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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1175536
審判番号 不服2005-23162  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-01 
確定日 2008-04-03 
事件の表示 平成11年特許願第 19555号「音声認識装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月11日出願公開、特開2000-221990〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年1月28日の出願であって、平成17年7月29日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月26日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成17年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正後の特許請求の範囲の記載
平成17年12月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の記載は次のとおり補正された。

「【請求項1】 文字列からの音素単位からなる音素情報及び前記音素単位が所定の順序で遷移する経路情報から作成される標準辞書と、入力された音声から特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部で抽出された入力音声の特徴量と標準辞書との照合を前記音素情報及び前記経路情報に基づいて行なう照合部と、照合部における照合結果を出力する結果出力部と、標準辞書の更新を行なう辞書更新部とを有し、前記標準辞書は、初期時においては、不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記辞書更新部は、発声がなされるごとに、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新することを特徴とする音声認識装置。
【請求項2】 請求項1記載の音声認識装置において、前記標準辞書は、初期時において、文字列から音素情報を抽出して不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記照合部は、ある文字列についての入力音声から抽出された特徴量により決められる入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との照合において、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離評価を行ない、前記辞書更新部は、前記音素距離評価結果に基づいて、標準辞書の前記文字列の対応する音素情報を更新し、標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新することを特徴とする音声認識装置。
【請求項3】 請求項2記載の音声認識装置において、前記辞書更新部は、前記音素距離評価の結果、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離が所定の閾値を越えたときにのみ、標準辞書の前記文字列の対応する音素情報を更新し、標準辞書を更新することを特徴とする音声認識装置。
【請求項4】 請求項2記載の音声認識装置において、前記辞書更新部は、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離評価を行ない、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離が所定の閾値を越えたときにのみ、標準辞書の前記文字列の母音に対応する音素を更新し、標準辞書を更新することを特徴とする音声認識装置。」

2.本件補正前の特許請求の範囲の記載
一方、本件補正前である拒絶査定時の特許請求の範囲(平成17年9月26日付け手続補正書)に記載された発明は次のとおりである。

「【請求項1】 文字列からの音素単位からなる音素情報及び前記音素単位が所定の順序で遷移する経路情報から作成される標準辞書と、入力された音声から特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部で抽出された入力音声の特徴量と標準辞書との照合を前記音素情報及び前記経路情報に基づいて行なう照合部と、照合部における照合結果を出力する結果出力部と、標準辞書の更新を行なう辞書更新部とを有し、前記標準辞書は、初期時においては、不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記辞書更新部は、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新するようになっていることを特徴とする音声認識装置。
【請求項2】 請求項1記載の音声認識装置において、前記標準辞書は、初期時において、文字列から音素情報を抽出して不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記照合部は、ある文字列についての入力音声から抽出された特徴量により決められる入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との照合において、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離評価を行ない、前記辞書更新部は、前記音素距離評価結果に基づいて、標準辞書の前記文字列の対応する音素情報を更新し、標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新することを特徴とする音声認識装置。
【請求項3】 請求項2記載の音声認識装置において、前記辞書更新部は、前記音素距離評価の結果、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離が所定の閾値を越えたときにのみ、標準辞書の前記文字列の対応する音素情報を更新し、標準辞書を更新することを特徴とする音声認識装置。
【請求項4】 請求項2記載の音声認識装置において、前記辞書更新部は、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離評価を行ない、入力音素と標準辞書の前記文字列に対応する音素情報との音素距離が所定の閾値を越えたときにのみ、標準辞書の前記文字列の母音に対応する音素を更新し、標準辞書を更新することを特徴とする音声認識装置。」

3.新規事項の追加の有無
本件補正が、この出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてなされたものであるか否かを検討する

本件補正は、本件補正前の請求項1における「辞書更新部は、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新する」なる記載を、「辞書更新部は、発声がなされるごとに、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新する」なる記載に補正するものである。

本件補正の根拠に関して、請求人は、平成17年12月26日付けの手続補正書(方式)の「請求の理由」の「(3)(b)補正の根拠の明示」において、当初明細書等の発明の詳細な説明の【0017】の記載に基づくものであると説明している。当該【0017】には、「なお、このような標準辞書1の更新処理は、標準辞書1に登録するための発声がなされる場合になされても良いし、音声認識のための発声がなされる場合になされても良い。すなわち、入力音声は、認識のための発声であっても良いし、登録のための発声であっても良い。」と記載されている。

そこで、前記【0017】の前記記載が開示する事項について検討する。【0017】における前記記載は、標準辞書1に登録するための発声であっても、認識のための発声であっても標準辞書1の更新処理がなされて良いという事項を開示したものである。

しかし、発声がなされた場合に更新処理を行うということは、単に、何らかの発声がなされた場合に、何らかのタイミングで更新処理を行うことを示すものにすぎず、発声がなされた都度、毎回更新処理を行うこと、すなわち、発声がなされるごとに更新処理を行うことを示すものではないことは明らかである。また、発声がなされた場合に更新処理を行うことから、発声がなされるごとに更新処理することが自明であるとする合理的な根拠も認められない。

してみると、本件補正後の請求項1における「辞書更新部は、発声がなされるごとに、(中略)更新する」という記載は、この出願の当初明細書等に開示された、標準辞書1に登録するための発声であっても、認識のための発声であっても標準辞書1の更新処理がなされて良いという事項の範囲内でないことは明らかである。

よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているものであるから、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


5.付言A
以上のとおりであるから、本件補正は却下すべきものであり、これ以上、本件補正の適否を検討することは本来不要であるが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているものとして、更に、本件補正の適否を検討する。

本件補正は、本件補正前の請求項1における「標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新する」ことに関して、「発声がなされるごとに」、「音素のみを」更新するとの限定を付加するものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

本件補正後の特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明を明確に記載したものであるか否かを検討する。

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、「辞書更新部は、発声がなされるごとに、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新する」と記載されているが、前記「発声がなされるごと」なる記載は、いかなる事項を意味するのか不明確である。

すなわち、前記「発声がなされるごと」とは、いかなる単位の発声がなされるごとであるのか、例えば、単語の発声がなされるごとなのか、フレーズの発声がなされるごとなのか、文の発声がなされるごとなのか、文章の発声がなされるごとなのか不明確であり、本件補正後の請求項1における「辞書更新部は、発声がなされるごとに、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新する」なる記載は、何らかの発声がなされた場合に、当該発声のうち、単語、フレーズ、文、文章のいずれの発声がなされたごとに、標準辞書を更新すること示すのか不明確である。

よって、本件補正後の請求項1は、特許を受けようとする発明を明確に記載したものとは認められないので、特許法第36条第6項第2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきである。


6.付言B
以上のとおりであるから、本件補正は却下すべきものであり、これ以上、本件補正の適否を検討することは本来不要であるが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしており、かつ、本件補正後の請求項1における「発声がなされるごと」なる記載が、一つの文の発声を示す有音区間の開始から終了までの区間ごと、すなわち、一つの文の発声がなされるごとを示すものと解釈するならば、一応、本件補正後の請求項1は特許を受けようとする発明を明確に記載したものと解釈できるので、このように解釈した場合について、更に、本件補正の適否を検討する。

(1)補正後の本願発明
本件補正により補正された本願の請求項1ないし4に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前述のとおりのものであるが、再掲すると以下のとおりである。

「【請求項1】 文字列からの音素単位からなる音素情報及び前記音素単位が所定の順序で遷移する経路情報から作成される標準辞書と、入力された音声から特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部で抽出された入力音声の特徴量と標準辞書との照合を前記音素情報及び前記経路情報に基づいて行なう照合部と、照合部における照合結果を出力する結果出力部と、標準辞書の更新を行なう辞書更新部とを有し、前記標準辞書は、初期時においては、不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記辞書更新部は、発声がなされるごとに、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新することを特徴とする音声認識装置。」

本件補正は、本件補正前の請求項1における「標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新する」ことに関して、「発声がなされるごとに」、「音素のみを」更新するとの限定を付加するものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-230295号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

ア)「【0009】音声認識装置6-1に入力された話者の発声は、入力パターン作成部6-2に入力され、AD変換、音声分析などの過程を経て、ある時間長をもつフレームと呼ばれる単位ごとの特徴ベクトルの時系列に変換される。この特徴ベクトルの時系列を、ここでは入力パターンと呼ぶ。」

イ)「【0048】すべての入力発声について上の対応づけの処理が終了した後、各音素HMMの各状態iに対応づけられたフレームの特徴ベクトルを、全入力パターンにわたって平均して、その状態の適応化後の平均ベクトルを
(中略)
【0063】ここでは、平均ベクトルのみを適応化する例を示したが、その他の分散、重み、遷移確率なども同様の方式で適応化することが容易に可能である。また、それらパラメータのうち、同時に複数のものを適応化することが可能である。」

ウ) 「【0080】図2は、請求項2の発明に係る第2の話者学習方式の一実施例のブロック図である。入力発声は単語であるとする。標準パターン記憶部201は各音素のHMMを保持する。語彙パターン作成部207は各音素のHMMを用いて認識候補単語に対応する単語HMMを作成する。入力パターン作成部202は入力音声に対し、音声分析を行ない入力パターンXを作成する。作成された入力パターンは認識部203において認識候補単語の単語HMMを用いて認識をされ、認識結果出力部204から認識結果が出力される。適応化用辞書作成部205は、認識結果表記から適応化用辞書を作成する。
【0081】教師あり適応化部206では、まず、適応化用辞書を用いて適応化初期音素HMMを連結して適応化初期単語HMMを作成する。適応化初期音素HMMは、標準パターン記憶部201にある音素HMMでも良いし、別の音素HMMでも良い。次に、作成された適応化初期単語HMMと入力パターンを用いて尤度計算を、1つまたは複数の入力パターンについて行なったのち、適応化後の平均ベクトルを計算し適応化後HMMを求める。適応化されたHMMは、標準パターン記憶部201に出力され、今までの認識HMMのかわりに記憶される。」

エ)「【0084】図5は、請求項5の発明に係る第5の話者学習方式の一実施例のブロック図である。第5の話者学習方式では、第3の話者学習方式において、適応化初期HMMとして、基本標準パターン記憶部509に記憶された音素HMMを用いる。基本標準パターンは、予め多数の話者の発声により学習された不特定話者HMMや、他の使用者の発声により学習された異話者HMMを用いる。この基本標準パターンは、繰り返しにより更新されることはない。」

したがって、上記ア)ないしエ)の記載及び図面から、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「標準パターン記憶部201は各音素のHMMを保持し、語彙パターン作成部207は各音素のHMMを連結して、認識候補単語に対応する単語HMMを作成し、入力パターン作成部202は入力音声に対し、音声分析を行ない特徴ベクトルの時系列である入力パターンXを作成し、作成された入力パターンは認識部203において認識候補単語の単語HMMを用いて認識をされ、認識結果出力部204から認識結果が出力される話者学習方式であって、教師あり適応化部206では、まず、適応化初期音素HMMを連結して適応化初期単語HMMを作成し、適応化初期HMMとして、予め多数の話者の発声により学習された不特定話者HMMを用いるものであって、次に、平均ベクトルのみを適応化する例として、作成された適応化初期単語HMMと入力パターンを用いて尤度計算を、1つまたは複数の入力パターンについて行なったのち、適応化後の平均ベクトルを計算し適応化後HMMを求め、適応化されたHMMは、標準パターン記憶部201に出力され、今までの認識HMMのかわりに記憶される話者学習方式」

(3)対比
引用発明の「各音素のHMM」は、文字列からの音素単位の情報であることは明らかであるから、本願補正発明の「文字列からの音素単位からなる音素情報」に相当する。
引用発明の「単語HMM」は、「語彙パターン作成部207」が標準パターン記憶部201に保持された各音素のHMMを連結して作成するのであるから、語彙内で各音素HMMが遷移する経路に基づいて標準パターン記憶部201の各音素HMMを連結したものであることは明らかであるから、本願補正発明の「文字列からの音素単位からなる音素情報及び前記音素単位が所定の順序で遷移する経路情報から作成される標準辞書」に相当する。

また、引用発明の「入力パターン作成部202」は、入力音声に対し、音声分析を行い、特徴ベクトルの時系列である入力パターンを作成するものであるから、本願補正発明の「入力された音声から特徴量を抽出する特徴抽出部」に相当する。

また、引用発明の「認識部203」は、入力音声の特徴ベクトルの時系列である入力パターンを、語彙内で各音素HMMが遷移する経路に基づいて標準パターン記憶部201の各音素HMMを連結した認識候補単語の単語HMMを用いて認識するものであるから、本願補正発明の「特徴抽出部で抽出された入力音声の特徴量と標準辞書との照合を前記音素情報及び前記経路情報に基づいて行なう照合部」に相当し、引用発明の「認識結果出力部204」は、本願補正発明の「照合部における照合結果を出力する結果出力部」に相当する。

また、引用発明の「教師あり適応化部206」は、適応化後HMMを、今までの認識HMMのかわりに標準パターン記憶部201に記憶させるものである。標準パターン記憶部201の各音素のHMMが適応化後HMMに更新されると、その結果として、標準パターン記憶部201の各音素のHMMを連結して作成される単語HMM、すなわち、標準辞書も更新されることになることは明らかであるから、引用発明の「教師あり適応化部206」は、本願補正発明の「標準辞書の更新を行なう辞書更新部」に相当する。

また、引用発明では、適応化初期HMMとして、予め多数の話者の発声により学習された不特定話者HMMを用いるものであるから、当然、初期の「単語HMM」、すなわち、初期の標準辞書は、不特定話者HMM音素HMMを連結したものである。したがって、引用発明の標準辞書は、本願補正発明と同様に、「初期時においては、不特定話者認識用の辞書として作成されて」いることは明らかである。

そして、引用発明の「教師あり適応化部206」は、適応化初期単語HMMと入力パターンを用いて尤度計算を行なったのち、適応化後の平均ベクトルを計算し適応化後HMMを求めるものであり、これは、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて適応化後HMMを求めることにほかならない。さらに、引用発明の「教師あり適応化部206」は、平均ベクトルのみを適応化するために、この平均ベクトルから求めた適応化後HMMで標準パターン記憶部201の各音素のHMMを更新するものであり、これは、各音素のHMMを、当該入力パターンを発声した特定話者認識用の各音素の適応化後HMMに更新すること、すなわち、音素のみを更新することにほかならない。してみると、引用発明の「教師あり適応化部206」は、本願補正発明と同様に、「入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新する」ものといえる。

そして、引用発明の「話者学習方式」は、話者を学習した標準辞書を用いて入力音声を音声認識するものであるから、本願補正発明の「音声認識装置」に相当するものである。

したがって、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「文字列からの音素単位からなる音素情報及び前記音素単位が所定の順序で遷移する経路情報から作成される標準辞書と、入力された音声から特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部で抽出された入力音声の特徴量と標準辞書との照合を前記音素情報及び前記経路情報に基づいて行なう照合部と、照合部における照合結果を出力する結果出力部と、標準辞書の更新を行なう辞書更新部とを有し、前記標準辞書は、初期時においては、不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記辞書更新部は、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新することを特徴とする音声認識装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
標準辞書の更新に関して、本願補正発明は「発声がなされるごとに」更新するのに対して、引用発明は、1つまたは複数の入力パターンについて行なったのちに更新するものとされ、1つまたは複数の入力パターンと発声の単位との関係が明らかでないため、「発声がなされるごとに」更新するのか明らかでない点。
なお、本願補正発明の「発声がなされるごとに」なる記載は、「第2 6.」の冒頭で仮定したように、一つの文の発声により生じる有音区間の開始から終了までの区間ごと、すなわち、一つの文の発声がなされるごとを示すものと解釈する。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明の標準辞書の更新は、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて更新するものであるから、引用発明は、少なくとも、発声がなされ、当該発声により生じた入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合が行われた後に、標準辞書を更新するものであることは明らかである。

一方、ある一つ文の発声がなされた後、次の一つの文の発声がなされる前に、先の一つの文の発声と標準辞書の照合結果に基づいて標準辞書を更新すれば、次の一つの文の発声と標準辞書を照合する際には、更新された標準辞書を用いることができるので、その結果、音声認識の精度が向上することは、当業者であれば自明なことである。

してみると、音声認識装置の技術分野において、音声認識の精度を向上させることは当業者に自明な課題であるから、引用発明の標準辞書を一つの文の発声がなされるごとに更新するとすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用発明から、当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおり、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

(5)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきである。


第3 本願発明について
平成17年12月26日付けの手続補正は前掲「第2 4.」のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年9月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前述のとおりのものであるが、再掲すると以下のとおりである。

「【請求項1】 文字列からの音素単位からなる音素情報及び前記音素単位が所定の順序で遷移する経路情報から作成される標準辞書と、入力された音声から特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部で抽出された入力音声の特徴量と標準辞書との照合を前記音素情報及び前記経路情報に基づいて行なう照合部と、照合部における照合結果を出力する結果出力部と、標準辞書の更新を行なう辞書更新部とを有し、前記標準辞書は、初期時においては、不特定話者認識用の辞書として作成されており、前記辞書更新部は、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に更新するようになっていることを特徴とする音声認識装置。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例に記載された発明は、次のとおりである(前掲「第2 6.(2)」参照)。
「標準パターン記憶部201は各音素のHMMを保持し、語彙パターン作成部207は各音素のHMMを連結して、認識候補単語に対応する単語HMMを作成し、入力パターン作成部202は入力音声に対し、音声分析を行ない特徴ベクトルの時系列である入力パターンXを作成し、作成された入力パターンは認識部203において認識候補単語の単語HMMを用いて認識をされ、認識結果出力部204から認識結果が出力される話者学習方式であって、教師あり適応化部206では、まず、適応化初期音素HMMを連結して適応化初期単語HMMを作成し、適応化初期HMMとして、予め多数の話者の発声により学習された不特定話者HMMを用いるものであって、次に、平均ベクトルのみを適応化する例として、作成された適応化初期単語HMMと入力パターンを用いて尤度計算を、1つまたは複数の入力パターンについて行なったのち、適応化後の平均ベクトルを計算し適応化後HMMを求め、適応化されたHMMは、標準パターン記憶部201に出力され、今までの認識HMMのかわりに記憶される話者学習方式」

2.対比・判断
本願発明は、平成17年12月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)から、「辞書更新部は、発声がなされるごとに、入力音声から抽出された特徴量と標準辞書との照合結果に基づいて標準辞書を特定話者認識用の辞書に音素のみを更新する」ことについて具体的な限定を省いたものである。
そして、本願補正発明と引用例に記載された発明との対比・判断については、前掲「第2 6.(3)(4)」における対比・判断と同一であるところ、これを省略するが、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-23 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-19 
出願番号 特願平11-19555
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G10L)
P 1 8・ 537- Z (G10L)
P 1 8・ 561- Z (G10L)
P 1 8・ 121- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 剛史間宮 嘉誉  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 井上 健一
月野 洋一郎
発明の名称 音声認識装置  
代理人 植本 雅治  

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