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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1174919
審判番号 不服2006-14635  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-07 
確定日 2008-03-21 
事件の表示 平成11年特許願第107724号「スピンドルモータ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月 2日出願公開、特開2000-308297〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年4月15日の出願であって、平成18年5月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月7日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、明細書についての補正がなされたものである。

2.平成18年7月7日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし4のうち、請求項1については、
「固定軸と、この固定軸の外周側に所定の軸受手段を介在して回転自在に支承された略円筒状の回転軸受部材と、該回転軸受部材に同心上に一体接合された記録媒体ディスク搭載用の回転ハブと、を備え、
上記回転軸受部材と回転ハブとが異種の金属材料からなるスピンドルモータにおいて、
上記回転軸受部材と回転ハブとの接合面には、これら回転軸受部材及び回転ハブを構成している異種金属の各々に対して電気化学列上のイオン化傾向が中間位置に存在する金属材料からなる電位差軽減部材が介在されており、
前記回転軸受部材が銅系金属材料からなるとともに、前記回転ハブがアルミ系金属材料からなり、
前記電位差軽減部材がニッケル系金属材料からなる、
ことを特徴とするスピンドルモータ。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「回転軸受部材」、「回転ハブ」及び「電位差軽減部材」が、それぞれ「銅系金属材料」、「アルミ系金属材料」及び「ニッケル系金属材料」からなると限定するものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用発明
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-108407号公報(以下「引用例1」という。)には、「動圧流体軸受装置およびこれを備えたモータ」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「【0008】図1?図3において、モータの一例としてのスピンドルモータは、ベースプレート2と、回転部材としてのロータ4から構成されている。ベースプレート2は、アルミニウムまたはアルミ合金から形成されたベース本体6を有し、このベース本体6の中央部に、ステンレス鋼から形成された軸部材8の一端部が圧入によって固定されている。ベース本体6は、円形状の底壁部10と、底壁部10の外周部から上方に延びる側壁部12と、側壁部12の上端部から半径方向外方に延びるフランジ部14を有し、ハウジング2のフランジ部14が、磁気ディスクの如き記録ディスクを回転駆動する駆動装置のベースプレート(図示せず)に固定される。軸部材8は、ベース本体6から実質上垂直上方に延びる軸部16と、軸部16の他端部(先端部)に設けられたスラストプレート部18を有し、軸部16およびスラストプレート部18が一体に形成されている。
【0009】ロータ4は、記録ディスク(図示せず)が間隔をおいて装着されるハブ本体20と、ハブ本体20の下端部に装着されたロータヨーク22を備えている。ハブ本体20は、アルミニウムまたはアルミ合金から形成され、またロータヨークは、鉄の如き磁性材料から形成される。ロータヨーク22は、ハブ本体22の外周部から下方にベース本体6(注:「10」は誤記。)に向けて延びており、その内周面には環状のマグネット24が固着されている。ハブ本体20の内周面には、銅合金から形成されたスリーブ部材本体26が圧入によって固定されている。スリーブ部材本体26の上端部を除く大部分はその内径が小さく、この小内径部28に軸部材8の軸部16が配置されてスリーブ嵌合(軸方向の比較的長い部分において嵌合される)されている。」

・「【0014】動圧流体軸受装置は、スリーブ部材本体26の小内径部28、すなわち軸部16とスリーブ嵌合する部分に軸線方向に間隔をおいて設けられた一対のへリングボーン状のラジアル動圧溝56、58を含んでいる。ラジアル動圧溝56、58は、ラジアル動圧軸受手段を構成し、ラジアル荷重、すなわち軸部材8の軸線方向に実質上垂直な半径方向の荷重を支持する。」

・図1及び図2には、軸部材8の外周側にラジアル動圧溝56、58を介在して回転自在に支承された略円筒状のスリーブ部材本体26が示されており、また、スリーブ部材本体26とハブ本体20とが同心上にあることが示されている。さらに、スリーブ部材本体26とハブ本体20との接合面があることも示されている

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例1には、
「固定された軸部材と、この固定された軸部材の外周側にラジアル動圧溝を介在して回転自在に支承された略円筒状のスリーブ部材本体と、該スリーブ部材本体に同心上に固定された記録ディスクが装着されるハブ本体と、を備え、
上記スリーブ部材本体とハブ本体とが異種の金属材料からなるスピンドルモータにおいて、
上記スリーブ部材本体とハブ本体との接合面があり、
前記スリーブ部材本体が銅合金からなるとともに、前記ハブ本体がアルミニウム又はアルミ合金からなる、
スピンドルモータ。」
という発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定することができる。

(イ)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平4-67326号(実開平6-30529号)のCD-ROM(以下「引用例2」という。)には、「静圧気体軸受スピンドル」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「【0004】
軸受スリーブには微小な絞り穴の加工が必要であり、また、主軸が万一軸受に接触した場合、焼付、変形、摩耗等を防ぐため軸受スリーブ3、4、5には加工性、摺動性に優れた銅系合金が使われている。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、上記の様な静圧気体軸受スピンドルは一般に下記の様な使い方をされることがある。
(a)スピンドルを高速で移動させる。
(b)スピンドルをロボットの腕の先端に取り付ける。
(c)スピンドルを精密に位置決めする。
従って、軸受スピンドルをかかる使用に適合するものとするにはスピンドルの軽量化が望ましく、例えばハウジングをアルミニウム合金で作る事が考えられる。
【0006】
しかし、ハウジングをアルミニウムにすると銅とのイオン化傾向の差が大きくなる。焼嵌部には表面粗さにより、微細な隙間が存在し、これに洗浄液や研削液等が浸入するとハウジングのアルミニウム合金と軸受スリーブの銅合金の間で局部電池を形成することになり、ハウジングと軸受スリーブの接合面に腐食生成物が堆積し、軸受面が変形して主軸が回転しなくなるという問題が生じる場合がある。
【0007】
この考案は、以上のような事情に留意して、ハウジングをアルミニウム製として軽量化を図り、かつ電池作用による腐食を防止した静圧気体軸受スピンドルを提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する手段としてこの考案は、アルミニウム合金材のハウジング内に銅合金材の軸受スリーブを設けると共に給気通路を設け、給気通路に連通する絞り穴をスリーブ適所に設けてスリーブ内に挿通したスラスト板を有する主軸を静圧気体により軸支し、ハウジングと軸受スリーブ間の接触部において、ハウジング又は軸受スリーブの片側又は両方に密着した材料被膜を設け、この被膜を含む両表面の材料のイオン化傾向の差が、アルミニウムと銅の間のイオン化傾向の差より小さくなるよう被膜の材料を選定したものである。
【0009】
この場合、前記材料被膜を無電解ニッケルメッキ被膜とすることもでき、あるいは前記材料被膜をクロムメッキ被膜としてもよい。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「固定された軸部材」は本願補正発明の「固定軸」に相当する。
また、引用発明の「ラジアル動圧溝」は、動圧流体軸受装置をなすものであるから、本願補正発明の「所定の軸受手段」に相当する。
次に、引用発明の「スリーブ部材本体」が、本願補正発明の「回転軸受部材」に相当するとともに、引用発明の「スリーブ部材本体に同心上に固定された記録ディスクが装着されるハブ本体」は、本願補正発明の「回転軸受部材に同心上に一体接合された記録媒体ディスク搭載用の回転ハブ」に相当する。
そして、引用発明の「スリーブ部材本体とハブ本体との接合面があ」るという構成と、本願補正発明の「回転軸受部材と回転ハブとの接合面には、これら回転軸受部材及び回転ハブを構成している異種金属の各々に対して電気化学列上のイオン化傾向が中間位置に存在する金属材料からなる電位差軽減部材が介在されて」いるという構成とは、「回転軸受部材と回転ハブとの接合面があ」るという概念で共通する。
さらに、引用発明の「銅合金」及び「アルミニウム又はアルミ合金」は、それぞれ、本願補正発明の「銅系金属材料」及び「アルミ系金属材料」に相当する。

そうすると、両者は、
「固定軸と、この固定軸の外周側に所定の軸受手段を介在して回転自在に支承された略円筒状の回転軸受部材と、該回転軸受部材に同心上に一体接合された記録媒体ディスク搭載用の回転ハブと、を備え、
上記回転軸受部材と回転ハブとが異種の金属材料からなるスピンドルモータにおいて、
上記回転軸受部材と回転ハブとの接合面があり、
前記回転軸受部材が銅系金属材料からなるとともに、前記回転ハブがアルミ系金属材料からなる、
スピンドルモータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点
回転軸受部材と回転ハブとの接合面に、本願補正発明では「回転軸受部材及び回転ハブを構成している異種金属の各々に対して電気化学列上のイオン化傾向が中間位置に存在する金属材料からなる電位差軽減部材が介在されて」おり、その電位差軽減部材が「ニッケル系金属材料からなる」と特定されているのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

(4)相違点についての判断
引用例2には、異種金属間のイオン化傾向の差異に基づく腐食を防止するために、スピンドルモータにおける銅系合金の軸受スリーブとアルミニウム合金のハウジングとの間に無電解ニッケルメッキ被膜の材料被膜を設けることが記載されている。
また、ハードディスク装置等における記録媒体ディスクのスピンドルモータであっても、スピンドルモータの内部に水分が存在し得ることは周知の技術事項(例えば、特開平10-320902号公報【0057】の「さらに、磁気ディスク14への水の吸着が少なくなることから、スピンドルモータ13の内部に水が侵入し難く、スピンドルモータ13の特性劣化を防止できる。」という記載や、特開平5-225688号公報【0009】の「このようなグリスが封入されたボールベアリングを使用しているスピンドルモータにおいては、スピンドルモータ内部が高湿、あるいは結露した場合」という記載を参照)である。
そうすると、引用発明において、上記周知の技術事項に基づいて腐食防止を考慮し、その際に引用例2の記載事項を参考にして、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明については、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年9月20日付け手続補正書で補正がされた明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「固定軸と、この固定軸の外周側に所定の軸受手段を介在して回転自在に支承された略円筒状の回転軸受部材と、該回転軸受部材に同心上に一体接合された記録媒体ディスク搭載用の回転ハブと、を備え、
上記回転軸受部材と回転ハブとが異種の金属材料からなるスピンドルモータにおいて、
上記回転軸受部材と回転ハブとの接合面には、これら回転軸受部材及び回転ハブを構成している異種金属の各々に対して電気化学列上のイオン化傾向が中間位置に存在する金属材料からなる電位差軽減部材が介在されていることを特徴とするスピンドルモータ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「回転軸受部材」、「回転ハブ」及び「電位差軽減部材」が、それぞれ「銅系金属材料」、「アルミ系金属材料」及び「ニッケル系金属材料」からなるとの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用例2の記載事項並びに周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-30 
結審通知日 2007-12-25 
審決日 2008-01-08 
出願番号 特願平11-107724
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 健一大山 広人  
特許庁審判長 丸山 英行
特許庁審判官 本庄 亮太郎
谷口 耕之助
発明の名称 スピンドルモータ  

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