明1の「機体」は,「走行機体」を意味するのではなく,「畦塗り機」の本体(実施例の「本体フレーム2」)を意味することが明らかである。そして,甲1発明では「入力軸8からの回転動力を前記本体フレーム2の後端部において左右両側に出力し」ているのであるから,甲1発明の「本体フレーム2の後端部」が本件発明1の「機体の出力部(7)」に相当するといえる。
さらに,甲1発明の「元畦及び田面を掘削する掘削爪27を備えた前処理体4」と「元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ(14)を備えた前処理体(15)」とは,本件発明1の「元畦の一部及び圃場を耕耘する耕耘ロ-タを備えた前処理体」である点で共通するといえる。
そうすると,両者は,
「走行機体の後部に装着され,該走行機体から動力を受け,元畦の一部及び圃場を耕耘する耕耘ロ-タを備えた前処理体,及びこの前処理体により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形するドラム状の整畦体を備え,前記前処理体及び整畦体を1つの伝動フレームにより支持し,かつこの伝動フレームから前処理体及び整畦体に動力伝達するようにした畦塗り機において,
上記伝動フレームの基端部を機体の出力部に対し水平方向に回動自在に軸支し,上記伝動フレームの基端側軸支部を回動中心として前処理体及び整畦体を水平方向に回動可能にした畦塗り機。」である点で一致し,次の各点で相違する。

(相違点1)
「前処理体」について,本件発明1が「畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ(14)を備え」ているのに対し,甲1発明では「元畦及び田面を掘削する掘削爪27を備え」ている点。

(相違点2)
「前処理体及び整畦体」について,本件発明1が「伝動フレームの先端部に前処理体及び整畦体を水平方向に回動可能に支持」しているのに対し,甲1発明が「支持フレーム13の基端部に,整畔体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19を介して,前処理体及び整畦体を装着」している点。

まず,上記相違点1を検討するに,
上記記載事項3-ハからみて,甲第3号証には「元畦及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げるロータリ耕耘装置からなる前処理体」が記載されているといえる。
してみると,甲1発明において,その「畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ(14)を備えた前処理体(15)」を甲第3号証の上記「前処理体」に置換して,上記相違点1における本件発明1の構成とすることは,何ら困難性がなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項であるといえる。

次に,上記相違点2を検討する。
まず,本件発明1においては,「上記伝動フレーム(8)の基端部を機体の出力部(7)に対し水平方向に回動自在に軸支し、・・・・・少なくとも伝動フレーム(8)の基端側軸支部を回動中心として前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能にしたこと」を構成要件とするものであるから,「機体の出力部(7)」に対して「伝動フレーム(8)の基端側軸支部を回動中心として前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動」することを必須にしているといえる。これに対し,本件発明1の「該伝動フレーム(8)の先端部に前記前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持し」なる構成要件については,「・・・回動可能に支持し」のみであって,「伝動フレーム(8)の先端部」に対して「前処理体(15)及び整畦体(16)」を回動するとまで,限定していない。
そうであれば,本件発明1は,「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前記前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動する発明と,「伝動フレーム(8)の先端部に前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持」するものの,「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動しない発明とを含む,と解するのが相当である。

念のために,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌すると,相違点2における本件発明1の構成に関する記載としては,本件特許公報の段落【0012】に「伝動フレーム8の先端部には、元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ14を備えた前処理体15、及びこの前処理体15により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形する多角円錐ドラムからなる整畦体16を支持している。前処理体15及び整畦体16には、伝動フレーム8の先端部に水平方向に回動自在に枢着された伝動ケース17からそれぞれ動力伝達される。そして、前処理体15及び整畦体16は、伝動フレーム8の基端部(変速ギヤボックス7の位置)及び伝動フレーム8の伝動ケース17への枢着部を回動中心として水平方向に180度回動可能である。」(下線は,当審にて付与する。)と記載されており,「前処理体(15)及び整畦体(16)」が,「伝動フレーム(8)」の「基端部」と「先端部(枢着部)」の両方にて回動可能であるとしているが,「180度」がどちらの回動角度を意味するのか不明であるものの,「基端部」を回動中心として水平方向に180度回動可能であることは,図2および図6から明らかであるといえるが,「先端部(枢着部)」を回動中心として水平方向に何度回動可能であるのか,不明である。
しかも,「伝動フレーム(8)の先端部」を中心として「前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動した状態あるいはその回動手段については,何ら具体的な記載はなく,技術的意義も記載されておらず,図示もされていない。すなわち,図2および図6には,伝動フレーム(8)の先端部を中心にして前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動しない状態で,機体の出力部(7)に対して伝動フレーム(8)の基端側軸支部を中心として前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に180度回動した状態が,図5には,90度回動した状態が示されているのみである。
また,伝動フレーム(8)の基端側軸支部を中心として前処理体(15)及び整畦体(16)を回動する手段については,本件公報の段落【0013】,【0017】および図4(a)?(c)において,詳細に記載されているものの,「伝動フレーム(8)の先端部」を中心として「前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動する手段については,全く記載されていない。そして,上記段落【0012】には,「回動自在に枢着」と記載されているが,技術常識からみて,「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前処理体(15)及び整畦体(16)」が全く拘束されず遊転する状態で支持されることは有り得ないから,本件特許公報には,回動しない,すなわち,固定されている実施例のみが記載されていると解するのが相当である。
してみると,本件発明1が,「伝動フレーム(8)の先端部に前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持」するものの,「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動せず,固定した発明とを含む,とする上述の解釈が本件明細書の記載と矛盾するものではなく,それを裏付けているといえる。

なお,被請求人は,答弁書等において,相違点2の本件発明1の構成により,「運行あるいは格納時等のような場合に、前処理体及び整畦体が妨げとならないよう必要に応じて水平方向に回動できる。前処理体15及び整畦体16を常に一定の方向に向けておくことにより精度の高い畦形成が可能である。」との技術的意義を有する,と主張しているが,該技術的意義を実現するための具体的な手段が,本件明細書には全く記載されていないし,示唆もされていないことは明らかである。特に,後者の技術的意義を実現するためには,「伝動フレーム(8)」の「基端部」と「先端部」とにおける2つの回動量(角度)を連動させる必要があることからみて,請求人が提出する参考資料1あるいは参考資料2,および,被請求人が提出する参考資料3を参酌しても,該実現手段が周知あるいは自明の事項であるとは到底いえない。そもそも,本件発明を対象とする,拒絶査定不服審判の請求時の補正において,上記相違点2の本件発明1に係る「該伝動フレーム(8)の先端部に前記前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持し」なる構成を削除したところ,請求を容認する審決において,該構成を削除した補正が却下された経緯がある。そして,前述したように,本件発明1は,「伝動フレーム(8)の先端部に前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持」するものの,「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動せず,固定した発明とを含むのであり,該発明が上記技術的意義を有さないことは,明らかである。

一方,「支持構造において,水平方向に回動可能に支持するとともに,固定可能とする」ことは,種々の技術分野において一般的に採用されている慣用の技術事項であるといえる。
例えば,特開昭63-116601号公報の2頁左下欄6行?右下欄16行には,「符号10は支持枠である。 このものは耕耘爪2をフレーム7に取付けるための仲立ちをすると共にこれを横方向に旋回させて何れの方向にも向けることができるようにするものである。 即ち、支持枠10はフレーム7に垂直に、且つ回動自在に装着されており、・・・・・また、この支持枠10はエンジン1の回転動力を耕耘爪2に伝達するための動力伝達機構の支持フレームを兼ねているもので筒状に形成されていてこの中に動力伝達機構が内蔵されているのである。 ところで、支持枠10は上記した様にフレーム7に対して回動自在に装着されていると共に所望の方向を向けてフレーム7に固定することができるようになっているのであって、・・・・支持枠10がフレーム7に回動自在に嵌合されていると共に、両者の間にはロック機構が取付けられていて支持枠10を所望の方向に向けて固定するようになっている。・・・・・或いは第4図に示すようにフレーム7に固定ピン11を取付け、一方支持枠10の周囲には係合穴12を穿けて、この固定ピン11を係合穴12に刺入させることにより支持枠10を固定するのも一法である。」と明記されている。
そして,甲1発明に上記慣用の技術事項を転用しようとすれば,甲1発明の「支持フレーム13」に内装されている「伝動軸12」を,垂直方向の伝動軸を含む動力伝動装置に必然的に変更することとなるが,甲第2号証の記載事項(2-ロ)および周知例の記載事項(4-ニ)からも明らかなように,畦塗り機において垂直方向の伝動軸を含む動力伝動装置を備えることも,本件特許の出願前に周知の技術事項であるといえ,甲1発明において,垂直方向の伝動軸を含む動力伝動装置を採用することは,当業者ならば何ら困難性がなく,適宜選択し得る設計的事項に過ぎないといえる。すなわち,甲1発明に上記周知の技術事項を転用することについて,何ら阻害するものはないといえる。

してみると,本件発明1が「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前処理体(15)及び整畦体(16)」を水平方向に回動せず,固定した発明を含み,かつ,本件明細書から該発明の技術的意義が必ずしも明らかでないことを考慮すれば,甲1発明において,上記周知の技術事項を転用し,上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,何ら困難性がなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項であるといわざるを得ない。

したがって,本件発明1は,甲1発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

(2)本件発明2について
本件発明2と,甲1発明とを対比すると,両者は,上記(1)における一致点及び相違点の他,次の相違点で相違する。

(相違点3)
本件発明2が「上記伝動フレームの基端側軸支部に該伝動フレームを回動させるリンク体を設け、該リンクにより伝動フレームを回動して前処理体及び整畦体を回動させるようにした」ものであるのに対し,甲1発明はこのような構成を有しない点。

上記相違点3を検討すると,上記甲3-1発明は「側部伝動フレーム2aの支持ピン22側に該伝動フレーム2aを回動させる回動フレーム23を設け、該回動フレーム23により該伝動フレーム2aを回動して前処理体6及び整畦体7を回動させるようにした」ものであって,甲3-1発明の「側部伝動フレーム2a」,「支持ピン22側」および「回動フレーム23」が,それぞれ,本件発明2の「伝動フレーム」,「基端側軸支部」および「リンク体」に対応するといえる。
してみると,甲1発明において,上記甲3-1発明を転用し,上記相違点3に係る本件発明2の構成とすることは,何ら困難性がなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項であるといえる。

したがって,本件発明2は,甲1発明,甲3-1発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

(3)本件発明3について
本件発明3と,甲1発明とを対比すると,両者は,上記(1)及び(2)における一致点及び相違点の他,次の相違点で相違する。

(相違点4)
本件発明3が「上記リンク体にシリンダ機構を連結し、該シリンダ機構の伸縮によりリンク体を作動させて前記伝動フレームを回動させ、前処理体及び整畦体を回動させる」ものであるのに対し,甲1発明はこのような構成を有しない点。

上記相違点4を検討すると,上記甲3-2発明は「回動フレーム23に油圧シリンダ26を連結し,該油圧シリンダ26の伸縮により回動フレーム23を作動させて側部伝動フレーム2aを回動させ,前処理体及び整畦体を回動させる」ものであって,甲3-2発明の「回動フレーム23」,「油圧シリンダ26」および「側部伝動フレーム2a」が,それぞれ,本件発明3の「リンク体」,「シリンダ機構」および「伝動フレーム」に対応するといえる。
してみると,甲1発明に上記甲3-2発明を転用し,上記相違点4に係る本件発明3の構成とすることは,何ら困難性がなく,当業者であれば容易に想到し得た程度の事項であるといえる。

したがって,本件発明3は,甲1発明,甲3-2発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

2 無効理由2(新規事項)
本件発明1の特定事項である「該伝動フレーム(8)の先端部に前記前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持し」は,平成15年12月12日付け手続補正により加えられた構成であり,回動手段を設け「前処理体(15)及び整畦体(16)」を「伝動フレーム(8)の先端部」を中心にして積極的に回動すること,を含むと解せられる。しかし,本件特許の当初明細書および図面には,該構成が記載されていないし,示唆もされていない。また,該構成が本件特許の出願時に自明の事項であるとも認められない。
すなわち,当初明細書には,上記特定事項に関しては,その段落【0012】には,「伝動フレーム8の先端部には、元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ14を備えた前処理体15、及びこの前処理体15により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形する多角円錐ドラムからなる整畦体16を支持している。前処理体15及び整畦体16には、伝動フレーム8の先端部に水平方向に回動自在に枢着された伝動ケース17からそれぞれ動力伝達される。そして、前処理体15及び整畦体16は、伝動フレーム8の基端部(変速ギヤボックス7の位置)及び伝動フレーム8の伝動ケース17への枢着部を回動中心として水平方向に180度回動可能である。」(下線は,当審にて付与する。)との記載はあるものの,「伝動フレーム(8)の先端部」において「前処理体(15)及び整畦体(16)」を,「基端部」を中心とする回動と連動して,あるいは,連動せずに,水平方向に回動手段により積極的に回動することは記載されていないというべきである。一般的に,「回動自在に枢着」は,回動手段が他に明記されていなければ,回動手段により積極的に回動することを意味しないと解される。
したがって,前記補正は,願書に最初に添付した明細書および図面に記載した事項の範囲内においてされた補正ではなく,特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない。

3 無効理由3(記載要件)
(1)本件特許公報の段落【0013】には,
「伝動フレーム8の基端部には、図4に示すように、伝動フレーム側枢支部18及び本体フレーム側枢支部19により枢着されたリンク体20が設けられ、このリンク体20の先端部と本体フレーム2との間に電動シリンダ21が介装されている。そして、この電動シリンダ21を伸縮作動させると、リンク体20が本体フレーム側枢支部19を中心に回動し、伝動フレーム8は伝動フレーム側枢支部18により基端部を中心に回動して、前処理体15及び整畦体16を、図1の位置から図5の位置を経て図6の位置まで、無段階に180度の範囲内で回転移動させる。」
と記載され,本件特許公報の段落【0017】には,
「この実施例の畦塗り機1は、通常は図1の状態にセットされて矢印方向に移動しながら圃場を左回りし、畦塗り機1の右側に畦を形成していく。圃場の角部などにおいて畦を精度良く形成しようとするときは、一旦前処理体15及び整畦体16の駆動回転を停止し、トラクタの三点リンク連結機構により畦塗り機1を持ち上げ、電動シリンダ21を伸長させる。すると、リンク体20を介して伝動フレーム8は基端部を中心に水平方向に回動し、前処理体15及び整畦体16は、図1の位置から図5の位置を経て図6の位置まで180度回転移動する。このとき、電動シリンダ21及びリンク体20は、図4(a)?(c)のように順に作動する。そして、畦塗り機1が図6の状態で前処理体15及び整畦体16を駆動させ、トラクタを畦を形成しようとする側に後退させて畦塗り機1を矢印方向に移動させながら作業を行うことで、畦際まで精度の高い畦形成が行われる。」
と記載され,本件特許公報の段落【0019】には,
「イ.伝動フレーム8の基端部を機体の出力部7に対し水平方向に回動自在に軸支し、該伝動フレーム8の先端部に前記前処理体15及び整畦体16を水平方向に回動可能に支持し、少なくとも伝動フレーム8の基端側軸支部を回動中心として前処理体15及び整畦体16を水平方向に回動可能にしたので、伝動フレームの基端側軸支部を回動中心として前処理体及び整畦体を水平方向に容易に回動させることができる。そして、前処理体及び整畦体を機体一側に位置させた状態で走行機体及び畦塗り機を前進させながら畦整形作業を行い、前処理体及び整畦体を機体他側に位置させた状態で走行機体及び畦塗り機をバックさせながら作業して圃場全体の畦整形作業を精度良く行うことができる。また、構成が簡単で軽量であり、前処理体及び整畦体の回動操作もトラクタの操縦席で容易に行うことができる。」
と記載されている。(下線は,当審にて付与する。)
これらの記載は,「基端部」を回動中心として「前処理体15及び整畦体16」を水平方向に180度回動して(その際,「先端部(枢着部)」においては全く回動しないことは明らかである。),トラクタを後退させながら畦整形作業することにより,畦際まで精度の高い畦形成が行われることを述べているのであって,「先端部(枢着部)」を回動中心として「前処理体15及び整畦体16」を水平方向に回動することにより,精度の高い畦形成が行われることを述べているのではないといえる。
してみると,本件特許明細書の記載では,本件発明1の特定事項である「該伝動フレーム(8)の先端部に前記前処理体(15)及び整畦体(16)を水平方向に回動可能に支持し」の技術的意義が不明であるというべきである。

(2)また,本件特許公報の段落【0012】には,「伝動フレーム8の先端部には、元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タ14を備えた前処理体15、及びこの前処理体15により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形する多角円錐ドラムからなる整畦体16を支持している。前処理体15及び整畦体16には、伝動フレーム8の先端部に水平方向に回動自在に枢着された伝動ケース17からそれぞれ動力伝達される。」との記載があり,「回動自在に枢着」となっているものの,技術常識からみて,「伝動フレーム(8)の先端部」に対し「前処理体(15)及び整畦体(16)」が全く拘束されず遊転する状態で支持されることは有り得ないから,何らかの回動を拘束する手段が必須であるといえる。しかし,本件特許公報の図1?6を参照しても,該拘束手段が記載されているとは認められない。

(3)さらに,上記段落【0012】には「そして、前処理体15及び整畦体16は、伝動フレーム8の基端部(変速ギヤボックス7の位置)及び伝動フレーム8の伝動ケース17への枢着部を回動中心として水平方向に180度回動可能である。」とも記載され,「基端部と枢着部において前処理体15及び整畦体16が水平方向に180度まで回動可能である」と解せられる。しかし,本件特許公報における他の記載および図1?6を参照しても,「基端部において前処理体15及び整畦体16が水平方向に180度まで回動する」ことが示されているのみであって,「枢着部において前処理体15及び整畦体16が水平方向に180度まで回動する」ことが示されていないばかりでなく(図1?6からみると,180度まで回動することは不可能である),それ以下の角度にて回動することも全く記載されていない。

(4)したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められない。したがって,特許法第36条第4項の要件(特許法施行規則第24条の2)を満たしていない。

第7 むすび
以上のとおり,本件発明1は,甲第1号証記載の発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2および3は,甲第1号証記載の発明,甲第3号証記載の発明および周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
また,本件特許は,特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。
さらに,本件特許明細書及び図面の記載は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-11 
結審通知日 2008-01-16 
審決日 2008-01-30 
出願番号 特願平11-206045
審決分類 P 1 113・ 561- Z (A01B)
P 1 113・ 536- Z (A01B)
P 1 113・ 121- Z (A01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 石井 哲
砂川 充
登録日 2006-10-20 
登録番号 特許第3868672号(P3868672)
発明の名称 畦塗り機  
代理人 特許業務法人エビス国際特許事務所  
代理人 樺澤 聡  
代理人 小原 英一  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 襄  

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